解説

植物が温度を感じる仕組みようやく発見!植物の温度センサー分子

A Mechanism of Temperature Sensing in Plants: Discovery of Temperature Sensory Molecule in Plants

Yutaka Kodama

児玉

宇都宮大学バイオサイエンス教育研究センター

Published: 2018-12-20

生物はどうやって温度を感じるのか? 非常にシンプルな問いであるが,わからないことが多い.これまで,さまざまな生物で温度センサー分子が報告されているが,植物では一つも見つかっていなかった.筆者らは,植物細胞で起こる温度依存性の葉緑体配置変化について研究し,最近,青色光受容体フォトトロピンが温度センサー分子であることを発見した.また,この発見を基盤にして,生物の温度感知に関する新しい説を提唱している.本稿では,青色光受容体フォトトロピンによる温度感知のメカニズムを解説するだけでなく,これの解明にたどりつくまでの10年間について記録したいと思う.

生物の温度感知

当たり前であるが,気温は,太陽の影響によって,昼間に上昇して夜間に低下する.季節の変わり目になると,日中の気温と比べて,朝晩の気温が急激に下がる場合があり,その時期は,体調を崩す人も多いと思われる.このような一日の寒暖差は,日較差と呼ばれる.日較差を知る一例として,筆者在住の栃木県宇都宮市における1年間(2017年)の最高気温および最低気温を気象庁のデータから抽出してきた(図1A図1■宇都宮市における2017年の日較差).宇都宮市は,海に面していない内陸に位置するため,夏が暑くて冬が寒い場所である.最高気温および最低気温のデータを使って日較差をグラフにしてみた(図1B図1■宇都宮市における2017年の日較差).このグラフを見ると,宇都宮市の日較差は,最大で20.8°C(2月17日),一年を通してみると,平均して10°C前後であることがわかる.言い換えると,宇都宮市におけるすべての生物(筆者を含め)が,連日,約10°Cの温度変化に晒されていることになる.この温度変化に対して,筆者は,身体で起こる発汗や発熱だけでなく,外出時には着衣量,室内では便利な道具(エアコンなど)を使って対応している.ほかの動植物や微生物などは,着衣も便利な道具もないので,さまざまな方法を使って,この温度変化に対応していることが想像できる.しかし,生物が温度変化に対してさまざまな対応を行うためには,まず,「温度の感知」が必須となる.

図1■宇都宮市における2017年の日較差

(A)最高気温と最低気温.(B)日較差.

生物は,温度変化に迅速に対応するために,温度を感知するセンサー分子をもっていると考えられる.しかし,その実態はあまりわかっていない.これまで報告されている温度センサー分子は,DNA型,RNA型,タンパク質型,膜–タンパク質型に分けられる(1)1) P. Sengupta & P. Garrity: Curr. Biol., 23, R304 (2013)..これらの温度センサーは,原核細胞と真核細胞から見つかっているが,分子の特徴に共通性はほとんどない.唯一,TRP(transient receptor potential)チャンネルは,カビや酵母などの真菌類および昆虫を含む多くの動物において発見されている.しかし植物だけは,このTRPチャンネルをもっておらず,長い植物科学の歴史の中で,一つも温度センサー分子が見つかっていない状況であった.

植物と温度

植物は,根を張ると,二度と移動することができないため,常に外界の温度変化に晒される.夜が明けて太陽が昇ると,気温はグングンと上昇し,これに加えて,直射日光を浴びる場合は,太陽光に含まれる熱線によって,植物の体温は急上昇する.一方,日没を迎えると気温は低下し,特に,晴れた夜は放射冷却によって気温が急低下するため,これに伴って,植物の体温も低下する.植物は,動物のように動くことができないため,快適な場所に移動することはできない.そのため,常に変化する温度を受け入れて,自身を変化することで対応している.わかりやすい現象は,遺伝子発現の変化であり,たとえば,シロイヌナズナでは,低温に晒された場合,約300個の遺伝子が変化する(2)2) S. Fowler & M. F. Thomashow: Plant Cell, 14, 1675 (2002)..また植物細胞内では,細胞小器官(オルガネラ)の温度依存的な特徴的な動きもみられる.それが,筆者の研究室で解析を行っている低温誘導性の葉緑体定位運動である.

