Kagaku to Seibutsu 56(9): 627-634 (2018)
セミナー室
異常アミノ酸含有ペプチドの合成と応用異常アミノ酸の連結法
Published: 2018-08-20
© 2018 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2018 公益社団法人日本農芸化学会
ペプチドを生合成から分類すると,リボソーム系と非リボソーム系に分けられる.リボソーム系では20種類の正常タンパク性アミノ酸が構成成分であり,ホルモンを代表とするさまざまなペプチドが生合成される.これらの構造解析はエドマン分解やマーフィー法などさまざまな方法が汎用され,さらに現在では質量分析が強力なツールとして用いられている.化学合成もリボソーム系ペプチドの組立てを前提に考案され,進化を続けており,自動合成機が最も得意とするところである.これらを可能としているのは,タンパク性アミノ酸20種類とその誘導体(D-アミノ酸,N-Meアミノ酸など)に限定されているからであり,あらかじめ標準物質あるいはそれらのデータ(物性値・分光分析値)を用意できることが強みである.
一方で,非リボソーム系ペプチドは,一般に異常アミノ酸などと呼ばれる非タンパク性アミノ酸を含有する.異常アミノ酸は数多く存在し,さらに自由に設計できるためバラエティーが豊富であるが,その入手は一部を除いて化学合成に頼らざるを得ない.また,これらを含むペプチドには,SS架橋構造以外にもアミド結合,デプシ結合(エステル結合)による環状構造や分岐構造,さらにさまざまな修飾が施されていることが多い.そのため立体化学を含む構造解析は困難を極める.しかしながら,難消化性や広範な生物活性をもつものが多数発見され,医農薬品リード化合物として多くの化学者を魅了してきた.特に近年ではペプチドリーム社の特殊ペプチドが脚光を浴び,急速に注目が集まっている.そこで今回,代表的な異常アミノ酸含有ペプチドとその合成法について,筆者らの研究成果を交えながら紹介したい.
ペプチドアルデヒドはペプチドC末端カルボン酸がアルデヒドに置換されたものを指し,梅沢らによってplasminやpapainに対して強力な阻害能を有するleupeptin(1)1) T. Aoyagi, T. Takeuchi, A. Matsuzaki, K. Kawamura, S. Kondo, M. Hamada, K. Maeda & H. Umezawa: J. Antibiot. (Tokyo), 22, 283 (1969).,ならびにantipain(2)2) H. Suda, T. Aoyagi, M. Hamada, T. Takeuchi & H. Umezawa: J. Antibiot. (Tokyo), 25, 263 (1972).が単離され注目を浴びるようになった.C末端アルデヒドはプロテアーゼの遷移状態アナログとして活用できるため,その阻害剤として有用である.一方で,C末端アルデヒドとN末端アミンの縮合を経るライゲーションの試みや糖タンパク質の模倣物の合成に活用された例などが知られる(3)3) K. J. Jensen & J. Brask: J. Pept. Sci., 6, 290 (2000)..しかしながら,ペプチドアルデヒドの調製は単純な構造にもかかわらず容易ではない.アルデヒドは一般的に不安定なため,その変換は合成の終盤に行われる.アルデヒドへの変換法は大きく2つに分類できる.酸化あるいは還元による方法(酸化還元型)と,アセタールやセミカルバゾンから変換する方法(アルデヒド等価体型)である.上記,いずれの方法も簡便さから固相上での検討がなされている.
最も代表的な方法はWeinreb樹脂(4)4) J.-A. Fehrentz, M. Paris, A. Heitz, J. Velek, C.-F. Liu, F. Winternitz & J. Martinez: Tetrahedron Lett., 36, 7871 (1995).を用いたものであろう.本樹脂上で通常のペプチド合成を行い,LiAlH4などの還元剤で樹脂から切り出すことでペプチドアルデヒドを得る方法である.また,アルデヒド前駆体をオレフィンとして調製し,ペプチドの伸長後,オゾン分解を行うやり方(5)5) C. Pothion, M. Paris, A. Heitz, J. Velek, C.-F. Liu, F. Fehrentz & J. Martinez: Tetrahedron Lett., 38, 7749 (1997).もある.一方,アミノアルコールを樹脂に担持したのちにペプチドを伸長,樹脂からアルコールとして切断後,IBX試薬などで酸化しペプチドアルデヒドを得る方法がJungら(6)6) G. Sorg, B. Thern, O. Mader, J. Rademann & G. Jung: J. Pept. Sci., 11, 142 (2005).によって考案されている.これらの方法は比較的単純なペプチドには適用可能であるが,立体障害の大きな官能基を有するものや有機溶媒への溶解度が低いものなどではしばしば収率の低下を招く.また酸化剤や還元剤に弱い配列(官能基)をもつ場合には注意が必要となる(図1図1■酸化還元型によるペプチドアルデヒドの合成).
