セミナー室

ライゲーション法によるタンパク質,糖タンパク質の化学合成有機合成を利用した(糖)タンパク質研究を目指して

Hojo Hironobu

北條 裕信

大阪大学蛋白質研究所

Published: 2018-12-20

はじめに

ペプチド合成は,20世紀初頭にT. Curtius(1)1) T. Curtius: Ber. Dtsch. Chem. Ges., 35, 3226 (1902).やE. Fischer(2)2) E. Fischer: Ber. Dtsch. Chem. Ges., 39, 530 (1906).が行ったジペプチド合成がその先駆けとされる.彼らの最終的な目標はタンパク質を化学合成することであったが,それを実現するためには実用的な保護基や縮合法の開発などペプチド化学の発展を待たなければならなかった.彼らのジペプチド合成から一世紀以上たった現在,ライゲーション法により数多くのタンパク質の合成が報告されるようになっている.化学合成法では,リン酸化,グリコシル化など,翻訳後修飾を部位特異的に自在に導入可能である.好例は,アセチル化やメチル化など数多くの翻訳後修飾を受けることが知られているヒストンである.現在,世界中で多くのグループが部位特異的修飾ヒストンの化学合成に携わり,個々の修飾の意義を解明しようとしのぎを削っている.また,化学合成においては,安定同位体標識アミノ酸,非天然アミノ酸,蛍光物質などを部位特異的に導入することも容易である.さらに,近年,D-アミノ酸を用いて天然タンパク質の鏡像体を合成する研究も盛んに行われている.実際に,D-アミノ酸を用いてDNAポリメラーゼの鏡像体を化学合成し,L-DNAの合成に成功した例も報告されており,鏡像の生物世界ができるのではないかとさえ思えてくる(3)3) Z. Wang, W. Xu, L. Liu & T. F. Zhu: Nat. Chem., 8, 698 (2016)..タンパク質が大量に化学合成できれば,翻訳後修飾されたタンパク質の医薬品への応用も期待できる.このように,化学合成タンパク質は,機能構造解析やその応用研究に大きく貢献している.この連載の最終回として,今回はタンパク質,糖タンパク質の化学合成について紹介したい.

ライゲーション法

1963年にMerrifieldによって開発された固相合成法(4)4) R. B. Merrifield: J. Am. Chem. Soc., 85, 2149 (1963).は,ポリペプチドを速やかに構築するうえで必須の技術である.しかし,50残基を超えるような長鎖のポリペプチドになると,純度が次第に低下し実用的な収率で目的物を得ることは難しい.このため,タンパク質を効率的に合成するためには,固相合成されたペプチド同士を縮合するライゲーション法の利用が必須である.現在広く用いられているのは,1994年にKentらにより開発されたNative chemical ligation(NCL)法である(5)5) P. E. Dawson, T. W. Muir, I. Clark-Lewis & S. B. H. Kent: Science, 266, 776 (1994).図1a図1■ライゲーション法の例.a. Native chemical ligation(NCL)法,b. チオエステル法).この方法では末端にチオエステルをもつペプチドと,N末端にCys残基をもつペプチドとを,分子間チオエステル交換,続く分子内N-S転位を経て縮合する.チオエステル基以外の保護基を必要とすることなく縮合することのできる優れた方法である.その一方,NCL法では縮合部位にCys残基を必要とする.Cys残基は天然タンパク質における存在比率が約1.5%と低いために,セグメント縮合部位の選択は大きく制限されている.このため,適切な位置にCys残基がなく,NCL法が適用できないタンパク質も多く存在する.また,チオエステルのC末端アミノ酸の種類により,縮合効率が大きく変化するため,すべてのCys残基部位での縮合が可能であるわけではない.これらの問題を回避するため,Cys残基での縮合を行った後,脱硫反応を用いてCysをAlaへと変換することにより,Ala部位での縮合を可能とする方法が開発され(6)6) L. Z. Yan & P. E. Dawson: J. Am. Chem. Soc., 123, 526 (2001).,縮合部位選択の自由度が向上しつつある.また,同様の手法でほかのアミノ酸部位でも縮合が可能になりつつある(7)7) B. Premdjee & R. J. Payne: “Synthesis of Proteins by Native Chemical Ligation-Desulfurization Strategies” in Chemical Ligation ed. by L.D. D’Andrea & A. Romanelli, Wiley, 2017, pp. 161–222.

