Kagaku to Seibutsu 56(7): 469-474 (2018)
解説
食品由来成分による免疫調節作用免疫機能を調節する食べ物で病気を予防できるか?
Immunomoduratory Effects of Dietary Foods: Does Foods Regulating Immune System Prevent Diseases?
Published: 2018-06-20
免疫系は,病原体や毒素などの外来の異物などを排除する役割をもち,健康を維持する上で重要な生体調節機構の一つである.一方,ストレスや睡眠不足,食生活の乱れなどにより免疫機能が低下すると,がんやアレルギー,自己免疫疾患,感染症などの免疫関連疾患の発症につながることが示唆されている.免疫系を適切に維持するためには,免疫機能を調節する食材を毎日摂取することが簡便,かつ効果的であると考える.われわれは信州の伝統野菜の一つである「野沢菜」に免疫賦活効果があることを明らかにしたので,その研究成果を報告する.
© 2018 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2018 公益社団法人日本農芸化学会
免疫系は,外来の異物を非自己と認識し,排除する生体防御機構のことである.下等動物は,非特異的に異物を排除する自然免疫系のみをもつが,ヒトを含む高等動物では,多種のタンパク質,細胞,器官,組織から構成される免疫系が存在し,自然免疫系に加え獲得免疫系が発達している.獲得免疫は,ある特定の病原体に一度感染すると抵抗性をもつようになり,同じ病気にかかりにくくなる,あるいは感染しても症状が軽減することを特徴とする.免疫機能は,加齢や肥満・運動不足,ストレス,睡眠不足,喫煙,食生活の乱れなどにより低下するといわれている.なかでも,過剰な脂質・糖質の摂取や極端な栄養不足は免疫機能の低下を引き起こすことが知られており,食生活が免疫機能に与える影響は大きい.また,食品由来成分の中には免疫機能を調節するものが存在し,栄養バランスの整った食生活を送ることが免疫機能を維持するうえで重要である.本稿では,食品由来成分による免疫制御メカニズムと疾患予防効果について細胞・分子レベルで説明する.また,われわれが着目している食材の一つである野沢菜の免疫賦活効果とそのメカニズムに関する研究を紹介する.
免疫システムは大きく自然免疫と獲得免疫に分類することができる.自然免疫は生体内に侵入した異物に対して,抗原非特異的に速やかな反応を起こし,抗原を排除する役割をもつ.一方,獲得免疫は抗原特異的な免疫応答を起こし,リンパ球による免疫記憶を介した二次免疫応答が特徴である.
細菌やウイルスが侵入した際,マクロファージや好中球,樹状細胞などがToll-like receptor(TLR)などのレセプターを介して病原体を認識し,貪食作用により細胞内に取り込み,細胞内の酵素などにより分解・消化することにより病原体を排除する.抗原を貪食した樹状細胞は抗原提示細胞となって,リンパ節に移動し,そこでヘルパーT細胞に抗原提示を行う.抗原提示を受けたヘルパーT細胞は,B細胞に作用して病原体に特異的な抗体の産生を促すことで,侵入してきた外来抗原の排除に寄与する.ヘルパーT細胞は,キラーT細胞にも作用し,キラーT細胞で産生されるパーフォリンやグランザイムによって,感染細胞のアポトーシスを誘導する.また,二度目に同じ病原体が侵入してきた際には,一部のT細胞やB細胞がその病原体の情報を記憶しているため(免疫記憶),迅速かつ効果的に病原体を排除できる(図1図1■自然免疫と獲得免疫のしくみ).つまり,獲得免疫系の細胞によって免疫記憶が成立するため,2回目の感染ではほとんど症状がない.これを二度なし現象と呼ぶ.
