解説

黒大豆ポリフェノールの機能性に関する研究プロシアニジン類の生体調節機能とその作用機構

Black Soybean Polyphenol on Health Beneficial Effects: Procyanidins on Health Beneficial Functions and Their Mechanisms

Yoko Yamashita

山下 陽子

神戸大学大学院農学研究科

Published: 2019-02-20

食と健康志向の高まりにより,食品の機能性に関する研究が盛んに行われている.大豆は畑の肉と称されるとおり,タンパク質,ミネラル,ビタミンなどの栄養素が豊富であるとともに,ポリフェノールや食物繊維,オリゴ糖など多くの生体調節機能を発揮する成分も豊富であり,健康維持増進に重要な食材の一つに挙げられる.なかでも黒大豆は,種皮が呈する色素成分としてフラバン-3オール類やアントシアン類などのポリフェノールが多く含まれているのが特徴であり,私たちの研究室では,これらのポリフェノールに着目して研究を行ってきた.本稿では,黒大豆ポリフェノールの機能性について,これまでに明らかにされてきた知見の一部を紹介させていただく.

黒大豆と種皮ポリフェノール

大豆(Glycine max)は世界的に親しまれている食品であり,特にアジアでは古くから重要な栄養源として食されている.アジア人は,平均で1日20から80グラムの大豆を摂取していると報告されている.なかでも黒大豆は,黒い種皮に覆われた部位に黄大豆にはないさまざまな機能性成分が含まれており,「黒豆衣(こくずい)」と称される漢方薬としても利用されてきた.その効能としては,腎臓や脾臓の働きを高め,黄疸や浮腫を改善したり,利尿作用や解毒効果を発揮すると言われてきた(1)1) K. Ganesan & B. Xu: Nutrients, 9, E455 (2017)..日本の黒大豆の起源は明確ではないが,平安時代には栽培されていた可能性が高いと考えられている.現在では,日本のお節料理には欠かせない食材の一つであり,和食文化においても重要な役割を果たしている.黒大豆は黄大豆と同様に,子実に良質のタンパク質,脂質,ミネラルなどの栄養素を豊富に含むとともに,イソフラボンやイノシトールなどの機能性成分も含まれている.さらに,種皮特有のポリフェノールが多く含まれており,その主成分は,フラバン-3オール類の単量体であるカテキンやエピカテキン,それらの重合体であるプロシアニジン,またアントシアン類のシアニジン-3-グルコシドである.代表的な構造は図1図1■黒大豆種皮ポリフェノールの構造に示すとおりである.これらのポリフェノール類は,植物が産生する二次代謝産物であることから,黒大豆中のポリフェノール含量は,品種や栽培方法よって変化することが推察されている.また,大豆類はヒトが食する際,トリプシンインヒビターなどの消化酵素阻害物質が含まれていたり,乾燥のままだとたいへん硬い物性であることから,生のまま食べることができず,水に浸漬したり,加熱などの調理・加工が必須である.私たちは,これまでに黒大豆種皮ポリフェノール含量の品種間の差,栽培方法や栽培年度間の差を検討したところ,品種の違いや栽培方法の違いによりその含量が変化することを見いだした.特に,栽培方法に関しては,有機質資材を用いて栽培した際,慣行農法と比較して黒大豆種皮ポリフェノール含量やそれに伴って抗酸化能が高まることを明らかにした(2)2) L. Wang, L. Y. Yamashita, A. Saito & H. Ashida: J. Food Drug Anal., 25, 478 (2017)..また,調理・加工が及ぼす影響を検討したところ,原穀の種皮ポリフェノール量と比較して,煮豆やその煮汁,蒸し豆にすると多くのポリフェノールが検出されなくなることがわかった(3)3) 仲村明日賀,山下陽子,難波文男,戸田登志也,芦田 均:日本ポリフェノール学会雑誌,7, 32 (2018)..しかし,炒り黒大豆は比較的多くのポリフェノールが残存することもわかった.さらに,炒り黒大豆は通常,加熱前にいったん水に浸漬して豆に水を吸収させるが,その過程で著しくポリフェノールを損失する.一方で,水に浸漬しなければ,原穀と同程度のポリフェノール量が保持されたことから,水に浸漬せずに作成した炒り黒豆は高濃度でポリフェノールを摂取できる加工法であることを明らかにした.このように,食品の生体調節機能を考える際には,摂取する方法や形態,摂取後の吸収,代謝,分布,排泄を網羅的に考慮し,末梢での機能性発揮に至るためのより優れた摂取形態や方法も検討することが必要であり,今後のさらなる研究が求められる.以降は,黒大豆のポリフェノールに焦点を当て,これまでに私たちが解明してきた黒大豆由来ポリフェノール抽出物,あるいはそれに含まれる化合物での生体調節機能を中心に紹介させていただく.