図1■ライゲーション法の例.a. Native chemical ligation(NCL)法,b. チオエステル法

一方,相本,われわれは,1991年にチオエステル法を開発した(8)8) H. Hojo & S. Aimoto: Bull. Chem. Soc. Jpn., 64, 111 (1991).図1b図1■ライゲーション法の例.a. Native chemical ligation(NCL)法,b. チオエステル法).この方法では,側鎖チオール基とアミノ基のみに保護基を導入したペプチドチオエステルを中間体として用い,末端に遊離アミノ基をもつペプチドと縮合することによりタンパク質へと導く.保護基が必要であるが,理論的にはどのアミノ酸配列部位でも縮合することができるという大きなメリットがある.

ペプチドチオエステルの合成法

上述のように,ライゲーション法によるタンパク質全合成においては,ペプチドチオエステルが鍵中間体となる.従来,ペプチドチオエステルは,酸処理の繰り返されるt-Butoxycarbonyl(Boc)法により合成されてきた(9)9) H. Hojo, Y. Kwon, Y. Kakuta, S. Tsuda, I. Tanaka, K. Hikichi & S. Aimoto: Bull. Chem. Soc. Jpn., 66, 2700 (1993)..しかし,リン酸エステルや単糖同士をつなぐグリコシド結合など,翻訳後修飾に関与する多くの化学結合は強酸性条件下で分解しやすいため,強酸を用いない9-Fluorenylmethoxycarbonyl(Fmoc)法によるチオエステル合成が望ましい.しかし,Fmoc基の除去に用いるピペリジンがチオエステル結合を分解してしまうため,通常のFmoc法によってペプチドチオエステルを合成することは困難である.そこで,多くのグループがFmoc法によるペプチドチオエステルの合成法の開発を試みてきた(10)10) L. Mende & O. Seitz: Angew. Chem. Int. Ed., 50, 1232 (2011).

実用性の高い方法として,2000年代中盤以降,主に日本の研究グループで開発されてきたN-S転位素子を利用する方法が挙げられる(11~14)11) T. Kawakami, M. Sumida, K. Nakamura, T. Vorherr & S. Aimoto: Tetrahedron Lett., 46, 8805 (2005).12) Y. Ohta, S. Itoh, A. Shigenaga, S. Shintaku, N. Fujii & A. Otaka: Org. Lett., 8, 467 (2006).13) H. Hojo, Y. Onuma, Y. Akimoto, Y. Nakahara & Y. Nakahara: Tetrahedron Lett., 48, 25 (2007).14) T. Kawakami & S. Aimoto: Chem. Lett., 36, 76 (2007)..この方法では,ピペリジン処理が繰り返されるペプチド鎖伸長時においては,アミド結合でペプチドを固定化しておき,脱保護後,N-S転位を経てチオエステル結合を形成させる.簡単でかつ副反応なくペプチドチオエステルを得ることができる.図2図2■N-Sアシル転位を利用したFmoc法によるペプチドチオエステルの合成ルート:N-アルキルシステインをN-S転位素子として用いる例に,例としてN-アルキルシステイン(NAC)をN-S転位素子として用いるわれわれの方法の概略を示す(13)13) H. Hojo, Y. Onuma, Y. Akimoto, Y. Nakahara & Y. Nakahara: Tetrahedron Lett., 48, 25 (2007)..この方法では,加える外部チオールを変更することにより,アルキルチオエステルやより反応性の高い芳香族チオエステルなどを自在に合成することができる.最近,われわれは,チオールの代わりにセレノールを加えることにより,極めて反応性の高いペプチドセレノエステルの合成にも成功している(15)15) T. Takei, T. Andoh, T. Takao & H. Hojo: Angew. Chem. Int. Ed., 56, 15708 (2017).