ヘルパーT細胞には,1型ヘルパーT(Th1)細胞と2型ヘルパーT(Th2)細胞が存在する.Th1細胞はIFN-γ, IL-2などのサイトカインを産生し細胞性免疫に関与し,Th2細胞はIL-4, IL-13などのサイトカインを産生し抗体産生依存的な液性免疫に関与する.Th1細胞やTh2細胞のほかに,生体内の免疫反応において重要な役割を担っているヘルパーT細胞サブセットとして,Th17細胞と制御性T細胞(Regulatory T細胞;Treg)がある.Th17細胞は樹状細胞からのIL-6とTGF-βの刺激で分化する細胞で,IL-17A, IL-17F, IL-22を産生する.これらのサイトカインは,腸管上皮細胞の機能や粘膜のバリア機能を高め,好中球の遊走を促進するめ,肺炎桿菌,病原性大腸菌,黄色ブドウ球菌などの病原細菌や,カンジダ菌などの真菌に対する感染防御において重要の役割を果たす.TregはTGF-βの刺激で分化する細胞で,CD4とCD25に加え,転写因子であるFoxp3を発現することを特徴とする.Tregの機能としては,自己抗原に対する免疫不応答性の維持や,宿主にとって有害で過剰な免疫応答を抑制することが知られている(図2図2■ヘルパーT細胞サブセットの種類).
食品の役割には,第一次機能としての栄養性,第二次機能としての嗜好性,さらに第三次機能としての生体調節作用(生体防御,恒常性維持,疾病の予防と回復)があり,病気の予防や健康の維持増進に果たす機能が注目されている.乳酸菌に代表されるように,マクロファージや樹状細胞を介して,T細胞やNK細胞を活性化させ,感染抵抗力を高め,アレルギーの発症を予防するなど,食品成分の中には免疫機能を向上させるものが数多く存在する.現在では乳酸菌のほかに,多糖類,脂肪酸,ビタミン,元素などの食品由来成分が免疫機能を制御することが知られている.
乳酸菌は糖類を発酵してエネルギーを獲得し,多量の乳酸を生成する細菌の総称である.形態的に桿菌と球菌に分けられ,グラム染色性は陽性である.いずれも,酸素の少ない環境に好んで生育し,さらに酸度(pH 3~4程度)に耐性を示すことが多い.乳酸菌の一種であるLactobacillus acidophilusは,菌体膜成分にLipoteichoic acid(LTA)が存在し,このLTAは樹状細胞上に発現するTLR2を介してサイトカイン産生を誘導する.LTAを認識した樹状細胞は,IL-12を産生することにより,ナイーブT細胞をTh1細胞に分化させる.また,TLR2を介したLTAの刺激はIL-6, TGF-βを産生誘導し,Th17細胞への分化を促す効果をもつ.一方,LTAを欠損したLactobacillus acidophilusは,樹状細胞からのIL-10やTGF-β産生を誘導し,IL-10, TGF-βを産生するTregを誘導することにより,免疫反応を抑制することが知られている(1)1) Y. L. Lightfoot & M. Mohamadzadeh: Front. Immunol., 4, 25 (2013)..また,乳酸菌のLactobacillus pentosus(S-PT84株)を0.075%含有する飼料をマウスに7日間摂取させたところ,マウス脾臓細胞のNK活性が有意に増加した.S-PT84株摂取による免疫賦活効果について検証したところ,S-PT84株は樹状細胞上に発現するTLR2ならびにTLR4を介してIL-12p70産生を誘導し,NK, NKT細胞に作用してIFN-γ産生を誘導することが示された(2)2) S. Koizumi, D. Wakita, T. Sato, R. Mitamura, T. Izumo, H. Shibata, Y. Kiso, K. Chamoto, Y. Togashi & H. Kitamura: Immunol. Lett., 120, 14 (2008)..また,乳酸菌のなかには細胞外多糖(Exopolysaccharides; EPS)を産生するものがあり,EPSの中で負電荷(構造内にリン酸塩をもつもの)の小さい分子量のものは,免疫細胞を活性化してサイトカイン産生を誘導する一方で,中性でかつ大きい分子量のポリマーを有するEPSは免疫を抑制する効果をもつことが示されている(3)3) C. Hidalgo-Cantabrana, P. López, M. Gueimonde, C. G. de Los Reyes-Gavilán, A. Suárez, A. Margolles & P. Ruas-Madiedo: Probiotics Antimicrob. Proteins, 4, 227 (2012)..摂取した乳酸菌は,腸管免疫にも作用し,腸管上皮細胞に作用してタイトジャンクションの発現やムチン産生を増加させることにより腸管バリア機能を向上させる.