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microRNAは二本鎖前駆体の構造を柔軟に変化させることにより遺伝子サイレンシングの機能を制御するmicroRNAの構造と機能の柔軟性

Taichiro Iki

井木 太一郎

大阪大学大学院生命機能研究科生殖生物学研究室

Published: 2018-09-20

Small non-coding RNA(sRNA)を介した遺伝子サイレンシング機構は真核生物の遺伝子制御において不可欠な役割を果たしている.sRNAはARGONAUTE(AGO)タンパク質と複合体(RNA-induced silencing complex; RISC)を形成することにより,相補的な配列をもつ標的遺伝子に対して転写,転写後,翻訳各段階におけるさまざまな発現抑制を誘導する.遺伝子サイレンシングが織りなす多彩な経路に対応するため,植物は複数のAGO遺伝子を維持して各AGOタンパク質に役割を分担させている.そして,それらのAGOにsRNAが選択的に結合することによって標的遺伝子の発現は的確に制御される.モデル植物のシロイヌナズナでは,microRNA(miRNA)やsmall interfering RNA(siRNA)に分類される多様なsRNAが10種のAGOに振り分けられている.

sRNAとAGOとの選択的な相互作用は複数の分子機構によって協調的に制御されている.まず,AGOはsRNAの5′末端塩基の種類を認識することによってRISCをともに構成するsRNAを選択する.また,sRNAの鎖長もAGOとの結合に選択性を与えている.シロイヌナズナでは20–22塩基のsRNAが転写後においてサイレンシングを誘導するAGO群(後出のAGO1/10など)と結合する一方,24塩基のsRNAは転写レベルで機能するAGO群に取り込まれる(1)1) S. Mi, T. Cai, Y. Hu, Y. Chen, E. Hodges, F. Ni, L. Wu, S. Li, H. Zhou, C. Long et al.: Cell, 133, 116 (2008).

多くのsRNAは二本鎖の前駆体としてAGOに取り込まれ,一方の鎖がその後に排除される(2)2) T. Iki, M. Yoshikawa, M. Nishikiori, M. C. Jaudal, E. Matsumoto-Yokoyama, I. Mitsuhara, T. Meshi & M. Ishikawa: Mol. Cell, 39, 282 (2010)..そのため,AGOは二本鎖のsRNAの5′末端塩基や鎖長を認識するとも考えられる.これらに加え,二本鎖の末端の安定性はRISCに残る鎖を二本鎖から選択するうえで重要な分子情報である(3)3) A. L. Eamens, N. A. Smith, S. J. Curtin, M. Wang & P. M. Waterhouse: RNA, 15, 2219 (2009)..さらに最近の研究は,二本鎖の構造的な特徴がsRNAとAGOとの選択的な結合において重要な役割を果たすことを明らかにしている(4~7)4) H. Zhu, F. Hu, R. Wang, X. Zhou, S. Sze, L. W. Liou, A. Barefoot, M. Dickman & X. Zhang: Cell, 145, 242 (2011).5) Y. Endo, H. Iwakawa & Y. Tomari: EMBO Rep., 14, 652 (2013).6) X. Zhang, D. Niu, A. Carbonell, A. Wang, A. Lee, V. Tun, Z. Wang, J. C. Carrington, C. A. Chang & H. Jin: Nat. Commun., 19, 5468 (2014).7) T. Iki: J. Plant Res., 130, 7 (2017)..sRNAは二本鎖の段階で対を形成しない塩基を配置させることなどで構造的に多様な分子群をつくりだすことができる.二本鎖sRNA間の構造差がAGOによる選択を可能にさせている.

二本鎖sRNAの構造を予測するとき,既往研究では塩基対の配置が静的に捉えられてきた.しかしながら,対を形成しない塩基が維持される二本鎖miRNAなどでは,準安定的な複数パターンの塩基対配置が考えられ,動的に変化する柔軟性に富んだ二本鎖構造を予測させることもある.二本鎖構造の特徴がAGOとmiRNAの選択的結合に関与することなどを考慮すると(4~7)4) H. Zhu, F. Hu, R. Wang, X. Zhou, S. Sze, L. W. Liou, A. Barefoot, M. Dickman & X. Zhang: Cell, 145, 242 (2011).5) Y. Endo, H. Iwakawa & Y. Tomari: EMBO Rep., 14, 652 (2013).6) X. Zhang, D. Niu, A. Carbonell, A. Wang, A. Lee, V. Tun, Z. Wang, J. C. Carrington, C. A. Chang & H. Jin: Nat. Commun., 19, 5468 (2014).7) T. Iki: J. Plant Res., 130, 7 (2017).,miRNAを解析するうえで二本鎖の内蔵する構造柔軟性は看過できない.二本鎖前駆体の構造変化に着目したmiRNAの研究はこれまでほとんど進められてこなかったが,以下に紹介するmiR168の研究は二本鎖の柔軟性がmiR168のサイレンシング活性と密接な関係にあることを明らかにしている(8)8) T. Iki, A. Cléry, N. G. Bologna, A. Sarazin, C. A. Brosnan, N. Pumplin, F. H. T. Allain & O. Voinnet: Mol. Plant, 11, 1008 (2018).図1図1■二本鎖構造の柔軟性が生み出す22塩基のmiR168の機能).

