セミナー室

初めての英語論文執筆へのアドバイス学術的自我を確立する10の質問集

Saho Tateno

舘野 佐保

青山学院大学アカデミックライティングセンター

Published: 2019-02-20

毎年,秋冬の今時期といえば,翌春の卒業へ向けて学部生や大学院生が論文執筆に取り組む頃である.研究室の教員は論文指導に多くの時間を割くこととなる.初めて英語論文投稿に挑戦する学生に対して,教員が論文指導をする機会もあるのではないだろうか.昨今の論文捏造報道を受けて,研究不正防止の倫理教育の必要性が叫ばれるなか,果たして「研究モラルの欠如」のみを現状課題として捉えていれば良いのだろうか.良識ある研究活動の実践として,学術的文章作成の実践的なトレーニングは欠かせない.どんなにAI(人工知能)のようなテクノロジーがさらなる発展をしたとしても,学術的文章作成の難しさと身につけておくべき基本は普遍的なものである.本稿では,限られた時間で誰でもコツコツ進められる英語論文執筆教育の方法を模索し提案してみる.

言葉を失った若者たち

度重なる自然災害や緊迫する国際情勢などから,「言葉を失ってしまう」心境が続いてしまいがちな時代にある.他方で,普段の執筆環境やスタイルは,時代とともに変遷を遂げてきた.文章力は社会的な暮らしや就労におけるコミュニケーション能力の一つとして基本である.

論文発表が研究評価基準の一つとして推奨されているが,日本の研究コミュニティ全体の出版状況について見渡すと,国際競争力の低迷が指摘されて久しい.学術情報データベースのトムソン・ロイター「Web of Science」(1)1) Thomson Reuters: Web of Science, http://www.webofknowledge.com, 2018.によると,アジア諸国において論文出版数の増加は目覚ましく,2009年から2016年の8年間でマレーシア14.9%,中国14.0%,シンガポール7.5%であるが,一方で日本は0.5%であり,世界平均4.1%と比べても研究力としての論文出版数が伸び悩み,飽和状態である.

深刻な現状を危惧した日本政府は,大学改革およびイノベーション推進の一環として2018年6月に閣議決定された「統合イノベーション戦略」(2)2) 内閣府:統合イノベーション戦略,http://www8.cao.go.jp/cstp/tougosenryaku/index.html, 2018.において次のように述べている.

≪大学改革等によるイノベーション・エコシステムの創出≫

(平成30年6月12日閣議決定「統合イノベーション戦略 第三章知の創出」より)

1 研究生産性の向上

目標 ・2023年までに研究大学の教員一人当たりの論文数・総論文数を増やしつつ,総論文数に占めるTop10%補正論文数の割合を12%以上

施策 ・競争的研究費の一体的な見直し(科研費等の若手への重点化,挑戦的な研究の促進等)

2 ボーダレスな挑戦(国際化,大型産学連携)

目標 ・2023年度までにTop10%補正論文数における国際共著論文数の増加率を欧米程度

施策 ・2019年度に外国企業との連携に係るガイドラインの策定

科学政策の一つとして,具体的に「いまから5年間で論文出版数や国際共著論文数を増やす」と目標を掲げている.しかし,施策についてみてみると,研究費見直しや国際連携ガイドライン見直しのみとなっており,目標を実現するためのロードマップが明快ではない.研究現場において教員が論文指導をできる時間が減少しているにもかかわらず,現場での奮闘にのみ期待が寄せられているのが現状である.本稿では,まず言語の違いにかかわらず近年顕在化してきた「作文教育にまつわる課題」について述べ,その後筆者が提供した「英語論文執筆を目標としたトレーニングプログラム」について記述する.

a)即席完成形

情報テクノロジーの目覚ましい進歩により,コミュニケーションを助けるアプリやツールが日々開発されている.使い勝手さえ理解していれば,テキストを入力するだけで即時にウエブサイトやブログを更新でき,誰でも自由に発信できるようになった.便利さの恩恵に預かっている他方で,デメリットもある.文章推敲の機会がないまま誰でも言葉を出版できるようになった.学術出版およびジャーナリズムの役割はかつて「情報の門番」や「社会のウオッチドッグ」であったが,現在のネット情報の状況は門番不在な情報洪水となってしまっている.