また,IgA産生や抗菌ペプチドであるディフェンシンの産生を増加させ,腸内の自然免疫にかかわる細胞(NK細胞,樹状細胞,マクロファージ,顆粒球)および獲得免疫にかかわる細胞(Th1, Th2, Th17, Treg,細胞傷害T細胞,B細胞)に作用して,細胞内あるいは細胞外の病原体に対する免疫反応を誘導し排除に寄与する(4)4) H. Hardy, J. Harris, E. Lyon, J. Beal & A. D. Foey: Nutrients, 5, 1869 (2013)..さらに,乳酸菌由来の核酸が免疫制御にかかわることも知られており,乳酸菌由来の二本鎖RNA(dsRNA)は樹状細胞のTLR3に認識され,IFN-βの産生を引き起こし,実験的大腸炎を抑制することが示されており,腸内細菌由来のdsRNAは抗炎症反応や生体防御反応おいて重要であることが示されている(5)5) T. Kawashima, A. Kosaka, H. Yan, Z. Guo, R. Uchiyama, R. Fukui, D. Kaneko, Y. Kumagai, D. J. You, J. Carreras et al.: Immunity, 38, 1187 (2013)..乳酸菌については,乳酸菌摂取によるヒト介入試験が多く実施されている.ヒト介入試験では,ヒトが乳酸菌を摂取した際にアレルギー症状低減作用が確認されており,肝臓や代謝病の改善作用については,一定の効果が示されている.そのメカニズムとして,腸管透過性の制御,宿主腸内細菌叢の正常化,腸管免疫バリア機能の強化,炎症性・抗炎症性サイトカインのバランスの制御などが考えられている(6)6) L. Fontana, M. Bermudez-Brito, J. Plaza-Diaz, S. Muñoz-Quezada & A. Gil: Br. J. Nutr., 2(Suppl. 2), S35 (2013)..
多糖とは,グリコシド結合によって単糖分子が多数重合した物質の総称であり,分類としては,単糖一種から構成される単純多糖類,単糖二種以上から構成されるヘテロ多糖類,ヘテロ多糖類の中でタンパク質と結合しているムコ多糖類に分けられる.Polysaccharide A(PSA)は,腸内細菌(Bacteroides fragilitis)が産生する多糖類であり,CD4+T細胞のIL-10産生を促進させ,IL-17産生レベルを低下させることにより炎症性疾患を軽減することが知られている.β-glucanはグルコースがβ1–3型の結合で連なった多糖である.植物や菌類,細菌など自然界に広く分布する.β-glucanは,マクロファージを活性化させて,免疫賦活作用や感染防御機能をもつことが示されている.マンナンは真菌の細胞壁の構成成分であり,マクロファージや樹状細胞に発現するマンノースレセプターに結合してシグナル伝達を促進させ,サイトカイン産生を引き起こす.ヒアルロン酸(Hyaluronic acid; HA)は連鎖球菌で産生され,生体内では,関節,皮膚,脳など広く生体内の細胞外マトリックスに存在する.HAはT細胞に発現するCD44レセプターと結合して,慢性炎症に寄与することが示されている(7)7) A. O. Tzianabos: Clin. Microbiol. Rev., 4, 523 (2000)..多糖類を認識するレセプターであるC型レクチンレセプター(C-type lectin receptor; CLR)は病原体が有する普遍的構造pathogen-associated molecular pattern(PAMPs)を認識する自然免疫受容体としてはたらき,外来異物の捕捉のための受容体として機能する.C型レクチンは構造的によく保存された糖認識ドメインに糖結合活性があり,カルシウムは糖結合部位で糖鎖との結合に直接関与する.マクロファージや樹状細胞に特異的に発現するCLRが多数同定されており,CLRの中で,Dectin-1はβ-glucanを認識してIL-23やIL-6産生を誘導することや,Dectin-2はマンナンを認識してTNF-αを産生誘導することが知られている.また,マンナンを認識するCLRとして,マンノースレセプターやdendritic cell specific ICAM-3 grabbing non-integrin(DC-SIGN)が知られている.DC-SIGNは,樹状細胞とT細胞間,あるいは樹状細胞と内皮細胞間の相互作用を促進する接着分子としてはたらき,ウイルスや,細菌,酵母など表面の糖鎖を認識し,樹状細胞による抗原提示に関与することが知られている.マンノースレセプターとDC-SIGNはいずれも,リガンドからの刺激が伝わると,TNF-α, IL-10を産生誘導することが知られている(8)8) F. Osorio & C. Reis e, Sousa: Immunity, 5, 651 (2011)..
