Kagaku to Seibutsu 57(2): 80-87 (2019)
解説
オーキシン応答の自在操作を実現する人工ホルモン・受容体ペアの創成植物ホルモン応答の自在操作に向けた新展開
Synthetic Pair of Modified Auxin and Its Receptor for Freehand Manipulation of Auxin Responses: New Approach for Freehand Manipulation of Plant Hormone Responses
Published: 2019-01-20
植物ホルモンは,植物の一生のさまざまな局面でその生理機能を精密に制御する化合物である.しかし,各々のホルモンは植物体内の部位ごとに多彩な作用を発揮するため,着目する作用だけを狙って誘導することが難しく,植物ホルモン研究やその応用における大きな壁となってきた.もし植物ホルモン応答の精密操作法が確立できれば,ホルモン応答の仕組みをより深く理解するだけでなく,農業園芸分野へのこれまで以上の応用展開も期待できる.最近われわれは代表的な植物ホルモンであるオーキシンの応答の自在操作を可能にする画期的な手法を開発した.そこで,その開発の基となった凸凹法の紹介とともに,本手法の開発経緯や展望について解説する.
© 2019 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2019 公益社団法人日本農芸化学会
植物ホルモンは植物の生活環全般を通して自身の成長を調節し,植物体内外の環境変化に対する応答を仲介する低分子化合物である.オーキシン,ジベレリン,サイトカイニン,エチレン,アブシシン酸,ブラシノステロイド,ジャスモン酸,サリチル酸,ストリゴラクトンが主要な植物ホルモンとして知られており,多種多様なペプチドやフロリゲンなどのタンパク質も植物ホルモン様の作用を示すことが明らかとなってきた.これら植物ホルモンの多くは細胞間で輸送され,作用部位の細胞に存在する受容体に結合することによって細胞内シグナル伝達を駆動し,最終的に生理反応を誘導する.このような一連の植物ホルモン応答を人為的に操作する技術は,植物ホルモンが関与する生理現象を解明するうえで重要な基礎研究の手法であるとともに,個々の植物ホルモンの特性を活かして農業や園芸の分野でも広く応用されている.
植物ホルモン応答を自在に操作するにはどのようにすればよいだろうか.まず思いつくのは,植物ホルモンそのものやホルモンと同等の作用をもつ類縁化合物(アゴニスト)を植物体に処理することにより植物ホルモン応答を誘起することであろう.逆にホルモンに拮抗するアンタゴニスト作用を示す類縁化合物の処理はホルモン応答の抑制につながる.さらに,植物ホルモンの生合成や代謝(不活化)の過程を制御する化合物や植物ホルモンの細胞間輸送を制御する化合物にも効果が見込まれる.しかしながら,植物ホルモンは一般に個体内のさまざまな組織や細胞でそれぞれ多彩な生理反応を誘導することが知られているため,植物体への化合物処理は多くの反応を同時多発的に引き起こす恐れもある.そのため,化合物処理を行う植物体の部位や時期,処理濃度などを厳密に管理することが求められるが,目的に応じた適切な処理条件・方法を設定することが難しい場合も多い.一方,植物ホルモンの生合成,代謝,輸送,シグナル伝達に関与するタンパク質の機能にかかわる遺伝子を改変することも考えられるが,遺伝子レベルでの改変を行うと,個体発生の初期段階からその改変の効果が現れるため,植物ホルモン応答を操作するタイミングを調節することは難しくなる.本稿では,これらの困難の打開に向け,植物ホルモン応答のうち,オーキシン応答の自在操作を実現するための人工化合物とそれを受容する受容体のペアを創成した例を紹介する(1)1) N. Uchida, K. Takahashi, R. Iwasaki, R. Yamada, M. Yoshimura, T. A. Endo, S. Kimura, H. Zhang, M. Nomoto, Y. Tada et al.: Nat. Chem. Biol., 14, 299 (2018)..