他者の文章をインターネットで閲覧するとき,ウエブで更新されていれば「間違いのない完成形」だとみなしてしまうことがあり問題である.本来であれば,文章とは一言一言を積み重ね,長い時間をかけて作成されるものであった.論文については今もそうであるが,論文執筆に取り掛かるときにも,普段のスタイルの延長線上に捉えてしまうことがある.論文はワンクリックで即席にできるものではなく,論文執筆における時間的感覚が求められる.

b)SNS全盛

ソーシャルネットワーキングサービス,すなわちSNSであるツイッターやフェイスブック,ラインなどは,機能そのものはシンプルであるが担う役割の変遷はめざましい.東日本大震災時にSNSで最新の情報を得られるメリットが理解され,ライフライン関連や交通機関などにまつわる公的機関もツイッターで積極的に情報発信するようになった.デマやフェイクニュース問題は引き続きやっかいではあるが,伝統的な新聞雑誌のマスメディアとソーシャルメディアとの連動は今後も続くだろう.

論文では科学的な仮説の検証を目的として記述するが,SNSでは相手の反応を最優先にしてしまいがちである.取り扱う内容,文体,語彙などについて,SNSと論文では執筆時のスタイルが違っている.その際,問題となるのは,原稿を自身で評価する能力ではないだろうか.書いたものを見直し,本当に伝えたい事柄が述べられているか,論理展開などの推敲するプロセス,すなわち「書いたものを鏡として思考する時間」が執筆の時間だったはずだ.時間をかけて仕上げなければ,文章を送った先の他者に評価を委ねるのみになってしまう.自身の考えを書き表して評価するというプロセスを,作文教育で体得してもらうべきである.

c)執筆テクノロジー

今ではスマートフォンのみならず最新のITが数多く開発され続け,今後はAIやビッグデータを介した対人コミュニケーションのツールが文章執筆のスタイルを変化させていくだろう.だからこそ,執筆テクノロジー使用時の倫理観については,教育現場で議論を続けていく必要がある.たとえば,パソコンのシンプルな「コピー&ペースト」について考えて見ると,わかりやすい.よく「コピペ問題」という表現が使われるが,コピペ自体に罪はない.コピペは機能であり,どのように使いこなすのかを,教育する必要がある.自身の原稿で,他者から文章を拝借する場合は,引用元を明示することになっているが,明示できていない場合はルール違反となる.

コピペと同様,画像処理機能についても線引きが必要となる.また,スマートフォンを用いて論文の下書きをする学生も増えてきている.これからも,論文執筆時に便利なテクノロジーが開発されていくことが予測され,10年後にはどのようなスタイルが論文執筆の主流となっているかは,今は想像がつかない.だが,機能の使いこなし方および不正となる使用法について,教育現場で注意喚起をしていく必要がある.

これらの現代社会における作文の課題は,教育現場で話題にし,学生と議論の機会を設けることにより,大幅な改善の余地があると筆者は考えている.

言葉を失っている状況——文章を書けず,研究モラルが低下していると思われている状況の背景には,以上のような現代の作文にまるわる諸問題がある.では,現状の問題点を踏まえつつもどのように理系向けに作文教育を進めると良いのか,話を進めたい.

学術的自我を確立する10の質問

大学教育現場からは,従来の授業や研究室での教育の姿を尊重しつつも,「何かをプラスして教えることで,学生には書くことについての活気を取り戻してもらいたい」との要望が作文教育の専門家へ寄せられる.もしくは,少し前までは「アカデミックリテラシー」すなわち教養の一部として誰でも当たり前に備わっていた授業・研究活動時の書く力を現在の学生にも身につけてもらいたいとの声も少なくない.

要望に応えるためには,現在,理系作文教育として「ギャップ間の橋渡し」となるようなプログラムが望ましいのではないだろうか.英語論文の出版において,準備する学生は英語表現を最も気にしやすいが,「論文が受理されないときの代表的な理由」(3)3) Wiley, Wiley Researcher Academy, http://news.wiley.com/wileyresearcheracademy, 2018.の(表1表1■論文が受理されないときの代表的な理由)をご覧いただければわかるように,実際はそれ以外の理由により論文が受理されていない場合も多いようである.