脂肪酸は長鎖炭化水素の1価のカルボン酸である.一般的に,おおむね炭素数2~7個のものを短鎖脂肪酸(低級脂肪酸),8~12個のものを中鎖脂肪酸,それ以上のものを長鎖脂肪酸(高級脂肪酸)と呼ぶ.脂肪酸は,体内に入ると脂肪組織の中にエネルギー源として蓄えられる.また,人体の細胞膜,脳,各種ホルモンを構成する材料になるなど,極めて重要なはたらきをもっている.脂肪酸には,炭素間の結合に二重結合がない飽和脂肪酸,炭素間の結合に二重結合をもつ不飽和脂肪酸があり,不飽和脂肪酸の中には一つの二重結合をもつ一価不飽和脂肪酸と2つ以上の二重結合をもつ多価不飽和脂肪酸がある.さらに多価不飽和脂肪酸は,ω6位に二重結合をもつn-6系脂肪酸とω3位に二重結合をもつn-3系脂肪酸に分類される.n-6系脂肪酸はアラキドン酸カスケードで代謝されて,炎症惹起にかかわるプロスタグランジンやロイコトリエンなどの代謝産物を生み出す.一方,n-3系脂肪酸は,n-6系脂肪酸系列の起炎性アラキドン酸カスケードに拮抗的に作用することに加え,n-3系脂肪酸由来の抗炎症性代謝物(レゾルビン,プロテクチン)を生成することにより抗炎症作用をもつと考えられている(9)9) P. C. Calder: Am. J. Clin. Nutr., 83(Suppl.), 1505S (2006)..さらに,n-3系脂肪酸のレセプターとして,G protein-coupled receptor 120(GPR120)が同定されており,GPR120からのシグナルは,LPSやTNF-αの下流のシグナル分子であるTAK1を抑制することにより,炎症性サイトカインの産生を低下させることが示されている(10)10) D. Y. Oh, S. Talukdar, E. J. Bae, T. Imamura, H. Morinaga, W. Fan, P. Li, W. J. Lu, S. M. Watkins & J. M. Olefsky: Cell, 142, 687 (2010)..近年,亜麻仁油に多く含まれるα-リノレン酸の代謝物が食物アレルギーを抑制することが報告されている.亜麻仁油を摂取させたマウスの大腸においてEPA代謝物が増加しており,シトクロムP450によりエポキシ体となった17,18-エポキシエイコサテトラエン酸(17,18-EpETE)が顕著に増加し,これが抗アレルギー活性をもつことが示されている(11, 12)11) J. Kunisawa, M. Arita, T. Hayasaka, T. Harada, R. Iwamoto, R. Nagasawa, S. Shikata, T. Nagatake, H. Suzuki, E. Hashimoto et al.: Sci. Rep., 5, 9750 (2015).12) J. Kunisawa & H. Kiyono: Front. Nutr., 3, 3 (2016)..
