Kagaku to Seibutsu 57(1): 43-49 (2019)
セミナー室
体内時計を考慮した時間栄養学と時間運動学による健康づくり栄養と運動による健康増進を時間軸で捉える
Published: 2018-12-20
© 2019 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2019 公益社団法人日本農芸化学会
哺乳類の睡眠・覚醒サイクルなど多くの生理機能には日内変動が存在することが古くから知られている.このような日内変動は時計遺伝子群によって構成される体内時計によって駆動されている.1971年にショウジョウバエにおいて羽化リズムの異常を示す変異体が発見され,13年後の1984年に最初の時計遺伝子Period(Per)がクローニングされた.哺乳類では1997年に時計遺伝子Circadian locomotor output cycles kaput(Clock)がクローニングされ,数十種の時計遺伝子が同定されている.これにより,体内時計の分子機構のみならず,体内時計がさまざまな生理機能の恒常性維持や疾病発症にかかわっていることが明らかとなってきている.
本稿では,体内時計を考慮した健康づくりについて,食事と運動による体内時計の調節効果と体内時計が生み出す生体リズムを利用した食事や運動の効果的なタイミングについて最近の知見を含めて述べたい.
哺乳類の体内時計には,臓器間で階層が存在し,視交叉上核(suprachiasmatic nucleus; SCN)はMaster Clock(中枢時計)と呼ばれ,そのほかの脳部位や末梢臓器の体内時計をPeripheral Clock(末梢時計)と呼ぶ.個々の細胞は時計遺伝子の制御により自律的に1周期が約24時間のリズムを刻むが,外界からの刺激により細胞間や臓器間での時刻合わせ(同調と呼ぶ)を行う必要がある.同調を行う刺激として光は最も重要であり,光情報は網膜からSCNへ伝達され,中枢時計の同調が行われる.SCNが哺乳類において中枢時計であることは,SCNが破壊されたラットでは体温やホルモン分泌,行動リズムなど多くの生理機能のリズムが消失することや,SCNへの電気刺激が行動リズムをコントロールすることから明らかとなっている.中枢時計は自律神経系や内分泌系を通して,末梢時計を同調させることで,全身の体内時計の統制を行う.一方,末梢臓器では中枢時計からの同調作用に加え,光以外の刺激によっても同調される.たとえば,肝臓の体内時計では食餌が強い同調因子として働く.また,ストレスや運動などの刺激も末梢組織の体内時計において強い同調因子であることが知られている.
体内時計はPer, Cryptochrome(Cry),Bain and muscle ARNT-like 1(Bmal1),Clockといったコア時計遺伝子群の転写,翻訳を介したネガティブフィードバックループによって構成されており,これが1周期約24時間といったリズムを作り出すシステムとなっている.詳細についてはさまざまな論文や書籍で紹介されているのでここでは,概要にとどめるが,BMAL1とCLOCKのヘテロダイマーがPerおよびCryの上流領域に存在するE-box配列に結合し,転写を促進する.翻訳されたPERおよびCRYは,その後リン酸化やユビキチン化など修飾を受けてCLOCKおよびBMAL1による自身の転写を抑制する(図1図1■時計遺伝子のネガティブフィードバックループ).この周期が約24時間である.このコアループを形成する時計遺伝子以外にも,BMAL1とCLOCKはReverbやRor, Dbp, DecのE-box配列に結合し,これら時計遺伝子の転写を促進する.REVERBやRORはBmal1やClockのROREを介して,これらの転写をそれぞれ,抑制または促進し,概日リズムの形成に関与する(図1図1■時計遺伝子のネガティブフィードバックループ).
