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酵母の同定に関する最新情報(令和元年版)多様性データの継続的更新が微生物生態学に貢献する

Masako Takashima

高島 昌子

理研バイオリソース研究センター微生物材料開発室,明治薬科大学微生物学研究室

Published: 2019-11-01

「酵母」という言葉を聞くと,どのような生物のグループを思い浮かべるだろうか.発酵や食品の長い歴史のなかで用いられ,またモデル生物でもあるSaccharomyces cerevisiae,あるいは,S. cerevisiaeに近縁な種の集団(たとえばサッカロミケス科Saccharomycetaceaeやサッカロミケス亜門Saccharomycotina)かもしれない.しかし,酵母の生態やほかの生物との関係は,と問われると,議論すべきはS. cerevisiaeやその近縁集団だけではない.

菌類のうち生活環の一部に単細胞である時期があるものを「酵母」といい,系統的にも極めて広い(表1表1■真菌の高次分類*1).そしてこれら酵母は多様な場所に棲息し,各種の分離源から分離されている.あるニッチ(たとえばアルコール飲料や食品,植物,土壌,水圏,南極などの低温環境など)にどのような種類の酵母が棲息しているかという種の多様性研究は,当該酵母がその環境において基質やほかの微生物とも関与しながら,自身がもつ機能をどのように利用しているのかという機能の多様性研究と深く結びついている.そのような酵母の種多様性と機能の多様性を環境ごとにまとめた成書(2分冊)が2017年に出版された(1, 2)1) P. Buzzini, M. A. Lachance & A. Yurkov: “Yeasts in Natural Ecosystems: Ecology,” Springer, 2017.2) P. Buzzini, M. A. Lachance & A. Yurkov: “Yeasts in Natural Ecosystems: Diversity,” Springer, 2017..サッカロミケス亜門の酵母だけではなく,担子菌酵母やいわゆるblack yeasts(子嚢菌門チャワンタケ亜門)など,各種酵母の生態(主に分離源と分布)について収載されているので,是非参考にしていただきたい.

表1■真菌の高次分類*1
高次分類群酵母型が存在*2
クリプト菌門 Cryptomycota
微胞子虫門 Microsporidia
コウマクノウキン門 Blastocladiomycota
コウマクノウキン綱 Blastocladiomycetes
ツボカビ門 Chytridiomycota
ツボカビ綱 Chytridiomycetes
サヤミドロモドキ綱 Monoblepharidomycetes
ネオカリマスティクス綱 Neocallimastigomycetes
トリモチカビ門 Zoopagomycota
トリモチカビ亜門 Zoopagomycotina
キクセラ亜門 Kickxellomycotina
ハエカビ亜門 Entomophthoromycotina
Basidiobolomycetes
Neozygitomycetes
Entomophthoromycetes
ケカビ門 Mucoromycota
グロムス亜門 Glomeromycotina
Glomeromycetes
クサレケカビ亜門 Mortierellomycotina
Moretierellomycetes
ケカビ亜門 Mucoromycotina
子嚢菌門 Ascomycota
チャワンタケ亜門 Pezizomycotina
Arthoniomycetes
Coniocybomycetes
Dothideomycetes
Eurotiomycetes
Geoglossomycetes
Laboulbeniomycetes
Lecanoromycetes
Leotiomycetes
Lichinomycetes
Orbiliomycetes
Pezizomycetes
Sordariomycetes
Xylonomycetes
サッカロミケス亜門 Saccharomycotina
Saccharomycetes
タフリナ菌亜門 Taphrinomycotina
Archaeorhizomycetes
Neolectomycetes
Pneumocystidomycetes
Schizosaccharomycetes
Taphrinomycetes
担子菌門 Basidiomycota
ハラタケ亜門 Agaricomycotina
Agaricomycetes
Dacrymycetes
Tremellomycetes
Wallemiomycetes
サビキン亜門 Pucciniomycotina
Agaricostilbomycetes
Atractiellomycetes
Classiculomycetes
Cryptomycocolacomycetes
Cystobasidiomycetes
Microbotryomycetes
Mixiomycetes
Pucciniomycetes
Tritirachiomycetes
クロボキン亜門 Ustilaginomycotina
Exobasidiomycetes
Malasseziomycetes
Moniliellomycetes
Ustilaginomycetes
位置不明 Incertae sedis
Entorrhizomycetes
*1文献(8)に基づき作成.
*2 The Yeasts, A Taxonomic Study 第5版(2011),および文献(1)および(2)に基づき作成.

