解説

カルノシンの有する記憶機能改善効果とその分子基盤なぜカルノシンは脳機能を改善できるのか?

Molecular Mechanism for the Carnosine-Induced Improvement of Brain Function: Why Carnosine Can Improve Brain Function ?

Yoshinori Katakura

片倉 喜範

九州大学大学院農学研究院

Published: 2019-10-01

抗酸化作用,緩衝作用,抗疲労作用など多くの機能を有することが知られている高機能ジペプチドイミダゾールジペプチドは,最近行われた中高齢者ボランティアに対する二重盲検ランダム化比較試験の結果から,記憶機能改善効果を示すことが明らかとなっている.つまりイミダゾールジペプチドは,腸と脳との相互作用を活性化させうることが報告されてはいるが,その分子基盤についてはいまだ明らかになっていない.本解説では,イミダゾールジペプチドの1種カルノシンによる脳腸相関活性化機能の詳細とその機能性の分子基盤に関し,最近の知見を踏まえ紹介したい.

はじめに

わが国の高齢化は,急速なスピードで進行している.2016年時点での日本の総人口は1億2,693万人で,このうち65歳以上の高齢者人口は3,459万人と,総人口の約27%を占めるまでになっている.今後もこの高齢化は進行し続けることが予想されており,この社会の高齢化に対抗すべく,健康で長生きすること,つまり「健康長寿」が望まれている.高齢になるにつれて,生活習慣病や認知症など,さまざまな疾患に罹患する割合が一段と高まる.特に認知症に関しては,2025年には700万人を超えることも予想されており(図1図1■認知症患者数の将来推計),その診断や予防に関する研究が精力的に行われている.

このような背景のなかで,日常的に摂取する食事により脳の機能を改善し,認知機能の減退を予防しようとする研究に注目が集まっている.これまでにも培養神経細胞を用いた研究から,タウリン(1)1) M. Yoshida, S. Fukukda, Y. Tozuka, Y. Miyamoto & T. Hisatsune: J. Neurobiol., 60, 166 (2004).やGABA(γアミノ酪酸)(2)2) Y. Tozuka, S. Fukuda, T. Namba, T. Seki & T. Hisatsune: Neuron, 47, 803 (2005).などに神経保護作用,クルクミンに老人斑凝集抑制作用(3)3) F. Yang, G. P. Lim, A. N. Begum, O. J. Ubeda, M. R. Simmons, S. S. Ambegaokar, P. Chen, R. Kayed, C. G. Glabe, S. A. Frautschy et al.: J. Biol. Chem., 280, 5892 (2005).があることが明らかとなっている.われわれは当初から,強い抗酸化活性とそれに基づく疲労軽減効果があることが知られている,イミダゾールジペプチドの1種,カルノシンに注目し,研究を進めてきた.本解説では,カルノシンによる認知機能回復効果の検証とその機能性の分子基盤に関する研究を中心に紹介する.

図1■認知症患者数の将来推計

(H26厚生労働科学研究費補助金 二宮利治)

カルノシンの機能性

イミダゾール基を含むヒスチジンが結合したジペプチドの総称であるイミダゾールジペプチドには,カルノシンとアンセリンが知られており(図2図2■カルノシンとアンセリンの構造),筋肉や脳に高濃度に存在し,特に食肉中に豊富に含まれている.イミダゾールジペプチドはこれまでに,抗酸化作用,抗糖化作用,疲労回復作用など,さまざまな生理作用を示すことが明らかとなっている(4, 5)4) A. A. Boldyrev, G. Aldini & W. Derave: Physiol. Rev., 93, 1803 (2013).5) S. Budzen & J. Rymaszewska: Adv. Clin. Exp. Med., 22, 739 (2013).

