セミナー室

疎水性タグを用いた液相ペプチド合成とその応用展開“トレードオフ”からの脱却を実現する次世代型の医薬品候補化合物の合成

岡田 洋平

Yohei Okada

東京農工大学大学院工学研究院応用化学部門

千葉 一裕

Kazuhiro Chiba

東京農工大学大学院農学研究院応用生命化学部門

Published: 2018-07-20

慣習として,分子の大小は“高低”で表す.大きなものが“高分子”,小さなものが“低分子”である.両者の間に明確な線引きはないものの,一般的には分子量500程度までの化合物が低分子,数万以上の化合物が高分子といった認識ではないだろうか.農芸化学が広く研究の対象としてきたタンパク質,核酸,そして糖鎖はいずれも生体“高分子”であり,特に大きなものでは分子量が数百万にも及ぶ.一方で,低分子と高分子の境目にあたる分子量500から数千程度の化合物はいわば両者の中間のサイズであり,最近になってこれらを“中分子”と呼ぶことが定着してきた.この用語は主として創薬研究の分野で用いられているものであり,従来の低分子医薬および近年研究開発が盛んな抗体(高分子)医薬に対する第三の医薬品候補化合物群として大きな注目を集めている.現在では有機化学の発展によって低分子医薬であれば(ほぼ)自由自在な分子設計・合成が可能であり,このような化学合成技術は医薬品の大量供給にも貢献している.しかしながら,医薬品とはそもそも生体高分子との相互作用によって活性を発現することが期待される化合物であり,コンホメーションの自由度に乏しい低分子では“選択性”に限界があることは明白である.一方で,抗原に合わせてオーダーメイドかつ三次元的に作られた抗体であれば,低分子医薬と比べてその作用に圧倒的な“特異性”が得られる.しかしながら,分子量が数十万ともなるともはや有機化学の手におえるものではなく,製造には遺伝子工学的な手法が必須となる.詳しくは後述するが,遺伝子工学的な手法では分子の構造をチューニングすることは困難である.加えて抗体はタンパク質であるために消化酵素による分解が避けられず,注射薬に限定されてしまう.このような低分子医薬および抗体医薬の特性はそれぞれの分子量に起因するものが多いことから,両者の中間である中分子を創薬候補とすることで低分子と抗体の利点を併せ持つ次世代の医薬品となることが期待できる,という発想である.そして創薬研究における中分子とは,具体的には“小さな”生体高分子,すなわちペプチド,核酸,そして糖(およびこれらの複合体・誘導体)であることが多い.“小さなタンパク質”を意味するペプチドに対して核酸と糖は分子サイズに関する情報を含んでいないが,ここで対象としているのはあくまでも分子量500から数千程度のオリゴマーまでであって,いわゆるポリマーではない.いずれの中分子もアミノ酸,ヌクレオチド,そして単糖というモノマー単位の繰り返しであるため化学合成における基本戦略にも共通点が多いが,ここからは筆者らが特に研究開発を進めてきたペプチドに焦点を当てて話を進めたい.

そもそも抗体がタンパク質であることを踏まえると,“小さなタンパク質”であるペプチドが抗体ミミックとして中分子創薬の有力な候補化合物となることは理解しやすい.現に,インスリンに代表されるホルモンのように特異的な生物活性のあるペプチドはこれまでに数多く天然から単離されており,すでに医薬品として用いられているものも存在する.しかしながら技術上の課題のために,これまでに実用化されたペプチド医薬の例は限られているのが実情である.低分子における新薬開発は,リードとなる化合物を選定し徹底的に誘導体や類縁体を合成したうえで,より活性の優れたものを求めてスクリーニングをかけることから始まる.この過程において,有機化学の力が必要不可欠となる.ペプチドにおいても基本的に同様のアプローチで新薬開発を進めたいところだが,そのためには誘導体や類縁体を化学合成する技術が求められる.この際,たとえばリードとなる化合物が天然由来のペプチドであれば,そのもの自体を遺伝子工学的な手法で作ることができる.アミノ酸がすべて天然型のものであれば,配列を入れ替えたものであっても同様の手法で対応可能だろう.しかしながら,天然には存在しない“非天然型”のアミノ酸を組み込んだり,あるいは分子内に架橋を採り入れて環状構造を作ったりするとなると,やはり有機化学を基盤とする化学合成の技術が必要となる.これらの化学修飾によって,天然型のアミノ酸のみから構成される鎖状ペプチドでは発現することができない高い活性や消化酵素に対する耐性を獲得できることが知られており,ペプチド創薬において極めて重要な技術となっている.このような背景を踏まえ,以下ではペプチドの化学合成の歴史と現在について筆者ら自身の研究を含め概説したい.

