解説

バイオロギングで明らかになったウミガメ類の内温性海棲大型爬虫類の体温は水温より高く保たれていた

Biologging Revealed Endothermy of Sea Turtles: Marine Large Reptiles Kept Their Body Temperatures Higher than Ambient Water Temperatures

Katsufumi Sato

佐藤 克文

東京大学大気海洋研究所

Chihiro Kinoshita

木下 千尋

東京大学大気海洋研究所

Published: 2018-12-20

小型の記録計を対象動物に搭載し,動物の行動や生理,あるいはその周辺環境を測定する手法が注目を浴びている.直接観察が難しい海洋動物を対象として始まったこの手法には,バイオロギング(biologging)という名前が付けられ,現在広く野生動物調査に用いられている.たとえば,鳥類であるペンギンが,餌を捕るために深度300 mへの潜水を繰り返す間に,その体深部温度が平熱の38℃から10℃以上も低下するなど,主に陸上動物を対象とした研究で構築されてきた従来の常識を覆すような発見が相次いでいる.本稿では,爬虫類であるウミガメ類の体温とその特徴に関連した生活史について,バイオロギングによって明らかになった成果を紹介する.

内温性と外温性

脊椎動物のなかで哺乳類と鳥類は環境温度にかかわらず体温が高く,一定の値に保たれる定温(恒温)動物で,爬虫類・両生類・魚類は環境温度変化とともに体温が変動する変温動物であるとされている.これは,中学校の理科で習う基礎的事実である.しかし,体温が一定か否かという結果的にもたらされる現象面にのみ着目すると,いくらか不具合が生じる.たとえば,低水温で安定している深海に生息する魚類は,生涯を通じて体温がほとんど変動しないため定温(恒温)動物となってしまう.あるいは,冬眠する哺乳類の体温は,冬に低下し春になると再び30°C台後半に回復するので,変温動物ということになってしまう.

陸生爬虫類であるトカゲは,日光浴することで体温を気温より高めることができる.この特徴を表すには,体温を左右する機構に着目した外温性(ectothermy)という言葉が相応しい.太陽放射エネルギーなどの外部熱源に頼って環境温度よりも体温を高める動物のことを外温動物と呼び,体内で生み出される代謝熱を主に利用して環境温度より体温を高めている性質を内温性(endothermy)と呼ぶ.魚類・両生類・爬虫類は外温動物,鳥類・哺乳類は内温動物であると分類するとすっきりする,と言いたいところだが,ここにも興味深い例外がいくつか存在する.

1970年代に熱伝導という物理現象に着目した理論研究により,恐竜などの大型爬虫類は,代謝による熱産生を高めたり,羽毛などの保温器官をもたなくても,体サイズが大きいことのみによって体温を外気温よりも高く,ある程度一定に保つことができたであろうという予測,巨大恒温性が提唱された(1)1) J. R. Spotila, P. W. Lommen, G. S. Bakken & D. M. Gates: Am. Nat., 107, 391 (1973)..たとえば冬の寒い日に,自動販売機で温かい缶コーヒーを買って,そのまま寒空の元に放置したとしよう.190 ccの小さな缶と,350 ccの大きな缶を比べれば,小さな缶の方が先に冷えるであろうと直感的には予測できる.缶のもつ熱容量は体積(∝長さ3)に比例する一方で,缶から環境中に逃げる熱は缶の表面積(∝長さ2)に比例する.缶が大きくなるほど保持する熱容量は長さの3乗に比例して大きくなるが,逃げる熱は長さの2乗に比例して増えるだけである.だから,体積が大きいということ自体,熱を保持するのに有利なのである.

実際に大型恐竜が内温動物並みに高い体温を有していたことを示す証拠もいくつか上がっている(2)2) R. T. Bakker: Nature, 238, 81 (1972)..しかし,肝心の対象動物が既に絶滅しているため,日々あるいは季節的に変化する環境温度に対して,体温がどの程度高く一定に保たれていたのかを実測することは不可能だ.

