解説

カカオポリフェノールの包括的研究カカオは神様の食べ物?

Study of Cacao Polyphenols: Cacao, Food of the Gods

Midori Natsume

夏目 みどり

株式会社 明治 技術研究所

Published: 2018-06-20

チョコレートが日本で製造・販売されてから100年になる.日本菓子協会の統計によると,2014年チョコレートの売り上げは和生菓子を抜きトップになった.チョコレートは,それほどわれわれの身近な食品となってきた.このチョコレートの原料であるカカオ豆の学名はギリシャ語でTheobroma Cacaoといい,神々の食べ物と訳される.この名が表すように古くから滋養強壮の高い食べ物として知られており,われわれはカカオに含まれるポリフェノールに着目し20年ほど前から研究を続けてきた.今回はわれわれが行った研究を中心にカカオポリフェノールの機能性について報告させていただく.

カカオに含まれるポリフェノール成分と定量

チョコレートの原料の一つがカカオ豆である.その原産地はアマゾン川流域で,赤道直下のアフリカ,アジアで栽培されている.カカオ豆は,その品種が原種に近いとされるクリオロ,栽培種とされるフォラステロ,クリオロとフォラステロの交雑種とされるトリニタリオ,エクアドル中心に栽培されるナシオナルなどがある.チョコレートは,次に示す工程で作られている.収穫されたカカオの実は殻が割られ中身のパルプと豆が取り出され,パルプと豆は発酵箱の中で2日から7日発酵させる.発酵後天日乾燥させた豆は,日本などカカオ製品の生産地へと輸出される.製造工場に入荷した豆は,まずローストされ,薄皮のシェルを取り除き磨砕しカカオマスを製造する.カカオマスに,砂糖,カカオバター,粉乳などを加えミキシングし,レファイナーで磨砕し口当たりを滑らかにする.次いで,コンチェという機械で練り上げチョコレート独特の香りが生成される.この生地を成形しチョコレートが作られる.チョコレートは,できたてより少し時間をおいたほうが油脂の結晶系が安定し美味しくなると言われている.

チョコレート中のポリフェノールの成分を明らかにするため,構造解析を行った.カカオマスをヘキサンで脱脂し70%アセトンで抽出,溶媒分画を行い,カラム処理をして20種類以上のポリフェノールを精製単離し構造決定をした(1)1) T. Hatano, H. Miyatake, M. Natsume, N. Osakabe, T. Takizawa, H. Ito & T. Yoshida: Phytochemistry, 59, 749 (2002)..主要な成分は,フラボノイド骨格をもった(−)-epicatechinとその異性体である(+)-catechin, (−)-epicatechinの重合物であるプロシアニジン類であった(図1図1■カカオ中に含まれる主要なポリフェノールの構造).これら成分は抗酸化活性を有しており,この作用によりさまざまな生理機能を発揮したと考えている.

図1■カカオ中に含まれる主要なポリフェノールの構造

われわれは,機能性研究を進めながらその機能性を担保するために,ポリフェノール量を定量することは重要であると考え分析法を検討,確立した(2)2) M. Natsume, N. Osakabe, M. Yamagishi, T. Takizawa, T. Nakamura, H. Miyatake, T. Hatano & T. Yoshida: Biosci. Biotechnol. Biochem., 64, 2581 (2000)..その分析法を用いカカオ製品中のポリフェノールを定量し表示を行った.当時,弊社以外のチョコレートを製造する会社でもポリフェノール量を表示していたが,当初はそれぞれ違う方法で分析した結果を表示をしていた.その後,チョコレート業公正取引委員会が中心となり,チョコレートを生産している会社で共通の分析方法を公定法として定め,現在は運用している.そのため現在,国内メーカーが生産しているチョコレートのポリフェノール量の表示は,同じ方法で分析した結果が用いられている.最近市場では高カカオチョコレートが多く売られるようになっているが,同じカカオ分を訴求していても,商品によってポリフェノール量が異なっている.カカオ豆はさまざまな国で生産されており,図2図2■異なる産地のカカオ豆を原料としたカカオマス中のポリフェノール量の比較に示すように産地の異なるカカオ豆によって作られたカカオマス中のポリフェノール量は異なっている.これは,産地により豆の品種や発酵日数が違うことが要因と考えられる.品種によってもともとポリフェノール量は違うし,発酵中ポリフェノールは分解し減るため発酵日数が異なるとポリフェノール量に違いが生じる.商品によって産地の異なるカカオマスを組み合わせチョコレートは作られていることから,同じパーセントのカカオ分を表示した商品でもポリフェノール量は違ってくる.