天然ではアミノ酸がアミノ基側(N末端)からカルボキシ基側(C末端)へと順次つなぎ合わされることでペプチド(タンパク質)が合成されるが,人工的にはこの逆,すなわちC末端からN末端へと合成を進める(図1図1■ペプチド化学合成法の概略).これは天然がリボソームを中心とした精緻な合成システムを有しているのに対して,人工的には縮合剤と呼ばれるカルボキシ基の活性化剤を必要とすることと関係している.カルボン酸とアミンを互いに混ぜているだけではペプチド結合を形成しにくいため,カルボン酸の反応性を高めることで迅速かつ効率的な反応を可能にするのである.しかしながら,アミノ酸Bのカルボキシ基を活性化してアミノ酸Aのアミノ基とペプチド結合を作ろうとすると,実際にはアミノ酸B同士で反応してしまったものもできてしまう.これは,活性化されたアミノ酸Bのカルボキシ基にとって反応する相手は単に“アミノ基”であって,それがアミノ酸Bのものかアミノ酸Aのものか見分けることができないためである.そこでこの場合には,あらかじめアミノ酸Bのアミノ基が反応しないようにこれを保護しておく必要がある.ペプチドの実用的な化学合成を可能にしたのは,まずはアミノ基の保護基として1970年にCarpinoらによって9-フルオレニルメチルカルボニル(Fmoc)基が開発されたことが大きい(1)1) L. A. Carpino & G. Y. Han: J. Am. Chem. Soc., 92, 5748 (1970)..Fmoc基で保護されたアミノ基は活性化されたカルボキシ基とは反応しなくなり,役目を終えたFmoc基はピぺリジンなどの弱い塩基で処理することによって容易に取り外す(脱保護)することができる.すなわちアミノ基がFmoc基で保護されたアミノ酸Bのカルボキシ基を縮合剤で活性化してアミノ酸Aのアミノ基へとペプチド結合でつなぎ(縮合),アミノ酸BのFmoc基を脱保護した後に同様の手順でアミノ酸Cを縮合するという流れである.縮合と脱保護というたった2つの反応を繰り返していくことによって,原理的にはどのようなアミノ酸配列を有するペプチドの合成でも可能となる.開発から実に半世紀近くが経過した現在であってもFmoc基がペプチド化学合成における保護基のファーストチョイスであることから,その完成度の高さがうかがえる.一方で縮合剤については依然として研究開発が進められており,現時点では2009年にAlbericio, El-Fahamらによって開発されたCOMUと呼ばれるものが機能面・実用面ともに評価が高いようだ(2)2) A. El-Faham, R. S. Funosas, R. Prohens & F. Albericio: Chemistry, 15, 9404 (2009)..一般的に,化学合成の実用性は反応とプロセスの掛け算で決まる.すなわち,反応そのものがほぼ確立されているペプチドに関してはプロセス開発が重要となる.特に中分子創薬という観点でペプチドの化学合成を考えた場合には,(1)ライブラリーを構築し所望の活性を有する配列をスクリーニングし,(2)配列の決まった候補化合物を大量供給する,という異なる2つのステージを分けて考える必要がある.以下では,筆者らが研究開発を進めてきた手法を含め,後者に焦点を当てて紹介したい.

