解説

メイラード反応と着色・褐変糖とアミノ酸が反応すると茶色くなる化学

Maillard Reaction and Browning: Chemistry of Browning Reaction between Saccharides and Amino Acids

Masatsune Murata

村田 容常

お茶の水女子大学基幹研究院自然科学系

Published: 2019-04-01

L. Maillardが,1912年に糖とアミノ酸を反応させ,Maillard反応もしくはアミノカルボニル反応を見いだしたとき,反応溶液が茶色くなり,その茶色い物質をメラノイジンとした.それ以来メイラード反応による食品の着色・褐変は主に高分子褐色色素であるメラノイジンの形成によると考えられていたが,近年さまざまな低分子のメイラード色素が報告され,低分子色素の重要性が再認識されている.

メイラード反応によるメラノイジンと低分子色素の形成

図1図1■グルコースとアミノ酸(R-NH2)とのメイラード反応のアウトラインにグルコースとアミノ酸とのメイラード反応のアウトラインを示す.グルコースのカルボニル基がアミノ基に求核付加し脱水するとシッフ塩基が形成される.シッフ塩基の二重結合が転移したものがアマドリ化合物である(初期段階).中期段階ではアマドリ化合物から3-デオキシグルコソンなどの種々のカルボニル化合物が形成される.後期段階ではこれらの反応の中期段階で生じたさまざまなカルボニル化合物とアミノ酸が反応して色素や香気成分などが形成され,着色・褐変する.

図1■グルコースとアミノ酸(R-NH2)とのメイラード反応のアウトライン

3-デオキシグルコソン(3-DG),1-デオキシグルコソン(1-DG),5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF),メチルグリオキザール(MG),Advanced glycation end products (AGEs).

表1表1■分子量からみたメイラード色素にメイラード反応で形成される色素もしくは着色成分を分子量で大別し低分子色素と高分子色素(メラノイジン)の特徴を対比した.低分子色素は,化学構造の解析が可能であるということで分子量が1,000~2,000以下の分子とした.メラノイジンもタンパク質を基質としない場合は,分子量は1,000以下であるという考え方もある(1)1) T. Hofmann: J. Agric. Food Chem., 46, 3891 (1998).が,ここでは分子量1,000~2,000以上のものを高分子色素とする.高分子色素はメラノイジンということになるが,高分子といっても生体高分子であるタンパク質や多糖とはかなり異なる.タンパク質ではアミノ酸が,多糖では単糖が構成単位になるが,そのような構成単位はない.カルボニル基の供給源である糖は,反応中に脱水,開裂,重合,縮合などのさまざまな反応を起こす.アミノ基の供給源であるアミノ酸はカルボキシル基を除けば骨格を保っている場合が多いが,その存在状態は,遊離アミノ酸,ペプチド,タンパク質と多様である.これらの基質がランダムに反応するので,均一な高分子にはならず不均一でさまざまな部分構造を有する不定形の高分子の混合物がメラノイジンということになる.仮にグルコースとグリシンを基質としたモデル反応で褐変させても,多様な反応生成物が形成される.しかし,色素という点からは400~450 nmの可視領域のE1%(1%溶液の示す吸光度)は,ほぼ数十のオーダーになる.分子式もアミノ酸ごとに一定の範囲を示す.このような観点からはメラノイジンは一定の化学的性質を有していると言える(2)2) B. L. Wedzicha & M. T. Kaputo: Food Chem., 43, 359 (1992).