オーキシンは最初に発見された植物ホルモンであり,胚発生,細胞増殖,細胞伸長,維管束の分化・形成,側根形成などのさまざまな発生過程や,光屈性,重力屈性,避陰反応のような多様な環境応答など非常に多彩な生理現象に関与する.オーキシン研究の歴史を振り返ってみると,その嚆矢は進化論で有名なCharles Darwinが1880年に発表した「The Power of movement in Plants」であると言えよう.彼はイネ科植物の芽生えの光屈性現象の実験・観察から,芽生え(幼葉鞘)の先端で生じた「何らかの影響(some influence)」が基部方向へ移動し,幼葉鞘の陰側が光照射側よりも早く生長することにより屈曲が引き起こされると報告した.その後,Boysen–Jensenによってこの「何らかの影響」は「物質」であることが示唆され(1911年),さらにWentによって確立された生物検定試験(アベナ屈曲試験)によってその「物質」の定量が可能となる(1928年).このように,詳細は書ききれないが多くの植物生理学者によってその「物質」は成長促進物質であることが示された.その後,有機化学者のKöglとHaagen-Smitはこの検定法を用いて成長を促進する物質を人尿から単離し,オーキシン(auxin)と名づけた.ギリシア語の「増加」や「成長」を意味するauxeinにちなんでいる.Köglらは大量の人尿から得られた成長促進物質がインドール-3-酢酸(IAA)であると同定し(1934年),さらにHaagen-Smitらがコーンミール(1941年),トウモロコシの未熟種子(1946年)からIAAを単離することで植物組織にIAAが存在することを明らかとした.その後,さまざまな植物組織からIAAが見いだされ,今日ではIAAが最も代表的な天然オーキシンであることがわかっている.
天然オーキシンがIAAであると証明された時期に前後して,オーキシンの農業利用への道が早くも切り拓かれている.1934年にはオーキシンが挿し木発根を促進することが報告された.その翌年には化学合成されたナフタレン酢酸(1-NAA)や塩素化フェノキシ酢酸類(2,4-Dや2,4,5-Tなど)が非常に高いオーキシン活性を有していることが発見され,その後の数年間で合成オーキシンの除草剤としての利用価値が見いだされた.今日でもオーキシンは生理活性物質として挿し木発根や単為結果などを目的に農業利用されており,1-NAAや2,4-Dを含め多くのオーキシン関連化合物が除草剤や植物成長促進剤として利用されている.
1990年代以降,モデル植物の一つであるシロイヌナズナを用いた分子遺伝学的研究が広く展開されるようになり,オーキシンの生合成,代謝,輸送,シグナル伝達に関与するタンパク質も多数同定されてきた.これらのタンパク質の生化学的解析などにより,オーキシンの受容とシグナル伝達のメカニズムの全貌も明らかとなりつつある.
オーキシンの細胞内シグナル伝達は,ユビキチン-プロテアソーム経路が中心的な役割を果たしており,その過程でE3ユビキチンリガーゼとして機能するSCF(Skp1/Cullin/F-box)複合体のサブユニットであるF-ボックスタンパク質(TIR1)がオーキシン受容体として働く(2)2) 浅見忠男,柿本辰男編:“新しい植物ホルモンの科学 第3版”,講談社,2016, p. 4.(図1図1■オーキシン受容とシグナル伝達).オーキシン応答遺伝子群の発現にはそれらの遺伝子群の転写制御因子として働くARFが深くかかわるが,オーキシン非存在下ではARFの活性を阻害するAUX/IAAタンパク質がARFと結合しており,オーキシン応答は不活性化されている.しかし,オーキシンがTIR1に結合すると,オーキシン分子があたかも接着剤のような働きをしてTIR1とAUX/IAAタンパク質が複合体を形成し,ユビキチン–プロテアソーム経路を介してAUX/IAAが分解へと導かれる.その結果,ARFの転写調節機能が昂進され,オーキシン応答遺伝子の転写促進(もしくは場合によっては転写抑制)に至る.このように,受容体TIR1とAUX/IAAを介したシグナル伝達は,遺伝子発現調節を経てオーキシンによる生理応答を引き起こすと考えられている.シロイヌナズナにはTIR1に相同性が高くオーキシン受容体として働くタンパク質がほかに5個(AFB1 [AUXIN SIGNALING F-BOX 1], AFB2, AFB3, AFB4, AFB5)存在するだけでなく,29個のAUX/IAAタンパク質,23個のARFが存在する(2)2) 浅見忠男,柿本辰男編:“新しい植物ホルモンの科学 第3版”,講談社,2016, p. 4..これらの多様な組み合わせにより,多彩なオーキシン生理応答が調節されていると考えられる.
