解説

生食用赤果肉リンゴ原因遺伝子の機能解析と育種の効率化剥いても赤い新紅リンゴの特性と育種

Functional Analysis of MdMYB110a Gene Responsible for Red-Fleshed Apple and Establishment of a System for Its Efficient Breeding: Characteristics of New Red-Fleshed Apples and Its Breeding

Shogo Matsumoto

松本 省吾

名古屋大学大学院生命農学研究科

Published: 2018-06-20

リンゴは,抗酸化作用や抗がん作用,心筋梗塞を抑える効果などを通して国民の健康長寿への貢献が期待されており,見た目が斬新な赤果肉リンゴは果肉にアントシアニンをはじめとするさまざまな有用物質を集積している(1~4).リンゴ赤果皮にも有用物質が含まれているが(5),日本では果皮を剥いて食べることが多く果皮からの大量摂取は期待できない.本稿では,果肉が赤色を呈し,加工用のみならず生食用としても有望なII型赤果肉リンゴに焦点を当て,果肉着色原因遺伝子の構造・機能解析と着色メカニズムの一端,DNA情報を用いた効率的育種方法について解説する.生食用として有望な系統や品種登録された新品種の成分特性についても紹介する.

はじめに:赤果肉リンゴの特性

従来の白果肉リンゴより見た目が斬新で機能的にも優れた赤果肉リンゴは,I型とII型に大別される(図1図1■I型赤果肉リンゴ(左),II型赤果肉リンゴ(右)).I型は,果肉・果芯のみならず,果皮を含めた果実全体や花器官に加え栄養器官である葉や幹も赤色を呈する.また,果実着色は幼果の段階から果肉,果芯で見られるが,果実成熟に伴う果肉色の退色や早生種なため高温による着色不良が生じることがある(図1図1■I型赤果肉リンゴ(左),II型赤果肉リンゴ(右)).I型は後述のように総じて酸味(渋味)の強い傾向があり良食味の品種育成が困難なことから(6)6) R. K. Volz, S. Kumar, D. Chagné, R. Espley, T. K. McGhie & A. C. Allan: Acta Hortic., 363 (2013).,生食ではなくジュースやジャムなどの加工用として期待されている.海外では‘Baya Marisa’,‘Redlove Calypso’,‘Redlove Circe’,‘Redlove Era’,‘Redlove Odysso’,‘Redlove Sirena’,‘Weirouge’などが品種化されており,国内では受粉樹としても利用されている‘メイポール’などの活用が試みられている.一方,II型は幼果の段階では着色せず,成熟後期に主に果肉部分が赤く着色し,I型と異なり果皮や葉・枝などは着色しない(図1図1■I型赤果肉リンゴ(左),II型赤果肉リンゴ(右)).2008年,2016年に品種登録された‘紅の夢’,‘ローズパール’に加え,良食味で生食用としても期待されている‘ルビースイート’,‘なかの真紅’,‘なかののきらめき’,‘いろどり’,‘炎舞’,‘ムーンルージュ’なども品種化され,今後さらなる新品種の登録も予定されている.II型赤果肉リンゴは果皮色と果肉色が連動しないことから,たとえば,黄果皮・赤果肉のように果皮と果肉色を別々にデザインできる.また,果実成熟後期から果肉のみが着色することから,中生・晩生種を育種することにより高温による着色不良の心配を防ぐことができる.

図1■I型赤果肉リンゴ(左),II型赤果肉リンゴ(右)