図2■N-Sアシル転位を利用したFmoc法によるペプチドチオエステルの合成ルート:N-アルキルシステインをN-S転位素子として用いる例

ワンポットライゲーション法

分子量が大きいタンパク質を合成するためには,ライゲーションを繰り返す必要がある.一般的にはC末端からN末端方向にライゲーションを行うため,各セグメント縮合後には,末端アミノ基の保護基を除去し,生成中間体をHPLCなどにより精製し,脱保護試薬を除く必要がある.カラムへの非特異的な吸着が起こり回収率が低下すること,また凍結乾燥による溶媒の除去には時間がかかることなど,精製段階は全体の合成効率を大きく低下させるステップになっている.とりわけ,ペプチド鎖が長い場合や,疎水性アミノ酸を多く含むペプチドの場合はカラムからの回収率の低下が著しく,縮合を繰り返すたびに目に見えて目的物の量が減ってゆく.Liuらは,塩基性条件下(pH~12)で除去できるtrifluoroacetamidomethyl基をライゲーション部位Cysの保護基として用い,脱保護をpH変化のみで行うことにより,精製段階を省略することに成功した.この方法を連続的に用いることにより,ワンポットで4つのセグメントを縮合してケモカインCCL21の合成に成功している(16)16) S. Tang, Y.-Y. Si, Z.-P. Wang, K.-R. Mei, X. Chen, J.-Y. Cheng, J.-S. Zheng & L. Liu: Angew. Chem. Int. Ed., 54, 5713 (2015).図3図3■C末端からN末端方向へのワンポットライゲーション法の例).ただし,この方法では各ライゲーション後に反応混合物のpHを上昇させ,再び中性に戻す操作が必要である.一般にライゲーション反応溶液の体積は僅かであるため,注意深い実験操作が必要となる.

図3■C末端からN末端方向へのワンポットライゲーション法の例

上述のように,NAC法が開発されたことにより,活性の高いセレノエステル,芳香族チオエステルなども合成できるようになった.これらのペプチドセグメントは,チオエステル法条件下で銀イオンなしで縮合することができる.また,セレノエステルは芳香族チオエステルよりもさらに高い反応性をもつ.そこで,これらの活性エステルを組み合わせると,4つのセグメントを連続的にワンポットで縮合することができる.この方法でヒトスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)を合成した例を図4図4■N末端からC末端方向へのワンポットライゲーション法の例に示す(15)15) T. Takei, T. Andoh, T. Takao & H. Hojo: Angew. Chem. Int. Ed., 56, 15708 (2017)..まず,NAC法を用いてN末端を一番反応性の高いペプチドセレノエステル,次をペプチド芳香族チオエステル,ついでペプチドアルキルチオエステルとして合成した.C末端のセグメントは73~108と109~153の2つのセグメントをあらかじめチオエステル法により縮合し,73~153のセグメントとした.得られたセグメントを用いてワンポット合成を試みた.まず,N末端の2つのセグメントを銀イオン非存在下で混合すると,セレノエステルが選択的に活性化して2つのセグメントが縮合し,中間体の芳香族チオエステルを生じた.ついで,精製することなくC末端から2番目のアルキルチオエステルを加えると2回目の縮合が進行し,3つのセグメントが縮合したアルキルチオエステルを得た.得られた反応液中にC末端のセグメントと銀イオンを加えると3回目の縮合が進行し,153残基の全長配列をワンポットで繋げることに成功した(図4図4■N末端からC末端方向へのワンポットライゲーション法の例).この方法では,ワンポットライゲーション途上保護基の除去などは全く必要なく,連続的にセグメントを加えるだけで反応が進行するため,効率的な合成が可能である.当初,N末端側の1~33のセグメントについては,固相法で一気に合成したが,溶解性が悪くN末端から2番目の34~72のセグメントとの縮合反応が全く進行しなかった.このため,このセグメントは1~16と17~33の2つのセグメントに分割し,ワンポット縮合反応途上の中間体として生成させ,速やかに34~72のセグメントと縮合させた.この手法により溶解性の問題を回避することができた.選択的な活性化法の種類が増えると,このように合成ルートを柔軟にデザインできるようになる.

図4■N末端からC末端方向へのワンポットライゲーション法の例

糖タンパク質糖鎖の構造と合成

生体内に存する約半数のタンパク質には,翻訳後に糖鎖が付加されている.これらの糖鎖は,Ser, Thr残基の側鎖ヒドロキシ基に結合しているO-結合型と,Asn残基の側鎖アミド基に結合しているN-結合型に大別される.O-結合型糖鎖は,コア1~8構造に分類されており,還元末端にα-GalNAcを共通構造としてもつ.N-結合型糖鎖は,高マンノース型,混成型,複合型に分類される.いずれもMan3GlcNAc2を還元末端側に共通構造としてもつ.N-結合型糖鎖は,Asn-Xaa-Thr/Ser(XaaはPro以外の任意のアミノ酸)のAsnに結合している.O-結合型糖鎖には,このようなグリコシル化のコンセンサス配列はない.