図2■カルノシンとアンセリンの構造

最近になり,カルノシンには認知機能回復効果があることが明らかになりつつある.アルツハイマーモデルマウスを用いた研究において,高脂肪食を摂取したマウスでは,記憶機能が大幅に減退したが,カルノシンの摂取によりその減退が有意に抑制されることが明らかとなった(6)6) B. Herculano, M. Tamura, A. Ohba, M. Shimatani, N. Kutsuna & T. Hisatsune: J. Alzheimers Dis., 33, 983 (2013)..さらに,中高齢者ボランティアに対する二重盲検ランダム化比較試験の結果から,カルノシンには脳機能改善効果があることが明らかとなっている(7, 8)7) T. Hisatsune, J. Kanekko, H. Kurashige, Y. Cao, H. Satsu, M. Totsuka, Y. Katakura, E. Imabayashi & H. Matsuda: J. Alzheimer’s Dis., 50, 149 (2016).8) Y. Katakura, M. Totsuka, E. Imabayashi, H. Matsuda & T. Hisatsune: Nutrients, 9, 1199 (2017).

さらに最近われわれのグループは,福岡県久山町(人口約8,400人)の地域住民を対象に,50年間にわたり生活習慣病(脳卒中・虚血性心疾患,悪性腫瘍,認知症など)の疫学調査を行っている久山町研究グループと共同研究を行った.久山町住民は全国平均とほぼ同じ年齢・職業分布をもっており,偏りのほとんどない日本人集団であると同時に,その剖検率の高さから,確度の高い死因や病歴の特定が可能であるとされている(http://www.hisayama.med.kyushu-u.ac.jp/about/index.html).認知症患者を除く60~79歳の1,475人の久山町住民の血清を用いて解析した結果,カルノシンの血中分解産物であるβ-アラニン濃度と5年後に全認知症およびアルツハイマー型認知症を発症するリスクとの間に有意な負の相関が存在することを明らかにしている.つまり,血清中β-アラニン濃度が高い人は,全認知症およびアルツハイマー型認知症の発症リスクが有意に低いことが明らかとなり,カルノシンを含むイミダゾールジペプチドの摂取が,認知症の予防に効果的であることが明らかとなった(9)9) J. Hata, T. Ohara, Y. Katakura, K. Shimizu, S. Yamashita, D. Yoshida, T. Honda, Y. Hirakawa, M. Shibata, S. Sakata et al.: Am. J. Epidemiol., in press.

このように最近の研究から,カルノシンを含むイミダゾールジペプチドには,脳機能改善効果があることが明らかとなっているが,その詳細な作用機序はいまだに明らかにはなっていない.これまでに行われた数々の研究のなかから,カルノシンの示す脳機能改善効果の分子基盤に迫った研究について,そのいくつかを紹介していきたい.

カルノシンによる認知機能回復の分子基盤

前述のアルツハイマーモデルマウスを用いた,カルノシンの記憶機能改善効果に関する研究から,モデルマウスの海馬CA3領域の血管でのRAGE(receptor for advanced glycation endproduct)の発現増強と血管の拡大が,カルノシン摂取により抑制されていること,さらには海馬におけるミクログリアの活性化がカルノシン摂取により抑制されていることが明らかとなっている.つまりカルノシンは,RAGEの発現を抑制し,さらにミクログリアの活性化を抑制することで炎症を抑制し,その結果として認知機能の低下を抑制しているというメカニズムが想定された(6)6) B. Herculano, M. Tamura, A. Ohba, M. Shimatani, N. Kutsuna & T. Hisatsune: J. Alzheimers Dis., 33, 983 (2013).

