セミナー室

多様な乳酸菌抗菌ペプチドの探索とその可能性乳酸菌による「魔法の弾丸」の創出

Takeshi Zendo

善藤 威史

九州大学大学院農学研究院生命機能科学部門

Yoshimitsu Masuda

益田 時光

九州大学大学院農学研究院生命機能科学部門

Kenji Sonomoto

園元 謙二

九州大学大学院農学研究院生命機能科学部門

Published: 2019-03-25

はじめに

抗菌ペプチドは,細菌や昆虫,動植物に至るまで,あらゆる生物種によって生産され,生体防御に重要な役割を果たしている.その構造と機能はきわめて多様であり,生物は長い歴史のなかで環境に適応しながら抗菌ペプチドをさまざまに進化させてきたことがうかがえる.ペプチドという中分子の形態を有する抗菌ペプチドは,一般に低分子有機化合物である,いわゆる抗生物質とは,その構造だけでなく機能においても一線を画しており,次世代の抗菌物質としてその利用が期待される.

生合成の面からは,抗菌ペプチドはリボソーム系と非リボソーム系に分けられ,リボソーム系では一般のタンパク質に用いられる20種のアミノ酸が主な構成成分となっている.いずれの場合にも,生物が作り出した抗菌ペプチドをベースとして,化学合成あるいは遺伝子改変によって比較的容易に改変や設計が可能である.今日深刻な社会問題となっている多剤耐性菌への対抗手段としての期待も大きく,多様な生物種からの新奇抗菌ペプチドの探索,生合成機構,作用機構と耐性機構,微生物菌叢における役割,生体免疫系への作用,医療や食品分野への応用など,さまざまな観点から研究が進められている.

多種多様な抗菌ペプチドの中でも,細菌がリボソーム上で一般のタンパク質と同様に生合成する抗菌ペプチドは,バクテリオシンと総称される.特に,食品とのかかわりが深く,安全性が高いと考えられる乳酸菌由来のバクテリオシンは,安全・安心な抗菌物質として広く探索され,有効利用に向けた検討が行われてきた.本稿では,乳酸菌バクテリオシンの多様性とその利用,新奇乳酸菌バクテリオシンの探索,さらには,その生合成機構を利用した新奇抗菌ペプチドの創出の試みとその可能性について,筆者らの研究成果も含めて紹介したい.

乳酸菌が生産する抗菌ペプチド,バクテリオシンの多様性

1. グラム陽性菌が生産するバクテリオシンの分類

抗菌ペプチドの構造は生産する生物種の多様さにも応じて,きわめて多様であり,乳酸菌を含むグラム陽性菌に限ってもさまざまなものが報告されている.グラム陽性菌が生産するバクテリオシンは,翻訳後修飾によって生じる異常アミノ酸を含むクラスIと,含まないクラスIIに大別され,クラスIIはさらにクラスIIaからIIdの4つのサブクラスに分類される(1)1) P. D. Cotter, C. Hill & R. P. Ross: Nat. Rev. Microbiol., 3, 777 (2005).表1表1■グラム陽性菌が生産するバクテリオシンの分類).

表1■グラム陽性菌が生産するバクテリオシンの分類
クラス(サブクラス)特徴
I翻訳後修飾によって生じる不飽和アミノ酸やランチオニンなどの異常アミノ酸を含む.ランチビオティックとも呼ばれる.耐酸・耐熱性,分子量5,000以下ナイシンA, Q, Z
II異常アミノ酸を含まない.耐酸・耐熱性,分子量10,000以下
aN末端側にYGNGVXCの保存配列を有する.強い抗リステリア活性を示す.ペディオシンPA-1/AcH
b相乗作用を示す2つのペプチドによって構成される.ラクトコッシンQ
cN末端とC末端がペプチド結合で環状化した構造を有する.ラクトサイクリシンQ
dIIa, IIb, IIcに分類されないクラスIIバクテリオシンラクティシンQ, Z

クラスIバクテリオシンは,翻訳後修飾によって生じるランチオニンなどの異常アミノ酸を含むことから,ランチビオティックとも総称される.最も代表的な乳酸菌バクテリオシンであるナイシンAは,このクラスIに分類される(図1図1■ナイシンAの構造).詳しくは後述するが,ナイシンAはグラム陽性菌全般に高い抗菌活性を示し,広く食品保存料として実用されている.構造中の異常アミノ酸は,クラスIバクテリオシンの強力な抗菌活性と高い安定性に寄与していることが明らかとなっている.