I型赤果肉リンゴの果実着色分子機構

I型の赤果肉着色原因遺伝子は,リンゴ第9染色体上に座乗するMdMYB10遺伝子であることが明らかにされている(7)7) R. V. Espley, R. P. Hellens, J. Putterill, D. E. Stevenson, S. Kutty-Amma & A. C. Allan: Plant J., 49, 414 (2007)..本遺伝子は,遺伝子発現調節領域であるプロモーター領域に23塩基対からなる6つの繰り返し配列を有しており(このことからR6:MdMYB10と表記され,繰り返し配列をもたない白果肉リンゴのR1:MdMYB10と区別される)(図2図2■I型,II型赤果肉リンゴにおけるMdMYB10プロモーター領域のPCR解析),この繰り返し配列の数に比例してアントシアニン合成が誘導される(8)8) R. V. Espley, C. Brendolise, D. Chagné, S. Kutty-Amma, S. Green, R. Volz, J. Putterill, H. J. Schouten, S. E. Gardiner, R. P. Hellens et al.: Plant J., 21, 168 (2009)..また,繰り返し配列とMdMYB10タンパク質との相互作用を介した転写活性化によりMdMYB10は過剰発現状態となり,その結果,アントシアニン合成を担うPAL, CHS, LDOXなどの酵素遺伝子群の発現レベルが上昇し,幼果の段階から果実着色が起こる.なお,本遺伝子と果皮着色にかかわるMdMYB1MdMYBA)遺伝子は対立遺伝子であり(R1:MdMYB10MdMYB1は同一のアリルである),MdMYB10ホモ(2つもつ; R6:MdMYB10/R6:MdMYB10)の‘Tomiko’は,MdMYB10へテロ(一つしかもたない; R6:MdMYB10/MdMYB1-5)であり,果皮着色原因(機能)遺伝子MdMYB1-1をもたない‘メイポール’より強く着色する(9)9) K. Lin-Wang, K. Bolitho, K. Grafton, A. Kortstee, S. Karunairetnam, T. K. McGhie, R. V. Espley, R. P. Hellens & A. C. Allan: BMC Plant Biol., 10, 50 (2010)..これまでに3,000系統以上の赤果肉リンゴの原因遺伝子が調べられ,そのほとんどが本遺伝子を原因遺伝子とするI型であることが示されている(10)10) S. van Nocker, G. Berry, J. Najdowski, R. Michelutti, M. Luffman, P. Forsline, N. Alsmairat, R. Beaudry, M. G. Nair & M. Ordidge: Euphytica, 185, 281 (2012).

図2■I型,II型赤果肉リンゴにおけるMdMYB10プロモーター領域のPCR解析

II型赤果肉リンゴの果実着色分子機構:着色原因遺伝子とS遺伝子との連鎖に基づく赤果肉リンゴの効率的育種

私たちはII型赤果肉リンゴ交配育種の過程で,果肉着色原因遺伝子は第9染色体上に座乗するMdMYB10ではなく,第17染色体上の自家・交雑不和合性にかかわるS遺伝子座近傍に座乗している新奇遺伝子であることを見いだした(11)11) K. Sekido, Y. Hayashi, K. Yamada, K. Shiratake & S. Matsumoto: HortScience, 45, 534 (2010)..そこで,この情報を基に新奇果肉着色原因遺伝子とS遺伝子との連鎖を利用した赤果肉リンゴの効率的育種法を確立した(12)12) H. Umemura, K. Shiratake, S. Matsumoto, T. Maejima & H. Komatsu: HortScience, 46, 1098 (2011)..すなわち,有望系統を含む赤果肉リンゴ品種のS遺伝子型情報を基に,既存の白果肉リンゴとの交配により後代の90%以上が赤果肉リンゴとなる交配組み合わせを提示した(13)13) S. Matsumoto: Int. J. Agronomy, Article ID 138271, 9 pages (2014)..この交配組み合わせ提示では,有望系統を含む赤果肉リンゴ品種すべてが新奇果肉着色原因遺伝子に連鎖したS3-RNase遺伝子をもつことを利用している.たとえば,S3S7遺伝子型の赤果肉リンゴ‘Chouka 33’(‘JPP35’)を花粉親に用い,胚珠親に‘王林’(S2S7),‘シナノスイート’(S1S7)などS7をもつがS3をもたない白果肉リンゴ品種を用いれば,花粉親のS3のみが受精に預かることとなり,赤果肉形質原因遺伝子がS3に連鎖していることから後代の90%以上が赤果肉個体となる(図3図3■S遺伝子型情報に基づくII型赤果肉リンゴの効率的育種).また,S1S3遺伝子型の赤果肉リンゴ品種を花粉親に用いれば,胚珠親に‘ふじ’(S1S9)を用いることができる.今後,現存する赤果肉リンゴ品種・系統を基に,さらに多様な赤果肉リンゴが効率的に作出されることが期待される.