糖タンパク質糖鎖は,細胞増殖,分化,また,がん化といった種々の生命現象に関与していることが明らかとなってきており,その詳細な機能解明が期待されている.しかし,糖タンパク質の機能を解明するうえで大きな障害となるのが,糖鎖構造のミクロ不均一性の問題である.糖鎖は,遺伝子によらず数多くの糖転移酵素やグリコシダーゼにより生合成される.このため,上述のようにO-結合型ではコア1~8構造,N-結合型では3つの糖鎖型に大別できるものの,実際にタンパク質に結合している糖鎖は,高度に不均一な構造をもっている.糖鎖構造の異なる混合物として存在する天然の糖タンパク質を用いても,それぞれの糖鎖の機能を明らかにすることは難しい.これに対して,化学合成では,種々の均一な糖鎖をもつタンパク質を効率的に得ることが可能である.そこで,多くの研究者が糖タンパク質糖鎖の機能解明をめざしてその化学合成研究に取り組んでいる.

現在,セグメント縮合を利用して糖タンパク質を合成するためには,大きく2つのルートが可能である(図5図5■糖タンパク質合成における可能な2つのルート).ルート1では,固相合成の際,糖鎖をもつアミノ酸を導入して糖ペプチドチオエステルを合成し,ライゲーションとフォールディングをへて糖タンパク質を得る.一方,ルート2では,還元末端糖のみをもつアミノ酸を導入し,単糖をもつタンパク質を得た後,残りの糖鎖を酵素的に導入して目的の糖タンパク質へと誘導する(17)17) M. Mizuno, K. Haneda, R. Iguchi, I. Muramoto, T. Kawakami, S. Aimoto, K. Yamamoto & T. Inazu: J. Am. Chem. Soc., 121, 284 (1999)..両方法ともそれぞれ長所と短所があるが,ルート1では,目的の糖鎖をもったタンパク質が直接得られる,ルート2では単糖をもつタンパク質を合成しさえすれば,糖鎖転移酵素を用いて種々の糖鎖をもつタンパク質が簡単に得られるメリットがある.ただし,O-結合型糖鎖の場合,糖鎖を導入する酵素がないため,現在のところルート1のみ可能である.

図5■糖タンパク質合成における可能な2つのルート

グリコシル化時の完全な立体制御は困難であるため,ペプチドと異なり糖鎖の固相合成は困難である.このため,糖鎖合成には,依然として時間と多くのノウハウを必要とする.しかし,合成戦略は着実に進歩しており,O-結合型糖鎖については,中原,われわれを含めて幾つかのグループにより多くのコア構造の化学合成が達成されている(18, 19)18) Y. Nakahara: Trends Glycosci. Glycotechnol., 15, 257 (2003).19)北條裕信:有機合成化学協会誌,74, 42 (2016).N-結合型糖鎖についても,多くのグループにより複合型,高マンノース型糖鎖の合成が達成されている(20, 21)20)真鍋良幸:有機合成化学協会誌,76, 502 (2018).21) I. Matsuo, K. Totani, A. Tatami & Y. Ito: Tetrahedron, 62, 8262 (2006).

稲津らは,鶏卵から得られる糖タンパク質を酵素消化した後,Fmoc化することにより,高マンノース型,複合型糖鎖をもつAsnユニットの調製に成功した.得られた糖鎖を用いてペプチドの合成(22)22) T. Inazu, M. Mizuno, T. Yamazaki & K. Haneda: Peptide Science 1998 (M. Kondo ed.), p 153 (1999).や,エンドグリコシダーゼEndo-Mの糖鎖転移活性を利用して複合型糖鎖をもつカルシトニンの化学–酵素合成を達成している(17)17) M. Mizuno, K. Haneda, R. Iguchi, I. Muramoto, T. Kawakami, S. Aimoto, K. Yamamoto & T. Inazu: J. Am. Chem. Soc., 121, 284 (1999)..梶原らは,同様に鶏卵由来糖鎖から誘導した糖鎖をもつFmoc-Asn-OHをグリコシダーゼ消化し,種々の糖鎖構造をもつFmoc-Asn-OHの調製に成功している(23)23) Y. Kajihara, Y. Suzuki, N. Yamamoto, K. Sasaki, T. Sakakibara & L. R. Juneja: Chem. Eur. J., 10, 971 (2004)..代表的な糖鎖構造をもつアミノ酸ユニットならば,化学合成,あるいは天然物からの誘導体化により,調製可能になっている.

