Kagaku to Seibutsu 56(11): 732-737 (2018)
解説
植物における膜結合型転写因子の活性化機構膜に結合している転写因子が核に移行する2つの仕組み
Activation Mechanisms of Membrane-Bound Transcription Factors in Plants: Two Mechanisms of Translocation of Membrane-Bound Transcription Factors to the Nucleus
Published: 2018-10-20
転写因子は遺伝子の発現を時間的,空間的に制御する.制御のためには転写因子が何らかのメカニズムにより活性化されなければならない.代表的な例としてはタンパク質のリン酸化が挙げられる.また,通常は膜に結合した不活性型として存在するタンパク質が,刺激により膜から遊離し,核へと移行し転写を誘導するタイプの転写因子が存在する.特に,動物,植物の小胞体ストレス応答(後述)で膜結合型転写因子に関する研究が進んでいる.さらに植物での活性化機構に関して最近,進展が見られたことから,本稿では主にモデル植物シロイヌナズナの小胞体ストレス応答で見られる膜結合型転写因子の活性化機構について概説する.
© 2018 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
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2000年にシロイヌナズナの全ゲノムが明らかとなった.現在では,全遺伝子は約27,000と推定され,その5%以上を転写因子が占めると考えられている.さらにそのうち10%程度が膜結合型転写因子であると予想されている(1)1) S. G. Kim, S. Lee, P. J. Seo, S. K. Kim, J. K. Kim & C. M. Park: Genomics, 95, 56 (2010)..つまり100程度の膜結合型転写因子が存在すると考えられる.しかし,実験的に解析されたものは20に満たず,その中でも活性化機構が明らかになっているケースは限られている.活性化機構の解析が進んでいるのは,ほぼ小胞体ストレス応答に関与するもので,そのほとんどがbZIP型転写因子である.シロイヌナズナには75のbZIP型転写因子が存在するとされ,そのうち4個が膜結合型である(2)2) M. Jakoby, B. Weisshaar, W. Dröge-Laser, J. Vicente-Carbajos, J. Tiedemann, T. Kroj & F. Parcy: Trends Plant Sci., 7, 106 (2002)..しかし,そのうちの1個はほとんど発現しておらず遺伝子として機能しているかどうかは不明である.残りの3遺伝子は小胞体ストレス応答に関与する(3)3) Y. Iwata & N. Koizumi: Trends Plant Sci., 17, 720 (2012)..これらbZIP型以外ではNACファミリーに属する膜結合型転写因子の機能解析が行われているが,その活性化機構はほとんど明らかでない(4, 5)4) P. J. Seo, S. G. Kim & C. M. Park: Trends Plant Sci., 13, 550 (2008).5) Y. S. Kim, S. G. Kim, J. E. Park, H. Y. Park, M. H. Lim, N. H. Chua & C. M. Park: Plant Cell, 18, 3132 (2006)..小胞体ストレス応答にかかわるNAC型転写因子も報告されているが,やはり活性化機構は明らかでない(6)6) Z. T. Yang, M. J. Wang, L. Sun, S. J. Lu, D. L. Bi, L. Sun, Z. T. Song, S. S. Zhang, S. F. Zhou & J. X. Liu: PLOS Genet., 10, e1004243 (2014)..