図3■S遺伝子型情報に基づくII型赤果肉リンゴの効率的育種

II型赤果肉リンゴの果実着色分子機構:MdMYB110a遺伝子構造・発現解析

S3-RNase遺伝子と着色原因遺伝子との間で組換えを生じた個体群を利用して,第17染色体上の着色原因遺伝子の存在場所を特定し,リンゴゲノム情報を活用してII型赤果肉系統‘JPP35’より果肉着色原因遺伝子MdMYB110aMdMYB110a_JP)の単離に成功した(14)14) H. Umemura, S. Otagaki, M. Wada, S. Kondo & S. Matsumoto: Planta, 238, 65 (2013).MdMYB110aは200アミノ酸残基をコードしており,N末領域のR2R3MYBドメインに加え,アントシアニン合成を促すMYB遺伝子に特徴的なモチーフ配列を有していたが,MdMYB10MdMYB1の推定アミノ酸配列と比べC末領域の43アミノ酸残基を欠失していた(14)14) H. Umemura, S. Otagaki, M. Wada, S. Kondo & S. Matsumoto: Planta, 238, 65 (2013)..なお,‘ふじ’やI型の‘メイポール’からは本遺伝子は単離されなかった.‘Nakano Shinku’,‘Chouka 33’,系統2804などのII型赤果肉リンゴ品種・系統を用いて器官別,果実成長ステージ毎にMdMYB110aなどの発現解析を行ったところ,解析したすべての品種・系統において果肉着色開始期に果肉特異的なMdMYB110aの発現上昇が見られ,その後果実生育に伴って減少(‘Chouka 33’),上昇(系統2804),上昇後減少(‘Nakano Shinku’)などの異なる発現パターンを示した(14~16)図4図4■II型赤果肉リンゴ品種・系統ごとのMdMYB110aおよびアントシアニン生合成経路遺伝子群の発現解析).なお,白果肉リンゴ‘ふじ’やI型赤果肉リンゴ‘メイポール’では本遺伝子の発現は見られなかった.また,MdMYB110aの発現上昇後にアントシアニン生合成経路の下流(MdLDOX)もしくは下流と上流(MdCHS)の遺伝子発現上昇が見られた(図4図4■II型赤果肉リンゴ品種・系統ごとのMdMYB110aおよびアントシアニン生合成経路遺伝子群の発現解析).これらの結果から,MdMYB110a発現の上昇によってアントシアニン生合成系の遺伝子発現が誘導され,果肉着色が起きたと考えられた.本遺伝子は,果芯と蕾みでも弱く発現が見られるものの,主に果肉(花托)特異的に機能する遺伝子の初めての例である(14, 17)14) H. Umemura, S. Otagaki, M. Wada, S. Kondo & S. Matsumoto: Planta, 238, 65 (2013).17) D. Chagné, K. Lin-Wang, R. V. Espley, R. K. Volz, N. M. How, S. Rouse, C. Brendolise, C. M. Carlisle & N. Satish Kumar: Plant Physiol., 161, 225 (2013).

図4■II型赤果肉リンゴ品種・系統ごとのMdMYB110aおよびアントシアニン生合成経路遺伝子群の発現解析

II型赤果肉リンゴの果実着色分子機構:MdMYB110a_JP遺伝子機能解析

MdMYB110a遺伝子の機能を解析するために,本遺伝子をカリフラワーモザイクウイルス35SRNAプロモーターに連結した35S::MdMYB110aを構築し,アグロバクテリウム法にてリンゴ‘JM2’に導入した.その結果,MdMYB110aの恒常的な過剰発現により形質転換体の茎および葉の周縁部は赤く着色し,MdMYB110aの発現とMdCHSMdLDOXの転写レベルの上昇が確認された(14)14) H. Umemura, S. Otagaki, M. Wada, S. Kondo & S. Matsumoto: Planta, 238, 65 (2013).図5図5■MdMYB110a過剰発現形質転換リンゴ系統(a),葉(b)とMdMYB110a, MdCHS, MdLDOX遺伝子発現解析(c)).また,赤く着色した形質転換体の葉からHPLCによって主なアントシアニンとしてcyanidin 3-O-galactosideをpetunidin 3-O-glucoside, peonidin 3-O-glucoside, malvidin 3-O-glucosideとともに検出した.これらアントシアニンの組成は,葉でのcyanidin 3-O-glucosideを除きII型赤果肉リンゴである‘JPP35’の組成とほぼ一致したことから,MdMYB110a遺伝子がII型赤果肉リンゴのアントシアニン生合成を制御していることが明らかとなった(14)14) H. Umemura, S. Otagaki, M. Wada, S. Kondo & S. Matsumoto: Planta, 238, 65 (2013).図6図6■MdMYB110a過剰発現リンゴ葉(#32, #41, #42)と‘JPP35’果肉におけるアントシアニン含量および成分比較).さらに,一過的発現系を用いてMdMYB110aプロモーターの機能解析を行った.すなわち,MdMYB110a上流1.5kbをIntron-GUSに連結したキメラ遺伝子(PMdMYB110a::Intron-GUS)をアグロインフィルトレーション法によりリンゴ果実と幼葉に導入しGUS染色の有無を観察した.その結果,PMdMYB110a::Intron-GUS導入では果実で染色が確認され,幼葉では観察されなかった.これに対し,カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターに連結したP35S::Intron-GUS(positive control)では果実,幼葉ともに染色され,promoterless Intron-GUS(InMYB1:140bp::Intron-GUS, negative control)では果実,幼葉ともに染色は観察されなかった(図7図7■リンゴ組織での一過的発現解析に基づく果肉特異的プロモーター領域の特定).以上の結果から,MdMYB110a_JP上流1.5kbのゲノム配列が,果実での発現を促す花托特異的プロモーターとして機能することが示唆された.

