解説

擬似基質による酵素の誤作動を利用する基質特異性変換酵素の勘違いを引き起こす分子の設計

Hydroxylation of Nonnative Substrates Utilizing Substrate Misrecognition of Cytochrome P450

Osami Shoji

荘司 長三

名古屋大学

Published: 2018-08-20

酵素の基質特異性を変換するためには、変異導入による酵素自体の改変が一般的であるが、標的基質に形を似せた「擬似基質」(デコイ分子)を酵素に取り込ませると、標的基質とは構造が大きく異なる基質が野生型の酵素と反応するようになる。長鎖脂肪酸を水酸化するシトクロムP450BM3に、長鎖脂肪酸よりも分子の長さが短いカルボン酸をデコイ分子として取り込ませると、シトクロムP450BM3が標的基質を取り込んだと勘違いして誤作動を起こし、エタンやプロパンなどのガス状アルカンやベンゼンを水酸化できるようになる。

はじめに(シトクロムP450について)

シトクロムP450(P450)は,動物,昆虫,植物,微生物など生物界に広範に存在する金属酵素の一群で,ホルモンや色素の生合成,異物の解毒,薬剤の代謝など多岐にわたる機能を有する(1)1) 大村恒雄・石村 巽・藤井義明(編):“P450の分子生物学”,講談社サイエンティフィック,2009..P450は,三角形プリズム型の構造をしており,その中心にヘム(鉄ポルフィリン錯体)を補欠分子族として有するヘム酵素で(図1a図1■シトクロムP450BM3構造(a)とシトクロムP450の反応機構(b)),ヘムを活性中心として酸素分子を還元的に活性化することで,電子が2つ不足した強力な酸化活性種であるオキソフェリル(Fe4+=O)ポルフィリンπ-カチオンラジカル(Compound I)を生成し(図1b図1■シトクロムP450BM3構造(a)とシトクロムP450の反応機構(b)),不活性な有機化合物を水酸化することができる.常温・常圧の温和な反応条件下で不活性な有機基質を酸化することができるため,医薬のみならず触媒化学分野でも広く研究対象とされてきた.ヒトのゲノムにも57のP450遺伝子が存在するが,ヒトのP450の酸化活性は毎分数回転程度と低く,合成反応への利用は難しい.一方で,細菌由来のP450は,触媒活性が非常に高くバイオ触媒として有望であるが,基質に対する選択性が高いことが多く,本来の標的基質以外の分子に対する酸化活性が極端に低くなるため,合成反応に利用するには,基質特異性を変換する必要がある.基質に対する選択性の高さは,P450の酸化活性種の生成機構に起因している.簡単に言うと,P450では,鍵と鍵穴の関係が,酸化活性種の生成に直接に結び付けられているので,基質の構造が基質結合部位の構造に合致しない場合には,酸化活性種が生成されないように設計されていて,標的分子以外とは反応しないような仕組みになっている.したがって,基質結合部位の構造を変異導入によって改変すれば,標的基質以外を酸化できるようになるため,基質の選択性を変換するための変異導入が繰り返されてきた.P450が発見されてから50年余り,変異導入以外に基質特異性を変える方法はないと錯覚させるほど数々の成果が報告された.しかしながら,変異導入を繰り返す手法は,必ずしも目的の変異体が得られる保証もないだけでなく,基質特異性変換の新しい手法の開発機運を削ぎ,新たな基質変換手法が開発されない長い空白期間を形成した.そのような状況の中,酸化活性種の形成を促進するが,それ自体は酸化の対象とはならないような擬似基質(デコイ分子)を用いれば,変異導入を行わなくても野生型P450をそのまま用いてさまざまな反応を行うことができるのではないかと考え,ガス状アルカンやベンゼンの直接水酸化といった高難度酸化反応を行うことが可能な擬似基質を用いたバイオ触媒の開発を目指して研究を進めた.

図1■シトクロムP450BM3構造(a)とシトクロムP450の反応機構(b)

シトクロムP450BM3による長鎖脂肪酸の水酸化反応(c)(上段)とパーフルオロアルキルカルボン酸(擬似基質)存在下でのエタンの水酸化反応(下段).

