Kagaku to Seibutsu 56(12): 781-787 (2018)
解説
酸化酵素の脱水素酵素化を目指した分子デザイン酸素分子のゆくえを探る
Molecular Design for Turning Oxidase into Dehydrogenase: Exploring of Oxygen Accessible Pathway
Published: 2018-11-20
酸化酵素とは酸素分子を電子受容体として基質の酸化反応を触媒する酵素である.酸化酵素を用いる近時の酵素センサーでは酸素の代わりにメディエーターとして人工電子受容体を用いた簡便な計測系が採用されている.しかし,酸素を優先的に電子受容体として用いる酸化酵素本来の性質から,試料中の溶存酸素と電子メディエーターとの間で電子授受が競合し,正確な測定ができない.そこで,酸化酵素を改良することで酸素との反応性を抑制した“脱水素酵素化”の実現が望まれている.本解説では,フラビンを補因子とする酸化酵素の脱水素酵素化に関する研究についてその分子デザインの取組みを紹介する.
© 2018 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2018 公益社団法人日本農芸化学会
代表的な酸化還元酵素である酸化酵素および脱水素酵素は一般的に補因子を有しており,補因子を介して基質の酸化還元反応を触媒する.その反応スキームは主に,(1)基質を酸化(脱水素化)する際に補因子が還元される反応;還元的半反応,(2)還元された補因子を再酸化する際に電子受容体を還元する反応;酸化的半反応,の2つに分けられる(図1図1■酸化酵素を素子とする電気化学センサーの模式図および電子受容体の競合).この反応を利用し,1962年にClarkとLyonsによってグルコース酸化酵素と酸素電極を組み合わせたグルコースセンサーが報告されて以来(1)1) L. C. Clark Jr. & C. Lyons: Ann. N. Y. Acad. Sci., 102, 29 (1962).,酸化酵素を分子認識素子とするさまざまなバイオセンサーが市販されている.酸化酵素は基質を脱水素化したのち,酸化的半反応においては,電子受容体となる酸素に電子を受け渡すことで基質の酸化反応を触媒する.このことから,生じる過酸化水素を電極上で酸化する,あるいは酸素濃度の減少を計測することで,基質濃度に依存した応答電流値を得ることができる.この原理を利用したものを第一世代型センサーという(2)2) S. Ferri, K. Kojima & K. Sode: J. Diabetes Sci. Technol., 5, 1069 (2011)..また,酸化酵素は酸化的半反応において種々の人工電子受容体にも電子を受け渡すことができる.そのため人工電子受容体を酵素と電極間の電子メディエーターとして利用することで,基質濃度に依存した応答電流値が得られる.この原理を利用したものを第二世代型センサーという(2)2) S. Ferri, K. Kojima & K. Sode: J. Diabetes Sci. Technol., 5, 1069 (2011)..近年,酸素も人工電子受容体も用いず,酸化還元酵素と電極との直接の電子授受に基づく計測原理,直接電子移動型が第三世代の原理として注目されている(2)2) S. Ferri, K. Kojima & K. Sode: J. Diabetes Sci. Technol., 5, 1069 (2011)..
第一世代型センサーでは過酸化水素の酸化に高電位を印加する必要があり,血中の標的物質濃度を測定する際には血液に含まれるアスコルビン酸や尿酸などの夾雑物質まで酸化してしまうことによって測定値が高く出てしまうという問題があるほか,試料中の溶存酸素濃度の変化によって測定値が大きく変化するという問題がある.第二世代型センサーでは比較的低い印加電位で電子メディエーターを酸化できるが,酸化酵素を用いた場合には試料中の溶存酸素と電子メディエーターが酸化的半反応において競合してしまい,応答電流値が減少してしまうという課題がある(図1図1■酸化酵素を素子とする電気化学センサーの模式図および電子受容体の競合).第二世代型のセンサーでは,酸素を電子受容体としない脱水素酵素の利用が理想的であるが,生化学分析などにおける目的基質を計測できる酵素が必ずしも見いだされているわけではない.これまでに報告されている優れた性質と生化学分析での実績のある酸化酵素を対象として,酸化的半反応において,酸素との反応性のみを減少させ,人工電子受容体との反応性を維持するような,“脱水素酵素化”ができれば,正確性や安定性に優れたバイオセンサーの作製が可能である.本稿では種々の酵素の中でもバイオセンサー素子として最も多く用いられているフラビンを補因子として有する酸化酵素を脱水素酵素化した,筆者らのこれまでの研究を中心にこの分子デザインの研究戦略を解説する.
