Kagaku to Seibutsu 56(8): 535-540 (2018)
解説
食品を対象とする臨床試験の試験設計と解析方法食品の機能性に関する科学的根拠をヒトで検証するために
The Design and Analysis of Clinical Trial for Functional Food: To Prove the Evidence on Food Function in Clinical Trial
Published: 2018-07-20
機能性食品は生体の生理機能を調整する働きをもち,その科学的根拠を有する食品である.わが国においては1991年に効能効果を表示できる食品として国が個別に許可した「特定保健用食品」と国の規格基準に適合した「栄養機能食品」が制度化した.さらに2015年には「機能性表示食品」制度が施行された(1)1) 公益財団法人 日本健康・栄養食品協会編:平成28年度農林水産省食産業における機能性農産物活用促進事業機能性表示食品—届出資料作成の手引書—,http://www.jhnfa.org/tebiki.pdf, 2016..この制度では,機能性の評価として「最終製品を用いた臨床試験」または「最終製品または機能性関与成分に関する研究レビュー」が必要となる.このような背景から,食品の機能性については細胞実験や動物実験だけでなく,ヒトでの検証が必要となってきており,北海道情報大学健康情報科学研究センター(江別モデル)における食品の臨床試験の依頼も増加している(2)2) 西村三恵,西平 順:日本病院薬剤師会雑誌,54, 291 (2018)..本稿では,本学のこれまでの経験をもとに,食品の臨床試験の方法や解析について解説する.
© 2018 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2018 公益社団法人日本農芸化学会
臨床試験とは,あらかじめ作成された計画に沿って,ヒトに対して何らかの介入を行う研究のことであり,その計画は倫理審査委員会で厳しく審査される.臨床試験は,厚生労働省が施行した「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」に準拠し,ヘルシンキ宣言を遵守して実施される.
臨床試験の流れを図1図1■臨床試験の流れに示す.はじめに,被験食品(効果が期待できると考えられる試験食品)の安全性に関する検討を行う.被験食品の食経験の有無,安全性試験実施の有無について,販売実績やデータベース(3, 4)4) 日本医師会,日本薬剤師会,日本歯科医師会:健康食品・サプリメント[成分]のすべて2017ナチュラルメディシン・データベース,(一社)日本健康食品・サプリメント情報センター,20173) 国立健康・栄養研究所:「健康食品」の安全性・有効性情報,http://hfnet.nih.go.jp/contents/indiv.html, 2018.,文献などを参考にし,安全性を総合的に評価する.特に食経験は重要であり,摂取集団(国籍,年齢,性別など)や摂取頻度,摂取量について調査する.また原料の産地情報や,収穫または漁獲から製造までの品質管理状況の情報も必要となる.次に有効性についてはin vitro試験やin vivo試験,臨床試験の文献を収集し,機能性やその作用機序について評価する.摂取量の設定については有効量だけでなく,日常で摂取可能な量であることが必要である.販売時の1日摂取量や価格の設定が消費者ニーズと合うかも考慮しなければならない.また販売時に機能性成分の含有量の保証が必要であることから,機能性成分の定量分析方法について標準化されているか確認する.さらに被験者が毎日摂取するため,味や量が試験期間中毎日無理なく摂取できるかを検討する.また摂取(調理)条件や保存条件の違いが有用性に影響を及ぼさないか検討する.
なお機能性表示食品制度ではプラセボ(効果が期待できないと考えられる試験食品)を対照とする二重盲検試験(プラセボ対照二重盲検試験)の実施が原則である.二重盲検法とは,被験者がプラセボ食品と被験食品のいずれを摂取しているかを,医師などのスタッフからも被験者からもわからないように試験を行うことである.このプラセボ対照二重盲検試験は,誰もがもっている「先入観」や「思い込み」(たとえば,「この食品は効果があるかもしれない」といった気持ち)の影響を取り除くことを目的として,薬や食品の有効性などを調べるときによく使われる方法である.しかしながらカプセルなどのサプリメント形状ではなく,食品形状である場合はプラセボの設定に難航する場合が多い.機能性成分を含有せず,かつ外観・味・においが被験食品に類似し医師などスタッフや被験者にプラセボと気づかれない食品を製造する必要がある.