本方法はアミノ酸をいったんアミノアルデヒドにし,それをアセタール,セミカルバゾン,オキサゾリジンなどに変換後リンカーとして樹脂に担持する.そしてペプチド鎖の伸長後に樹脂からの切断を行う.この方法の特徴は,樹脂からの切り出しに,通常のペプチドの切り出しと同様TFAなどの強酸を使用できることである.そのため酸化還元法よりもリスクが少ない.欠点は設計したリンカーの合成が多段階になること,さらにそのペプチド鎖伸長時に不安定になりやすいことが挙げられる.
代表的な例を紹介する.Webbら(7)7) A. M. Murphy, R. Dagnino, P. L. Vallar, A. J. Trippe, S. L. Sherman, R. H. Lumpkin, S. Y. Tamura & T. R. Webb: J. Am. Chem. Soc., 114, 3156 (1992).はセミカルバゾンリンカーをヒドラジンから4工程で合成し,Boc-Arg(NO2)-Hを結合後,MBHA樹脂に担持した.ペプチドの伸長後,アルデヒドへの変換は酢酸/ギ酸で行っている.また,藤井ら(8)8) M. Tanaka, S. Oishi, H. Ohno & N. Fujii: Int. J. Pept. Res. Ther., 13, 271 (2007).はFmoc-Leu-Hから4工程でオキサゾリジンリンカーとして樹脂に担持し,ペプチド鎖伸長反応に用いている.樹脂からの切り出しとアルデヒドへの変換をTFA/thioanisol/m-cresol/H2Oという通常のペプチド合成と同様の方法で行い,良好な結果を得ている(図2図2■アルデヒド等価体型によるペプチドアルデヒド合成法).
われわれのグループは,プロテアーゼ阻害剤開発に向け効率的なペプチドアルデヒド合成法を模索していた.さまざまな誘導体合成に耐えうる方法論としてアルデヒド等価体型を採用したが,リンカーの選択に問題を抱えていた.安定なペプチド合成にはアセタールリンカーが最も良い結果を与えたが,最終段階でのTFA処理では樹脂から10%程度しか切り出されず収率の向上が見込めなかった.そこでアセタールをより温和な条件でアルデヒドに変換する方法を検討した.最終的にアセタールをいったんチオアセタールに変換することで効率的にペプチドアルデヒドが得られることを見いだした.すなわちペプチド鎖の伸長後に触媒量のルイス酸存在下EtSHを加えると,アセタール/チオアセタールの交換反応がスムーズに進行することがわかった.得られたペプチドチオアセタールは,NBS/H2O処理により数秒から数分でアルデヒドに変換された.反応終了後,すぐに後処理を行うことでペプチドアルデヒドが合成できた(9)9) H. Konno, Y. Sema, M. Ishii, Y. Hattori, K. Nosaka & K. Akaji: Tetrahedron Lett., 54, 4848 (2013)..その後,さまざまな配列で本合成の適用限界を検討したところ,Trp, Cys, Metでは良好な収率を与えなかった(10)10) H. Konno, Y. Sema & Y. Tokairin: Tetrahedron, 71, 3433 (2015)..本方法論は,20種類のアミノ酸すべてに対応可能ではなく,チオアセタールからの変換を手早く行う必要があるが,強酸を用いずに済むためさまざまな場面で活躍できるかもしれない(図3図3■チオアセタールを経由するペプチドアルデヒド合成).