フラビンを補因子として有する酸化酵素は酸化的半反応の際に,酵素外部から活性中心であるフラビン(FADまたはFMN;図2図2■フラビン型補因子とイソアロキサジン環の構造)近傍まで酸素分子を取り込んでいると考えられている(3)3) V. Massey: J. Biol. Chem., 269, 22459 (1994)..しかし,酸素分子が酸化酵素のどの位置に取り込まれているのかは不明である.2003年にStreptomyces sp. SA-COO由来コレステロール酸化酵素(Cholesterol Oxidase; ChOx, EC 1.1.3.6)の結晶構造が解析され,構造内部に酸素の位置を示した構造が報告された(4)4) P. I. Lario, N. Sampson & A. Vrielink: J. Mol. Biol., 326, 1635 (2003)..ChOxはFADを補因子とし,コレステロールを酸化し,Cholest-4-en-3-oneを生成する酸化酵素である(図3図3■コレステロール酸化酵素(ChOx)の反応スキーム).ChOxはその構造のホモロジーからGlucose-Methanol-Choline(GMC)oxidoreductaseファミリーに分類される.結晶構造中の酸素の位置を詳細に見てみると,非極性アミノ酸残基によって囲まれていることがわかった(図4(A)図4■ChOxの酸素存在部位とGOxとの比較).当研究グループにて,酸素の存在部位を構成するすべてのアミノ酸残基に対して網羅的に変異導入したところ,Val191に対して変異導入することにより,酸素との反応性が減少した一方,人工電子受容体との反応性を向上させることに成功した(5)5) K. Kojima, T. Kobayashi, W. Tsugawa, S. Ferri & K. Sode: J. Mol. Catal., B Enzym., 88, 41 (2013)..得られたVal191Ala変異体は酸素を電子受容体としたときの酵素活性である,酸化酵素活性を野生型の4.6%まで減少させ,人工電子受容体を用いたときの酵素活性,すなわち脱水素酵素活性を野生型の242%まで増加させた.これらの結果から,結晶構造中に確認された酸素分子の位置近傍に対して変異導入することで,酵素外部から取り込まれた酸素が安定的に存在できず,酸素分子がFAD近傍に侵入できなくなり脱水素酵素化されたことが示唆された.