現生爬虫類の体温

現生の大型爬虫類であるウミガメ類は,2科6属7種,すなわちオサガメ科のオサガメ,ウミガメ科のアカウミガメ,タイマイ,アオウミガメ,ヒメウミガメ,ケンプヒメウミガメ,ヒラタウミガメからなり,熱帯から亜寒帯の海域に産卵場が分布している(図1図1■ウミガメ類の主要な産卵場).オール状の四肢や流線型の体型など,海中生活に特化した体型をもち,生涯を海中で暮らすウミガメ類ではあるが,産卵に関してはほかの爬虫類と同様に殻のある卵を陸上で産む必要があり,砂浜に上陸して穴を堀り,そこに100個ほどの卵を産み落とす.種ごとにいくらかの違いはあるが,産卵期に2~3週間おきに同じ砂浜に上陸して産卵することが知られている.この習性を利用して体温と外部水温の長期間記録が得られている.

図1■ウミガメ類の主要な産卵場

イラストは木下千尋.

砂浜で産卵を終えて海に帰る雌成体の背中に,温度や深度を連続記録できる記録計を取り付け,胃の中には体深部温度を測定するため温度計を挿入する.ウミガメが海に戻った後は,毎日砂浜をパトロールする.2~3週間後に装置を付けたウミガメが再度砂浜に上陸してくるので,それを捕獲して装置を回収すれば,データを得ることができる.

2~3週間におよぶ時系列データを見ると,産卵を終えて海に入った6時間ほどは,胃内温度はときどき低下しゆっくり元の温度に戻るという挙動を示した(3)3) K. Sato, W. Sakamoto, Y. Matsuzawa, H. Tanaka & Y. Naito: Mar. Biol., 118, 343 (1994)..これは,ときどき海水を飲んでいたことを示唆している.ところが,それ以降,再び産卵のために砂浜に上陸してくるまでの2~3週間,胃の中の温度には一次的な低下がほとんど見られなかった.体重は1日あたり200 gほどの速度で減少し,これは絶食させた飼育個体の減少速度と同等であった.したがって,産卵期のアカウミガメ雌成体は餌を食べず,事前に蓄えたエネルギー(おそらく脂肪)を使って代謝をまかなっていたものと考えられた(4)4) 田中秀二,佐藤克文,松沢慶将,坂本 亘,内藤靖彦,黒柳賢治:日本水産学会誌,61, 339 (1995)..興味深いのは,体深部温度と見なせる胃内温度の挙動であった.水温よりも常時高く保たれ,ウミガメが潜水する際に経験する一次的な水温低下に追随することなく一定値を保っていた(3, 5)3) K. Sato, W. Sakamoto, Y. Matsuzawa, H. Tanaka & Y. Naito: Mar. Biol., 118, 343 (1994).5) K. Sato: J. Exp. Biol., 217, 3607 (2014).図2図2■アカウミガメの体温,水温,および潜水深度の24時間時系列図).

図2■アカウミガメの体温,水温,および潜水深度の24時間時系列図

体温(黒線),水温(灰線),深度の実測値および,水温から計算した体温(破線).実際にデータが得られた個体と同じ体重で推定した体温は実測値とほぼ重なるが,仮に体サイズが10 kgないし1 kgと小さいと仮定して計算すると,水温変化に追随して体温が変動することがわかる.

体温(胃内温度)と水温の差は個体ごとに異なり0.7から1.7°Cとなった.従来外温動物であるとみなされていた爬虫類のアカウミガメが,体温を水温よりも高く保っていたことから,この温度差をもたらす熱エネルギー源として,トカゲなどの陸生爬虫類と同様に太陽放射エネルギーを利用している可能性が考えられた.そこで,温度計に加えて照度を測定できる記録計もウミガメに装着した.ところが,体温と水温の温度差は,昼夜あるいは天候とは関係ないことが判明した(6)6) K. Sato, W. Sakamoto, Y. Matsuzawa, H. Tanaka, S. Minamikawa & Y. Naito: Mar. Biol., 123, 197 (1995)..大型個体ほど温度差が大きくなる傾向が見られたため,体内で生み出される代謝熱を熱源としていることが次に推察された(7)7) K. Sato, Y. Matsuzawa, H. Tanaka, T. Bando, S. Minamikawa, W. Sakamoto & Y. Naito: Can. J. Zool., 76, 1651 (1998)..そこで,ウミガメの体を内部でゆっくりと発熱する球体になぞらえ,水温変化に伴って温度が変動する球の表面と中心部との間で熱伝導が行われたとみなし,熱拡散方程式を用いて数値計算を行った(5)5) K. Sato: J. Exp. Biol., 217, 3607 (2014)..その結果,大きく変動する水温に対して小さな変動幅で数時間遅れて追随する体深部温度の挙動は,産熱速度一定の物体の中心と表面の間における熱伝導現象として説明できた(図2図2■アカウミガメの体温,水温,および潜水深度の24時間時系列図).産卵期のアカウミガメ雌成体は,56~118 kgという大きな体をもつことにより,特に生理的な手段で体温調節をせずとも,結果的に体深部温度を代謝熱によって外部水温より平均0.7~1.7°C高く,ある程度一定に維持できるのである.恐竜を想定した理論研究で提唱された巨大恒温性は,現生の水棲大型爬虫類で検証されたということになる.