さて本稿は,そのような酵母の「同定」がテーマである.「同定」は「分類体系のどこに位置するのか」を決めることで,現在では,26S rRNA遺伝子のD1/D2*1領域およびITS*2領域の塩基配列(バーコード領域と呼ばれている,graphical abstract参照)の類似度(単独もしくは両者の組み合わせ)を用いることが多い.具体的には,分離株のバーコード領域の塩基配列を決定し,近縁種の基準株のそれと比較して,分離した株が「既知のどの種に属するのか」を簡易的に推定する.塩基配列の類似度と「種」の関係については多くの議論があるが,Vuら(3)3) D. Vu, M. Groenewald, S. Szöke, G. Cardinali, U. Eberhardt, B. Stielow, M. de Vries, G. J. M. Verkleij, P. W. Crous, T. Boekhout et al.: Stud. Mycol., 85, 91 (2016).はITS領域では99.21%およびD1/D2領域では99.51%以内を同種と判定する際の閾値として報告した.この値はそれまで多くの著者により提唱されてきた値とほぼ一致している.現在,酵母の種の数は1,700種以上(3)3) D. Vu, M. Groenewald, S. Szöke, G. Cardinali, U. Eberhardt, B. Stielow, M. de Vries, G. J. M. Verkleij, P. W. Crous, T. Boekhout et al.: Stud. Mycol., 85, 91 (2016).とされているが,自然界には今までに報告されていない(いまだ分離されていない)種が多く存在するため,分離株のバーコード領域の配列を決定しても同定できない場合は多い.また,後述のように近縁の種はわかっても塩基配列だけでは同定が難しい場合もあるのが現状である.

例外はあるものの,塩基配列を用いる同定は,生理生化学性状や形態学的特徴による同定よりも迅速に行うことができる.これはシーケンス技術や解析技術の進歩,および種網羅的なデータの蓄積に因るものが大きい.そしてその中には分類学の寄与もある.1984年発行のThe Yeasts, A Taxonomic Study(以下,The Yeasts)第3版では,酵母は子嚢菌(Ascomycotina),担子菌(Basidiomycotina)および不完全菌(Deuteromycotina)の3つの高次分類群に分けられていた.系統解析技術の発達により,不完全菌に属するとされていたアナモルフ酵母は系統的に子嚢菌と担子菌のどちらかに位置付けられることが明らかとなり,The Yeasts第4版(1998年発行)および第5版(2011年発行)では,当時の国際植物命名規約(International Code of Botanical Nomenclature; ICBN)の下,二重命名法にしたがって,テレオモルフおよびアナモルフの属それぞれが子嚢菌系酵母および担子菌系酵母に目次付けされた.

そのような中で出されたAmsterdam Declaration on Fungal Nomenclature(4)4) D. L. Hawksworth, P. W. Crous, S. A. Redhead, D. R. Reynolds, R. A. Samson, K. A. Seifert, J. W. Taylor, M. J. Wingfield, Ö. Abaci, C. Aime et al.: IMA Fungus, 2, 105 (2011).は,多型的生活環をもつ菌類に対して2種類の学名が与えられていることの菌類の特殊性,および環境DNA由来シーケンスデータからの菌類名の同定(本文中ではnaming of environmental sequences or taxa)を鑑みた統一命名法の導入のプロポーザルであった.2011年のメルボルンでの国際植物会議の決定を受け,命名規約はInternational Code of Nomenclature for algae, fungi, and plants(ICN)と規約名も変わり,二重命名法に替わって統一命名法が導入され,“One fungus = One name”(1F=1N)の時代に移った(5)5) 岡田 元:日菌報,52, 82 (2011)..二重命名法の廃止が酵母の分類に与える影響は多大であった.ある属(ここではクレードを考える)にテレオモルフとアナモルフの両方の種の基準種が存在するとき,どちらかの属名を選択する必要があったためである.いまだ分類体系の再構築が未完了な部分や問題を含む部分もあるが,系統関係に基づく多くの更新が行われた.バーコードデータの蓄積により,分離株の同定が容易になったのみでなく,環境DNAからそこに棲息する酵母の種を推定できるようにもなった.特定の種や株ではなく,酵母の生態や集団に焦点をあてる研究分野の発展の背景には,分類体系の更新を含め,多数の株の塩基配列データと生物学的データの両方を蓄積,データベースを構築した先人たちの功績があることを記したい.分離株が既知の種に同定できなかった場合は,系統樹により系統学的な位置を確認したり,当該株の生物学的な情報を収集したりして分類学的な位置を決定し,新分類群として報告を行う.酵母の多様性データの継続的な更新は酵母の生態学研究の発展ための重要なファクターである.