クラスIIバクテリオシンは,ランチオニンなどの異常アミノ酸を含まず,一般のアミノ酸のみで構成されている.最も代表的なものは,欧米で深刻な食中毒を引き起こしているListeria monocytogenesに対して特に強い抗菌活性を示すクラスIIaバクテリオシンであるペディオシンPA-1/AcHである(図2図2■ペディオシンPA-1/AcHの構造).クラスIIaバクテリオシンはペディオシン様バクテリオシンとも呼ばれ,ナイシンに続く実用化を目指し,欧米では広く研究が進められている.クラスIIbバクテリオシンは,2つのペプチドが相乗的に抗菌活性を示す.クラスIIcバクテリオシンは,N末端とC末端がペプチド結合をしたユニークな環状構造を有しており,この構造が高い抗菌活性と安定性に寄与していると考えられる.クラスIIdはほかのサブクラスには属さないクラスIIバクテリオシンで,現状は構造や性質にあまり共通性のない種々雑多なバクテリオシンが分類されている.

図1■ナイシンAの構造

翻訳後修飾によって生じる脱水アミノ酸やランチオニン等の異常アミノ酸を含む.

図2■ペディオシンPA-1/AcHの構造

クラスIIaバクテリオシンに共通するYGNGVXCの保存配列と2つのジスルフィド結合を有する.

2. ナイシン

乳酸菌Lactococcus lactisに属する一部の菌株によって生産されるナイシンは,強力な抗菌活性を有することから食品保存料として応用され,その構造,生合成機構,作用機構などについて,広く研究が行われている.食品保存料として認められているのは最初に発見されたナイシンAのみであるが,ナイシンZ, Q, Fなど,アミノ酸が1~4残基異なる類縁体も報告されている.いずれも34残基のアミノ酸で構成され,一つのランチオニンと4つの3-メチルランチオニンによる計5つのモノスルフィド結合の架橋構造と,脱水アミノ酸であるデヒドロアラニンを一つ,デヒドロブチリン2つを有している.

各ナイシン類縁体は同様の生合成機構によって生産され,ナイシンに含まれるランチオニンなどの異常アミノ酸は,ナイシン生合成遺伝子群に存在する修飾酵素による翻訳後修飾によって生じる(2)2) 善藤威史,石橋直樹,園元謙二:乳酸菌学会誌,25, 24 (2014).図3図3■ナイシンAの生合成機構).そのほかにも,生産したバクテリオシンから自身を守るための自己耐性や生産制御にかかわる遺伝子群を有し,これらの一連の遺伝子群の働きによってナイシンAが生産されている.クラスIIバクテリオシンでは,翻訳後修飾にかかわる遺伝子は存在しないものの,同様にクラスターを形成した生合成遺伝子群がその生産にかかわっている.

図3■ナイシンAの生合成機構

ナイシンA前駆体(NisA)は,脱水と環化の翻訳後修飾を受けた後,菌体外に分泌され,リーダー配列が切断されて成熟型(活性型)となる.ナイシンAから自身を守る自己耐性機構やナイシンA自身を誘導因子とした生産制御機構も有する.

ナイシンは,細菌細胞の表面に存在するペプチドグリカン前駆体であるリピドIIを標的として作用する(3)3) M. R. Islam, J. Nagao, T. Zendo & K. Sonomoto: Biochem. Soc. Trans., 40, 1528 (2012)..リピドIIを足掛かりとして,細胞膜に孔を形成し,ATPやイオンなどの細胞内容物を溶出させることで,殺菌的な抗菌作用を示す.この一連の過程は瞬時に起こり,リピドIIがグラム陽性細菌の表面に普遍的に存在することや,ペプチドであるナイシンは易分解性で環境中に残留しがたいことと合わせて,ナイシンに対する耐性が生じにくい要因と考えられている.また,ナイシンが低濃度の場合には,リピドIIへの結合による細胞壁合成阻害によって抗菌作用を示すことが明らかとなっている.多くのクラスIバクテリオシンがナイシンと同様にリピドIIを標的分子として作用することが明らかとなっており(4)4) M. R. Islam, M. Nishie, J. Nagao, T. Zendo, S. Keller, J. Nakayama, D. Kohda, H.-G. Sahl & K. Sonomoto: J. Am. Chem. Soc., 134, 3687 (2012).,一方,クラスIIバクテリオシンでは細胞表層のタンパク質を標的として作用する場合が多い.