表1■論文が受理されないときの代表的な理由
・別論文との差異がそれほどない
・投稿先ジャーナルの投稿規定に沿っていない
・実験方法およびデータ分析の検討が不十分
・結論部の妥当性が足りない
・論文に明記すべき項目が書かれていないまたは項目の不備 (タイトル,著者名,著者所属先,キーワード,本文,文献リスト,図表)
・本文の言語・文章表現が査読できる質になっていない
・図が不明瞭
・著者向けガイドラインのフォームに同意をしていなかった
・文献リストが古すぎるもしくは不備
・他のジャーナルで査読中の内容だった
・研究不正(捏造改ざん剽窃)を含む論文である
・言語,構成,図表がよく練られていない
・退屈な内容である
ジャーナル編集長のP. Throwerによるコメント Wiley Research Academy提供

だからと言って,英語論文投稿に消極的になっていては,もったいない.せっかく優れた実験データを発表する機会をもつのならば,国際的に自身の研究を知ってもらうために英語論文出版に挑戦してみるべきだ.そのため,学生が日常で綴るスマートフォンでのテキストと,論文執筆のような学術的文章の執筆スタイルのギャップ,日本語と英語の言語についてのギャップ,さらには一般論を気軽に語る場合と科学について専門的に議論する場合のギャップなど,ギャップを橋渡ししてあげられるような機会を与えて繰り返し訓練してみることで,日常生活における文章を通じたコミュニケーションから日本語での学術的文章執筆,英語での科学論文の出版にまで「段階を追って」執筆が上達するよう見届けることができる.

今回は,ある国立大学医学部の若手支援セミナーおよび現職での大学院生向けの作文講座でも実施してきた,英語論文執筆を目標としたトレーニング法を紹介する.10個用意した質問を投げかけて,学生に書いて回答してもらう.言葉一つひとつを積み上げ,わからない書き方の詳細があれば些細なことでも教員に書き方を尋ねてもらい,一緒に情報構築を試みる.

1. Decide how to take notes メモを取る方法は自分で決められていますか?

海外の英語を母国語としない留学生向けに課される英文力向上のトレーニングを海外大学院留学時に筆者は1年ほど受講したが,英語が母国語でない学生が英文力を身につけるためには,すべての論文作業工程について「ゆっくり時間をかけて進めること」に尽きる.これにより,英語ネイティヴではないというハンディは乗り越えられる.しかし,理系学生の場合は実験に一日の多くの時間を費やしているため,集中的な論文執筆の時間を作ることが難しい.

そこで,論文執筆の下書きやアイデアをまとめる「メモ」が重要になってくる.ノートやメモ帳でも良いし,パソコンの下書き機能もしくはスマートフォンを使用しても良い.自身のメモ書きのスタイルを学生に決めてもらうことを勧める.論文の書き始めから完成までに,一貫して同じメモの取り方をすることで,論文の構想を練ったり細部の検討をしたりするときに効率が良い.この際,実験ノートとは別に一連のメモを作成するほうが整理整頓しやすい.

論文の構成は,「タイトル,著者名,所属先,概要,導入,実験方法,結果・考察,結論,文献リスト」が一般的であり,それぞれの項目ごとに求められる学術的文章作成のポイントがある.一度に全貌が姿を表すように書き上げるつもりで取り組むのではなく,むしろ論文の項目ごとに分解して捉えるほうが良いだろう.項目ごとに作成し,パズルを組み立てるつもりで完成を目指すほうが,着実だ.

たとえば,導入部分では「文献を引用する文章」を作成できる必要があるし,実験方法では料理のレシピのように「時系列に説明する」能力が求められる.結果部分では先行研究と自身の実験データ,もしくは仮説と実験データを「比較して記述する」能力が求められる.一本の論文も,まずは一語や一文,一つの段落から始まる.メモ書きに少しずつ書きためることから始めてもらう.