本学の試験では,素材を粉末化しカプセルに充填することが多い.しかしながらカプセルに充填できる粉末量は限られているため,摂取量が多い素材には向かない.また,カプセル化した際の物理的性状(溶解性や安定性など)は問題ないか,試験開始前に確認しておく必要がある.加工食品の場合は外観・においを似せるために,プラセボ食品に着色料や香料などの添加物を使用する場合が多い.しかしながら天然系の添加物は量によっては効果を示す可能性も考えられるため,懸念される場合は被験食品にも同量を加える.また加工(加熱や浸水など)で機能性成分が分解し効果を示さなくなる場合は,その加工を施した食品をプラセボ食品にすることも一つの方法である.生鮮食品の場合は,目的としている機能性成分をほとんど含んでいない品種をプラセボ食品とすることが多い.しかしながら,ほかの成分含有量も両食品で異なっている場合は,機能性成分のみの効果とは断定できないという指摘がはいる場合もあり,in vitro実験やin vivo実験,疫学調査の結果とともに,総合的に判定することも必要であると考える.また,いずれの食品形状にも共通する問題であるが,プラセボ食品の摂取量が多くなってしまうと整腸作用など一定の効果を示す可能性も考えられるため,この点においても被験食品の摂取量を十分検討する必要がある.
プラセボ食品の原材料などの情報については,食物アレルギーなど被験者の安全性確保に問題のない範囲であれば,盲検性を担保するために表現を変更する例もあるが(たとえば「緑茶」の場合は,「お茶」にするなど),その変更について倫理委員会で承認を得る必要がある.また,食品の色や匂い,味などを連想させるような用語は使用しないなど,同意説明文書の作成には十分注意する.
食品の臨床試験では完全な二重盲検は難しいものの,最低限の盲検性を担保するために食品の加工や被験者への説明などに工夫が必要となる.
試験食品決定後,次にその食品での効果を評価するための検査項目(評価項目)を決定する.臨床試験の評価項目には主要評価項目と副次評価項目がある.主要評価項目は,原則一つである.これは多数の評価項目を設定すると効果がないのに効果があるといった間違った判断をする可能性が高くなってしまうためであり,2つ以上の評価項目を設定する場合は検定の多重性を考慮する必要がある.また評価項目はコレステロールや体脂肪率など客観的に測定可能な変数であることが望ましいが,食品の場合は疲労感などの体感に対する効果の寄与も大きく,また機能性表示食品制度では特定保健用食品では認可されていない「ストレスや疲労感の緩和」「ピント調節機能低下の緩和」などの機能性表示が認められることから,主観的な指標である質問票も活用されている.ヒトの場合は個人差が大きく,動物実験で改善したマーカーが必ずしも臨床試験で適するとは限らないため,評価項目の選定に関しては既存の臨床試験の方法を十分調査する必要がある.
摂取期間は,糖尿病,高脂血症,高血圧,肥満などの生活習慣病および整腸効果については,「特定保健用食品申請に係る申請書作成上の留意事項」(5)5) 消費者庁:特定保健用食品申請に係る申請書作成上の留意事項,http://www.caa.go.jp/foods/pdf/syokuhin1347.pdf, 2015.に記載されている期間が一般的である(表1表1■基準値や摂取期間が設定されている項目一覧〈文献(88) 消費者庁:機能性表示食品制度における臨床試験および安全性の評価内容の実態把握の検証・調査事業報告書,http://www.caa.go.jp/foods/pdf/foods_index_23_171025_0001.pdf, 2017.)より引用改変〉).ほかの効能については,類似した既存の臨床試験の摂取期間を参考にする場合が多い.