シトクロムP450BM3:長鎖脂肪酸水酸化酵素

P450BM3は,巨大菌(Bacillus megaterium)由来の長鎖脂肪酸水酸化酵素であり,パルミチン酸やアラキドン酸などの長鎖脂肪酸のアルキル鎖末端部分を水酸化するP450である(図1c図1■シトクロムP450BM3構造(a)とシトクロムP450の反応機構(b)上段).酵素活性が非常に高く,酸化活性種を最大で毎分1万5千回転で生成するため,バイオ触媒としての利用が早くから期待されてきた.酸素分子を還元的に活性化する酸化活性種生成には,還元タンパク質を介するNADPHからの電子供給が必要であり,長鎖脂肪酸の取り込みが反応を開始するスイッチになっている.長鎖脂肪酸が適切な位置に取り込まれた場合にのみ電子が供給されて酸化活性種を生成するように設計されている.長鎖脂肪酸と構造が大きく異なる有機分子では,P450BM3のスイッチは「ON」の状態とはならない仕掛けで反応が制御されているため,ガス状アルカンやベンゼンなどの長鎖脂肪酸以外の基質を水酸化しようとしても反応は全く進行しない.P450BM3に長鎖脂肪酸以外の基質を水酸化させるためには,長鎖脂肪酸が取り込まれる結合部位をアミノ酸置換によって改変し,長鎖脂肪酸以外の基質が取り込まれた場合にもスイッチが「ON」の状態になるようにする必要がある.変異導入によってP450BM3の基質結合部位を改変することが可能であり,P450BM3の基質選択性の変換においても,変異導入は効果的な手法として広く受け入れられている.たとえば,プロパンの取り込みのために基質結合部位を小さくした変異体がプロパンを水酸化可能にすることなどが報告されている(2)2) R. Fasan, M. M. Chen, N. C. Crook & F. H. Arnold: Angew. Chem. Int. Ed., 46, 8414 (2007)..変異導入法が効果的であることは疑う余地もないが,必ずしも目的の機能をもった変異体が得られるわけではないので,変異導入に頼らない手法も開発する必要がある.そこで,野生型P450BM3をそのまま用いて長鎖脂肪酸以外の基質を水酸化することができないかと考え続けて,パーフルオロアルキルカルボン酸を「擬似基質」として使う新しい概念の反応系を考案するに至った(3)3) N. Kawakami, O. Shoji & Y. Watanabe: Angew. Chem. Int. Ed., 50, 5315 (2011).

パーフルオロアルキルカルボン酸による誤作動誘起

前章で述べた「擬似基質」をP450BM3に取り込ませて,酸化活性種の生成反応を強制的にONの状態にすることができれば,長鎖脂肪酸と構造が大きく異なる分子でも水酸化できるはずだと考え,「擬似基質」として長鎖脂肪酸のすべての水素原子をフッ素原子に置き換えたパーフルオロアルキルカルボン酸を選んだ(図1c図1■シトクロムP450BM3構造(a)とシトクロムP450の反応機構(b)下段).C–F結合の共有結合距離は138 pmであり,C–H結合の108 pmに近く,パーフルオロアルキルカルボン酸の構造は長鎖脂肪酸に非常によく似たものになる.一方で,C–F結合はC–H結合よりも安定しており(結合解離エネルギー:C–F結合116 kcal/mol,C–H結合95–99 kcal/mol),P450BM3はC–F結合を水酸化することができない.したがって,パーフルオロアルキルカルボン酸はP450BM3に水酸化されない不活性な「偽の基質」と成り得る.さらに,P450BM3が酸化の対象とする炭素数16前後の長鎖脂肪酸よりも鎖長が短い一連のパーフルオロアルキルカルボン酸(炭素数8~12)を擬似基質として用いることで,擬似基質が結合した状態でも,活性部位に酸化される基質が同時に結合できる空間を確保できるであろうと考えた(図1c図1■シトクロムP450BM3構造(a)とシトクロムP450の反応機構(b)下段).パーフルオロアルキルカルボン酸を長鎖脂肪酸と勘違いしたP450BM3のスイッチは「ON」の状態になり,酸化活性種が生成されるが,パーフルオロアルキルカルボン酸は水酸化されないので,生成された酸化活性種は未反応のまま残されることになる.ここにガス状飽和炭化水素などを添加すると,それらが水酸化される.これが,P450BM3の誤作動を利用する第二の基質の水酸化反応系である(図1c図1■シトクロムP450BM3構造(a)とシトクロムP450の反応機構(b)下段).鎖長の異なる一連のPFCをP450BM3に取り込ませてプロパンの水酸化反応を行うと,炭素数が9~13のPFCの存在下でプロパンが水酸化され,2-プロパノールが得られた.擬似基質を添加しない場合には全く反応は進行しない.プロパンの水酸化では,炭素数10のパーフルオロデカン酸(PFC10)の場合に最大活性,毎分67回転を示した.ブタンやシクロヘキサンの場合も水酸化反応が進行し,対応するアルコールが得られ,PFC9が最大の活性を示した(3)3) N. Kawakami, O. Shoji & Y. Watanabe: Angew. Chem. Int. Ed., 50, 5315 (2011)..また,エタンガスの供給圧を5気圧に上げて反応を行うと,毎分0.67回転で水酸化が進行する(4)4) N. Kawakami, O. Shoji & Y. Watanabe: Chem. Sci. (Camb.), 4, 2344 (2013)..さらに,ベンゼンを基質とすると毎分120回転の速さでフェノールに変換できることも見いだした(5)5) O. Shoji, T. Kunimatsu, N. Kawakami & Y. Watanabe: Angew. Chem. Int. Ed., 52, 6606 (2013)..フェノールは,医薬品や合成高分子,顔料の原料として広く使用されている化合物であり,ベンゼンを出発原料としてクメン法により工業的に合成されている.クメン法は,高温・高圧の反応条件が必要であるだけでなく,副生成物として多量のアセトンを生成してしまうため,ベンゼンの直接的な水酸化反応系の開発が進められてきた.ベンゼンの直接的な酸化においては,生成物のフェノールがベンゼンよりも酸化されやすく,フェノールの過剰酸化反応をいかにして抑制するかが重要である.新しく開発したP450BM3と擬似基質を用いる反応系においては,常温・常圧の温和な反応条件で反応が進行し,フェノールを選択的に得ることができるため,理想的な反応系であると言える.

