解説

転写制御からみる糸状菌の多糖資化戦略糸状菌における多糖の好き嫌い

Fungal Strategy for Polysaccharide Utilization from the View Point of Transcriptional Regulation: Likes and Dislikes for Polysaccharides in Filamentous Fungi

Emi Kunitake

國武 絵美

三重大学大学院生物資源学研究科

Tetsuo Kobayashi

小林 哲夫

名古屋大学大学院生命農学研究科

Published: 2019-09-01

糸状菌(いわゆるカビ)は生育環境中に存在するさまざまな多糖を分解してエネルギー源として利用する.近年,それぞれの多糖の分解酵素遺伝子に特異的な転写活性化因子が次々と同定され,その転写誘導メカニズムの全容も明らかになりつつある.一方でグルコースのような資化しやすい糖存在下で起こるカタボライト抑制では従来の転写抑制因子がかかわる経路とは別の新奇経路が見いだされ,この経路の関与の程度が多糖分解酵素の種類によって異なることが判明した.本稿ではこれらの転写制御機構を介して糸状菌がどのように利用する糖質の優先順位を決定づけているのかについて考察する.

糸状菌多糖分解酵素の生産制御に関する概説

麹菌Aspergillus oryzaeのタカジアスターゼ(アミラーゼが主成分)に始まり,セルラーゼやマンナナーゼ,キシラナーゼなど糸状菌由来のさまざまな多糖分解酵素が工業生産され,われわれの日常生活に大きくかかわっている.近年の未利用バイオマスの有効利用を良しとする社会動向からますます多糖分解酵素の需要は高まると予想されるため,生産コストのさらなる低減化が求められることに疑いの余地はない.この課題を解決するためには,従来の培地や培養法の検討,突然変異の誘発,高発現プロモーターの利用などだけでなく,生産制御システムの理解を基盤とした菌株改良も重要であろう.

自然界,特に土壌中に存在する微生物が利用する主たる炭素源は植物遺体である.植物由来の多糖はセルロース・ヘミセルロース・ペクチンといった細胞壁構成多糖やデンプン・グルコマンナンなどの貯蔵多糖を主成分としており,糸状菌はこれら多糖の分解酵素を分泌してオリゴ糖や単糖にまで分解して利用する.多糖分解酵素は常に生産されているわけではなく,存在する多糖の種類に応じて必要なときだけ誘導的に生産するように制御されている.つまり,デンプン質が多い環境中ではアミラーゼを生産し,セルロースが存在すればセルラーゼを,ヘミセルロースのなかでもキシランやキシログルカン,マンナンなどの構成の異なるものが存在すればそれぞれに対応した分解酵素を生産するのである.一方で,これら多糖の分解により利用可能な低分子糖が細胞外に十分に存在するようになると,多糖分解酵素の生産が停止する.これはカーボンカタボライト抑制(CCR)と呼ばれるシステムが起動するためである.このように糸状菌には多くの微生物と同様に無意味な酵素生産をなくすための生産制御システムが備わっているのだが,糸状菌は極めて多種の炭素源を資化可能なため制御システムが複雑化していることは容易に想像できる.

このような酵素の生産調節は遺伝子の転写レベルで行われている.ここ20年の間に,多糖分解酵素遺伝子の特異的転写活性化因子としてAmyR(アミラーゼ遺伝子),ClrB/ManR(セルラーゼ・マンナナーゼ遺伝子),XlnR(キシラナーゼ遺伝子),AraR(アラビナナーゼやキシラン側鎖分解酵素),GaaR(ポリガラクチュロナーゼ遺伝)など,主要多糖分解にかかわるメインレギュレーターのほぼすべてが同定された(表1表1■多糖分解酵素遺伝子の発現に対応する主要な特異的転写因子).これらはいずれもZn(II)2Cys6型DNA結合ドメインをもつ真菌特異的な転写因子である.またこれらはタンパク質の中央部にFungal specific transcription factor domainと呼ばれる高度に保存された領域をもっている.このように類似の構造をもつ転写活性化因子であるが,その分子レベルでの作動メカニズムは個々で異なり,相同因子であっても属の異なる生物種間で違いが見られる.一方,CCRに関しては長年にわたってCreAが転写抑制にかかわる転写因子であり,この活性がCreB, CreC, CreDやHulAによるユビキチン化/脱ユビキチン化により制御されると考えられてきた.しかし,ここ数年の知見でこの想定はくつがえることとなった.すなわち,CreB/CreC, CreD/HulAはCreAとはそれぞれ独立して機能するのである.筆者らが最近見いだしたcAMPシグナリングによるCCRもCreAと独立して機能する.これらの複数のシグナリング経路が複雑に絡み合うことによって,糸状菌による糖質のランクづけがなされているように感じられる.以下では筆者らがこれまで研究対象としてきたAspergillus属糸状菌を中心として転写誘導とCCRについてもう少し詳しく解説する.

表1■多糖分解酵素遺伝子の発現に対応する主要な特異的転写因子
転写因子制御する酵素群の機能誘導物質DNA結合サイト
AmyRデンプン分解イソマルトース,コウジビオース,D-グルコースCGGN8CGG
MalRマルトース代謝マルトースUnknown
ClrB/ManR/Clr-2セルロース分解セロビオース,β-1,4-マンノビオースCCGN2CCN6GG(ClrBとMcmAとの協調結合),CGGN8CCG (ClrB), CGGN11CCG (Clr-2)
マンナン分解
XlnR/Xyr1/Xlr-1キシラン分解D-キシロース,L-アラビノースCGGNTAAW(A. oryzaeペントース代謝遺伝子),TTAGSCTAA(A. oryzaeキシラナーゼ遺伝子)
ペントース代謝GGCTAR, GGCWWW, GGNTAAA(A. niger, T. reesei, N. crassa etc.
セルロース分解
AraRアラビノースの遊離L-アラビノース,D-キシロースCGGDTAAW(ペントース代謝遺伝子)
ペントース代謝
GaaRガラクツロン酸の遊離,代謝D-ガラクツロン酸CCNCCAA
CreAカーボンカタボライト抑制SYGGRG