図1■黒大豆種皮ポリフェノールの構造

黒大豆ポリフェノールの安全性

食品である以上,安全性の担保は最も重要な項目である.これまでに,私たちは黒大豆種皮抽出物(Black soybean seed coat extract; 以下BE)の変異原性試験と動物実験での急性あるいは慢性毒性試験を行った.その結果,Amesテストでは,5,000 µg/plateまでの濃度で,変異原性ならびに毒性を発揮せず,むしろ抗変異原性を示すことがわかった(4)4) T. Zhang, K. Kawabata, R. Kitano & H. Ashida: Food Sci. Technol. Res., 19, 685 (2013)..黒大豆中のポリフェノール化合物レベルで評価した場合にも,C3Gやプロシアニジンは,ベンゾ(a)ピレン[B(a)P]や4-ニトロキノリン-1-オキシドが誘導する変異原性を抑制した.ヒト肝がん由来HepG2細胞を用いて小核試験を実施したところ,BEは25 µg/mLまでの濃度では遺伝毒性を示さず,逆にB(a)Pが誘導する遺伝毒性に対しても抑制効果を発揮した(5)5) T. Zhang, S. Jiang, Y. Kimura, Y. Yamashita & H. Ashida: Mutat. Res., 15, 34 (2013)..以上のことから,黒大豆種皮ポリフェノールは,in vitroにおいてDNA損傷を誘導せず,むしろ化学発がん物質が誘導する遺伝子の損傷に対して抑制効果を示すことがわかった.次に,実験動物を用いて高容量でのBEの急性あるいは慢性毒性を評価した.雄性,ならびに雌性SDラットあるいはC57BL/6マウスに,2.5 g/kg体重のBEを単回経口投与したが,いずれも死亡や体重減少は認められなかった.投与15日後の各組織における所見でも,病変などの異常は認められなかった.この結果から,BEのLD50は>2.5 g/kg体重と設定した(6)6) I. Fukuda, M. Tsutsui, T. Yoshida, T. Toda, T. Tsuda & H. Ashida: Food Chem. Toxicol., 49, 3272 (2011)..さらに,長期間高容量投与試験として,雄性ならびに雌性C57BL/6マウスに2あるいは5%のBEを混餌した飼料を26週間摂取させた.飼育中あるいは飼育終了時に,顕著な病変やバイオマーカーの異常は認められず,死亡した動物もいなかった.体重は5%群で有意な減少が認められたが,これはBEの高肥満効果であると推察できた.これらの試験により,BEの無有害作用量(NOAEL)は,雄が5074.1 mg/kg体重/日,雌は7671.9 mg/kg体重/日までであると定めた.以上のことから,黒大豆種皮ポリフェノール高含有組成物であるBEは高い安全性が担保されていることが確認された.

