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4年目を迎えた機能性表示食品の届出の現状,特に生鮮食品について機能性表示食品制度の改正ガイドライン

Mari Maeda-Yamamoto

山本(前田) 万里

国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構企画戦略本部

Published: 2019-11-01

機能性表示食品制度は2015年4月から施行され,販売者自身が安全性と機能性について責任をもって明らかにして,その内容を消費者庁に事前に届け出る届出制の制度である.農林水産物(生鮮食品や単一の農林水産物のみが原料である加工食品)が対象となったこと,身体の部位を言及できるようになったこと,主観的指標で機能性のエビデンスを取得できることなど,世界的にも例のない制度である(1)1) 山本(前田)万里:化学と生物,55, 706 (2017)..2019年5月30日現在まで,機能性表示食品として届出・受理された食品は2,072品目(撤回183品目)であり,生鮮食品は36,加工食品では1,027,サプリメントでは1,018品目,そのうち生鮮食品は,みかん(機能性関与成分はβ-クリプトキサンチン;骨の健康の維持),大豆もやし(イソフラボン;骨の健康の維持),リンゴ(プロシアニジン;体脂肪低減),カンパチ,ぶり,卵(DHA/EPA;血中脂質低減),米,トマト,ケール(γ-アミノ酪酸(GABA);高めの血圧低下),唐辛子(ルテオリン;血糖上昇抑制),ホウレンソウ,ケール(ルテイン;目の健康の維持),メロン(GABA;精神的ストレス緩和)(表1表1■機能性表示生鮮食品の例(2019年5月30日))が,また,単一の農林水産物のみが原材料である加工食品では,緑茶(メチル化カテキン;ハウスダストによる目や鼻の不快感軽減),冷凍ホウレンソウ(ルテイン;目の健康の維持),蒸し大豆(イソフラボン;骨の健康の維持),大麦・蒸し大麦(β-グルカン;血糖上昇抑制),無洗米(GABA;血圧調節),トマトジュース(リコピン;HDLコレステロール増加),数の子(DHA/EPA;中性脂肪低減),寒天(寒天ガラクタン;おなかの調子の調整),河内晩柑ジュース(オーラプテン;認知機能改善)などが届出・受理されている(2)2) 消費者庁:機能性表示食品の検索,https://www.fld.caa.go.jp/caaks/cssc01/, 2019.

届出点数が低調である機能性表示生鮮食品に関して,内閣府規制改革実施計画(2017年6月9日閣議決定)のなかで,生鮮食品の機能性表示食品制度の活用促進が指摘され(2017年検討・結論,2018年措置),消費者庁と農水省で生鮮食品の届出などに取り組んでいる生産者団体,事業者および機能性に関する研究を行っている者に対するヒアリングの実施,生鮮食品の機能性表示食品制度の活用促進のための施策の検討がなされた.それを踏まえて,2018年3月,2019年3月に消費者庁は,生鮮食品の特徴を踏まえた取り扱いを反映した改正「ガイドライン」(第3次,第4次改正)を公表した(3)3) 消費者庁:機能性表示食品の届出等に関するガイドライン,https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_with_function_claims/pdf/food_with_function_clains_190326_0001.pdf, 2019..また,農研機構は,事業者が自由に利用可能な研究レビューの改善・充実を行い,現在,緑茶(機能性関与成分;メチル化カテキン),みかん(β-クリプトキサンチン),リンゴ(プロシアニジン),ホウレンソウ(ルテイン),魚(DHA/EPA),大麦(β-グルカン),大豆(イソフラボン),野菜・きのこ・米(GABA))を公開している(4)4) 農研機構:機能性をもつ農林水産物・食品プロジェクト,農産物の研究レビュー(届け出様式作成例),http://www.naro.affrc.go.jp/project/f_foodpro/2016/063236.html, 2019.