タンパク質がその機能を発揮するためには正しくフォールディングされなければならない.しかし,外的あるいは内的要因でタンパク質のフォールディングが阻害されることがしばしば細胞内で起こる.こうした状況に対応するためにシャペロンが働く.真核生物の場合,タンパク質のフォールディングが起こるそれぞれの細胞内区画で異なるシャペロンが機能する.小胞体は細胞外への分泌タンパク質をはじめとする,いわゆる小胞輸送によって運ばれるタンパク質のフォールディングの場である.このフォールディングに異常が起こるとその回避のためにBiP(Binding Protein, HSP70の小胞体ホモログ)に代表される小胞体シャペロンの転写が誘導される.またフォールディングに失敗したタンパク質は細胞質へ逆輸送されユビキチン,プロテアソーム系により分解される(ER associated degradation).こうした一連の細胞応答を小胞体ストレス応答あるいはUnfolded Protein Responseと呼ぶ(3, 7, 8)3) Y. Iwata & N. Koizumi: Trends Plant Sci., 17, 720 (2012).7) S. H. Howell: Annu. Rev. Plant Biol., 64, 477 (2013).8) P. Walter & D. Ron: Science, 334, 1081 (2011).(図1図1■小胞体ストレス応答あるいはUnfolded Protein Response).小胞体ストレスがどのような生理的刺激により誘導されるかという問いに答えるのは容易ではない.植物では熱ストレスにより誘導されるとされるが(9, 10)9) Y. Deng, S. Humbert, J. X. Liu, R. Srivastava, S. J. Rothstein & S. H. Howell: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 108, 7247 (2011).10) H. Gao, F. Brandizzi, C. Benning & R. M. Larkin: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 105, 16398 (2008).,いわゆる熱ショック応答と比べると遺伝子の発現誘導の度合いは限定的である.酵母や動物細胞でも実験室レベルでは小胞体内でのタンパク質のフォールディングを阻害する薬剤,具体的には糖鎖合成阻害剤ツニカマイシンやジスルフィド結合を撹乱するジチオスレイトール(DTT)などで細胞を処理し小胞体ストレス応答を誘導することが多い.
小胞体ストレス応答は酵母,動物から植物まで広く観察される現象である(3, 7, 8)3) Y. Iwata & N. Koizumi: Trends Plant Sci., 17, 720 (2012).7) S. H. Howell: Annu. Rev. Plant Biol., 64, 477 (2013).8) P. Walter & D. Ron: Science, 334, 1081 (2011).が,酵母では小胞体ストレス応答にかかわる転写因子はHAC1のみである.一方,脊椎動物ではXBP1とATF6がBiPなどの小胞体ストレス応答関連遺伝子の転写活性化にかかわる.HAC1に加えてXBP1もATF6もbZIP型転写因子である.シロイヌナズナではbZIP60とbZIP28が主に小胞体ストレス応答関連遺伝子を活性化する.後述するようにHAC1, XBP1, bZIP60はいずれも細胞質スプライシングと呼ばれるユニークな制御を受けて活性化する.しかし,この中で膜結合型転写因子として存在するのはbZIP60のみである.
小胞体ストレス応答では小胞体から核へと情報が伝わる.したがって,小胞体内の状況をモニターするセンサーが必要である.そのセンサーの一つが酵母から,動物,植物まで広く保存されているIRE1(Inositol-Requiring Enzyme1)である(3, 7, 8)3) Y. Iwata & N. Koizumi: Trends Plant Sci., 17, 720 (2012).7) S. H. Howell: Annu. Rev. Plant Biol., 64, 477 (2013).8) P. Walter & D. Ron: Science, 334, 1081 (2011)..IRE1はI型の膜タンパク質で,小胞体内腔にセンサードメインを,細胞質側にキナーゼドメイン,RNaseドメインをもつ.真核生物の遺伝子の多くはイントロンをもち,核内のスプライセオソームでスプライシングを受けるが,小胞体ストレス応答ではIRE1のRNase活性による細胞質スプライシングと呼ばれる特殊なスプライシングが起こる.通常はIRE1のセンサードメインにBiPが結合しているが,構造異常タンパク質が産生されると,その修復のためにセンサードメインからBiPが乖離する.その結果,BiPによりマスクされていたセンサードメインが分子間で相互作用することでIRE1が多量化し,リン酸化を介してRNaseの活性化に至る.