黒大豆ポリフェノールの抗酸化能

ポリフェノールの主要な効能は,その特徴的な化学構造である水酸基による抗酸化効果能を発揮することはすでに広く知られている(7)7) A. Tresserra-Rimbau, R. M. Lamuela-Raventos & J. J. Moreno: Biochem. Pharmacol., 4, 186 (2018)..私たちは,BEならびにそのポリフェノール化合物の抗酸化能をH-ORAC法を用いて確認した.その結果,BEとそれに含まれる化合物[(−)-エピカテキン,(+)-カテキン,二量体のプロシアニジンB1, B2,三量体のプロシアニジンC,ならびに四量体のシンナムタンニンA2]は,ペルオキシラジカルが誘導する酸化ストレスを抑制し,BEのH-ORAC値は1.8×104 µmol TE/gであった(8)8) R. F. Zhang, F. X. Zhang, M. W. Zhang, Z. C. Wei, C. Y. Yang, Y. Zhang, X. J. Tang, Y. Y. Deng & J. W. Chi: J. Agric. Food Chem., 59, 5935 (2011)..H-ORAC法を用いたほかの食品成分由来ポリフェノールとして,ブドウ種子抽出物は1,076.4 µmol TE/gであり,ラズベリー,ブルーベリー,クランベリー,ブドウなどのアントシアンを豊富に含む果実より,種子は抗酸化能が高いと報告されている(9)9) J. Parry, L. Su, J. Moore, Z. Cheng, M. Luther, J. Rao, J. Wang & L. Yu: J. Agric. Food Chem., 54, 3773 (2006)..黒大豆は,ブドウ種子抽出物よりはるかに強い抗酸化能を発揮すると考えられた.また,肝細胞HepG2にこれらの各ポリフェノール化合物を作用させ,活性酸素(ROS)産生の抑制効果を2′,7′-ジクロロフルオレセインジアセタート(DCFH)法を用いて測定するとともに,DCFに由来する蛍光を顕微鏡下で観察することで評価した.その結果,プロシアニジン化合物類は,有意な活性酸素種の産生を抑制した.ところで,活性酸素種はさまざまな種類が存在しており,ヒドロキシラジカル,スーパーオキシドアニオンやヒドロゲンペルオキシドなどが酸化ストレスを惹起する.また,ポリフェノールの抗酸化能は直接的にこれらの活性酸素除去能を持つものと,抗酸化酵素(カタラーゼ,スーパーオキシドジスムターゼ,グルタチオンペルオキシダーゼ,グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)やグルタチオンレダクターゼなど)の合成を促進して,活性酸素を二次的に抑制する作用を発揮するものがある.BEやその化合物であるC3G,プロシアニジン類は肝細胞において,GSTファミリーのタンパク質発現を促進することを明らかにした(5)5) T. Zhang, S. Jiang, Y. Kimura, Y. Yamashita & H. Ashida: Mutat. Res., 15, 34 (2013)..このGSTはB(a)Pの解毒にかかわっており,BEによる肝臓でのB(a)Pの解毒代謝の促進にも寄与するが,これに関しては,次項で述べる.以上の結果から,BEの抗酸化能発揮には,少なくとも2つの経路を介していることが考えられる:一つは,フェノール性水酸基により直接抗酸化能を発揮する経路,もう一つは抗酸化酵素の発現を上昇させることで間接的に抗酸化効果を発揮する経路である.さらに,活性酸素が発生すると,酸化的DNA損傷が誘導されるが,BEやそれに含まれるポリフェノールは,AAPHによって誘導されたDNA損傷マーカーである8-hydroxy-2′-deoxyguanosine(8-OHdG)の生成も抑制した(10)10) Y. Yoshioka, X. Li, T. Zhang, T. Mitani, M. Yasuda, F. Nanba, T. Toda, Y. Yamashita & H. Ashida: J. Clin. Biochem. Nutr., 60, 108 (2016)..つまり,BE中のポリフェノールは,高い抗酸化能を発揮することで,酸化ストレスが関与するさまざまな疾病の発症を抑制する効果をもつ成分であると言えよう.