第二世代擬似基質

長鎖脂肪酸の水酸化に比べると擬似基質存在下でのガス状アルカンやベンゼンの水酸化活性は低く,P450BM3の酸化活性を十分に引き出すことができていなかった.擬似基質を用いる触媒反応は,擬似基質の構造によりその酸化活性が大きく変化するため,新規擬似基質を設計することで,反応システムの更なる高活性化が実現できると考えた.パルミチン酸のカルボキシル基がグリシンで修飾されたN-パルミトイルグリシンは,P450BM3により強く結合し,より高効率に水酸化されることが報告されている.そこで,パーフルオロアルキルカルボン酸のカルボキシル基をアミノ酸で修飾した第二世代の擬似基質を設計・合成した(図2図2■擬似基質の構造).パーフルオロカルボン酸のカルボキシル基をアミノ酸で修飾することで活性は大幅に向上した.なかでも,パーフルオロノナン酸をロイシンで修飾したPFC9-L-Trpが最も高い酸化活性を示し,プロパンの水酸化は毎分256回転で進行することを明らかにした(6)6) Z. Cong, O. Shoji, C. Kasai, N. Kawakami, H. Sugimoto, Y. Shiro & Y. Watanabe: ACS Catal., 5, 150 (2015)..さらに,パーフルオロノナン酸をトリプトファンで修飾したPFC9-L-Trp結合型P450BM3の結晶構造解析にも成功し,PFC9-L-Leuが多点の水素結合によってP450BM3の基質結合部位に固定化され,パーフルオロアルキル鎖の末端は,活性部位には届いていないことを実証した(図3図3■第二世代擬似基質のPFC9-Trpを結合したシトクロムP450BM3の結晶構造).また,第二世代の擬似基質は,小分子アルカンの水酸化活性の向上を目的に開発されたKT2と名付けられている変異体(A191T/N239H/I259V/A276T/L353I)(7)7) S. Dezvarei, H. Onoda, O. Shoji, Y. Watanabe & S. G. Bell: J. Inorg. Biochem., 183, 137 (2018).にも有効に機能することがわかった.シクロヘキサンの水酸化活性が,野生型では0.3±0.1 min−1,KT2では70±2.7 min−1であるのに対して,KT2変異体に第二世代擬似基質(PFC9-L-Phe)を添加すると,野生型の約4,800倍の1430±80 min−1まで高活性化でき,基質によっては野生型の8,000倍の活性を示す.変異導入と併用することで,これまでは不可能であった非常に活性の高いバイオ触媒の開発が可能になった.