酵母では転写因子HAC1をコードするmRNAの細胞質スプライシングの結果,ストップコドンが消失し10アミノ酸が付加された新たなタンパク質が生じる(3)3) Y. Iwata & N. Koizumi: Trends Plant Sci., 17, 720 (2012)..スプライシングが起こる前のタンパク質は不安定で翻訳産物が蓄積しないが,スプライシングの結果,安定なタンパク質が翻訳される.哺乳類ではXBP1がIRE1の標的である.XBP1の場合は26塩基の細胞質スプライシングの結果フレームシフトが起こり,新しいORFが出現し,分子量の大きなタンパク質が生じる.新しいORFに転写活性化ドメインが生じることで活性型XBP1が生じる(3, 8)3) Y. Iwata & N. Koizumi: Trends Plant Sci., 17, 720 (2012).8) P. Walter & D. Ron: Science, 334, 1081 (2011)..植物ではシロイヌナズナから私たちが単離したbZIP60がIRE1の標的である.HAC1やXBP1とは異なり,bZIP60は23塩基のイントロンがスプライシングアウトされた結果,もとのタンパク質よりも小さなタンパク質が生じる(3)3) Y. Iwata & N. Koizumi: Trends Plant Sci., 17, 720 (2012).(図2図2■bZIP60の細胞質スプライシング).
シロイヌナズナのbZIP60が細胞質スプライシングを受ける前のmRNAをbZIP60u(unspliced),受けた後のmRNAをbZIP60s(spliced)と呼ぶ.タンパク質はそれぞれbZIP60uとbZIP60sとする.bZIP60uは膜貫通領域により小胞体膜に係留されていると考えられるが,細胞質スプライシングの結果,図2図2■bZIP60の細胞質スプライシングに示すようにbZIP60sはbZIP60uがもっていた膜貫通領域を失い,核へ移行できるようになる(9, 11)9) Y. Deng, S. Humbert, J. X. Liu, R. Srivastava, S. J. Rothstein & S. H. Howell: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 108, 7247 (2011).11) Y. Nagashima, K. Mishiba, E. Suzuki, Y. Shimada, Y. Iwata & N. Koizumi: Sci. Rep., 1, 29 (2011)..またイネのbZIP60ホモログでは新たに生じたORFが核移行に重要であるという報告がある(12)12) S. Hayashi, Y. Wakasa, H. Takahashi, T. Kawakatsu & F. Takaiwa: Plant J., 69, 946 (2012)..bZIP60の場合,活性化ドメインは細胞質側に位置するN末端側に存在している.つまり,細胞質スプライシングの結果,活性化ドメインが出現するXBP1の場合とは活性化様式が大きく異なる.
bZIP60の膜貫通領域はIRE1による細胞質スプライシングにおいて重要であると私たちは考えている.細胞質スプライシングがスムーズに起こるには,bZIP60uはIRE1が活性化される際にIRE1のRNaseドメインの近く,つまり小胞体膜上あるいはその近傍,に存在する必要がある.bZIP60uが膜貫通領域をもつことにより,Ribosome nascent chain complex(RNC)が小胞体膜上にリクルートされ,コンプレックス内のbZIP60uにIRE1がアクセスできるというモデルが考えられる.またbZIP60uの細胞質スプライシングにはIRE1による2カ所の切断とイントロンが除かれた後の一つのRNA断片の連結が必要である.IRE1による切断については特徴的な2つのステムループ構造が標的となる(11)11) Y. Nagashima, K. Mishiba, E. Suzuki, Y. Shimada, Y. Iwata & N. Koizumi: Sci. Rep., 1, 29 (2011)..植物のbZIP60ホモログのイントロン切断部位付近の塩基配列を比較すると,2つのステムループ構造が維持されるように塩基配列が保存されており,この構造の重要性が示唆される.HAC1u, XBP1uの場合もよく似た2つのステムループ構造がIRE1の切断には必要である.酵母では切断されたRNA断片の連結にはtRNAリガーゼが働くことがわかっていた(13)13) C. Sidrauski, J. S. Cox & P. Walter: Cell, 87, 405 (1996)..哺乳動物,植物の場合でもtRNAリガーゼが働くことが最近になって示された(14, 15)14) Y. Lu, F. X. Liang & X. Wang: Mol. Cell, 55, 758 (2014).15) Y. Nagashima, Y. Iwata, K. Mishiba & N. Koizumi: Biochem. Biophys. Res. Commun., 470, 941 (2016)..しかし,細胞質スプライシングが起こる小胞体膜上のIRE1およびbZIP60uを含むRNC近傍にどのようにtRNAリガーゼがアクセスするかは明らかでない.
