生物コーナー

根寄生雑草ストライガの猛威と,総合防除に向けた研究開発の動向ストライガによる農作物への被害を防ぐ

鮫島 啓彰

Hiroaki Samejima

神戸大学大学院農学研究科

杉本 幸裕

Yukihiro Sugimoto

神戸大学大学院農学研究科

Published: 2018-09-20

はじめに

日本では,農作物への被害が確認されていないため,根寄生雑草ストライガの存在はあまり知られていない.しかし,アフリカではストライガによる深刻な被害が広がっている.ストライガの中でも,人々の主食となるイネ科作物(ソルガム,トウモロコシ,ミレット,イネなど)に寄生するStriga hermonthica(ストライガ・ヘルモンシカ)およびS. asiatica(ストライガ・アジアティカ)と,貴重なタンパク質源であるマメ科のササゲに寄生するS. gesnerioidesの3種は,アフリカの農業生産を阻害する最大の生物的脅威である.2007年の報告では,アフリカ大陸全体でストライガによる被害のため,3億人の農家が使用する5,000万haの農地で70億ドルの損失が出ていると推定された(1)1) G. Ejeta: “Integrating New Technologies for Striga Control: Towards Ending the Witch-Hunt,” ed. by G. Ejeta and J. Gressel, World Scientific Publishing, 2007, pp. 3–16..現在ではさらに被害が深刻化していると考えられる.

ストライガは長さ0.1~0.3 mmの極めて小さい種子を1個体あたり数万粒生産し,その種子は土壌中で10年以上生存する.したがって,ストライガが侵入した農地で対策を講じないまま寄生を受ける作物(宿主作物)の栽培を続けると,土壌中のストライガ種子密度が増加して被害が深刻化する.さらに,ストライガ種子を含む土壌が人,動物,農業機械などによって運ばれることで,被害面積が拡大する(図1図1■ソルガム畑の全体に蔓延し花を咲かせるストライガ・ヘルモンシカ).極小で長寿命の種子を多数生産する雑草は珍しくないが,ストライガは土壌表面から出現した時点ですでに宿主作物に深刻な被害を及ぼしている点でほかの雑草と著しく異なる(図2図2■a)ストライガ・ヘルモンシカ寄生の有無によるソルガムの生育の違い.b)ストライガ寄生有りポットの土壌表面.矢印は出芽して間もないストライガを示す).農家が栽培を放棄した畑ではストライガが除草されずに生育を続け,大量の種子が新たに土壌に供給される.

図1■ソルガム畑の全体に蔓延し花を咲かせるストライガ・ヘルモンシカ

図2■a)ストライガ・ヘルモンシカ寄生の有無によるソルガムの生育の違い.b)ストライガ寄生有りポットの土壌表面.矢印は出芽して間もないストライガを示す

ストライガの生活環

ストライガは光合成を行う半寄生植物である.しかし,自らの光合成によって獲得できるエネルギーは生存に必要なエネルギーの70%程度であることから(2)2) J. D. Graves, M. C. Press & R. Stewart: Plant Cell Environ., 12, 101 (1989).,宿主から独立しては生存できない絶対寄生植物でもある.そのためストライガの生活環は一般の植物とは大きく異なる.

結実したストライガは休眠状態でアフリカの乾期を越える(図3a図3■ストライガの生活環).雨期に入り最適な水分および温度条件下に数日間置かれることで,種子の休眠が打破される.休眠から覚醒したストライガ種子は,宿主作物の根(宿主根)から分泌される刺激物質を感受して発芽する(図3b図3■ストライガの生活環).これは宿主から独立しては生育を続けられない絶対寄生植物の巧妙な発芽戦略といえる.発芽刺激物質の多くはストリゴラクトンと総称されるアポカロテノイドである(3)3) B. Zwanenburg, T. Pospíšil & S. Ćavar Zeljković: Planta, 243, 1311 (2016).