図2■擬似基質の構造

図3■第二世代擬似基質のPFC9-Trpを結合したシトクロムP450BM3の結晶構造

a)全体構造.b)基質結合部位と活性部位の構造.文献6より改変.

フッ素原子をもたない第三世代擬似基質

第一世代擬似基質のパーフルオロノナン酸(PFC9)が擬似基質として機能するのに対して,ノナン酸(C9)などのアルキルカルボン酸は擬似基質としては全く機能しなかったことから,擬似基質として機能させるのにフッ素原子が不可欠と思い込んで研究を進めていたため,パーフルオロアルキルカルボン酸以外のフッ素を含まないカルボン酸を擬似基質として用いようとは考えもしなかった.ところが,パーフルオロノナン酸をトリプトファンで修飾したPFC9-L-TrpとP450BM3複合体の結晶構造解析では(図3図3■第二世代擬似基質のPFC9-Trpを結合したシトクロムP450BM3の結晶構造),カルボキシル基をアミノ酸で修飾した場合には,アルキル鎖の末端が活性部位のヘムの鉄原子から十分に離れており,フッ素原子で置換しなくとも,P450BM3によって水酸化されることはないのではないかと考えるようになった.そこで,ノナン酸(C9)などのアルキルカルボン酸のカルボキシル基をアミノ酸で修飾した第三世代の擬似基質を合成し,ベンゼンの水酸化活性を調べたところ,フッ素原子を含まない第三世代擬似基質もP450BM3を活性化し,第二世代擬似基質よりも高い酸化活性を示した(8)8) O. Shoji, S. Yanagisawa, J. K. Stanfield, K. Suzuki, Z. Cong, H. Sugimoto, Y. Shiro & Y. Watanabe: Angew. Chem. Int. Ed., 56, 10324 (2017).図4図4■第三世代擬似基質の構造とベンゼン水酸化活性).擬似基質としての機能にフッ素原子は必ずしも必要ではないことがわかったため,非常に多くのカルボン酸を擬似基質の構成要素として利用できるようになった.そこで,解熱鎮痛薬のイブプロフェンなどのカルボン酸のカルボキシル基をフェニルアラニンで修飾した擬似基質や,フェニルアラニンとアミノ基をZ基(ベンジルオキシカルボニル基)やアルキル基で保護したプロリンを連結した二量体などの少し変わった骨格の擬似基質を合成して,構造と酸化活性の関連を調べた.第三世代擬似基質では,フェニルアラニンとプロリンを連結した二量体にアルキル鎖を修飾したC7-Pro-Phe(図4図4■第三世代擬似基質の構造とベンゼン水酸化活性)が高い酸化活性を示し,ベンゼンの場合は毎分259回転で水酸化され,P450BM3一分子当たり4万回転を超える触媒活性を示した.さらに結晶構造解析により,第三世代擬似基質のZ-Pro-Pheが長鎖脂肪酸と同じ基質結合部位に取り込まれ,基質結合部位入口での多点水素結合によって,末端が活性部位から十分に離れた位置で固定化されていることを明らかにした(図5a図5■第三世代擬似基質のZ-Pro-Pheを結合したシトクロムP450BM3の基質結合部位の結晶構造(a)と,ベンゼンのドッキングシミュレーション(b)).また,X線結晶構造解析を基にしたドッキングシミュレーションにより,ベンゼン一分子を収容可能なスペースがP450BM3のヘム上方に形成されていることを確認した(図5b図5■第三世代擬似基質のZ-Pro-Pheを結合したシトクロムP450BM3の基質結合部位の結晶構造(a)と,ベンゼンのドッキングシミュレーション(b)).

図4■第三世代擬似基質の構造とベンゼン水酸化活性

図5■第三世代擬似基質のZ-Pro-Pheを結合したシトクロムP450BM3の基質結合部位の結晶構造(a)と,ベンゼンのドッキングシミュレーション(b)

文献8より改変.

