Kagaku to Seibutsu 58(1): 20-33 (2020)
解説
改訂 ウイルス分類話題のウイルスの知見と動向
Revised Edition of Virus Taxonomy: Information and Trend of Important Viruses in Topic and Public
Published: 2020-01-01
近年,国内では全国規模での豚コレラの感染拡大やマダニ感染症による死亡例が大きなニュースとなり,国外でのエボラ出血熱やジカ熱などの蔓延が東京オリンピックを控えた我が国の大きな問題となっている.また,ゲノム解読技術の進展から新たなウイルスの存在が多数報告されている.このようなウイルスによる新興や再興感染症および環境ウイルスが注目を浴びている一方,これらのウイルスの分類について顧みられることは少ない.本稿では,ウイルス分類学の定義に基づいて,話題のウイルス,分類の改訂されたウイルス,さらに新たに発見されたウイルスについて紹介する.なお,本編には,興味のあるウイルスを手軽に検索できる索引リストを併記した.
© 2020 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2020 公益社団法人日本農芸化学会
世界的大流行で4,000万人が死亡したと言われているスペイン風邪インフルエンザの発生から100年経ち,新型のインフルエンザをはじめ世界的な大流行の恐れのあるウイルスの出現(パンデミック)の可能性が専門家の間で懸念されている.確かに,ウイルスがマスコミに取り上げられ,世の中を騒がせている回数が増えている.しかし,下記の項目イロハ順に示すように,次々ウイルス名は挙がっているが,“これらのウイルスがどんな仲間に属するか”についてはほとんど触れられていない.本稿では,新聞,雑誌,テレビ,Wikipediaなどのネットで話題になっているウイルスを拾い上げて,下記の項目1, 2で示す9th ICTV Report(1)1) A. M. Q. Kink, M. J. Adams, E. B. Carstens & E. J. Lefkowitz (ed.): “Virus Taxonomy ICTV Ninth Report”,Elsevier Academic Press, 2011.の分類法に従って,これらウイルスの所属と若干の性質を記述する.なお,本稿は,先報(2, 3)2) 緒方靖哉,西山 孝:化学と生物,45,769 (2007).3) 緒方靖哉,西山 孝:BIO九州,188,9 (2008).をベースに,その後から平成末までの知見を加え改訂したものである.分類にはICTVの年次Reportなども利用し,ウイルス名にはできる限りカナ表現を付けた.ウイルス名のカナ表現や性状などは文末の文献(4~12)も参考にした.本稿を,「ウイルス分類への理解」と「平成ウイルス騒乱の覚書」に利用していただければ幸いである.
イ.毎年,世界中を騒がせ,新型出現の話題で賑わすインフルエンザウイルス(V群1本鎖RNA:この表記法は下記「1. 核酸形状と発現様式」参照のこと);老人泣かせのノロウイルス(VI群1本鎖RNA);毎年1億人以上に下痢症を引き起こすロタウイルス(IV群2本鎖RNA);幼児を襲うRSウイルス(V群1本鎖RNA)や手足口病ウイルス(VI群1本鎖RNA);肝がんの70%以上の要因と言われているC型肝炎ウイルス(VI群1本鎖RNA); C型肝炎に次いで多い肝炎・肝がんの要因B型肝炎ウイルス(IIIa群2本鎖DNA・RT);近年わが国でも検出が急増しているE型肝炎ウイルス(VI群1本鎖RNA);感染力が強く流行感染で話題になる麻疹ウイルス(V群1本鎖RNA); 2003年に起きた新型肺炎SARSコロナウイルス(VI群1本鎖RNA)や類似の症状の中東呼吸器症候群MERSコロナウイルス(VI群1本鎖RNA);世界中で,猛威を振るっているヒト免疫不全ウイルスHIV(IIIb群1本鎖RNA・RT(逆転写));一時収束するかに見えたヒトT細胞白血病ウイルスHTLV(IIIb群1本鎖RNA・RT(逆転写));野生ゴリラの感染症のランクに落ち着いたかに見えていたエボラ出血熱ウイルス(V群1本鎖RNA)が西アフリカでの恐怖の大流行;今でも5万人が被害者になっているのかと驚かされる狂犬病ウイルス(V群1本鎖RNA);マレーシアで発生したオオコウモリ由来の新種のパラミクソウイルス(ニパウイルス,V群1本鎖RNA)による急性脳炎の流行;高病原性鳥インフルエンザウイルス(V群1本鎖RNA)のヒトへの感染増加例;5年ごとの流行と言われる風疹ウイルス(VI群1本鎖RNA);子宮頸がんの原因であるヒトパピローマウイルス(I群2本鎖DNA)のワクチン問題;単純ヘルペスや水疱・帯状疱疹ウイルス(I群2本鎖DNA)の感染症状;胎児にも影響を及ぼすリンゴ病ウイルス(バルボウイルス,II群1本鎖DNA)の話題などである.
ロ.蚊などの昆虫類媒介による感染症の原因ウイルスを挙げる.東南アジア全土で流行し,2014年に東京に出現し話題になったデング熱ウイルス(VI群1本鎖RNA);夏になると話題になる西ナイル熱ウイルス(VI群1本鎖RNA);マダニ媒介性の重症熱性血小板減少症候群SFTSウイルス(V群1本鎖RNA); 2016年のリオオリンピックの頃に流行した蚊媒介性のジカ熱ウイルス(VI群1本鎖RNA)などである.
ハ.ウイルスの脅威はヒトだけの問題ではなく,家畜をはじめ野生動物などにも発生する.ガボン・コンゴ地方で野生ゴリラの70%以上に被害が及んだ前述のエボラ出血熱ウイルス(V群1本鎖RNA)による被害例;南米での森林型黄熱病ウイルス(VI群1本鎖RNA)によるホエザルの被害例;古典的な口蹄疫ウイルス(VI群1本鎖RNA)や青耳病ウイルス(VI群1本鎖RNA)による牛・豚肉輸入への影響;鳥インフルエンザウイルス(V群1本鎖RNA)の家禽への爆発的感染による農業経営への影響や野生鳥での感染例;豚の2種類のウイルス感染症(豚コレラウイルス,VI群1本鎖RNA;アフリカ豚コレラウイルス,I群2本鎖DNA)の脅威の例;馬インフルエンザウイルス(V群1本鎖RNA)による競馬レースの開催中止の例;コイヘルペスウイルス(I群2本鎖DNA)やマダイイリドウイルス(I群2本鎖DNA)による養殖魚の死滅などの被害例など;家畜ではないが,コアラレトロウイルス(IIIb群1本鎖RNA・RT)やネコ免疫不全ウイルス(IIIb群1本鎖RNA・RT);世界各地で両生類の減少にかかわるラナウイルス(I群2本鎖DNA)などもマスコミに取り上げられている.
ニ.筆者らは細菌類を宿主にするウイルスであるバクテリオファージ(以下ファージ)(4, 5)4) H.-W. Ackermann: Res. Microbiol., 154, 245 (2003).5) 清水 昌,堀之内末治編著:“応用微生物学”,第2版,文永堂出版,2006, p. 61.について研究をしているので,(10, 11)10) 緒方靖哉,江口智子,土居克実:ウイルス,50, 17 (2000).11) 緒方靖哉:化学と生物,50,761 (2012).代表種を記載する.なお,ファージ研究は,2018年に1世紀が過ぎた(12)12) E. J. Vandamme & K. Mortelmans: J. Chem. Technol. Biotechnol., 94, 323 (2019)..
ホ.植物などの農作物に甚大な被害を及ぼすemergingウイルス,日本ウイルス学会誌「ウイルス」などに載っている重要なウイルスや比較的身近に知られているウイルスも,さらに,カビ類(酵母やキノコ類を含む)などのウイルスにも留意した.
