Kagaku to Seibutsu 57(2): 115-120 (2019)
解説
機能解析技術が明らかにした味覚受容体と食物成分のかかわり味の感じ方は生き物それぞれ
The Relationship between Taste Receptors and Diets: Taste Perception Differs among Animals
Published: 2019-01-20
味覚は,食物を摂食可能であるかを決定するうえで重要な化学感覚である.味は甘味,旨味,苦味,酸味,塩味の五基本味からなり,それぞれの味は口腔中の味蕾に発現する受容体タンパク質により受容される(1).近年20年の間に,味覚受容体分子とその関連分子が次々と明らかになり,培養細胞を用いた機能解析技術により味物質の探索や味覚受容の分子メカニズムの解明が行われてきた.本稿では味覚受容体の機能解析技術に関する解説と,私たちヒトを含む動物の食性(食べ物の種類や食べ方)と味覚受容体のかかわりについて紹介したい.
© 2019 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2019 公益社団法人日本農芸化学会
私たちが食物を味わう際には味覚・嗅覚・触覚・視覚・聴覚といった五感が総動員され,誰と・どこで・いつ食べるかといった環境要因もおいしさを決定するうえで重要な因子となる.そのなかで味覚が担うのは,甘味・旨味・苦味・塩味・酸味の五基本味の受容である.味覚は,舌や咽頭,喉頭に存在する味蕾と呼ばれる組織にて受容される化学感覚である.辛みや冷感などの「味」は味蕾の周辺細胞により受容される体性感覚刺激であることから,狭義には味に含まれない.味蕾は数十~百個からなる味細胞と呼ばれる細胞の集合体であり,五基本味はそれぞれ別の味細胞で受容される.味細胞は電子顕微鏡観察による解剖学的特徴からI~IV型細胞に分類される.甘味・旨味・苦味を受容する細胞はII型細胞と呼ばれ,その先端には味覚受容体が発現している.甘味・旨味・苦味受容体はGタンパク質共役型受容体(GPCR)であり,これらの味覚受容体が活性化すると小胞体からのカルシウム放出が誘導され,細胞内カルシウム濃度が上昇する.それに伴い,細胞膜上のTRPM5チャネルからナトリウムイオンが流入し,つづいて電位依存性ナトリウムチャネルを介してナトリウムイオンが流入することで,味細胞が脱分極する.
嗜好味である甘味および旨味受容体はT1Rファミリーと呼ばれる受容体のヘテロダイマーであり,甘味受容はT1R2とT1R3のヘテロダイマーが,旨味受容はT1R1とT1R3のヘテロダイマーが担う.一方,苦味はT2Rファミリーにより受容される.苦味受容体の数は動物種により大きく異なり,ニワトリでは3種類,カエルでは約50種類であるなか(2)2) P. Shi & J. Zhang: Mol. Biol. Evol., 23, 292 (2006).,ヒトでは26種類が存在する.甘味や旨味の受容体に比べ,苦味受容体の種類が多いのは,植物アルカロイドなど外界における無数の毒物の認識のために多様な苦味受容体のレパートリーを用意しておく必要があったためだと考えられている.T2Rには,受容するリガンドが少数のものから,幅広い構造の物質を受容するものまで存在する.そのため,厳密には受容体のレパートリーが少ない動物が感知できる苦味物質の数が少ないとは言い切れない.とはいえ,植物食性の高まった狭鼻猿類(ヒト・チンパンジー・ニホンザルを含む霊長類のグループ)では苦味受容体遺伝子の数が多い(3)3) T. Hayakawa, N. Suzuki-Hashido, A. Matsui & Y. Go: Mol. Biol. Evol., 31, 2018 (2014).といった報告があるなど,苦味受容体のレパートリーの多様化と動物の食性にある程度の相関があるのは確かだろう.
味覚受容体と味物質の相互作用を解析する手法として,培養細胞を用いたカルシウムイメージング法が広く用いられている.GPCRである甘味・旨味・苦味受容体の評価系では,培養細胞に味覚受容体およびGタンパク質を一過的あるいは安定発現させ,味物質添加時の受容体の活性化の強さを細胞内カルシウム濃度の変化量として数値化する.この際,細胞内カルシウムの検出には,fluo-4やfura-2などのカルシウム感受性蛍光指示薬が広く用いられる.蛍光値の検出にはCCDカメラによる検出・画像化を行うカルシウムイメージング法とマイクロプレートリーダーによるハイスループットアッセイ法が広く用いられている.