低温誘導性の葉緑体定位運動(寒冷逃避反応)

植物細胞は,光合成を担うオルガネラとして葉緑体をもっている.この葉緑体は,細胞内でじっとしているわけではない.わかりやすい例は,光に対する反応である.植物細胞が,20°C付近の温度下で強い強度の光(強光)に晒されると,葉緑体は,光ダメージを避けるために光から逃げて,結果的に細胞側面に配置する(以後,逃避反応と呼ぶ)(図2A図2■光と温度によって変わる葉緑体の細胞内配置).一方,植物細胞が,弱い強度の光(弱光)に晒されると,葉緑体は光合成を最大化するために光に集まって,結果的に細胞表面に配置する(以後,集合反応と呼ぶ)(図2B図2■光と温度によって変わる葉緑体の細胞内配置).この光に対する反応は,周囲の温度環境によって変動する.たとえば,20°C付近の温度下で弱光に晒されている植物細胞内では,葉緑体が細胞表面に配置するが(図2B図2■光と温度によって変わる葉緑体の細胞内配置),温度を5℃付近まで低下させると,葉緑体は細胞側面に配置する(図2C図2■光と温度によって変わる葉緑体の細胞内配置).この現象は,低温誘導性の葉緑体定位運動と呼ばれ,19世紀から知られている現象である.特に,スイスのバゼル大学のGustav Senn博士による1908年の論文(3)3) G. Senn: “Die Gestalts–und Lageveränderung der Pflanzen–Chromatophoren” Wilhelm-Engelmann, 1908.では,低温誘導性の葉緑体定位運動に関して初めて詳細な実験が行われた.しかし,残念なことに,その後1世紀もの間,研究空白が生まれてしまい,誰も研究する者がいなかった.そして,Senn博士の論文発表から時が過ぎること,ちょうど100年後の2008年,筆者らは,ホウライシダで低温誘導性の葉緑体定位運動を偶然に再発見することになった(4)4) Y. Kodama, H. Tsuboi, T. Kagawa & M. Wada: J. Plant Res., 121, 441 (2008).

図2■光と温度によって変わる葉緑体の細胞内配置

(A)常温(20°C)で強光に晒された植物細胞における葉緑体の配置.(B)常温(20°C)で弱光に晒された植物細胞における葉緑体の配置.(C)低温(5°C)で弱光に晒された植物細胞における葉緑体の配置.植物細胞を横から見た模式図であり,強光は直射日光(A)で,弱光は曇り(B)(C)で表現した.

説明がややこしいので,ほとんどを割愛するが,当時,4°Cの冷蔵庫に蛍光灯を入れて,ホウライシダの前葉体を培養する「遊びの実験」を行っていた.ある夜,4°C蛍光灯下で前葉体の培養を開始して帰宅した.翌日,たまたま顕微鏡で細胞を見てみると,何かがおかしい,ことに気づいた.使っていた蛍光灯の光強度は弱いはずなのに,葉緑体が細胞表面に綺麗に配置していないのである.そこで,再現性を確認するために,再度,4°C弱光下で前葉体を培養してみたところ,葉緑体が細胞表面でなく,細胞側面に配置した.筆者らは,本現象を,「寒冷逃避反応」と呼んでいる.さまざまな生理実験を行ったが,光強度を上げると,寒冷逃避反応が強く誘導されることがわかり,これが分子機構の手がかりになった.当時,所属していたのは,上述した光に対する葉緑体定位運動の研究を精力的に行っていた和田正三先生の研究室である.和田研究室では,光に対する葉緑体定位運動を解析するために,光受容体が欠損した複数種類のホウライシダ変異体をもっていた.とりあえず試してみると,驚くことに,青色光受容体のフォトトロピンを欠損した変異体で,寒冷逃避反応が起こらないことがわかった(4)4) Y. Kodama, H. Tsuboi, T. Kagawa & M. Wada: J. Plant Res., 121, 441 (2008)..つまり,寒冷逃避反応は温度依存的に起こるのに,なぜか,青色光受容体フォトトロピンが必須なのである.