図3■ストライガの生活環

ストライガの発芽種子が最初に伸長させる幼根では,先端に吸器と呼ばれる器官が形成され,宿主根に付着・侵入することが可能となる(図3c図3■ストライガの生活環).吸器の形成を誘導する物質も宿主根に由来する(4)4) M. Chang & D. G. Lynn: J. Chem. Ecol., 12, 561 (1986)..吸器が宿主根の維管束と結合すると,ストライガは養水分の収奪を開始する.ストライガの種子は小さく貯蔵養分量が限られているため,発芽後数日以内に宿主からの養水分の収奪を開始する必要がある.

寄生成立後のストライガは土壌中で茎葉部を伸長させ(図3d図3■ストライガの生活環),発芽後4~7週間程度で出芽に至る(図3e図3■ストライガの生活環).土壌中での生育期間が長いことが,ストライガの寄生に気づいたときにはすでに作物への被害が進行している理由である.養水分の収奪を続けながら4~5週間程度で開花に至り(図3f図3■ストライガの生活環),さらに数週間後には夥しい数の種子を生産し畑に落とす(図3a図3■ストライガの生活環).

ストライガの総合防除に向けた研究の動向

現時点では,単独で被害を十分に抑制できる方法は確立されておらず,ストライガ対策には複数の方法を組み合わせた総合防除が必要である.総合防除の要素として化学的対策,栽培的対策,微生物の利用,および宿主作物の改良などさまざまな方法が提案されている.本稿ではこれらの例として,それぞれ,自殺発芽誘導,push–pull法,アーバスキュラー菌根(AM)菌の利用および抵抗性品種について説明する.そのほかにも数多くの防除方法が提案されているので,総説(5)5) H. Samejima & Y. Sugimoto: Biotechnol. Biotec. Eq., 32, 221 (2018).を参照されたい.

自殺発芽誘導は,宿主が存在しない畑でストライガ種子を発芽させて死に至らしめる戦略で,宿主根由来のストリゴラクトンを感知して発芽するストライガの特性を逆手にとった防除法である.1972年にワタの根滲出液から初めてのストリゴラクトンとしてstrigol(図4図4■ワタの根滲出液から単離されたstrigolと合成アゴニストT-010およびNijmegen-1)が単離,構造決定されたことを契機に(6)6) C. E. Cook, L. P. Whichard, M. E. Wall, G. H. Egley, P. Coggon, P. A. Luhan & A. T. McPhail: J. Am. Chem. Soc., 94, 6198 (1972).,合成したストリゴラクトン類縁化合物を人為的に畑に施与することで自殺発芽を誘導するというアイデアが提唱された(7)7) A. W. Johnson, G. Rosebery & C. Parker: Weed Res., 16, 223 (1976)..それ以来,多数の化合物がデザイン・合成されストライガ防除への有効性が調べられてきたが,評価は実験室やポットレベルにとどまっていた.2016年にようやく,ストリゴラクトンの基本骨格を大胆に簡略化した発芽刺激物質T-010(図4図4■ワタの根滲出液から単離されたstrigolと合成アゴニストT-010およびNijmegen-1)を用いて,ソルガム畑におけるストライガ・ヘルモンシカの被害軽減が実証された(8)8) H. Samejima, A. G. Babiker, H. Takikawa, M. Sasaki & Y. Sugimoto: Pest Manag. Sci., 72, 2035 (2016)..同時期に,タバコ畑でも,ストライガと近縁の根寄生雑草であるPhelipanche ramosaをNijmegen-1(図4図4■ワタの根滲出液から単離されたstrigolと合成アゴニストT-010およびNijmegen-1)を用いた自殺発芽誘導によって防除できることが報告された(9)9) B. Zwanenburg, A. S. Mwakaboko & C. Kannan: Pest Manag. Sci., 72, 2016 (2016)..自殺発芽誘導は興味深いアイデアの段階から有効性が実証された技術へと認識が変わったため,低コストで活性の高い物質の開発,製剤方法の改善,畑への散布方法の検討などを通して,実用化が進むことが期待される.