中枢時計にとって光が重要な調節因子である一方で,肝臓や脂肪組織などの末梢時計においては,中枢時計からの刺激以外に,食事(餌)が挙げられる.夜行性のげっ歯類は12時間ごとの明暗サイクル下で飼育すると,暗期に摂食し,明期にはほとんど摂食しないといった概日リズムが見られ,摂食リズム自体も体内時計によって制御される.一方で,摂食行動が見られない明期のみに強制的に食餌時刻を制限すると,自由給餌条件下と比較して,肝臓などの末梢臓器の時計遺伝子発現パターンは逆位相を示し,食餌が重要な同調因子であると考えられている.このような同調作用は中枢時計ではほとんど見られず,食餌による同調効果は末梢時計に限定される.マウスに非活動期である明期に給餌を行わせた直後に肝臓のPer2の一過的な発現増加が見られるが,インスリン分泌不全モデルであるストレプトゾトシン投与マウスでは,この増加は抑制される(1)1) Y. Tahara, M. Otsuka, Y. Fuse, A. Hirao & S. Shibata: J. Biol. Rhythms, 26, 230 (2011)..反対に,インスリンの投与はPer2の発現を増加させることから,食餌による体内時計の同調機構としてインスリンの関与が考えられている.また,近年,インスリンシグナルの一部であるAKTのリン酸化によるPI3Kの活性化が起こると,PI3KとBMAL1の複合体が形成され,核外に排出されることで,BMAL1によるDbpの転写活性が一時的に抑制されることが示されている(2)2) F. Dang, X. Sun, X. Ma, R. Wu, D. Zhang, Y. Chen, Q. Xu, Y. Wu & Y. Liu: Nat. Commun., 7, 12696 (2016)..このようにインスリンシグナルと時計遺伝子のクロストークについても明らかになりつつあり,末梢時計の同調因子としてインスリンシグナルの重要性が明らかになっている.
一方で,先ほど述べたインスリン分泌不全モデルであるストレプトゾトシン投与マウスでは給餌によるPer2の発現増加が抑制される一方で,その作用は完全には消失しないことから,ほかの因子の関与についても考えられている(3)3) K. Oishi, M. Kasamatsu & N. Ishida: Biochem. Biophys. Res. Commun., 317, 2 (2004)..近年,Oxyntomodulinと呼ばれる消化管ホルモンが同定され,食後の肝臓の時計遺伝子の同調にかかわることが報告されている(4)4) D. Landgraf, A. H. Tsang, A. Leliavski, C. E. Koch, J. L. Barclay, D. J. Drucker & H. Oster: eLife, 4, e06253 (2015)..また,食餌による体内時計のリセット効果においては,インスリン分泌を促す炭水化物の関与だけではなく,食餌タンパク質による時計遺伝子のリセット効果についても明らかになっており,IGF-1とグルカゴンの関与が報告されている(5)5) Y. Ikeda, M. Kamagata, M. Hirao, S. Yasuda, S. Iwami, H. Sasaki, M. Tsubosaka, Y. Hattori, A. Todoh, K. Tamura et al.: EBioMedicine, 28, 210 (2018)..
栄養素以外の食品成分も同定されており,たとえばカフェイン,シークワーサーなどの柑橘類に含まれるノビレチン,緑茶に含まれるエピガロカテキンガレートが体内時計に作用することが報告されている.カフェインについては,ヒトにおける作用も報告されている(6)6) T. M. Burke, R. R. Markwald, A. W. McHill, E. D. Chinoy, J. A. Snider, S. C. Bessman, C. M. Jung, J. S. O’Neill & K. P. Wright Jr.: Sci. Transl. Med., 7, 305 (2015)..また,ノビレチンについては体内時計に作用する候補化合物の大規模スクリーニングによって明らかとされており,時計遺伝子の一つであるRORに結合し作用することが明らかとなっている(7)7) B. He, K. Nohara, N. Park, Y. S. Park, B. Guillory, Z. Zhao, J. M. Garcia, N. Koike, C. C. Lee, J. S. Takahashi et al.: Cell Metab., 23, 4 (2016)..