図1■二本鎖構造の柔軟性が生み出す22塩基のmiR168の機能

miR168は前駆体の二本鎖構造の一部を柔軟に変化させることができる.構造変化によりDicerの切断箇所は調節され22塩基の二本鎖miR168が産生される.P19はウイルス由来の二本鎖siRNAや多くの二本鎖miRNAと結合してRISC形成を阻害するが,22塩基の二本鎖miR168は例外的に結合を免れる.それゆえ,P19存在下では22塩基のmiR168とAGO10で構成されるRISCが蓄積し,その結果AGO1の発現が抑制される.

植物においてmiR168はmiRNAの中でも特別な役割を担っている.miR168はAGO1とRISCを形成し,AGO1 mRNAを標的と認識する.それゆえ,miR168を介した負のフィードバック制御の下でAGO1は恒常性を維持している(9)9) H. Vaucheret, A. C. Mallony & D. P. Bartel: Mol. Cell, 22, 129 (2006)..その意味でmiR168はほかのmiRNAとは異質であり,AGO1サイレンシングを統制する重要な因子としてあらゆる植物がmiR168を維持している.miR168を含め,多くのmiRNAの生合成はDicerタンパク質に依存しており,Dicerはヘアピン構造の前駆体miRNAを切断することにより一定の鎖長の二本鎖miRNAを正確に切り出している.核磁気共鳴(NMR)を用いてmiR168の物性を調べると,塩基対が柔軟に変化しうるモチーフが二本鎖の内部に存在することが判明した(8)8) T. Iki, A. Cléry, N. G. Bologna, A. Sarazin, C. A. Brosnan, N. Pumplin, F. H. T. Allain & O. Voinnet: Mol. Plant, 11, 1008 (2018)..そのモチーフは双子葉植物全般に保存されている.miR168は二本鎖モチーフの構造を柔軟に変化させ,対を形成しない塩基を非対称に配置することで,生体内においてDicerが切り出す二本鎖を21塩基より1塩基長い22塩基に伸長させる(8)8) T. Iki, A. Cléry, N. G. Bologna, A. Sarazin, C. A. Brosnan, N. Pumplin, F. H. T. Allain & O. Voinnet: Mol. Plant, 11, 1008 (2018)..構造柔軟性を利用するmiR168は,対を形成しない塩基配置が対称あるいは非対称な,鎖長が21あるいは22塩基の二本鎖の異性体を混在させることができるのだ.非対称な構造から産出された22塩基の二本鎖miR168は,21塩基のものに比べてAGO1に結合しにくくAGO10に選択的に取り込まれる(8)8) T. Iki, A. Cléry, N. G. Bologna, A. Sarazin, C. A. Brosnan, N. Pumplin, F. H. T. Allain & O. Voinnet: Mol. Plant, 11, 1008 (2018)..しかし,miR168以外のmiRNAについてAGO10は22塩基の分子を選択するわけではない.これらのことから,22塩基という鎖長に加え,二本鎖miR168特有の構造(22塩基を産み出す非対称構造など)がAGO10へ取り込まれる経路を開くと考えられる.22塩基のmiR168とRISCを形成するAGO10は,AGO1とは異なる翻訳段階での標的抑制を行うことが知られている(10)10) E. Várallyay, A. Válóczi, Á. Ágyi, J. Burgyán & Z. Havelda: EMBO J., 29, 3507 (2010)..さらに,21塩基ではなく22塩基のmiR168がサイレンシングを増幅させる二次siRNA合成を誘導することが判明した(8)8) T. Iki, A. Cléry, N. G. Bologna, A. Sarazin, C. A. Brosnan, N. Pumplin, F. H. T. Allain & O. Voinnet: Mol. Plant, 11, 1008 (2018)..これらのことは,miR168が二本鎖の構造柔軟性を利用してAGO1やAGO10への振り分けを制御すると共にmiR168の機能を多様化させることを示している.