表1■分子量からみたメイラード色素
メイラード色素低分子色素高分子色素(メラノイジン)
分子量<1,000–2,000>1,000–2,000
色素単一分子混合物(類似物群)
色調黄,橙,赤,青茶色
色の強度個々の色素は微量のため弱い.積算的.主要色素
化学構造同定可能同定困難
重合・架橋重合やタンパク質を架橋し高分子化,メラノイジン化する可能性アミノ酸やタンパク質を含んだ高分子
電荷さまざま負に荷電(含窒素の酸性物質)

ところで,褐変(ブラウニング)というのは茶色くくすんでくるということであるが,茶色というものは曲者である.図2A図2■吸収スペクトルと色の関係の概念図のような極大吸収を示すと,黄色い溶液になり,また図2B図2■吸収スペクトルと色の関係の概念図のような極大吸収スペクトルを示すと赤い溶液になる.一方,糖とアミノ酸を反応させ茶色くなったモデル溶液,もしくはこの溶液から低分子物質を除いたもの(メラノイジン)の紫外・可視吸収スペクトルを測定すると図2C図2■吸収スペクトルと色の関係の概念図のようになる.特異的な極大吸収がない.ヒトは黄色から赤色で明度が下がった色を茶色と呼んでいる.低分子色素が特異的な極大吸収を示すのと好対照である.メラノイジンは分子の中にさまざまな色素団(クロモフォア)を有するか,さまざまなクロモフォアをもった類似化合物の混合物であると言える(図2D図2■吸収スペクトルと色の関係の概念図).

図2■吸収スペクトルと色の関係の概念図

A,黄色;B,赤色;C,茶色;D,メラノイジン

メイラード反応で形成される低分子色素

メイラード反応による着色・褐変はメラノイジンに起因し,その構造は不詳であるということになっていたが,近年多数の低分子色素化合物がメイラード反応により形成されることがわかってきた.低分子色素は直接着色に関与するほか,メラノイジン前駆体の可能性もある.この分野での特筆すべき成果は,早瀬らの研究である(3~6).キシロールとグリシン溶液を放置しておくと青色の溶液が形成される.その青色色素Blue-M1が1999年に単離構造決定された.放置すると茶色くなることからメラノイジンの前駆体の一つと考えられる.さらに青色色素Blue-M2や赤色色素が同定された.同じく1990年代後半にHofmannらが,フルフラールを添加したモデル溶液などから各種メイラード色素を同定している(7~13)

このような流れのなかでわれわれもメイラード反応により形成される未知の低分子色素はまだ数多くあると考え,積極的に探索していくことにした.色は積算的である.仮に可視部の吸光度が0.01程度でわれわれが認知できないぐらい濃度的に色の薄い溶液を考えたとき,そのような濃度の物質が100個共存すれば吸光度は1になり,強い色を表すことになる.そのような化合物一つひとつを明らかにしていくことが,メイラード反応による着色の全体を理解することにつながると考えた.

フルフラールや5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)は,それぞれキシロースやグルコースからメイラード反応により生成する主要なアルデヒド類である.まず,フルフラールとHMFをリシン存在下pH 5の酢酸緩衝液中で加熱し,DADを装着したHPLCで分析した.DAD検出器は,紫外–可視スペクトルを測定できるのでHPLCで分離された各ピークが色をもっているか,つまり色素化合物であるかどうかを判別できる.ヒトは380 nm付近(紫色)から780 nm付近(赤)の光を可視光として認知できるので,400 nm付近に極大吸収を示すものは紫色の補色すなわち黄色色素であると認識する.DAD–HPLCの結果,それぞれ2種の色素化合物が形成されていることがわかった.単離・構造決定した結果,それらは新規なpipecolic acid誘導体であり,furpipate類と命名した(14, 15)14) M. Murata, H. Totsuka & H. Ono: Biosci. Biotechnol. Biochem., 71, 1717 (2007).15) H. Totsuka, K. Tokuzen, H. Ono & M. Murata: Food Sci. Technol. Res., 15, 45 (2009).図3A–D図3■新規メイラード色素(A, B, F-I, K, L, N-P)ならびにそのほかの関連化合物(C, D, E, J, M, Q)の構造式).フルフラール–リシン系からは,furpipate(極大吸収370 nm)とその脱炭酸体(極大吸収360 nm)を,HMF–リシン系からは5-hydroxymethylfurpipate(極大吸収380 nm)とその脱炭酸体(極大吸370 nm)を同定した.図4図4■Furpipateの予想生成経路にfurpipateの予想生成経路を示す(16)16) M. Murata: “The Maillard Reaction. Interface between Aging, Nutrition and Metabolism,” ed. by M. Thomas & J. Forbes, RSC Publishing, Cambridge, 2010, p 188.