図4■ワタの根滲出液から単離されたstrigolと合成アゴニストT-010およびNijmegen-1

宿主が存在しない畑でストライガを発芽させることは,発芽刺激物質を分泌するが寄生を受けない植物を用いても可能である.このような植物を利用する栽培方法は,トラップクロッピングと呼ばれている.マメ科牧草Desmodium spp.(デスモディウム)の根は,発芽刺激物質を分泌するがストライガには寄生されないうえ,ストライガ幼根の生育を阻害する物質も分泌する.このため,デスモディウムとイネ科作物を並べて栽培するとイネ科作物へのストライガの寄生が減り,土壌中のストライガ種子密度も減少していく.さらに,デスモディウムは地上部から,イネ科作物の害虫ニカメイガ(幼虫が茎に穴をあけて侵入するのでstemborerと呼ばれる)に対する忌避物質を分泌する.イネ科作物とデスモディウムを混作した周辺に,ニカメイガ誘引物質を分泌する植物(ネピアグラスやスーダングラスなど)を植えることで,イネ科作物へのニカメイガ被害をさらに抑えることができる.ニカメイガを忌避物質で作物から遠ざけ(push),周辺の誘引物質で引き付ける(pull)ことから,この栽培方法はpush-pull法と呼ばれている.根分泌物を利用したストライガ対策と揮発性成分を利用したニカメイガ対策を同時に行えるpush–pull法は,2016年の報告では東アフリカの約12万5,000人の農家が採用しており(10)10) Z. Khan, C. A. O. Midega, A. Hooper & J. Pickett: J. Chem. Ecol., 42, 689 (2016).,トラップクロッピングによるストライガ対策の最たる成功例と言える.デスモディウムが乾燥に弱いことからpush–pull法を採用できる地域が限られているため,耐乾性のデスモディウムや代替植物の探索が進められている.

AM菌と共生した作物がストライガに寄生されにくくなる例が複数報告されている.AM菌は地球上のさまざまな土地に広く分布し,共生した植物のリンなどの栄養や水分状態を改善する.ストリゴラクトンはAM菌と植物の共生を促進する植物側因子でもあり,植物は体内の栄養が不足すると根からのストリゴラクトン分泌を増やす.その結果,共生が促進され植物体の栄養状態が改善し,ストリゴラクトンの分泌は減る.ストライガ防除の視点から,AM菌の共生は促進するがストライガの発芽は促進しない宿主作物や化合物の探索が進められている.生物肥料として宿主作物の種子や土壌にAM菌を人工的に接種する方法も,環境負荷の少ないストライガ防除方法として期待されている(11)11) B. Andreo-Jimenez, C. Ruyter-Spira, H. J. Boumeester & J. A. Lopez-Raez: Plant Soil, 394, 1 (2015)..一方,イネ科作物ではAM菌との共生により生育が抑制される例も報告されており(11)11) B. Andreo-Jimenez, C. Ruyter-Spira, H. J. Boumeester & J. A. Lopez-Raez: Plant Soil, 394, 1 (2015).,実用化に向けてさまざまな研究が必要とされている.