bZIP60は膜結合型転写因子であるが,その活性化は細胞質スプライシングによるものであることを述べてきた.一方,Regulated Intramembrane Proteolysis(RIP)と呼ばれる膜内でのタンパク質レベルの切断により活性化される膜結合型転写因子も存在する.たとえば,哺乳動物の脂質代謝を制御する転写因子SREBP(Sterol Regulatory Element-Binding Protein)は,通常は小胞体膜に局在するが,小胞体のコレステロール量に依存して膜内で切断を受け,転写活性化ドメインを含む領域が小胞体から核へ移行し機能する(16)16) M. S. Brown, J. Ye, R. B. Rawson & J. L. Goldstein: Cell, 100, 391 (2000)..小胞体ストレス応答においても膜結合型転写因子ATF6がRIPにより制御される.ATF6はII型の膜タンパク質でN末端領域が細胞質に存在し,切断されて核へと移行し転写因子として機能する(17)17) K. Haze, H. Yoshida, H. Yanagi, T. Yura & K. Mori: Mol. Biol. Cell, 10, 3787 (1999)..ATF6の切断はゴルジ体に局在するsite-1-protease(S1P)とsite-2-protease(S2P)と呼ばれる2種類のプロテアーゼにより行われる(18)18) J. Ye, R. B. Rawson, R. Komuro, X. Chen, U. P. Davé, R. Prywes, M. S. Brown & J. L. Goldstein: Mol. Cell, 6, 1355 (2000)..これらはSREBPの切断を行うプロテアーゼと同じものである.ATF6の内腔ドメインにはストレス非存在下ではBiPが結合しており,ATF6は小胞体膜に局在している.小胞体ストレス応答の際にはIRE1の場合と同様,BiPが乖離することでATF6は小胞輸送によりゴルジ体へ運ばれS1P, S2Pによる2段階切断を受ける(19)19) J. Shen, X. Chen, L. Hendershot & R. Prywes: Dev. Cell, 3, 99 (2002)..まずS1Pによる切断が起こり,その結果S2Pが切断されたATF6にアクセス可能となり膜内切断が起こる.したがって,S2Pが直接RIPにかかわるプロテアーゼである.
シロイヌナズナではbZIP60以外の膜貫通領域をもつbZIP型転写因子としてよく似たドメイン構造をもつbZIP17, bZIP28とbZIP49がある(2)2) M. Jakoby, B. Weisshaar, W. Dröge-Laser, J. Vicente-Carbajos, J. Tiedemann, T. Kroj & F. Parcy: Trends Plant Sci., 7, 106 (2002)..しかし,bZIP49の発現は確認できず偽遺伝子である可能性が高い.bZIP28は明らかに小胞体ストレス応答に関与している.たとえばbZIP28の膜貫通ドメイン以降を欠失させたタンパク質はプロトプラストを用いた一過的発現系でBiPのプロモーターを活性化する(20)20) H. Tajima, Y. Iwata, M. Iwano, S. Takayama & N. Koizumi: Biochem. Biophys. Res. Commun., 374, 242 (2008)..また,bZIP60, bZIP28のそれぞれ単独の遺伝子破壊株では小胞体ストレス応答関連遺伝子の発現誘導の抑制は部分的であるが(21, 22)21) Y. Iwata, N. F. Fedoroff & N. Koizumi: Plant Cell, 20, 3107 (2008).22) J. X. Liu & S. H. Howell: Plant Cell, 22, 782 (2010).,両遺伝子破壊株ではほとんど発現誘導が見られなくなる(23)23) L. Sun, S. J. Lu, S. S. Zhang, S. F. Zhou, L. Sun & J. X. Liu: Mol. Plant, 6, 1605 (2013)..またbZIP28, bZIP17との二重遺伝子破壊株はそれぞれの単独破壊株と比べて明らかな生育不全を示す(24)24) J. S. Kim, K. Yamaguchi-Shinozaki & K. Shinozaki: Plant Physiol., 176, 2221 (2018)..したがってbZIP17はbZIP28に対して補完的に働いていると考えられる.これ以降,解析の進んでいるbZIP28に特化して述べる.
