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ダイズの5-デオキシ型イソフラボノイド生合成におけるメタボロン形成の役割細胞内フラボノイド代謝の高効率化

Toshiyuki Waki

和氣 駿之

東北大学大学院工学研究科

Seiji Takahashi

高橋 征司

東北大学大学院工学研究科

Toru Nakayama

中山

東北大学大学院工学研究科

Published: 2019-10-01

イソフラボノイドは,ダイズなどのマメ科植物に蓄積するフラボノイド化合物の一群である.フラボノイド骨格のA環5位のヒドロキシ基の有無により5-デオキシ型と5-ヒドロキシ型に大別され(1)1) R. Hegnauer & R. J. Grayerbarkmeijer: Phytochemistry, 34, 3 (1993).,ダイズ(エンレイ品種)においては,5-デオキシ型としてダイゼインが,5-ヒドロキシ型としてゲニステイン(図1図1■ダイズにおけるメタボロン形成を介した5-デオキシ型イソフラボノイドの推定生合成経路)が配糖体・マロニル配糖体の形で蓄積する.これらイソフラボノイドは,抗酸化作用や紫外線防御などの生理機能を有するが,特に重要な生理機能として抗菌物質や根粒菌誘因物質としての機能が挙げられる.ダイズ植物体に病原菌が感染した際は,ゲニステインはそれ自身が抗菌作用を発揮し,一方,ダイゼインはより抗菌作用の高い抗菌性ファイトアレキシンであるグリセオリンへと代謝され抗菌作用を発揮する(2)2) T. L. Graham, J. E. Kim & M. Y. Graham: Mol. Plant Microbe Interact., 3, 157 (1990)..また,根に蓄積するイソフラボノイドは土壌中に能動的に分泌されることで根粒菌との共生関係構築に寄与する.根にはダイゼイン誘導体が特異的に高蓄積しており,分泌されるイソフラボノイドの大部分はダイゼインである(3, 4)3) R. Mameda, T. Waki, Y. Kawai, S. Takahashi & T. Nakayama: Plant J., 96, 56 (2018).4) A. Sugiyama, Y. Yamazaki, K. Yamashita, S. Takahashi, T. Nakayama & K. Yazaki: Biosci. Biotechnol. Biochem., 80, 89 (2016)..このように,抗菌作用や根粒菌との共生関係構築といった生理機能の発揮に際しては5-デオキシ型イソフラボノイド(ダイゼイン誘導体)が特に重要である.

図1■ダイズにおけるメタボロン形成を介した5-デオキシ型イソフラボノイドの推定生合成経路

IFS(2-ヒドロキシイソフラバノン合成酵素),CHS(カルコン合成酵素),CHR5(カルコン還元酵素),CHI(カルコン異性化酵素).

5-デオキシ型イソフラボノイド生合成への分岐は,フラボノイド生合成の初発物質であるカルコンの生成段階で決定される(図1図1■ダイズにおけるメタボロン形成を介した5-デオキシ型イソフラボノイドの推定生合成経路).カルコンは,1分子のp-クマロイルCoAと3分子のマロニルCoAからカルコン合成酵素(CHS)により生合成される.このとき,CHSとともにカルコン還元酵素(CHR)が同時に作用することで5-デオキシ型イソフラボノイド生合成の前駆体である6′-デオキシカルコン(イソリキリチゲニン)が生成する.ここで重要な点は,CHRはCHSの生成物であるカルコンに直接作用することはできないという点である.CHRはCHSの反応中間体に作用することが想定されており,なかでも最も有力視されているのは,CHSの環化反応後に活性部位から放出されるp-クマロイルシクロヘキサントリオン中間体(図1図1■ダイズにおけるメタボロン形成を介した5-デオキシ型イソフラボノイドの推定生合成経路,中間体1)である(5)5) E. K. Bomati, M. B. Austin, M. E. Bowman, R. A. Dixon & J. P. Noel: J. Biol. Chem., 280, 30496 (2005)..しかし,この中間体1は水溶液中で非常に不安定であり,自発的に芳香族化して5-ヒドロキシ型イソフラボノイドの前駆体である6′-ヒドロキシカルコン(ナリンゲニンカルコン)を生成してしまう.したがって,CHRが作用して5-デオキシイソフラボノイド生合成へ代謝が流れるためには,中間体1が芳香族化することなしにCHRへ受け渡されることが必須である.