図3■新規メイラード色素(A, B, F-I, K, L, N-P)ならびにそのほかの関連化合物(C, D, E, J, M, Q)の構造式

図4■Furpipateの予想生成経路

次にこの化合物が反応溶液中で実際どの程度寄与しているかをcolor dilution法(8)8) T. Hofmann: Carbohydr. Res., 313, 203 (1998).で,見積もった.まずfurpipate溶液を順次希釈していき検知閾値(A)を決定する.次に反応溶液を同様に順次希釈していき,その検知倍率(B)を決定する.そしてその反応溶液中のfurpipate濃度(C)を決定する.本化合物の色素寄与率(%)はC/A/B×100で求まる.このようにして,ある条件で作成したフルフラール–リシン反応溶液中のfurpipateの色素寄与率を求めたところ25%となった.これは全く予想外のことであった.メイラード反応でできる色素はほとんどがメラノイジンであり,低分子色素が形成されてもそれは極微量で全体には大きな影響を及ぼさないと思っていたからである.Furpipateという単一の色素が反応溶液の色全体の25%も説明できるという事実はたいへんな驚きであった.脱炭酸体は3%ほどの色素寄与率を示したので,この両者で合わせて約3割の色の強さをしたことになる.HMF–リシン系ではより顕著で,5-hydroxymethylfurpipateとその脱炭酸体がそれぞれ43,18%の色素寄与率を示し,合わせて約6割になった.このことは反応条件を変えると,色調全体に大きな影響を与える単一の色素成分の含量を変えられる,つまり色調や鮮やかさをコントロールできる可能性を示したものである.色のコントロールという観点からは食品製造上重要な知見を提供できたものと考えている.

フルフラールは,キシロースなどのペントースから形成される.キシロース–リシン系反応溶液は,フルフラール–リシン系よりもはるかに色が強い.そこで,キシロース–リシン系で形成される色素をDAD–HPLCで探索した.その結果,主な4つの色素成分を検出した(図5図5■キシロース–リシン系メイラード反応溶液のHPLC分析例).クロマトグラムの後半に検出される化合物Eは,古くから知られている有機溶媒で抽出される黄色物質4-hydroxy-5-methyl-2-furfurylidne-3(2H)-furanone(17)17) J. Ames, A. Apriyantono & A. Arnoldi: Food Chem., 46, 121 (1993).図3, E図3■新規メイラード色素(A, B, F-I, K, L, N-P)ならびにそのほかの関連化合物(C, D, E, J, M, Q)の構造式)であった.窒素は含まれていない.クロマトグラムの真ん中あたりに可視領域付近に特定の特大吸収を示さない大きな山がある.この部分全体がメラノイジンと考えられる.その山のなかに440 nm付近に極大吸収を示す3つのピーク(色素化合物)が検出された.この3つの化合物を単離・構造決定した結果,クロモフォアとしてピロリルメチリデンピロロン構造を有する,リシン2分子とキシロース2分子からなる橙色の化合物(図3, F–H図3■新規メイラード色素(A, B, F-I, K, L, N-P)ならびにそのほかの関連化合物(C, D, E, J, M, Q)の構造式)を同定し(18, 19)18) J. Sakamoto, M. Takenaka, H. Ono & M. Murata: Biosci. Biotechnol. Biochem., 73, 2065 (2009).19) Y. Nomi, J. Sakamoto, M. Takenaka, H. Ono & M. Murata: Biosci. Biotechnol. Biochem., 75, 221 (2011).,dilysyldipyrrolone A, B, Cと命名した.Dilysyldipyrrolone AとBの色素寄与率はそれぞれ5,10%であった.2分子のリシンのε-アミノ基がクロモフォアに組み込まれたdilysyldipyrrolone Bが主要色素であった.一方,dilysyldipyrrolone Aは,一分子のリシンのε-アミノ基ともう一分子のリシンのα-アミノ基が取り込まれている.このことはリシンと別のアミノ酸を共存させ反応を起こさせると,リシン1分子と別のアミノ酸1分子が取り込まれたdilysyldipyrroloneと同じクロモフォアをもつ化合物群が生じると考えられた.実際そのような反応溶液を作成し,各種アミノ酸が取り込まれた類縁化合物群(図3, I図3■新規メイラード色素(A, B, F-I, K, L, N-P)ならびにそのほかの関連化合物(C, D, E, J, M, Q)の構造式)を同定した(20)20) Y. Nomi, R. Masuzaki, N. Terasawa, M. Takenaka, H. Ono, Y. Otsuka & M. Murata: Food Funct., 4, 1067 (2013)..食品中にはさまざまなアミノ酸が共存することからこのように複数のアミン酸を取り込んだ形の色素も形成されていると思われる.