運動にも体内時計を調節する作用もあることが報告されている(8)8) E. A. Schroder & K. A. Esser: Exerc. Sport Sci. Rev., 41, 4 (2013)..この運動による体内時計調節に関する研究は主にマウスやラットといったげっ歯類を用いた研究が多く,Per2とルシフェラーゼの融合遺伝子が導入されたマウス(PER2::LUCマウス)がよく用いられる.実際には,運動などの刺激後にさまざまな組織をex vivoでPER2::LUCの発光リズムをリアルタイムにモニターする手法や(9)9) S. H. Yoo, S. Yamazaki, P. L. Lowrey, K. Shimomura, C. H. Ko, E. D. Buhr, S. M. Siepka, H. K. Hong, W. J. Oh, O. J. Yoo et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 101, 15 (2004).,in vivo imaging systemを用いて生きたままPER2::LUCの発光値を測定する手法が用いられる(10)10) Y. Tahara, H. Kuroda, K. Saito, Y. Nakajima, Y. Kubo, N. Ohnishi, Y. Seo, M. Otsuka, Y. Fuse, Y. Ohura et al.: Curr. Biol., 22, 11 (2012).(図2図2■PER2::LUCマウスを用いた体内時計の評価).前述のとおり,マウスは夜行性で,12 : 12時間の明暗サイクルで飼育した場合,暗期に多く動く活動リズムが観察され,体内時計が活動リズムを支配していることはよく知られている.そこで,普段は動いていない明期の時刻に習慣的かつ強制的に運動を行わせ,肺や骨格筋などの末梢組織をex vivoで観察すると,PER2::LUCの発光リズムの位相が変化する(11)11) G. Wolff & K. A. Esser: Med. Sci. Sports Exerc., 44, 9 (2012)..また,in vivo monitoring systemを用いた条件下においてもトレッドミルを用いてマウスに運動を負荷した場合,肝臓のPER2::LUCのリズムは前進することが報告されている(12)12) H. Sasaki, Y. Hattori, Y. Ikeda, M. Kamagata, S. Iwami, S. Yasuda, Y. Tahara & S. Shibata: Sci. Rep., 6, 27607 (2016)..このような運動による同調作用には食餌のタイミングも重要であり(13)13) H. Sasaki, T. Ohtsu, Y. Ikeda, M. Tsubosaka & S. Shibata: Chronobiol. Int., 31, 9 (2014).,体内時計を調節するうえで,食事(餌)と運動の組み合わせが重要であると考えられる.
Per2とLuciferaseの融合遺伝子をノックインしたマウスを用いて生体の体内時計を評価する.Ex vivoではスライスされた組織をルシフェリン添加培地で培養し,数日間リアルタイムで発光値をモニターし,波形を評価する(左側).In vivoではルシフェリンをマウスに投与し,in vivo imaging装置で撮影する.これを1日数回繰り返し,各時刻の発光値データをプロットし評価する(右側).
わずかではあるがヒトを対象とした研究においても運動や身体活動と体内時計の関係について報告がある.ヒトの下肢骨格筋を左右交互に一日6回4時間おきに生検し,時計遺伝子の発現を調べた報告では,マウス同様ヒトの骨格筋においても時計遺伝子はリズミックに発現していることが示されている(14)14) D. van Moorsel, J. Hansen, B. Havekes, F. A. Scheer, J. A. Jorgensen, J. Hoeks, V. B. Schrauwen-Hinderling, H. Duez, P. Lefebvre, N. C. Schaper et al.: Mol. Metab., 5, 8 (2016)..また,レジスタンス運動を行った骨格筋を生検したところ,時計遺伝子の発現量が変化し,ヒトにおいても運動による体内時計の調節作用の可能性を示している(15)15) A. C. Zambon, E. L. McDearmon, N. Salomonis, K. M. Vranizan, K. L. Johansen, D. Adey, J. S. Takahashi, M. Schambelan & B. R. Conklin: Genome Biol., 4, 10 (2003)..われわれは顎鬚の毛包細胞からRNAを抽出し,時計遺伝子PER3の発現リズムを評価した場合,高齢者ではPER3の振幅(メリハリ)と中等度以上の強度の身体活動量の間に正の相関があり,身体活動と時計遺伝子の発現パターンの間には関係があることをヒトにおいても報告している(16)16) M. Takahashi, A. Haraguchi, Y. Tahara, N. Aoki, M. Fukazawa, K. Tanisawa, T. Ito, T. Nakaoka, M. Higuchi & S. Shibata: Sci. Rep., 7, 39771 (2017)..