図1■ペプチド化学合成法の概略

1963年にMerrifieldによって考案されて以来(3)3) R. B. Merrifield: J. Am. Chem. Soc., 85, 2149 (1963)..固相法と呼ばれる手法がペプチド化学合成を席捲してきた.これは不溶性のポリマーを担体として用い,担体上で順次アミノ酸をC末端からN末端へとつなぎ合わせていく手法である.担体が結合していない余剰のアミノ酸や縮合剤などの試薬は可溶性であるため,反応終了後にはこれを適切な溶媒を用いて洗い流すことができる.すなわち,化学合成における一般的な分離精製法である再結晶やカラムクロマトグラフィーなどの操作を挟まずに多段階反応が実現可能となる.この方法の圧倒的な強みはまさに分離精製操作の簡便さであり,現在ではこの技術を活かした自動合成装置が広く普及している.ペプチドの化学合成と固相法をセットにして考えている研究者も多いだろう.しかしながら固相法における分離精製操作は担体が結合していない余剰の試薬を洗い流すだけであるから,裏を返せば担体が結合しているものについてはたとえ副生成物であっても除くことはできない.アミノ酸をABC…と順につなげていった場合に,たとえばDを飛ばしてしまったABCE体(欠損)やCが2回繰り返されてしまったABCC体(ダブルヒット)などが生じたとしても,これらはそのまま後続反応に引き継がれてしまう.最終的に得られる目的生成物と物性・極性が僅かに異なるだけの副生成物となってしまうため,分離精製が非常に困難となる.このような僅かな構造のエラーは検出そのものも難しい場合が多く,またペプチドを医薬品候補として考えるうえで純度の低下は大きな問題となってしまう.加えて,化学反応が分子同士の衝突を基本としている以上,基質となる分子が不溶性の担体上につながれて(運動を制限されて)いる条件では効率が落ちてしまうことは避けられない.このような固相法の技術的な課題はポリマー担体の進化やマイクロウェーブの導入などによって大きく改善されてきてはいるものの,より純度の高いペプチドを効率的に作るということに関しては,用いるすべての分子が均一に溶解した通常の液相法に利があると言って差し支えないだろう.何より基質や目的生成物が溶解していることで核磁気共鳴や質量分析などといった有機化学者にとって馴染み深い分析装置が使え,薄層クロマトグラフィーによって反応の追跡ができることも大きな魅力である.しかしながら,言うまでもなく液相法においては分離精製操作が課題となる.以上のような固相法,液相法それぞれの利点および課題を踏まえると,反応そのものは液相法で実施しつつ固相法のような分離精製操作が可能となれば,両者の利点を併せもつ新たなペプチド合成法となることが期待される.これが“可溶性の担体を用いる液相法”であり,コンセプトとしては1965年にはShemyakinらによってポリスチレン担体を用いた例(4)4) M. M. Shemyakin, Y. A. Ovchinnikov, A. A. Kinyushkin & I. V. Kozhevnikova: Tetrahedron Lett., 6, 2323 (1965).が,1971年にはBayerらによってポリエチレングリコール担体を用いた例(5)5) D.-C. M. Mutter, H. Hagenmaier & E. Bayer: Angew. Chem. Int. Ed. Engl., 10, 811 (1971).がそれぞれ報告されている.これらはいずれも固相法における不溶性のポリマー担体を可溶性に変えるという戦略であり,いわば固相法サイドからのアプローチと言える.言い換えれば,溶けない担体をいかにして溶かすか,という発想に基づいている.特にポリエチレングリコールを可溶性の担体として用いた液相法によるペプチドの化学合成は,1995年以降Jandaらによって精力的に研究が進められた(6)6) H. Han, M. M. Wolfe, S. Brenner & K. D. Janda: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92, 6419 (1995)..これはポリエチレングリコール担体が結合したペプチド(アミノ酸)を溶かす良溶媒中で均一な液相反応を実施し,反応終了後に貧溶媒を添加することで担体が結合した目的生成物を沈殿として固相のように回収する手法である.ここに固相法と液相法の利点を併せ持つ新たなペプチド合成法が構築されたわけだが,この手法が実用性の面で課題を残していたことも事実である.特に挙げるとすれば,ポリエチレングリコールにはペプチド(アミノ酸)を取り付ける反応点が2つしかないため担体の分子量に対して生産性が低いこと,そしてポリエチレングリコールの溶解・沈殿状態の制御が不十分であることである.後者に関しては,たとえ各段階での回収率が90%であったとしても,僅か5つのアミノ酸をつなげただけでその回収率は40%を下回ってしまうことを意味する.