黒大豆ポリフェノールの薬物代謝酵素の発現調節能

前述のとおり,黒大豆ポリフェノールは高い抗酸化能を発揮して,さまざまな炎症や疾病の発症を抑制するとともに,酸化的DNA損傷を抑制することがわかった.つまり,これらの効果を介して,化学発がん物質による遺伝毒性に対しても,薬物代謝を促進して予防効果を発揮することが期待できる.そこで,BEは化学発がん物質である多環芳香族炭化水素のB(a)Pなどの薬物に対する代謝に及ぼす効果についても検証した.B(a)Pが生体内に暴露されると,シトクロムP450 1A1(CYP1A1)などの薬物代謝第I相酵素により代謝され活性化することで,発がん性がもたらされる.B(a)Pは芳香族炭化水素受容体(AhR)に結合し,その下流でCYP1A1の発現を誘導することがわかっている.私たちはこれまでに,プロシアニジンを高含有するカカオ抽出物においても,ダイオキシン類の2,3,7,8-Tetrachlorodibenzo-p-dioxin(TCDD)によって誘導されるAhRの活性化を抑制し,なかでも,四量体シンナムタンニンA2の抑制効果が最も強いことを報告している(11)11) R. Mukai, I. Fukuda, S. Nishiumi, M. Natsume, N. Osakabe, K. Yoshida & H. Ashida: J. Agric. Food Chem., 56, 10399 (2008)..また,3-メチルコランスレンが誘導するAhRを介したCYP1A1の発現を抑制することも報告している(5)5) T. Zhang, S. Jiang, Y. Kimura, Y. Yamashita & H. Ashida: Mutat. Res., 15, 34 (2013)..BEは同様の化合物を含有することから,薬物代謝促進効果を発揮することを検証した.HepG2細胞あるいはICRマウスの肝臓において,BEはB(a)Pによって誘導されるCYP1A1の発現量とAhRの転写を抑制することを明らかにした(5)5) T. Zhang, S. Jiang, Y. Kimura, Y. Yamashita & H. Ashida: Mutat. Res., 15, 34 (2013)..この効果には,BE中のポリフェノールであるフラバン-3-オール類が強くかかわっていることが示唆された.

また,B(a)P代謝物を解毒するためには,薬物第II相酵素であるGSTファミリーが重要な役割を担っている.前述のようにGSTは酸化ストレスを抑制するだけでなく,化学発がん物質などの生体異物の発がん性や毒性に対しても抑制効果を発揮する酵素である.BEとその化合物類は,前述のHepG2細胞だけでなくICRマウスの肝臓においてもGSTファミリーの発現量を上昇させ,B(a)Pの無毒化に効果を発揮することがわかった.さらに,転写因子であるNrf2(NF-E2-related factor 2)経路も薬物代謝第II相酵素として主要な役割を果たすことが知られているが,私たちは,BEがNrf2とのDNA結合を増加させることと,Nrf2を細胞質から核内へ移行させることで第II相酵素の誘導を促進することも明らかにした(5)5) T. Zhang, S. Jiang, Y. Kimura, Y. Yamashita & H. Ashida: Mutat. Res., 15, 34 (2013)..以上のことから,図2図2■黒大豆種皮ポリフェノールの薬物代謝促進経路に示すとおり,BEは肝臓での薬物代謝第I相酵素の発現を抑制するとともに,第II相酵素の発現を上昇させる両方において作用することで薬物による毒性や炎症,発がんを抑制する効果を発揮することが示唆された.

図2■黒大豆種皮ポリフェノールの薬物代謝促進経路

黒大豆ポリフェノールのエネルギー代謝促進効果

肥満を基盤病体としたメタボリックシンドローム罹患率やその予備軍の増加は世界的に深刻な課題である.肥満はエネルギー収支が摂取過多に傾くことで体内の異所性脂肪が蓄積した状態であり,特に内臓脂肪の蓄積はメタボリックシンドロームの発症につながり,糖尿病や心血管疾患,非アルコール性脂肪肝,脂質異常症を惹起する.肥満の予防・改善には,運動などでのエネルギー消費量を増加することも重要ではあるが,エネルギー摂取源である食事の管理も特に重要な因子である.また,肥満は弱いながらも,全身的な炎症反応を伴って,異常なサイトカイン産生とシグナリング経路の異常な活性化が惹起される.これにより,白色脂肪ではマクロファージの浸潤が引き起こされて,さらなる炎症性サイトカイン産生と炎症刺激の活性化の憎悪につながる.肥満と糖尿病は密接にかかわり,インスリン抵抗性,つまり,インスリン感受性が低下することにより,通常の糖代謝を行うために必要となるインスリンが増加する状態へと発展する.炎症性のサイトカインも,インスリンの活性を低下させインスリン抵抗性惹起にかかわる.したがって,肥満の予防・改善はインスリン抵抗性や2型糖尿病のリスク軽減のためにも重要である.また,インスリンの機能あるいは分泌不全,インスリン感受性の低下による慢性的な高血糖の持続,もしくは一過的な大過剰高血糖(血糖値スパイク)は,心血管疾患やさまざまな重篤な合併症の発症につながる.したがって,高血糖とインスリン抵抗性の予防も健康の維持増進には重要である(12)12) D. Gentile, M. Fornai, C. Pellegrini, R. Colucci, C. Blandizzi & L. Antonioli: Nutr. Res. Rev., 31, 239 (2018).