図5■キシロース–リシン系メイラード反応溶液のHPLC分析例

E~Hの構造は図3図3■新規メイラード色素(A, B, F-I, K, L, N-P)ならびにそのほかの関連化合物(C, D, E, J, M, Q)の構造式参照.

キシロースなどのペントース系メイラード反応はグルコースなどのヘキソース系メイラード反応より色付きが強い.これはヘキソースよりペントースのほうが開環型,すなわちアルデヒド型が多いためであると同時にその後の着色反応も強まるためである(21)21) Y. Mikami & M. Murata: Food Sci. Technol. Res., 21, 813 (2015)..グルコースから生じる1-デオキシグルコソンや3-デオキシグルコソンに対応するのは,1-デオキシペントソンや3-デオキシキペントソンである.Dilysyldipyrrolone類はこれららデオキシペンソン類から形成されると思われるが,キシロース由来のメラノイジンの形成には,1-デオキシペントソン由来の反応中間体4-hydroxy-5-methyl-3(2H)-furanone(図3, J図3■新規メイラード色素(A, B, F-I, K, L, N-P)ならびにそのほかの関連化合物(C, D, E, J, M, Q)の構造式)も重要であることを見いだした(22)22) Y. Mikami, M. Nakamura, S. Yamada & M. Murata: Food Sci. Technol. Res., 23, 283 (2017).

ヘキソースで比べるとグルコースに比べ開環型の割合が高いガラクトースのほうがグルコースより色付きが強い.これが実際の食品製造に影響している一例が,チーズの貯蔵褐変である.さまざまなチェダーチーズの貯蔵褐変を比べたところ,褐変しやすいものはガラクトース含量が高いことがわかった(23)23) A. Igoshi, Y. Sato, K. Kameyama & M. Murata: J. Nutr. Sci. Vitaminol. (Tokyo), 63, 412 (2017)..このチーズでは,製造過程でラクトースから生じたガラクトースが一部残存し,それが貯蔵中にメイラード反応を起こし褐変したと考えられる.アミノ基が十分ある場合には,カルボニル量が褐変の律速因子となる.

アミノ基の供給源はアミノ酸,ペプチド,タンパク質であるがビタミン類も基質になる.チアミン由来のメイラード香気成分は多数知られているが,色素の形成については知られていなかった.そこでチアミンのモデル反応で色素ができないかを調べてみた.チアミン–グルコース–リシン系の反応液中に色素の存在を確認したため単離・同定した.その結果,ピリミジン環とジアゼピン環が縮合した新規色素pyrizepine(図3, K図3■新規メイラード色素(A, B, F-I, K, L, N-P)ならびにそのほかの関連化合物(C, D, E, J, M, Q)の構造式)を同定した(24)24) A. Igoshi, K. Noda & M. Murata: Biosci. Biotechnol. Biochem., 82, 1425 (2018)..本物質は水溶液中では両性イオン(図6A図6■Pyrizepine(A)ならびにfurpenthiazinate(B)の溶液中における平衡や互変異性化)になっている.