オサガメに見られた特に高い内温性

現生のウミガメ類の中で最大種となるオサガメもまた,水温より体温が高いことが知られている.オサガメは産卵期以外は高緯度海域まで回遊する.1970年代にカナダのノバスコシア沖で捕獲された体重417 kgのオサガメを,7.5°Cの海水で満たした水槽に2日間入れて,その後陸上に引き上げて体温を測定したところ,水温より18°Cも高い25.5°Cであった(8)8) W. Frair, R. G. Ackman & M. Mrosovsky: Science, 177, 791 (1972)..砂浜に産卵上陸したオサガメ成体雌の休止時の酸素消費速度を測定したら,同サイズの哺乳類と爬虫類の中間の値を示した(9)9) F. V. Paladino, M. P. O’Connor & J. R. Spotila: Nature, 344, 858 (1990)..これらの発見を受けて,オサガメは爬虫類としては例外的に内温性が高いのではないかという見方が生まれた.しかし,コスタリカの砂浜で産卵を終えたオサガメ成体雌に装置を取り付け,1週間から19日間の体温と水温を記録したところ,25°C台の水温中を泳ぐ体重244~381 kgのオサガメの体温は,水温に比べて平均1.2~4.3°C高く保たれているにすぎなかった(10)10) A. L. Southwood, R. D. Andrews, F. V. Paladino & D. R. Jones: Physiol. Biochem. Zool., 78, 285 (2005)..アカウミガメの体温と水温の挙動を説明できた熱拡散方程式を使って,体重と温度差(体温–水温)の関係を求めると,温度差の期待値は体重の5/12乗に比例するという予測結果となった(5)5) K. Sato: J. Exp. Biol., 217, 3607 (2014)..産卵期のアカウミガメ,アオウミガメ,ヒメウミガメそしてオサガメの温度差は,体重から推定される予測値と大きく異なるわけではない(図3図3■ウミガメ類の温度差(体温–水温)と体重の関係).前述したオサガメの18°Cという温度差は,海上で捕獲された1個体を2日間飼育環境下におき,その後,陸上に引き上げてから測定した結果である(8)8) W. Frair, R. G. Ackman & M. Mrosovsky: Science, 177, 791 (1972)..普段海中を泳いでいる間の測定値ではないため,オサガメの内温性を過大評価したものではないかという疑念があった.しかし,2009年にカナダ東部沖の低水温(13.6~16.8°C)中を泳ぐオサガメの胃内温度をバイオロギングで長期間連続測定した結果,体温は水温よりも10~12.2°C高く保たれていたことが報告された(11)11) J. P. Casey, M. C. James & A. S. Williard: J. Exp. Biol., 217, 2331 (2014).図3図3■ウミガメ類の温度差(体温–水温)と体重の関係).これにより,高緯度の低水温海域を泳いでいるオサガメは,低緯度に位置する産卵場周辺の高水温海域を泳ぐオサガメやほかのウミガメ類に比べて,明らかに高い内温性を有することが証明された.