ヘ.2003年に,粒子径およびゲノムサイズが小型の細菌類より大きく,これまでのウイルス観を覆す,アメーバ寄生性の巨大ウイルスがミミウイルスと同定された.その後も,形態などの異なるアメーバ寄生性の巨大DNAウイルス(巨大核質DNAウイルス;I群2本鎖DNA)が次々と分離されている(パンドラウイルス,メガウイルスなど)(13~15)13) 武村雅春:“巨大ウイルスと第4のドメイン”,講談社,2015.14) 緒方博之:生命誌ジャーナル,84,1 (2018).15) J. M. Claverie: “Challenges in classifying newly discovered viruses (c.f. giant Viruses)”, Meeting of the ICTV Executive Committee (2016)..巨大ウイルスの研究は,ウイルス分類に新たなグループを創設,あるいは従来の真核生物,真正細菌,古細菌に次ぐ第4のドメインの概念をもうかががわせる.研究の発展が期待される.
ウイルスの分類は,国際微生物学会連合(International Union of Microbiological Societies; IUMS)傘下のVirology Division中に組織された国際ウイルス分類命名委員会(The International Committee on Taxonomy of Viruses; ICTV)の分類体系に従い,宿主域などの生物学的性状,形態学的性状,核酸の構造などの物理・化学的性状が用いられる.特に,核酸構造,すなわち保有する核酸の種類(DNAかRNA),その形状(2本鎖(ds),1本鎖(ss),線状,環状,分節など)および発現様式が分類基準で最も重要視されている.なお,一般的にはウイルス核酸が1本鎖の場合,その極性がmRNAと同じである場合を+鎖とし,相補的である場合を-鎖とする.形態学的性状では,ウイルス粒子の大きさおよび形状,またエンベロープの有無が分類基準として用いられている.さらに,詳細な分類に,ウイルス粒子の分子量,沈降密度,熱,pHおよび化学物質に対する安定性,タンパク質の性質,複製様式,脂質などの組成,抗原性などが使われる.
ICTVの分類体系ではここに示すI~VIII群は付けられてない.本稿では便宜的にこれらのローマ数字を用い,下記の項目2の分類各論中の振り付け番号に利用した.また,本稿に挙げた一部のウイルス名の索引リスト(表1表1■索引ウイルスリスト)およびウイルス形状(図1図1■ウイルス粒子の代表的な形状)にも利用している.
[アルファベット順] | [五十音順] | ||
A型肝炎ウイルス(VI) | アイチウイルス(VI) | サイトメガロウイルス(I) | バキュロウイルス(I) |
B型肝炎ウイルス(III) | アデノウィルス(I) | シストウイルス(ファージ)(IV) | ヒトパピローマウイルス(I) |
C型肝炎ウイルス(VI) | アフリカ豚コレラウイルス(I) | ジカ熱ウイルス(VI) | ヒトパルボウイルス(II) |
D型肝炎ウイルス(V) | イヌジステンバウイルス(V) | 水疱・帯状疱疹ウイルス(I) | ヒトパレコウイルス(VI) |
E型肝炎ウイルス(VI) | イネ萎縮病ウイルス(IV) | 繊維状DNAファージ(II) | 風疹ウイルス(VI) |
EBウイルス(I) | インフルエンザウイルス(V) | センダイウイルス(V) | ブルーイヤ病(青耳病)(VI) |
HIV (III) | ウイロイド(VIII) | タバコモザイクウイルス(VI) | プリオン(VIII) |
HPV (I) | 牛コレラウイルス(VI) | 単純ヘルペスウイルス(I) | ボルナ病ウイルス(V) |
HRS(RS)ウイルス(V) | エボラウイルス(V) | テクチウイルス(ファージ)(I) | ポリオウイルス(VI) |
HSVウイルス(I) | エンテロウイルス(VI) | 伝染性紅斑症ウイルス(II) | プラズマウイルス(ファージ)(I) |
HTLウイルス(III) | 黄熱病ウイルス(VI) | 伝染性単核球症ウイルス(I) | マイコプラズマファージ(II) |
M13ファージ(II) | 風邪ウイルス(VI) | 手足口病ウイルス(VI) | マイコレオウイルス(IV) |
MERSコロナウイルス(VI) | カリフラワーモザイクウイルス(III) | デング熱ウイルス(VI) | マールブルグ熱ウイルス(V) |
MS2ファージ(VI) | キノコウイルス(IV, VI) | 痘瘡(種痘)ウイルス(I) | 麻疹(はしか)ウイルス(V) |
Qβファージ(VI) | 狂犬病ウイルス(V) | トスポウイルス(V) | ミミウイルス(I) |
SARSコロナウイルス(VI) | 巨大ウイルス(I) | トマト黄化葉巻病ウイルス(II) | ミクロウイルス(II) |
SFTSウイルス(V) | クリミア・コンゴ出血熱ウイルス(V) | 豚コレラウイルス(VI) | ライノウイルス(VI) |
SV40 (I) | コアラレトロウイルス(III) | 西ナイル熱ウイルス(VI) | ラウス肉腫ウイルス(III) |
T4ファージ(I) | コイヘルペスウイルス(I) | ニューカッスル病ウイルス(V) | ラッサ熱ウイルス(V) |
T7ファージ(I) | 口蹄疫ウイルス(VI) | ニパウイルス(V) | ラナウイルス(I) |
λファージ(I) | 酵母ウイルス(III, IV, VI) | 日本脳炎ウイルス(VI) | 流行性耳下腺炎ウイルス(V) |
ϕ29ファージ(I) | コクサッキーウイルス(VI) | ノロウイルス(VI) | リンゴ病ウイルス(II) |
ϕX174ファージ(II) | コルチコウイルス(ファージ)(I) | ハンタウイルス(V) | ロタウイルス(IV) |
括弧内はローマ数字の項目に対応. |
(+)はエンベロープあり,(-)はエンベロープなしを示す.本図1中の代表ウイルス(科・目)と形状の後にある括弧内のローマ数字とアルファベットは本文中の項目およびビリオン形状とマッチしている:例 サイフォウイルス科(I)尾部ファージ(a)(-);イリドウイルス科(I)正20面体(b)(-);アデノウイルス科(I)正20面体(c)(-);ヘルペスウイルス科(I)正20面体(d)(+);ジェミニウイルス科(II)正20面体2量体(e)(-);フラビウイルス科(VI)球状体(f)(+);ブニヤウイルス目(V)球状体(g)(+);コロナウイルス科(VI)球状体(h)(+);レトロウイルス科(IIIb)球状体(i)(+);オルソミクソウイルス科(V)多形状体(球状・繊維状体j)(+);パラミクソウイルス科(V)多形状体(球状・繊維体k)(+);ポックスウイルス(I)多形状体(l)(+);フセロウイルス科(I)レモン状体(m)(+);バイカウダウイルス科(I)レモン状・両端尾部状構造(two-tailed)(n)(+);グッタウイルス科(I)水滴状体(o)(+);プラズマウイルス科(I)不定形(p)(+);フィロウイルス科(V)桿菌様体・繊維状体(q)(+) *;ラブドウイルス科(V)弾丸状体・桿菌様体(r)(+);タバコモザイクウイルス(バアガウイルス科VI)棒状体(s)(-);イノウイルス科(II)繊維状体・棒状体(t)(-);リポスリウイルス科(I)繊維状体・棒状体(u)(+).*他科の桿菌様体のウイルス中には(-)も存在する.