一方で,ペプチド合成に用いられるアミノ酸や縮合剤などの試薬は,いずれも相対的に極性の高い化合物である.したがって反応終了後に余剰の試薬類を効率的に洗い流すためには,高極性の溶媒を用いることが望ましい.これは言い換えれば,疎水性の担体を用いることで担体が結合したペプチド(アミノ酸)と余剰の試薬類を溶解性の差で分離できることを示唆している.先に示したポリエチレングリコールは極性の高いポリマーであったので,この手法を改良するために今度は疎水性の高い化合物を可溶性の担体として用いることが考えられる.担体の分子量に対する生産性を向上させるためにも,その構造は可能な限り小さなものであることが望ましい.“疎水性の低分子を可溶性の担体として用いる液相法”については,たとえば1995年にHindsgaulらによって(7)7) O. Kanie, F. Barresi, Y. Ding, J. Labbe, A. Otter, L. S. Forsberg, B. Ernst & O. Hindsgaul: Angew. Chem. Int. Ed. Engl., 34, 2720 (1995).,2005年にはRademannらによって(8)8) J. Bauer & J. Rademann: J. Am. Chem. Soc., 127, 7296 (2005).,主として糖鎖合成において報告されている.このような背景を踏まえて,筆者らはペプチド合成に特化した新たな可溶性の担体として,(1)合成が容易な疎水性の低分子化合物であること,および(2)固相法で確立された反応をそのまま適用できることを条件に考えた.これらの条件をクリアする化合物として選ばれたのが,疎水性のベンジルアルコール類であり,タイトルにもあるように以下“疎水性タグ”と呼ぶ(図2図2■疎水性タグの構造とタグを用いた液相ペプチド合成法の概略).(1)の条件を踏まえて,まずは安価に入手可能な没食子酸由来の3,4,5-三置換ベンジルアルコール1を,天然に広く見られるオクタデシル(C18)基で疎水化した.ベンジルアルコール部位に一つ目のアミノ酸のC末端を取り付け,これを起点として順次目的とする配列をつなぎ合わせていく.この化合物を担体として用いるペプチドの液相合成については2001年に民秋らによって報告されており(9)9) H. Tamiaki, T. Obata, Y. Azefu & K. Toma: Bull. Chem. Soc. Jpn., 74, 733 (2001).,彼らは担体が結合したペプチドを通常のシリカゲルカラムクロマトグラフィーやサイズ排除クロマトグラフィーによって精製している.筆者らはまず疎水性タグ1を“シクロヘキサン相溶二層系”と組み合わせ,簡単なペプチドの合成を報告した(10)10) K. Chiba, Y. Kono, S. Kim, K. Nishimoto, Y. Kitano & M. Tada: Chem. Commun., 1766 (2002)..この溶媒系では僅かな温度変化によってシクロヘキサンと汎用性の高い極性有機溶媒が,相溶状態と相分離状態(二層状態)を繰り返す.すなわち反応を均一な相溶状態で実施した後,担体が結合したペプチド(アミノ酸)だけを上層のシクロヘキサン(油)層に釣り上げ余剰の試薬類を下層の高極性溶媒層に落として洗い流す手法である.“ドレッシングの油層は味がしない(食塩が抽出されない)”という極めてシンプルな化学に基づく液液抽出のみによって,効率的な液相ペプチド合成を実現した.しかしながら,この手法もすぐにポリエチレングリコール担体と同様の課題に直面した.疎水性タグ1が低分子であったため,ペプチド鎖が長くなるにつれてその極性の高さに引っ張られてしまい,タグが結合した生成物も下層に逃げてしまうのである.この課題は結果的に,“固相法と液相法の利点を併せ持つ”という発想に立ち返ることで解決された.前述したポリエチレングリコールが“溶けない担体をいかにして溶かすか”という視点に立っていたのに対し,ここでは逆に“溶けている担体をいかにして沈殿させるか”という発想である.幸い,担体が結合したペプチド(アミノ酸)と反応に必要な試薬がいずれもテトラヒドロフランやジクロロメタンといった汎用性の高い溶媒に可溶である一方,担体が結合した目的生成物の高極性溶媒への溶解性が予想以上に低いことが見いだされた.そこで液液抽出ではなく,反応終了後にメタノールやアセトニトリルなどを過剰に添加することで担体に結合した目的生成物を選択的に沈殿させる固液抽出の手法に切り替えることとした(11)11) K. Chiba, M. Sugihara, K. Yoshida, Y. Mikami & S. Kim: Tetrahedron, 65, 8014 (2009)..得られた沈殿を適切な溶媒で洗い流すことで,あたかも固相のような分離精製が可能となる.これらの技術開発によって,半世紀以上前に提案された“可溶性の担体を用いる液相法”というコンセプトを実用化に耐えうるレベルで実現することができたと考えている.