デプシペプチドとはエステル(デプシ)構造を分子内にもつものであり,数多く単離,構造決定されている.ここでは抗HIV活性を有する化合物に限って解説したい.抗HIV活性を有する環状デプシペプチドとして現在までcallipeltin A,(11)11) A. Zampella, M. V. D’Auria, L. G. Paloma, A. Casapullo, L. Minale, C. Debitus & Y. Henin: J. Am. Chem. Soc., 118, 6202 (1996). papuamide B,(12)12) P. W. Ford, K. R. Gustafson, T. C. McKee, N. Shigematsu, L. K. Maurizi, L. K. Pannell, D. E. Williams, E. Dilip de Silva, P. Lassota, T. M. Allen et al.: J. Am. Chem. Soc., 121, 5899 (1999). neamphamide A,(13)13) N. Oku, K. R. Gustafson, L. K. Cartner, J. A. Wilson, N. Shigematsu, S. Hess, K. L. Pannell, M. R. Boyd & J. B. McMahon: J. Nat. Prod., 67, 1407 (2004). mirabamide A(14)14) A. Plaza, E. Gustchina, H. L. Baker, M. Kelly & C. A. Bewley: J. Nat. Prod., 70, 1753 (2007).,さらに比較的最近発見されたhomophymine B,(15)15) A. Zampella, V. Sepe, P. Luciano, F. Bellotta, M. C. Monti, M. V. D’Auria, T. Jepsen, S. Petek, M.-T. Adeline, O. Laprevote et al.: J. Org. Chem., 73, 5319 (2008). pipecolidepsin A(16)16) L. Coellp et al.: Int. Appl. Pat. WO 2010/070078 A1 (2010).とその類縁体が知られている.これらはいずれも海綿から単離されており,強力な抗HIV活性と細胞毒性を有している.また,構造類似性が高いため,活性発現には同じ標的部位に作用していると考えられている.構造的特徴としてデプシ結合部位がD-スレオニン様アミノ酸側鎖とC末端カルボン酸であること,近傍にdiMeGln, N末端に分岐脂肪酸が結合していることがあげられる.環状部は7あるいは8つのアミノ酸残基で構成され,直鎖部のN末端には3残基のアミノ酸と脂肪酸側鎖が連結している.アミノ酸としては,D-, N-Me,さらにβ-, γ-アミノ酸を豊富に含んでいる.環状部に位置するβ-メトキシアミノ酸が安定性を欠くため,構造決定や化学合成をより困難なものにしている.そのため,構造決定を目的としたものを含め構成異常アミノ酸,脂肪酸側鎖の立体制御合成は数多く報告されているものの,全合成例は少ない.固相全合成の達成はAlbericioら(17)17) M. Pelay-Gimeno, Y. Garcia-Ramos, M. J. Martin, J. Spengler, J. M. Molina-Guijarro, S. Munt, A. M. Fracesch, C. Cuevas, J. Tulla-Puche & F. Albericio: Nat. Commun., 4, 2352 (2013).のpipecolidepsin A, Liptonら(18)18) R. Krishnamoorthy, L. D. Vazquez-Serrano, J. A. Turk, J. A. Kowalski, A. G. Benson, N. T. Breaux & M. A. Lipton: J. Am. Chem. Soc., 128, 15392 (2006).のcallipeltin Bさらに筆者らのcallipeltin B(19)19) M. Kikuchi & H. Konno: Org. Lett., 16, 4324 (2014)., Q(20)20) Y. Tokairin & H. Konno: Manuscript in preparation.のみである.この種の化合物を合成するには構成異常アミノ酸や側鎖脂肪酸を立体制御下に合成し,適切な保護基を導入しておく必要がある.溶液中で収束的に合成するか,固相上で直線的に行うかで用いる保護基を変えなければならない.一般的に通常の液相法ではBoc法(ただし,側鎖保護基はさまざまである),固相法ではFmoc法が用いられることが多い.以下,異常アミノ酸の立体制御合成と固相全合成について解説したい(図4図4■抗HIV活性を有する環状デプシペプチド類, 5図5■Callipeltin Bならびにcallipeltin Q).
