書評

生物有機化学—生物活性物質を中心に 第2版

Shohei Sakuda

作田 庄平

Published: 2019-10-01

長澤寛道 著

A5判,2色刷,218頁,本体価格2,600円

東京化学同人,2019年

本書の初版は2008年に刊行され,その後,著者によって英語版も“Chemistry and Biology of Bioactive Compounds”のタイトルで出版されている.この英語版のタイトルが示すとおり,本書は生物活性物質を対象とした生物有機化学の教科書として執筆されている.本書評の筆者は,本書初版を,学部3年生の生物有機化学の授業で参考書として用いてきており,第2版の出版を歓迎する一人である.

本書は,生物活性物質の生物検定法と単離・精製などを説明した第1章から始まる.ここでは,生物活性物質は特有の生物活性をもち,生物に微量しか含まれないが強い作用を示すなどの,生物活性物質の特徴が示されている.次に,生物活性物質の生合成に関する第2章では,生合成経路の各論に入るまえに,生物活性物質を生産生物と生合成経路によって分類している.これは,種々の生物の生物活性物質のイントロダクションになるとともに,生合成経路の全体図を示すことで,生合成に関する興味を引き出すことに成功している.そのあとに続く,主な生合成経路の説明では,エッセンスが的確に示されている.第3章では,ホルモン,フェロモンなどの内因性活性物質,第4章では,植物や微生物などの生産する外因性活性物質の機能に関する各論となる.化学や生物学にインパクトを与えてきた生物活性物質が選ばれ,構造式とともに,簡潔な説明が与えられている.第5章は,第2版で新たに加えられた章であり,生物活性物質の受容体や標的タンパク質に関する研究手法などを説明している.

本書は5つの章より構成されるが,第1章より順に読み進めることで,生物活性物質に関する理解を深めることができる内容になっている.それはWebから得られる情報とは異なるものであり,教科書を手にし,通読することの大切さを改めて認識する.追加された第5章により,近年の生物活性物質分野の発展がすでに教科書の内容であることが示され,また,第1章から第4章で記されている研究の積み重ねの重みが強調されている.

本書は,過度の説明は省かれた,わかりやすい文章で書かれ,学部学生の教科書として優れている.また,大学院生が,構造式や生物活性を確認する際の参考書としても有用である.

筆者は学部3年生のときに鈴木昭憲先生の生物有機化学の講義を受けた.Ruzickaが提唱したステロイドの生合成機構や,大熊,Addicottのアブシジン酸の構造決定では生合成的見地が用いられ,Cornforthのバイオミメティック合成により確認されたなどの先生の板書を思い出す.時代は変わり,講義での構造式の板書は少なくなったが,本書により生物有機化学を学び,多くの方が生物活性物質に関する興味をもたれることを期待する.