Kagaku to Seibutsu 56(11): 738-746 (2018)
解説
ひらけごま!見えてきたゴマリグナンの生合成機構(+)-ピノレジノールから(+)-セサミンを経て(+)-セサモリン,(+)-セサミノールに至るユニークで複雑な酸化反応について
Open Sesame! A Long-Time Enigma of Sesame Lignan Oxidation Steps, Deciphered
Published: 2018-10-20
主要な油糧作物であるゴマ(Sesamum indicum)の種子は,古くから体に良い食べ物として食用あるいは薬用として利用されている(1).近年,その有効成分が,ゴマ種子に高蓄積される特有のリグナン類((+)-セサミン,(+)-セサモリン,(+)-セサミノール)であるという研究が多数報告され,健康機能成分としてのリグナン類のさまざまな生理作用が注目されている(2, 3).またゴマ油がほかの食用油と比較して傷みにくいのは,(+)-セサモリンの分解により生成する抗酸化成分,セサモールや(+)-セサミノールがゴマ油の酸化劣化を防ぐことによる(4, 5) など,ゴマリグナンは私たちの暮らしの中で身近な存在である.一方,それらの生合成には未解明な部分があったが,最近の研究によりその全容が見えてきた.
© 2018 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2018 公益社団法人日本農芸化学会
ゴマリグナンは,コニフェリルアルコールの不斉2量化(6)6) L. B. Davin, H.-B. Wang, A. L. Crowell, D. L. Bedgar, D. M. Martin, S. Sarkanen & N. G. Lewis: Science, 275, 362 (1997).により得られた(+)-ピノレジノールを初発物質として,それに続く酸化反応と付加反応(配糖体化)によって生合成される植物二次代謝産物である.ところが,ヒトにさまざまな恩恵をもたらすにもかかわらず,ゴマリグナンの生合成過程の全容は明らかとなっていない.本稿では,ゴマの主要なリグナンである(+)-セサミンおよび(+)-セサミンの前駆体である(+)-ピノレジノールの生成機構について概説し,さらに最近報告された(+)-セサモリン/(+)-セサミノール合成酵素CYP92B14の同定と(7)7) J. Murata, E. Ono, W. Yoroizuka, H. Toyonaga, A. Shiraishi, S. Mori, M. Tera, T. Azuma, A. J. Nagano, M. Nakayasu et al.: Nat. Commun., 8, 2155 (2017).,それにより見えてきた植物二次代謝物の構造多様性を支える新しい酸化反応機構について解説する(図1図1■ゴマ種子におけるリグナン生合成:ゴマ種子におけるリグナン生合成,図2図2■ゴマ種子に蓄積するリグナン類および関連化合物: さまざまなリグナン類の構造).