ストライガに寄生されにくい宿主作物品種,すなわち,抵抗性品種を使用すれば,農家は栽培方法の変更や新たな資材の購入をせずにストライガの被害を軽減できる.現時点では,抵抗性品種の利用が,農家にとって最も採用しやすいストライガ対策と考えられている(1)1) G. Ejeta: “Integrating New Technologies for Striga Control: Towards Ending the Witch-Hunt,” ed. by G. Ejeta and J. Gressel, World Scientific Publishing, 2007, pp. 3–16..筆者らは,スーダンの栽培環境に適応する陸稲品種として同国の推奨品種となったUmgarが,非常に強いストライガ抵抗性をもつことを見いだした(12)12) H. Samejima, A. G. Babiker, A. Mustafa & Y. Sugimoto: Front. Plant Sci., 7, 634 (2016)..根滲出物の発芽刺激活性が低いため,Umgarの根圏で発芽するストライガの数は少ない.また,発芽した少数のストライガはUmgarの根に侵入するが,多くの場合,吸器の侵入が維管束結合の完成前に止まる.さらに,維管束結合を完成させ茎葉部の伸長を開始したストライガの大半は,早い時期に枯死する.このように,Umgarは非常に高度な抵抗性メカニズムを有している.一方,アフリカ稲とアジア稲の交配によって育成されアフリカでの普及が期待されているNew Rice for Africa(NERICA)と呼ばれる品種群のうち,NERICA5は,ストライガ・ヘルモンシカやストライガ・アジアティカの複数のエコタイプに対して広く抵抗性をもつことが確認された(12)12) H. Samejima, A. G. Babiker, A. Mustafa & Y. Sugimoto: Front. Plant Sci., 7, 634 (2016)..ソルガム,ミレット,トウモロコシ,ササゲおよびそれらの近縁野生種でも抵抗性品種の選抜が進められおり,育種への利用が期待されている.

おわりに

ストライガはアフリカだけの問題ではない.ストライガの分布域は中国,インド,東南アジアの国々,オーストラリアにも広がっている(13)13) C. Parker: Weed Sci., 60, 269 (2012)..1950年代,それまでストライガが分布していなかったアメリカにストライガ・アジアティカが侵入し,最大で17万5,000 haの農地に被害をもたらしたように(14)14) R. E. Eplee: Crop Prot., 11, 3 (1992).,ストライガは,今のところ被害に直面していない多くの国々にとっても潜在的な脅威である.アメリカでは国や州を挙げての研究,関係者間の情報共有,高い技術力と経済力によって,ストライガ・アジアティカの撲滅に成功したが,同様の対処が可能な国は限られている.筆者らは,多くの国で実践可能なストライガ防除方法の開発を目指して,研究を進めている.

Reference

1) G. Ejeta: “Integrating New Technologies for Striga Control: Towards Ending the Witch-Hunt,” ed. by G. Ejeta and J. Gressel, World Scientific Publishing, 2007, pp. 3–16.

2) J. D. Graves, M. C. Press & R. Stewart: Plant Cell Environ., 12, 101 (1989).

3) B. Zwanenburg, T. Pospíšil & S. Ćavar Zeljković: Planta, 243, 1311 (2016).

4) M. Chang & D. G. Lynn: J. Chem. Ecol., 12, 561 (1986).

5) H. Samejima & Y. Sugimoto: Biotechnol. Biotec. Eq., 32, 221 (2018).

6) C. E. Cook, L. P. Whichard, M. E. Wall, G. H. Egley, P. Coggon, P. A. Luhan & A. T. McPhail: J. Am. Chem. Soc., 94, 6198 (1972).

7) A. W. Johnson, G. Rosebery & C. Parker: Weed Res., 16, 223 (1976).

8) H. Samejima, A. G. Babiker, H. Takikawa, M. Sasaki & Y. Sugimoto: Pest Manag. Sci., 72, 2035 (2016).

9) B. Zwanenburg, A. S. Mwakaboko & C. Kannan: Pest Manag. Sci., 72, 2016 (2016).

10) Z. Khan, C. A. O. Midega, A. Hooper & J. Pickett: J. Chem. Ecol., 42, 689 (2016).

11) B. Andreo-Jimenez, C. Ruyter-Spira, H. J. Boumeester & J. A. Lopez-Raez: Plant Soil, 394, 1 (2015).

12) H. Samejima, A. G. Babiker, A. Mustafa & Y. Sugimoto: Front. Plant Sci., 7, 634 (2016).

13) C. Parker: Weed Sci., 60, 269 (2012).

14) R. E. Eplee: Crop Prot., 11, 3 (1992).