セミナー室

環境DNA分析の概要と希少種の検出水をくむだけで絶滅危惧種の分布がわかる

Toshifumi Minamoto

利文

神戸大学大学院人間発達環境学研究科

Published: 2019-02-20

環境DNAとはなにか

環境DNAの定義は現時点では定まっていない.たとえば,水の中には細菌や真菌などの微生物や,魚や両生類などの大型生物がおり,川からくんできた水サンプルには生きた微生物,微生物の死骸,大型生物から体外に放出された糞などが含まれ,それぞれにDNAが含まれている.これらをすべてまとめて環境DNAと呼ぶ場合がある一方で,生体内のDNAは除き,生物体の外に出たもののみを環境DNAと呼ぶ場合や,ある程度のサイズ以下の分画に含まれるDNAのみを環境DNAと呼ぶこともある.本稿では最も広い意味での環境DNA,すなわち環境中に存在するDNAであれば生体内外を問わずすべてのDNAを環境DNAと呼ぶことにする.

初期の環境DNA分析は微生物が対象

このような環境DNA分析は初期には微生物を対象として行われていた.環境水や土壌の中には無数の微生物がいるため,水や土を採取して微生物を分析するのはごく自然なことである.微生物分析の最も基礎的な手法は培養であるが,培養できる微生物は実は非常に少ない割合であることがわかるにつれ,遺伝子を直接分析するほうが微生物叢の解明に有用であると考えられるようになった.1990年代から2000年代初頭にかけて微生物の環境DNA分析が花開き,見えない世界に実に多様な微生物が生息していることが明らかになった.このような分析は,サンプル中に対象生物(ここでは微生物)が生きた状態で存在していることを前提としており,当然のことながら魚や両生類と行った「大きな」生物を対象とした分析は行われなかった.

マクロ生物の環境DNA分析

微生物の環境DNA分析が報告されるようになってから20年ほど遅れて,マクロ生物(目に見える大きさの生物のこと)の環境DNA分析が始まった.世界初の研究例はフランスのチームの行った,ウシガエルの環境DNA分析である(1)1) G. F. Ficetola, C. Miaud, F. Pompanon & P. Taberlet: Biol. Lett., 4, 423 (2008)..この研究では,ウシガエルのたくさんいる池の水からは高頻度で,ウシガエルの少ない池の水からは低頻度でウシガエルのDNAが検出され,ウシガエルのいない池の水からはウシガエルのDNAが検出されなかった.このことは,少量の(この研究の場合わずか15 mL)池の水を分析するだけで,その池にウシガエルがいるのかどうかを明らかにできることを示している.しかし,今から考えると衝撃的な内容のこの論文は,すぐには注目を集めなかったようである.環境中にマクロ生物の生体外のDNAがPCRで検出できるほど大量にあるとはにわかには信じられなかったのが一つの原因かもしれない.本稿の筆者自身もこの論文の存在に気づいたのは自らがマクロ生物の環境DNA分析を始めた後であった.しかし,その後徐々に注目を集めた本論文は本稿執筆時点で600件を超える引用を得ている(Google Scholar調べ:2018年11月6日時点).

環境DNA分析による単一種の特異的検出

上述のFicetolaらの論文でもそうであったように,環境DNA分析でマクロ生物の分布を知ろうとする手法は,初期には特定の単一種を検出する,種特異的検出法が一般的であった.このほかに,メタバーコーディングと呼ばれる同時多種検出法があり,両手法が目的に応じて使い分けされている.メタバーコーディングについては本連載の別稿のなかで詳しく紹介される予定なので,詳しいことについてはそちらをご覧いただきたい.