図2■異なる産地のカカオ豆を原料としたカカオマス中のポリフェノール量の比較

カカオポリフェノールの吸収代謝

カカオポリフェノールの機能性研究を進めていくうえで,その成分の吸収代謝について明らかにすることは重要であると考え,カカオポリフェノールの主要成分である(−)-epicatechinに着目し研究を行った.ラットおよびヒトにチョコレートを摂取させ,その血中ならびに尿中の(−)-epicatechinの代謝物の分析を行った.寺尾らのグループが(−)-epicatechinは,小腸上皮でグルグロン酸に,肝臓でグルクロン酸抱合や硫酸抱合,さらにメチル化されることを報告している(3)3) M. K. Piskula & J. Terao: J. Nutr., 128, 1172 (1998)..血中の代謝物を分析するためには,代謝物それぞれの標準品が必要であるが,すべてを準備することは難しい.そのため,代謝物をグルクロニダーゼ,あるいはスルファターゼで処理し脱抱合し(−)-epicatechinあるいはmethyl-(−)-epicatechinとして定量した.ラットおよびヒトでココア中の(−)-epicatechinの代謝を確認した結果,血中では(−)-epicatechinは微量しか検出されず,多くは抱合体化されていた.ココア摂取後30分から1時間後に(−)-epicatechin代謝物の血中濃度は最大となり,徐々に低下し24時間後には血中で検出されなかった(4, 5)4) S. Baba, N. Osakabe, M. Natsume, Y. Muto, T. Takizawa & J. Terao: J. Agric. Food Chem., 49, 6050 (2001).5) S. Baba, N. Osakabe, A. Yasuda, M. Natsume, T. Takizawa, T. Nakamura & J. Terao: Free Radic. Res., 33, 635 (2000)..さらに研究が進みProcyanidin類は,腸内細菌で分解され低分子のポリフェノールになることが報告されている(6)6) L. Y. Rios, M. P. Gonthier, C. Remesy, I. Mila, C. Lapierre, S. A. Lazarus, G. Williamson & A. Scalbert: Am. J. Clin. Nutr., 77, 912 (2003)..また,アイソトープを用いた実験で,(−)-epicatechinの吸収率について確認したところ,82±5%であったことが報告されている(7)7) J. I. Ottaviani, G. Borges, T. Y. Momma, J. P. Spencer, C. L. Keen, A. Crozier & H. Schroeter: Sci. Rep., 6, 29034 (2016)..われわれの研究だけでなく多くの研究者によりカカオのポリフェノールは体内に吸収されることを明らかにしている.

チョコレートやココアは,さまざまな食品とともに摂取していることから,それらが吸収代謝に及ぼす影響についても研究していくことは重要である.われわれの研究グループでは,チョコレーとココアで(−)-epicatechinの吸収量について比較した.チョコレートとココアでは,チョコレートのほうがやや吸収率が高い結果を得ている(5)5) S. Baba, N. Osakabe, A. Yasuda, M. Natsume, T. Takizawa, T. Nakamura & J. Terao: Free Radic. Res., 33, 635 (2000)..これは,チョコレート中の油分が吸収を促進したのではないかと推察している.また,チョコレートやココアは,牛乳とともに摂取することが多い.タンパクとポリフェノールは疎水性結合により凝集し沈殿し,ポリフェノールの分子量が大きくなるほど沈殿量が増えることが報告されている(8)8) M. Takechi, Y. Tanaka, M. Takehara, G.-I. Nonaka & I. Nishioka: Phytochemistry, 24, 2245 (1985)..吸収に関する実験ではないが,ミルクとともにココアを摂取するとココアのLDLコレステロールの被酸化能については減弱することを報告している(9)9) 馬場星吾,越阪部奈緒美,夏目みどり,安田亜紀子,貴堂としみ,鎌田由美,福田久美子,武藤裕子,岩本珠美,下村洋一,近藤和雄:医学と薬学,52, 947 (2004)..ポリフェノールの吸収率についてはミルクの存在で低下するという報告もあり,ほかの食品と組み合わせて研究を行うことは重要と考えており,今後も研究を進めていきたい.