上記で,ITS領域の配列だけでは,近縁種を知ることはできても種の同定は難しいこともある,と述べた.古い例で恐縮であるが,筆者らが経験した事例をご紹介したい.台湾の植物から分離した酵母Bullea lagerstroemiaeという種(当時の学名)と大涌谷の小川から分離した酵母Cryptococcus tepidariusという種(同上)で,現在は両方ともTakashimella属に分類されている.大涌谷からの分離株のD1/D2領域はB. lagerstroemiaeと99.8%,ITS領域は93.6%の類似度で塩基配列だけでは同定できなかった.炭素源の資化性等生理生化学性状を比較しても決定的な違いは見つからなかった.われわれは大涌谷という環境に着目し,生育温度を詳細に調べた.大涌谷の株は24°Cから39°Cの間では1日でよく生育し,41°Cでも100時間以内に,さらに生育が遅くはなるものの47°Cでも生育した.一方,B. lagerstroemiaeの最高生育温度は29~30°Cであった.そして,大涌谷からの分離株を新種として報告した(6)6) M. Takashima, T. Sugita, Y. Toriumi & T. Nakase: Int. J. Syst. Evol. Microbiol., 59, 181 (2009).

複数分離株を得て,近縁種の基準株との塩基配列の差がD1/D2領域では別種と推定されるが,ITS領域では同種と推定される,いう例もある.Saitozyma podzolicaは,ロシアの森林土壌から分離されており,日本の利尻島の土壌からも分離された.西表島からの分離株は上記D1/D2領域99~99.5%で別種と考えていたのだが(7)7) M. Takashima, T. Sugita, V. H. Van, M. Nakamura, R. Endoh & M. Ohkuma: PLOS ONE, 7, e50784 (2012).,後に数株のITS領域を調べたところ100~99%で同種の範疇にはいることがわかった.現在われわれは,ロシアの森林土壌由来の基準株を含め,利尻島の株と西表島の株の間に生物学的な差異があるか否かを検討中である.

種は集団でありその種内構造は多様である.バーコード領域の塩基配列の類似度が高くても,地理的隔離や棲息環境を考えたとき,あるいは生殖隔離が行われていると推定された場合には,是非,その酵母の生物学的特徴や棲んでいる環境に由来する固有の性質を推察していただきたいと思う.

Reference

1) P. Buzzini, M. A. Lachance & A. Yurkov: “Yeasts in Natural Ecosystems: Ecology,” Springer, 2017.

2) P. Buzzini, M. A. Lachance & A. Yurkov: “Yeasts in Natural Ecosystems: Diversity,” Springer, 2017.

3) D. Vu, M. Groenewald, S. Szöke, G. Cardinali, U. Eberhardt, B. Stielow, M. de Vries, G. J. M. Verkleij, P. W. Crous, T. Boekhout et al.: Stud. Mycol., 85, 91 (2016).

4) D. L. Hawksworth, P. W. Crous, S. A. Redhead, D. R. Reynolds, R. A. Samson, K. A. Seifert, J. W. Taylor, M. J. Wingfield, Ö. Abaci, C. Aime et al.: IMA Fungus, 2, 105 (2011).

5) 岡田 元:日菌報,52, 82 (2011).

6) M. Takashima, T. Sugita, Y. Toriumi & T. Nakase: Int. J. Syst. Evol. Microbiol., 59, 181 (2009).

7) M. Takashima, T. Sugita, V. H. Van, M. Nakamura, R. Endoh & M. Ohkuma: PLOS ONE, 7, e50784 (2012).

8) J. W. Spatafora, M. C. Aime, I. V. Grigoriev, F. Martin, J. E. Stajich & M. Blackwell: Micobiol. Spectr., 5(5) (2017).

*1 26S rRNA遺伝子の5′側約600塩基.

*2 Internal transcribed spacer.ITSにはITS1(18S rRNA遺伝子と5.8S rRNA遺伝子の間)とITS2(5.8S rRNA遺伝子と26S rRNA遺伝子の間)があり,現在ではこの領域を総称してITS領域と呼ぶことが多い.菌群によって長さが異なり,250塩基以下の種もあれば,980塩基を超える種も存在する.