また,二重盲検ランダム化比較試験において見いだされた,カルノシンの記憶機能改善効果に関する研究からは,末梢血における炎症性サイトカインIL-8, CCL-2およびIL-5量が,カルノシン摂取に伴い有意に減少していること,また後帯状皮質における加齢に伴う脳血流量の減少が,カルノシン摂取により有意に抑制されていることが示され,カルノシン摂取が全身性の炎症状態を改善し,さらに脳灌流を改善することで,中高齢者の記憶機能が維持されうることが明らかとなっている(7, 10)7) T. Hisatsune, J. Kanekko, H. Kurashige, Y. Cao, H. Satsu, M. Totsuka, Y. Katakura, E. Imabayashi & H. Matsuda: J. Alzheimer’s Dis., 50, 149 (2016).10) Q. Ding, K. Tanigawa, J. Kaneko, M. Totsuka, Y. Katakura, E. Imabayashi, H. Matsuda & T. Hisatsune: Aging Dis., 9, 334 (2018)..さらにわれわれは,前述の二重盲検ランダム化比較試験に参加した中高齢者ボランティアの末梢血単核球由来mRNAを用いたマイクロアレイ解析および定量PCRを行った結果,カルノシンを摂取したボランティアの末梢血リンパ球においては,炎症性ケモカインの1種CCL24の発現が有意に減少していること,さらにCCL24発現と認知機能の維持との間に有意な相関があることを明らかにしている(8)8) Y. Katakura, M. Totsuka, E. Imabayashi, H. Matsuda & T. Hisatsune: Nutrients, 9, 1199 (2017).

カルノシンによる脳腸相関活性化を通じた脳機能改善

これまでの数々の研究が示すように,カルノシンが脳機能改善効果を示すことは明らかではあるが,なぜカルノシンにより脳機能改善が可能なのかについての詳細な作用機序については,いまだ明らかになっていない.その一つの可能性として,カルノシンが直接脳に送達する可能性について検証した.まず,血中に進入したカルノシンが脳血液関門(Blood–brain barrier; BBB)を透過しうるかを,BBB in vitro再構成モデルを用いて検証したところ,カルノシンはBBBを透過しうることが明らかとなった.さらにカルノシンは,神経細胞を直接活性化し神経突起伸長を促すとともに,グリア細胞でのBrain-derived neurotrophic factor(BDNF),Nerve growth factor(NGF)およびNeurotrophin-4(NT-4)などの神経栄養因子発現を増強することが明らかとなった.つまりカルノシンは神経細胞を直接,あるいはグリア細胞での神経栄養因子発現の増強を通じて神経細胞を間接的に活性化しうることが明らかとなった(11)11) S. Yamashita, M. Sato, T. Matsumoto, K. Kadooka, T. Hasegawa, T. Fujimura & Y. Katakura: Biosci. Biotechnol. Biochem., 82, 683 (2018).図3図3■カルノシンによる脳腸相関活性化とその分子基盤).

しかしながら,ヒトが経口摂取したカルノシンは,腸管上皮細胞において,あるいは腸管を通過した末梢血中において,カルノシナーゼというカルノシン分解酵素によりβ-AlaとL-Hisに即座に分解されることが明らかとなっている.つまり,カルノシンによる脳神経細胞の活性化は,カルノシンの直接的な脳への送達による神経細胞の活性化とは異なる,腸管から脳への何らかのシグナルの伝達,すなわち「脳腸相関」の活性化による機構も想定する必要があるものと考えられた(図3図3■カルノシンによる脳腸相関活性化とその分子基盤).

図3■カルノシンによる脳腸相関活性化とその分子基盤

近年「脳腸相関(Brain–gut interaction)」という概念が注目されている.これは,脳と腸が自律神経や液性因子(ホルモンやサイトカイン)を介して,密接にかかわり合い,相互作用することであり,「脳腸軸 (Brain–gut axis)」とも言われている.この脳腸相関の代表的な例として,過敏性大腸炎(Irritable bowel syndrome; IBS)が知られている.これは脳がストレスを感知することで,視床下部において副腎皮質ホルモン放出因子の,そして腸粘膜においてはセロトニンの分泌を促し,それぞれの特異的レセプターを介して,消化管の運動に異常をきたすことが原因とされており,生体にとってはネガティブな意味での脳腸相関を示す疾患と言える.そこでわれわれは,カルノシンによる腸管の活性化とその結果としての脳の活性化の可能性を明らかにすべく研究を行った.