動物モデルを用いた機能性研究

1. 動脈硬化モデル動物への作用

心疾患や脳血管疾患は日本人の死因の上位であり,その原因の一つが動脈硬化である.カカオポリフェノールの動脈硬化に対する作用について動物で評価した.ウサギにコレステロールを添加した餌を3週間食べさせ高コレステロール血症にし,カカオポリフェノールを10日間摂取させた結果血中の酸化LDL量が低下した(10)10) N. Osakabe, M. Natsume, T. Adachi, M. Yamagishi, R. Hirano, T. Takizawa, H. Itakura & K. Kondo: J. Atheroscler. Thromb., 7, 164 (2000)..また,黒沢らは,家族性高コレステロール血症のモデル動物であるKHC(Kurosawa and Kusanagi-hypercholesterolemic)ウサギにカカオポリフェノールを6カ月摂取させた結果,動脈硬化病変の抑制,血中の過酸化物質(TBARS)量の抑制について報告している(11)11) T. Kurosawa, F. Itoh, A. Nozaki, Y. Nakano, S. Katsuda, N. Osakabe, H. Tsubone, K. Kondo & H. Itakura: Atherosclerosis, 179, 237 (2005)..さらに,Apo-Eノックアウトマウスにカカオポリフェノールを16週間摂取させた結果,大動脈弓のコレステロール蓄積の抑制が見られるとともに,動脈硬化に関連性がある接着因子ICAM-1やVCAM-1の発現の抑制も見られた(12)12) M. Natsume & S. Baba: Subcell. Biochem., 77, 189 (2014)..これらの結果より,カカオポリフェノールが動脈硬化発症を遅延することが推察された.

2. 高血圧ラットへの評価

高血圧は,動脈硬化を進展させる要因の一つとなる.高血圧ラット(SHR)でカカオポリフェノールについて評価した.高血圧を発症したSHRにカカオ抽出物を5日間連続投与すると,水を投与したSHRに比較し,血圧上昇が抑制することを確認している.Galleanoらは,カカオポリフェノールの主要成分である(−)-epicatechinを餌中に3 g/kg混ぜ6日間摂食させた結果,SHRの血圧が低下することを報告している(13)13) M. Galleano, I. Bernatova, A. Puzserova, P. Balis, N. Sestakova, O. Pechanova & C. G. Fraga: IUBMB Life, 65, 710 (2013)..その際,血管拡張に関与する一酸化窒素合成酵素(NOS)産生の上昇も併せて報告している.Deoxycorticosterone acetate(DOCA)と塩の投与による高血圧モデルラットに(−)-epicatechinを10 mg/kgで投与した結果,血圧が低下し,血管収縮物質であるエンドセリン1の減少が確認されたと報告されている.さらに体内の酸化ストレスマーカーである8-iso-Prostaglandin F2α,活性酸素を産生するNADPHオキシダーゼ活性の低下が認められ,DOCAにより誘発された酸化状態が抑制することが確認されている(14)14) M. Gomez-Guzman, R. Jimenez, M. Sanchez, M. J. Zarzuelo, P. Galindo, A. M. Quintela, R. Lopez-Sepulveda, M. Romero, J. Tamargo, F. Vargas et al.: Free Radic. Biol. Med., 52, 70 (2012).

カカオポリフェノールは,血管拡張物質(NO)を産生し,その結果血圧を低下させる働きがあることが動物実験により確かめられている.

3. 糖尿病への作用

国際糖尿病連合は,2017年世界の糖尿病罹患者数が4億人を超えたことを報告している.特に日本を含めたアジア人は,欧米人に比較しインスリンの分泌量が少ないため肥満ではなくても糖尿病が発症することが問題視されている.また,糖代謝の異常は動脈硬化を促進する要因の一つである.