環境DNAサンプルからターゲットとなる生物種のDNAを特異的に検出するためには,環境中に混在するさまざまな生物のDNAから,対象種のDNAだけを特異的に検出するプライマーの設計が鍵を握る.これを担保するために,一般的には,表1表1■種特異的な環境DNA検出におけるプライマー設計の工程のような一連の手順を踏む(表1表1■種特異的な環境DNA検出におけるプライマー設計の工程).第一に行うことはデータの収集である.この際対象種の遺伝子情報だけでなく,近縁種の遺伝子情報もダウンロードする必要がある.次に,近縁種と対象種の間に塩基置換のある領域を探してプライマーを設計する.特にプライマーの3′末端付近側の配列は特異性に大きく影響することが知られているので,3′末端付近に対象種に特異的な塩基が入るように設計する.また,プライマー間に挟まれる増幅領域部分も種特異的な配列でないと,増幅産物が確かに対象種由来であることを確認することができないので,この点にも注意が必要である.このように注意深く設計したプライマーでも,思わぬ生物種のDNAを増幅してしまうことがある.そのため,コンピュータ上でどのような生物種の配列を増幅する可能性があるかをチェックする.ここではPrimer-BLASTなどのソフトウェアが役に立つ.ここまでをクリアしたプライマーは実際のPCRで特異性があるかを確認することになる.対象種と近縁種の組織サンプルに由来するDNAを鋳型としてPCRを行い,対象種が増幅されることと近縁種が誤増幅されないことを確認する.ここまでの段階を踏んでもなお環境サンプル中にはどのようなDNAが存在するかわからないので,最終的には実サンプルの増幅産物の配列を確認する必要がある.これだけのステップを踏むことで,設計したプライマーが近縁種を誤増幅しないことや,思いもしない生物種のDNAが増幅してしまうことを避けるのである.このとき,どれくらいの分類単位を近縁種として選択すべきであるかは一概には言えない.一般には同じ科に属するものを近縁種として対象にすることが多いが,たとえば国内の河川におけるコイ科のように,同科内に非常に多種がある場合など,亜科レベルにとどめる場合もあれば(2)2) 福岡有紗,高原輝彦,松本宗弘,兵庫県立農業高校生物部,丑丸敦史,源 利文:日本生態学会誌,66, 613 (2016).,同科どころか同目の近縁種もいないといった場合に,目レベルで違っていてもできるだけ近いと見られる種を近縁種として設定することもある(3)3) 丹羽英之,坂田雅之,源 利文,清野未恵子:保全生態学研究,23, 257 (2018)..このような過程を経て特異性を確認することによって初めて,そのプライマーを用いた実験を行うことができる.

表1■種特異的な環境DNA検出におけるプライマー設計の工程
工程具体的な内容
データ収集遺伝子データベースから対象種および近縁種のデータをダウンロードする
設計近縁種と対象種の間に変異のある領域を選んでプライマーを設計する
In silicoチェックPrimer-BLASTなどのソフトウェアで潜在的な増幅生物種をチェックする
In vitroチェック対象種および近縁種のDNAサンプルを鋳型としてPCRを行いクロスリアクションがないことを確認
実サンプルチェック環境DNAサンプルに由来する増幅産物をシーケンスし確かに対象種であることを確認

検出に用いられる技術

初期の環境DNA分析では,通常のPCRとゲル泳動による増幅バンドの確認によって環境DNAの検出が行われてきた.最近では多くの研究でリアルタイムPCR法が用いられるようになっている.リアルタイムPCRにもSYBR Greenなどのインターカレーターを用いた手法と,TaqManプローブなどの二重蛍光標識プローブを用いた手法がある.どちらも有用であるが,特に蛍光標識プローブを用いる手法は,検出の特異性がプライマーだけでなく,プローブにも依存するため,より特異性の高い検出系を作ることができる.また,リアルタイムPCRの場合はPCRの後にゲル泳動などのためにPCR産物を取り扱う必要がないため,極微量な環境中のDNAを増幅する環境DNA分析におけるコンタミネーションのリスクを低減することができ,特に推奨される.

また,一般的なPCRは変性,アニーリング,伸長のスリーステップで実行されるのが普通であるが,筆者の経験では環境DNA分析の場合は60度程度の温度帯でアニーリングと伸長を一緒に行うツーステップPCRが向いているようである.これは,非特異的な増幅を低減するのに役立つと考えられる.さらに,デオキシウリジン三リン酸(dUTP)とウラシルDNAグリコシラーゼ(UNG)を組み合わせたキャリーオーバーコンタミネーションの防止法もよく用いられる.ごく最近ではハンディタイプのリアルタイムPCR装置も考案されているので,近い将来には環境DNA分析が現場で終了することができるようになるだろう.

リアルタイムPCRは第二世代PCRとも呼ばれるが,第三世代PCRと呼ばれるデジタルPCRも環境DNA分析に使われ始めている(4)4) H. Doi, T. Takahara, T. Minamoto, S. Matsuhashi, K. Uchii & H. Yamanaka: Environ. Sci. Technol., 49, 5601 (2015)..これは,ごく微量のPCR溶液を多数(たとえば2万個など)用意し,対象遺伝子が溶液中に入ったものだけが示す増幅シグナルを計数することで,対象遺伝子の絶対数をデジタルに測定するものである.この手法を使うと,特に低濃度域の検出が改善することなどが知られており,微量のDNA検出に有用であると考えられる.