まずわれわれは,カルノシンが腸管細胞に対して,CREBおよびCa2+シグナル依存的にBDNF, Glial-cell derived neurotrophic factor(GDNF)およびIL-6発現を増強することを明らかにした(12)12) K. Fujii, K. Abe, K. Kadooka, T. Matsumoto & Y. Katakura: Cytotechnol, 69, 523 (2017)..つまり,カルノシンが腸管細胞における神経栄養因子発現を増強することで,神経栄養因子を介したカルノシンによる脳腸相関活性化の可能性が考えられた(図3図3■カルノシンによる脳腸相関活性化とその分子基盤).そこで次に,カルノシン処理を行った腸管細胞が神経細胞を活性化しうるか,検証を行った.カルノシン処理を行った腸管細胞の培養上清を神経細胞に添加し培養したところ,神経細胞において神経突起が有意に伸長することが観察された.つまり,カルノシン処理を行った腸管細胞は,神経細胞を活性化するような液性因子を分泌増強している可能性が考えられた.解析を行った結果,カルノシン処理を行った腸管細胞からは,先の報告のBDNF, GNDF以外にも,NGF, NT-4, Ciliary neurotrophic factor(CNTF),さらにはコレシストキニン,エンドセリン2,線維芽細胞成長因子9(FGF9),白血病阻止因子(LIF),ウロコルチン2などの分泌性因子の発現が増強していることが明らかとなった(13)13) K. Kadooka, K. Fujii, T. Matsumoto, M. Sato, F. Morimatsu, K. Tashiro, S. Kuhara & Y. Katakura: J. Funct. Foods, 13, 32 (2015)..以上の結果から,カルノシンは腸管細胞に働きかけ,さまざまな分泌性因子の分泌発現を増強し,結果としてその分泌性因子が脳内の神経細胞の活性化に働きうるものと考えることができた.

次にわれわれは,カルノシンによる脳腸相関活性化の分子基盤の一つとして,細胞分泌小胞として知られる“エクソソーム”を想定し,研究を行った(図3図3■カルノシンによる脳腸相関活性化とその分子基盤).エクソソームは直径40~100 nmという非常に小さい細胞外小胞として知られている.エクソソームは,正常細胞からがん細胞に至るまで,生物を構成するあらゆる細胞から分泌されることが知られている.このエクソソームに関する研究は,エクソソームがmiRNAを内包しているという報告を機に,一気に注目を集めることとなった(14)14) H. Valadi, K. Ekström, A. Bossios, M. Sjöstrand, J. Lee & J. O. Lötvall: Nat. Cell Biol., 9, 654 (2007)..miRNAは21~25塩基長の1本鎖RNA分子であり,真核生物において遺伝子の転写後発現調節に関与している.miRNAはその標的mRNAに対して不完全な相同性をもって結合し,一般に標的遺伝子の3′UTRを認識して,標的mRNAを不安定化するとともに翻訳抑制を行うことでタンパク質生産を抑制する.発生,細胞増殖,細胞分化,アポトーシスまたは代謝といったさまざまな生体内プロセスにおいて,miRNAがかかわっていることが明らかとなっている.このエクソソームがmiRNAを内包するという報告により,細胞間コミュニケーションの重要なメディエーターとしてのエクソソームの関与が推定されるようになってきている.これまでにも,オリゴデンドロサイトが分泌するエクソソームが髄鞘形成を制御すること(15)15) M. Bakhti, C. Winter & M. Simons: J. Biol. Chem., 286, 787 (2011).,プリオン病の原因となる異常プリオン構造タンパク質がエクソソーム内に含まれ,中枢神経内への異常構造プリオンタンパク質が伝播することなど(16)16) S. A. Bellingham, B. B. Guo, B. M. Coleman & A. F. Hill: Front. Physiol., 3, 124 (2012).,神経細胞間コミュニケーションにおけるエクソソームの関与を示す報告が相次いでいる.