アミラーゼ遺伝子の転写誘導

アミラーゼ遺伝子の転写誘導はデンプン由来の糖により引き起こされる.転写活性化を担う因子はZn(II)2Cys6型のAmyRである.AmyRはA. oryzaeで最初に同定された因子で(1, 2)1) K. L. Petersen, J. Lehmbeck & T. Christensen: Mol. Gen. Genet., 262, 668 (1999).2) K. Gomi, T. Akeno, T. Minetoki, K. Ozeki, C. Kumagai & Y. Iimura: Biosci. Biotechnol. Biochem., 64, 816 (2000).,そのオルソログは幅広く糸状菌に分布している.AmyRの標的遺伝子はα-アミラーゼ,グルコアミラーゼ,α-グルコシダーゼなどであり(3, 4)3) T. Nakamura, T. Makita, Y. Maeda, N. Tanoue, M. Kato & T. Kobayashi: Biosci. Biotechnol. Biochem., 70, 2363 (2006).4) T. Kojima, E. Kunitake, K. Ihara, T. Kobayashi & H. Nakano: PLOS One, 11, e0159011 (2016).,モデル糸状菌A. nidulansではAmyRの欠損はデンプンやマルトース資化能の著しい低下を引き起こす(5)5) S. Tani, Y. Katsuyama, T. Hayashi, H. Suzuki, M. Kato, K. Gomi, T. Kobayashi & N. Tsukagoshi: Curr. Genet., 39, 10 (2001)..AmyRによる転写誘導の強力な誘導物質はイソマルトース(α-1,6結合)であり,コウジビオース(α-1,2)やマルトース(α-1,4)も誘導物質として働く(6)6) N. Kato, Y. Murakoshi, M. Kato, T. Kobayashi & N. Tsukagoshi: Curr. Genet., 42, 43 (2002)..しかしマルトースによる誘導はα-グルコシダーゼの糖転移反応によって変換されたイソマルトースによって起こるため,マルトースは真の生理的誘導物質とは言えない.CCRを引き起こすD-グルコースも実はアミラーゼの誘導物質で,野生株では顕著な発現誘導は見られないが,転写抑制因子CreAの変異株では明らかなアミラーゼ誘導が起こる(7)7) Y. Murakoshi, T. Makita, M. Kato & T. Kobayashi: Appl. Microbiol. Biotechnol., 94, 1629 (2012)..これらの誘導物質は細胞質に存在するAmyRの核移行を引き起こし,これによりアミラーゼ遺伝子の転写活性化が起こる(8)8) T. Makita, Y. Katsuyama, S. Tani, H. Suzuki, N. Kato, R. B. Todd, M. J. Hynes, N. Tsukagoshi, M. Kato & T. Kobayashi: Biosci. Biotechnol. Biochem., 73, 391 (2009)..イソマルトースはnMオーダーで核移行を誘発するが,コウジビオースやマルトースではその100倍,D-グルコースでは10,000倍の濃度が必要である.以上からイソマルトースが真の生理的誘導物質であると言って差し支えはないであろう(7)7) Y. Murakoshi, T. Makita, M. Kato & T. Kobayashi: Appl. Microbiol. Biotechnol., 94, 1629 (2012).

AmyRは標的遺伝子のプロモーター上に存在するCGGN8CGGおよびその類似配列に2分子結合することにより転写を活性化する(1, 9, 10)1) K. L. Petersen, J. Lehmbeck & T. Christensen: Mol. Gen. Genet., 262, 668 (1999).9) S. Tani, T. Itoh, M. Kato, T. Kobayashi & N. Tsukagoshi: Biosci. Biotechnol. Biochem., 65, 1568 (2001).10) T. Ito, S. Tani, T. Itoh, N. Tsukagoshi, M. Kato & T. Kobayashi: Biosci. Biotechnol. Biochem., 68, 1906 (2004)..AmyRのN末端側にあるDNA結合ドメインは核移行シグナルを含み,C末端側に核移行を制御するドメインが存在する(8)8) T. Makita, Y. Katsuyama, S. Tani, H. Suzuki, N. Kato, R. B. Todd, M. J. Hynes, N. Tsukagoshi, M. Kato & T. Kobayashi: Biosci. Biotechnol. Biochem., 73, 391 (2009)..核移行制御ドメインを欠失するとAmyRは恒常的に核に局在し,誘導物質に依存しないアミラーゼ生産を引き起こす.核移行を制御する分子メカニズムの詳細は未解明であるが,非誘導条件下のAmyRはDNA結合能をもたないことや,タグ融合AmyRの精製を試みるとHsp70が共精製されることなどから,AmyRがシャペロンと複合体を形成し,これによりアミラーゼ非誘導条件では核移行シグナルを含むDNA結合ドメインがマスクされているのではないかと考えられる.Hsp70, Hsp90による活性制御は出芽酵母のAmyRホモログであるMAL activatorでも報告されている(11)11) F. Ran, M. Bali & C. A. Michels: Genetics, 179, 331 (2008)..誘導条件でのAmyRのリン酸化や安定性の低下も観察されている.リン酸化の役割は不明であるが,AmyRは誘導物質の存在により核移行,転写活性化後に分解されるという動態を示すわけであり,使い捨ての転写因子と言える(図1図1■A. nidulans AmyRによるアミラーゼ遺伝子の転写活性化機構).AmyRの分解は誘導物質枯渇後に転写を停止するためのシステムであろう.