青色光受容体フォトトロピン

フォトトロピン(Phototropin)は,植物の青色光受容体として知られており,高校の教科書でも取り上げられているタンパク質である.略して,Photと表記する.Photは,N末端領域に光受容ドメインであるLOV(Light-Oxygen-Voltage)ドメインを2つ(以後,LOV1とLOV2と呼ぶ),C末端領域にセリン−スレオニン型キナーゼドメイン(以後,キナーゼドメインと呼ぶ)を一つもっている(図3A図3■Photの機能ドメインとLOVドメインの活性化).それぞれのLOVドメインには,発色団としてフラビンモノヌクレオチド(FMN)が1分子ずつ結合する.図3B図3■Photの機能ドメインとLOVドメインの活性化に示すように,FMNは,暗所ではLOVドメインと非共有的に結合しており,青色光を受容するとLOVドメインがもつシステイン残基と共有結合する.LOVドメインで共有結合が起こると,キナーゼドメインに情報が伝えられ,Photは自己リン酸化する.この自己リン酸化は,下流因子に情報を伝えるために重要と考えられている.

図3■Photの機能ドメインとLOVドメインの活性化

(A) Photで保存されている機能ドメイン.N末端領域にLOV1ドメインとLOV2ドメイン,C末端領域にセリン–スレオニンキナーゼドメインをもつ.N, N末端.F, フラビンモノヌクレオチド.C, C末端.(B)青色光によるLOVドメインの活性化.暗黒下では,フラビンモノヌクレオチドがLOVドメインに非共有結合しているが,青色光を受容すると,LOVドメインのもつシステインとフラビンモノヌクレオチドが共有結合し,LOVドメインは,活性型となる.

さまざまな植物が,Photをコードする遺伝子をもっていることがわかっているが,その数は,植物種によって異なる.たとえば,シロイヌナズナのゲノムには,2種類のPhot(以後,Phot1, Phot2と呼ぶ)がコードされている.上述のホウライシダでは,Phot1とPhot2に加えて,Photの構造に,赤色光を受容できるドメインをN末端側にもつNeochrome1(以後,Neo1と呼ぶ)をコードすることもわかっている.Phot1は,弱い青色光に葉緑体が集まる反応に関与し,Phot2は弱い青色光に集まる反応および強い青色光から逃げる反応の両方に関与する.Neo1は,赤色光に集まる反応に関与する.ホウライシダの3つのPhot分子(Phot1, Phot2,およびNeo1)のうち,寒冷逃避反応に必須なのは,Phot2であり,Phot1とNeo1は誘導に関与しない(4)4) Y. Kodama, H. Tsuboi, T. Kagawa & M. Wada: J. Plant Res., 121, 441 (2008).

筆者は,ホウライシダのPhot2が寒冷逃避反応に必須であることを2008年に発表した後(4)4) Y. Kodama, H. Tsuboi, T. Kagawa & M. Wada: J. Plant Res., 121, 441 (2008).,ポスドクとして,全く異なる研究に2年間(2009~2010)従事した.この間,あれこれと考えていた.「もしラボをもつことができたら,寒冷逃避反応に関する研究を再開しよう」や「もし再開できたら,〇〇をしよう」と構想していた.ラボをもてなかったら,ただの妄想である.

構想(妄想)の中で,特に,植物材料を悩んでいた.今までどおりホウライシダを使うか,ほかの植物を使うか.ホウライシダの利点は,とにかく葉緑体が見やすく,寒冷逃避反応が確実に起こることである.しかし,形質転換技術が確立されていないため,分子生物学をやるには辛そうである.一方,ほかの材料を使う場合,葉緑体を見やすく,寒冷逃避反応が確実に起こる植物種を探すことが必要である.いくつかの植物で寒冷逃避反応を試し,一つの良い植物種を見つけた.苔類ゼニゴケである.葉緑体を見やすく,寒冷逃避反応を確認できた.京都大の河内孝之先生の研究室で,モデル苔類として確立するために精力的に技術開発が行われていた.2008年には,当時,河内研究室の助教だった石崎公庸先生(現・神戸大准教授)を第一著者として,形質転換技術の確立に関する論文が発表された(5)5) K. Ishizaki, S. Chiyoda, K. T. Yamato & T. Kohchi: Plant Cell Physiol., 49, 1084 (2008)..しかも,ホウライシダが3つのPhot分子をもっているのに対して,ゼニゴケはPhot分子をたった一つしかもっていない(6)6) A. Komatsu, M. Terai, K. Ishizaki, N. Suetsugu, H. Tsuboi, R. Nishihama, K. T. Yamato, M. Wada & T. Kohchi: Plant Physiol., 166, 411 (2014)..ゼニゴケを使おう,と決心した.