乳酸菌バクテリオシンの利用

1. ナイシンの食品保存への利用

ペニシリンと時をほぼ同じくして1920年代に発見されたナイシンは,1950年代にはチーズへの利用が検討され始め,ナイシン製剤である「Nisaplin(ニサプリン)」が商品化された.その後,WHOとFAOによって認可され,米国FDAでは一般に安全と認められ(GRAS),現在では50カ国以上で食品保存料として利用されている(5)5) J. Delves-Broughton, P. Blackburn, R. J. Evans & J. Hugenholtz: Antonie van Leeuwenhoek, 69, 193 (1996)..日本においては,2009年3月2日に食品添加物(保存料)として指定され,食品保存料としての使用が可能となった(6, 7)6) 善藤威史,澤 稔彦,米山史紀,園元謙二:乳業技術,59, 77 (2009).7) 益田時光, 善藤威史, 園元謙二:ミルクサイエンス,59, 59 (2010).

食品保存料としてのナイシンは,ナイシンAを2.5%含有し,乳培地の成分や塩化ナトリウムを含むナイシン製剤である.ナイシンはグラム陽性細菌に強い抗菌活性を示すため,Bacillus属,Clostridium属,Staphylococcus属,Listeria属などの食品汚染菌や食中毒菌が問題となる,チーズ,乳製品,缶詰,液卵などが主な使用対象で,各国で対象食品や使用許容量が定められている(7)7) 益田時光, 善藤威史, 園元謙二:ミルクサイエンス,59, 59 (2010)..特に,低温での保存ができない食品や,低温で増殖する微生物が問題となる食品,加熱処理ができない食品が使用対象となっている.日本においても,食品添加物への指定に際し,乳培地由来のナイシン製剤の規格と各国での使用基準に準じて,食品添加物「ナイシン」の成分規格,使用基準などが定められた(6, 7)6) 善藤威史,澤 稔彦,米山史紀,園元謙二:乳業技術,59, 77 (2009).7) 益田時光, 善藤威史, 園元謙二:ミルクサイエンス,59, 59 (2010).

2. ナイシンの非食品用途への展開と課題

ナイシンは,容易に分解されて残留せず,食べても安全であることから,非食品用途においても多方面で利用が検討されている.その一方で,グラム陰性細菌などへの微弱な抗菌活性や,低純度,高価格などの克服すべき課題があり,われわれも検討を進めてきた(2, 6, 7)2) 善藤威史,石橋直樹,園元謙二:乳酸菌学会誌,25, 24 (2014).6) 善藤威史,澤 稔彦,米山史紀,園元謙二:乳業技術,59, 77 (2009).7) 益田時光, 善藤威史, 園元謙二:ミルクサイエンス,59, 59 (2010).

ところで,細胞の最も外側に外膜をもつグラム陰性菌に対しては,ナイシンは細胞膜上のリピドIIに到達することができず,十分な抗菌作用を発揮することができない.しかし,たとえば,外膜の構造を変化させるキレート剤を併用することで,ナイシンは外膜を透過することができ,グラム陰性菌にも抗菌活性を示すことが知られている.多くのバクテリオシンは細胞膜上の分子を標的に作用することから,キレート剤との併用はグラム陰性菌への抗菌スペクトルの拡大への有効な手段と考えられる.