当研究グループではさらに,ChOxの脱水素酵素化における戦略をグルコース酸化酵素(Glucose Oxidase; GOx, EC 1.1.3.4)に応用した.GOxは高い安定性と基質特異性を有し,血糖自己計測用のグルコースセンサーに用いられてきた代表的な酵素である.近年ではカビ由来のFADを補酵素とするグルコース脱水素酵素(Glucose dehydrogenase; GDH, EC 1.1.5.9)が第二世代型の原理に基づく血糖自己計測用酵素として用いられており,その構造も明らかになっている(6)6) H. Yoshida, G. Sakai, K. Mori, K. Kojima, S. Kamitori & K. Sode: Sci. Rep., 5, 13498 (2015)..しかし,GOxは基質特異性や安定性においてGDHに勝っており,GOxの脱水素酵素化が望まれている.GOxは先述のChOxと同様,FADと結合するフラビン依存型酸化酵素であり,GMC oxidoreductaseファミリーに属している.GOxは還元的半反応においてβ-D-グルコースをD-グルコノ-δ-ラクトンに酸化し,酸化的半反応において酸素を電子受容体として過酸化水素を生成する(図5図5■グルコース酸化酵素(GOx)の反応スキーム).これまでにAspergillus nigerやPenicillium amagasakiense由来のGOxについて詳細な解析や結晶構造解析が行われている(7)7) G. Wohlfahrt, S. Witt, J. Hendle, D. Schomburg, H. M. Kalisz & H.-J. Hecht: Acta Crystallogr. D Biol. Crystallogr., 55, 969 (1999)..そこで,GOxとChOxが同じファミリーに属する酵素であり,立体構造が類似していることに当研究グループでは注目した.すなわち,ChOxの結晶構造における酸素の存在位置に注目し,GOxとChOxの構造を重ね合わせた(図4(B, C)図4■ChOxの酸素存在部位とGOxとの比較).その結果,見いだされたGOxにおける酸素近傍に位置するアミノ酸残基への変異導入を試みた.P. amagasakiense由来GOxのSer114およびPhe355に対して部位特異的変異導入を行った結果,野生型と比較してSer114Ala変異体の酸化酵素活性は31%,脱水素酵素活性は370%を示した(8)8) Y. Horaguchi, S. Saito, K. Kojima, W. Tsugawa, S. Ferri & K. Sode: Int. J. Mol. Sci., 13, 14149 (2012)..また,Ser114Ala/Phe355Leu二重変異体は野生型と比較して8.8%の酸化酵素活性,280%の脱水素酵素活性を示した(9)9) Y. Horaguchi, S. Saito, K. Kojima, W. Tsugawa, S. Ferri & K. Sode: Electrochim. Acta, 126, 158 (2014)..このことから,同じファミリーに属しているChOxとGOxでは構造の類似性を利用し,酵素中の酸素分子が安定的に存在できる部位を特定して改変することにより,脱水素酵素化できることが示された.
一方で,同じGOxであっても異なる戦略で脱水素酵素化できることが報告されている.TremeyらはP. amagasakiense由来GOxのFAD近傍のアミノ酸残基の極性に着目し, GOxの脱水素酵素化を試みている(10)10) E. Tremey, C. Stines-Chaumeil, S. Gounel & N. Mano: ChemElectroChem, 4, 2520 (2017)..酸化酵素の酸化的半反応はフラビンのもつイソアロキサジン環のC(4a)から酸素分子への一電子移動により開始され,還元型フラビンの再酸化に伴って過酸化水素が生成される.そこで,GOxにおいてイソアロキサジン環近傍に位置する非極性アミノ酸残基であるVal564を極性アミノ酸残基であるSerまたはThrに置換したところ,脱水素酵素化されたことが示された.これは非極性分子である酸素がイソアロキサジン環近傍に侵入しにくくなったためであると考えられる.このことから,イソアロキサジン環近傍の極性を変化させることで酸素分子のイソアロキサジン環近傍への侵入を妨げ,脱水素酵素化できることが示された.
これまでに説明してきたフラビン依存型酸化酵素の脱水素酵素化に関する研究では,いずれも酵素分子内の酸素分子に対してイソアロキサジン環へのアクセスを妨害することによるものであると考えられる.では,酸素分子はどのようにイソアロキサジン環にアクセスしているのだろうか.