図3■ウミガメ類の温度差(体温–水温)と体重の関係

アカウミガメ(○),アオウミガメ(●),ヒメウミガメ(▲)のデータはSato 2014から,オサガメ(■:低緯度海域,□:高緯度海域)のデータはSouthwood et al. 2005, Frair et al. 1972およびCasey et al. 2014から引用した.Sato 2014において,アカウミガメの温度差は体重の5/12乗に比例するという理論式が得られている.そこで,体重100 kgのアカウミガメが1.5°Cの温度差をもっていたことから,体重に基づく温度差の期待値を曲線で描いた.イラストは木下千尋.

アカウミガメの地域個体群間で異なる事情

浦島伝説に砂浜に上がったウミガメが登場するように,人がウミガメを目にする機会は陸上にほぼ限定されている.日本列島に産卵上陸する種はアカウミガメ,アオウミガメ,タイマイの3種で,アカウミガメの産卵場は本州中部から八重山地方まで,アオウミガメの産卵場は屋久島以南の南西諸島と小笠原諸島,タイマイの産卵場は沖縄本島より南である.そのため,日本人にはウミガメは温かい南の海の動物という印象が刷り込まれている.しかし,南に位置するのはあくまでも産卵場であり,産卵期以外に海中で過ごしている間の分布域は必ずしも南に限定されてはいない.ウミガメ産卵場の北限である千葉県からさらに500 kmほど北に位置する岩手県三陸沿岸には数多くの定置網がある.水温が13°Cを超える6月中旬から10月末にかけて,ときどきアカウミガメとアオウミガメが混獲される(12, 13)12) T. Narazaki, K. Sato & N. Miyazaki: Mar. Biol., 162, 1251 (2015).13) T. Fukuoka, T. Narazaki & K. Sato: Endanger. Species Res., 28, 1 (2015)..定置網で働く漁業者たちは当然以前からそのことを知っていたが,漁獲物ではないウミガメは沖合いで放流されてしまうため,岩手県のような高緯度海域へウミガメが来遊しているという事実は専門家の間でも近年まで知られていなかった.特に,8月中旬から9月末にかけては水温が20°C以上となるものの,それ以外の季節には水温が20°C以下に低下してしまう三陸沿岸海域へウミガメが来遊してくるという事実は専門家を驚かせた.もう一つ専門家が喜んだのは,三陸沿岸海域に来遊する個体に性成熟に達する前の亜成体や成熟雄が含まれていたことである.世界中で行われているウミガメ類の研究は,産卵上陸してくる雌成体や孵化幼体を主な対象として進められており,亜成体や雄の生活史についてはよくわかっていなかった.

アカウミガメが1年間を通してどれくらいの範囲を回遊し,何度くらいの水温帯に生息しているのかを調べるために,三陸の定置網に混獲された亜成体に,人工衛星経由で緯度経度・経験水温・潜水行動データを送ってくる発信器を取り付けた.その結果,アカウミガメは外洋を広く回遊し(図4図4■アカウミガメの回遊経路),冬季にはしばしば15°C以下の低水温中に数日から18日間も滞在し,日平均水温の最低値は10.3°Cとなることがわかった(12)12) T. Narazaki, K. Sato & N. Miyazaki: Mar. Biol., 162, 1251 (2015)..10°C台の水温帯をアカウミガメが泳ぎ回っているというのは,従来の常識に反する結果であった.

図4■アカウミガメの回遊経路

2010年から2014年にかけて得られた15個体の約1年間の移動経路.

1年を通してアカウミガメ亜成体は6~24 m程度の浅い潜水を繰り返し,ときどき200 m以上,最大340 m以上の深い潜水も行っていた(12)12) T. Narazaki, K. Sato & N. Miyazaki: Mar. Biol., 162, 1251 (2015)..これは本種の最大潜水深度記録である.冬季に水温が12.8°Cまで低下した際は,最大潜水時間が300分を記録した.各個体の平均潜水時間は夏(17.8±20.5分)よりも冬(23.5±28.7分)で有意に長くなったが,その差はそれほど大きくない(14)14) C. Kinoshita, T. Fukuoka, Y. Niizuma, T. Narazaki & K. Sato: J. Exp. Biol., 221, jeb175836 (2018)..この潜水行動の季節推移は,ほかの海域で行われた先行研究の結果と大きく異なっていた.ほかの海域で測定されたアカウミガメ成体や亜成体の潜水時間最大値は,水温が20°C以下に低下する冬季には300分以上となり(最長614分),極めて不活発な状態になることが知られている.それに比べると,北西部太平洋の亜成体は水温が低下する冬季にも活発な潜水を継続しているように思える.