これまでにダイズで同定されていたCHR(CHR1)とCHSのin vitroアッセイでは,6′-デオキシ型と6′-ヒドロキシ型のカルコンの生成比率は50%程度を超えることはなかった.しかし,実際にダイズの根に蓄積するイソフラボノイドの90%以上が5-デオキシ型であり(3)3) R. Mameda, T. Waki, Y. Kawai, S. Takahashi & T. Nakayama: Plant J., 96, 56 (2018).,ファイトアレキシン生合成の際は5-デオキシ型イソフラボノイド生合成が大きく増強される.したがって,ダイズ細胞内(in vivo)においてはこのCHSからCHRへの基質の受け渡し(基質チャネリング)が効率的に生じていると想定されるが,その仕組みは長年にわたって謎のままであった.CHSとCHRの直接的なタンパク質間相互作用によって両酵素間の基質チャネリングが起こっている可能性も考えられてきたが,アルファルファのCHSおよびCHRの立体構造を用いたドッキングモデルの構築では,CHSとCHRの活性部位を向き合わせる構造モデルは構築できなかった(5)5) E. K. Bomati, M. B. Austin, M. E. Bowman, R. A. Dixon & J. P. Noel: J. Biol. Chem., 280, 30496 (2005)..また,ダイズのCHR1とCHSアイソザイム間の相互作用が酵母ツーハイブリッド(Y2H)法およびバイオレイヤー干渉(BLI)法により解析されたが,両酵素間の直接的な相互作用は見いだされなかった(6)6) T. Waki, D. Yoo, N. Fujino, R. Mameda, K. Denessiouk, S. Yamashita, R. Motohashi, T. Akashi, T. Aoki, S. Ayabe et al.: Biochem. Biophys. Res. Commun., 469, 546 (2016).

近年,フラボノイド生合成において「メタボロン」の存在が明らかになりつつある(3, 6, 7)3) R. Mameda, T. Waki, Y. Kawai, S. Takahashi & T. Nakayama: Plant J., 96, 56 (2018).6) T. Waki, D. Yoo, N. Fujino, R. Mameda, K. Denessiouk, S. Yamashita, R. Motohashi, T. Akashi, T. Aoki, S. Ayabe et al.: Biochem. Biophys. Res. Commun., 469, 546 (2016).7) N. Fujino, N. Tenma, T. Waki, K. Ito, Y. Komatsuzaki, K. Sugiyama, T. Yamazaki, S. Yoshida, M. Hatayama, S. Yamashita et al.: Plant J., 94, 372 (2018)..メタボロンとは,代謝経路を構成する酵素タンパク質によって細胞内に特異的に形成される酵素複合体のことである.代謝酵素群がタンパク質間相互作用により細胞内で局在化することで,迅速な基質チャネリングが可能となり,細胞内代謝機能の高効率化に寄与すると考えられている.フラボノイド生合成では,生合成に関与する小胞体膜結合型シトクロムP450を核として,これに可溶性酵素が可逆的に会合することで小胞体膜上にメタボロンが形成されることが提唱されている.ダイズのイソフラボノイド生合成においては,酵母を用いたスプリットユビキチンツーハイブリッド法や植物細胞を用いた2分子蛍光補完法,BLI法などによる代謝酵素間の相互作用解析が行われ,P450である2-ヒドロキシイソフラバノン合成酵素(IFS)を核とした相互作用ネットワークの存在が示された(3, 6)3) R. Mameda, T. Waki, Y. Kawai, S. Takahashi & T. Nakayama: Plant J., 96, 56 (2018).6) T. Waki, D. Yoo, N. Fujino, R. Mameda, K. Denessiouk, S. Yamashita, R. Motohashi, T. Akashi, T. Aoki, S. Ayabe et al.: Biochem. Biophys. Res. Commun., 469, 546 (2016).図1図1■ダイズにおけるメタボロン形成を介した5-デオキシ型イソフラボノイドの推定生合成経路).また興味深いことに,ダイズに多数存在するCHRアイソザイムの中でIFSと相互作用を示したのはCHR5のみであった(3)3) R. Mameda, T. Waki, Y. Kawai, S. Takahashi & T. Nakayama: Plant J., 96, 56 (2018)..CHSとCHRを用いた試験管内における酵素反応では,CHR1を用いた場合,反応系に用いる酵素濃度を上昇(5 µM)させても6′-ヒドロキシカルコンに対する6′-デオキシカルコンの生成比率は50%で頭打ちとなる.しかし,CHR5を用いた場合,酵素濃度の上昇(5 µM)に従い6′-デオキシカルコンの生成比率は80%まで上昇することが明らかになった.また,磁性アガロース上にCHSとCHR5を集積させた場合,低濃度酵素条件下(0.5 µM)においても6′-デオキシカルコンの生成比率は90%近くなった(3)3) R. Mameda, T. Waki, Y. Kawai, S. Takahashi & T. Nakayama: Plant J., 96, 56 (2018)..これらの結果から,ダイズ植物体内,特に蓄積するイソフラボノイドの90%以上が5-デオキシ型である根の細胞においては,CHSとCHR5はIFSを核としたメタボロン形成に参画することで互いに近傍に存在し,こうしたメタボロン形成を介した中間体1の迅速な基質チャネリングにより,5-デオキシ型イソフラボノイド生合成の高効率化が図られているものと考えられた.