その答えの一端が糖化タンパク質計測用酵素として用いられているフルクトシルアミノ酸酸化酵素(Fructosyl amino acid oxidase; FAOx)およびフルクトシルペプチド酸化酵素(Fructosyl peptide oxidase; FPOx)の脱水素酵素化に関する研究から明らかとなった.FAOxおよびFPOxはともにFAD依存型酸化酵素であり,フルクトシルアミノ酸やフルクトシルペプチドを酸化し,グルコソンとアミノ酸・ペプチド,過酸化水素を生じる反応を触媒する(図6図6■フルクトシルアミノ酸酸化酵素(FAOx)またはフルクトシルペプチド酸化酵素(FPOx)の反応スキーム).また,FAOxやFPOxは,補因子であるFADから水分子やアミノ酸残基間の水素結合を介して酸素分子へプロトンが輸送される,プロトンリレーシステムを酸化的半反応に用いていると考えられている.当研究グループでは,種々のFAOxやPhaeosphaeria nodorum由来FPOx(PnFPOx)(11)11) S. Kim, S. Ferri, W. Tsugawa & K. Sode: Biotechnol. Bioeng., 106, 358 (2010).のプロトンリレーシステムを崩すような変異を導入し,酸化的半反応機構を改変した変異体を獲得することに成功している(12, 13)12) S. Kim, E. Nibe, S. Ferri, W. Tsugawa & K. Sode: Biotechnol. Lett., 32, 1123 (2010).13) S. Kim, E. Nibe, W. Tsugawa, K. Kojima, S. Ferri & K. Sode: Biotechnol. Lett., 34, 491 (2012)..さらに,PnFPOxにおいてAsn56がプロトンリレーシステムに関与し,Asn56Ala変異によってプロトンリレーシステムが崩れたことを確かめるため,当研究グループでは野生型,変異体それぞれのX線結晶構造解析を行い,得られた構造を報告している(14)14) T. Shimasaki, H. Yoshida, S. Kamitori & K. Sode: Sci. Rep., 7, 2790 (2017)..構造を見ると,野生型PnFPOxにおいて形成されていたAsn56, Lys274間の水素結合は,Asn56Ala変異体の立体構造では見られなくなり,Lys274の側鎖は,近傍のAsp54との相互作用を示していた.これはAsn56–Lys274間の水素結合がなくなり,Lys274–Asp54間の静電的相互作用によってLys274の側鎖が引き寄せられたためであると考えられた.そして,Lys274の位置の変化によって,野生型では存在した酵素外部からイソアロキサジン環まで続くチャネルがAsn56Ala変異体では閉じていることが明らかとなった(図7図7■PnFPOx野生型(A)およびAsn56Ala変異体(B)のFAD近傍の構造と予測された酸素分子の移動経路).このことから,アミノ酸残基間の水素結合を妨げ,プロトンリレーシステムを崩しただけでなく,酸素分子自体がFAD近傍に特定の移動経路を通って近づいていること,その経路が閉じることにより酸素分子がイソアロキサジン環に近づけなくなって脱水素酵素化できたと考えられた.
以上の研究を踏まえると,フラビンを有する酸化酵素では酸素分子が酵素外部から特定の移動経路を通ってイソアロキサジン環近傍に達していると考えられる.また,その経路を塞ぎ,酸素分子のフラビン近傍への侵入を妨げることで酸素との反応性を著しく下げられたと予想された.そこで当研究グループでは新たにFMN依存型酸化酵素である乳酸酸化酵素にこの戦略を適用した.
Aerococcus viridans由来乳酸酸化酵素(Lactate oxidase; LOx, EC 1.1.3.15)は還元的半反応においてL-乳酸を酸化し,ピルビン酸を生成する反応を触媒する(図8図8■乳酸酸化酵素(LOx)の反応スキーム).酸化的半反応においては酸素を電子受容体としFMNを再酸化するFMN依存型の酸化酵素である.また,LOxはβ8/α8-バレル(TIMバレル)構造を有し,βバレルのC末端側にFMNのイソアロキサジン環が結合している,α-ヒドロキシ酸酸化酵素・脱水素酵素ファミリーに属する酵素である(15)15) K. Maeda-Yorita, K. Aki, H. Sagai, H. Misaki & V. Massey: Biochimie, 77, 631 (1995)..本酵素は高い基質特異性,安定性,活性をもつことから,乳酸センサー素子として利用されてきた.L-乳酸は医療・スポーツ・食品の各分野において重要なマーカーとして知られており,医療分野では乳酸アシドーシスの指標,スポーツ分野ではアスリートの持久力やトレーニング効果の指標,食品分野では発酵食品の品質管理などに用いられている(16)16) K. Rathee, V. Dhull, R. Dhull & S. Singh: Biochem. Biophys. Rep., 5, 35 (2016)..近年では本酵素と電子メディエーターを用いた乳酸センサーが市販されている.しかし,試料中の溶存酸素と電子メディエーターがFMNからの電子授受を競合し,応答電流値が変動することが懸念されている(17)17) 株式会社アークレイ:乳酸測定活用サイト,https://biz.arkray.co.jp/lact/confirm/introduction.html, 2012..このような背景からLOxを“脱水素酵素化”することが望ましい.