そこで,われわれはナイシンの特性を活かしつつ,グラム陰性菌などに抗菌スペクトルを相乗的に拡大できる物質を探索し,ナイシンを主剤とした手指用殺菌洗浄剤や牛乳房炎の予防剤・治療剤を開発した.さらに最近では,ナイシンと梅エキス,ローズエキスを組み合わせ,グラム陽性の虫歯菌のみならず,グラム陰性の歯周病菌や真菌であるカンジダ菌にも高い抗菌活性を示す口腔用抗菌剤を開発した.これを配合して開発した口腔ケア剤は,ナイシンをはじめすべて可食天然成分のみを使用し,飲み込んでも安心で,誤飲しやすく口腔ケアが困難な要介護高齢者や重度心身障がい者,乳幼児などによる利用が見込まれる.

ナイシンをはじめとする乳酸菌バクテリオシンの利用の拡大をさらに図るにはいくつかの解決すべき課題がある.前述のように,ナイシンのグラム陰性菌への抗菌スペクトルの拡大や高純度化にはある程度の目途が立っているものの,低コスト化をさらに図る必要がある.ほかにも,中性域での低い安定性,グラム陽性菌のなかでも偏りのある抗菌スペクトル,そして継続使用による耐性菌の出現の懸念である.実用におけるナイシン耐性菌出現の報告例はいまだ無く,ナイシン耐性菌はきわめて生じにくいと考えられるものの,今後,継続使用によるナイシン耐性菌の出現の可能性もゼロではない.

これらの問題点を解決する手段の一つとして,多様なバクテリオシンの利用が考えられる.前述のように,乳酸菌バクテリオシンには,ナイシン以外にもさまざまなものが見いだされている.たとえば,Listeria属細菌に対しては,ペディオシン様バクテリオシンの方がナイシンよりも高い活性を有し,より効果的な制御が可能である.それぞれの用途に合った性質をもつ新奇バクテリオシンを探索し,多種多様なものを適材適所に用いることで,有害菌のみを少量で効果的に抑制し,無用の耐性菌を生じない,より高度な微生物制御の実現が期待される.

新奇乳酸菌バクテリオシンの探索

1. 迅速スクリーニング法の構築

それぞれの用途に適した多様な新奇バクテリオシンを得るには,多数の乳酸菌を迅速に評価することが重要となる.そこで,われわれはスクリーニングの初期段階でバクテリオシンの新奇性の判定を行う迅速スクリーニング法を構築した.乳酸菌分離株の培養液上清を試料とし,高感受性株として設定した6~12株の検定菌に対する抗菌スペクトルと,LC/MSによって検出される分子量を新奇性の指標とした(8, 9)8) T. Zendo, J. Nakayama, K. Fujita & K. Sonomoto: J. Appl. Microbiol., 104, 499 (2008).9) T. Zendo: Biosci. Biotechnol. Biochem., 77, 893 (2013)..この方法によって,スクリーニングの初期段階において,ナイシンなどの既知のバクテリオシンを除外し,新奇性の高いバクテリオシンを効率的に選抜することが可能となった.

2. 新奇乳酸菌バクテリオシンの例

構築した迅速スクリーニング法によって,さまざまなクラス・サブクラスに属する,多種多様な新奇乳酸菌バクテリオシンを見いだすことができた(9)9) T. Zendo: Biosci. Biotechnol. Biochem., 77, 893 (2013)..たとえば,クラスIでは,ナイシンAとは4残基が異なるナイシンQを見いだした.ナイシンAは中央のヒンジ領域のメチオニン残基の酸化によって抗菌活性の低下が実用時の問題となるが,これがロイシンに置換したナイシンQは酸化の影響を受けにくいことが明らかとなっており,食品保存料などへの利用に有利と考えられる.クラスIIでは,クラスIIcに属するラクトサイクリシンQ,ロイコサイクリシンQ,エンテロシンNKR-5-3Bなどの新奇環状バクテリオシンを見いだした(図4図4■われわれが見出した新奇乳酸菌バクテリオシンの例(ラクトサイクリシンQとラクティシンQ)).これらはいずれも広い抗菌スペクトルと,環状構造に起因すると考えられる高い安定性を有している.その生合成機構,特に環状化機構に興味が持たれ,現在,その解明を試みている(10)10) Y. Masuda, T. Zendo & K. Sonomoto: Benef. Microbes, 3, 3 (2012)..また,クラスIIdに属し,ナイシンに匹敵する強力な抗菌活性を有するラクティシンQやラクティシンZを見いだした(図4図4■われわれが見出した新奇乳酸菌バクテリオシンの例(ラクトサイクリシンQとラクティシンQ)).ラクティシンQとZは,リーダーペプチドを伴わずに生合成されるリーダーレスバクテリオシンであり,作用機構だけでなく,生合成機構にも興味がもたれ,その解析を進めている(10)10) Y. Masuda, T. Zendo & K. Sonomoto: Benef. Microbes, 3, 3 (2012).