ゼニゴケの葉緑体寒冷逃避反応

合計4年間のポスドク修行も終わり,2011年4月から,運良く,研究室主宰者となれた.いろいろと構想したことが妄想とならなくて良かった.しかし,たった一人の研究室であり,研究費はほぼゼロ.とりあえず,ゼニゴケの寒冷逃避反応を再確認しようと考えたが,何ももっていないし,研究費もない.とりあえず,壊れかけの冷蔵庫,捨てられていた板をもらい,蛍光灯だけを購入した.それらを使って,低温処理装置付き光照射システムを作った(図4A図4■温度と光を制御する自作の実験装置).本システムは,一晩4°Cに維持すると,「ときどき止まる」という困ったオプションがついていた.何度か挑戦して,ゼニゴケにおいて寒冷逃避反応が起こることを確認することができた.その後は,科研費の研究活動スタート支援や住友財団の基礎研究助成などを受けることができたため,ちゃんとしたインキュベーターを購入することができ,ゼニゴケの寒冷逃避反応に関する最初の論文を発表することができた(7)7) Y. Ogasawara, K. Ishizaki, T. Kohchi & Y. Kodama: Plant Cell Environ., 36, 1520 (2013)..研究費のないときなど,困ったときに支援してもらったことは一生忘れることはない.さて,研究材料もそろったため,寒冷逃避反応の研究を再開した.寒冷逃避反応に関して,大きな2つの疑問があった.一つ目は,「温度センサーは何か?」,2つ目は,「生理学的な意義は何か?」である.次章からは,具体的な研究の話に入りたい.

図4■温度と光を制御する自作の実験装置

(A)低温処理装置付き光照射システム.今では,倉庫の奥で眠っている.(B)温度制御顕微鏡.温度制御顕微鏡の詳細は,[Tanaka et al. (2017) J. Plant Res., 130: 1061–1070]および[Fujii et al. (2017) PNAS, 114: 9206–9211]を参照.

温度センサーは何か?

まずは,温度センサーは何か? という疑問からである.ホウライシダにおいて,Phot2が寒冷逃避反応に必須であることがわかっていた(4)4) Y. Kodama, H. Tsuboi, T. Kagawa & M. Wada: J. Plant Res., 121, 441 (2008)..そこで,ゼニゴケでもPhotが必須か否かを確かめるため,ゼニゴケのphot変異体を報告していた河内先生(京都大学)から,phot変異体を分与していただいた(6)6) A. Komatsu, M. Terai, K. Ishizaki, N. Suetsugu, H. Tsuboi, R. Nishihama, K. T. Yamato, M. Wada & T. Kohchi: Plant Physiol., 166, 411 (2014)..その結果,ゼニゴケでもPhotが寒冷逃避反応に必須であることがわかった(8)8) Y. Fujii, H. Tanaka, N. Konno, Y. Ogasawara, N. Hamashima, S. Tamura, S. Hasegawa, Y. Hayasaki, K. Okajima & Y. Kodama: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 114, 9206 (2017).

次にPhotが青色光受容体であることから,青色光依存性を確かめた.それまでは,白色弱光・5°Cの条件下で,寒冷逃避反応を誘導していたが,青色弱光,赤色弱光,暗黒で処理したところ,青色弱光のときだけ,寒冷逃避反応が誘導された(8)8) Y. Fujii, H. Tanaka, N. Konno, Y. Ogasawara, N. Hamashima, S. Tamura, S. Hasegawa, Y. Hayasaki, K. Okajima & Y. Kodama: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 114, 9206 (2017)..この青色依存性は,自作の温度制御顕微鏡(図4B図4■温度と光を制御する自作の実験装置)でも確認した(8, 9)8) Y. Fujii, H. Tanaka, N. Konno, Y. Ogasawara, N. Hamashima, S. Tamura, S. Hasegawa, Y. Hayasaki, K. Okajima & Y. Kodama: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 114, 9206 (2017).9) H. Tanaka, M. Sato, Y. Ogasawara, N. Hamashima, O. Buchner, A. Holzinger, K. Toyooka & Y. Kodama: J. Plant Res., 130, 1061 (2017)..この結果から,寒冷逃避反応の誘導には,Photによる青色光の受容が必須であることが示唆された.