近年,生活習慣病予防に寄与する食品成分の探索が盛んに行われており,特に,エネルギー代謝促進効果を介した肥満や糖尿病予防効果を発揮するポリフェノールに関して多くの知見が報告されている(12)12) D. Gentile, M. Fornai, C. Pellegrini, R. Colucci, C. Blandizzi & L. Antonioli: Nutr. Res. Rev., 31, 239 (2018)..たとえば,ダークチョコレートを摂取すると,健常人ではインスリン感受性が高まることや,肥満2型糖尿病モデルのdb/dbマウスでは,カカオポリフェノールやグレープシードのプロシアニジンを摂取させると,高血糖の進行を抑制することが報告されている(13, 14)13) M. Tomaru, H. Takano, N. Osakabe, A. Yasuda, K. Inoue, R. Yanagisawa, T. Ohwatari & H. Uematsu: Nutrition, 23, 351 (2007).14) Z. Zhang, B. Y. Li, X. L. Li, M. Cheng, F. Yu, W. D. Lu, Q. Cai, J. F. Wang, R. H. Zhou, H. Q. Gao et al.: Biochim. Biophys. Acta, 1832, 805 (2013)..筆者らも黒大豆種皮由来のプロシアニジン高含有組成物やその化合物が,高血糖や肥満を抑制することを報告した.プロシアニジンの高血糖抑制の作用機序の一端は,消化管に存在するL細胞から分泌される消化管ホルモンのGLP-1分泌を促進し,それに伴ってインスリン分泌を増加させるインクレチン様作用を有していることを明らかにした(15)15) Y. Yamashita, M. Okabe, M. Natsume & H. Ashida: Biosci. Biotechnol. Biochem., 77, 888 (2013)..GLP-1は,グルコースなどの栄養素依存的に分泌が促進され,膵臓のGLP-1受容体に結合することでインスリン分泌を促進することが主要な働きと知られているホルモンである.また,インスリン分泌以外にもさまざまな代謝調節を制御するホルモンとして近年注目されている(15)15) Y. Yamashita, M. Okabe, M. Natsume & H. Ashida: Biosci. Biotechnol. Biochem., 77, 888 (2013)..黒大豆に含まれるプロシアニジンを単量体のエピカテキンから四量体までをそれぞれマウスに単回強制経口投与した際のGLP-1分泌促進効果を測定したところ,重合度依存的にGLP-1分泌促進効果が高く,特に,四量体のシンナムタンニンA2の効果が最も高いことを明らかにした(15)15) Y. Yamashita, M. Okabe, M. Natsume & H. Ashida: Biosci. Biotechnol. Biochem., 77, 888 (2013)..興味深いことに,これらの効果は10 µg/kg体重の通常動物実験で用いる濃度の1/1,000以下の低い濃度でも効果を発揮した.このような,栄養素以外の食品成分でインクレチン作用を報告したのは,私たちが初めてである.ほかに,非栄養素でインクレチン作用に関する報告は,González-Abuínら(16)16) N. González-Abuín, N. Martínez-Micaelo, M. Blay, A. Ardévol & M. Pinent: J. Agric. Food Chem., 62, 1066 (2014).が,グレープシードプロシアニジンのGLP-1分泌促進作用,およびGLP-1を失活させるDPP-4の阻害作用をもつことを報告していることから,プロシアニジン類は生体内に吸収される前段階の消化管内で,すでに初発の機能を発揮していることを示唆している.

