セミナー室

大学の国際化と作文教育グローバル人材のライティング実践

Saho Tateno

舘野 佐保

青山学院大学アカデミックライティングセンター

Published: 2019-10-01

大学で国際化や多様化が進められ,開かれた教育現場が目指されはじめた.日本から数多くの学生が留学で渡航し,海外からも毎年たくさんの留学生を受け入れ,その数は増えている.その分,国際化をめぐる状況はますます複雑になってきた.新たな試みには新たな課題が生じる.そういう時にこそ,作文教育の観点からも現代社会や大学教育現場の課題に取り組むことができる.

本稿では連載最終回として大学の国際化(グローバル化)に焦点を絞り,ライティングセンターを代表とした作文教育の可能性を論じる.

作文教育をめぐる国内外の動向

a)個人の考えの尊重

作文を教わる過程で,学生はさまざまな能力を習得していく.たとえば,これまでの連載でも述べてきたような次の能力がある.日本語で表現する力,国籍問わずどんな相手とでも議論ができる英語での力.専門的な知識を一般向けに伝える力.学術論文や学会発表を成功させられるライティング力.倫理的な理系作文力などである.ここでは,国際的な舞台で活躍できる人材を育成するために,「個人の考えの尊重ができる姿勢」についても言及しておく.

「あなたの考えは間違っている」と言われたことは誰でもあるはずだ.叱ってもらうのは時に必要であり,たとえば研究室におけるマナーや実験手順の誤りは正されるのが本人のためである.だが,アイデアそのものについては注意が必要で,「個人の尊厳の一部として守られ尊重されるべきもの」という言語教育の姿勢もある(1)1) D. Allwright & J. Hanks: “The developing language learner,” Springer, 2009..教員側が白黒はっきりつけるよりは議論のできるように促し,学生のリテラシー能力を引き出していくのだ.「個人の考えの尊重」という原則にのっとるのであれば,合っている,間違えている,というよりも他者が見聞きしたり読んだりする場合に納得してもらえる論理と言葉遣いで説明や記述ができるようになることが,作文教育のゴールの一つとなっている.

国籍や言語の違う学生の集まる欧米の授業では,一つの問いかけにも多様な答えがある.「常識」というものが国ごとにあるから,一概に一国の道徳観や教育論で学生の考えを短い時間で否定し変えようとすることには危険がともなう.学生一人ひとりの意見の違いにまずは耳を傾け,グループワークによって考えの違う者同士が一つのゴールに向かって助け合うような活動が必要であろう.

現在の日本の大学や研究の現場にまつわる諸問題,たとえば研究不正防止やアカデミックハラスメント防止,女子教育推進については,作文教育で「個人の考えの尊重」にもう少し力点を置いて指導や支援がされれば状況の改善がみられるかもしれない.日本のこれまでの作文教育に海外のプログラムの長所をうまく取り込み,これからの作文教育に良い潮流ができればと願っている.

書くことは誰にとっても難しいものだ.誰のどのようなケースであれ,国籍や性別といった属性による偏見にとらわれることなく,「学術的な議論を書けるようになる」ことや,「言語表現をして議論に参加すること」が本当の意味での「グローバル人材」である.書き方がわからないと自信がなく,諦めてしまうことも少なくない.特に,女子の大学院生のなかでは「執筆と自信」の部分で課題の多いことが報告されている(2)2) G. Kirsch & P. Sullivan: “Methods and methodology in composition research,” Southern Illinois University Press, 1992..学修環境が密室状態になると挫折感にさいなまれやすく捏造を含め研究不正の生じやすい環境になる(3)3) 舘野佐保:月刊化学,70, 49 (2015)..授業や研究室,ライティングセンターなどの場所を行き来しつつ,誰かに気軽に相談のできるような風通しの良い学修環境が学生にとっても教員にとっても支援となる.

b)米国作文教育の変革

ところで,世界でのライティングセンターの起こりは1960から1970年代にかけてのアメリカで,作文教育の見直しから始まったと言われている(4)4) E. H. Boquet: Coll. Compos. Commun., 50, 475 (1999)..一般的な授業履修制度では,授業課題のレポートは提出後の評定のみによって評価が学生へ伝わり,A, B, C等の評定で授業履修の単位取得が決まってくる.だが,その常識を当時の作文教育学者は疑った.「評定の格付けのみで,本当に作文を教えることになっているのだろうか」と.評定のみでは出来不出来の根拠が学生へ伝わることはなく,原稿の長所や短所がわからないまま次の授業を履修することになる.