糖タンパク質の合成例

1. インターフェロン-β(IFN-β)の合成

図5図5■糖タンパク質合成における可能な2つのルートのルート1の例として梶原らによるインターフェロン-βの合成(24)24) I. Sakamoto, K. Tezuka, K. Fukae, K. Ishii, K. Taduru, M. Maeda, M. Ouchi, K. Yoshida, Y. Nambu, J. Igarashi et al.: J. Am. Chem. Soc., 134, 5428 (2012).が挙げられる.合成ルートを図6図6■IFN-βの合成ルートに示す.適切な位置にCys残基がないため,配列中のAla68,89をCysに変更してNCLを行った後,Dawsonの脱硫反応によるAlaへの変換を行っている(6)6) L. Z. Yan & P. E. Dawson: J. Am. Chem. Soc., 123, 526 (2001)..中間セグメントの固相合成で卵から得た糖鎖アミノ酸ユニットを導入している.ユニット中の非還元末端シアル酸のカルボキシ基はベンジルエステルにより保護されている.また中間セグメントのN末端Cys残基はチアゾリジン環を形成させることにより,ライゲーション中の反応性を抑制している.1回目のライゲーション後,チアゾリジン環を開環して精製の後,2度目のライゲーションを行った.ついで,脱硫によるCys68,89のAlaへの変換,元々存在するCys残基(17, 31, 141)のメルカプト保護基の除去,ベンジルエステルの加水分解,フォールディングを行うことにより,目的とするIFN-βを得た.

図6■IFN-βの合成ルート

2. エムプリン活性ドメインの酵素-化学合成

図5図5■糖タンパク質合成における可能な2つのルートのルート2の例としてわれわれのエムプリン活性ドメインの合成(25)25) Y. Asahina, M. Kanda, A. Suzuki, H. Katayama, Y. Nakahara & H. Hojo: Org. Biomol. Chem., 11, 7199 (2013).を取り上げる(図7図7■エムプリン活性ドメインの合成ルート).N末端と真ん中のセグメントは前述のNAC法(13)13) H. Hojo, Y. Onuma, Y. Akimoto, Y. Nakahara & Y. Nakahara: Tetrahedron Lett., 48, 25 (2007).によりそれぞれ芳香族,アルキルチオエステルとして合成した.糖鎖結合部位では還元末端糖GlcNAcをもつAsn誘導体を導入した.ついで,合成した3つのセグメントについてN末端側からのチオエステル法によるワンポット合成を行い全長配列を得た.脱保護の後,酸化的フォールディングを行った.得られた単糖をもつ活性ドメインに対して,卵由来の糖鎖から誘導した糖鎖オキサゾリンをグリコシンターゼを用いてタンパク質上のGlcNAcに導入し,複合型11糖をもつ活性ドメインを得ることに成功した.

図7■エムプリン活性ドメインの合成ルート

おわりに

タンパク質,糖タンパク質の化学合成に関して駆け足で紹介させていただいた.現在では300残基を超えるタンパク質の合成も報告されており(26)26) M. T. Weinstock, M. T. Jacobsen & M. S. Kay: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 111, 11679 (2014).,合成途上溶解性の問題などがなければ,かなり大きなタンパク質の化学合成も可能と思われる.残る課題は,膜タンパク質など疎水性の高いタンパク質の合成である.これらのタンパク質は通常の溶媒に対する溶解性が極めて低く,自由に化学合成できるに至ってはいない.細胞膜上に存在する受容体などの膜タンパク質は,医薬的に重要なタンパク質が多いため,その効率的な化学合成法の確立が望まれる.

Reference

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