図6■Pyrizepine(A)ならびにfurpenthiazinate(B)の溶液中における平衡や互変異性化

ところで食品を塩酸加水分解することは食品分析上よく行う.このとき反応溶液が褐変する.大豆タンパク質をキシロース存在下酸加水分解すると低分子色素が形成されることを偶然見いだした.この色素を単離・構造決定した結果,フラン環とシクロペンタチアジン環を有する新規色素furpenthiazinate(図3, L図3■新規メイラード色素(A, B, F-I, K, L, N-P)ならびにそのほかの関連化合物(C, D, E, J, M, Q)の構造式)を同定した(25)25) K. Noda, R. Masuzaki, Y. Terauchi, S. Yamada & M. Murata: J. Agric. Food Chem., 66, 11414 (2018)..この化合物は水溶液中では互変異性を示したため(図6B図6■Pyrizepine(A)ならびにfurpenthiazinate(B)の溶液中における平衡や互変異性化)NMR分析だけでは構造決定できず,還元体の構造を決定し同定した.酸加水分解中に生成したフルフラール,炭素数4個のカルボニル化合物,システインの3者が縮合して形成されたと考えられる.

食品中の低分子メイラード色素

食品中に実際存在しているメイラード色素はほとんどがメラノイジンであると考えられているため,低分子色素についてほとんど調べられていない.実際ビールや醤油をそのままDAD–HPLCで分析しても,顕著な低分子色素は検出できない.これは種々の低分子色素が存在していてもそれぞれは少量で,メラノイジンにかぶってしまうため分析できないためかもしれないと考えられた.そこで溶媒分画などの前処理をしてからDAD–HPLC分析してみた.まず醤油を酢酸エチルで抽出し,メラノイジンを除いて分析したころ,365 nmに極大吸収を示す淡黄色化合物を検出した.この化合物を単離・同定した結果,醤油の香気成分として知られている2,4-dihydroxy-2,5-dimethyl-3(2H)-thiophenone(図3, M図3■新規メイラード色素(A, B, F-I, K, L, N-P)ならびにそのほかの関連化合物(C, D, E, J, M, Q)の構造式)と同定した(26)26) M. Satoh, Y. Nomi, S. Yamada, M. Takenaka, H. Ono & M. Murata: Biosci. Biotechnol. Biochem., 75, 1240 (2011)..本物質は,醤油,味噌,ビールなどメイラード反応を起こしている食品に幅広く存在した(27)27) R. Furusawa, C. Goto, M. Satoh, Y. Nomi & M. Murata: Food Funct., 4, 1076 (2013)..また,本物質はシステインから生じる硫化水素が反応中間体のカルボニル化合物と反応して形成されると考えられた.一般にチオール基を有するシステインはカルボニル化合物と付加体を作りやすいため着色を抑制すると考えられるが,Sを含む化合物を醤油色素として単離したことから,積極的にシステインとグルコースを反応させ,色素ができないかをDAD–HPLCを用いて検討した.その結果,システインとグルコースを加熱したモデル溶液中に微量の色素(極大吸収300と360 nm)が形成されることを見いだした.この反応溶液にリシンを加えるとこのピークが数倍大きくなった.色素化合物を単離・構造解析した結果,新規なピロロチアゾールカルボン酸誘導体でpyrrolothiazolate(図3, N図3■新規メイラード色素(A, B, F-I, K, L, N-P)ならびにそのほかの関連化合物(C, D, E, J, M, Q)の構造式)と命名した(28)28) K. Noda, S. Yamada & M. Murata: Biosci. Biotechnol. Biochem., 79, 1350 (2015)..抗酸化性を示し(29)29) K. Noda, N. Terasawa & M. Murata: Food Funct., 7, 2551 (2016).,醤油などに検出された.色素寄与率はたいへん低く1%に満たないが,これらの食品の色調はメラノイジンだけでなくさまざまな低分子色素化合物群により形成され,本物質はその一部を担っていると考えられた.その構造は,システインに変えてセリンやスレオニンを反応させるとピロロチアゾール環ではなくピロロオキサゾール環が形成されることを想起させた(図7図7■Pyrrolothiazolateならびにpyrrolooxazolate Aとpyrrolooxazolate Bの生成経路の概略).そこでスレオニンもしくはセリンにリシンとグルコースを加え反応させたところ,300と360 nmに極大吸収を示すpyrrolothiazolateとは異なるピークを認めた.それぞれ単離し,想定化合物(pyrrolooxazolate AとB;図4, O, P図4■Furpipateの予想生成経路)であることを確認した(30)30) K. Noda & M. Murata: Biosci. Biotechnol. Biochem., 81, 343 (2017)..これらの化合物がpyrrolothiazolate同様実際の食品に存在しているかどうかは今後調べてみたい.Furpipate類については,化合物Dがパンのクラストなどに存在していることが報告されている(31)31) X.-M. Chen, Y. Dai & D. D. Kitts: J. Agric. Food Chem., 64, 9072 (2016).