擬似基質を用いるP450BM3による酸化反応では,取り込ませる擬似基質の構造の違いにより,酸化活性だけでなく位置・立体選択性が変化する.第三世代擬似基質の構造多様性を,擬似基質の構造の違いによる立体選択性の制御に利用できるのではないかと考え,第三世代擬似基質存在下で,インダンのベンジル位の水酸化を試みた.その結果,インダンのベンジル位水酸化の立体選択性は,擬似基質の構造の違いによって大きく変化した.Z-Pro-Phe(図4図4■第三世代擬似基質の構造とベンゼン水酸化活性)を添加すると,インダン水酸化生成物が56%(S)eeで得られ,5CHVA-Phe(図4図4■第三世代擬似基質の構造とベンゼン水酸化活性)を添加すると,立体選択性が(R)へと反転し,R体の生成物が53% eeで得られた(9)9) K. Suzuki, J. K. Stanfield, O. Shoji, S. Yanagisawa, H. Sugimoto, Y. Shiro & Y. Watanabe: Catal. Sci. Technol., 7, 3332 (2017)..さらに,擬似基質を結合したP450BM3のX線結晶構造解析を基にしたドッキングシミュレーションにより,擬似基質の構造の違いが誘導適合によるタンパク質の全体構造に違いを誘起し,不斉選択性が変化することを明らかにしている.

おわりに

酵素の基質特異性の変換には,活性部位を構成するアミノ酸を,部位特異的変異導入やランダム変異導入により置換する手法が有効であり,酵素研究に大きく貢献してきたことは間違いないが,すぐに結果の出やすい変異導入に偏重した状況が,新規手法の開発を妨げてきたとも考えられる.今回紹介した擬似基質を用いる手法は,そのような状況に一石を投じる研究成果であると考えている.P450BM3の擬似基質は,それ自体は全く水酸化されない分子群であるため,対象基質ではないと判断されるに止まりそれ以上の研究はこれまで行われなかった.酵素に取り込まれるけれども酸化されない基質が,別の基質の反応を促進することがあるという長い間誰も気づかなかった事実に,不活性なフッ素原子を利用することで辿り着いた研究経緯は非常に面白いと思っている.擬似基質を用いる反応において,擬似基質の構造の違いが,基質選択性や反応活性だけでなく不斉選択性にも影響を与えるため,擬似基質をうまく設計することで,さまざまな反応を行う新たなバイオ触媒を開発することができる.原理的に,擬似基質を用いる手法はP450以外の酵素にも適用可能であり,新たなバイオ触媒系として確立していきたい.

Acknowledgments

本稿で紹介した研究成果は,名古屋大学の渡辺研究室での研究成果です.渡辺芳人先生に深く感謝いたします.また,博士研究員と学生諸氏,多くの共同研究者の方々,研究を支援いただいた方々に深く感謝いたします.本研究成果は,文部科学省科学研究費補助金「若手研究A」,新学術領域研究「直截的物質変換をめざした分子活性化法の開発」「高難度物質変換反応の開発を指向した精密制御反応場の創出」,科学技術振興機構CREST「多様な天然炭素資源の活用に資する革新的触媒と創出技術」の研究助成により行われました.この場を借りて感謝申し上げます.

Reference

1) 大村恒雄・石村 巽・藤井義明(編):“P450の分子生物学”,講談社サイエンティフィック,2009.

2) R. Fasan, M. M. Chen, N. C. Crook & F. H. Arnold: Angew. Chem. Int. Ed., 46, 8414 (2007).

3) N. Kawakami, O. Shoji & Y. Watanabe: Angew. Chem. Int. Ed., 50, 5315 (2011).

4) N. Kawakami, O. Shoji & Y. Watanabe: Chem. Sci. (Camb.), 4, 2344 (2013).

5) O. Shoji, T. Kunimatsu, N. Kawakami & Y. Watanabe: Angew. Chem. Int. Ed., 52, 6606 (2013).

6) Z. Cong, O. Shoji, C. Kasai, N. Kawakami, H. Sugimoto, Y. Shiro & Y. Watanabe: ACS Catal., 5, 150 (2015).

7) S. Dezvarei, H. Onoda, O. Shoji, Y. Watanabe & S. G. Bell: J. Inorg. Biochem., 183, 137 (2018).

8) O. Shoji, S. Yanagisawa, J. K. Stanfield, K. Suzuki, Z. Cong, H. Sugimoto, Y. Shiro & Y. Watanabe: Angew. Chem. Int. Ed., 56, 10324 (2017).

9) K. Suzuki, J. K. Stanfield, O. Shoji, S. Yanagisawa, H. Sugimoto, Y. Shiro & Y. Watanabe: Catal. Sci. Technol., 7, 3332 (2017).