一方,筆者らは蛍光検出に代わる細胞内カルシウムの検出方法として,カルシウム結合型発光タンパク質を用いた発光検出系を導入した(4)4) Y. Toda, S. Okada & T. Misaka: J. Agric. Food Chem., 59, 12131 (2011)..発光検出系には蛍光検出系に比べ下記の2つの長所がある.1)検出の際に励起光の照射が不要なため,サンプル自体が蛍光特性を有する場合にも影響を受けずに測定が可能である(図1図1■蛍光検出系と発光検出系の違い),2)蛍光検出系では培養細胞内に存在する弱い蛍光物質による干渉が生じるのに対し,発光検出系では事実上バックグラウンドがない状態での測定が可能なため,蛍光検出系に比べ高いシグナル/バックグラウンド比を実現することが可能である.カルシウム結合型発光タンパク質としては腔腸動物由来のAequorin, Clytin, Obelin, Clytin-IIなどが知られており,さまざまなGPCRアッセイでCa2+プローブとして利用されてきた.これらの発光タンパク質のなかで最も一般的なのは,1960年代に下村脩博士がオワンクラゲAequorea victoriaから初めて発見し,抽出・精製したAequorinである(5)5) O. Shimomura, F. H. Johnson & Y. Saiga: J. Cell. Comp. Physiol., 59, 223 (1962)..これらのカルシウム結合型発光タンパク質はアポ発光タンパク質と酸素分子,発光基質coelenterazineの複合体からなり,カルシウムイオンと反応して青色発光を呈する.細胞評価系を構築する際には,培養細胞に味覚受容体やGタンパク質と共にアポ発光タンパク質の発現プラスミドを遺伝子導入した後,発光基質coelenterazineを添加することで細胞内に発光タンパク質を形成させる.味物質添加後の発光値の変化はマルチウェルプレートリーダーにて検出するため,ハイスループットな測定が可能である.また,細胞が刺激を受け,小胞体からのカルシウムイオン放出が生じると,それに応じてミトコンドリア内でもカルシウム濃度の上昇が生じることが知られている.この際に生じるカルシウム濃度変化は細胞質よりもミトコンドリア内の方が大きいため,発光タンパク質をミトコンドリア内に局在化させることで,検出感度を向上させることが可能である.ミトコンドリアへの局在化は,アポ発光タンパク質遺伝子のコード領域上流にミトコンドリア局在化シグナルを挿入した発現コンストラクトを作製することで可能となる(6)6) R. Rizzuto, A. W. Simpson, M. Brini & T. Pozzan: Nature, 358, 325 (1992)..この手法を用いることで,筆者らはこれまでに甘味・旨味・苦味受容体の高感度評価系の構築に成功している.特に,旨味受容体は細胞膜上に機能的に発現させるのが難しく,高感度評価系の構築に成功しているグループは世界でもほとんどないため,発光検出系の導入により旨味受容体の高感度ハイスループットアッセイ系を構築できたことの意義は大きい.さらに,この評価系はリボフラビンなど食品由来の蛍光特性を有するサンプルの測定にも利用可能なことが確かめられており(4)4) Y. Toda, S. Okada & T. Misaka: J. Agric. Food Chem., 59, 12131 (2011).,味覚修飾作用を有する食品成分の大規模スクリーニングにも役立つことが期待される.