図5■MdMYB110a過剰発現形質転換リンゴ系統(a),葉(b)とMdMYB110a, MdCHS, MdLDOX遺伝子発現解析(c)

図6■MdMYB110a過剰発現リンゴ葉(#32, #41, #42)と‘JPP35’果肉におけるアントシアニン含量および成分比較

図7■リンゴ組織での一過的発現解析に基づく果肉特異的プロモーター領域の特定

アグロインフィルトレーション法による果実でのプロモーター機能解析

II型赤果肉リンゴの果実着色分子機構:ABAによる果肉着色誘導

果実成熟後期に着色を開始するII型赤果肉リンゴの果肉着色機構,すなわちMdMYB110aの発現上昇をもたらす要因については依然として不明である.そこで,エチレンとABA処理による果肉着色とMdMYB110aの活性化について解析したところ,II型赤果肉リンゴの果実着色時期とエチレン生合成系にかかわるMdACO1の発現誘導時期は一致していたが,エチレン処理による果実着色誘導は観察されなかった.また,エチレン処理もしくは阻害剤である1-MCP処理とMdMYB110aの発現パターンには明瞭な相関が見られなかった.そこで,果実の半分が赤着色した‘Nakano Shinku’のキメラ果実を用いてGeneFishing™ DEG Premix Kitによるディファレンシャルディスプレイを行ったところ,MdMYB1R1などのABAによって誘導される遺伝子が赤果肉部位で高発現していた.‘Chouka 33’と‘なかののきらめき’の果実を用いてABA処理を行ったところ,MdMYB110aの発現上昇と果肉着色誘導が見られたことから,エチレンではなくABAがMdMYB110aの発現上昇にかかわっていることが示唆された.また,満開後90日目から120日目の果実でのABA生合成系にかかわるNCED1MdMYB110aの発現パターンにも相関が認められた.

II型赤果肉リンゴの果実着色分子機構:MdMYB110a遺伝子のゲノム解析に基づくDNAマーカーの作製

前述のMdMYB110aS遺伝子との連鎖を利用した赤果肉リンゴの効率的育種法を用いれば,赤果肉リンゴ系統と多様な白果肉リンゴとの交雑後代が白,赤に分離せず赤果肉系統のみとなる.すなわち多様な赤果肉リンゴが効率的に作出されることが期待される.しかしながら,この交雑育種法では花粉親と胚珠親を入れ替える,すなわち胚珠親に赤果肉リンゴを用いると交雑後代は白,赤に分離してしまう.また,S遺伝子は着色原因遺伝子ではないため,S遺伝子型情報を基にした交配組み合わせからは一定の割合で組換えによりS3-RNase遺伝子と連鎖していない赤果肉や白果肉リンゴを生じる.そこで,MdMYB110a上流3.9 kbを含むプロモーターならびに構造遺伝子領域のゲノム解析を行い,SNPを利用して赤果肉形質特異的DNAマーカーを作製した(16)16) H. Sato, S. Otagaki, P. Saelai, S. Kondo, K. Shiratake & S. Matsumoto: Sci. Hortic. (Amsterdam), 219, 1 (2017)..作製したexon2由来のdCAPSDNAマーカーを用いたPCR-RFLP解析法により,II型赤果肉リンゴでは403bpと438 bpの2本のバンドが,白果肉リンゴでは解析品種すべてで438 bpのバンドのみが確認された(図8図8■ゲノム解析に基づくII型赤果肉リンゴの果肉着色特異的なDNAマーカーの開発).本マーカーは赤果肉リンゴ識別に有効であることから,今後の多様な赤果肉リンゴ作出に適用されることでさらなる育種の効率化が図られることが期待される.