Pipecolidepsin Aは2010年に海綿Homophymia lamellosaから単離され,2D-NMR, JBCA法などを駆使した構造決定が試みられたものの,完全決定には至っていなかった.2013年にAlbericioらの全合成によって立体化学を含む全構造が確定した.本全合成のポイントは環化部位の選定とデプシ化のタイミングであった.その理由としてデプシ結合周辺は立体障害が大きいアミノ酸が連続しており反応性が極端に低いことが挙げられる.そこでAlbericioらは環化部位をPipとAspとし,Aspの側鎖を樹脂に担持することにした.入手困難なFmoc異常アミノ酸(DADHOHA, aAHDMHA)をアミノ酸誘導体から立体制御下に液相合成した後,各Fmocアミノ酸をN末端に向かって順次カップリングしdiMeGlnまで導入したところで,デプシ結合を介したAlloc-Pipのカップリングに成功している.その後,DADHOHA, HTH-D-Aspを連結し全長とした.後半の伸長は繊細で,カップリングの順番と詳細な条件検討により成功している.その後の環化はPyBOP/HOAtで,最終脱保護と樹脂からの切り出しはTFAで行いpipecolidepsin Aの固相全合成を達成した.その後のcancer cell linesに対する細胞毒性試験において,DADHOHAの欠損がその活性を極端に低下させることが示された(図6図6■Albericioらによるpipecolidepsin Aの固相全合成).
筆者らはhomophymine Bの環状部合成において,pipecolidepsin Aの環状部形成と同様の課題を抱え,結果的にAlbericioらと同じ位置での環化条件が最も良い結果を与えることを報告した(21)21) Y. Tokairin, S. Takeda, M. Kikuchi & H. Konno: Tetrahedron Lett., 56, 2809 (2015).(図7図7■Homophymine B環状部の合成).
Callipeltin Bは1996年,海綿Callipelta sp.から単離・構造決定された細胞毒性を有する環状デプシペプチドである.Callipeltin Bは分子内に酸性で加水分解しやすいβ-methoxytyrosine(βMOY)を含んでおり,その立体化学は不明であった.Liptonらはcallipeltin BならびにEの全合成によって,βMOYの立体化学と2つのThrをD-aThrに改訂し全立体化学を決定した.全合成のポイントとして樹脂への担持をMeGln側鎖で行っていること,環化位置をβMOYとMeAla間のマクロラクタム化とし,側鎖保護基にBn, NO2, THPを用いていることが挙げられる.一般的にエステル結合よりもアミド結合が環化に有利なこと,強酸を用いずに合成を進められることを念頭に行った,理にかなった戦略であることが伺われた(図8図8■Liptonらによるcallipeltin Bの固相全合成).
われわれの目的は構造活性相関研究であったため,環化部位を考慮する必要があった.そこで(1)樹脂からの切り出しと最終脱保護は最もオーソドックスなTFAで行う(側鎖保護基にMEM, Pbf, tBuを選択した),(2)環化はデプシ部分で行う(よって合成はC末端から始める)という戦略を立てた.
まず異常アミノ酸類の調製を行った.βMOYについては当初立体化学が不明であったため,可能なジアステレオマー4種を作り分けることにした.すなわちシンナミルエステル誘導体に対してSharplessの不斉アミノヒドロキシ化と不斉ジヒドロキシ化を使い分けることで,立体化学を制御した.またアンチ型の場合β位のメトキシ化が困難を極めたが,アジリジンを経由することで効率的な合成法を開発することができた.得られた4種のβMOYに周辺アミノ酸であるGlnとMeAlaをカップリングし,それぞれトリペプチドに変換した.これらと天然物とのスペクトルデータを比較し,βMOYの立体化学を2R,3Rと決定することができた.一方で,diMepyroGluの4種のジアステレオマーの合成にも成功し,天然物の立体化学を確認した.
次にcallipeltin Bの部分構造をもつcallipeltin Eの全合成を検討した.樹脂に2-CTC樹脂を用い,Fmoc基の除去は20% piperidine/DMFで行った.構成Fmoc-アミノ酸のカップリングを最適化しながらペプチド鎖を伸長した.樹脂からの切り出しと保護基の除去は蒸留したTFAを用いたときにのみ効率よく進行した.各種スペクトルデータは文献と完全に一致したことからβMOY, D-aThrの立体化学も確認することができた.さらに,Fmoc-D-aThr-OHとdiMepyroGluを伸長し,脱保護することでcallipeltin Mを得た.一方,保護基をつけたまま分子内デプシ結合をDIPCI/DMAP条件で構築し,最後に10% TIPS/TFAで処理することでcallipeltin Bの全合成を達成した.環化をアミド結合で試みた場合はジケトピペラジン形成が続発し,デプシ結合でのみ環化が可能であると結論づけた.さらに,さまざまなアナログ体の合成にも応用することができた(図9図9■われわれのグループによるcallipeltin Bの全合成).