種特異的環境DNA検出のアプリケーション

このような技術を利用した環境DNA分析は初期には外来種の検出に用いられてきた(1, 5, 6)1) G. F. Ficetola, C. Miaud, F. Pompanon & P. Taberlet: Biol. Lett., 4, 423 (2008).5) C. L. Jerde, A. R. Mahon, W. L. Chadderton & D. M. Lodge: Conserv. Lett., 4, 150 (2011).6) T. Takahara, T. Minamoto & H. Doi: PLOS One, 8, e56584 (2013)..研究が進むにつれて,環境DNA分析は低密度に分布する生物に対しても,通常の目視や採捕を伴う調査よりも高感度であることが報告されるようになってきた.このことは希少種の生息地探索に特に有用であることを意味している.近年では多くの研究例で希少種の分布域把握に有効であることが示されており,たとえば特別天然記念物であるオオサンショウウオの流域内での分布状況調査や(7)7) S. Fukumoto, A. Ushimaru & T. Minamoto: J. Appl. Ecol., 52, 358 (2015).,絶滅危惧IB類に指定されるカワバタモロコの新規生息地探索などへの適用例が報告されている(2)2) 福岡有紗,高原輝彦,松本宗弘,兵庫県立農業高校生物部,丑丸敦史,源 利文:日本生態学会誌,66, 613 (2016)..本稿では,筆者の関与した研究例のなかから,特に希少な種の保全に役立つ可能性のある調査事例を以下に紹介する.

環境DNA分析による希少種の繁殖地発見の例1:雄物川のゼニタナゴ

環境省のレッドリストで絶滅危惧IA類にリストされるゼニタナゴは,過去には北関東から東北の広い範囲に分布していたとされるが,現在では知られている生息地は東北地方の4県の10カ所ほどで,そのほとんどがため池や水路などの人工環境である.本来の生息地は大河川の下流域やそれに接続する湖沼であり,かつては利根川や霞ヶ浦でも多数の個体を見ることができたそうである.われわれは,本来の生息環境である大河川にまだ繁殖を続けているゼニタナゴがいるのではないかと考え,秋田県の雄物川で調査を行った(8)8) M. K. Sakata, N. Maki, H. Sugiyama & T. Minamoto: Sci. Nat., 104, 100 (2017).

雄物川は秋田県を流れる一級水系雄物川の本流であり,秋田県と山形県の県境付近に端を発し,横手市や大仙市,秋田市を経て日本海に至る.本流は130 kmほどの流程をもつ.われわれは,河口から112 km地点までに99地点の採水ポイントを設定して,2016年の8月に水をくんで回った.99地点の採水に要した日数はわずか3日である.くんだ水から環境DNAを抽出し,ゼニタナゴに特異的な検出系でPCRを行った結果,2つのサンプルが陽性となった.そこで,陽性反応の出た地点において採捕調査を実施した結果,1地点から雌雄それぞれ1個体ずつを採取することに成功した.雄物川でゼニタナゴの成体が見つかったのは実に11年ぶりであった.しかも,採捕された雄個体は明確な婚姻色を示し,雌個体は産卵管が伸長しており,性的に成熟した個体であった.このことは環境DNAで特定した地点がゼニタナゴの産卵地であることを示唆する.さらに,同地点に産卵基質である二枚貝を沈めて産卵トラップ調査を行ったところ多くの二枚貝にゼニタナゴの産卵が確認された.つまり,環境DNA分析に端を発した調査の結果,絶滅危惧種の繁殖地を発見することに成功したのである.環境DNA分析を用いずに河川のほぼ全域にわたる産卵トラップ調査を行うのは現実的ではなく,この研究の結果は環境DNA分析が広域から対象種の生息地をスクリーニングする手段として優れていることを示している.

環境DNAを用いたゼニタナゴの生息調査はその後も続けており,上記の1地点では3年連続してゼニタナゴの環境DNAが検出されている.このことから,この場所が雄物川におけるゼニタナゴの重要な生息地である可能性がある.また,2016年にはDNAが検出されなかった別の地点でも2017年にはDNAが検出されるとともに,個体も採捕されるなど(図1図1■環境DNA分析の結果発見されたゼニタナゴの個体),環境DNAを用いた調査によって雄物川におけるゼニタナゴの分布状況が次第に明らかになりつつある.