ウイルスも認知と識別のために学名が付けられる.基本単位は“種”で,種は“属”に,属は“科”に,科は“目”に,というように上位の連続的・総括的な階級に含まれていく.目と科の間に“亜目”,科と属の間に“亜科”が設けられている.ウイルスでは科の上位の階級目(Order)はまだ不完全であるが,2005年頃までに6目Caudovirales(カウドウイルス目),Herpesvirales(ヘルペスウイルス目),Mononegavirales(モノネガウイルス目),Nidovirales(ニドウイルス目),Picornavirales(ピコルナウイルス目),Tymovirales(ティモウイルス目)が設定され,2018年にインフルエンザウイルスの属するArticulaviralesやSFTSウイルスの属するBunyaviralesなどが公開されて14目になっている.これらの分類単位(単数Taxon,複数Taxa)はイタリック体で表記し,下記するラテン語の語尾を付ける.目の未定な科,科の未定或いは科に所属しない属がまだ多数ある.不完全性はいずれ整理され,是正されるであろう.なお,本稿では目の上位の綱(Class),門(Phylum),界(Realm)には言及しなかった.
目(Order, [----]virales)
亜目(Suborder, [----]virineas)
科(Family, [----]viridae)
亜科(Subfamily, [----]virinae)
属(Genus, [----]virus)
亜属(subgenus, [----]virus)
種(Species)
「1. 核酸形状と発現様式」,次いで「2. ウイルスの分類上の階級」で示した順序に従って分類を進めるが,代表的なウイルス種や話題のウイルス種を取り上げることを主旨としている.これに伴い,省いた分類単位が多数ある.詳細のことは参考文献やICTV報告などを参照いただきたい.また,下記A~D項目で示す簡単な性質を取り上げている.
・カウドウイルス目(Caudovirales): 4科6亜科を含む.
・マイオウイルス科(Myoviridae): 1線状セグメント31–317 kbp,径60–145 nm正20面頭部;80×110 nm長20面頭部,長さ16–20×80–455 nm尾部(収縮性の尾部),尾部ファージ(a)(-),B・Ar. 4亜科20属を含む.
・T偶数ウイルス亜科(Tevenvirinae): T4ウイルス属(Tequatrovirus)腸内細菌T4ファージEnterobacteria phage T4.
・ポドウイルス科(Podoviridae): 1線状セグメント16–78 kbp,径40–60 nm正20面頭部,長さ10–20 nm尾部,尾部ファージ(a)(-),B.2亜科13属を含む.
・オートグラフィウイルス亜科:3属を含む.T7様ウイルス属(Teseptimavirus)腸内細菌T7ファージEnterobacteria phage T7.
・ピコウイルス亜科:2属を含む.ファイ29様ウイルス属(Salasvirus)枯草菌ϕ29ファージBacillus phage phi29.
・サイフォウイルス科(Siphoviridae): 1線状セグメント21–134 kbp,径48–80 nm頭部,長さ5–10×100–210 nm尾部,尾部ファージ(a)(-),B ・Ar. 8属を含む.ラムダウイルス属(Lambda virus)λファージλphage. (これら3科のdsDNAファージの研究成果は核酸学や遺伝子工学の発展に寄与した.これらファージ尾部はゲノムの宿主細胞への侵入に適した多種多様の構造と機能を備えている)
・アッカーマンウイルス科(Ackermannviridae): 1線状セグメント140 kbp,径90 nm正20面頭部,長さ140×20 nm尾部,尾部ファージ(収縮性の尾部)(a)(-),B.2亜科(Aglimvirinae, Cvivirinae)4属を含む.本科はファージ分類の第一人者であったH.-W. Ackermann博士(4)4) H.-W. Ackermann: Res. Microbiol., 154, 245 (2003).に因む.
・アグリムウイルス亜科(Aglimvirinae):アグトレウイルス属(Agtrevirus)赤痢菌AG3ファージShigella virus AG3.ライムストーンウイルス属(Limestone virus)ジャガイモ軟腐病菌ファージDickeya virus Limestone.
・ヘルペスウイルス目(Herpesvirales): 3科3亜科を含む.
・アロヘルペスウイルス科(Alloherpesviridae): 1線状セグメント134–295 kbp,径160–300 nm正20面体(d)(+)(エンベロープは核膜由来),V.4属を含む.コイウイルス属(Cyprinivirus)コイヘルペスウイルスCyprinid herpesvirus 3.ニシキゴイの病気の原因として発表されたが,コイに特異的なウイルスである.2003年に霞ヶ浦の養殖鯉の大量死があった.
・ヘルペスウイルス科(Herpesviridae): 1線状セグメント125–240 kbp,径160–300 nm正20面体(d)(+)(エンベロープは核膜由来),V.3亜科12属を含む.
・アルファヘルペスウイルス亜科(Alphaherpesvirinae): 4属を含む.シンプレックスウイルス属(Simplexvirus)単純へルペスウイルスHuman herpesvirus 1(HSV-1回帰性口唇ヘルペスおよびHSV-2性器ヘルペス)はいずれも各部位の神経細胞内で増殖し,疱疹を発症させる.初感染の後,所属神経節に潜伏感染する.免疫力の低下に伴い再活性する.HSV-1は三叉神経節に,HSV-2は腰仙髄神経節に主に潜伏感染する;ワリセロウイルス属(Varicellovirus)水疱・帯状疱疹ウイルスHuman herpesvirus 3.本ウイルスの感染にはじめて感染すると水疱瘡になり,全身に発疹ができる.発疹が治まった後ウイルスは脊髄後根神経節に潜在し続け,加齢や疲労などのストレスで免疫力が落ちると再び活性化し,神経に沿って増殖し痛みを伴う発疹ができる帯状疱疹になる.患者は50歳頃から増え,60~70代が多い.重症化すると長期間痛みが継続し,年寄り泣かせであった.しかし,子供の水疱瘡ワクチンが有効で予防接種ができるようになり,また新薬アメナリーフも承認され,治療や予防の選択肢が広がってきた.
・ベータヘルペスウイルス亜科(Betaherpesvirinae): 4属.サイトメガロウイルス属(Cytomegalovirus)サイトメガロウイルス.単核症,下痢症.
・ガンマヘルペスウイルス亜科(Gammaherpesvirinae): 4属.リンホクリプトウイルス属(Lymphocryptovirus)伝染性単核球症ウイルスHuman herpesvirus 4(Epstein-Barr(EB)ウイルス).本ウイルスはバーキットリンパ腫や上咽頭がんなどのヒトがんとの関連が指摘されている.キス病の原因(まわし飲みなどに注意).
・目未帰属:22科を含む.
・アデノウイルス科(Adenoviridae): 1線状セグメント26–48 kbp,径70–90 nm正20面体(c)(-),V.呼吸器疾患,流行性角結膜炎,プール熱,胃腸炎,腫瘍,鶏封入体肝炎.5属を含む.
・アスファウイルス科(Asfarviridae): 1線状セグメント150–190 kbp,径200–250 nm正20面体(b)(+)(エンベロープは核膜由来),V・I.1属.アスフィウイルス属(Asfivirus)アフリカ豚コレラウイルスAfrican swine fever virus(ASFV).本ウイルスはアフリカのサハラ砂漠以南のイボイノシシなどの野猪に不顕感染性であったのが,豚には高い感染性率と致死率を示す.豚では個体間の接触で感染するが,野猪ではダニ介在より拡散する.本ウイルスは東欧のグルジアに侵入し,ドイツ以東の東欧各国で養豚業に多大な被害を及ぼし,2018年より中国や韓国でも深刻な感染例の報告が続いている.さらに,中国流行の型が台湾の金門島に侵攻した.本ウイルスの有効なワクチンはまだない.