ビタミン類は,生物の生存に必要な栄養素のうち,炭水化物・タンパク質・脂質以外の有機化合物の総称である.ビタミンの多くは,生体内において酵素が活性を発揮するために必要な補酵素として機能するため,ビタミン欠乏症に陥ると,ビタミン類を補酵素として利用する酵素の活性が低下し,代謝系の機能不全が起こる.ビタミン類の中には,体内の脂質を酸化から守り,細胞の健康維持にはたらく抗酸化作用をもつビタミン(ビタミンA,ビタミンC,ビタミンEなど)が存在する.また,ビタミンAやビタミンB1, B2, B6,ビタミンCは,新陳代謝が活発な細胞で構成される皮膚や粘膜の機能を向上させる.ビタミンAにおける免疫制御機能については,ビタミンAの活性体であるレチノイン酸が末梢において,Foxp3陽性のTregを誘導することや,Th17細胞の分化を抑制することが知られている.また,B細胞に作用してIgA産生を誘導することも知られている.ビタミンDについては,代謝産物が樹状細胞に作用してIL-12とIL-23の産生レベルを下げて,IL-10の産生を増強させることや,T細胞に作用してTh1細胞の増殖を低下させて,Th2細胞やTregの増加を引き起こすことが知られている(13)13) J. R. Mora, M. Iwata & U. H. von Andrian: Nat. Rev. Immunol., 9, 685 (2008)..
信州の伝統野菜の一つである野沢菜は,アブラナ科の植物であり,食物繊維やビタミンCが豊富である.野沢菜は長野県野沢温泉村を中心とする信越地方で栽培されており,葉と茎を漬物にした野沢菜漬けは昔からその地域の人たちに親しまれている.野沢菜の免疫賦活効果について検証するために,抗がん,抗感染,抗アレルギー作用において重要なサイトカインであるIFN-γの産生誘導能を解析した.野沢菜の葉と茎を3 cm程度に刻み,野沢菜20 gに対して滅菌水80 mLを添加し,オートクレーブで処理した.その後,2,215×gで10分間遠心を行い,遠心後の上清を再度20,630×gで5分間遠心し,再沈殿した画分を凍結乾燥させて実験に使用した.野沢菜の抽出物をマウス脾臓細胞に添加して48時間の培養を行った.その後,培養上清中に含まれるIFN-γ産生レベルをELISAで測定したところ,野沢菜抽出物の刺激によりIFN-γ産生が有意に増加した(図3図3■野沢菜によるサイトカイン産生誘導能).次に,野沢菜抽出物の樹状細胞に対する影響を調べるために,骨髄由来樹状細胞(BMDC)に野沢菜抽出物を添加したときの細胞表面抗原(MHCクラスIおよびクラスII, CD86, CD40)の発現変化を調べた.その結果,野沢菜抽出物の刺激でBMDCは活性化し,細胞表面抗原の発現が増加した.また,このときのIL-12p70産生レベルをELISAで測定したところ,無刺激に比べて有意に増加した(図3図3■野沢菜によるサイトカイン産生誘導能).加えて,野沢菜抽出物で刺激した脾臓細胞で誘導されるIFN-γ産生は抗IL-12抗体の処理により阻害された.さらに,野沢菜抽出物の刺激でIFN-γを産生する細胞を同定するために,抗IFN-γ抗体による細胞内染色を行い,IFN-γ陽性細胞の割合をフローサイトメーターにて解析した.その結果,IFN-γ産生細胞はNK1.1陽性細胞であることが確認された.以上のことから,野沢菜抽出物は樹状細胞からのIL-12産生を促し,NK細胞からのIFN-γ産生を誘導することが示された.