DNAシークエンス技術の進歩によりさまざまな動物の遺伝子配列が入手できるようになり,動物の食性と味覚受容体の間に深いかかわりがあることがわかってきた.ネコが甘いものを好まないことはかねてから知られてきたが,ネコ,トラ,チーター(7)7) X. Li, W. Li, H. Wang, J. Cao, K. Maehashi, K. Huang, A. A. Bachmanov, D. R. Reed, V. Legrand-Defretin, G. K. Beauchamp et al.: PLoS Genet., 1, 27 (2005).やカワウソ(8)8) P. Jiang, J. Josue, X. Li, D. Glaser, W. Li, J. G. Brand, R. F. Margolskee, D. R. Reed & G. K. Beauchamp: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 109, 4956 (2012).などの肉食動物のT1R遺伝子を調べてみると,これらの動物では甘味受容体を構成するT1R2をコードする遺伝子(Tas1r2)に変異が生じ,タンパク質を作る機能を失っている(偽遺伝子化している)ことがわかった.一方で,肉食から竹食に転向したパンダでは旨味受容体を構成するT1R1をコードする遺伝子(Tas1r1)が偽遺伝子化している(9)9) R. Li, W. Fan, G. Tian, H. Zhu, L. He, J. Cai, Q. Huang, Q. Cai, B. Li, Y. Bai et al.: Nature, 463, 311 (2010)..また,食べ物を丸飲みするアシカやハンドウイルカではT1Rファミリーすべてが偽遺伝子化している(8)8) P. Jiang, J. Josue, X. Li, D. Glaser, W. Li, J. G. Brand, R. F. Margolskee, D. R. Reed & G. K. Beauchamp: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 109, 4956 (2012)..このように生存に必須でなくなった味の受容能は失われていく方向にある.
一方で,新たな機能を獲得した例もある.これまで,ニワトリ,シチメンチョウ,ゼブラフィンチの遺伝子配列解析から,鳥類は甘味受容体の構成因子であるT1R2が偽遺伝子化しており(2)2) P. Shi & J. Zhang: Mol. Biol. Evol., 23, 292 (2006).,甘味を感知できないと考えられてきた.そのため,糖が豊富な花蜜を主食とする鳥類がどのように花蜜の味を感知しているのかは不明だった.そこで,筆者らはハーバード大学の研究者らと共同でアメリカ大陸に生息するハチドリを対象にして,この謎を解くための研究を開始した.まずは食性の異なる10種の鳥類の全ゲノム配列からTas1r遺伝子を探索した.その結果,やはり10種すべての鳥類においてもTas1r2遺伝子は存在せず,Tas1r1とTas1r3遺伝子のみが見つかった.一方,鳥類に最も近縁なワニ類を含む爬虫類ではTas1r2遺伝子が認められたため,Tas1r2遺伝子の欠失は鳥類の祖先である恐竜で生じたものと示唆された.そこで筆者らは上述の発光検出による培養細胞系を用いて,残る嗜好味の受容体である旨味受容体T1R1/T1R3の機能解析を行うこととした.ハチドリに加え,穀物食のニワトリや,ハチドリに最も近縁で昆虫食であるアマツバメのT1R1/T1R3の機能解析を行った.その結果,ニワトリやアマツバメのT1R1/T1R3は哺乳類のT1R1/T1R3と同様にアミノ酸に応答したのに対し,ハチドリのT1R1/T1R3はアミノ酸よりもむしろ糖に強く応答することが明らかになった(図2a図2■ハチドリ旨味受容体で認められた糖応答).次に,ハチドリのT1R1/T1R3がどのようなアミノ酸変異によって糖受容能を獲得したのか明らかにするために,ニワトリおよびハチドリのキメラ受容体や点変異体の機能を解析した.その結果,ハチドリの旨味受容体はT1R1, T1R3両サブユニットに点在する複数のアミノ酸変異の末,糖受容能を獲得したことが明らかになった(図2b図2■ハチドリ旨味受容体で認められた糖応答).世界にはハチドリ以外にも花の蜜を主食とする鳥類が多く存在する.このような花蜜食鳥類においても,ハチドリと同様に旨味受容体の機能転換が起こっているのかどうか,今後の研究の進展が注目されている.
われわれヒトにとっての旨味物質と言えば,グルタミン酸ナトリウムとイノシン酸やグアニル酸といった核酸系旨味物質である.グルタミン酸ナトリウムは,1907年に池田菊苗教授により昆布の旨味成分として発見され,その呈味が旨味と名づけられた.しかし,旨味が基本味として科学的に認められるようになったのは,2002年にNelsonらによりアミノ酸の味の受容体としてT1R1/T1R3が発見されてからである(10)10) G. Nelson, J. Chandrashekar, M. A. Hoon, L. Feng, G. Zhao, N. J. Ryba & C. S. Zuker: Nature, 416, 199 (2002)..Nelsonらはこの論文の中で,T1R1/T1R3のアミノ酸応答がイノシン酸によって相乗的に増強されることも示している.代謝型グルタミン酸受容体などT1R1/T1R3以外の旨味受容体候補もいくつか知られているが,ノックアウトマウスの解析結果などから,T1R1/T1R3が主要な旨味受容体だと考えられている.