LOxはこれまでに紹介したFAD依存型の酸化酵素とは異なり,ChOxやGOxに見られた酵素内部の酸素分子の存在位置や,FPOxに見られたプロトンリレーシステムは報告されていない.また,構造が大きく異なることから,これらの構造との単純な比較もできない.そこで,すでに明らかとなっているLOxの結晶構造(18)18) S. J. Li, Y. Umena, K. Yorita, T. Matsuoka, A. Kita, K. Fukui & Y. Morimoto: Biochem. Biophys. Res. Commun., 358, 1002 (2007).に基づき,LOxの分子表面から活性中心のFMN近傍まで続く,酸素分子が通ることのできるチャネルを予測した(図9(A)図9■(A)LOxの酵素表面からFMN近傍まで続くチャネルおよび(B)チャネルを塞ぐ変異導入.(C)野生型LOxおよび(D)Ala96Leu変異体の酸化酵素活性と脱水素酵素活性).このチャネルが酸素分子の移動経路であると仮定し,チャネルに向かって側鎖が伸びているアミノ酸残基のうち,還元的半反応に関与していないと考えられるAla96に対して部位特異的変異導入を行うことでチャネルを塞ぐことを試みた(図9(B)図9■(A)LOxの酵素表面からFMN近傍まで続くチャネルおよび(B)チャネルを塞ぐ変異導入.(C)野生型LOxおよび(D)Ala96Leu変異体の酸化酵素活性と脱水素酵素活性).その結果,得られたAla96Leu変異体は酸化酵素活性が野生型の1%まで減少し,脱水素酵素活性が110%に唯一増加したことを示した(図9(C, D)図9■(A)LOxの酵素表面からFMN近傍まで続くチャネルおよび(B)チャネルを塞ぐ変異導入.(C)野生型LOxおよび(D)Ala96Leu変異体の酸化酵素活性と脱水素酵素活性).このことからAla96Leu変異体は酸素分子の移動経路を塞ぎつつ,人工電子メディエーターとの反応性を維持できたと考えられた.これらのことから,本戦略によってLOxを脱水素酵素化できたことが明確に示されたといえる.さらに,Ala96Leu変異体の熱安定性や基質特異性が野生型LOxとほぼ変わらないことも踏まえて,筆者らはLOx Ala96Leu変異体を電極に固定し,電子メディエーター存在下で溶存酸素の影響を評価した.
野生型LOxを固定した電極を用いた場合,大気環境下では試料中の溶存酸素の影響を受けてしまい,0.05–0.5 mMの範囲での乳酸濃度では応答電流値がほとんど得られなかった.これは酸素が含まれない,アルゴン雰囲気下での応答電流値の10%以下であった.一方,LOx Ala96Leu変異体を固定した電極を用いた場合,大気環境下において明確な応答電流値が観察された.これは酸素が含まれない,アルゴン雰囲気下での応答電流値の約60%を維持していたことが示された.以上から,脱水素酵素化したLOxを用いることで試料中の溶存酸素の影響を減少させることに成功した(19)19) K. Hiraka, K. Kojima, C.-E. Lin, W. Tsugawa, R. Asano, J. T. La Belle & K. Sode: Biosens. Bioelectron., 103, 163 (2018)..