項目 | コレステロール | 中長期的なTG | 血圧関係 | 体脂肪関係 |
---|---|---|---|---|
評価項目 | LDL(T-Choは参考) | TG | 外来血圧 | CT,インピーダンス法による腹部脂肪面積,BMI,腹囲 |
摂取期間 | 12週間 | 12週間 | 12週間 | 12週間 |
後観察期間 | 4週間 | 4週間 | 4週間 | 4週間 |
評価時期 | 4週間ごと | 4週間ごと | 4週間ごと | 4週間ごと |
対象被験者 | LDLが境界域者および軽症域者 | TGが正常高値域者およびやや高めの者 | 血圧が正常高値者およびI度高血圧者 | 肥満度が正常高値の者または肥満I度の者 |
境界域 | 正常高値域 | 正常高値 | 正常高値 | |
120~139 mg/dL | 120~149 mg/dL | SBP130~139 mmHg, DBP 85~89 mmHg | BMI23以上25未満 | |
軽症域 | やや高め | I度高血圧 | 肥満I度 | |
140~159 mg/dL | 150~199 mg/dL | SBP140~159 mmHg, DBP 90~99 mmHg | BMI25以上30未満 | |
項目 | 食後のTGの上昇 | 食後の血糖上昇 | 整腸関係 | |
評価項目 | TGおよび血中濃度曲線下面積(AUC) | 食後血糖および血中濃度曲線下面積(AUC) | 排便回数,排便量,便性状,糞便菌叢 | |
摂取期間 | 単回摂取 | 単回摂取 | 2週間以上 | |
評価時期 | 摂取後2, 3, 4, 6時間等 | 摂取後30, 60, 90, 120分等 | 1週間ごと | |
対象被験者 | TGが正常高値域者およびやや高めの者 | 空腹時血糖値または75gOGTTが境界型の者または食後血糖が高めの者 | 便秘傾向者,下痢傾向者(糞便菌叢を評価指標とする場合については,健常者を対象としても可能な場合もある) | |
正常高値域 | 境界型 | |||
120~149 mg/dL | 空腹時血糖値110~125 mg/dLまたは75 g OGTT 2時間値140~199 mg/dL | |||
やや高め | 食後血糖が高め | |||
150~199 mg/dL | 随時血糖値140~199 mg/dL |
評価項目と並行して,試験に組み入れる対象被験者の基準に関する検討を行う.組み入れ基準には「選択基準」と「除外基準」があり,「選択基準」は試験の結果,食品の有効性が示された場合に,その食品を摂取することが妥当とみなされる条件を規定するものであり,「除外基準」は選択規準で示される対象集団には属するが,組み入れることが倫理的でないか,有効性・安全性の評価に影響を及ぼすと判断される対象を除外する条件を規定するものである.たとえばコレステロール改善作用に関する食品であれば,選択基準は「LDLコレステロールが高めの方」となり,除外基準は「脂質異常症の治療を行っている方」などとなる.食品の臨床試験,特に機能性表示食品制度への届出を計画している場合は,組み入れ基準については疾病に罹患していないと判断される基準を設定する.生活習慣病関連については,境界域もしくは高めと診断される検査値の基準を設定する(表1表1■基準値や摂取期間が設定されている項目一覧〈文献(88) 消費者庁:機能性表示食品制度における臨床試験および安全性の評価内容の実態把握の検証・調査事業報告書,http://www.caa.go.jp/foods/pdf/foods_index_23_171025_0001.pdf, 2017.)より引用改変〉).それ以外の機能性については,各学会が提唱している基準値や専門医の診断により,疾病に罹患していないと判断される基準を設定する.
被験者人数の設定については,探索的な臨床試験を実施している場合は計算で求めることができるが,同じ主要評価項目を採用している,または類似の作用機序を示す食品を評価しているほかの臨床試験を参考にする場合も多い.
試験食品,評価項目,対象被験者が決まったら,臨床試験計画書を作成する.臨床試験計画書は試験の意義や手順について記載し,試験実施のかかわる全員が理解できるように作成する.計画書の記載項目は「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」(6)6) 文部科学省・厚生労働省:「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」, http://www.lifescience.mext.go.jp/files/pdf/n1443_01.pdf, 2014.に従う.特に計画書の「背景」には試験がどのような根拠に基づいて設計されたか,どのような利益をもたらすかを記述する必要があり,臨床試験の意義を伝えるうえで重要な章であると言える.
同意説明文書は,被験者に対し試験の内容を口頭で説明する際に用いる文書である.臨床試験では,その内容について被験者がよく説明を受け十分理解したうえで,自らの自由意志に基づいて試験参加に同意すること(インフォームド・コンセント)が,重要であることから,同意説明文書は,一般市民の方が理解できる内容にすることを心がける.目安として,中学3年生くらいが読み手と想定し作成する(7)7) 大橋靖雄,荒川義弘,臨床試験の進み方,南江堂,2006..専門用語や略語の使用はできるだけ避け,図や表などを用いて読みやすく,見やすくなるように工夫する.また被験者の人権に十分に配慮した表現を選ぶ.なお同意説明文書の記載項目は「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」(6)6) 文部科学省・厚生労働省:「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」, http://www.lifescience.mext.go.jp/files/pdf/n1443_01.pdf, 2014.に従う.
倫理審査委員会は,被験者の人権と安全性に関して臨床試験の計画が問題ないかどうかを審査するための機関である.自然科学の有識者,人文・社会科学の有識者,一般の人および試験に利害関係のない人を加えて,男女両性で構成されている.審査対象の書類は倫理審査委員会によって異なるが,北海道情報大学生命倫理委員会では,臨床試験計画書,利益相反自己申告書,同意説明文書,同意書,同意撤回書,試験食品概要書などについて審査される.