図8■ゲノム解析に基づくII型赤果肉リンゴの果肉着色特異的なDNAマーカーの開発

II型赤果肉リンゴの特性

さまざまなタイプ2赤果肉リンゴ品種系統を用いて,品種・系統ごとのHPLC, GC-MSによる成熟果実の代謝産物解析とMdMYB110aを含めた代謝系遺伝子群の発現解析を行ったところ,アントシアニン(リンゴでは主にcyanidin 3-O-galactoside)に加えて,カフェイン酸,カテキンなどの合成酵素遺伝子群(MdC3H, MdLAR)も発現上昇しており,深紅色系統ではカフェイン酸,プロシアニジンB2が,淡紅色系統ではカテキン,エピカテキンが高蓄積していることが明らかとなった(16)16) H. Sato, S. Otagaki, P. Saelai, S. Kondo, K. Shiratake & S. Matsumoto: Sci. Hortic. (Amsterdam), 219, 1 (2017)..加えて赤果肉リンゴは従来の白果肉リンゴより高い抗酸化能を有していることも明らかとなった.以上より,果実成熟後期に果肉のみが着色するII型赤果肉リンゴでは,着色原因遺伝子MdMYB110aによりポリフェノール生合成系の遺伝子群が活性化されることが明らかとなった.赤果肉リンゴにはケルセチン,クロロゲン酸などの機能性成分を品種毎に特徴的に蓄積していることから,抗酸化作用や抗ガン作用に加え,脂肪燃焼効果や動脈硬化や糖尿病予防効果などを通して健康長寿に貢献できる多様な品種群の育成が可能であることが示された(18~20)

これからの課題と今後の実用化への展望

I型とII型の着色原因遺伝子を併せ持つ品種系統は,幼果の段階から成熟果実の段階まで安定的に着色することが期待されるため,既存品種について探索したが現在のところ見つかっていない.また,I型の‘Geneva’とII型の‘ピンクパール’交雑集団80個体中,両遺伝子を併せ持つと期待される個体は1個体のみであり,しかもこの個体は樹勢が弱く結実前に枯死したことから育種は困難であることが予想されるが(15)15) Y. Hamada, H. Sato, S. Otagaki, K. Okada, K. Abe & S. Matsumoto: Plant Breed., 134, 239 (2015).,異なる交雑集団を用いてさらなるチャレンジを進めている.

赤果肉リンゴは,見た目の斬新さに加え,従来の白果肉リンゴより多くの機能性成分を摂取できるため,社会的なインパクトや価値が大きい.また,“遺伝子組換え技術を用いていない”ため市場への導入も容易である.果樹産業振興には,付加価値の高い品種育成が求められており,彩りの美しい赤果肉リンゴは,一般消費者のみならず高級食材を提供するホテル・レストランなどでも取り扱われることが期待される.また,成長著しい中国において,食の安心・安全という点やその美味しさから日本の農産物に人気が高まっている.このことは,赤果肉リンゴのマーケットが国内にとどまらないと考えられ,農産物の国際競争力という観点からも,本研究は日本社会に大きな貢献を果たすものと期待できる.

表1■2014年以降品種登録(出願)されたタイプ2赤果肉リンゴ
品種名品種登録年交配親果皮色果実重(g)糖度(%)酸度(%)
いろどり2014(出願)紅玉×ピンクパール35014.20.54
炎舞2014(出願)いろどり×ふじ40013.70.4
なかの真紅2014(出願)いろどり×ふじ30014.70.47
なかののきらめき2014(出願)いろどり×王林35014.21.2
ムーンルージュ2014(出願)いろどり×ふじ35014.20.52
ルビースイート2015JP114069×ふじ45014.50.36
ローズパール2015ふじ×ピンクパール39014.30.6

最近になって国内では,農林水産省果樹試験場で育成された‘ルビースイート’,‘ローズパール’や長野県で育成された‘なかの真紅’,‘なかののきらめき’,‘いろどり’,‘炎舞’,‘ムーンルージュ’などのII型赤果肉リンゴが品種登録(出願)され,現在長野,岩手などで産地形成が進んでいる(表1表1■2014年以降品種登録(出願)されたタイプ2赤果肉リンゴ).数年後には市場に出ると予想され,消費者の反応が楽しみである.

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