そこで,Photがもつ2つの光受容ドメインであるLOV1とLOV2に着目した.上述したが,それぞれのLOVドメインにおいて,FMNが暗所では非共有的に結合しており,青色光を受容するとLOVドメインのシステイン残基と共有結合する(図3B図3■Photの機能ドメインとLOVドメインの活性化).暗黒下での非共有結合状態を不活性型LOV,青色光下での共有結合状態を活性型LOVと呼ぶ.LOV1とLOV2が,どのように寒冷逃避反応の誘導にかかわるのかを調べるために,システイン残基をアラニン残基に置換して,活性型LOV1あるいは活性型LOV2を失った変異型Photを作成し,phot変異体で発現させた.ゼニゴケの形質転換は,簡便な方法(アガートラップ法)を開発していたため(10~14)10) S. Tsuboyama & Y. Kodama: Plant Cell Physiol., 55, 229 (2014).14) S. Tsuboyama & Y. Kodama: Plant Biotechnol., 35, 93 (2018).,非常に素早く実施することができた.その結果,活性型LOV2を失った変異型Photは,寒冷逃避反応を誘導することができなかった(8)8) Y. Fujii, H. Tanaka, N. Konno, Y. Ogasawara, N. Hamashima, S. Tamura, S. Hasegawa, Y. Hayasaki, K. Okajima & Y. Kodama: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 114, 9206 (2017)..つまり,活性型LOV2が,寒冷逃避反応の誘導に必須であることがわかった.

では,野生型植物で寒冷逃避反応が誘導されている際,活性型LOV2はどうなっているのか? 生体内の活性型LOV2の量を見積もることにした.活性型LOV2の量は,キナーゼドメインによる自己リン酸化の量で見積もることが可能とin vitroの実験からわかっていた(15)15) K. Okajima, S. Kashojiya & S. Tokutomi: J. Biol. Chem., 287, 40972 (2012)..そこで,ゲルシフトアッセイによって,in vivoにおける活性型LOV2の量を見積もった.その結果,青色弱光・22°Cのときよりも,青色弱光・5°Cのときのほうが,自己リン酸化の量が増加することがわかった(8)8) Y. Fujii, H. Tanaka, N. Konno, Y. Ogasawara, N. Hamashima, S. Tamura, S. Hasegawa, Y. Hayasaki, K. Okajima & Y. Kodama: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 114, 9206 (2017).

どうやって低温下で活性型LOV2の量が増加するのか? この疑問に答えるため,われわれは,多くの光受容ドメインがもっている光サイクルに着目した.LOVドメインに青色光が当たると,FMNがマイクロ秒スケールで,システインと共有結合し,活性型LOVとなる(図5A図5■LOVドメインの熱反転).その後,活性型LOVは,秒スケールで,熱依存的に,システインとの共有結合を切断し,非共有状態(不活性型LOV)となる(図5A図5■LOVドメインの熱反転).この熱依存性の変換は,熱反転と呼ばれ,活性型LOVの寿命に大きく影響する.つまり,高温であれば寿命が短く,低温であれば寿命が伸びる.実際に,活性型LOV2の寿命を計測してみると,22°Cの半減期が約30秒,5°Cの半減期が約120秒(22°Cのときの4倍)となった(8)8) Y. Fujii, H. Tanaka, N. Konno, Y. Ogasawara, N. Hamashima, S. Tamura, S. Hasegawa, Y. Hayasaki, K. Okajima & Y. Kodama: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 114, 9206 (2017)..つまり,同じ青色光の強度であれば,5°Cのほうが寿命が長いことを示しており,これだと,活性型LOV2が低温下で増加することを説明できる.「Photは,活性型LOV2の寿命を使って,温度を感知している」と強い確信がもてた.しかし,熱反転が温度感知に働くことをどうやって証明しようか.熱反転に特異的な変異を導入すれば良いが,さて,そんなものあるのだろうか.