2. Make a map after brainstorming 書くときの設計図はメモから書き起こせますか?

和文でも英文でも,作文トレーニングというと語彙や文法の正確さのみと考えてしまいがちであるが,それ以外にも教えるべきことは多い.学術的文章を作成する際は,特に「書くための準備」が大切になってくる.メモ書きはそれぞれの個性にあって雑多なものでも構わないが,下書きやメモ書きから一度,設計図を作成してもらうと次へのステップへとつながりやすい.

何を伝えて何を伝えないのか論点を絞り,どのような順序で伝えるのかも検討する.研究者の中には,こういった論旨,論理展開のことを論文執筆における「ストーリー展開」や「ストーリー性」と呼ぶ場合もあり,でき栄えを左右する.

学生の書いた原稿について日々読んでいると,全体の構成や骨組みがわかって書けている場合とそうでない場合に雲泥の差がある.書くべきことが多すぎて困っているような学生には,「これだけは伝えなければならない」という最小限の情報や論点を選んでもらう.始めは肩肘張らず,何度でも変更可能であると伝えてまずは「暫定的な設計図」を考案してもらうのが良いだろう.設計図を作成してもらうことで思考が論理的になり,検討が足りない部分を見いだせる.

3. Try paragraph writing 一つの段落でそれぞれどんな主張をしますか?

パラグラフライティングは,作文の基本として多くの授業や書籍で取り上げられている.英語についてのみならず,日本語でも「一つの段落で一つの主張」を述べていくと,学術的文章の場合はシンプルに論理構築しやすい.

では,パラグラフライティングを復習してみよう.段落の初めに「トピックセンテンス」として主張もしくは段落ごとのメインとなる文章があり,それに「サポートセンテンス」として具体的な事例やデータによる説明が続く.段落最後には,まとめの「クロージングセンテンス」があって次の段落へとつなげる.

教えるときには,トピック→サポート→クロージングの流れを確認してあげれば,一つの段落としてまとまりが出てくるだろう.何が主張で,何が主張の根拠となる事例やデータで,結局そこから何が言えるのか.バラバラになっているキーワードやデータを,段落ごとに小分けにしていく.段落ごとにしっくりくる文章となれば,段落同士が理路整然として積み上がっていくだろう.

馴染みがなければ,パラグラフライティングの構造を意識して,段落一つだけをまずは作成する練習が始めやすい.自身の研究について,日常生活についてでも良いので,パラグラフライティングの記述法を身につけることで,科学的・学術的な段落を書けるようになる第一歩となるだろう.

4. Show your three reasons 3つの論点や理由で説明できますか?

書くべきことの設計図を作成してもらい,パラグラフライティングも練習した次には,まずは3行でアイデアを説明してもらうと良いだろう.書こうとしている文章全体の論点や,主張の根拠を説明できるようになる.もちろん4つでも5つでも構わないが,複数個に焦点を定めて論理展開する練習をする.もし考えがまとまらない,何も浮かばない,という学生がいれば,まずは10個でも20個でもキーワードを挙げてもらい,たくさんあるキーワードから3つに焦点を絞ってもらう.

授業の課題レポートや学術論文では,「現在行った実験や考察をすべて書き表すことが目的ではない」ということを学生になるべく強調する.そう伝えることによって,メモに数多くの下書きをしたとしても書かなくても良い部分があり,最も伝えなければならない結果や論点から結論を導けば良いのだ,ということに気づいてもらう.

5. Tell it chronologically 時系列に並べて説明できますか?

アカデミックな文章の論理展開には形式が数とおりある.一つは,論点3つ程度の列挙,二つ目は,時系列に並べる書き方である.プロセスに従って書く方法とも言える.たとえば,「小学校から中学校,高校,大学で何のクラブ活動をしていたか」,もしくは「料理のレシピ」,「電化製品の取扱説明書」も時系列に並べて説明してある.