それが新しい作文教育のムーブメントの始まりとなった.「プロセス・ライティング」を意識した教育である.「プロセス・ライティング」では,従来の提出物のみによる評価ではなく,書き始めから提出までの作業工程(プロセス)を評価しながら教える.プロセスを教えながらライティングの基礎を徹底させることで,作文教育に変革が起きていった.

プロセス・ライティングを重視した授業では,ある課題への同じ内容,同じ原稿を繰り返し提出させるのが特徴である.繰り返し加筆修正する練習を積み,書き方の技術のなかでも「リバイズ(加筆修正)の技術」を学ぶ.たとえば,下書きを書き起こした1回目の原稿,原稿のメインアイデアや論理展開など全体の構成を書き直した第2回目の原稿,導入部や結論部をより説得力あるものにして文法ミスや語彙表現のブラッシュアップをした第3回目の原稿など,履修者の学生それぞれ個別の問題点と向き合って改訂作業をする.授業の最終回では,すべてのバージョンの原稿をひとまとめにして見直す.すなわち,全バージョンを含む「ポートフォリオ」と呼ばれるフォルダを作成し,完成までの経緯を振り返った「リフレクション・ペーパー」を添付して提出する.提出物準備の反省文を書いて教員へ読んでもらい,自己評価の内容も成績評価の一つとなる.原稿の改訂作業でも授業担当教員は原稿にコメントを書くが,最後のポートフォリオの中身を確認して,最終的な授業課題の評価をする.

このようなプロセス・ライティングの長所は,自身の「書く力」の得手不得手や問題点をかなり細かく気づかされるところにある.同時に,原稿の全体からディテールまで教員と学生で何度もやり取りを繰り返すので,原稿の中身について時間をかけて議論ができる.授業のシラバスで掲げている目標に合わせて,加筆修正の指標も示すことができるだろう.他方で,プロセス・ライティングの短所は,従来の授業よりも教員の時間や労力を要することである.そもそも原稿執筆とは,どのような苦労や困難があったとしても「終わり良ければすべて良し」という見方もできる.結果が出るまでの書き手のひたむきな努力は「教員側から過干渉にならないように」との考えもあるだろう.

そこで,学術的文章作成支援施設(ライティングセンター)という概念の場がプロセス・ライティングを重要視した作文教育の利点や限界を加味して発展してきた.プロセスを意識して支援する際に,教員よりも大学院生の先輩が「執筆者本人の自立を促す」という目的で手助けをする.ブレインストーミングや作業工程のスケジュールの確認,学術的文章作成の基礎を確認することなどは,教員のみならず大学院の先輩による対応のほうが身近で相談しやすいからである.完成した原稿を加筆修正するだけではなく,継続して支援を受けられることもライティングセンターのような場の良さである.始めから終わりまでの執筆プロセスについていつでも相談することによって,学生はライティングの基礎を確実に習得して経験を積み,スキルが身につき,原稿執筆への自信につながる.複数年にわたり何度も利用してもらって,短期的な授業課題のブラッシュアップだけではなく長期的に学術的文章作成の技術を習得できるようになる.

c)言語表現と学問の発展

1960年~70年代のアメリカでプロセス・ライティング重視の作文教育やライティングセンターの概念が広まったのは興味深い.歴史的には,人権運動の盛り上がりをみせた時代であった.時代の流れを受け,大学教育でも人種や性別を配慮した教育論が研究・実践されていった.「人種や性別,言語の違いにより英語がどのように書き綴られるのか」もしくは「それぞれの人種や性別,言語の書き手がどのような状況で苦労しているのか」という命題に対して,ジェンダー研究,社会学,言語学,教育学などさまざまな専門領域の手法が用いられ,第二次世界大戦後の現代における文章研究が始められた.