図4■われわれが見出した新奇乳酸菌バクテリオシンの例(ラクトサイクリシンQとラクティシンQ)

ラクトサイクリシンQはN末端とC末端がペプチド結合している.ラクティシンQはリーダーペプチドを伴わずに生合成され,N末端に開始コドンに由来するN-ホルミルメチオニンを有する.

このほかにも,構造や性質の異なる複数のバクテリオシンを同時に生産する乳酸菌や,糖が付加したバクテリオシン,特定の菌種のみに抗菌活性を示すバクテリオシンなども見いだされた.乳酸菌はこのように多様なバクテリオシンを利用することで,発酵食品中や環境中で自身の生存を競合細菌よりも有利にしていると考えられ,こうした機構を模倣することができれば,より効果的な微生物制御を実現できる可能性がある.

3. ゲノム情報からの探索

近年では細菌のゲノム情報の蓄積により,バクテリオシンあるいはバクテリオシン生合成遺伝子群に類似の遺伝子をデータベース上で探索することで,新奇乳酸菌バクテリオシンを見いだすことも可能となってきている.また,antiSMASHやBAGELといった,ゲノム情報からバクテリオシンや抗菌ペプチドに特徴的な配列を探索するためのソフトウェアが開発され,こうした探索が容易に行えるようになってきた.バクテリオシンについては,Bactibaseというデータベースも構築され,構造や特性などのさまざまな情報が集積されている.

ゲノム情報から新しい配列を発見した場合,そのペプチドを合成し,抗菌活性を実証する必要がある.理論上は化学合成も可能であるが,バクテリオシンは化学合成を行うにはやや大きく,クラスIバクテリオシンや環状バクテリオシンではその後の修飾が必要であることから,何らかのペプチド・タンパク質発現系を用いたほうが容易と考えられる.バクテリオシン構造遺伝子周辺の生合成遺伝子群の配列を得ることもできれば,それらをすべて発現させて確認することができる.すべてが得られない場合にも,ランチビオティック様の構造遺伝子をナイシンの生合成遺伝群と組み合わせて発現させ,新奇ランチビオティックの抗菌活性を確認した例がある.データマイニングソフトBAGEL3を用いて発掘した推定ランチビオティック構造遺伝子にナイシンのリーダー配列を組み合わせ,修飾酵素NisBCT, NisPを利用することで,フラブシンを含む5つの新奇ランチビオティックが見いだされた(11)11) A. J. van Heel, T. G. Kloosterman, M. Montalban-Lopez, J. Deng, A. Plat, B. Baudu, D. Hendriks, G. N. Moll & O. P. Kuipers: ACS Synth. Biol., 5, 1146 (2016)..われわれは種々のクラスIIバクテリオシンの分泌が可能なトランスポーターを見いだしており,翻訳後修飾を伴わないバクテリオシンについては,これを組み合わせた発現系による探索が可能と考えられる.こうした修飾発現系・分泌発現系は,バクテリオシン構造遺伝子に改変を加えて新奇抗菌ペプチドを創出する際にも有効である.

乳酸菌バクテリオシン生合成機構を利用した新奇抗菌ペプチドの創出

バクテリオシンは遺伝子にコードされているため,その改変を比較的容易に行うことができ,バクテリオシンの構造を基にした変異型抗菌ペプチドの創出が可能である.一方,異常アミノ酸導入やペプチドの環状化にかかわるバクテリオシン生合成遺伝子を利用してペプチドを修飾することで,新奇抗菌ペプチドを創出することも可能と考えられる.異常アミノ酸や環状構造を導入することで,ペプチドの安定化や抗菌活性の向上・改変が期待できる.