・バキュロウイルス科(Baculoviridae):閉環状ゲノム80–180 kbp, 30–60×250–300 nm棒状体(s)(+),I.家蚕などの鱗翅目昆虫の核多核体病のウイルス.4属.本ウイルスは昆虫細胞発現系の利用開発に応用されている.
・バイカウダウイルス科(Bicaudaviridae):閉環状ゲノム60 kbp, 80×120 – 400 nmレモン状・両端尾部状構造(n)(+),Ar. 1属.バイカウダウイルス属(Bicaudavirus)Acidianus two-tailed virus(古細菌ウイルス).
・コルチコウイルス科(Corticoviridae):閉環状ゲノム10 kbp,径60 nm正20面体(c)(-),B.1属.コルチコウイルス属(Corticovirus)Pseudoalteromonas phage PM2.
・フセロウイルス科(Fuselloviridae):閉環状ゲノム15–24 kbp, 55–60×80–100 nmレモン状体(m)(+),Ar. 2属.アルファフセロウイルス属(Alphafusellovirus);ベータフセロウイルス属(Betafusellovirus)Sulfolobus spindle-shaped virus(古細菌ウイルス).
・グッタウイルス科(Guttaviridae):環状ゲノム14–20 kbp, 75–90×110–185 nm水滴状体(o)(+),Ar. 2属.ベータグッタウイルス属(Betaguttavirus)Sulfolobus newzealandicus droplet-shaped virus(古細菌ウイルス).
・イリドウイルス科(Iridoviridae): 1線状セグメント140–303 kbp,径120–200 nm正20面体,球状体(b, d)(+/−),V・I.5属.リンホスチス属(Lymphocystivirus).サケなど魚の病気,養殖鯛の大量死を起こしたマダイイリドウイルス病など;ラナウイルス属(Ranavirus)Frog virus 3.世界各地でカエルなどの両生類の減少にかかわっている.
・リポスリウイルス科(Lipothrixviridae):閉環状ゲノム16–42 kbp, 24–38×410–2200 nm繊維状ないし棒状(u)(+),Ar. 3属.ベータリポスリウイルス属(Betalipothrixvirus)Sulfolobus islandicus filamentous virus(古細菌ウイルス).
・ミミウイルス科(Mimiviridae): 1線状セグメント1200 kbp,径750 nm正20面体(偽d)(-カプシドの外側に長い繊維が付いている).Pr. 巨大ウイルスと言われている.2属.ミミウイルス属(Mimivirus)Acanthamoeba polyphaga mimivirus.そのほかにMegavirus chilensisなどが報告されている(13~15).
・パピローマウイルス科(Papillomaviridae): 2亜科53属を含む.環状ゲノム6.8–8.4 kbp,径55 nm正20面体(b)(-),V.イボ(尋常性疣贅,足底疣贅),腫瘍.
・ファーストパピローマウイルス亜科(Firstpapillomavirinae):アルファーパピローマウイルス属(Alphapapillomavirus)ヒトパピローマウイルス(HPV)Human papillomavirus 32が基準種.子宮頸がんはHPVの16型等による感染症である.HPVは子宮頸部に感染し,一部で,皮疹と持続感染・細胞異形化が起こり,浸潤性の皮膚がんに進展する.世界では年間25万人の女性が亡くなっている.わが国でも若い世代に患者が急増している.ワクチン接種が有効であるが,わが国では外国よりもワクチン禍が多く生じている.一刻も早い原因の解明を望む.
・プラズマウイルス科(Plasmaviridae):閉環状ゲノム12 kbp, 50–125 nm不定形(p)(+),B(Ms).1属.プラズマウイルス属(Plasmavirus)Acholeplasma phage L2.
・ポリオーマウイルス科(Polyomaviridae): 4属.環状ゲノム4.5–5.4 kbp,径40×45 nm正20面体(b)(-),V.(腫瘍).ベータポリオーマウイルス属(Betapolyomavirus)Simian virus 40(SV40)はアフリカミドリサル腫瘍ウイルスと呼ばれて,DNAの転写や複製の研究材料としてよく知られている.
・ポックスウイルス科(Poxviridae): 2亜科13属を含む1線状セグメント130–375 kbp, 140–260×220×450 nm多形状体(I)(+).V・I.
・チョルドポックスウイルス亜科(Chordopoxvirinae): 8属.V.オルソポックスウイルス属(Orthopoxvirus)ワクチニアウイルスVaccinia virus.痘瘡(種痘,Small pox)ウイルスと呼ばれている.Vaccaはラテン語の雌牛,これら語はワクチンvaccine,予防接種vaccinationの語源になっている.
・ルディウイルス科(Rudiviridae): 1線状セグメント25–35 kbp, 23×600–900 nm棒状体(s)(-),Ar. 1属.ルディウイルス属(Rudivirus)Sulfolobus islandicus rod-shaped virus 2(古細菌ウイルス).
・テクチウイルス科(Tectiviridae): 1線状セグメント15 kbp,径66 nm正20面体(c)(-),B.2属.アルファテクチウイルス属(Alphatectivirus)腸内細菌PRD1ファージEnterobacteria phage PRD1.
・トリストロマウイルス科(Tristromaviridae): 1線状セグメント16–18 kbp, 30×400 nm繊維状ないし棒状(u)(+),Ar. 1属.アルファトリストロマウイルス属(Alphatristromavirus)Thermoproteus tenax virus 1; Pyrobaculum filamentous virus 1(古細菌ウイルス).
・そのほかの科:Ampullaviridae(4–75 nm×230 nmビン形状,Ar),Ascoviridae(130×200–400 nm細菌形状,I),Globuloviridae(70–100 nm球体,Ar),Nimaviridae(125–150×270–290 nm卵形ないし細菌形状,I),Polydnaviridae(34–40×8–150 nm; 85×330 nm扁長楕円形,I)などが含まれる.特異的な形状のウイルスを挙げる.
・科未定:Salterprovirus(44–77 nmレモン形状,Ar. (古細菌ウイルス)など.
・目未帰属:7科3亜科を含む.
・ジェミニウイルス科(Geminiviridae): ssDNA(+/−),1ないし2環状セグメント2.5–3 kb/segment, 22×38 nm正20面体2量体(e)(-),P.9属を含む.トポクウイルス属(Topocuvirus)トマト黄化葉巻病ウイルスTomato yellow leaf curl virus.微小昆虫タバココナジラミ(Bemisia tabaci)媒介性.下記も含めて多種多様の植物ウイルスによる国内外での多大な農業被害が報告されている(9)9) 日比忠明,大木 理:“植物ウイルス大図鑑”,朝倉書店,2015..
・イノウイルス科(Inoviridae): ssDNA(+),環状ゲノム5–9 kb, 7×760–3500 nm繊維状ないし棒状体(t)(-),B・Ms. 2属.イノウイルス属(Inovirus)腸内細菌M13ファージEnterobacteria phage M13.(繊維状DNAファージ);プレクトロウイルス属(Plectrovirus)Acholeplasma phage MV-L51.(マイコプラズマファージ).
・ミクロウイルス科(Microviridae): ssDNA(+),環状ゲノム4.4–6.1 kb,径25–27 nm正20面体(b)(-),B・Sp(Spirpoplasma).1亜科4属.ミクロウイルス属(Microvirus)腸内細菌ϕX174ファージEnterobacteria phage ϕX174(これらのssDNAファージの研究成果も核酸学や遺伝子工学の発展に寄与した).
・パルボウイルス科(Parvoviridae): ssDNA(+/−),1線状セグメント4–6.3 kb,径21–26 nm,正20面体(b)(-),V・I.2亜科13属を含む.