文章研究の専門領域でも「科学論文研究」に取り組んでいる研究者がいた.ワトソンとクリックがDNA二重らせん構造を発見したのは1953年であったから,ほぼ同時代である.科学哲学者のトーマス・クーンが提唱した「パラダイムシフト」とは,科学的発明発見によって常識の転換が起こる仕組みで,理論の発表は1962年だった.同じ年にはレイチェル・カーソンが「沈黙の春」を発表しており,科学技術の社会的影響について警鐘を鳴らしている.クーンは科学技術の力強さ,一方カーソンは科学技術の脅威.同じ年に科学にまつわる両極端の論考が発表されたのである.多様な出版が学問の発展を支えた.

同時期に科学技術の発展があったのはもちろんのこと,哲学・思想論の専門領域のかたわらには言語や表現,コミュニケーション論など文章研究があり,文章研究を大学教育へと応用させた作文教育学が発展していった.1990年代,アメリカ国内の大学でプロセス・ライティングの作文教育方法論やライティングセンターは全国的に知られるようになり,大学の学修や教育の支援施設として多くの大学で開設が進められた.

d)日本の大学での作文教育

日本の大学においてライティングセンターの開設が始まったのは21世紀の始まり頃,今から15年程度前のことである.海外でのライティング教育の取り組みが日本へと導入され学内外での理解を得て,図1図1■全国のライティングセンター開設の様子のように全国各地の大学へと拡大するようになるまでには,専門家の尽力があったに違いない.日本では作文教育学者や作文を専門とする教員は少ない.ライティングセンターのような施設の普及は日本における作文教育学を発展させ,作文講師の人材育成につながる.理系の大学院で教育を受けた人材にとっては,理系の研究以外で大学教育に携われることになり,新たなキャリアパスにもなるかもしれない.将来的には,このような期待ももつことができる.

図1■全国のライティングセンター開設の様子

研究の透明性を重要視した国内外での「広報の充実」や,「学術支援職員のサポート」が導入され,教員の業務軽減がここ10年間で進められてきた.時を同じくして,過去10年ほどの間に日本国内で「ライティングセンター」が広まり始めている.ただ,日本国内でまだそれほど知られておらず,これからの可能性は未知数である.

難題もある.執筆することや作文教育について「実体の無いもの」と捉えられる場合もある.理系学部の場合には,時間や予算,人材といったリソースをもっと研究などほかのことにかけるべきとする意見も耳にするので,賛否両論であることは確かである.実際,日本の大学や研究機関では,ライティングセンターはまだそれほど多くはない.この作文教育の実験的試みが学内外で支持され全国での普及へとつながるためには,より深い議論の時間を要する.それでも,国内の学術コミュニティでの関心は少なからずある.ここ数年は大学教育改革の一つとしてライティングセンターのオープンが増え,流行りになりつつあるとの見方もある.興味をもっている大学や図書館にとっては,もっと情報が必要なところであるから,そのような場合は全国でライティングセンターを開設している大学の施設へ見学に訪れることも一つの手である.

国際化を目指した実践的な作文支援

さて,グローバルな人材の育成を目指すうえで「英語で書く力」の応用力を伸ばす支援もためになる.授業でのレポートやエッセイはもちろん,意欲ある学生にはその先の国際的な学術の舞台での活躍に挑んでもらいたい.

よく相談のある項目を以下に記す.

1. 学会要旨

国際学会で発表するための「要旨」の英文原稿の場合.内容は指導教員の先生へお任せして,それ以外の部分を確認していく.文字数の多さばかりを気にする相談が目立つが,実際の作業として必要なのは執筆作業よりも前の準備である.つまり,現状の実験結果の要約など「すでに手元にある情報」の整理術や「膨大なデータや資料」から論点の簡略化に取り組んでもらうことにしている.「最小限の紙面でこれだけは伝えなければならない」というのが要旨であるから,専門的な用語で読み手に新規性などを要領よく伝えられるようにする.