図2■疎水性タグの構造とタグを用いた液相ペプチド合成法の概略

新たな可溶性の担体の設計・合成に際して,疎水性を稼ぐ目的での没食子酸由来のベンジルアルコールの芳香環に長鎖アルキル基を導入したわけだが,両者を直接繋がずに間に酸素を挟んでいるのは単に合成上の都合である.担体に求められる条件(1)で挙げたように,合成が容易なものという観点から選定された構造に過ぎない.しかしながら,ここに酸素を挟んだことでアルキル基が電子供与性のアルコキシ基となり,結果的に担体としての機能を微調整することが可能となった.言うまでもなく目的のアミノ酸配列を有するペプチドの合成が完了した際には,担体はその役割を終えペプチドから切り離される必要がある.これは固相法でも用いられる最終脱保護や全脱保護と呼ばれる手順であり,一般的にはトリフルオロ酢酸を中心とした強酸による処理を指す.この段階でペプチドを切り離せることは担体に求められる最低限の条件であるが,果たしてどの程度の強さの酸が必要なのか,という点も重要となる.アミノ酸の配列によっては合成過程で酸による反応が必要になることもあるため,担体があまりに切れやすい場合には,目的とするペプチドの合成完了を待たずに意図しないタイミングで切れてしまうことが懸念される.そうは言っても担体があまりに切れにくい場合には,肝心な最終段階において「切れない」という事態が発生してしまう.このような酸に対する反応性は,上述したアルコキシ基の数と位置を制御することで微調整することができる(12)12) G. Tana, S. Kitada, S. Fujita, Y. Okada, S. Kim & K. Chiba: Chem. Commun., 46, 8219 (2010)..これは大学の学部一年で習うような非常に基礎的な有機化学ではあるものの,担体の機能・性能に与える影響は当初の想像を超えるものであった.いずれの担体も酸処理によってペプチドを切り離した際にはベンジルカチオンと呼ばれる中間体を生じ,この中間体が引き起こす後続化学反応によって特異な発色(13)13) Y. Okada, H. Wakamatsu, M. Sugai, E. I. Kauppinen & K. Chiba: Org. Lett., 17, 4264 (2015).や発光(14)14) H. Wakamatsu, Y. Okada, M. Sugai, S. R. Hussaini & K. Chiba: Asian J. Org. Chem., 6, 1584 (2017).を示すことも見いだしている.このようにして開発した各種疎水性タグを目的とするアミノ酸配列に応じて使い分けることで,たとえば図3図3■これまでに合成したペプチドの例に示すような生物活性ペプチドの効率的な化学合成を達成してきた(15)15) Y. Okada, H. Suzuki, T. Nakae, S. Fujita, H. Abe, K. Nagano, T. Yamada, N. Ebata, S. Kim & K. Chiba: J. Org. Chem., 78, 320 (2013)..いずれのペプチドにおいても途中段階で再結晶やカラムクロマトグラフィーなどの操作を挟まずに,連続的な多段階反応が実現可能である.

図3■これまでに合成したペプチドの例

本稿で紹介してきたように,現在の創薬研究では低分子と高分子の利点を併せ持つ中分子が一大ターゲットとなっている.特に可溶性の担体を用いるというアプローチによって,合成法についても固相法と液相法の利点を併せ持つことが達成された.同様のコンセプトに基づく手法はAJIPHASE法として高橋らによっても研究開発が進められており(16)16) D. Takahashi & T. Yamamoto: Tetrahedron Lett., 53, 1936 (2012).,実用化レベルでペプチドの大量供給を可能にするためには今後はコスト面も大きな課題となっていくことだろう.先に述べたように,創薬という観点でペプチドの化学合成を考えた場合には,配列の決まった候補化合物を大量供給するだけでなく,ライブラリーを構築し所望の活性を有する配列をスクリーニングしなければならない.“限られた物質量で構わないからまずはたくさんの種類を作る”ということに関してはまだまだ固相法に利があり,“特殊ペプチド”を含めたスクリーニング技術であれば菅らによって開発されたRaPID法が圧倒的なパフォーマンスを見せている(17)17) C. J. Hipolito & H. Suga: Curr. Opin. Chem. Biol., 16, 196 (2012)..それぞれの技術について得手不得手があると言え,単一の技術でスクリーニングから大量供給までを実現することは今のところ困難である.ペプチドの化学合成に必須となる縮合剤についても,現時点ではCOMUが“暫定一位”の座に就いているかもしれないが,自然界に学べば縮合剤を使わない手法こそが理想であろう.ペプチド創薬を加速するためには,反応・スクリーニング・大量供給,すべての技術にますますの発展が期待される.

Reference

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10) K. Chiba, Y. Kono, S. Kim, K. Nishimoto, Y. Kitano & M. Tada: Chem. Commun., 1766 (2002).

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13) Y. Okada, H. Wakamatsu, M. Sugai, E. I. Kauppinen & K. Chiba: Org. Lett., 17, 4264 (2015).

14) H. Wakamatsu, Y. Okada, M. Sugai, S. R. Hussaini & K. Chiba: Asian J. Org. Chem., 6, 1584 (2017).

15) Y. Okada, H. Suzuki, T. Nakae, S. Fujita, H. Abe, K. Nagano, T. Yamada, N. Ebata, S. Kim & K. Chiba: J. Org. Chem., 78, 320 (2013).

16) D. Takahashi & T. Yamamoto: Tetrahedron Lett., 53, 1936 (2012).

17) C. J. Hipolito & H. Suga: Curr. Opin. Chem. Biol., 16, 196 (2012).