肺呼吸動物の潜水時間は,酸素蓄積量を酸素消費速度で除した値,cADL(calculated Aerobic Dive Limit),によって大きく左右される.内温性が低く水温の低下に応じて体温が低下する場合には,冬季に酸素消費速度が低下して長時間潜水が多くなり,反対に内温性が高く低水温下でも酸素消費速度が低下しない場合には,冬季の潜水時間がさほど延びないないと予想される.北西部太平洋の亜成体が実際どの程度の酸素消費速度を有しているのかを調べるために,三陸沿岸の定置網で捕獲された亜成体を使い,15,20,25°Cという3つの水温にコントロールした水槽と呼吸チャンバーを用いて酸素消費速度を実測した.その結果,北西部太平洋のアカウミガメ亜成体の酸素消費速度は,同じ温度帯で測定された地中海のアカウミガメ亜成体の値に比べて1.4~5.7倍高くなった(14)14) C. Kinoshita, T. Fukuoka, Y. Niizuma, T. Narazaki & K. Sato: J. Exp. Biol., 221, jeb175836 (2018).図5A図5■水温に対応したアカウミガメの酸素消費速度と温度差).

図5■水温に対応したアカウミガメの酸素消費速度と温度差

(A)水温に対応した酸素消費速度.活動度の違いをプロットの色で示す.地中海のデータは文献(Hochscheid et al., 2004)による値.(B)体温と水温の温度差と水温の関係.体重や活動度によっていくらか異なる.地中海のデータは文献(Hochscheid et al., 2004)による値.

アカウミガメの体温と水温の挙動を説明した熱拡散方程式から導いた式によると,体温と水温の温度差は酸素消費速度に比例する(5)5) K. Sato: J. Exp. Biol., 217, 3607 (2014)..そこで,水槽実験で実測したアカウミガメの酸素消費速度から,温度差の期待値を計算し,それを水槽内のアカウミガメ亜成体で測定した温度差と比較してみた(図5B図5■水温に対応したアカウミガメの酸素消費速度と温度差).水槽内のアカウミガメ亜成体の体温と水温の差は,水温が15°Cから20°Cへ上がるに従い上昇し,0.2~1.0°Cとなった.水槽内で動き回っているときに大きめ,安静にしているときは小さめの値となったが,酸素消費速度から期待される値と実測値の範囲は一致した(14)14) C. Kinoshita, T. Fukuoka, Y. Niizuma, T. Narazaki & K. Sato: J. Exp. Biol., 221, jeb175836 (2018)..さらに,地中海のアカウミガメ亜成体で実測された酸素消費速度を用いると,北西太平洋のアカウミガメ亜成体で実測された体温と水温の温度差は達成できないことが判明した.したがって,北西太平洋のアカウミガメ亜成体は,地中海のアカウミガメ亜成体に比べて内温性が高く,その結果冬季も活発な潜水行動を維持していると考えられる.

体温が高いことによる利点は何か?

これまで,さまざまな対象動物でバイオロギング研究がなされてきた.肺呼吸動物が餌を捕らえる目的で潜水を繰り返している際の行動データが,数多くの種から得られている.動物は呼吸する水面と餌のある深さを移動する際に,高速で泳ぐとエネルギーをより多く消耗し酸素を早く使い切ってしまうので得策ではない.だからといってゆっくり泳ぐと移動に時間がかかりすぎるため,餌のある深さに滞在できる時間が短くなってしまう.遅すぎも速すぎもしない,移動のコストを最小とする最適な遊泳速度というものがあるはずだ.バイオロギングで得られた巡航遊泳速度をさまざまな動物で比較したところ,鳥類や哺乳類が1~2 m/sで泳ぐのに対し,オサガメは0.9 m/s,アカウミガメとアオウミガメが0.6 m/sであった(15, 16)15) K. Sato, Y. Watanuki, A. Takahashi, P. J. O. Miller, H. Tanaka, R. Kawabe, P. J. Ponganis, Y. Handrich, T. Akamatsu, Y. Watanabe et al.: Proc. R. Soc. Lond., 274, 471 (2007).16) Y. Y. Watanabe, K. Sato, Y. Watanuki, A. Takahashi, Y. Mitani, M. Amano, K. Aoki, T. Narazaki, T. Iwata, S. Minamikawa et al.: J. Anim. Ecol., 80, 57 (2011)..これらの結果は最適遊泳速度が休息時の酸素消費速度の1/3乗に比例するという理論的な予測にも定性的には一致する.