・パルボウイルス亜科(Parvovirinae): 8属.V.エリスロパルボウイルス属(Erythroparvovirus)ヒトパルボウイルス(伝染性紅斑症ウイルス)B19 Human parvovirus B19,俗称リンゴ病.ときどき流行するが症状は軽い.しかし,初感染の妊婦の胎盤を介して胎児が感染すると流産につながる.近年,年々患者数が増加している.
・デンソウイルス亜科(Densovirinae): 5属.(昆虫類のウイルス).
・目未帰属:2科を含む.
・カリモウイルス科(Caulimoviridae):環状ゲノム7.2–9.2 kbp, 30 nm正20面体(b)(-),P;環状セグメント7.2–9.2 kbp,桿菌様体(q)(-),P.8属を含む.カリモウイルス属(Caulimovirus)カリフラワーモザイクウイルスCauliflower mosaic virus.
・ヘパドナウイルス科(Hepadnaviridae): 1線状セグメント3–4 kbp, 42–50 nm球状体(d, f)(+),V.2属.オルソヘパドナウイルス属(Orthohepadnavirus)B型肝炎ウイルス(Hepatitis B virus).B型肝炎ウイルスはA~Hの8遺伝子型に分類されているが,わが国では以前はC型が多く,次にB型が占めていたが,近年,ヨーロッパやアメリカ起源で,慢性肝炎になる確率の高いA型による感染が若い人の間で増えており,性行為による蔓延と考えられている.B型肝炎ウイルスはC型肝炎ウイルスと同様に血液,精液,唾液などを介して感染するが,またC型肝炎ウイルスと同じく医療器具による感染も指摘されている.急性肝炎,慢性肝炎,さらに肝硬変や肝臓がんへの進行がある.C型肝炎に次いで多く,肝炎患者の20%を占める.
・目未帰属:3科2亜科13属を含む.
・メタウイルス科(Metaviridae): ssRNA-RT(+),1線状セグメント4–10 kb,サイズ・形状(未知),F・P・I・V.3属.メタウイルス属(Metavirus)Saccharomyces cerevisiae Ty3 virus(酵母ウイルス).
・シュードウイルス科(Pseudoviridae): ssRNA-RT(+),1線状セグメント5–9 kb, 60–100 nm正20面体,球状体(b)(-),F・P・I・V・AI.3属.シュードウイルス属(Pseudovirus)Saccharomyces cerevisiae Ty1 virus(酵母ウイルス);ヘミウイルス属(Hemivirus)キイロショウジョウバエコピアウイルスDrosophila melanogaster copia virus.
・レトロウイルス科(Retroviridae): ssRNA-RT(+),1線状セグメント7–13 kb,径80–100 nm球状体(i)(+),V.2亜科7属を含む.
・オルソレトロウイルス亜科(Orthoretrovinae): 6属.アルファレトロウイルス属(Alpharetrovirus)ラウス肉腫ウイルスRous sarcoma virus;コアラレトロウイルスRetro-transcribing virusはガンマレトロウイルス属(Gammarretrovirus)に属すると言われている.オーストラリアの北東部に生息するコアラのほぼ100%,南部では約25%が感染している.また,我が国内で飼育中の個体にも感染例がある.生殖細胞のDNAに組込まれ,親から子に感染が広がる.内在性レトロウイルスと言われる;デルタレトロウイルス属(Deltaretrovirus)ヒトTリンパ球向性ウイルス或いはヒトT細胞白血病ウイルスPrimate T-lymphotropic virus 1(HTLV-1)はヒトから最初に分離されたレトロウイルスで,成人T細胞白血病(Adult T cell Leukemia; ATL)の病原体である.わが国では,患者は九州南西地域を中心に多い.主な感染経路は母乳を介する母子感染と言われている.一時収束するかに見えたが,再び深刻化している;レンチウイルス属(Lentivirus)ヒト免疫不全ウイルスHuman immunodeficiency virus 1(HIV-1).本ウイルスは後天性免疫不全症候群(Acquired Immunodeficiency Syndrome; AIDS)の病原体.近年有効な治療薬が開発され,以前ほど深刻さは薄らいだが,感染者数は依然増加している.なお,HIV非感性者由来のCCR5骨髄の移植を受けた患者は“持続的に寛解”すると報告されている;ネコ免疫不全ウイルスFeline immunodeficiency virus(FIV)はツシマヤマネコでの感染例が発見された.
・目未帰属:8科2亜科を含む.
・クリソウイルス科(Chrysoviridae): 4線状セグメント3.6, 3.2, 3.0, 2.9 kbp,径35–40 nm正20面体(b)(-),F.1属.クリソウイルス属(Chrysovirus)Penicillium chrysogenum virus.
・シストウイルス科(Cystoviridae): 3線状セグメント6.4–7.1, 3.6–4.7, 2.6–3.2 kbp,径50 nm球状体(f)(+),B.1属.シストウイルス属(Cystovirus)緑膿菌ϕ6ファージPseudomonas phage phi6.
・パーチチウイルス科(Partitiviridae): 2線状セグメント1.4–2.4 kbp/segment, 30–43 nm正20面体(b)(-),P・F.5属.Agaricus bisporus virus 4はツクリタケなどの栽培キノコや食用キノコ類で検出されている(キノコウイルス).
・レオウイルス科(Reoviridae): 9–12線状セグメント19–32 kbp,径60–80 nm正20面体(b)(-),V・I・P・F・Pr. 2亜科15属を含む.
・セドレオウイルス亜科(Sedoreovirinae): 6属.(非角張正20面体).ロタウイルス属(Rotavirus)Rotavirus A(下痢症).ロタウイルスによって全世界で毎年60万人以上が亡くなっている.ロタウイルスワクチンの予防接種が承認された;ファイトレオウイルス属(Phytoreovirus)イネ萎縮病ウイルスRice dwarf virus(昆虫媒介性).
・スピナレオウイルス亜科(Spinareovirinae): 9属.(角張正20面体).イネウイルス属(Oryzavirus)イネラギッドスタントウイルスRice ragged stunt virus;マイコレオウイルス属(Mycoreovirus).本属のウイルスは種々の糸状菌で検出されている.
・トーチウイルス科(Totiviridae): 1線状セグメント4–7 kbp,径36–40 nm正20面体(b)(-),F・Pr. 5属.トーチウイルス属(Totivirus)Saccharomyces cerevisiae virus.本属にはそのほか黒麹カビ,植物病原性カビ類に感染するウイルスが含まれる(酵母ウイルス).
・そのほかの科:Birnaviridae(V・I),Endornaviridae(AI ・F・P)など.
・モノネガウイルス目(Mononegavirales)8科を含む.
・ボルナウイルス科(Bornaviridae): 1線状セグメント9 kb,径90 nm球状体(f)(+),V.2属を含む.オルソボルナウイルス属(Orthobornavirus)ボルナ病ウイルスBorna disease virus.本ウイルスはウマ・ヒツジなどの中枢神経症のウイルスである.人獣共通症のウイルスで遊牧地域では要注意と考えられていたが,2010年に,ヒトやネズミのDNAに“レトロウイルス”以外にボルナウイルスも内在性ウイルスとして組み込まれていること(ヒトDNAの8%はウイルス由来で,大部分はレトロウイルス)がわかった.ボルナウイルス遺伝子をもつヒトやマウスなどの動物は,本ウイルスに感染しないか,感染しても発病することはほとんどなく,組み込まれたウイルス遺伝子が同種ウイルスの感染を阻害することがわかってきた.λファージやレトロウイルスでも感染や発症を防ぐ同様の機構が知られている.