われわれは1型糖尿病のモデル動物であるストレプトゾトシン投与ラットでカカオ抽出物の評価を行った(15)15) N. Osakabe, M. Yamagishi, M. Natsume, A. Yasuda & T. Osawa: Exp. Biol. Med. (Maywood), 229, 33 (2004)..ストレプトゾトシンは,膵臓のβ細胞に毒性を有しており,ランゲルハンス島が壊れインスリンの分泌を低減させることにより糖尿病を発症させる.カカオ抽出物を0.5%添加した餌を10週間摂取させると非添加時と比較し血糖の上昇が抑制されることを確認した.次に,高野らとの共同研究で2型糖尿病のモデル動物db/dbマウスでカカオポリフェノールを評価した(16)16) M. Tomaru, H. Takano, N. Osakabe, A. Yasuda, K. Inoue, R. Yanagisawa, T. Ohwatari & H. Uematsu: Nutrition, 23, 351 (2007)..db/dbマウスは,食欲を制御するホルモンであるレプチンのレセプターの異常による過食が原因で肥満となりインスリン抵抗性を示す.db/dbマウスに,カカオポリフェノールを0.5%あるいは1%含有した餌を添加し6週間摂食させると,非添加の餌を食べた対照群に比較し,血糖ならびに尿糖の有意な上昇抑制,タンパク質の糖化物である血中フルクトサミンの有意な低下が確認された.

さらに山下,芦田らとの共同研究により,カカオポリフェノールを投与後,糖を投与し血糖の推移を見るとカカオポリフェノール非投与時に比較し血糖上昇が抑制されることを確認した.その作用機序として,カカオポリフェノールがGLP-1を誘導,インスリンが分泌され,その結果,筋肉中のglut4が膜移行し糖が筋肉に取り込まれるためであることを明らかにした(17)17) Y. Yamashita, M. Okabe, M. Natsume & H. Ashida: J. Food Drug Anal., 20, 283 (2012)..また,山下らは,マウスに高脂肪食の餌を摂取させカカオ抽出物を添加し12週間摂取させ食餌誘発性の肥満や高血糖を評価した(18)18) Y. Yamashita, M. Okabe, M. Natsume & H. Ashida: Arch. Biochem. Biophys., 527, 95 (2012)..その結果,インスリン抵抗性の誘導が抑制されたことによる血糖上昇の抑制ならびに筋肉中のAMPKの活性化,その結果Peroxisome proliferator-activated receptor gamma coactivator-1α(PGC-1α)の遺伝子発現を上昇させエネルギー産生を促進し,高脂肪食を摂取した際の脂肪の蓄積を抑制し肥満を抑制することを確認している.

これらの結果により,カカオポリフェノールが糖代謝を改善し糖尿病発症を遅延する可能性を見いだした.