UMIN(University Hospital Medical Information Network,大学病院医療情報ネットワーク)は国立大学附属病院長会議のもとで運用されている臨床試験登録システムのことである.臨床試験を実施する前に研究の事前登録を行い,臨床試験情報を一般に開示することを目的としている.登録の意義として,研究者同士の情報共有による研究の合理化だけでなく,否定的な結果が出た研究は肯定的な結果が出た研究に比べて公表されにくいという出版バイアスを排除する目的もある.一部の雑誌では事前登録を行っていない臨床研究は,掲載を認めない方針を明らかにしている.
食品の効果を正確に評価するためには,被験者のコンプライアンス(規則の遵守)管理が重要である.よって募集や同意説明,試験期間中の被験者の管理などには工夫が必要となる.
機能性表示食品制度では表示する機能性によっては,表1表1■基準値や摂取期間が設定されている項目一覧〈文献(88) 消費者庁:機能性表示食品制度における臨床試験および安全性の評価内容の実態把握の検証・調査事業報告書,http://www.caa.go.jp/foods/pdf/foods_index_23_171025_0001.pdf, 2017.)より引用改変〉のように対象被験者の範囲が設定されており,また治療中の被験者は組み入れることができないことから,本学においても被験者の確保は大きな課題となっている.しかしながら被験者の選定が臨床試験の質を大きく左右するため,被験者候補の募集は重要な段階であると言える.募集広告は試験計画書を遵守して作成し,対象となる被験者の興味を引き,わかりやすい内容にする.ただし「医薬品,医療機器等の品質,有効性および安全性の確保等に関する法律(薬機法)」などの規制を十分考慮し,誇大広告にならないように注意する.
同意説明会では同意説明文書をもとに,被験者に対して口頭でわかりやすく説明する.プラセボ対照ランダム化二重盲検試験の場合は,プラセボの設定意義やランダム化の方法についても被験者に理解してもらう必要がある.被験者が試験の参加に同意し,同意文書に署名したのち,スクリーニング検査を行う.
スクリーニング検査では,医師による問診,体組成の測定,血液検査を実施する.問診ではあらかじめ被験者に記入してもらった問診票(表2表2■スクリーニング検査問診票質問項目例)をもとに,被験者のプライバシーに配慮した場所で医師が行う.体組成の測定では身長や体重,BMI,体脂肪率を計測する.血液検査では割り付けに使用する評価項目と合わせて,本学では安全性の評価に関する項目(血液一般,肝機能,腎機能,脂質,血糖)の検査を行う.また食品の効果は被験者の生活習慣に大きく影響を受けることから,生活習慣に関する質問票に回答してもらい,生活スタイルや,喫煙習慣,飲酒習慣,運動習慣,食生活に関する情報を入手する.生活習慣に関する必要な情報は食品や機能性によって若干異なる.たとえばプロバイオティクスの評価試験の場合,被験者が普段摂取するヨーグルトなどのプロバイオティクス食品の種類と,摂取頻度の情報が必要となる.どのような習慣が効果の判定に影響を及ぼすか十分に検討しておく必要がある.スクリーニング検査の結果をもとに,医師,看護師,臨床試験コーディネーターなどで組み入れ被験者の選定を行う.臨床試験計画書の組み入れ基準をもとに選定を行い,組み入れ違反を防止し,試験の質を確保することが重要である.
1 | 今までに大きな病気にかかったことはありますか? |
⇒「はい」の方は,それはどんな病気ですか? | |
⇒「はい」の方は,現在もその病気の治療をしていますか? | |
2 | 今までに手術を受けたことがありますか? |
⇒「はい」の方は,時期と手術部位をお答えください | |
3 | 現在,医薬品を常用していますか? |
⇒「はい」の方は,薬剤名と服用理由(病名)をお答えください | |
4 | 今までに食品や薬,動植物などでアレルギーを起こしたことがありますか? |
⇒「はい」の方は,アレルゲン名をお答えください | |
5 | 現在,健康を意識した食品(特定保健用食品,機能性表示食品,その他健康食品)を摂取していますか? |
⇒「はい」の方は,食品名と摂取理由をお答えください | |
6 | 1カ月以内に何らかの理由で医者にかかりましたか? |
7 | 現在,他の臨床試験や食品モニターに参加していますか? |
8 | 3カ月以内に献血をしましたか?(成分献血を含む) |
9 | 現在妊娠や授乳をしていますか? また試験期間中に妊娠や授乳の可能性はありますか?(※女性のみ回答) |
10 | 現在(閉経が原因の)ホルモンバランスの変化による体調不良がありますか?(※女性のみ回答) |
プラセボを対照とする試験の場合,被験者をプラセボ食品摂取群と被験食品摂取群の2群に割り付けを行う必要がある.割り付けはランダム化割り付けで行い,効果が出そうな被験者を恣意的に被験食品摂取群に組み入れるなどして2群間の偏りによって正しい効果判定ができなくなることを防ぐ.また割り付け表(どの被験者が被験食品,プラセボ食品を食べているか)の管理は,二重盲検性を担保するうえで重要であることから,第三者機関か研究に関与しないスタッフ(医師,看護師,臨床試験コーディネーターなど以外)が割り付けと割り付け表の管理を行う.