・フィロウイルス科(Filoviridae): 1線状セグメント19 kb, 80×66–800 nm桿菌様体ないし繊維状体(q)(+),V.4属を含む.マールブルグウイルス属(Marburgvirus)Marburg marburgvirus(マールブルグ熱ウイルス)の自然宿主はオオコウモリと推測されている;エボラウイルス属(Ebolavirus)Zaire ebolavirus(エボラ出血熱ウイルス).上記に野生ゴリラの感染例を上げたが,ウガンダ西部国境地帯でのヒトでの発症が報道された.従来までに分離されたものとは異なる病状を示している.エボラウイルスは感染力が強力で,全身の組織・器官で出血が起こるが,特に消化管の出血が顕著である.血液や体液の接触が感染拡大の原因となる.致死率は50~90%と言われている.2014年に西アフリカ諸国での流行は1万人以上の死者を出し,これまでのうち最大の流行になった.2018年にはアフリカの中央部のコンゴ民主共和国で2回発生し,流行の危機感が強まっている.一方,ZMappなどの新薬によるエボラ熱への有効性の期待も報告されている.このような矢先,わが国ではエボラウイルスを含め最も危険性が高い“1類”に指定されている5種類のウイルス(ラッサ熱,クリミア・コンゴ出血熱,マールブルグ熱,南米出血熱)の研究用の輸入が決定された.
・パラミクソウイルス科(Paramyxoviridae): 1線状セグメント13–19 kb,径>150 nm多形状体(球状・繊維状体)(k)(+)(エンベロープは膜由来),V.7属を含む.ルブラウイルス属(Rubulavirus)流行性耳下腺炎(おたふく風邪)ウイルスMumps virus;アブラウイルス属(Avulavirus)ニューカッスル病ウイルスNewcastle disease virus(家禽のウイルス病と言えば以前は該病であった).;レスピロウイルス属(Respirovirus)センダイウイルスSendai virusは細胞融合を誘導する因子としても使われる;モービリウイルス属(Morbillivirus)麻疹(はしか)ウイルスMeasles virus(英語ではMeaslesまたはRed Measlesと言う).全世界では毎年3,000万人が感染しており,アフリカ,アジア地域を中心に50万人の死者を出している.有効な生ワクチンがある.2007年に引き続き,2008年にも若い人の間で流行した.ワクチン未接種による要因が大である.2007年夏の米国で起った局地流行は日本の米国遠征少年野球チームによることが報道され,2018年には1人の台湾の旅行者から沖縄で広がり,全国へ侵攻した.さらに,ワクチン接種を認めていない宗教団体の会合で発症し拡大した.2019年にも大流行の兆しが見られる;イヌジステンバウイルスCanine distemper virusはアザラシ類の感染被害が報道された;ヘニパウイルス属(Henipavirus)ニパウイルスNipah virusは自然界の宿主オオコウモリから豚・ヒトへの流行感染が起こった新型脳炎の病原因子.
・ニューモウイルス科(Pneumoviridae): 1線状セグメント15 kb, 120–200 nm多形状体(球状・繊維状体k)(+).2属.オルソニューモウイルス属(Orthpneumovirus)Human respiratory syncytial virus(HRS(RS))ウイルス)は乳幼児の冬かぜ.
・ラブドウイルス科(Rhabdoviridae): 1線状セグメント11–15 kb, 45–100×100–430 nm弾丸状体ないし桿菌様体(r)(+),V・I・P.17属.ベシクロウイルス属(Vesiculovirus)水泡性口内炎ウイルスVesicular stomatitis Indiana virus;リッサウイルス属(Lyssavirus)狂犬病ウイルスRabies virusは筆者緒方が米国に留学したとき,留学生センターで日本人にはこのウイルスと下記の東部ウマ脳炎ウイルスに免疫がないので,気を付けるように注意された.
・ブニヤウイルス目(Bunyavirales): 10科を含む.
・アレナウイルス科(Arenaviridae): ssRNA(+/−),2線状セグメント7.5, 3.5 kb,径50–300 nm球状体(g)(+),V.1属.マムアレナウイルス属(Mammarenavirus)リンパ球脈絡髄膜炎ウイルスLymphocytic choriomeningitis virus;ラッサ熱ウイルスLassa virusは2018年にナイジェリアで流行した.
・ハンタウイルス科(Hantaviridae): ssRNA(+/−),3線状セグメント,6.4–12.3, 3.9–5.4, 0.96–3.6 kb, 80–120 nm球状体(g)(+)(エンベロープは細胞内の膜由来),V.1属.オルソハンタウイルス属(Orthohantavirus)ハンタウイルスHantaan virusはげっ歯類媒介性の肺症候群.韓国熱.
・ナイロウイルス科(Nairoviridae): 3線状セグメント,6.8–12, 3.2–4.9, 1–3 kb, 80–120 nm球状体(g)(+),V.1属.オルソナイロウイルス属(Orthonairovirus)クリミア・コンゴ出血熱ウイルスCrimean-Congo hemorrhagic feverはアフリカ・アジア・東欧の遊牧地域で流行するダニ媒介性人獣共通の出血熱症.
・フェニュイウイルス科(Phenuiviridae): 3線状セグメント,6.4, 3.2, 1.7 kb, 80–120 nm球状体(g)(+),P・V.4属.フレボウイルス属(Phlebovirus)2011年に中国で特定された新種の重症熱性血小板減少症候群ウイルス(SFTSV; Severe fever with thrombocytopenic syndrome virus)はダニ媒介性で人獣共通に感染する.わが国でも2015年に渡航歴のない方での発見以来,西日本中心に感染例が100例に達している.ダニの刺咬以外にも,ネコと犬に咬まれて発症した例も認められている.
・ペリブニヤウイルス科(Peribunyaviridae): 3線状セグメント,6.8–12, 3.2–4.9, 1–3 kb, 80–120 nm球状体(g)(+),V.3属.トスポウイルス属(Tospovirus)Tomato spotted wilt virusはトマト黄化えそ病などの病源体.トスポウイルスは世界中のナス科,マメ科,ウリ科,キク科などの主要農作物に多大な被害を与えている.昆虫媒介性である.
・アーティキュラウイルス目(Articulavirales): 2科8属を含む.
・オルソミクソウイルス科(Orthomyxoviridae): 6–8線状セグメント0.7–2.4 kb/segment, 80–120 nm多形状体(球状・繊維状体j)(+)(エンベロープは原形質膜由来),V.7属を含む.アルファインフルエンザウイルス属(Alphainfluenzavirus)インフルエンザAウイルスInfluenza A virusの流行したヒトの新型IVA(1918年のスペインかぜや香港かぜなど)は,その起源と伝播経路がカモ類→家禽→ブタ→ヒトと推定されている.インフルエンザの流行は毎年世界中で起こっているが,2018年には米国で統計調査がはじまって以来の最悪の流行が報告された.わが国でもH1N1型(Influenza A virus subtype H1N1,スペインかぜ起源)とH3N2型(Influenza A virus subtype H3N2,香港かぜ起源)による大流行が2018–2019年の流行期に報じられている;2007年の競走馬で流行したインフルエンザはInfluenza A virusに属し,その起源はヒト,ブタなどと推定されている.イヌインフルエンザはウマ由来とトリ由来の亜種と言われている(近年,米国や韓国でイヌでの流行があった).2009年になって,中国での感染死亡例,エジプトでの感染死亡例が報道された.2008年4月に秋田県と北海道でH5N1型鳥インフルエンザウイルスによる感染がオオハクチョウで検出された.野鳥での感染は2004年に京都府と大阪府でハシブトカラス,2007年に熊本県でクマタカに見つかっている.哺乳類感染では,初めて野生のアライグマで感染の例が,2009年に報道された.一方,2008年2, 3月に香港で,H1N1およびH3N2が流行し,幼児に死者がでたことが報道された.2009年になって,養鶉場のウズラに弱毒性の高病原性H7N6型が流行した.2005年には弱毒性の高病原性H5N2型がニワトリで検出された.2017年末から2018年はじめに,H5N6による100羽以上のハシブトガラスの大量死がおこった.鳥インフルエンザウイルスによる水鳥や養鶏以外の大量死は珍しい.鳥インフルエンザの感染拡大防止策には全個体の殺処分と消毒法が取られている.H7N9型のパンデミック流行化感染への可能性が指摘されている;ベータインフルエンザウイルス属(Betainfluenzavirus)Influenza B virusはInfluenza A virus流行の後に流行することが多い.