ヒトの官能評価に一致して,ヒトT1R1/T1R3はグルタミン酸で強く活性化される.一方で,身近な実験動物であるマウスのT1R1/T1R3はグルタミン酸よりもむしろそれ以外の幅広いアミノ酸によって強く活性化される(10)10) G. Nelson, J. Chandrashekar, M. A. Hoon, L. Feng, G. Zhao, N. J. Ryba & C. S. Zuker: Nature, 416, 199 (2002).(図3図3■旨味受容体のアミノ酸応答パターンを決定する因子).また,魚類のT1R1/T1R3もグルタミン酸では活性化されない(11)11) H. Oike, T. Nagai, A. Furuyama, S. Okada, Y. Aihara, Y. Ishimaru, T. Marui, I. Matsumoto, T. Misaka & K. Abe: J. Neurosci., 27, 5584 (2007)..筆者らは構築したハイスループットアッセイ系を用いて,ヒトおよびマウスの旨味受容体のキメラや点変異体解析を行い,ヒトとマウスの間にあるアミノ酸選択性の違いが受容体分子のどのようなアミノ酸残基の違いにより生じるのかを検証した.その結果,旨味受容体のアミノ酸応答のパターンがリガンド結合部位と非リガンド結合部位の特性の組み合わせで決定されることを明らかにした(12)12) Y. Toda, T. Nakagita, T. Hayakawa, S. Okada, M. Narukawa, H. Imai, Y. Ishimaru & T. Misaka: J. Biol. Chem., 288, 36863 (2013).(図3図3■旨味受容体のアミノ酸応答パターンを決定する因子).なかでもグルタミン酸受容能の獲得には,T1R1のリガンド結合部位に存在する2つのアミノ酸残基における負電荷の消失が重要な役割を果たしていた(図3図3■旨味受容体のアミノ酸応答パターンを決定する因子).これまでに,アカゲザルやマントヒヒの旨味受容体ではヒト旨味受容体と同様にこの2つのアミノ酸残基の電荷が消失しており,高いグルタミン酸活性を有する一方,リスザルの旨味受容体では一方のアミノ酸残基がアスパラギン酸残基であり,グルタミン酸活性が低いことを明らかにした.この結果は,霊長類の進化の過程で,旨味受容体が高いグルタミン酸活性を獲得したことを示唆している.今後,この2アミノ酸残基の変異が進化の過程でどのように生じたのかを明らかにすることで,ヒトがグルタミン酸に旨味を感じることの生理的意義を解明することにもつながるだろう.
T1R1におけるアミノ酸結合部位と非リガンド結合部位の性質の組み合わせにより,アミノ酸の応答パターンが決定される(上).ヒトとマウスの旨味受容体のアミノ酸応答パターンの違い(左下).各動物種におけるグルタミン酸受容に決定的な影響を与える2アミノ酸残基と旨味受容体のグルタミン酸活性(右下).
日本人は長年の経験から,昆布だしと鰹だしを合わせることで旨味が相乗的に増すことを知っていた.イノシン酸(鰹節の旨味成分)やグアニル酸(干しシイタケの旨味成分)は旨味受容体において,グルタミン酸などのアミノ酸とは異なる部位(アロステリック部位)に結合し,受容体の活性を増強する.T1Rは大きな細胞外領域を有することを特徴とするClass C GPCRに属する.この大きな細胞外領域は二枚貝状の構造をしており,アミノ酸はT1R1サブユニットの細胞外領域における蝶番部分近傍に結合する.一方,核酸系旨味物質はそれよりもやや外側に結合することで,受容体のclosed conformationを維持し,受容体の活性化を強めると考えられている(13)13) F. Zhang, B. Klebansky, R. M. Fine, H. Xu, A. Pronin, H. Liu, C. Tachdjian & X. Li: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 105, 20930 (2008)..受容体分子が発見され,その活性化の分子機構が明らかになったことで,日本人が経験的に学んできた旨味の相乗効果という現象が科学的に証明されるに至った.