麹菌A. oryzaeは著しいアミラーゼ高生産で知られるが,A. nidulansと同様にamyRの欠失によりデンプンを炭素源とした培地での生育が著しく低下する.しかしA. nidulansとは異なり,マルトース資化能は失われない.これはA. oryzaeがAmyRのほかにマルトース資化にかかわる遺伝子クラスター(MAL cluster)を有しているためである(12)12) S. Hasegawa, M. Takizawa, H. Suyama, T. Shintani & K. Gomi: Fungal Genet. Biol., 47, 1 (2010).MAL clusterはマルトーストランスポーター,マルターゼ,Zn(II)2Cys6型転写活性化因子MalRの遺伝子で構成されており,前者2つはMalR依存的に誘導される.興味深いのはMalRの欠損によりマルトース誘導によるアミラーゼ発現が著しく低下することであり,A. oryzaeではAmyRがマルトースによって活性化するに先立ってMalRの活性化が不可欠であるということになる(13)13) K. Suzuki, M. Tanaka, Y. Konno, T. Ichikawa, S. Ichinose, S. Hasegawa-Shiro, T. Shintani & K. Gomi: Appl. Microbiol. Biotechnol., 99, 1805 (2015)..イソマルトースによるアミラーゼ発現にはMalRは必要とされないので,MAL clusterがイソマルトース合成にかかわっているのであろう.A. nidulansではイソマルトース合成にかかわるα-グルコシダーゼはAmyRにより制御される.

図1■A. nidulans AmyRによるアミラーゼ遺伝子の転写活性化機構

デンプンは基底レベルで僅かに生産されているアミラーゼにより分解され,強力な糖転移活性をもつAgdBなどのα-グルコシダーゼにより生理的誘導物質イソマルトースに変換される.イソマルトースはAmyRの核移行を誘発し,その結果AmyRの標的配列への結合とアミラーゼ遺伝子群の転写活性化が起こる.以下は筆者らのいくつかの実験結果に基づく仮説であるが,イソマルトースはAmyRと他因子との複合体からの一部因子の解離を促し,これによりAmyRの核移行が可能となる.また,活性型AmyRは不安定なため,新生AmyRの核内への持続的な供給が転写誘導の維持に必要と考えられる.イソマルトース依存的なリン酸化の生理的意義は明らかとなっていない.

キシラナーゼならびにペントース代謝系酵素遺伝子の転写誘導

主要なヘミセルラーゼ成分であるキシランの完全分解に必要なすべての酵素遺伝子,ペントース代謝系遺伝子,トランスポーター遺伝子を含む数十遺伝子の発現はD-キシロースを誘導物質としてXlnRにより制御される(14, 15)14) Y. Noguchi, M. Sano, K. Kanamaru, T. Ko, M. Takeuchi, M. Kato & T. Kobayashi: Appl. Microbiol. Biotechnol., 85, 141 (2009).15) W. R. de Souza, G. P. Maitan-Alfenas, P. F. de Gouvêa, N. A. Brown, M. Savoldi, E. Battaglia, M. H. Goldman, R. P. de Vries & G. H. Goldman: Fungal Genet. Biol., 60, 29 (2013)..セルラーゼ遺伝子も標的であるが,XlnRの寄与は小さい.XlnRのオルソログはキシラン分解酵素遺伝子発現に重要な因子として高度に保存されているが,その働きは糸状菌種により多少異なっている.代表的な例を挙げると,セルラーゼ高生産糸状菌Trichoderma reeseiではXlnRオルソログXyr1はキシラナーゼだけでなくセルラーゼの発現にも必須なマスターレギュレーターである(16)16) A. R. Stricker, K. Grosstessner-Hai, E. Würleitner & R. L. Mach: Eukaryot. Cell, 5, 2128 (2006).

XlnRの結合コンセンサス配列はGGC TAAとその類似配列とされてきた.しかしA. oryzaeのペントース代謝系遺伝子プロモーターを用いたDNA結合解析では,XlnRはCGGNTAAWにモノマーで結合する(17)17) K. Ishikawa, E. Kunitake, T. Kawase, M. Atsumi, Y. Noguchi, S. Ishikawa, M. Ogawa, Y. Koyama, M. Kimura, K. Kanamaru et al.: Curr. Genet., 64, 1245 (2018)..ペントース代謝系遺伝子はXlnRのパラログAraRによっても制御されており,その結合配列はCGGDTAAWでXlnRとほとんど変わらない.どちらもD-キシロースとL-アラビノースに応答して転写を活性化するため,ペントース代謝系ではDNA結合や誘導物質に対する応答性の点でXlnRとAraRの機能分化はごく僅かであると考えられる.ただし,市販のL-アラビノースにはD-キシロースの混入が認められるため,誘導物質に関しては確定的ではない.

一方,AraRに制御されないキシラナーゼ遺伝子ではXlnRはTTA GSCTA A(当初提唱された配列GGC TAAを含む)にダイマーとして結合する.遺伝子重複の結果生じたと考えられるAraRとXlnRはDNA結合ドメインを僅かに変えることにより機能分化し,特異的な標的遺伝子とともに共通の標的遺伝子をもつようになったと考えられる(17)17) K. Ishikawa, E. Kunitake, T. Kawase, M. Atsumi, Y. Noguchi, S. Ishikawa, M. Ogawa, Y. Koyama, M. Kimura, K. Kanamaru et al.: Curr. Genet., 64, 1245 (2018).

XlnRはAmyRとは異なり,常に核に局在する.誘導物質であるD-キシロースの存在/非存在に応答してリン酸化/脱リン酸化され,安定性の低下などは見られない(18)18) Y. Noguchi, H. Tanaka, K. Kanamaru, M. Kato & T. Kobayashi: Biosci. Biotechnol. Biochem., 75, 953 (2011)..また,誘導物質存在下・非存在下いずれにおいてもXlnRはDNA結合活性を有していることも明らかとなっているため,XlnRは常に標的配列に結合しており,その活性は可逆的リン酸化によって制御されていると考えられる(図2図2■A. oryzae XlnRによるキシラナーゼ遺伝子およびペントース代謝遺伝子の転写活性化機構).一方,T. reeseiのXyr1では誘導メカニズムは異なっており,誘導条件においてXyr1がde novo合成されることにより標的遺伝子の転写誘導が起こる(19)19) A. Lichius, V. Seidl-Seiboth, B. Seiboth & C. P. Kubicek: Mol. Microbiol., 94, 1162 (2014)..また,Xyr1は不安定で誘導が停止すると速やかに分解される.