インフルエンザ予防にはワクチン接種が有効であることは言を俟たないが,一方,治療薬の開発が増殖したウイルスの細胞からの拡散を阻害するタミフルなどから,ウイルスの細胞内での増殖を阻害する作用をもつゾフルーザへと進んでいる.新薬は従来のタミフルなどに耐性のウイルス治療に有効性が期待されているが,該剤耐性株の出現率が高いとの報告もある.使用方法の検討が急がれる.また,従来の発育鶏卵法を動物培養細胞法に転換するなどのワクチンの生産技術にも改良が検討されはじめた(16)16) 西島謙一:化学と生物,57, 138 (2019)..
・科未定:デルタウイルス属(Deltavirus)D型肝炎ウイルスHepatitis delta virus.環状ssRNA-鎖1.7kb,径36–43 nm球状体(h)(+),V.B型肝炎ウイルスなどのヘルパー肝炎ウイルスの共存で増殖し,劇症化肝炎を引き起こすと言われている.
・ニドウイルス目(Nidovirales): 7亜目9科を含む.
・アルテリウイルス科(Arteriviridae): 1線状セグメント13–16 kb, 50–74 nm球状体(h)(+)(エンベロープは細胞内の膜由来),V.1属.ポラルテウイルス属(Porartevirus)Porcine reproductive and respiratory syndrome virus(PRRSV)は豚繁殖・呼吸障害症候群の病原体,通称ブルーイヤ病(青耳病)と呼ばれ,中国で大きな流行の報道があった.
・コロナウイルス科(Coronaviridae): 1線状セグメント26–32 kb,径120–160 nm球状体(h)(+),75–90×170–200 nm桿菌様体(q)(+)(エンベロープは細胞内の膜由来),V.2亜科5属を含む.
・オルソコロナウイルス亜科(Orthocoronavirinae): 4属.本亜科のウイルスはヒト,哺乳類,鳥類の呼吸器官気管疾患の病原体.ベータコロナウイルス属(Betacoronavirus)には,2002年に中国で発生した新型肺炎SARS(Severe Acute Respiratory Syndrome重症急性呼吸器症候群)の病原体SARSコロナウイルス(SARS-related human coronavirus)や2012年に中東中心に発生した類似の症状の中東呼吸器症候群MERS(Middle East Respiratory Syndrome)の病原体MERSコロナウイルス(MERS-related coronavirus)が含まれる.両ウイルスとも自然の宿主(人獣共通感染症)はコウモリ類と考えられている.コウモリで分離されたSARS-related Rhinolophus bat coronavirusなどの数種ウイルスが知られている.MERSのウイルスはラクダも宿主と言われている.
・ピコルナウイルス目(Picornavirales): 6科1亜科を含む.
・ピコルナウイルス科(Picornaviridae): 1線状セグメント7–9 kb,径30 nm正20面体(b)(-),V.35属.エンテロウイルス属(Enterovirus)Human enterovirus Cはポリオウイルス(Poliovirus)急性灰白髄炎の病原体.1960年頃,ポリオ予防に,不活化ワクチン,生ワクチンのどちらを採用するかの大論争があった.今日,ほかのウイルスの場合も含めて,不活化ワクチンの有意義性が再考され始めている.1988年WHOがポリオ根絶計画を開始して以来,ワクチン接種で発症が激減し,発症はパキスタン,アフガニスタン,ナイジェリアに限定されるようになった.これらの国ではワクチン接種に治安が壁になっている;Human enterovirus Aに関連するエンテロウイルス71,コクサッキーウイルスA16が病原体と考えられている手足口病が2008年に中国で流行した.その後,わが国でも感染例が報告されようになり,近年夏を中心に流行し,話題になっている.本症は子供の感染が主であるが,大人も感染すると言われている;Human enterovirus Dによる急性弛緩性麻痺が2018年に流行した;ライノウイルス(Rhinovirus)Human rhinovirus A(風邪ウイルス);アフトウイルス属(Aphthovirus)口蹄疫ウイルスFoot-and-mouth disease virusは動物で最初に発見されたウイルスで,今も家畜に多大な被害を与えている;ヘパトウイルス属(Hepatovirus)A型肝炎ウイルスHepatitis A virus;コブウイルス属(Kobuvirus)アイチウイルスAichi virusは胃腸炎患者から検出される.わが国で,生カキが原因の集団発生した胃腸炎患者の便から初めて分離された;パレコウイルス属(Parechovirus)ヒトパレコウイルスHuman parechovirusによる流行性筋痛症が2018年に報告された.
・タイモウイルス目(Tymovirales): 4科(Alphaflexiviridae, Tymoviridaeなど)を含む.植物のウイルスが多く含まれている.
・目未帰属:23科,科未定10属を含む.
・アストロウイルス科(Astroviridae): 1線状セグメント6–8 kb, 28–30 nm正20面体(b)(-),V.2属.マムアストロウイルス属(Mamastrovirus)Human astrovirus(胃腸炎,人獣共通感染症).
・バアナウイルス科(Barnaviridae): 1線状セグメント4kb, 18–20×48–53 nm桿菌様体(q)(-),F.1属.バアナウイルス属(Barnavirus)Mushroom bacilliform virus.(キノコウイルス).
・カリシウイルス科(Caliciviridae): 1線状セグメント7–8 kb,径30–33 nm正20面体(b)(-),V.5属.ノロウイルス属(Norovirus)ノロウイルスNorwalk virusはウイルス性食中毒の主要病原体;サポウイルス属(Sapovirus)Sapporo virus.下痢症.
・フラビウイルス科(Flaviviridae): 1線状セグメント9–13 kb,径40–60 nm球状体(f)(+),V・I.4属.フラビウイルス属(Flavivirus)黄熱病ウイルスYellow fever virusは2008年に34年振りにボリビアで感染患者がでた;日本脳炎ウイルスJapanese encephalitis virusは増幅動物として豚が最も重要で,カと豚からなる感染環が回り,ウイルスは急激に増幅される.旧型ワクチンの副作用により定期的予防接種が中断されていたが,改良されたワクチンの接種が再開された;カ媒介性ウイルスのデング熱ウイルスDengue virusと西ナイル熱ウイルスWest Nile virusでは流行の兆しが見られる;ジカ熱ウイルスZika virusはネッタイシマカなどのヤブカ類媒介性のジカ熱を発症させる.ヒトとヒト間の体液接触による感染例も報告されている.ジカ熱はリオオリンピックの頃,妊婦の感染と新生児の小頭症との関連が話題になった.本ウイルスの発見は,1947年にウガンダのジカ森のアカゲザルから分離された;ダニ媒介性脳炎ウイルスのTick-borne encephalitis virusは北道道でも分離される;ぺスチウイルス属(Pestivirus)牛コレラウイルスBoviine viral diarrhea virus 1などの4種は牛豚羊などの家畜の流行性下痢症で,畜産業界に多大の経済的被害を与えている;豚コレラウイルスClassical swine fever virus(CSFV)は東南アジアで流行を繰り返し,牛コレラウイルスと同様畜産業に甚大な被害をもたらしている.2018年に26年振りにわが国に発生し拡大をみせており,家畜伝染病予防法に従い対策がとられている.野生の猪でも感染死した個体が発見された.感染拡大は野生猪によると考えられているが,感染子豚の出荷に伴うミスも拍車をかけた.有効なワクチンが開発されているが,拡大防止策には国際獣疫事務局(OIE)の“清浄国”認定に影響されない全頭殺処分や消毒法などが取られている.しかし,ワクチン接種の要望は多く,まず野生猪に対して経口ワクチンの使用が行われ,豚に対してもワクチン接種に踏み切ることが決まった;へパシウイルス属(Hepacivirus)C型肝炎ウイルスHepatitis C virusは肝炎と肝がんの約70%の要因.新生感染者数は激減しているが,全世界に1億7千万人,わが国に200万人のキャリアーがいる.