学術論文では「実験手法」の部分は時系列に沿った説明で書かれており,順を追って説明することをまずは箇条書きから始めてもらうのも良いかもしれない.学生に実際に時系列に並べて書いてもらうと,どのぐらいの情報を時系列の文章に含めるのか,苦労するようである.実験レポートや学術論文では,読み手が実際に再現して実験が可能な手法を書くべきであるが,実際には原稿の文字数も加味して全体のバランスで情報量の過不足を検討するだろう.

6. Explain it by comparison 比較して論じられますか?

アカデミックな論理展開の形式について,3つ目は比較である.「論点3つ」,「時系列」,「比較」,これらの形式で解説ができれば,大体の議論はできるだろう.ジェネラルな話題について書くのであれば,「都会と田舎」や「自動車と自転車」などを比較して共通点と相違点を述べることで練習となる.

論文執筆の練習であれば,「先行研究と実際の実験データの結果との比較」もしくは「仮説と実際の実験データとの比較」について共通点と相違点を記述してみる.比較して論述する練習をして見ると,学生は書くのにかなり時間を費やす.文章を書くときに,単なる印象論ではなく具体的な項目について検証して順を追って説明するトレーニングとして非常にためになるだろう.比較して考察することとなり,勉強の足りない点や,追加実験が必要な部分などがわかってくる場合もある.

7. Introduce objectively what you have read 先行研究を一つ選び紹介できますか?

研究活動において,原点となるような先行研究が誰にでもあるだろう,先行研究となる文献を一つ選び紹介する文章を書く練習は,学術的文章作成の最も基本的なトレーニングの一つと言える.何が優れているのか,その文献以前と以後で何が違ったのか.客観的に述べてみる.

さらに作文教育として密度の濃いトレーニングを実施するのであれば,紹介の仕方をアカデミックライティングの基本に則っていくつかのパターンで紹介できるように書く練習を勧める.

  • ①Quote 文献から文章をそのまま抜き取り引用.引用元を明示しながらカギカッコ「 」を用いて紹介する.
  • ②Paraphrase 文献一部分について言い換えた引用.引用元を明示しながら自分の言葉で紹介する.
  • ③Summarize 文献全体の要約.引用元を明示しながら概要を自分の言葉で紹介する.

これら3とおりの方法で文献を紹介できると,論文執筆の際に議論の幅が広がりやすくなる.引用文の書き方について詳しく学びたい方には,海外の大学院にて留学生向けの授業で使用されているテキスト”Keys for Writers”(4)4) A. Raimes & S. K. Miller-Cochran: Keys for Writers 7th Edition, Cengage Learning, 2016.を推薦する.

8. Make a list of research articles 文献のリストを作成できますか?

レポートや論文を執筆する基本として,原稿で引用する文献のリストを作成できるようにする.英文の場合は科学系の分野ではAPAスタイルトという表記方法を使用することが多い.昨今ではRefWorksなど読んだ文献を引用スタイルごとにリストを作れるツールがあるので,実際に論文を作成する際には使用すると便利である.

作文のトレーニングとしては,文献リストを一度じっくりと時間をかけて作成してもらうことを勧める.思ったよりも時間のかかる作業であるうえに,どの文献を論文で使用するか取捨選択する機会ともなる.同時に,PDF化した論文の整理整頓をするタイミングにもなる.

9. Contextualize three researches you have influenced by the most 先行研究を複数選び文脈を作れますか?

論文のイントロダクションでは,先行研究を紹介する必要がある.「どのような専門分野のどのような流れで今回の研究を実施するのか」について,説得力ある論法で記述する.その際,それぞれの先行研究をどのようにつなげ,自身の新しい文脈を作っていくのかが腕の見せ所であり,論文の見せ場の一つとなる.先行研究の説明の仕方や,先行研究同士をつなげて研究背景を説明することで,自身の研究の重要性やまだわかっていないことがらが十分に伝わらなければならない.

学生のトレーニングでは,まず,どの先行研究を選ぶのかを検討して,それぞれの先行研究をどの順番でどのように説明するのか書いてもらう.文系学部の学生よりも,理系学部の学生のほうが先行研究の引用表記について教育を受ける機会は少ないのではないだろうか.理系学部の学生に対しては,まずは実験データありきであるのは言うまでもない.しかし,日本の理系作文教育ではイントロダクションの書き方をもう少しじっくり行うことで,自身の専門分野を説明する力や,研究全体を見渡して論文執筆も実験も積極的に取り組めるようにする力が身につくのではないだろうか.