本当に運が良かった.LOVドメインは,最近,オプトジェネティクスのツールとして改良されており,さまざまな変異型LOVが作られていた(16)16) F. Kawano, Y. Aono, H. Suzuki & M. Sato: PLOS ONE, 8, e82693 (2013)..そのいくつかを試し,熱反転の速度が,4倍に速くなる点変異(V594T)を見いだした(8)8) Y. Fujii, H. Tanaka, N. Konno, Y. Ogasawara, N. Hamashima, S. Tamura, S. Hasegawa, Y. Hayasaki, K. Okajima & Y. Kodama: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 114, 9206 (2017)..実際に,変異型LOV2(V594T)の活性型の量を計測してみると,5°Cの半減期が約30秒となり,これは22°Cにおける野生型LOV2の活性型の量と同じであった(図5B図5■LOVドメインの熱反転).この変異(V594T)を導入したPhotは,5°Cを22°Cと勘違いするかもしれない.早速,phot変異体に導入し,青色弱光・5°Cに晒したところ,変異型Phot(V594T)は,寒冷逃避反応ではなく,集合反応を起こした(図5C図5■LOVドメインの熱反転).われわれの予想どおり,熱反転を速めた変異型Phot(V594T)は,5°Cを22°Cと勘違いした.以上の結果から,Photは,活性型LOV2の寿命を使って温度を感知している温度センサー分子であることを証明することができた(8)8) Y. Fujii, H. Tanaka, N. Konno, Y. Ogasawara, N. Hamashima, S. Tamura, S. Hasegawa, Y. Hayasaki, K. Okajima & Y. Kodama: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 114, 9206 (2017).

図5■LOVドメインの熱反転

(A) LOVドメインの光サイクル.不活性型LOVは青色光依存的に活性型LOVとなり,活性型LOVは熱依存的に不活性型となる.この熱依存的な変換を熱反転と呼ぶ.(B)野生型の活性型LOV2および変異型の活性型LOV2(V594T)の寿命(半減期).5°Cにおける変異型(V594T)の半減期(約30秒)が,22°Cにおける野生型の半減期(約30秒)と同等となった.(C)変異型Phot(V594T)を発現する細胞の葉緑体配置.変異型Phot(V594T)をもつ細胞では,寒冷逃避反応が起きずに集合反応が起こった.

生理学的な意義は?

2つ目の疑問は,寒冷逃避反応の生理学的な意義である.なぜ植物はこんな現象をもっているのか? という疑問である.2008年にホウライシダで寒冷逃避反応を解析した際,さまざまなシダ植物を使った解析も行っており,寒冷逃避反応は,常緑シダ(冬も緑)で起こりやすく,夏緑シダ(冬に枯れる)では起こりにくいことがわかっていた(4)4) Y. Kodama, H. Tsuboi, T. Kagawa & M. Wada: J. Plant Res., 121, 441 (2008)..そのため,寒冷逃避反応は,低温耐性に重要な働きをするのだろうと漠然と思っていた.また,シロイヌナズナにおいて,葉緑体が強光から逃げる逃避反応は,光阻害を回避するのに貢献することが知られている(17)17) M. Kasahara, T. Kagawa, K. Oikawa, N. Suetsugu, M. Miyao & M. Wada: Nature, 420, 829 (2002)..寒冷逃避反応が逃避反応と類似の反応と考えると,低温下での光阻害(低温光阻害)の回避に貢献することが予想された.そこで,phot変異体を用いて,低温光阻害の度合いを調べたところ,寒冷逃避反応をもたないphot変異体では,寒冷逃避反応をもつ野生型ゼニゴケと比べて,低温光阻害が強く起こることがわかった(8)8) Y. Fujii, H. Tanaka, N. Konno, Y. Ogasawara, N. Hamashima, S. Tamura, S. Hasegawa, Y. Hayasaki, K. Okajima & Y. Kodama: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 114, 9206 (2017)..寒冷逃避反応の生理学的な意義は,100年以上,不明であったが,今回,これも解明することができた.