図2■A. oryzae XlnRによるキシラナーゼ遺伝子およびペントース代謝遺伝子の転写活性化機構

XlnRは誘導物質キシロースの存在・非存在にかかわらず核に存在し,DNA結合能もキシロースに依存しない.また,キシロース添加によりXlnRはリン酸化され,除去により脱リン酸化される.この間XlnRは安定である.したがって,DNA上のXlnRのリン酸化状態により標的遺伝子の転写誘導が制御されていると考えられる.*1 キシラナーゼ遺伝子のコンセンサス配列.XlnR二量体が結合する.*2 ペントース代謝遺伝子のコンセンサス配列.XlnR単量体が結合する.

セルラーゼ/マンナナーゼ遺伝子の転写誘導

セルラーゼ遺伝子はセロビオースの存在下で転写が誘導される.Neurospora crassaでは細胞膜上に存在するCDT-1, CDT-2がセロビオーストランスポーターかつセンサーとして機能する(20)20) E. A. Znameroski, X. Li, J. C. Tsai, J. M. Galazka, N. L. Glass & J. H. Cate: J. Biol. Chem., 289, 2610 (2014).A. nidulansにおいてもその類似因子が同様の機能をもつとされている(21)21) T. F. Dos Reis, P. B. de Lima, N. S. Parachin, F. B. Mingossi, J. V. de Castro Oliveira, L. N. Ries & G. H. Goldman: Biotechnol. Biofuels, 9, 204 (2016).

Aspergillus属におけるセルラーゼ遺伝子の転写誘導はClrB(A. nidulans)/ManR(A. oryzae)により制御される(22, 23)22) S. T. Coradetti, Y. Xiong & N. L. Glass: MicrobiologyOpen, 2, 595 (2013).23) M. Ogawa, T. Kobayashi & Y. Koyama: Biosci. Biotechnol. Biochem., 77, 426 (2013)..両者はオルソログの関係である.ClrB/ManRはセルラーゼだけでなくマンナナーゼ遺伝子の制御にもかかわっているが,ManRはマンナナーゼ生産に必須であるのに対し(24)24) M. Ogawa, T. Kobayashi & Y. Koyama: Fungal Genet. Biol., 49, 987 (2012).,ClrBは必須ではない.この点については後述する.A. nidulansにおいてClrBの発現は低レベルであり,誘導条件においても転写量は3倍程度の上昇にとどまる.したがって,clrBプロモーターを用いてGFP-ClrBを発現しても蛍光は観察されないが,高発現させるとグルコース抑制条件でも核に局在する.しかしClrBの高発現だけではセルラーゼ遺伝子の転写活性化は不十分であり,完全誘導にはセルロース性誘導物質を要する(22)22) S. T. Coradetti, Y. Xiong & N. L. Glass: MicrobiologyOpen, 2, 595 (2013)..つまり,誘導物質によるClrBの活性化が必要である.一方でN. crassaでは,ClrBホモログのClr-2をコードする遺伝子の発現にはClr-1という転写因子が必須であり,誘導条件では本因子依存的にclr-2発現が誘導される.Clr-2を構成的に高発現させると誘導物質がなくてもセルラーゼ遺伝子の誘導が起こるため,Clr-2は恒常的活性型の転写因子ということになる(22)22) S. T. Coradetti, Y. Xiong & N. L. Glass: MicrobiologyOpen, 2, 595 (2013).A. nidulansにもClr-1ホモログとしてClrAが存在しており,clrB遺伝子発現に部分的に関与しているが必須ではない.また,A. aculeatusではClbRという転写因子がセルラーゼ遺伝子の発現に部分的に関与しており(25)25) E. Kunitake, S. Tani, J. Sumitani & T. Kawaguchi: Appl. Microbiol. Biotechnol., 97, 2017 (2013).,ClrAと類似の機能をもっている可能性がある.

A. nidulansのセルラーゼ遺伝子現誘導にはClrBに加えてMADS-Boxタンパク質McmAも必要である(26)26) Y. Yamakawa, Y. Endo, N. Li, M. Yoshizawa, M. Aoyama, A. Watanabe, K. Kanamaru, M. Kato & T. Kobayashi: Biochem. Biophys. Res. Commun., 431, 777 (2013)..McmAは広域転写因子で,セルラーゼだけでなくプロテアーゼ生産,有性生殖,分生子形成にも関与する(27)27) N. Li, E. Kunitake, Y. Endo, M. Aoyama, K. Kanamaru, M. Kimura, M. Kato & T. Kobayashi: Biosci. Biotechnol. Biochem., 80, 1820 (2016)..ClrBによる転写誘導はMcmA依存性によって3パターンに分かれる.McmAが必須なもの,McmAに部分的に依存するもの,McmA非依存的なものである.これはClrBとMcmAの標的遺伝子プロモーターへの結合様式によって説明できる(28)28) N. Li, E. Kunitake, M. Aoyama, M. Ogawa, K. Kanamaru, M. Kimura, Y. Koyama & T. Kobayashi: Mol. Microbiol., 102, 810 (2016)..転写誘導にかかわるシスエレメントは2種類あり,一つはCCGN2CCN6GGおよびその類似配列である.CCN6GGにMcmAがダイマーとして結合し,CCG tripletにはClrBが結合するが,この結合にはMcmAを必要とする.すなわち,ClrBモノマーとMcmAダイマーから構成される複合体がDNA上に結合するということである.もう一つの配列はCGGN8CCGである.これにはClrBのみがダイマーとして結合する.McmAが必須なセルラーゼ遺伝子のプロモーター上にはCCGN2CCN6GGおよびその類似配列が存在し,部分的にMcmA依存的なセルラーゼ遺伝子は2種類のシスエレメントを両方もつ(図3図3■A. nidulansにおけるClrBとMcmAによる協調的なセルラーゼ遺伝子の転写活性化機構).McmA非依存的な遺伝子はセルラーゼではなくβ-マンノシダーゼmndBであり,CGGN8CCGしかもたない.したがって,mndBはClrBが活性化されれば発現が起こるが,セルラーゼ遺伝子の発現にはこれに加えてMcmAの活性化も必要ということになる.現在のところMcmAの活性化条件は不明である.なお,N. crassaにおけるRNA-seqおよびChIP-seq解析によりClr-2の結合配列はCGGN11CCGと予測されており,DNA結合特性の面でもClrBとは異なる(29)29) J. P. Craig, S. T. Coradetti, T. L. Starr & N. L. Glass: MBio, 6, e01452 (2015).