二本鎖の構造柔軟性によって制御されるmiR168-AGO10経路は植物とウイルスの相互作用を考えるうえで重要な意味をもつ.植物の遺伝子サイレンシングはさまざまなウイルスに対する防御に不可欠で,その抗ウイルスサイレンシング機構においてAGO1は中心的な役割を果たしている.しかし,ウイルスはさまざまな戦略で宿主AGO1の抗ウイルス活性を無力化できる.よく研究されているTombusvirusでは2つの方法が報告されており,一つはTombusvirusのP19タンパク質がウイルス由来の二本鎖siRNAと結合してAGO1との抗ウイルスRISC形成を阻害する方法,もう一つは宿主のmiR168を利用してAGO1の発現を抑制する方法である.興味深いことに,後者はAGO1のパラログAGO10に依存することが遺伝学的に証明されていた(10)10) E. Várallyay, A. Válóczi, Á. Ágyi, J. Burgyán & Z. Havelda: EMBO J., 29, 3507 (2010).

二本鎖miR168の構造柔軟性を理解することで,なぜTombusvirusがAGO10を利用してAGO1の発現を抑制できるのか答えることができる.P19は二本鎖siRNAや二本鎖miRNAと結合してRISC形成を阻害する.しかし,二本鎖miR168への結合能は例外的に低く,とりわけ二本鎖が22塩基を産み出す非対称構造をつくるときに低下する(8)8) T. Iki, A. Cléry, N. G. Bologna, A. Sarazin, C. A. Brosnan, N. Pumplin, F. H. T. Allain & O. Voinnet: Mol. Plant, 11, 1008 (2018)..P19による阻害を免れた22塩基の非対称な二本鎖miR168は,Tombusvirus感染が引き起こすP19発現状態においてAGO10に効果的に取り込まれる(8)8) T. Iki, A. Cléry, N. G. Bologna, A. Sarazin, C. A. Brosnan, N. Pumplin, F. H. T. Allain & O. Voinnet: Mol. Plant, 11, 1008 (2018)..その結果,miR168とAGO10で構成されるRISCが細胞内に蓄積しAGO1の発現が強力に抑制されることになる.

miR168で例示されるように,前駆体RNAが二本鎖構造を変化させて機能的な柔軟性を獲得する現象は,遺伝子サイレンシングにおいてより一般化できることなのかもしれない.不完全に相補的な二本鎖をときに生物種を超えて維持するmiRNAについてさらなる研究が必要だろう.また,miR168の21塩基と22塩基の発現バランスは解析する組織によってさまざまであることから,二本鎖miRNAの構造変化が未知の分子機構によって制御されている可能性もある.ゆえに,miR168-AGO10経路を調節する植物内在因子の探索など,miR168をモデルとした解析をさらに進めることも求められている.

Reference

1) S. Mi, T. Cai, Y. Hu, Y. Chen, E. Hodges, F. Ni, L. Wu, S. Li, H. Zhou, C. Long et al.: Cell, 133, 116 (2008).

2) T. Iki, M. Yoshikawa, M. Nishikiori, M. C. Jaudal, E. Matsumoto-Yokoyama, I. Mitsuhara, T. Meshi & M. Ishikawa: Mol. Cell, 39, 282 (2010).

3) A. L. Eamens, N. A. Smith, S. J. Curtin, M. Wang & P. M. Waterhouse: RNA, 15, 2219 (2009).

4) H. Zhu, F. Hu, R. Wang, X. Zhou, S. Sze, L. W. Liou, A. Barefoot, M. Dickman & X. Zhang: Cell, 145, 242 (2011).

5) Y. Endo, H. Iwakawa & Y. Tomari: EMBO Rep., 14, 652 (2013).

6) X. Zhang, D. Niu, A. Carbonell, A. Wang, A. Lee, V. Tun, Z. Wang, J. C. Carrington, C. A. Chang & H. Jin: Nat. Commun., 19, 5468 (2014).

7) T. Iki: J. Plant Res., 130, 7 (2017).

8) T. Iki, A. Cléry, N. G. Bologna, A. Sarazin, C. A. Brosnan, N. Pumplin, F. H. T. Allain & O. Voinnet: Mol. Plant, 11, 1008 (2018).

9) H. Vaucheret, A. C. Mallony & D. P. Bartel: Mol. Cell, 22, 129 (2006).

10) E. Várallyay, A. Válóczi, Á. Ágyi, J. Burgyán & Z. Havelda: EMBO J., 29, 3507 (2010).