Photの温度感知を介した寒冷逃避反応は,陸上植物で広く保存されている

以前のわれわれの研究や1908年のSenn博士の研究では,高等植物において寒冷逃避反応を観察できていなかった.そのため,高等植物は,寒冷逃避反応をもっていないと考えられていた.しかし,高等植物を含め,さまざまな植物のPhotが熱反転をもっているため,高等植物で起きないとは考えにくかった.また,これまで使っていた光源が不安定であったことを考慮すると,再実験を行う必要があった(18)18) Y. Fujii & Y. Kodama: Plant Signal. Behav., 13, e1411452 (2018)..そこで,温度制御顕微鏡を使って,野生型のシロイヌナズナの寒冷逃避反応を観察した.その結果,とても綺麗な反応をとらえることに成功した.シロイヌナズナのphot1変異体とphot2変異体を使って解析したところ,phot1変異体では寒冷逃避反応が起こり,phot2変異体では寒冷逃避反応が完全に消失した(8)8) Y. Fujii, H. Tanaka, N. Konno, Y. Ogasawara, N. Hamashima, S. Tamura, S. Hasegawa, Y. Hayasaki, K. Okajima & Y. Kodama: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 114, 9206 (2017)..シロイヌナズナでは,寒冷逃避反応に働く温度センサー分子は,Phot2と考えられる.ゼニゴケに一つしかないPhotはPhot2型であることがわかっているため(6)6) A. Komatsu, M. Terai, K. Ishizaki, N. Suetsugu, H. Tsuboi, R. Nishihama, K. T. Yamato, M. Wada & T. Kohchi: Plant Physiol., 166, 411 (2014).,ゼニゴケ,ホウライシダ,およびシロイヌナズナのデータと合わせると,Phot2型の分子が寒冷逃避反応に働く温度センサー分子であると考えられる.また系統樹から考えると,陸上植物の進化の基部に位置するゼニゴケ,維管束を獲得したシダ,また被子植物であるシロイヌナズナで,Phot依存の寒冷逃避反応が起こることから,Photの温度感知は,陸上植物で広く保存されていると考えられる.

多くの光受容体が温度センサー分子である可能性

初めの方で述べたが,これまで報告されている温度センサー分子には,分子の特徴に共通性はほとんどなく,唯一,多くの動物で見つかっているTRPチャンネルも植物はもっていない.われわれは,今回のPhotの温度ンサー分子としての機能から,一つの仮説を提唱した.Photの温度感知には,光受容ドメインの光サイクルにおける熱反転による活性型光受容ドメインの寿命が基礎となる.この活性型光受容ドメインの寿命が熱依存性であることは,生物種を問わず,ほとんどすべての光受容体がもつ特性である.たとえば,フォトクロム,クロプトクロム,ロドプシンなどである.実際,フィトクロムは,温度センサー分子であることが推察されている(19, 20)19) J. H. Jung, M. Domijan, C. Klose, S. Biswas, D. Ezer, M. Gao, A. K. Khattak, M. S. Box, V. Charoensawan, S. Cortijo et al.: Science, 354, 886 (2016).20) M. Legris, C. Klose, E. S. Burgie, C. C. Rojas, M. Neme, A. Hiltbrunner, P. A. Wigge, E. Schäfer, R. D. Vierstra & J. J. Casal: Science, 354, 897 (2016)..この事実を踏まえると,さまざまな生物種において,ほとんどすべての光受容体は,温度センサー分子である可能性をもっている.もし,そうであれば,光受容体による温度感知は,生物の温度感知に関する基本原理の一つかもしれない(8)8) Y. Fujii, H. Tanaka, N. Konno, Y. Ogasawara, N. Hamashima, S. Tamura, S. Hasegawa, Y. Hayasaki, K. Okajima & Y. Kodama: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 114, 9206 (2017).

おわりに

ポスドク一年目だった2007年の夏頃に偶然に見つけた葉緑体の寒冷逃避反応をそれから10年間考え続け,研究室主宰者になってから2017年にPhotが温度センサーであることを明らかにできた(8)8) Y. Fujii, H. Tanaka, N. Konno, Y. Ogasawara, N. Hamashima, S. Tamura, S. Hasegawa, Y. Hayasaki, K. Okajima & Y. Kodama: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 114, 9206 (2017)..2008年の論文のDiscussionに,Photが温度センサー分子である可能性を「switch」という単語で記述していたが,正直,可能性は低いと思っていた(4)4) Y. Kodama, H. Tsuboi, T. Kagawa & M. Wada: J. Plant Res., 121, 441 (2008)..当時は,「そんなバカな」って考えだったが,答えがわかれば,「そりゃそうだ」と思ってしまう.