これまで,ヒト旨味受容体を活性化する天然成分はアミノ酸と核酸系旨味物質しか知られていなかった.筆者らは,最近,醤油やチーズ,トマトの主要香気成分の一つとして知られるメチオナールに旨味受容体の活性化能があることを見いだした(14)14) Y. Toda, T. Nakagita, T. Hirokawa, Y. Yamashita, A. Nakajima, M. Narukawa, Y. Ishimaru, R. Uchida & T. Misaka: Sci. Rep., 8, 11796 (2018)..旨味は科学的に基本味の一つであることが認められているにもかかわらず,世界において認知度は低く,日本食独自の味と勘違いされることすらある.そのため,世界中で調味料として用いられてきた食材に,旨味受容体活性化能を有する成分が共通して含まれていたことは,世界の食において“Umami”が重要な役割を果たしてきたことを証明するうえでも重要な知見である.メチオナール以外にも,香気成分が味覚受容体に作用する例として,コーヒー中の香気成分が苦味受容体の活性を抑制することが報告されている(15)15) B. Suess, A. Brockhoff, W. Meyerhof & T. Hofmann: J. Agric. Food Chem., 66, 2301 (2018)..今まで香気成分として味物質と区別されてきたものが,実際には末梢の味受容に影響を与えている例は恐らくほかにもあり,今後の研究により明らかになっていくことと期待される.
さらにメチオナールの作用において興味深かったのは,メチオナールがヒト旨味受容体では活性増強剤としてはたらく一方で,マウス旨味受容体では活性抑制剤としてはたらくという逆の作用をもたらすことだった.ヒトとマウスのキメラ旨味受容体を用いて検証を行った結果,T1R1サブユニットの膜貫通領域にメチオナールの結合部位が2カ所存在し,ヒトでは上部の活性増強を引き起こす部位に,マウスでは下部の活性抑制を引き起こす部位に結合することが示された(図4図4■香気成分メチオナールの旨味受容体活性調節機構).メチオナールの結合部位は既知のアミノ酸やヌクレオチドの結合部位と異なっており,これらの成分がお互いの作用を相殺せず強め合う効果をもつことが実験的にも示された.醤油やチーズ,トマトにはメチオナールだけでなくグルタミン酸も豊富に含まれる.メチオナールは食品中のアミノ酸や核酸系旨味物質と協調しながら,世界の食卓のUmamiに貢献してきたのだろう.
筆者らは発光検出系の導入により,高感度かつハイスループットな味覚受容体の機能解析技術の構築に成功した.特に,甘味・旨味・苦味といったGPCRを介した味質の中で,旨味受容に関する研究は進んでいないことから,旨味受容体のハイスループットアッセイ系が確立できたことの意義は大きい.ヒト旨味受容体はグルタミン酸によって強く活性化されるが,マウスや魚類の旨味受容体はグルタミン酸によってほとんど活性化されない.今後は,本評価系を味覚修飾物質の探索や味覚修飾メカニズムの解明に役立てるだけでなく,「ヒトがどのような成分においしさを感じるのか」という生物学的な問いを解決するためにも活用していきたい.
Reference
1) J. Chandrashekar, M. A. Hoon, N. J. Ryba & C. S. Zuker: Nature, 444, 288 (2006).
2) P. Shi & J. Zhang: Mol. Biol. Evol., 23, 292 (2006).
3) T. Hayakawa, N. Suzuki-Hashido, A. Matsui & Y. Go: Mol. Biol. Evol., 31, 2018 (2014).
4) Y. Toda, S. Okada & T. Misaka: J. Agric. Food Chem., 59, 12131 (2011).
5) O. Shimomura, F. H. Johnson & Y. Saiga: J. Cell. Comp. Physiol., 59, 223 (1962).
6) R. Rizzuto, A. W. Simpson, M. Brini & T. Pozzan: Nature, 358, 325 (1992).
15) B. Suess, A. Brockhoff, W. Meyerhof & T. Hofmann: J. Agric. Food Chem., 66, 2301 (2018).