また,別の作用機構として,筆者らはプロシアニジン類をマウスに単回投与した際に,インスリン非依存的なAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)のリン酸化を介してグルコース輸送担体4型(GLUT4)の細胞膜への移行を促進し,筋肉へのグルコース取り込みを上昇させることも明らかにした(17)17) Y. Yamashita, M. Okabe, M. Natsume & H. Ashida: J. Nutr. Sci., 1, e2 (2012)..AMPKは,エネルギー調節にも深くかかわっている因子である.特に,体熱産生やミトコンドリアの生合成にかかわる脱共役タンパク質(UCP)やPeroxisome proliferator-activated receptor gamma coactivator-1α(PGC-1α)の発現上昇をもたらし,インスリン抵抗性や肥満の予防・改善にも寄与することが期待される分子ターゲットである.筆者ら(18)18) Y. Yamashita, M. Okabe, M. Natsume & H. Ashida: Arch. Biochem. Biophys., 527, 95 (2012).は,プロシアニジン高含有組成物をマウスに長期的に混餌にて与えた際に,高脂肪食摂取による肥満とインスリン抵抗性を予防することを確認した.その際,筋肉においてAMPKの活性化が認められ,その下流でGLUT4の発現低下を抑制することと,その細胞膜移行が促進されていた.また,筋肉だけでなく,肝臓や褐色脂肪組織,白色脂肪組織でもAMPKの活性化が認められ,これによりエネルギー代謝が促進され,結果として肥満と脂肪蓄積の抑制に寄与していることが推察された(図3図3■黒大豆種皮ポリフェノールのエネルギー代謝促進作用).さらに,肥満によって誘導される炎症性サイトカインをBEは抑制していた(19)19) Y. Kanamoto, Y. Yamashita, F. Nanba, T. Yoshida, T. Tsuda, I. Fukuda, S. Nakamura-Tsuruta & H. Ashida: J. Agric. Food Chem., 59, 8985 (2011)..Osakabeらも(20)20) N. Kamio, T. Suzuki, Y. Watanabe, Y. Suhara & N. Osakabe: Free Radic. Biol. Med., 91, 256 (2016).,プロシアニジンを単回投与すると,エネルギー代謝を上昇させ,褐色脂肪組織中のUCP-1発現を増加させていること,さらにその作用機構には神経伝達物質が関与していることを報告している.また,プロシアニジンを反復投与した際にも,骨格筋におけるPGC-1αとUCPの発現上昇に伴って,ミトコンドリア新生が促されることも報告されている.エネルギー代謝に対して大きく影響を与える交感神経系をプロシアニジンは消化管内ですでに刺激し(20)20) N. Kamio, T. Suzuki, Y. Watanabe, Y. Suhara & N. Osakabe: Free Radic. Biol. Med., 91, 256 (2016).,その結果として分泌されるカテコールアミンが全身性の代謝促進作用を発揮している可能性が考えられている(21)21) Y. Matsumura, Y. Nakagawa, K. Mikome, H. Yamamoto & N. Osakabe: PLOS ONE, 9, e112180 (2014)..以上のことから,プロシアニジンはまず初発段階として,消化管内における何らかの受容体に作用し,神経系やホルモン分泌などの分子機構を変化させることで抹消組織におけるエネルギー代謝調節を制御する可能性が高く,その詳細な作用機構の早期究明が求められる.

図3■黒大豆種皮ポリフェノールのエネルギー代謝促進作用

まとめと今後の展望

黒大豆は豊富な栄養素に加えて,種皮ポリフェノールがさまざまな生体利用性を発揮することを明らかにしてきた.黒大豆種皮ポリフェノールは,安全性が担保されており,抗酸化能だけでなく,薬物代謝調節,遺伝毒性抑制,エネルギー代謝促進とヒトの健康維持増進に良いことだらけのまさに巷で話題のスーパーフードのようである.しかし,バランスの取れた食事による良好な栄養状態を保ったうえでの機能性であることを忘れてはならない.また,いずれも細胞レベルや動物実験での検証にとどまっており,ヒトでの知見はまだ十分ではない.私たちも,炒り黒大豆を用いたヒト介入試験に着手しており,抗酸化能を高め血管機能を向上させる知見を得ているが,その作用機構は現在解析中である.また,黒大豆種皮抽出物中のポリフェノール類は重合体が多いため,体内に吸収されにくいことが特徴である(2)2) L. Wang, L. Y. Yamashita, A. Saito & H. Ashida: J. Food Drug Anal., 25, 478 (2017)..本文中で述べたように,これらのポリフェノールはすでに消化管で作用を発揮している可能性が高いが,その活性本体や受容体はまだ不明な点が多い.さらに,ポリフェノール類の体内動態やほかの食品との食べ合わせによる食品成分の相互作用や効果の違いなどについても,ヒトの日常での生活を考慮した検討へと展開が必要である.