実験動物を用いたCircadian Transcriptomeにより時計遺伝子以外の遺伝子の多くが概日リズムを示すことが明らかとなり,またリズムを示す遺伝子には組織特異性があることが知られている(17)17) R. Zhang, N. F. Lahens, H. I. Ballance, M. E. Hughes & J. B. Hogenesch: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 111, 45 (2014)..これは各組織の機能に日内変動をもたせ,それぞれ都合のいい時間帯に生理機能を発揮させていると考えられる.こういったリズムを示す遺伝子の中には,栄養素の消化,吸収,代謝機能にかかわるものも多く,たとえば糖吸収のトランスポーターであるSglt1, Glut2, Glut5は小腸において遺伝子およびタンパク質レベルにおいて明瞭なリズムを示すことがげっ歯類で報告されている(18, 19)18) J. Fatima, C. W. Iqbal, S. G. Houghton, M. S. Kasparek, J. A. Duenes, Y. Zheng & M. G. Sarr: J. Gastrointest. Surg., 13, 4 (2009).19) A. Balakrishnan, A. T. Stearns, J. Rounds, J. Irani, M. Giuffrida, D. B. Rhoads, S. W. Ashley & A. Tavakkolizadeh: Surgery, 143, 6 (2008)..また耐糖能はマウスでは活動期初期に,ヒトでは朝に高いことが知られており(20)20) C. J. Morris, J. N. Yang, J. I. Garcia, S. Myers, I. Bozzi, W. Wang, O. M. Buxton, S. A. Shea & F. A. Scheer: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 112, 17 (2015).,遺伝子レベルだけでなく,機能にも日内変動が存在する.ペプチドトランスポーターであるPept1も同様にリズミックな発現パターンを示し,この発現機構には時計遺伝子DBPが直接的にPept1の転写リズムを誘導し,実際にペプチドの吸収能が時刻依存的であることも示されている(21, 22)21) A. Okamura, S. Koyanagi, A. Dilxiat, N. Kusunose, J. J. Chen, N. Matsunaga, S. Shibata & S. Ohdo: J. Biol. Chem., 289, 36 (2014).22) H. Saito, T. Terada, J. Shimakura, T. Katsura & K. Inui: Am. J. Physiol. Gastrointest. Liver Physiol., 295, 2 (2008)..これら動物実験の知見では,このようなトランスポーターの発現はいずれも活動期の初期に位相のピークを迎えることから,活動期に見られる摂食活動に先立ち栄養素の吸収能を調節していると推測できる.ほかにも,コレステロール代謝や脂肪酸代謝に関する遺伝子はリズムを示すものが多いことが知られており,体内時計との関連が解明されている(23)23) S. Panda: Science, 354, 6315 (2016)..たとえばPparなどのマスターレギュレーターが時計遺伝子の直接的な支配下で制御されていることなどが挙げられる.一方でPPARαはBmal1の上流に存在するPPRE配列を介してBmal1の発現を制御することから,脂質代謝と体内時計は相互作用していることがわかっている.このような研究成果から体内時計は栄養素の消化,吸収,代謝に日内変動をもたせ,効率よく栄養素の利用を行うように働きかけていると考えられる.