生鮮食品に関連するガイドライン改正では,一日摂取目安量の一部を摂取できる旨の表示が追加(例:「本品にはA(機能性関与成分)が含まれ,Aを▲mg/日摂取すると,Bの機能がある(機能性)ことが報告されています.本品を○個食べると機能性が報告されている一日当たりの機能性関与成分の量の△%(50%以上の値)を摂取できます.」),届出資料の簡素化(入力項目の30%削減),届出確認の迅速化(公表済みの届出と同一性を失わない程度の変更である「再届出品」に係る届出手続の迅速化),軽症者データの取扱範囲の拡大(臨床試験(ヒト試験)の参加者および研究レビューの対象となる臨床試験(ヒト試験)に係る対象者に軽症者を含む場合などの取り扱いを追加(臨床試験の参加者および研究レビューの対象となる臨床試験に係る対象者に軽症者を含むデータの取扱いに関し,現在,特定保健用食品制度の試験方法として可能とされている範囲(コレステロール,中性脂肪,高血圧など)にとどまらず,アレルギー,尿酸値,認知機能などについても,機能性表示食品の届出資料としての利用を可能とする),食薬区分(昭和46年通知)の運用改善として,専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)を元から含む生鮮食品やその成分本質を利用した加工品(伝統的発酵食品・サプリメント形状食品を含む.)の医薬品該当性に関してQ&Aにまとめて周知し,届出しようとする食品の機能性関与成分が「専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)リスト」に含まれる場合の消費者庁における確認過程の明確化(医薬品に該当しなければ上記リストに記載されていても機能性表示食品として届出ができる.成分例:デオキシノジリマイシン,S-アデノシルメチオニン,γ-オリザノール.医薬品に該当しないことが不明確な場合は厚労省への照会がある.),届出対象成分の拡大(主としてエネルギー源とされる成分(ぶどう糖,果糖,ガラクトース,しょ糖,乳糖,麦芽糖およびでんぷんなど)を除いた糖質,糖類),生鮮食品に係るQ&Aの拡充などが修正点である(表2表2■機能性表示食品制度の改正ガイドラインにおける生鮮食品関連の主な改正ポイント).

表1■機能性表示生鮮食品の例(2019年5月30日)
品目機能性関与成分表示する機能性
みかんβ-クリプトキサンチン骨の健康維持
りんごプロシアニジン体脂肪低減
メロンGABA精神的ストレス緩和
大豆もやしイソフラボン骨の健康維持
トマトGABA高めの血圧低下
唐辛子ルテオリン血糖上昇抑制
ホウレンソウルテイン目の健康維持
ケールGABA高めの血圧低下
ケールルテイン目の健康維持
カンパチEPA/DHA血中脂質低減
ぶりEPA/DHA血中脂質低減
EPA/DHA血中脂質低減
表2■機能性表示食品制度の改正ガイドラインにおける生鮮食品関連の主な改正ポイント
改正ポイント
1一日摂取目安量の一部を摂取できる表示の追加
2届出資料の簡素化
3届出確認の迅速化
4臨床試験での軽症者データの取扱範囲の拡大
5食薬区分に係る考え方の明確化
6届出対象成分の拡大(糖類,糖質)
7生鮮食品に特化したQ&Aの拡充

現在,栄養成分(欠乏症を起こす五大栄養素など)と機能性成分(欠乏症を起こさない化学成分)は明確に分けられて表示されている.しかし,海外では栄養成分と機能性成分を区別せず栄養成分として扱っている.日本でも両成分とも健康を維持・増進できる成分として同様に取り扱うべきであり,機能性表示制度も特定保健用食品制度や栄養機能食品制度との関係を整理して消費者がわかりやすい制度に再設計していくことが肝要である.さらに,今後,食品の組み合わせによる複合効果に関する研究を行って食事の重要性を明らかにし,農林水産物や食事の健康機能性は長期の持続的な喫食で発揮されることへの消費者の理解を促すことが必要である.

Reference

1) 山本(前田)万里:化学と生物,55, 706 (2017).

2) 消費者庁:機能性表示食品の検索,https://www.fld.caa.go.jp/caaks/cssc01/, 2019.

3) 消費者庁:機能性表示食品の届出等に関するガイドライン,https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_with_function_claims/pdf/food_with_function_clains_190326_0001.pdf, 2019.

4) 農研機構:機能性をもつ農林水産物・食品プロジェクト,農産物の研究レビュー(届け出様式作成例),http://www.naro.affrc.go.jp/project/f_foodpro/2016/063236.html, 2019.