今後,CHR5の発現を抑制または過剰発現させたダイズ植物体におけるイソフラボノイド組成を詳細に解析することで,CHRアイソザイムの機能分担やメタボロン形成への関与をより詳しく解明する必要がある.また,最近,ホップのカルコン異性化酵素ファミリーに属するCHIL1(タイプIII)がカルコンの安定化に寄与し,CHIL2(タイプIV)がCHSと相互作用しCHSのkcat値を上昇させることが報告された(8)8) Z. Ban, H. Qin, A. J. Mitchell, B. Liu, F. Zhang, J. K. Weng, R. A. Dixon & G. Wang: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 115, E5223 (2018)..これら酵素ファミリーはホップだけでなく,陸上植物に普遍的に保存されていることから,その相互作用能や機能もまた保存されていることが考えられる.5-デオキシ型イソフラボノイド生合成へのこれらタンパク質の寄与もまた興味がもたれるところである.

Reference

1) R. Hegnauer & R. J. Grayerbarkmeijer: Phytochemistry, 34, 3 (1993).

2) T. L. Graham, J. E. Kim & M. Y. Graham: Mol. Plant Microbe Interact., 3, 157 (1990).

3) R. Mameda, T. Waki, Y. Kawai, S. Takahashi & T. Nakayama: Plant J., 96, 56 (2018).

4) A. Sugiyama, Y. Yamazaki, K. Yamashita, S. Takahashi, T. Nakayama & K. Yazaki: Biosci. Biotechnol. Biochem., 80, 89 (2016).

5) E. K. Bomati, M. B. Austin, M. E. Bowman, R. A. Dixon & J. P. Noel: J. Biol. Chem., 280, 30496 (2005).

6) T. Waki, D. Yoo, N. Fujino, R. Mameda, K. Denessiouk, S. Yamashita, R. Motohashi, T. Akashi, T. Aoki, S. Ayabe et al.: Biochem. Biophys. Res. Commun., 469, 546 (2016).

7) N. Fujino, N. Tenma, T. Waki, K. Ito, Y. Komatsuzaki, K. Sugiyama, T. Yamazaki, S. Yoshida, M. Hatayama, S. Yamashita et al.: Plant J., 94, 372 (2018).

8) Z. Ban, H. Qin, A. J. Mitchell, B. Liu, F. Zhang, J. K. Weng, R. A. Dixon & G. Wang: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 115, E5223 (2018).