野沢菜抽出物中の活性成分の認識におけるTLRの関与を明らかにするために,抗TLR2中和抗体およびLPSの共通構造であるリピドAに結合し活性を阻害するポリミキシンB(PB)で処理したときの野沢菜抽出物によるIFN-γ産生を測定した.その結果,コントロールと比較して抗TLR2中和抗体およびPBの処理で,野沢菜抽出物によるIFN-γ産生が減少した.また,野沢菜抽出物に含まれる活性成分の認識におけるCLRの関与を調べるため,カルシウムのキレート剤であるEDTAで脾臓細胞を処理したときの野沢菜抽出物の免疫賦活効果を検討した.その結果,コントロールに比べてEDTAで処理した場合,野沢菜抽出物によるIFN-γ産生は有意に低下した.以上のことから,野沢菜抽出物に含まれる活性成分はTLR2やTLR4によって認識されること,カルシウム依存性にレセプターと結合することが示された.さらに,シグナル伝達の阻害剤で処理したときの野沢菜抽出物によるIFN-γ産生量を測定することで,受容体の下流に存在するシグナル伝達経路を検討したところ,野沢菜抽出物によるIFN-γ産生誘導は,MAPK, NF-κB, Sykを介したシグナル伝達経路が関与することが示唆された.
野沢菜抽出物を摂取させたマウス生体内での免疫賦活効果を検証するために,調製した野沢菜抽出物をC57BL/6マウスに7日間経口投与した.その後,脾臓細胞を単離し,YAC-1細胞をターゲット細胞としてNK活性を測定したところ,野沢菜抽出物を経口投与したマウスはコントロールのマウスに比べてNK活性が有意に増加した.また,マウスの脾臓細胞をIL-2+IL-12で刺激し,IFN-γ産生量をELISAで測定したところ,野沢菜抽出物を摂取させたマウスはコントロールマウスに比べて,IL-2+IL-12で刺激した脾臓細胞におけるIFN-γ産生量が有意に増加した(図4図4■野沢菜を摂取したマウス脾臓細胞のNK活性とIFN-γ産生).
以上のことから,野沢菜の抽出物には,樹状細胞からのIL-12産生を介して,NK細胞からのIFN-γ産生を誘導し,NK活性を増強するなどの免疫賦活効果があることが示された(14)14) K. Yamamoto, K. Furuya, K. Yamada, F. Takahashi, C. Hamajima & S. Tanaka: Biosci. Biotechnol. Biochem., 6, 1 (2017).(図5図5■野沢菜によるIFN-γ産生誘導のメカニズム).今後は,免疫調節作用に関与する成分の単離・同定や,アレルギーや感染症などの疾患モデルマウスを用いて生体内での免疫機能制御について検証したいと考えている.さらに,動物実験だけでなくヒト介入試験を実施し,免疫関連疾患に対する予防・改善のメカニズムを詳細に解明していきたい.
食品由来成分が免疫細胞に作用し,サイトカインなどの産生を介して免疫機能を制御する詳細なメカニズムが明らかになりつつある.一方で,免疫調節作用をもつ食品由来成分を摂取した際,胃や小腸における消化・分解の影響や,腸管免疫への情報伝達,全身免疫への影響など,解決すべき点が多く残されている.今後は,動物実験を用いて,生体内における食品由来免疫制御因子の動態と免疫機能の制御メカニズムを詳細に解析することが必要である.加えて,大規模なヒト介入試験を行うことで,ヒトが長期摂取した場合の効果と適切な摂取量,免疫関連疾患への予防効果などを検証する必要がある.
Reference
1) Y. L. Lightfoot & M. Mohamadzadeh: Front. Immunol., 4, 25 (2013).
4) H. Hardy, J. Harris, E. Lyon, J. Beal & A. D. Foey: Nutrients, 5, 1869 (2013).
7) A. O. Tzianabos: Clin. Microbiol. Rev., 4, 523 (2000).
8) F. Osorio & C. Reis e, Sousa: Immunity, 5, 651 (2011).
9) P. C. Calder: Am. J. Clin. Nutr., 83(Suppl.), 1505S (2006).
12) J. Kunisawa & H. Kiyono: Front. Nutr., 3, 3 (2016).
13) J. R. Mora, M. Iwata & U. H. von Andrian: Nat. Rev. Immunol., 9, 685 (2008).
14) K. Yamamoto, K. Furuya, K. Yamada, F. Takahashi, C. Hamajima & S. Tanaka: Biosci. Biotechnol. Biochem., 6, 1 (2017).