合成したcallipeltin BはHela cell lineに対して全く毒性を示さなかった.単離されたcallipeltin BはCC50=20 μMであったため,さまざまなデータの再取得を行い,MALDI-TOFMSに合成物には見られないシグナルを見いだした.この結果は異なる物質の存在を示唆したため,詳細なNMRとMS解析,さらにはHPLCでの分離条件を検討し,callipeltin Cならびにcallipeltin Hと思われる物質を分離した.これら天然物の細胞毒性は単離callipeltin Bと一致したことから,活性本体はcallipeltin Bではなく,callipeltin CならびにHであることを突き止めた.これらの結果はcallipeltin類の天然物を快く提供してくれたZampellaら単離グループの協力があって初めて成し遂げられたことであることを申し添えたい.その後の構造活性相関研究によって,callipeltin類の環状デプシペプチド部分ならびに鎖状部分だけでは細胞毒性はなく,全体の構造が重要であることがわかった.また環状構造は活性をより強力にする(22)22) M. Kikuchi & H. Konno: Biosci. Biotechnol. Biochem., 80, 1066 (2016).(図10図10■Callipeltin B, C, HのHPLC(A–G)とESIMSスペクトル(H–J)).
Callipeltin Qは2016年にTabudravuらの研究グループによって報告された新しい類縁体である(23)23) M. Stierhof, K. Q. Hansen, M. Sharma, K. Feussner, K. Subko, F. F. Diaz-Rullo, J. Isaksson, I. Perez-Victoria, D. Clarke, E. Hansen et al.: Tetrahedron, 72, 6929 (2016)..われわれはcallipeltin Qの直鎖部を構成する3-MeGln, AGDHE, HTHの合成を行い,callipeltin Qの全合成に挑戦した.3-MeGlnの合成ではSoloshonokらによって開発されたBPBリガンドを用いることでジアステレオ選択的に3位メチル基の導入と側鎖にキサンチン(Xan)保護基の導入を行った.AGDHE保護体は,H-Glu-OHから15工程で得ることに成功した.鍵反応として光延条件下でのグアニジド基導入が挙げられる.HTHについては2-methyl-1,3-propanediol誘導体をリパーゼによって光学活性体とし,その後,Roush不斉クロチル化を行ない合成した.構成するすべてのアミノ酸,側鎖脂肪酸の入手に成功したので,2-CTC樹脂上でカップリングと脱保護を逐一条件検討しながら慎重に進めた.すべての構成成分をカップリング後,ペプチドを樹脂からHFIPで切り出し,望むcallipeltin Q保護体を得ることに成功した.最後にTFAですべての保護基を除去することでcallipeltin Qの固相全合成を達成することができた(図11図11■Callipeltin Qの固相全合成).
以上のように異常アミノ酸含有ペプチドの合成には依然として天然物合成化学の要素がふんだんに盛り込まれており,精密な立体制御合成と詳細な構造解析,生物活性評価,さらには天然物と物性値や挙動の直接比較が必要である.昔ながらの研究スタイルと言わざるを得ないが,それも異常アミノ酸含有ペプチドの魅力なのかもしれない.今回紹介した合成ではペプチドの組立部分に関しては固相上で行われており,自動合成機の活用が期待される.迅速な構造活性相関研究が可能となれば創薬研究がより加速する.
以上,ペプチドアルデヒド合成と環状デプシペプチド類の合成において,固相合成を用いた例を簡単に紹介した.紙面の都合上,筆者らが手がけている研究を中心としたが,異常アミノ酸含有ペプチドを「天然物」ととらえて液相法で収束的合成を展開している研究者もおり,その志向の違いが興味のもたれるところである.多くの読者の方に興味をもっていただけると望外の喜びである.
Reference
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