臨床試験は臨床試験計画書を遵守して実施し,計画の変更が生じる場合は,倫理審査委員会で再度審査を受ける必要がある.検査日は通常4週ごとに設定し,検査時間は通常午前中の空腹時としている.試験期間中,被験者には試験食品の摂取の有無,試験期間中の遵守違反事項の有無,体調の変化や医薬品の服用などについて,日誌に毎日記入してもらう.被験者の試験期間中の生活習慣は試験結果に大きく影響を及ぼすため,試験期間中は食生活や運動習慣を変えないこと,日誌は正確に記入することを被験者に十分説明する.
また試験期間中は,臨床検査値の確認や有害事象の確認を行い,被験者の自覚症状や,臨床所見,臨床検査値や症状の経過などの情報を十分に収集し,有害事象報告書に記録する.
医師,看護師,臨床試験コーディネーターなどで症例検討会を開催し,検査結果,問診や日誌の内容をもとに,外れ値や有害事象の確認を行う.また組み入れ基準から逸脱している被験者や重大な遵守事項違反をした被験者を確認し,組み入れ基準に適合した対象集団で解析(protocol per set解析)をする場合は,解析除外者の判定を行う.解析除外者の判定は,効果の判定に都合の悪い被験者(たとえば,被験食品を摂取したが改善していない被験者)を恣意的に除外し,誤った解析結果を導かないようにするため,必ず割り付けリストの開示前に行う.
検査データを固定し,統計解析方法も確定したのちに,割り付けリストを開示して解析を開始する.解析では,主要評価項目や評価時点が複数ある場合には多重性を考慮した検定を行うことが望ましい.なお報告書については,臨床試験(ランダム化比較試験)の報告書作成の基準となっている「COSORT(Consolidated Standards of Reporting Trials:臨床試験報告に関する統合基準)声明」に従い作成する.
さまざまな機能性食品に関する情報が氾濫しているわが国において,消費者が自分に相応しい機能性食品を自ら選択するための情報を正確に提供することは生産者,食品企業,食品研究者の責務である.そして科学的根拠構築のための臨床試験の実施は必要不可欠であると言える.さらに臨床試験の結果をin vitro試験やin vivo試験に還元することで,食品基礎研究の質の向上にも貢献できると考える.
しかしながら食品は多成分を含有していることから機能性や安全性の評価が難しく,食品の効果を正確に評価できる指標も十分に検討されていない.今後,食品基礎研究者の臨床試験への参画が活発になることで,機能性食品のエビデンスの蓄積と食品の臨床試験の標準化が進むことを期待する.
Reference
1) 公益財団法人 日本健康・栄養食品協会編:平成28年度農林水産省食産業における機能性農産物活用促進事業機能性表示食品—届出資料作成の手引書—,http://www.jhnfa.org/tebiki.pdf, 2016.
2) 西村三恵,西平 順:日本病院薬剤師会雑誌,54, 291 (2018).
3) 国立健康・栄養研究所:「健康食品」の安全性・有効性情報,http://hfnet.nih.go.jp/contents/indiv.html, 2018.
4) 日本医師会,日本薬剤師会,日本歯科医師会:健康食品・サプリメント[成分]のすべて2017ナチュラルメディシン・データベース,(一社)日本健康食品・サプリメント情報センター,2017
5) 消費者庁:特定保健用食品申請に係る申請書作成上の留意事項,http://www.caa.go.jp/foods/pdf/syokuhin1347.pdf, 2015.
6) 文部科学省・厚生労働省:「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」, http://www.lifescience.mext.go.jp/files/pdf/n1443_01.pdf, 2014.
7) 大橋靖雄,荒川義弘,臨床試験の進み方,南江堂,2006.
8) 消費者庁:機能性表示食品制度における臨床試験および安全性の評価内容の実態把握の検証・調査事業報告書,http://www.caa.go.jp/foods/pdf/foods_index_23_171025_0001.pdf, 2017.