GFPをbZIP28のN末端側に付加したタンパク質を発現させたシロイヌナズナの培養細胞ではストレス非存在下ではGFP蛍光は小胞体膜に見られるが,ツニカマイシン処理により遅くとも30分後には核で蛍光が検出されるようなる(20)20) H. Tajima, Y. Iwata, M. Iwano, S. Takayama & N. Koizumi: Biochem. Biophys. Res. Commun., 374, 242 (2008)..またbZIP28はツニカマイシンやDTT処理によりタンパク質レベルで切断を受けることが特異抗体を用いたイムノブロットから明らかとなっている(25)25) Y. Iwata, M. Ashida, C. Hasegawa, K. Tabara, K. Mishiba & N. Koizumi: Plant J., 91, 408 (2017)..この場合もやはりストレス処理後30分後には切断されたシグナルが検出される.
bZIP28はN末側に細胞質に配向した活性化ドメイン続いて膜貫通ドメインを有し,C末側が小胞体内腔に存在する.ATF6とbZIP28の間ではアミノ酸レベルでの同一性は非常に低いが,ドメイン構造は両者で類似している.またシロイヌナズナにS1PとS2Pのホモログが存在し,ゴルジ体に局在する(26, 27)26) J. X. Liu, R. Srivastava, P. Che & S. H. Howell: Plant J., 51, 897 (2007).27) P. Che, J. D. Bussell, W. Zhou, G. M. Estavillo, B. J. Pogson & S. M. Smith: Sci. Signal., 3, ra69 (2010)..bZIP28が小胞体ストレス依存的にゴルジ体に輸送されることも示された(28)28) R. Srivastava, Y. Chen, Y. Deng, F. Brandizzi & S. H. Howell: Plant J., 70, 1033 (2012)..したがってATF6と同じくbZIP28もS1PとS2Pにより切断されると予想された.しかし,S1Pの遺伝子破壊株においてbZIP28の切断は野生型と同様に起こることが私たちの研究から明らかとなった(25)25) Y. Iwata, M. Ashida, C. Hasegawa, K. Tabara, K. Mishiba & N. Koizumi: Plant J., 91, 408 (2017)..つまりS1PはbZIP28の切断に関与しないと考えられた.一方,S2Pの遺伝子破壊株ではbZIP28の切断パターンは野生型とは異なっており,S2PがbZIP28の切断にかかわることが示唆された(25)25) Y. Iwata, M. Ashida, C. Hasegawa, K. Tabara, K. Mishiba & N. Koizumi: Plant J., 91, 408 (2017)..このことはS2Pの遺伝子破壊株は野生型と比べてツニカマイシンに対する感受性が亢進しているが,S1P破壊株では野生型と変わらないという実験結果からも支持される.さらにS2P破壊株ではbZIP28の標的遺伝子と考えられる遺伝子の発現誘導が顕著に弱くなる(25)25) Y. Iwata, M. Ashida, C. Hasegawa, K. Tabara, K. Mishiba & N. Koizumi: Plant J., 91, 408 (2017)..以上の結果より植物(シロイヌナズナ)ではS2PはbZIP28のタンパク質切断に関与するがS1Pは関与しないことが明らかとなった.しかし,S2P遺伝子破壊株で全くbZIP28の切断が見られないわけではなく,野生型で見られるシグナルより分子量の大きなシグナルが観察された(25)25) Y. Iwata, M. Ashida, C. Hasegawa, K. Tabara, K. Mishiba & N. Koizumi: Plant J., 91, 408 (2017)..また,S1PとS2Pの二重遺伝子破壊株でも同様の結果が得られた.つまり,S1Pとは異なるプロテアーゼがbZIP28を最初に切断し,その後,S2Pにより切断されるというモデルが想定される(図3図3■bZIP28の膜内切断による活性化).