栄養素の代謝プロセスが日内変動を示すことや肝臓などの組織特異的な時計遺伝子改変マウスが代謝異常を示すことからも,代謝リズムを考慮して摂取タイミングを考えることは重要であると考えられる.摂取時刻と代謝機能については高脂肪食モデルマウスを用いた研究においてよく調べられている.マウスに高脂肪食を摂取させると,摂取しない非活動期(明期)にも摂取するようになる.このようなマウスに摂取時刻を活動期である暗期にのみ制限すると,摂取エネルギーや活動量には変化がなくても,高脂肪食による体重増加や耐糖能異常が改善されることが数多く報告されている(24)24) A. Chaix, A. Zarrinpar, P. Miu & S. Panda: Cell Metab., 20, 991 (2014)..健常なマウスでは呼吸商のデータなどから,糖や脂質の利用には明瞭な日内変動が見られるが,高脂肪食を自由摂取した場合はその変動が小さくなる.代謝や摂食の日内リズムを生み出すうえで体内時計の役割が大きいことからも,食餌時刻を整えて,体内時計の乱れを防ぐことは非常に重要である.上述したノビレチンには,RORαに作用して体内時計リズムの乱れを防ぎ,高脂肪食による体重増加や糖代謝異常をも予防する(7)7) B. He, K. Nohara, N. Park, Y. S. Park, B. Guillory, Z. Zhao, J. M. Garcia, N. Koike, C. C. Lee, J. S. Takahashi et al.: Cell Metab., 23, 4 (2016)..近年,ヒトでも同様に代謝改善効果が報告されており(25)25) E. F. Sutton, R. Beyl, K. S. Early, W. T. Cefalu, E. Ravussin & C. M. Peterson: Cell Metab., 27, 6 (2018).,一日のなかで食事時刻を制限し,絶食と摂食のサイクルを一定に保つことが,代謝機能の維持,向上を目指すうえで重要であると考えられている.これらの報告から,少なくとも一日のなかで1回は長い絶食時刻をもつことの重要性がわかる.一方で,ヒトは一日3食を摂るように,各食事(餌)のなかでの栄養素の摂取パターンと代謝機能について見ると,マウスを一日2回食(活動期の初期と後期の2回)の制限給餌下で飼育し,片方にのみ高脂肪食を与えるような条件で飼育した場合,初期に高脂肪食を与えた方が,後期に与えたマウスに比べて,体重の低下が観察されている(26)26) M. S. Bray, J. Y. Tsai, C. Villegas-Montoya, B. B. Boland, Z. Blasier, O. Egbejimi, M. Kueht & M. E. Young: Int. J. Obes., 34, 11 (2010)..ヒトではカロリー制限による肥満の改善効果を朝食と夕食で比較した研究がある.この研究では,カロリー制限による肥満改善効果は,朝食でも夕食でも見られるが,その効果は夕食のカロリー制限の方が大きいことを示している(27)27) D. Jakubowicz, M. Barnea, J. Wainstein & O. Froy: Obesity (Silver Spring), 21, 12 (2013)..このように一日のなかでの食事の摂取タイミングやカロリーの摂取バランスを考慮することは,より効果的な代謝機能の向上を目指すうえで重要であると考えられる.