カカオ製品摂取による臨床試験

1. カカオ製品(チョコレートやココア)による脂質代謝改善作用

健常な日本人男女160名にプラセボあるいはポリフェノール濃度の異なるココア3種類のいずれかを4週間摂取させ並行群間で評価した(19)19) S. Baba, M. Natsume, A. Yasuda, Y. Nakamura, T. Tamura, N. Osakabe, M. Kanegae & K. Kondo: J. Nutr., 137, 1436 (2007)..その結果,LDLコレステロール濃度が125 mg/dL以上の高い被験者でプラセボに対しポリフェノールを含むココアを摂取した被験者は,LDLコレステロールの低下あるいはHDLコレステロールの上昇,酸化LDLの低下が認められた.また,われわれは2014年愛知県蒲郡市で,愛知学院大学,蒲郡市の産官学で,大規模臨床試験を実施した.高カカオチョコレート25 gを358名の方に4週間摂取させ生活習慣病に対して網羅的に評価した.その結果,摂取前後でHDL-コレステロールの有意な上昇を確認している.Mursuら(20)20) J. Mursu, S. Voutilainen, T. Nurmi, T. H. Rissanen, J. K. Virtanen, J. Kaikkonen, K. Nyyssonen & J. T. Salonen: Free Radic. Biol. Med., 37, 1351 (2004).も,健常者に高カカオのポリフェノールのチョコレートを3週間摂取させHDLコレステロールが上昇することを報告している.また,Paraseyanらは,2型糖尿病患者にココアを6週間摂取させた結果,LDLコレステロールの低下ならびに高感度の炎症マーカーであるhs-CRPやIL-6, TNFαの低下を報告している(21)21) N. Parsaeyan, H. Mozaffari-Khosravi, A. Absalan & M. R. Mozayan: J. Diabetes Metab. Disord., 13, 30 (2014)..さらに,Tokedaらは,チョコレートやココアを摂取させた際の血清脂質に対する作用についてメタアナリシスで評価しLDL-コレステロールについて有意な低下が見られたと報告している(22)22) O. A. Tokede, J. M. Gaziano & L. Djousse: Eur. J. Clin. Nutr., 65, 879 (2011)..Shirime(23)23) M. G. Shrime, S. R. Bauer, A. C. McDonald, N. H. Chowdhury, C. E. Coltart & E. L. Ding: J. Nutr., 141, 1982 (2011).やHooperら(24)24) L. Hooper, C. Kay, A. Abdelhamid, P. A. Kroon, J. S. Cohn, E. B. Rimm & A. Cassidy: Am. J. Clin. Nutr., 95, 740 (2012).もメタアナリシスを実施しており,いずれもLDLコレステロールの有意な低下やHDLコレステロールの有意な上昇を報告している.HDLコレステロールはLDLコレステロールの酸化を抑制する働きがある.よって,HDLコレステロールの上昇やLDLコレステロールの低下は,LDLの酸化を防ぐことができる.酸化LDLは,平滑筋やマクロファージの増殖促進作用,内皮細胞の接着能の亢進など動脈硬化を促進する働きがあるとともに,血管内膜にもぐりこみ異物としてマクロファージに貪食され,最終的には泡沫細胞となり動脈硬化巣に蓄積していく.

以上の結果から,カカオポリフェノール摂取による脂質代謝改善は,動脈硬化の発症を遅延させる可能性が示された.

2. カカオ製品摂取による血圧低下作用

先の章でも報告した2014年蒲郡市で行った試験で,高カカオチョコレートを摂取した被験者の最高血圧,最低血圧が摂取前後で有意に低下することを確認した.チョコレート摂取による血圧低下作用については,欧米各国で多くの臨床試験が行われている.Ellingerら(25)25) S. Ellinger, A. Reusch, P. Stehle & H. P. Helfrich: Am. J. Clin. Nutr., 95, 1365 (2012).は,血圧について評価した臨床試験でメタアナリシスをした結果,カカオポリフェノールの主要成分である(−)-epicatechinを1日25 mg摂取することで,最高血圧,最低血圧のいずれも有意に低下すると報告している.蒲郡で実施したチョコレート中にも(−)-epicatechinは,同程度含まれていた.また,カカオ製品を摂取すると血管内皮機能が改善され,血管から拡張作用があるNOが産生,血圧が低下したと考えられる.Taubertら(26)26) D. Taubert, R. Roesen, C. Lehmann, N. Jung & E. Schomig: JAMA, 298, 49 (2007).は,1型高血圧患者に6.3 gの高カカオチョコレートあるいはホワイトチョコレートを18週間摂取させた結果,対照としたホワイトチョコレートを摂取した被験者は血圧の変化は認められなかったが,高カカオのチョコレートを摂取した被験者は有意な血圧低下が認められた.さらにNOと関連が高いNitrosoglutathioneの上昇も報告している.NO産生は,血管内皮機能が関与するといわれ,血管内皮機能は,Flow Mediated Dilation(FMD)を測定し評価される.Petronら(27)27) A. B. Petrone, J. M. Gaziano & L. Djoussé: Curr. Nutr. Rep., 2, 267 (2013).は,19の臨床試験のメタアナリシスを行い,チョコレートあるいはココアを摂取することで,FMDが改善することを報告している.以上の結果を考え合わせると,カカオ製品を摂取することで,血管内皮機能が改善しNO産生能が上昇,結果として血圧が低下することが示唆された.