図3■A. nidulansにおけるClrBとMcmAによる協調的なセルラーゼ遺伝子の転写活性化機構

セルラーゼ遺伝子の転写誘導にはClrBとMcmAが関与する.すべての主要セルラーゼ遺伝子の誘導にClrBは必須であるが,McmAは遺伝子ごとに関与の程度が異なる.これはClrB/McmA複合体の標的配列とClrB二量体の標的配列が存在するためで,両因子とも必須な遺伝子では後者の配列は存在せず,部分的McmA依存性遺伝子では両配列が存在している.つまり,McmAが働くか働かないかによりセルラーゼ遺伝子発現プロファイルが変わることになるが,本因子の活性制御については全く明らかとなっていない.

T. reeseiでは関与する転写因子自体が全く異なり,XlnRホモログのXyr1がキシラナーゼ遺伝子だけでなくセルラーゼ遺伝子の発現誘導にも必須の因子として機能している(16)16) A. R. Stricker, K. Grosstessner-Hai, E. Würleitner & R. L. Mach: Eukaryot. Cell, 5, 2128 (2006)..また,もう一つの転写因子Ace3もセルラーゼ遺伝子発現誘導に必須な因子としてかかわっているが,キシラナーゼの発現誘導では本因子の関与は部分的であり,必須ではない(30)30) M. Häkkinen, M. J. Valkonen, A. Westerholm-Parvinen, N. Aro, M. Arvas, M. Vitikainen, M. Penttilä, M. Saloheimo & T. M. Pakula: Biotechnol. Biofuels, 7, 14 (2014)..このようにセルラーゼ遺伝子の転写誘導システムはClrBホモログを共有する糸状菌間においても異なっており,T. reeseiではClrBホモログが関与しない全く独自のシステムを発達させている(31)31) E. Kunitake & T. Kobayashi: Curr. Genet., 63, 951 (2017)..ほかにもN. crassaのClr-4やT. reeseiのAce2など部分的にセルラーゼ遺伝子の発現誘導にかかわる因子は存在するが,本稿では紙面の関係もあり省略する.

マンナナーゼ遺伝子の転写誘導では,A. oryzae ManRは必須因子であるがA. nidulansのClrBの関与は僅かである.実は,A. nidulansのゲノム上にはClrBのパラログ(仮称ManS)が存在し,これがマンナナーゼ誘導の主要転写因子として機能している.5種のエンドマンナナーゼ遺伝子の転写解析では,4種がManSによって制御されており1種のみがClrBとManSにより制御されていた.上述のβ-マンノシダーゼ遺伝子mndBも両者により制御される遺伝子である.

ManSオルソログはAspergillus属ではA. nidulans近縁種にのみ存在し,A. oryzaeを含むほとんどのAspergillusには存在しない.一方,Penicilliumでは普遍的な因子である.子嚢菌の系統進化では,N. crassaT. reeseiを含むSordariomycetesPenicilliumAspergillusを含むEurotiomycetesが分岐し,その後PenicilliumAspergillusが分岐する.この点を考慮すると,A. nidulans近縁種がManSを獲得したのではなくA. oryzae, A. nigerなどを含む多くのAspergillusがManSを失ったと考えられる.

ペクチナーゼ遺伝子の転写誘導

ペクチナーゼ遺伝子の発現誘導を制御する転写因子は,D-ガラクツロン酸応答エレメント(CCNCCA A)に結合する因子としてBotrytis cinereaにおいて同定されたGaaRであり,A. nigerでもその相同因子が同様の機能をもつことが示された(32, 33)32) L. Zhang, R. J. Lubbers, A. Simon, J. H. Stassen, P. R. Vargas Ribera, M. Viaud & J. A. van Kan: Mol. Microbiol., 100, 247 (2016).33) E. Alazi, J. Niu, J. E. Kowalczyk, M. Peng, M. V. Aguilar Pontes, J. A. van Kan, J. Visser, R. P. de Vries & A. F. Ram: FEBS Lett., 590, 1804 (2016)..GaaRはペクチナーゼ遺伝子発現だけでなくD-ガラクツロン酸の細胞内への取り込みや代謝経路の誘導にも関与する.GaaRの隣にコードされるGaaXはGaaRの活性を負に制御しており,gaaXの破壊株やgaaRの過剰発現株では誘導物質に依存しないペクチナーゼ生産が起こる(34, 35)34) J. Niu, E. Alazi, I. D. Reid, M. Arentshorst, P. J. Punt, J. Visser, A. Tsang & A. F. Ram: Genetics, 205, 169 (2017).35) E. Alazi, T. Knetsch, M. Di Falco, I. D. Reid, M. Arentshorst, J. Visser, A. Tsang & A. F. J. Ram: Appl. Microbiol. Biotechnol., 102, 2723 (2018)..そのため,GaaXは非誘導条件においてタンパク質間相互作用により常に核に存在するGaaRの活性を抑制し,誘導条件ではGaaXが解離してGaaRが活性化するというメカニズムが一つの可能性として考えられている.生理的誘導物質については,D-ガラクツロン酸代謝系遺伝子の破壊株での解析から,中間代謝物の2-keto-3-deoxy-L-galactonateであることが示された(36)36) E. Alazi, C. Khosravi, T. G. Homan, S. du Pré, M. Arentshorst, M. Di Falco, T. T. M. Pham, M. Peng, M. V. Aguilar-Pontes, J. Visser et al.: FEBS Lett., 591, 1408 (2017).