TIR1, Transport inhibitor response1 (F-box protein); AUX/IAA, Auxin/indole-3-acetic acid; ARF, Auxin response factor; E2, E2リガーゼ;RBX1, RING-box protein1; Ub, ユビキチン
オーキシンが引き起こす多彩な生理応答のなかで,幼葉鞘や胚軸の伸長誘導は最も古くから知られた現象であり,特にオーキシン誘導性伸長の初期過程は「酸成長説」として説明されている(3)3) A. Hager: J. Plant Res., 116, 483 (2003).(図2図2■オーキシン誘導性胚軸伸長(酸成長)のモデル).オーキシンが何らかの経路を介して細胞膜H+-ATPaseを刺激してプロトンを細胞から放出することで細胞壁を酸性化し,エクスパンシンなどの細胞壁機能タンパク質の働きによって細胞壁伸展性を増大させるという説である.また,細胞膜H+-ATPaseの機能昂進は細胞膜の過分極も誘導し,内向き整流性のカリウムチャネルを活性化してカリウムイオンを細胞内に取り込み,細胞内外の溶質濃度差と細胞壁伸展性の増大によって生じた水ポテンシャル勾配にしたがって水が細胞内に流入することで細胞体積が増大することで,組織の伸長が起こる.酸成長は,オーキシン添加後10~20分以内に観察される早い反応であるため,この過程に遺伝子発現調節を介したシグナル伝達が関与しているかどうかは長らく疑問であった.遺伝子発現調節を介さない(すなわち,上述のTIR1を介さないかもしれない)オーキシンシグナル伝達の受容体候補の一つが,1980年代にトウモロコシの細胞膜画分から生化学的に単離精製されたオーキシン結合タンパク質1(ABP1)である(4)4) M. Löbler & D. Klämbt: J. Biol. Chem., 260, 9848 (1985)..ABP1は細胞外もしくは細胞膜上でオーキシンを受容し,細胞内にシグナルを伝達すると考えられた.1990年代にABP1が細胞体積増大を制御することを示唆する報告も提出されたが(5)5) A. M. Jones, K. H. Im, M. A. Savka, M. J. Wu, N. G. DeWitt, R. Shillito & A. N. Binns: Science, 282, 1114 (1998).,下流のシグナル伝達機構は解明されておらず,ABP1の役割はその後も不明確なままである.
転写調節を介さないオーキシンシグナル伝達経路があるとすれば,その受容体の分子実体は何であるのか.ABP1か,それ以外の因子であるのか.あるいは,酸成長のような早いオーキシン反応もTIR1が仲介しているのか.TIR1とAFB因子群の多重変異体は極端な矮性を示すため酸成長の生理学的な解析には向いておらず,ABP1のノックアウト変異体は胚性致死であるとされていた(なお,2015年に新たに作成されたABP1のノックアウト変異体は実は胚性致死ではないことが報告され,従来のABP1変異体を用いた解析結果は再考を余儀なくされている(6, 7)6) X. Dai, Y. Zhang, D. Zhang, J. Chen, X. Gao, M. Estelle & Y. Zhao: Nat. Plants, 1, 15183 (2015).7) Y. Gao, Y. Zhang, D. Zhang, X. Dai, M. Estelle & Y. Zhao: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 112, 2275 (2015).).このような状況の下,酸成長を仲介するオーキシン受容体の同定はオーキシンの研究分野における長年の課題として残されたままとなっていた.