図7■Pyrrolothiazolateならびにpyrrolooxazolate Aとpyrrolooxazolate Bの生成経路の概略

次にビール中の色素化合物について述べる.ビールの色素は主にメラノイジンであり,低分子色素については研究されていなかった.実際ビールそのものをDAD–HPLC分析しても醤油と同様メラノイジンと思われる山なりのピークに隠れて低分子色素は検出されなかった.そこで,中酸性物質画分と塩基性物質画分に分け,再度分析したところ,塩基性物質画分に275, 340, 405 nmの3カ所に極大吸収を示す物質を確認した.この物質を単離し,perlolyrineと同定した(32)32) C. Nagai, K. Noda, A. Kirihara, Y. Tomita & M. Murata: Food Sci. Technol. Res., 25, 81 (2019).図4, Q図4■Furpipateの予想生成経路).Perlolyrineは,ホソムギ(Lolium perenne)から蛍光を有するアルカロイドとして単離された化合物で(33)33) J. A. D. Jeffreys: J. Chem. Soc. C, 1091 (1970).,その後メイラード反応によりトリプトファンとHMFかもら形成されることが知られている(34)34) S. H. Lee, S. J. Jeong, G. Y. Jang, M. Y. Kim, I. G. Hwang, H. Y. Kim, K. S. Woo, B. Y. Hwang, J. Song, J. Lee et al.: J. Agric. Food Chem., 64, 3401 (2016)..市販ビールを調べたところ淡色ビールで3.2~8.0 µg/100 mL,黒ビールで4.8~14.0 µg/100 mL程度のperlolyrineが存在していた(32)32) C. Nagai, K. Noda, A. Kirihara, Y. Tomita & M. Murata: Food Sci. Technol. Res., 25, 81 (2019)..色素寄与率はたいへん低く,1%に満たなかった.ビールの色は主にメラノイジンによるものであるが,多種多様な低分子色素化合物群も形成されていて,perlolyrineもその一部を担っていると考えられた.なお,perlolyrineは醤油中の辛味増強成分としても同定されている(35)35) M. Oshida, Y. Matsuura, S. Hotta, J. Watanabe, Y. Mogi & T. Watanabe: Biosci. Biotechnol. Biochem., 81, 987 (2017).

以上述べたように,メイラード反応による着色・褐変は,構造不詳のメラノジンによるものであり,その化学的解析は困難であると思われていたが,近年の機器分析法の進歩と相まって,新規メイラード色素が解明されてきた.これら低分子色素は直接着色に関与するほか,メラノイジンに取り込まれたり,高分子化するときの架橋構造になったり,メラノイジン前駆体になる場合もある.このような基礎的知見が,メイラード反応のより詳細な科学的理解や食品の品質向上につながることを期待したい.

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