3. カカオ製品摂取による糖代謝改善

肥満などによりインスリンの働きが悪くなり糖を筋肉などに取り込めなくなることをインスリン抵抗性という,この状態が生じると高血糖が続き糖尿病が発症する.いくつかのグループにより,チョコレート摂取によるインスリン抵抗性の改善について評価されている.健常な男女に100 gのチョコレートを2週間摂取させた場合(28)28) D. Grassi, G. Desideri, S. Necozione, C. Lippi, R. Casale, G. Properzi, J. B. Blumberg & C. Ferri: J. Nutr., 138, 1671 (2008).やカカオポリフェノールを多く含むチョコレート20 gを女性に4週間摂取させた場合(29)29) S. Almoosawi, L. Fyfe, C. Ho & E. Al-Dujaili: Br. J. Nutr., 103, 842 (2010).のいずれの試験でもインスリン抵抗性が改善している.また,Desideriら(30)30) G. Desideri, C. Kwik-Uribe, D. Grassi, S. Necozione, L. Ghiadoni, D. Mastroiacovo, A. Raffaele, L. Ferri, R. Bocale, M. C. Lechiara et al.: Hypertension, 60, 794 (2012).は,ココアを高齢者の男女に摂取させた結果,血圧低下やインスリン抵抗性の改善が認められたことを報告している.

カカオポリフェノールが糖代謝を改善することを検証する臨床研究はまだまだ少ない,さらなる研究により明確化することが望まれる.

最近のチョコレート研究

10年ほど前からチョコレートやココアが認知機能に与える影響について評価が行われている.

18から25歳の若者30人に単回でチョコレートを摂取させると視覚的なワーキングメモリーが改善すること(31)31) D. T. Field, C. M. Williams & L. T. Butler: Physiol. Behav., 103, 255 (2011).,や,軽度認知障害の高齢者や健常な高齢者にココアを8週間摂取させると認知機能を測定するTrail Making Test(TMT)テストなどで改善が見られること(30, 32)30) G. Desideri, C. Kwik-Uribe, D. Grassi, S. Necozione, L. Ghiadoni, D. Mastroiacovo, A. Raffaele, L. Ferri, R. Bocale, M. C. Lechiara et al.: Hypertension, 60, 794 (2012).32) D. Mastroiacovo, C. Kwik-Uribe, D. Grassi, S. Necozione, A. Raffaele, L. Pistacchio, R. Righetti, R. Bocale, M. C. Lechiara, C. Marini et al.: Am. J. Clin. Nutr., 101, 538 (2015).が報告されている.また,Neshatdoustら(33)33) S. Neshatdoust, C. Saunders, S. M. Castle, D. Vauzour, C. Williams, L. Butler, J. A. Lovegrove & J. P. Spencer: Nutr. Healthy Aging, 4, 81 (2016).は,ポリフェノール濃度が異なるココアを高齢の男女に摂取させた結果,高濃度のポリフェノールを含むココアを摂取した被験者は,低濃度のポリフェノールを含むココアを摂取した被験者より血中の神経の栄養因子であるBrain Derived Nutrophic Factor(BDNF)濃度が上昇し,認知テストの改善が認められたと報告している.

認知機能への作用についても,さらなる検証が必要であろうが,興味深い研究の一つである.

まとめ

チョコレートやココアなどカカオポリフェノールを多く含む食品を摂取することで,血管内皮機能改善による血圧低下や,糖や脂質の代謝改善が報告されている,これらの改善により糖尿病や動脈硬化の発症が遅延,さらには,心疾患や脳卒中の発症遅延へとつながっていくと考えられる.欧米では,数多くの疫学調査が行われており,カカオ製品摂取により心筋梗塞の発症が抑制されることが報告されている(34)34) A. Buitrago-Lopez, J. Sanderson, L. Johnson, S. Warnakula, A. Wood, E. Di Angelantonio & O. H. Franco: BMJ, 343, d4488 (2011).,また,最近日本でも,チョコレートを週平均37.5 g食べている女性は,非摂取の女性より脳卒中の死亡リスクが低いことが報告されている(35)35) J. Y. Dong, H. Iso, K. Yamagishi, N. Sawada & S. Tsugane; Japan Public Health Center-based Prospective Study Group: Atherosclerosis, 260, 8 (2017).

チョコレートやココアが,アステカ時代から言われているように神様の食べ物として健康な生活の一助になればと考えている.チョコレートやココアは美味しいですが,くれぐれも食べすぎにはご注意ください.

Reference

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