図1■環境DNA分析の結果発見されたゼニタナゴの個体

左が雄,右が雌である.雌個体の産卵管が伸長し,性的に成熟していることがわかる.(写真提供:上田夏希氏)

ただし,この雄物川のケースにおける環境DNA分析では生息地の絞り込みまではできるが,繁殖地の発見にまで至ったのは必ずしも環境DNA分析の結果ではない.一般的な環境DNA分析では生物の行動や状態までは知ることができないからである.しかし,近年になって環境DNAサンプルにおける核DNAとミトコンドリアDNAの比率によって,繁殖期や繁殖地が特定できるという研究成果が報告されており(9)9) J. Bylemans, E. M. Furlan, C. M. Hardy, P. McGuffie, M. Lintermans & D. M. Gleeson: Methods Ecol. Evol., 8, 646 (2017).,水をくむだけで生息地だけでなく繁殖地を特定できるようになることが期待されている.

環境DNA分析による希少種の繁殖地発見の例2:カスミサンショウウオ

環境DNA分析をGIS解析と組み合わせて希少種の繁殖地発見に至った例として,岐阜県におけるカスミサンショウウオの繁殖地発見のケースを紹介したい.カスミサンショウウオは西日本の広い範囲に分布しているが,岐阜県はその東端に当たると考えられている.岐阜県ではこれまでに3カ所(岐阜市,揖斐川町,海津市にそれぞれ1箇所)しか生息地が知られていなかった.そこで,カスミサンショウウオの生息に適した環境条件をGISを用いて絞り込み,そこで環境DNA分析を行うことで新たな生息地,繁殖地を発見しようという取り組みが行われた.なお,この取り組みは主に岐阜県立岐阜高等学校の自然科学部生物班によって行われたものである.

岐阜県内におけるカスミサンショウウオの生息地の環境条件として,植生や地形の情報を取得し,同じような条件を示す場所を絞り込んだ.その後,絞り込まれた5カ所の候補地(岐阜市3カ所,関市1カ所,海津市1カ所)において,環境DNA分析を実施した.その結果,岐阜市,関市,海津市のそれぞれ1カ所のサンプルからカスミサンショウウオのDNAが検出された.この結果を受け,それぞれの候補地において個体または卵塊を探したところ,海津市の1カ所でカスミサンショウウオの卵塊を発見することができた(図2図2■GISと環境DNA分析の組み合わせによって発見されたカスミサンショウウオの新規生息地における調査風景).この事例も希少種の繁殖地を発見することに環境DNAが有効であることを示している.特に,本種のように水環境にやってくるのが繁殖期に限られるような種の場合,水サンプルからDNAを検出することは繁殖地の特定にダイレクトにつながる可能性がある.

図2■GISと環境DNA分析の組み合わせによって発見されたカスミサンショウウオの新規生息地における調査風景

(写真提供:岐阜高等学校自然科学部生物班)

また,上述のとおりこの研究は主に高校生によって実施された.この事例と同様に高校生による野外調査(採水)によって希少種の生息地を確認することができた事例として,兵庫県の篠山市におけるアカザなどの発見事例がある(3)3) 丹羽英之,坂田雅之,源 利文,清野未恵子:保全生態学研究,23, 257 (2018)..GIS分析も環境DNA分析も高校生にとって必ずしも簡単ではないかもしれないが,この結果は,必要なサポートを得ることができれば高校生でも環境DNA調査が可能であることを示している.つまり,これまでの通常の生物調査と違って専門家ではない人でも野外調査が実行可能であり,これまでよりも高頻度,多地点の調査が簡単に行える可能性があるのである.

種特異的環境DNA分析の応用可能性

このような環境DNAの種特異的な検出技術はどのような応用が可能であろうか.一つは多地点の情報を短時間で得られることを利用した,生物分布のスナップショットを得ることである.現地での作業時間が短いことは環境DNA分析の最大のメリットの一つである.実際,筆者らが行っているルーチンの環境DNA調査では調査地点での滞在時間は5~10分程度である.その間に,簡単に水質を測定し,水をくんだら次のポイントにすぐ移動という具合である.これにより,1チームで1日あたり20〜30地点くらいを回ることができる.その結果,たとえば数百地点の情報を1季節の間に集めることも可能である.また,このように多点の情報を得ることができれば,生息地の環境条件とあわせて生息適地をモデル化するなどの応用も可能であり,たとえばオオサンショウウオの全国における適地モデルの作成などが行われている.