bZIP60, bZIP28は,共に小胞体ストレス応答関連遺伝子を制御しているが,標的遺伝子にはかなりの重複があると考えられる.bZIP60破壊株ではツニカマイシン処理などによる発現誘導が抑えられる遺伝子が相当数見られるが,ほとんどの場合,完全には抑制されない(21)21) Y. Iwata, N. F. Fedoroff & N. Koizumi: Plant Cell, 20, 3107 (2008)..bZIP28破壊株では顕著に抑制される遺伝子は限られている(22)22) J. X. Liu & S. H. Howell: Plant Cell, 22, 782 (2010)..一方,両遺伝子の二重破壊株ではほとんどの遺伝子の誘導抑制が見られ,ツニカマイシンやDTTなどの小胞体ストレス誘導剤に対する感受性が亢進する(23)23) L. Sun, S. J. Lu, S. S. Zhang, S. F. Zhou, L. Sun & J. X. Liu: Mol. Plant, 6, 1605 (2013)..bZIP60とbZIP28は標的とするシス配列に共通性が見られ,bZIP60とbZIP28がヘテロダイマーを形成することが酵母ツーハイブリッド法により示されている(22)22) J. X. Liu & S. H. Howell: Plant Cell, 22, 782 (2010)..つまり2つの転写因子はお互いの機能を補完しあっていると考えられる.
ストレス非存下でbZIP28はすでにタンパク質として存在しており切断により活性化されるため,転写も翻訳も必要なく活性化が早い.bZIP60の場合,bZIP60uが細胞質スプライシングを受けてbZIP60sとなりbZIP60sが翻訳される.つまり活性型タンパク質の産生に翻訳は必要だが転写は必要ない.以上よりbZIP28が先に小胞体ストレスに応答し,その後bZIP60が標的遺伝子を活性化すると考えられる.
私たちはbZIP28と同様にbZIP17がS2P依存的に切断され,S1Pは切断に関与しないことを確認している(未発表).しかし,bZIP17は塩ストレスなどでも切断を受け(26)26) J. X. Liu, R. Srivastava, P. Che & S. H. Howell: Plant J., 51, 897 (2007).,bZIP28と機能重複はあるもののそれ以外の機能も考えられ,その詳細は明らかでない.
本稿では植物の小胞体ストレス応答において細胞質スプライシングとRIPにより活性化される2つの転写因子bZIP60とbZIP28について述べてきた.細胞質スプライシングは酵母から動物,植物まで保存されている転写因子の活性化機構であるが,不活性型転写因子が膜タンパク質なのは植物のみである.私たちはシロイヌナズナに加えて基部陸上植物であるゼニゴケにおいても,このメカニズムが保存されていることを実験的に確認している(未発表).In silicoの解析から進化的にシロイヌナズナとゼニゴケの間に位置する植物も細胞質スプライシングによって活性化される膜結合型転写因子を有すると考えられる.植物のみが膜結合型の不活性型転写因子をもつ理由,経緯の解明は今後の課題である.RIPによる制御に関しては動物とのアナロジーからはS1Pが関与すると考えられたが,S1Pは関与しないことが実験的に明らかとなった.S1Pではない未知のプロテアーゼの同定が望まれる.
bZIP型転写因子以外に,複数の主にNAC型転写因子が膜結合型として存在する(1)1) S. G. Kim, S. Lee, P. J. Seo, S. K. Kim, J. K. Kim & C. M. Park: Genomics, 95, 56 (2010)..しかし,これらの活性化機構もほとんどわかっていない.RIPプロテアーゼにはS2Pに加えてpresenilin, signal peptide peptidaseおよびrhomboid proteasesの3つのファミリーが知られており(29)29) A. Weihofen & B. Martoglio: Trends Cell Biol., 13, 71 (2003).,シロイヌナズナにはすべてのファミリーのプロテアーゼが存在すると考えられるが(30)30) Z. Adam: Biochim. Biophys. Acta, 1828, 2933 (2013).,その標的が明らかとなっているのは非常に限られる.今後,これらのRIPプロテアーゼの標的が同定されることで膜結合型転写因子の活性化機構ならびにその生理的意義が解明されることが期待される.
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