ABP1とTIR1のX線結晶構造はそれぞれ2002年と2007年に解かれており,オーキシンの結合様式は明らかとなっていた(8, 9)8) E. J. Woo, J. Marshall, J. Bauly, J. G. Chen, M. Venis, R. M. Napier & R. W. Pickersgill: EMBO J., 21, 2877 (2002).9) X. Tan, L. I. Calderon-Villalobos, M. Sharon, C. Zheng, C. V. Robinson, M. Estelle & N. Zheng: Nature, 446, 640 (2007)..これらの情報に基づいてTIR1やABP1にそれぞれ特異的に結合するオーキシン類縁体を分子設計し,それぞれに特異的なオーキシン応答を観察することは,ABP1とTIR1のかかわる生理作用を解析する有効な手段になると考えられる.実際,TIR1のアンタゴニスト(Auxinol, PEO-IAAなど)が設計・合成され,TIR1を介したオーキシン応答の重要な研究ツールとして広く用いられている(10)10) 林 謙一郎,野崎 浩:化学と生物,50, 876 (2012)..しかしながら,未知のオーキシン受容体の存在を否定できないため,これら人工合成したオーキシン類縁化合物が未知の受容体に作用し効果を発揮している可能性を否定することもできない.このような問題に解決の光を当てたのが,以下に説明する,凸凹法によるオーキシン応答操作法の開発である.
特定のタンパク質機能の自在な操作を行いたい場合の代表的な手法の一つに凸凹法(bump and hole approach)が挙げられる(11)11) K. Islam: Cell Chem. Biol. 18, 1171 (2018)..この手法は,タンパク質が機能を発揮するにあたり低分子化合物を補助因子として用いる場合にとりわけ有効な手法である.まず,その先駆けとなった分りやすい例として,ATP依存性タンパク質リン酸化酵素(キナーゼ)で用いられたケースを説明する.細胞内では数千にも及ぶさまざまなキナーゼ群がATPのリン酸をそれぞれに特異的な基質に転移させる酵素活性を発揮する.この際に,各キナーゼの特異的な基質を見つけるのは一筋縄ではいかない作業であった.しかし,凸凹法を用いることで,この困難を乗り越える方法が提案された(12)12) K. Shah, Y. Liu, C. Deirmengian & K. M. Shokat: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 94, 3565 (1997).(図3図3■凸凹戦略によるキナーゼ活性の操作例).キナーゼはその活性中心に,基質に転移させるリン酸の供給源となるATPを結合するポケットをもつ(図3図3■凸凹戦略によるキナーゼ活性の操作例上).ここで,ATPのアデノシン部分にかさ張る修飾を導入した改変ATPを準備すると(飛び出た部分をもつことからこの分子をここでは凸ATPと呼ぶ),凸ATPはキナーゼのATP結合ポケットにはうまくフィットできないので,細胞内に存在するさまざまなキナーゼは凸ATPを用いて基質のリン酸化反応を進めることはできない.しかし,自身の着目するキナーゼのATP結合ポケットに凸ATPの突起に合わせた形で「くぼみ」をもたせるように,ちょうど良い位置のアミノ酸をより側鎖のサイズの小さいアミノ酸に変える変異を導入した変異型キナーゼを準備すると(これを凹キナーゼと呼ぶ),凸ATPは凹キナーゼにうまくフィットし,そのキナーゼの特異的基質のリン酸化反応を進めることが可能になる.この方法論を用いると,狙ったキナーゼを凹キナーゼに改変したのち,γ位のリンをラジオアイソトープ標識した凸ATPを添加することで,その凹キナーゼの基質のみがリン酸化され,転移した放射活性を指標にその基質を特異的に検出することが可能になる(図3図3■凸凹戦略によるキナーゼ活性の操作例下).実際に,このアイデアやそのさらなる改良法が多くのキナーゼに対して使われており,さまざまなキナーゼの基質同定にも役立っている.本稿での説明は省略するが,凸凹法はキナーゼのほかにも,さまざまな酵素やクロマチン制御因子などにも用いられている.凸凹法の歴史,適用範囲の拡大,方法論のさらなる展開については,Islamが詳しく説明した総説を発表しているので,それを参照いただきたい(11)11) K. Islam: Cell Chem. Biol. 18, 1171 (2018)..