また,上述したように,ミトコンドリアDNAと核DNAの比率を用いた繁殖地や繁殖期の特定も進んでいる.これは精子にはミトコンドリアが少ないことを利用した解析法であり,体外受精の生物であれば一般に適用可能である可能性がある.再びオオサンショウウオの事例であるが,兵庫県の羽束川ではこれを用いて繁殖の日や場所をピンポイントで特定することなどにすでに成功している.

種特異的検出は基本的に1種のみを検出する技術であるが,PCRをマルチプレックスで行うことで,複数の対象種を同時に検出することも可能である.たとえば,Tsujiら(10)10) S. Tsuji, Y. Iguchi, N. Shibata, I. Teramura, T. Kitagawa & H. Yamanaka: Sci. Rep., 8, 9138 (2018).は,ミナミメダカとキタノメダカの同時検出系の作成に成功している.筆者らも3種のマルチプレックス系による,ミナミメダカ,ドジョウ,カワバタモロコの同時検出などに成功しており,少数の対象種を検出する場合に有効であると考えられる.また,本題とは少し離れるが,マルチプレックス系によって病原体と宿主生物を同時に検出するなどの応用も可能である.

おわりに

マクロ生物の環境DNA分析は若い技術であるが,僅か10年ほどの間に飛躍的に発展した.今後も新たな分類群や生態系への適用などさまざまな応用が進むと考えられる.本稿では希少種の保全に資する展開に関する話題を中心に述べたが,あらゆる生物に適用可能であるので,応用可能性は幅広い.たとえば,水産有用種の動態予測や,病原体と宿主の複雑な関係を知るために用いることも可能だと思われる(11)11) 源 利文:ウイルス,66, 171 (2017).

環境DNA分析の利点の一つに,DNAさえとっておけば後から解析ができるという点がある.つまり,ある目的でとったサンプルが後になって別の目的の解析にも流用可能ということである.あるいは,そもそも目的すらなくても,平時のサンプリングを繰り返しておくことで,いざ何かが起きたときに過去を振り返って状況を把握することも可能である.つまり,環境DNAサンプルのアーカイブを作成することで,生物分布の情報を冷凍庫に保存しておけるということである.本稿執筆時点では,サンプルの取得も保存もそれぞれの研究者に委ねられているが,将来的には学会などが音頭を取って環境DNAアーカイブの体系的な保存を行うことで,生物分布に関する非常に貴重な情報をかなりの長期間にわたって保持することが可能である.その間に技術が進めば,サンプル中のあらゆる遺伝子情報を漏らすことなく取得することもできるようになるだろう.一杯の水から水中にどのような生物がどのような状態でおりどんな行動をしているか,すべてを明らかにすることができるようになる日も近いかもしれない.

Reference

1) G. F. Ficetola, C. Miaud, F. Pompanon & P. Taberlet: Biol. Lett., 4, 423 (2008).

2) 福岡有紗,高原輝彦,松本宗弘,兵庫県立農業高校生物部,丑丸敦史,源 利文:日本生態学会誌,66, 613 (2016).

3) 丹羽英之,坂田雅之,源 利文,清野未恵子:保全生態学研究,23, 257 (2018).

4) H. Doi, T. Takahara, T. Minamoto, S. Matsuhashi, K. Uchii & H. Yamanaka: Environ. Sci. Technol., 49, 5601 (2015).

5) C. L. Jerde, A. R. Mahon, W. L. Chadderton & D. M. Lodge: Conserv. Lett., 4, 150 (2011).

6) T. Takahara, T. Minamoto & H. Doi: PLOS One, 8, e56584 (2013).

7) S. Fukumoto, A. Ushimaru & T. Minamoto: J. Appl. Ecol., 52, 358 (2015).

8) M. K. Sakata, N. Maki, H. Sugiyama & T. Minamoto: Sci. Nat., 104, 100 (2017).

9) J. Bylemans, E. M. Furlan, C. M. Hardy, P. McGuffie, M. Lintermans & D. M. Gleeson: Methods Ecol. Evol., 8, 646 (2017).

10) S. Tsuji, Y. Iguchi, N. Shibata, I. Teramura, T. Kitagawa & H. Yamanaka: Sci. Rep., 8, 9138 (2018).

11) 源 利文:ウイルス,66, 171 (2017).

12) T. Minamoto, K. Hayami, M. K. Sakata & A. Imamura: Ecol. Res., 34, 237 (2019).