以上を踏まえ,われわれはカルノシンによる脳腸相関活性化の分子基盤として,腸管由来のエクソソームを想定し,そのエクソソームの単離・同定,内包されるmiRNAと神経細胞におけるそのmiRNAの標的遺伝子の同定を試み,研究を行った(17)17) Y. Sugihara, S. Onoue, K. Tashiro, M. Sato, T. Hasegawa & Y. Katakura: PLOS ONE, 14, e0217394 (2019)..ヒト培養腸管細胞モデルとしては,ヒト結腸がん由来細胞Caco-2を,ヒト神経細胞モデルとしては,ヒト神経芽細胞腫SH-SY5Yを用いた.カルノシン処理したCaco-2の培養上清からエクソソームを単離し,SH-SY5Yに添加し培養したところ,神経突起の伸長(図4図4■カルノシン処理したCaco-2細胞由来エクソソームを添加したSH-SY5Y細胞における神経突起伸長)や神経突起マーカー遺伝子の発現増強が観察された.

つまりこの結果は,カルノシン処理したCaco-2から,SH-SY5Yの神経突起の伸長を促すエクソソームが分泌されていることを示している.つぎに,Caco-2から分泌され,神経細胞を活性化するエクソソームに含まれるmiRNAとその標的遺伝子の同定を試みた.まず,カルノシン処理したCaco-2から分泌されるエクソソームに含まれるmiRNAのマイクロアレイ解析を行い,有意に発現変動したmiRNAを抽出し,Target Scan Human(http://www.targetscan.org/)を用いて,その標的遺伝子を予測した(図5図5■miRNA-ターゲット遺伝子同定のためのマイクロアレイ統合解析,遺伝子セット1).

図4■カルノシン処理したCaco-2細胞由来エクソソームを添加したSH-SY5Y細胞における神経突起伸長

コントロール:無処理SH-SY5Y細胞,エクソソーム:カルノシン処理したCaco-2細胞由来エクソソームを添加したSH-SY5Y細胞.神経突起は,Neuro-Chrom Pan Neuronal Maker(Millipore)により蛍光染色し,共焦点レーザー走査型顕微鏡(FLUOVIEW FV1000, Olympus)を用いて観察した17)17) Y. Sugihara, S. Onoue, K. Tashiro, M. Sato, T. Hasegawa & Y. Katakura: PLOS ONE, 14, e0217394 (2019).

さらにカルノシン処理したCaco-2由来のエクソソームを,ターゲット細胞であるSH-SY5Yに添加し,マイクロアレイ解析により,SH-SY5Yにおいて有意に発現変動した遺伝子の抽出を行った(図5図5■miRNA-ターゲット遺伝子同定のためのマイクロアレイ統合解析,遺伝子セット2).遺伝子セット1と遺伝子セット2の間で共通する遺伝子の抽出を行うとともに(約200遺伝子,マイクロアレイの統合解析),神経細胞活性化にかかわる遺伝子の抽出およびIngenuity Pathway Analysis(IPA)による遺伝子相関図をもとに,カルノシン処理Caco-2由来エクソソームに含まれ,しかも神経細胞活性化にかかわるmiRNAの同定(4種)とその標的遺伝子を(14種)を同定した.

図5■miRNA-ターゲット遺伝子同定のためのマイクロアレイ統合解析

今回,カルノシン処理したCaco-2から分泌されるエクソソームに注目し,そのエクソソーム中のmiRNAのマイクロアレイ解析とエクソソームの標的細胞におけるmRNAのマイクロアレイ解析の統合解析を行うことで,カルノシンにより誘導される臓器間相互作用(脳腸相関)の分子基盤の一部を明らかにすることができた.今後,さまざまな細胞間・組織間・臓器間相互作用を規定する分子基盤としてのエクソソームに多くの注目が集められていくものと期待されるが,カルノシンの腸管・筋肉を介した全身性の機能に対するエクソソームの寄与に関しても明らかにしていきたいと考えている.

以上のように,記憶機能改善効果を有するカルノシンの機能性に関し,いくつかのメカニズムとその分子基盤を明らかにすることができた.今後は,それぞれのメカニズム間の相互作用やネットワークを明らかにしていくとともに,それぞれを独自に活性化するような新たな食品の探索を行っていきたいとも考えている.

Reference

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