ならば,速く泳ぐことができるとどんなうれしいことがあるだろうか.内温性が高いオサガメはアカウミガメやアオウミガメよりも速く泳いでいるが,それによってどんな利益を得ているのだろう.巡航遊泳速度が高い動物ほど,季節回遊範囲が広くなるという比較結果が報告されている(17)17) Y. Y. Watanabe, K. J. Goldman, J. E. Caselle, D. Chapman & Y. P. Papastamatiou: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, (2015)..実際,オサガメはほかのウミガメ類に比べて回遊範囲が広く,熱帯域の産卵場から高緯度にある採餌海域まで幅広く回遊している.それでは,より高緯度の海域で採餌できることは動物にとってうれしいことだろうか.一般的にはその答えはyesである.熱帯では表層水温は高く,深度が深くなると海水温は下がる.海水密度は温度が下がるほど高くなるので,熱帯では表層の水は軽く深くなるほど重くなる.このような成層状態が安定していると光合成によって表層の海中の栄養塩が消費されてしまい枯渇する.結果的に透明度が高く生産性の低い海水が表層を覆うことになる.一方,高緯度域では表層水温が冷やされる.海水は冷えると重くなるため沈んでいく.代わりに深層から栄養塩を豊富に含む海水が表層へ上がってくる.このような鉛直混合が盛んな高緯度海域では,表層に近い有光層で光合成が盛んになり生物生産性は高い.多くの海洋動物がより良い餌を求めて生産性の高い高緯度海域へ季節移動する.オサガメも高緯度海域でより良い餌を食べているといいたいところだが,実はオサガメの主食はクラゲ類である.約95%が水分といわれるクラゲを食べたくて,より高緯度まで回遊できるよう内温性を高める方向にオサガメは進化してきたのだろうか.

地中海のアカウミガメ亜成体に比べて,北西太平洋のアカウミガメ亜成体は内温性が高いという結果を紹介したが,三陸海域へ来遊するアカウミガメ亜成体が主に食べているものもまたクラゲ類であることがわかっている.ビデオカメラと行動記録計をアカウミガメ亜成体に装着して得られたデータによると,1分間に平均して2.1個のクラゲを捕食しており,3.6時間のビデオ映像には計50回もの捕食シーンが映っていた(18)18) T. Narazaki, K. Sato, K. J. Abernathy, G. J. Marshall & N. Miyazaki: PLOS ONE, 8, e66043 (2013)..動物にとって体温を高く維持できることのメリットとして一般的にいわれているのは,内温性が高いと低温環境下でも活動的に振る舞うことができるということだ.地中海のアカウミガメ亜成体が,冬季の低水温時に活性を落として冬眠のような状態になっているのに対し,北西大西洋のアカウミガメ亜成体は内温性を高め,冬季の低水温時でも活発な潜水行動を繰り返していた.内温性を高めるためにはより多くのエネルギー消費という形のコストがかかってくる.三陸沖の海域には内温性を高めるためのコストを支払ってでも十分おつりがくるだけの餌があるということなのだろうか.冬に食べている餌が何なのか.もしそれがクラゲ類だとすると,クラゲ類を食べることで回遊や潜水に必要なコストを上回るエネルギーを得られるのだろうか.地中海という場所は,アカウミガメ亜成体にとって冬に食べるべき餌が乏しい環境なのだろうか.そんな地中海の個体に比べ,北西太平洋のアカウミガメ亜成体は早く成長しているのだろうか.

バイオロギングによって,野外環境におけるウミガメ類の内温性について,意外な発見がいくつかもたらされた.今後は内温性の高い低いという違いをもたらした生態的要因について,バイオロギングやその他の手法を駆使してもっと詳しく調べていく楽しい時間がしばらく続きそうである.

Reference

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