2. 英文メール

簡単なようで意外に書き方がわからないのは,「英文メール」である.メールにも形式があるから,ビジネス英文メールの本を参照して,定形文や表現を把握しておけば問題はない.宛名については,海外の方の馴染みのないお名前の場合は英文字の綴りを間違えないよう気をつけ,称号Dr. Mr. Ms.の付け方を確認し,丁寧にDearから始めるようにする.書き初めは“I am writing to you for”という決まり文句を使用すれば,さまざまなケースに対応できるので使い勝手が良い.もう少し敬語表現を用いる必要があれば,”I would like to inform/ask”のような書き初めが適切である.ビジネスメールは簡潔に数行でなるべく伝達し,日本語のように挨拶文はそれほど必要ない.書類の発行や質問の回答のように,相手に具体的な行動をしてもらうお願いをしている内容なのであれば,メール書面の結論として「いつまでに何をしてもらいたいのか」を“Please kindly reply by Friday”などと明示するようにする.文末には署名の前にRegards(敬具)を表記しておけば,格式張りすぎず,カジュアルにならず,適切である.英語に敬語はそれほど存在しないといわれる場合もあるが,共同研究者や学会事務局などに英文でもマナーある連絡ができるようにしておくと安心である.以上のようなメールの冒頭や結びの文などで丁寧な表現の代表例を知っておくと役に立つ.

3. 投稿論文

学会発表の後には,「投稿論文」の相談を受けることもある.「論文を投稿してみようかと思っています」とためらいながら伝えてくる大学院生などには,指導教員の先生とまずはよくディスカッションさせてもらうよう勧める.少し時間が経ってから「論文を書き始めました」と聞くと,笑顔で励ます.どのように書き進めているのかを尋ねると,導入部から研究手法,結果と考察まで,一つひとつをまとめていくタイプと,すべての項目をバランスよく書き進めていくタイプなど,いろいろな進め方があるようである.何気ない質問へ丁寧に答え,困ったときには指導教員に確認するための論点の整理を支援する.

少し時間が経つと「論文を投稿しました」との声があり,まずは労いの言葉をかける.査読者とのコミュニケーションについて,どのように返答すれば良いのか大学院生は迷っている場合がある.論文採択にかかわるときもあるので,誠実に丁寧に回答することを告げて,「詳細を指導教員と打ち合わせるように」との言葉を繰り返す.

論文執筆の教育は増えているが,論文の投稿や出版にまつわる教育は実務経験のみとなっているのが現状である.だが,近頃では実体のないオンライン雑誌の「ハゲタカジャーナル」に騙されて投稿してしまうケースも問題となっている.そのほかにねつ造論文のような研究不正防止のためにも,投稿や査読審査,学術出版のプロセスを理解できるような教育を早いうちから受けられると良いのではないだろうか.

4. 留学準備

留学の準備は大学キャンパスで国際交流課などの部署から情報をもらえるだろう.留学もいろいろな種類があるので,書類手続きの内容も違っている.留学の志望動機や奨学金などの申請書,英語検定のスコアやビザの手配など準備項目は多岐にわたる.指導教員や国際交流課からアドバイスを受けつつ学生に準備を進めてもらい,必要に応じて支援するようにしている.留学先での授業を想定したアカデミックなライティング力については,よく質問を受ける.留学先では日常の使用言語が英語など現地語になるため,渡航前にできることとして英語を「継続的に書く」練習を積んでもらっている.継続して自然に英語を書けるようにすれば,自分のアイデアを自分の言葉で表現できるから,留学先での日常生活や大学での授業,もしくは研究室でのライティングに生かすことができる.その準備段階で,継続して書く練習を積むには,継続してライティングセンターなどで他者に読んでもらうことが有効である.

5. 英文講師の支援

国際化に伴い,日本の大学でも英語のネイティブスピーカーの教職員や研究員は増えている.日本の職場が働きやすいと考えてもらえるように,筆者は作文教育の視点から些細なことでもサポートできたらと考えている.たとえば英語の授業を担当している先生と履修生の橋渡しをしている.国際化推進のために英語のみで作文講義がされているような場合に,講義の内容の解説を日本語で聞ける場所があれば教員にも学生にも喜ばれる.授業担当教員とディスカッションをさせてもらうと,授業課題で学生に習得してもらうべきライティングスキルの優先事項や,学生の特に苦労しているライティング技術についてお聞きできる.いろいろな立場の教員からご意見をいただけば,大学キャンパスでの学生や大学院生に対するリテラシー教育,作文教育の状況を把握できる.