多糖分解酵素遺伝子のカーボンカタボライト抑制

誘導物質と容易に資化される炭素源の共存下では,多糖分解酵素遺伝子の発現はCCRによって著しく低下する.CCR因子として古くから研究されているC2H2型DNA結合ドメインをもつ転写抑制因子CreAはSaccharomyces cerevisiae Mig1の相同因子で,糸状菌においても広く保存されている.CreAやそのオルソログはアミラーゼやセルラーゼ,ヘミセルラーゼなど,炭素源の資化に関与する酵素遺伝子あるいは転写活性化因子遺伝子のプロモーター上に存在するSYGGRGに結合して転写を抑制する.CreAの発現は自己制御を受けており,タンパク質レベルでも活性が調節されている.CreAの活性はユビキチンリガーゼHulAとそのアダプタータンパク質CreD,脱ユビキチン化酵素CreBとその安定性にかかわるCreCによるユビキチン化/脱ユビキチン化により制御されていると考えられていた.しかし近年の解析によりこのモデルではほぼ否定されたと考えられる.すなわち,A. oryzaeでは脱抑制条件で核外に排出されたCreAが速やかに分解され,抑制条件ではその安定性にCreB/CreCが寄与するという点で上記モデルに近いが,CreDはCreAの分解には関与しない(37)37) M. Tanaka, S. Ichinose, T. Shintani & K. Gomi: Mol. Microbiol., 110, 176 (2018)..HulAとCreDはグルコースによるマルトース輸送体のエンドサイトーシスを介した分解を制御し,これに加えてCreDはアミラーゼ遺伝子のCCRの脱抑制にも関与する(38)38) M. Tanaka, T. Hiramoto, H. Tada, T. Shintani & K. Gomi: Appl. Environ. Microbiol., 83, e00592 (2017)..CreAとCreBの二重欠損株では単独欠損と比較してアミラーゼ生産性が向上するが,これはCreBの役割がCreAの安定化だけではないことを意味している(39)39) S. Ichinose, M. Tanaka, T. Shintani & K. Gomi: Appl. Microbiol. Biotechnol., 98, 335 (2014)..さらに,A. nidulansではCreAとCreB/CreCの間に直接的な相互作用はなく,また,CreCはCreAの安定化にかかわるがCreBはかかわらないと報告されている(40, 41)40) L. N. Ries, S. R. Beattie, E. A. Espeso, R. A. Cramer & G. H. Goldman: Genetics, 203, 335 (2016).41) M. A. Alam, N. Kamlangdee & J. M. Kelly: Curr. Genet., 63, 647 (2017)..このように菌種によってやや違いは認められるが,これらの因子がCCRにおいてCreAの制御とは独立した機能を有することは明らかである.S. cerevisiaeのMig1の核からの排出にはSnf1キナーゼがかかわっているが,Snf1のオルソログのSnfAはA. nidulansでは同様にCreAの核からの排出にかかわり,A. oryzaeでは分解にかかわるとされている.いずれにおいても本キナーゼがCreAを制御していることは共通である(37, 42)37) M. Tanaka, S. Ichinose, T. Shintani & K. Gomi: Mol. Microbiol., 110, 176 (2018).42) N. A. Brown, P. F. de Gouvea, N. G. Krohn, M. Savoldi & G. H. Goldman: Biotechnol. Biofuels, 6, 91 (2013)..CreAの分解に関しては,SCFユビキチンリガーゼ複合体が関与すると考えられている(43)43) L. J. de Assis, M. Ulas, L. N. A. Ries, N. A. M. El Ramli, O. Sarikaya-Bayram, G. H. Braus, O. Bayram & G. H. Goldman: MBio, 9, e00840 (2018).

以上のように最近の研究で糸状菌のCCRは複数の経路がかかわる複雑なものであることが明らかになりつつあるのだが,筆者らはA. nidulansのセルラーゼ遺伝子のCCRがさらに複雑であることを見いだした.A. nidulansにおけるセルラーゼ遺伝子の発現は,誘導物質を除くと,調べた限りのあらゆる単糖,糖アルコール,さらには多糖によって抑制され,その抑制はCreAの欠損によっては十分に解除されない.これはCreA非依存的なCCRの存在を意味するが,長年その原因が不明であった.しかし,最近になって筆者らはCreA非依存的CCRにcAMPシグナリングが関与していることを発見した(44)44) E. Kunitake, Y. Li, R. Uchida, T. Nohara, K. Asano, A. Hattori, T. Kimura, K. Kanamaru, M. Kimura & T. Kobayashi: Curr. Genet., 66, (2019)..すなわち,cAMP依存性プロテインキナーゼPkaAの破壊はアミラーゼ生産のCCRにはほとんど影響を与えないが,セルラーゼ生産は著しく脱抑制されるのである.creApkaAの二重破壊によりその効果は増大するため,CreA依存的CCRとPkaA依存的CCRは別経路であると考えられる.糸状菌はPkaAの上流にある三量体Gタンパク質のαサブユニットを3種もつが,そのうちGroup-IIIのGanBがセルラーゼのCCRに関与することも見いだした(図4図4■A. nidulansにおけるセルラーゼ遺伝子のCCR機構).CreA, PkaA, GanBの寄与の強さは培養条件や誘導物質で異なっており,さらには抑制物質の種類によっても異なることは驚きであった.たとえば,プレート培養でのセルラーゼ生産では,グルコースを抑制物質とするとpkaAganB破壊で脱抑制が認められ,キシロースではcreAganB破壊で脱抑制が認められる.このような違いがどのようなメカニズムにより引き起こされるのか,また,その生理的な役割はどのようなものかを理解していくことが今後の課題となろう.

図4■A. nidulansにおけるセルラーゼ遺伝子のCCR機構

CCRのメカニズムは極めて複雑で培養条件により各CCR関連因子の寄与度が変わるのだが,ここではプレート培養でのグルコース抑制とキシロース抑制の違いを示した.グルコースによる抑制ではGanBとPkaAが主として機能し,CreAは補助的に働く(左).一方キシロースではGanBとCreAが主として働き,PkaAの寄与はほんどない(右).つまり,GanBの下流はグルコースとキシロースで異なることになる.後者ではcAMP結合モチーフをもつFbxAや図には示されていないがPhospholipase Cなどの関与が考えられる.