ランチビオティックに含まれるランチオニンなどの異常アミノ酸を種々のペプチドに導入する方法はランチビオティック工学として提唱され,われわれも精力的に取り組んできた.乳酸菌に近縁のグラム陽性菌であるStaphylococcus warneri ISK-1が生産するランチビオティックであるヌカシンISK-1の生合成機構を利用し,種々のペプチドへの異常アミノ酸の導入を試みてきた(12)12) 奥田賢一,永尾潤一,園元謙二:化学と生物,47, 91 (2009)..一方,ナイシンの生合成機構を利用した修飾系の構築も報告されており,上述のようにゲノム情報からの新奇ランチビオティックの同定に利用されている(10)10) Y. Masuda, T. Zendo & K. Sonomoto: Benef. Microbes, 3, 3 (2012)..このNisBCT機構はそのほかの修飾機構との併用も試みられており,C末端のシステインをアミノビニル化する酵素GdmDと併用することで,NisBCTの元来の基質であるナイシンとは異なる骨格構造をもつガリデルミンの活性型構造を再現することにも成功している(13)13) A. J. van Heel, D. Mu, M. Montalbán-López, D. Hendriks & O. P. Kuipers: ACS Synth. Biol., 2, 397 (2013)..このように,任意のペプチドの任意の箇所への異常アミノ酸導入の実現が近づいており,ランチビオティック工学によって,安定性や抗菌活性が改良・改変された新奇抗菌ペプチドの創出が期待される.

おわりに

以上のように,乳酸菌バクテリオシンの多様性と性質,乳酸菌バクテリオシンとその生合成機構を利用した新奇抗菌ペプチドの創出について紹介した.今後は,これらを基盤として,種々の乳酸菌バクテリオシンや抗菌ペプチドの活性部位を組み合わせた新奇抗菌ペプチドの創出にも興味がもたれる.一方では,従来の分離培養を介した方法によって,糖が付加したものなどの新しいタイプのバクテリオシンが見いだされているように,まだまだ新しい骨格をもつバクテリオシンの発見も期待できる.分離培養に改良を加えて新しい乳酸菌を得ることができれば,ゲノム情報からの探索と併せて,さらに多様な抗菌ペプチドを得ることが可能となるだろう.

Reference

1) P. D. Cotter, C. Hill & R. P. Ross: Nat. Rev. Microbiol., 3, 777 (2005).

2) 善藤威史,石橋直樹,園元謙二:乳酸菌学会誌,25, 24 (2014).

3) M. R. Islam, J. Nagao, T. Zendo & K. Sonomoto: Biochem. Soc. Trans., 40, 1528 (2012).

4) M. R. Islam, M. Nishie, J. Nagao, T. Zendo, S. Keller, J. Nakayama, D. Kohda, H.-G. Sahl & K. Sonomoto: J. Am. Chem. Soc., 134, 3687 (2012).

5) J. Delves-Broughton, P. Blackburn, R. J. Evans & J. Hugenholtz: Antonie van Leeuwenhoek, 69, 193 (1996).

6) 善藤威史,澤 稔彦,米山史紀,園元謙二:乳業技術,59, 77 (2009).

7) 益田時光, 善藤威史, 園元謙二:ミルクサイエンス,59, 59 (2010).

8) T. Zendo, J. Nakayama, K. Fujita & K. Sonomoto: J. Appl. Microbiol., 104, 499 (2008).

9) T. Zendo: Biosci. Biotechnol. Biochem., 77, 893 (2013).

10) Y. Masuda, T. Zendo & K. Sonomoto: Benef. Microbes, 3, 3 (2012).

11) A. J. van Heel, T. G. Kloosterman, M. Montalban-Lopez, J. Deng, A. Plat, B. Baudu, D. Hendriks, G. N. Moll & O. P. Kuipers: ACS Synth. Biol., 5, 1146 (2016).

12) 奥田賢一,永尾潤一,園元謙二:化学と生物,47, 91 (2009).

13) A. J. van Heel, D. Mu, M. Montalbán-López, D. Hendriks & O. P. Kuipers: ACS Synth. Biol., 2, 397 (2013).