近年,生物がもつ地球の自転周期に合わせた体内調節機構として,サーカディアンリズムと健康や食のかかわりに注目が集まっている.私たちがこれまでに明らかにしてきたプロシアニジン類の高血糖予防効果についても,興味深いことに投与するタイミングを変化させると,効果を発揮する時間とそうでない時間が存在することを発見し,これにサーカディアンリズムを司る時計遺伝子が関与していることを示唆する知見を得ている.このようなことから,日内変動する生体リズムを考慮して,より効果的な摂取方法なども検討することが望まれる.生体で起こりうる食による生命現象をこれからも深く探求していきたいと考えている.

Reference

1) K. Ganesan & B. Xu: Nutrients, 9, E455 (2017).

2) L. Wang, L. Y. Yamashita, A. Saito & H. Ashida: J. Food Drug Anal., 25, 478 (2017).

3) 仲村明日賀,山下陽子,難波文男,戸田登志也,芦田 均:日本ポリフェノール学会雑誌,7, 32 (2018).

4) T. Zhang, K. Kawabata, R. Kitano & H. Ashida: Food Sci. Technol. Res., 19, 685 (2013).

5) T. Zhang, S. Jiang, Y. Kimura, Y. Yamashita & H. Ashida: Mutat. Res., 15, 34 (2013).

6) I. Fukuda, M. Tsutsui, T. Yoshida, T. Toda, T. Tsuda & H. Ashida: Food Chem. Toxicol., 49, 3272 (2011).

7) A. Tresserra-Rimbau, R. M. Lamuela-Raventos & J. J. Moreno: Biochem. Pharmacol., 4, 186 (2018).

8) R. F. Zhang, F. X. Zhang, M. W. Zhang, Z. C. Wei, C. Y. Yang, Y. Zhang, X. J. Tang, Y. Y. Deng & J. W. Chi: J. Agric. Food Chem., 59, 5935 (2011).

9) J. Parry, L. Su, J. Moore, Z. Cheng, M. Luther, J. Rao, J. Wang & L. Yu: J. Agric. Food Chem., 54, 3773 (2006).

10) Y. Yoshioka, X. Li, T. Zhang, T. Mitani, M. Yasuda, F. Nanba, T. Toda, Y. Yamashita & H. Ashida: J. Clin. Biochem. Nutr., 60, 108 (2016).

11) R. Mukai, I. Fukuda, S. Nishiumi, M. Natsume, N. Osakabe, K. Yoshida & H. Ashida: J. Agric. Food Chem., 56, 10399 (2008).

12) D. Gentile, M. Fornai, C. Pellegrini, R. Colucci, C. Blandizzi & L. Antonioli: Nutr. Res. Rev., 31, 239 (2018).

13) M. Tomaru, H. Takano, N. Osakabe, A. Yasuda, K. Inoue, R. Yanagisawa, T. Ohwatari & H. Uematsu: Nutrition, 23, 351 (2007).

14) Z. Zhang, B. Y. Li, X. L. Li, M. Cheng, F. Yu, W. D. Lu, Q. Cai, J. F. Wang, R. H. Zhou, H. Q. Gao et al.: Biochim. Biophys. Acta, 1832, 805 (2013).

15) Y. Yamashita, M. Okabe, M. Natsume & H. Ashida: Biosci. Biotechnol. Biochem., 77, 888 (2013).

16) N. González-Abuín, N. Martínez-Micaelo, M. Blay, A. Ardévol & M. Pinent: J. Agric. Food Chem., 62, 1066 (2014).

17) Y. Yamashita, M. Okabe, M. Natsume & H. Ashida: J. Nutr. Sci., 1, e2 (2012).

18) Y. Yamashita, M. Okabe, M. Natsume & H. Ashida: Arch. Biochem. Biophys., 527, 95 (2012).

19) Y. Kanamoto, Y. Yamashita, F. Nanba, T. Yoshida, T. Tsuda, I. Fukuda, S. Nakamura-Tsuruta & H. Ashida: J. Agric. Food Chem., 59, 8985 (2011).

20) N. Kamio, T. Suzuki, Y. Watanabe, Y. Suhara & N. Osakabe: Free Radic. Biol. Med., 91, 256 (2016).

21) Y. Matsumura, Y. Nakagawa, K. Mikome, H. Yamamoto & N. Osakabe: PLOS ONE, 9, e112180 (2014).