多糖資化のランキング

多くの糸状菌は植物遺体に由来するさまざまな多糖の混合物を炭素源として利用する.ほかの微生物などにより分解が始まっていなければ誘導物質も抑制物質も存在しない環境であり,したがって当初は非誘導レベルで生産される微量の多糖分解酵素によって少しずつ分解が進み,これにより誘導物質が蓄積すると考えられる.誘導物質の蓄積は誘導メカニズムを起動し,一気に酵素生産が加速する.一方,分解が進むと抑制物質が蓄積しCCRが起こる.そのためCCR感受性が高い遺伝子ほど早期に発現が停止することになる.結果として,糸状菌は多糖のランク付けをしていることになる.実際に,A. oryzaeではデンプンとキシラン共存下でキシラナーゼやセルラーゼを生産しないのに対しamyR変異株は生産する(45)45) J. Watanabe, H. Tanaka, Y. Mogi, T. Yamazaki, K. Suzuki, T. Watanabe, O. Yamada & O. Akita: J. Biosci. Bioeng., 111, 408 (2011)..醤油麹においてもamyR変異株はキシラナーゼ・セルラーゼ活性が高い.これはAmyRによって発現が誘導されたアミラーゼ系酵素の活性により生じたグルコースがキシラナーゼ・セルラーゼ発現を抑制しているためと考えられ,その結果としてキシランやセルロースよりもデンプン分解が優先されることになる.これは,同時にアミラーゼ遺伝子よりキシラナーゼやセルラーゼ遺伝子の発現がグルコースによるCCRに感受性が高いことを意味している.また,CCR感受性が酵素の種類によって異なるだけでなく,抑制炭素源の種類や濃度によって抑制の強さが異なることは古くから知られている.このような複雑な制御が可能であるのは,Cre遺伝子群やcAMPシグナリングがかかわる複雑なCCRのシステムが存在しているからであろう.

しかし,上述したとおり糸状菌における多糖分解酵素遺伝子の発現制御メカニズムには多様性がある.典型的な例が,A. nidulansではXlnR, ClrB, ManSがそれぞれキシラナーゼ,セルラーゼ,マンナナーゼ生産を制御する主要転写因子であるのに対して,A. oryzaeではClrBオルソログのManRがマンナナーゼとセルラーゼ生産を,T. reeseiではXlnRオルソログのXyr1がキシラナーゼとセルラーゼの生産を制御していることである.これらの違いは個々の糸状菌が獲得してきた多糖資化戦略が異なることを意味する.CCRのメカニズムにも多様性があって不思議はなく,この点に関しては今後明らかになっていくと思われる.

各種の多糖分解酵素の発現誘導にかかわる主要な転写活性化因子は同定されたものの,糖の感知機構やその後のシグナル伝達機構,転写因子の活性制御機構はいまだ解明すべきことが多い.さらに,多糖分解酵素の発現はMcmAやcAMPシグナリングの関与からわかるように細胞の分化状態によって異なる可能性が高く,固体培養/液体培養の違いでも発現プロファイルが変化する.さらに本稿では紹介しなかったがpH,光,ストレスなどさまざまな環境要因がかかわる.これらを統合的に理解していくことは,糸状菌を用いた産業用酵素生産や発酵食品産業での製品開発における効率化,植物病原菌の病原性解明など,将来の基礎・応用展開につながっていくであろうと考えている.

Reference

1) K. L. Petersen, J. Lehmbeck & T. Christensen: Mol. Gen. Genet., 262, 668 (1999).

2) K. Gomi, T. Akeno, T. Minetoki, K. Ozeki, C. Kumagai & Y. Iimura: Biosci. Biotechnol. Biochem., 64, 816 (2000).

3) T. Nakamura, T. Makita, Y. Maeda, N. Tanoue, M. Kato & T. Kobayashi: Biosci. Biotechnol. Biochem., 70, 2363 (2006).

4) T. Kojima, E. Kunitake, K. Ihara, T. Kobayashi & H. Nakano: PLOS One, 11, e0159011 (2016).

5) S. Tani, Y. Katsuyama, T. Hayashi, H. Suzuki, M. Kato, K. Gomi, T. Kobayashi & N. Tsukagoshi: Curr. Genet., 39, 10 (2001).

6) N. Kato, Y. Murakoshi, M. Kato, T. Kobayashi & N. Tsukagoshi: Curr. Genet., 42, 43 (2002).

7) Y. Murakoshi, T. Makita, M. Kato & T. Kobayashi: Appl. Microbiol. Biotechnol., 94, 1629 (2012).

8) T. Makita, Y. Katsuyama, S. Tani, H. Suzuki, N. Kato, R. B. Todd, M. J. Hynes, N. Tsukagoshi, M. Kato & T. Kobayashi: Biosci. Biotechnol. Biochem., 73, 391 (2009).

9) S. Tani, T. Itoh, M. Kato, T. Kobayashi & N. Tsukagoshi: Biosci. Biotechnol. Biochem., 65, 1568 (2001).

10) T. Ito, S. Tani, T. Itoh, N. Tsukagoshi, M. Kato & T. Kobayashi: Biosci. Biotechnol. Biochem., 68, 1906 (2004).

11) F. Ran, M. Bali & C. A. Michels: Genetics, 179, 331 (2008).

12) S. Hasegawa, M. Takizawa, H. Suyama, T. Shintani & K. Gomi: Fungal Genet. Biol., 47, 1 (2010).

13) K. Suzuki, M. Tanaka, Y. Konno, T. Ichikawa, S. Ichinose, S. Hasegawa-Shiro, T. Shintani & K. Gomi: Appl. Microbiol. Biotechnol., 99, 1805 (2015).

14) Y. Noguchi, M. Sano, K. Kanamaru, T. Ko, M. Takeuchi, M. Kato & T. Kobayashi: Appl. Microbiol. Biotechnol., 85, 141 (2009).