10. Take a stance on literature 動詞表現によってスタンスを明示し先行研究を批評できますか?

論文を執筆するときに,論文著者は先行研究に対して考えを述べていかなければならない.その際に,スタンスを明示することが求められる.ある科学的仮説について,もしくは主張について,論文著者として賛成なのか反対なのか,さらに明らかにすべきなのはどのようなことなのか,説明する.

学生に対する指導では,批評のための英文執筆において「動詞表現」に着目して取り組んでもらうと取り組みやすいようである.先行研究が,論文著者の研究にとってどのような意義をもつのか,証明する(prove),分類する(categorize),分析する(analyze)など,動詞表現によって限定して読み手に伝えられるからである.論文のイントロダクションなどで先行研究の説明について「何をどのように書けば良いのか,言葉が出てこない」と学生が困っていたら,「まずは主語に先行研究の著者やキーワードを選び,次に動詞を選んでください」とアドバイスして取り組んでもらうのである.

先行研究の批評にとどまらず,論文の結果考察や結論の部分においても,動詞表現に着目して指導することは効率的である.

筆者は,以上のような質問10項目についての英文執筆トレーニングを2日程度の時間をかけて集中的にセミナーや講義で主に大学院生やポスドク向けに取り組んでもらっている.半年程度の時間をかけて,一週間に一つの質問に回答してもらうような指導方法もあるだろう.回答を書いてもらいながら,いつのまにか書くことに慣れてくる.漠然としていたアイデアが,筋道を立てて形を帯びてくることに,きっと驚くだろう.

ここまで述べてきた内容の元になっているのは,海外留学で実際に受けた体系的な作文の授業や海外の学術出版社にて見聞きしてきたことがらである.日本では,理系作文の授業自体が少ない.授業があったとしても講義形式や著名科学者の論文執筆体験談に終始している場合がほとんどである.そのようなケースの場合,実際の執筆は聴講者が自習する時間に委ねられる.しかし,本来実践的な執筆トレーニングを目的とするならば,スポーツや音楽での基礎練習のような「実技」としてもっと学術的文章作成の指導をできるはずである.今回紹介した質問10項目は,英語論文を書き始める学生に対して,論理的に考えるヒントを与え,具体的な言葉を引き出すための一助となるだろう.これまで受け身な姿勢で単に与えられた研究テーマに取り組んできたような学生も,本気で英語論文執筆に向き合うことによって科学的思考の時間をもつことができ,結果として,論文発表や学術的自我を確立できる好機になるだろう.

「すべては書いてみなければ始まらない,ということがわかった」.筆者のセミナーを受講した医学部学生が述べた感想である.「書けない」と思ったときに,どうするか.強引なコピペ混じりの原稿で提出するのではなく,学生の躓きに教員が応え,段階を追って「書けるようになるプロセス」を経験してもらう.それが自信となり,次につながる.世間では感情を煽るような論法や,論理の飛躍,もしくは誇張とも言える印象づけの論法が横行している.だからこそ,教育現場や研究現場では,かえって「謙虚に」自身の実験データや論文執筆時の言語と向き合う姿勢を教えるのが良いのではないか.一見簡単に思えるような事柄に,回数を重ねて何度も確認していく.こういったことが社会に出てからも説得論法習得以前に大切で,地道に謙虚で緻密な論文執筆を教えてもらうことが,筆者にとってはプロの書き手を目指すうえで有用だったと考えている.

Reference

1) Thomson Reuters: Web of Science, http://www.webofknowledge.com, 2018.

2) 内閣府:統合イノベーション戦略,http://www8.cao.go.jp/cstp/tougosenryaku/index.html, 2018.

3) Wiley, Wiley Researcher Academy, http://news.wiley.com/wileyresearcheracademy, 2018.

4) A. Raimes & S. K. Miller-Cochran: Keys for Writers 7th Edition, Cengage Learning, 2016.