本解説ではさまざまなフラビン依存型酸化酵素の脱水素酵素化に関する知見をまとめ,そこから見えてきた脱水素酵素化に関する新たな戦略を適用することでLOxの脱水素酵素化に成功した事例を解説した.
今回紹介した一連の研究では,酸化酵素と脱水素酵素の明確な違いとして,酸素分子が活性中心へアクセスできる特定のチャネルの存在を示し,そのチャネルを塞ぐことで酸化酵素を脱水素酵素化するという新たな戦略を提示するものである.脱水素酵素化した酵素を素子とすることで正確なセンサーの作製が可能であることも示してきた.今後,さまざまな酸化酵素を脱水素酵素化することで溶存酸素の影響を低減した正確なセンサーの開発が期待される.
また近年,電子メディエーターを酵素に直接修飾することで疑似的な直接電子移動型酵素を構築できることを当研究グループから報告している(20)20) M. Hatada, N. Loew, Y. Inose-Takahashi, J. Okuda-Shimazaki, W. Tsugawa, A. Mulchandani & K. Sode: Bioelectrochemistry, 121, 185 (2018)..電子メディエーター修飾型酵素では電極に固定した際に新たに電子メディエーターを添加する必要がなく,酵素と電極間での直接的な電子授受が可能となることから,連続計測型センサーにおける新たなセンサー素子として期待されている.しかしながら,生体試料中の酸素濃度は代謝異常時や運動時に大きく変化することから,酸化酵素を用いた場合には溶存酸素の影響を受けるのは必至である.一方で今回の戦略に則り,酸化酵素を脱水素酵素化することでこの問題を解決することができる.今後,脱水素酵素化した酵素に電子メディエーターを修飾し,低侵襲型デバイスと組み合わせることで血中や間質液中成分を正確に連続計測できるセンサーの開発が期待できる.
Acknowledgments
本稿で述べた乳酸酸化酵素の脱水素酵素化に関する研究は,2016年から2017年にかけて米国アリゾナ州立大学Jeffrey La Belle教授の研究室との共同研究によって行われて得た成果である.本稿の終わりに,改めてJeffrey La Belle教授をはじめとする関係者に心より感謝申し上げる.
Reference
1) L. C. Clark Jr. & C. Lyons: Ann. N. Y. Acad. Sci., 102, 29 (1962).
2) S. Ferri, K. Kojima & K. Sode: J. Diabetes Sci. Technol., 5, 1069 (2011).
3) V. Massey: J. Biol. Chem., 269, 22459 (1994).
4) P. I. Lario, N. Sampson & A. Vrielink: J. Mol. Biol., 326, 1635 (2003).
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6) H. Yoshida, G. Sakai, K. Mori, K. Kojima, S. Kamitori & K. Sode: Sci. Rep., 5, 13498 (2015).
10) E. Tremey, C. Stines-Chaumeil, S. Gounel & N. Mano: ChemElectroChem, 4, 2520 (2017).
11) S. Kim, S. Ferri, W. Tsugawa & K. Sode: Biotechnol. Bioeng., 106, 358 (2010).
12) S. Kim, E. Nibe, S. Ferri, W. Tsugawa & K. Sode: Biotechnol. Lett., 32, 1123 (2010).
13) S. Kim, E. Nibe, W. Tsugawa, K. Kojima, S. Ferri & K. Sode: Biotechnol. Lett., 34, 491 (2012).
14) T. Shimasaki, H. Yoshida, S. Kamitori & K. Sode: Sci. Rep., 7, 2790 (2017).
15) K. Maeda-Yorita, K. Aki, H. Sagai, H. Misaki & V. Massey: Biochimie, 77, 631 (1995).
16) K. Rathee, V. Dhull, R. Dhull & S. Singh: Biochem. Biophys. Rep., 5, 35 (2016).
17) 株式会社アークレイ:乳酸測定活用サイト,https://biz.arkray.co.jp/lact/confirm/introduction.html, 2012.