凸凹法に似た手法を植物のホルモン経路に用いた例としては,アブシシン酸(abscisic acid; ABA)の受容体のPYR1を改変した報告が挙げられる(13)13) S. Y. Park, F. C. Peterson, A. Mosquna, J. Yao, B. F. Volkman & S. R. Cutler: Nature, 520, 545 (2015)..このケースでは,PYR1のABA結合ポケットを構成するアミノ酸のうち6個に変異を導入することにより,病原菌に対する殺菌効果をもつ農薬マンジプロパミドを受容する改変型PYR1を作り出すことに成功した.この改変型PYR1を発現させた植物にマンジプロパミドを添加すると,通常の植物にABAを作用させた場合と同じ作用が現れたことから,マンジプロパミドを受容した改変型PYR1は通常どおりのABA経路を活性化することがわかる.このケースで特筆すべき点は,マンジプロパミドはそもそもABAとは構造が大きく異なる物質であり,ABAシグナル経路とは本来関係がない化合物である点である.すなわち,このケースでは,6個もの変異を導入することで,そもそも関係のない物質を受容するポケットをもつ受容体を作り上げたことになる.一方で,このPYR1の例と比べてよりシンプルな手法と言える凸凹法によって植物ホルモン経路を活性化できる受容体を作った報告はなかった.そこで,われわれはオーキシン経路の自在操作を目指すにあたり,凸凹法のアイデアに沿ってオーキシン受容体の一つであるTIR1タンパク質を改変することにした.
シロイヌナズナのオーキシン受容体の一つであるTIR1タンパク質と,内在性のオーキシン分子であるIAA(インドール酢酸:図4図4■凸凹戦略による人工オーキシン・受容体ペアのデザイン左上)の複合体のX線結晶構造は上述したように既に報告されていた(9)9) X. Tan, L. I. Calderon-Villalobos, M. Sharon, C. Zheng, C. V. Robinson, M. Estelle & N. Zheng: Nature, 446, 640 (2007)..そこで,そのTIR1のオーキシン結合ポケットの構造情報(図4図4■凸凹戦略による人工オーキシン・受容体ペアのデザイン左)をもとに,内因性のTIR1には結合しない人工化合物(植物に何の作用も発揮しないと期待)と,内因性のIAAには結合しないもののその人工化合物には結合できる改変TIR1のデザインを試みた(1)1) N. Uchida, K. Takahashi, R. Iwasaki, R. Yamada, M. Yoshimura, T. A. Endo, S. Kimura, H. Zhang, M. Nomoto, Y. Tada et al.: Nat. Chem. Biol., 14, 299 (2018)..まず,野生型TIR1の79番目のフェニルアラニン残基(F79)の芳香環がIAAのインドール環のすぐ横に位置していることに注目した(図4図4■凸凹戦略による人工オーキシン・受容体ペアのデザイン左).この大きな側鎖芳香環をもつF79から側鎖をもたない小さいグリシン(G)に置換すると(F79G変異),オーキシン結合ポケットが大きくなりすぎるためにIAAがポケットにうまくフィットできなくなると考えた.すなわち,このF79G改変型TIR1(凹受容体)は内因性のオーキシンに応答しないと期待した.次に,この凹受容体のポケットにフィットする人工化合物のデザインを行った.この際には,IAAのインドール環の5位の位置(図4図4■凸凹戦略による人工オーキシン・受容体ペアのデザイン左)に芳香環を導入すれば,凹受容体のオーキシン結合ポケットにフィットする化合物になると考えた(図4図4■凸凹戦略による人工オーキシン・受容体ペアのデザイン右).言い換えると,そもそも野生型TIR1のF79の芳香環をIAA側に移したような形になる.この芳香環を付加したIAA改変化合物を凸オーキシンと呼ぶことにする.この凸オーキシンは,付加した芳香環部分が野生型TIR1のF79とは立体的に干渉すると推定し,野生型TIR1のオーキシン結合ポケットには収まらないと考えた.すなわち,凸オーキシンは野生型の植物に対してはオーキシン活性を発揮しないと期待できる.