運動のタイミング効果を解説する前に,運動パフォーマンスの日内変動について紹介したいと思う.Clock変異マウスやReverbαノックアウトマウスなどの時計遺伝子改変マウスの多くは筋力や持久力の低下が報告されており(28, 29)28) J. L. Andrews, X. Zhang, J. J. McCarthy, E. L. McDearmon, T. A. Hornberger, B. Russell, K. S. Campbell, S. Arbogast, M. B. Reid, J. R. Walker et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 107, 44 (2010).29) E. Woldt, Y. Sebti, L. A. Solt, C. Duhem, S. Lancel, J. Eeckhoute, M. K. Hesselink, C. Paquet, S. Delhaye, Y. Shin et al.: Nat. Med., 19, 8 (2013).,体内時計が運動機能を制御している可能性が知られている.ヒトでも筋力や持久力などの身体機能には日内変動があり,持久力などは朝から夕方にかけて高くなる(30)30) H. Chtourou & N. Souissi: J. Strength Cond. Res., 26, 7 (2012)..体温も同様の日内変動を示すことや体温の上昇による血流や代謝などへの影響から,運動パフォーマンスの日内変動には体温がかかわっている可能性が多くの論文で考察されている.また,身体機能の日内変動はクロノタイプ(朝型や夜型など)によっても異なる(31)31) E. Facer-Childs & R. Brandstaetter: Curr. Biol., 25, 4 (2015)..朝型や中間型,夜型のヒトを集めてさまざまな時間に持久力のテストを行った場合,朝は低く,夕方にピークを迎えて,夜には低くなるような時刻依存性が見られる.これをさらにクロノタイプごとに調べた場合,持久力テストのピーク時刻は,朝型のヒトでは昼から夕方,中間型は夕方,夜型は夕方から夜といったように異なっている.さらに夜型は,朝型や中間型と比べて,一日のなかでの変化率が大きく,朝の身体能力の低下が見られている.このような身体能力の日内変動は日々のトレーニングによってコントロールできることも報告されている(32)32) N. Souissi, A. Gauthier, B. Sesboue, J. Larue & D. Davenne: J. Sports Sci., 20, 11 (2002)..さきほども述べたように通常,持久力は朝に低く,夕方にかけて高まるようなリズムをもっている.このようなリズムに対して,朝にトレーニングを行うと,朝方の持久力が増加し,一日のなかでの持久力の変動は小さくなる.一方で,夕方にトレーニングを行った場合は,もともと高い夕方の持久力がさらに増加し,一日のなかでの変動は大きくなることが報告されている.これは日々のトレーニングの時間の違いによって,その効果は異なることを示している良い例である.
日本や米国の調査によると平日の運動は夕から夜にかけて行っている人が多く,朝に運動を行っているヒトは比較的少ないことが明らかとなっている.日々の身体活動の維持や運動習慣が筋機能に及ぼす影響はこれまでに多く報告されており,骨格筋への負荷は筋機能の維持,増強を目指すうえで重要であることは明白な一方で,その実施時刻の影響については不明な点が多いのが現状である.運動トレーニングのタイミング効果については,運動内容や期間に依存するようだが,ヒトではトレーニングによる骨格筋量(筋横断面積)の増加はトレーニングの時刻によって異なり,夕方のレジスタンス運動が効果的であることが示されており(33)33) M. Kuusmaa, M. Schumann, M. Sedliak, W. J. Kraemer, R. U. Newton, J. P. Malinen, K. Nyman, A. Hakkinen & K. Hakkinen: Appl. Physiol. Nutr. Metab., 41, 12 (2016).,骨格筋の合成反応は時刻によって異なることが示唆されている.近年,われわれは後肢懸垂による筋萎縮モデルマウスを用いた研究において,リハビリ(骨格筋への過重負荷)のタイミングの違いにより,筋萎縮の予防効果が異なることを見いだしている.特に骨格筋の分解にかかわるAtrogin-1の日内変動に着目し,活動期初期(朝方)のリハビリが後肢懸垂によるAtrogin-1の発現上昇を効果的に抑えることを示しており,運動などの骨格筋への刺激は骨格筋の分解反応にも時刻依存的に影響することを示している.このように効果的に運動を行うには時刻にも配慮することが重要であることが考えられる.
時計遺伝子が発見されて以降,これまで謎であったさまざまな日内リズムを示す生理現象の分子機構が明らかとされてきている.本稿で述べた生体リズムを考慮した時間栄養学や時間運動学といった新しい分野の応用研究においては,タイミングによる違いが発見され始めたところで,そのメカニズムについては不明な点が多く,特に時計遺伝子とのリンクについてはほとんど明らかになっていないのが現状である.今後,栄養学や食品科学,スポーツ科学分野において,時間を視点に入れた研究が増えることで,さらなる発展を期待したい.
Reference
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