15) W. R. de Souza, G. P. Maitan-Alfenas, P. F. de Gouvêa, N. A. Brown, M. Savoldi, E. Battaglia, M. H. Goldman, R. P. de Vries & G. H. Goldman: Fungal Genet. Biol., 60, 29 (2013).

16) A. R. Stricker, K. Grosstessner-Hai, E. Würleitner & R. L. Mach: Eukaryot. Cell, 5, 2128 (2006).

17) K. Ishikawa, E. Kunitake, T. Kawase, M. Atsumi, Y. Noguchi, S. Ishikawa, M. Ogawa, Y. Koyama, M. Kimura, K. Kanamaru et al.: Curr. Genet., 64, 1245 (2018).

18) Y. Noguchi, H. Tanaka, K. Kanamaru, M. Kato & T. Kobayashi: Biosci. Biotechnol. Biochem., 75, 953 (2011).

19) A. Lichius, V. Seidl-Seiboth, B. Seiboth & C. P. Kubicek: Mol. Microbiol., 94, 1162 (2014).

20) E. A. Znameroski, X. Li, J. C. Tsai, J. M. Galazka, N. L. Glass & J. H. Cate: J. Biol. Chem., 289, 2610 (2014).

21) T. F. Dos Reis, P. B. de Lima, N. S. Parachin, F. B. Mingossi, J. V. de Castro Oliveira, L. N. Ries & G. H. Goldman: Biotechnol. Biofuels, 9, 204 (2016).

22) S. T. Coradetti, Y. Xiong & N. L. Glass: MicrobiologyOpen, 2, 595 (2013).

23) M. Ogawa, T. Kobayashi & Y. Koyama: Biosci. Biotechnol. Biochem., 77, 426 (2013).

24) M. Ogawa, T. Kobayashi & Y. Koyama: Fungal Genet. Biol., 49, 987 (2012).

25) E. Kunitake, S. Tani, J. Sumitani & T. Kawaguchi: Appl. Microbiol. Biotechnol., 97, 2017 (2013).

26) Y. Yamakawa, Y. Endo, N. Li, M. Yoshizawa, M. Aoyama, A. Watanabe, K. Kanamaru, M. Kato & T. Kobayashi: Biochem. Biophys. Res. Commun., 431, 777 (2013).

27) N. Li, E. Kunitake, Y. Endo, M. Aoyama, K. Kanamaru, M. Kimura, M. Kato & T. Kobayashi: Biosci. Biotechnol. Biochem., 80, 1820 (2016).

28) N. Li, E. Kunitake, M. Aoyama, M. Ogawa, K. Kanamaru, M. Kimura, Y. Koyama & T. Kobayashi: Mol. Microbiol., 102, 810 (2016).

29) J. P. Craig, S. T. Coradetti, T. L. Starr & N. L. Glass: MBio, 6, e01452 (2015).

30) M. Häkkinen, M. J. Valkonen, A. Westerholm-Parvinen, N. Aro, M. Arvas, M. Vitikainen, M. Penttilä, M. Saloheimo & T. M. Pakula: Biotechnol. Biofuels, 7, 14 (2014).

31) E. Kunitake & T. Kobayashi: Curr. Genet., 63, 951 (2017).

32) L. Zhang, R. J. Lubbers, A. Simon, J. H. Stassen, P. R. Vargas Ribera, M. Viaud & J. A. van Kan: Mol. Microbiol., 100, 247 (2016).

33) E. Alazi, J. Niu, J. E. Kowalczyk, M. Peng, M. V. Aguilar Pontes, J. A. van Kan, J. Visser, R. P. de Vries & A. F. Ram: FEBS Lett., 590, 1804 (2016).

34) J. Niu, E. Alazi, I. D. Reid, M. Arentshorst, P. J. Punt, J. Visser, A. Tsang & A. F. Ram: Genetics, 205, 169 (2017).

35) E. Alazi, T. Knetsch, M. Di Falco, I. D. Reid, M. Arentshorst, J. Visser, A. Tsang & A. F. J. Ram: Appl. Microbiol. Biotechnol., 102, 2723 (2018).

36) E. Alazi, C. Khosravi, T. G. Homan, S. du Pré, M. Arentshorst, M. Di Falco, T. T. M. Pham, M. Peng, M. V. Aguilar-Pontes, J. Visser et al.: FEBS Lett., 591, 1408 (2017).

37) M. Tanaka, S. Ichinose, T. Shintani & K. Gomi: Mol. Microbiol., 110, 176 (2018).

38) M. Tanaka, T. Hiramoto, H. Tada, T. Shintani & K. Gomi: Appl. Environ. Microbiol., 83, e00592 (2017).

39) S. Ichinose, M. Tanaka, T. Shintani & K. Gomi: Appl. Microbiol. Biotechnol., 98, 335 (2014).

40) L. N. Ries, S. R. Beattie, E. A. Espeso, R. A. Cramer & G. H. Goldman: Genetics, 203, 335 (2016).

41) M. A. Alam, N. Kamlangdee & J. M. Kelly: Curr. Genet., 63, 647 (2017).

42) N. A. Brown, P. F. de Gouvea, N. G. Krohn, M. Savoldi & G. H. Goldman: Biotechnol. Biofuels, 6, 91 (2013).

43) L. J. de Assis, M. Ulas, L. N. A. Ries, N. A. M. El Ramli, O. Sarikaya-Bayram, G. H. Braus, O. Bayram & G. H. Goldman: MBio, 9, e00840 (2018).

44) E. Kunitake, Y. Li, R. Uchida, T. Nohara, K. Asano, A. Hattori, T. Kimura, K. Kanamaru, M. Kimura & T. Kobayashi: Curr. Genet., 66, (2019).

45) J. Watanabe, H. Tanaka, Y. Mogi, T. Yamazaki, K. Suzuki, T. Watanabe, O. Yamada & O. Akita: J. Biosci. Bioeng., 111, 408 (2011).