・へぺウイルス科(Hepeviridae): 1線状セグメント6.6–7.2 kb, 27–34 nm正20面体(b)(-),V.2属.オルソヘペウイルス属(Orthohepevirus)E型肝炎ウイルスHepatitis E virus(HEV).E型肝炎は従来開発発途上国を旅行した人が水などから感染するケースが多いとされてきたが,2002年以降,国内での感染が疑われるケースが急増している.野生猪の5~10%からHEV遺伝子が検出されている.猪などの野生動物の生肉或いは半生焼き肉を食べることによる感染と言われている.猪以外にも2003年に兵庫県で冷凍したシカの生肉を食べた人がHEVに感染したほかに,北海道では市販の豚レバーからHEV遺伝子が検出されたケースもある.野生動物の肉の生食は避け,しっかり火を通すこと,さらに生肉に触れたまな板や箸は十分熱湯消毒することが肝要である.
・レビウイルス科(Leviviridae): 1線状セグメント3.5–4.3 kb,径26 nm正20面体(b)(-),B.2属.レビウイルス属(Levivirus)MS2ファージBacteriophage MS2;アロレビウイルス属(Allolevivirus);腸内細菌QβファージEnterobacteria phage Qbeta.(これらのssRNAファージの研究成果も核酸学や遺伝子工学の発展に寄与した).
・ナアナウイルス科(Narnaviridae): 1線状セグメント2–3 kb, no true virion/RNP complex(-),F.2属.ナアナウイルス属(Narnavirus)Saccharomyces 20S RNA narnavirus.(酵母ウイルス)
・トガウイルス科(Togaviridae): 1線状セグメント9.7–11.8 kb,径60–70 nm球状体(f)(+),V・I.1属.アルファウイルス属(Alphavirus)東部ウマ脳炎ウイルスなど,カ媒介性:ルビウイルス属(Rubivirus)風疹ウイルスRubella virus(三日はしか,英語ではGerman Measles)は感染防止にワクチン接種が有効であるが,我が国では抗体保有率が低い年齢層がいることが明らかになっている.2013年に2万人を超える大流行,2018年に首都圏から流行が拡大しつつあり,胎児への器官形成に影響を与える先天性風疹症候群発生が懸念され,当ウイルスに対する免疫力がほとんどない39~56歳の男性を中心にワクチン接種の無料化が決まった.
・バアガウイルス科(Virgaviridae): 1線状セグメント(トバモウイルス属)6.3–6.6 kb: 2ないし3線状セグメント(そのほかの属)3.7–6, 3.0–3.6, 2.5–3.2 kb, 18–21×50–310 nm棒状体(s),P.6属.トバモウイルス属(Tobamovirus)タバコモザイクウイルスTobacco mosaic virusは最初に発見されたウイルス;ピーマンモザイク病ウイルスPepper mild mottle virus.国内外で甚大な被害が出ている.
・そのほかの科:Alphatetraviridae(I),Alvernaviridae(Al),Bromoviridae(P),Carmotetraviridae(I),Closteviridae(P),Luteoviridae(P),Nodaviridae(V・I),Potyviridae(P),Sarthroviridae(I),Solemoviridae(P),Tombusviridae(P)などの植物ウイルスや昆虫ウイルス.
・科未定:10属を含む.Albetovirus(P)などの植物ウイルス.
6種類掲載されている.(省略)
・サテライト(Satellites): Satellite virusesとSatellite nucleic acidsに分けられる.F・I・P・Pr・V.核酸は各種形状のDNAおよびRNAで,単独では増殖できず,ヘルパーウイルスに依存して増殖する.
・ウイロイド(Viroids): 2科(Avsunviroidae, 3属;Pospiviroidae, 5属).殻タンパク質がなく,RNA分子だけでなり,植物に感染する(9)9) 日比忠明,大木 理:“植物ウイルス大図鑑”,朝倉書店,2015..
・プリオン(Prions):カビプリオン(Fungi Prion:Saccharomyces cerevisiae 4種,Podospora anserinaの1種);脊椎動物プリオン(Vertebrate Prion狂牛病などのプリオン病).核酸を含まないタンパク質性感染粒子(Proteinaceous infectious particle)である.
学名はウイルスを含め生物を一つひとつ識別しているばかりでなく,世界共通の名である.学名には,その生物の特徴などが実によく盛り込まれている.この共通語を使うことで,世界中のどの分野の人とも意志の疎通と理解を図ることができる.本稿に参考として使用している9th ICTV Report(2011年)はELSEVIERより出版されている(1)1) A. M. Q. Kink, M. J. Adams, E. B. Carstens & E. J. Lefkowitz (ed.): “Virus Taxonomy ICTV Ninth Report”,Elsevier Academic Press, 2011..多数のウイルスのゲノム解析が進み,遺伝子構造やゲノム構造が解明され,分子系統図あるいは系統発生樹が各種ウイルスで記載されており,ウイルス種間,属間,科間の類縁関係が明確になり,理解しやすくなった.ただ眺めているだけでも楽しく,図鑑としても利用できる.
筆者緒方は1984年の仙台で開催された第6回国際ウイルス会議の後から,当時ICTVの細菌ウイルス分科会(Bacterial Virus Subcommittee,その後の原核生物ウイルス分科会Prokaryote Virus Subcommittee)の座長であったH.-W. Ackermann博士(カナダのLaval大学名誉教授,1936–2017)の薦めで,2005年まで分科会のメンバーを努めた.この間,ファージの“種”・“属”・“科”の命名規約の設定と基準種の選定,さらに“目”の設定が纏まっていく過程に身を置くことができたのは,Ackermann博士やJ. Maniloff博士(米国Rochester大学教授,2002~2005年のICTV副会長で,Virus Taxonomy 7th & 8th Reportsの編者)のお陰によるところが大きい(11)11) 緒方靖哉:化学と生物,50,761 (2012)..なお,ICTV委員会や分科会での会合と採決のことは先報(2)2) 緒方靖哉,西山 孝:化学と生物,45,769 (2007).を参考いただきたい.ICTV Reportは完成したものでなく,情報の追加や改善は続いている.ウイルス分類学の発展は抗ウイルス剤や治療法の開発につながると確信できる.本稿を終わりに当たり,1975年以来長い間お付き合いをいただいたAckermann先生に感謝と哀悼の意を表したい.
Acknowledgments
本稿をまとめるに当たり,ご助言やご便宜をいただいた古屋成人博士・中山二郎博士・藤村由紀博士(九州大学農学研究院),岩井 久博士(鹿児島大学農学部)に感謝申し上げる.また,本稿は先報(1,2)を改訂したものである.日本農芸化学会と九州バイオリサーチネットに感謝申し上げる.
Reference
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