葉緑体の寒冷逃避反応を研究することで,研究者として,さまざまなことを学ぶことができた.2007~2008年の間,いろいろなおもちゃみたいな実験道具を作って実験した.本当に楽しくてたまらなかった.自由にさせてくれた和田正三先生,いろいろと教えてくれた加川貴俊さん,一緒に実験してくれた坪井秀徳くん,の3名には感謝してもしきれない.またゼニゴケを使い始めてからは,河内孝之先生(京都大学),石崎公庸先生(神戸大学)に実験材料を惜しみなく分けていただき,本当にお世話になった.研究室主宰者になってからは,学生たちが本当に頑張ってくれた.特に,2017年の論文における第一著者の藤井雄太くんは,昼夜問わずに難しい実験に挑戦し,論文を完成させてくれた.実は,筆者らの論文発表の半年前に,ほかのグループから,フィトクロムが温度センサー分子である可能性を示した論文を出されてしまい(19, 20)19) J. H. Jung, M. Domijan, C. Klose, S. Biswas, D. Ezer, M. Gao, A. K. Khattak, M. S. Box, V. Charoensawan, S. Cortijo et al.: Science, 354, 886 (2016).20) M. Legris, C. Klose, E. S. Burgie, C. C. Rojas, M. Neme, A. Hiltbrunner, P. A. Wigge, E. Schäfer, R. D. Vierstra & J. J. Casal: Science, 354, 897 (2016).,本当に苦労した.いろいろあったが,今は,とても勉強になったと思っている.

日較差が大きい宇都宮に住んでから,植物がどうやって温度を感じるのか,なぜ寒冷逃避反応が起こるのか,毎日,寒くなったり暑くなったりするたびに考えることができた.これは言い過ぎかもしれないが,宇都宮市に住まなければ,Photが温度センサー分子であることに気づくのに,もう少し時間が必要だったかもしれない.また,Photが温度センサー分子であることや学生たちとの新しい実験から,次のアイデアもいろいろと生まれている.10年前のポスドクのときとは少し感じは違うが,今も楽しくてたまらない.

Reference

1) P. Sengupta & P. Garrity: Curr. Biol., 23, R304 (2013).

2) S. Fowler & M. F. Thomashow: Plant Cell, 14, 1675 (2002).

3) G. Senn: “Die Gestalts–und Lageveränderung der Pflanzen–Chromatophoren” Wilhelm-Engelmann, 1908.

4) Y. Kodama, H. Tsuboi, T. Kagawa & M. Wada: J. Plant Res., 121, 441 (2008).

5) K. Ishizaki, S. Chiyoda, K. T. Yamato & T. Kohchi: Plant Cell Physiol., 49, 1084 (2008).

6) A. Komatsu, M. Terai, K. Ishizaki, N. Suetsugu, H. Tsuboi, R. Nishihama, K. T. Yamato, M. Wada & T. Kohchi: Plant Physiol., 166, 411 (2014).

7) Y. Ogasawara, K. Ishizaki, T. Kohchi & Y. Kodama: Plant Cell Environ., 36, 1520 (2013).

8) Y. Fujii, H. Tanaka, N. Konno, Y. Ogasawara, N. Hamashima, S. Tamura, S. Hasegawa, Y. Hayasaki, K. Okajima & Y. Kodama: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 114, 9206 (2017).

9) H. Tanaka, M. Sato, Y. Ogasawara, N. Hamashima, O. Buchner, A. Holzinger, K. Toyooka & Y. Kodama: J. Plant Res., 130, 1061 (2017).

10) S. Tsuboyama & Y. Kodama: Plant Cell Physiol., 55, 229 (2014).

11) S. Tsuboyama-Tanaka & Y. Kodama: J. Plant Res., 128, 337 (2015).

12) S. Tsuboyama-Tanaka, S. Nonaka & Y. Kodama: Plant Biotechnol., 32, 333 (2015).

13) S. Tsuboyama, S. Nonaka, H. Ezura & Y. Kodama: Sci. Rep., 8, 10800 (2018).

14) S. Tsuboyama & Y. Kodama: Plant Biotechnol., 35, 93 (2018).

15) K. Okajima, S. Kashojiya & S. Tokutomi: J. Biol. Chem., 287, 40972 (2012).

16) F. Kawano, Y. Aono, H. Suzuki & M. Sato: PLOS ONE, 8, e82693 (2013).

17) M. Kasahara, T. Kagawa, K. Oikawa, N. Suetsugu, M. Miyao & M. Wada: Nature, 420, 829 (2002).

18) Y. Fujii & Y. Kodama: Plant Signal. Behav., 13, e1411452 (2018).

19) J. H. Jung, M. Domijan, C. Klose, S. Biswas, D. Ezer, M. Gao, A. K. Khattak, M. S. Box, V. Charoensawan, S. Cortijo et al.: Science, 354, 886 (2016).

20) M. Legris, C. Klose, E. S. Burgie, C. C. Rojas, M. Neme, A. Hiltbrunner, P. A. Wigge, E. Schäfer, R. D. Vierstra & J. J. Casal: Science, 354, 897 (2016).