6. 海外からの留学生の作文支援

現在は来年の東京オリンピック開催前もあって国際化が推進され,日本への観光客数と同時に留学生も増えており,教育現場での留学生対応も急務である.大学キャンパスでは国際交流課や日本語科,もしくは各学部の部署での対応がメインになるのはもちろんであるが,作文教育の視点からは,授業課題のレポート作成など何かしらの支援をすることにより,留学生の大学キャンパスでの居場所作りになるのではないかと考えている.日本語の言葉の壁を超えて心温まる会話をすれば留学生の悩みや困りごとに耳を傾けることもできる.そのような場所を学内で何箇所も作ることにより,言語や文化,習慣などの違いによるトラブルを未然に防ぎ,留学生の孤立を防ぐことにつながる.

7. 日本を説明できる力

国際化という言葉からまず連想されるのは,海外への視野を広げることであるが,それに加えて自国の説明をしっかりできるスキルも身につけておくとなお良い.海外で多国籍な集まりがあったときに,それぞれの母国の話をしあうとする.渡航先のことばかり調べて留学すると,自身が母国についてなんと無知なのかと驚いてしまうだろう.自身の専門分野のほかにも,歴史や文化,芸術,習慣,社会問題などを教養として知っておくと良い.教養を身に着けるきっかけとなるように,筆者は学内で読書会の開催を試みた.テーマを決めて図書館所蔵の本を集め,参加者の学生へ読んでもらうと,それぞれに違った知識や関心のある参加者同士で新たな発見もある.授業や研究用の文献を探しやすくなり,積極的に読む習慣もでき,作文教育の側面にも良い影響がある.

まとめ

日本の大学教育現場でのこれまでの取り組みへの配慮と同時に,本稿で述べたような海外でのライティングセンター開始当時の歴史的社会的背景への理解は,国際化を念頭に置いた日本での作文教育を考案するうえで手がかりとなるだろう.何よりも,さまざまな立場からの活発な意見交換がより良い大学作文教育の実践につながる.

21世紀が始まってからもうすぐ20年となる現在,学術的文章作成支援施設(ライティングセンター)の日本への導入は単なる一時期の流行で終わってしまうのか,それともより普遍的な意義のある大学の施設となるのか,分岐点にあるのではないだろうか.作文の教育手法としてのみではなく,支援施設のキャンパス全体にとってのメリット,また日本や国際的なアカデミックのコミュニティへの参加という意味で,本当に意義を見いだせるのかどうか,議論が尽くされるべきである.

これまで5回にわたり連載させていただいた記事では,授業のレポートや学会発表資料,専門誌での学術論文のような学術的文章の書き方と教え方を解説した.図書館内の学修支援施設であるライティングセンターの仕組みや筆者が実践している書き方・教え方もご紹介してきた.科学者や教育者というよりは,一人の書き手として,これまでに学んできたことや学生・大学院生に教えて喜ばれたことを中心にお伝えしている.学術的な文章であれ,それ以外のジャンルであれ,物書きを目指す一人として筆者はまだまだこれからである.

1枚の紙でもパソコン画面であっても原稿を書き始めるときに人間は平等であると思う.たかが1枚の紙,されど1枚の紙.原稿用紙や書く機会をどのように生かすことができるのかは,執筆者と現場での作文教育にかかっている.読者の皆様にとって,今回の連載が論文など大事な原稿を書き上げるための一助となれば幸いである.

Acknowledgments

連載執筆では,多くの方々にお世話になりました.特に,連載企画の実現にご尽力くださいました新谷尚弘先生はじめ日本農芸化学会「化学と生物」編集委員の諸先生方,作文教育について日々多くのことを教えてくださる青山学院大学アカデミックライティングセンター関係者の皆様へ心より御礼申し上げます.また,大学・大学院で論文指導をしていただきました指導教官の藤本健四郎先生(生体分子機能学),Ann M. Blakeslee先生(大学ライティングセンター),Nancy Allen先生(科学技術レトリック・倫理),カリフォルニアでライティングを教えてくださいましたAnn M. Johns先生(英語教育学),Lynne Friedmann先生(理系ライティング)にも厚く御礼申し上げます.

Reference

1) D. Allwright & J. Hanks: “The developing language learner,” Springer, 2009.

2) G. Kirsch & P. Sullivan: “Methods and methodology in composition research,” Southern Illinois University Press, 1992.

3) 舘野佐保:月刊化学,70, 49 (2015).

4) E. H. Boquet: Coll. Compos. Commun., 50, 475 (1999).