解説

ゴム廃棄物処理への応用を目指した天然ゴム分解菌の機能解明ゴム廃棄物からの有価物生産の可能性

Isolation and Characterization of Natural Rubber-Degrading Bacteria to Develop the Treatment System for Rubber Waste: Identification of Rubber-Degrading Genes and Enzymes

Daisuke Kasai

笠井 大輔

長岡技術科学大学

Published: 2019-02-01

ポリcis-1,4-イソプレンを基本骨格とする天然ゴムや合成イソプレンゴムは,幅広い工業分野で利用されている不可欠な資源であり,それらの需要は増加し続けている.しかし,それらの廃棄物は燃焼や埋立によって処分されており,将来的な増加が予想される廃棄物による環境汚染が危惧されている.本研究では,微生物機能を用いた廃ゴム処理の技術革新を目指して,ゴム分解菌の機能解析と分解メカニズムの解明に取り組んでいる.微生物機能を利用した廃ゴム処理が確立できれば,従来の処理法の課題を解決できるだけでなく,有機性廃棄物の再資源化に繋がる可能性があり,持続可能社会の形成に貢献できると期待される.

はじめに

パラゴムノキ(Hevea brasiliensis)は,世界全体で年間約3.3億トンのCO2を固定するとされており,二次代謝産物として得られる天然ゴムを含めて地球の炭素循環に欠かせない不可欠な資源である.天然ゴムは,ポリcis-1,4-イソプレンを主成分としており,化石資源を原料とする合成ゴムとともにタイヤや一般工業用品など広い分野で利用される.その年間消費量は,約1,000万トン(全ゴム消費量の約40%)と膨大であるうえ,近年の世界的な経済成長に伴いさらなる需要の拡大が見込まれている.つまり将来的には天然ゴム由来の廃棄物量の増大が予想される.しかし現状では,それら廃棄物の処理を焼却や埋立てに頼っているため,温室効果ガスの増加や環境への負荷,熱源となるエネルギー確保と言った懸念が残る.持続可能な開発目標(SDGs)に代表されるように,近年の環境に対する世界的な意識の高まりから,ゴム廃棄物自体の削減と廃棄処理プロセスの革新につながる再資源化システムの確立は,地球規模で早急に取り組むべき課題の一つであると考えられる.

微生物を用いたゴム廃棄物処理法は,既存の方法と比較して熱源などの過剰なエネルギーを使わず常温・常圧で反応できる点,埋立て地などの土地を必要としない点で優位である.筆者らが発見した天然ゴム分解菌は,分泌型のゴム分解酵素を用いて細胞外で天然ゴムを低分子イソプレン(イソプレンオリゴマー)へと変換した後に代謝する(1, 2)1) K. Rose & A. Steinbüchel: Appl. Environ. Microbiol., 71, 2803 (2005).2) E. M. Ibrahim, M. Arenskötter, H. Luftmann & A. Steinbüchel: Appl. Environ. Microbiol., 72, 3375 (2006)..これは,微生物酵素を利用することで,燃焼や化学処理では不可能な天然ゴムの基本骨格(機能性)を保持したままの分解,つまり機能性を失わない低分子化が可能になることを意味する.イソプレンオリゴマーは,反応性に富むテレケーリックな構造をもち,ポリウレタンやポリ乳酸との共重合に利用できる可能性がある.加えて,生分解性プラスチック原料としての利用に期待が寄せられている化合物である.これらの優位性から,ゴム廃棄物の処理に微生物酵素を利用することができれば,従来法の問題点を解決できるだけでなく,廃ゴムを新たな資源として再利用することが可能になる.それは,環境負荷の低減と炭素循環型社会の形成に大きく貢献するだけでなく,わが国の主要産業であるゴム・タイヤ産業の持続的発展に寄与すると期待される.

これまでに筆者らは,強力な天然ゴム分解能をもつグラム陽性菌Nocardia sp. NBRC15532株とゴム分解と同時に細胞内に生分解性プラスチックの原料化合物を生産するグラム陰性菌Rhizobacter gummiphilus NS21株を取得した(3~5)3) S. Imai, K. Ichikawa, Y. Muramatsu, D. Kasai, E. Masai & M. Fukuda: Enzyme Microb. Technol., 49, 526 (2011).5) D. V. Linh, N. L. Huong, M. Tabata, S. Imai, S. Iijima, D. Kasai, T. K. Anh & M. Fukuda: J. Biosci. Bioeng., 123, 412 (2017)..そして,これらゴム分解菌は分泌型の酸素添加酵素を用いて,細胞外でポリcis-1,4-イソプレンを低分子化することを明らかにした(5~7)5) D. V. Linh, N. L. Huong, M. Tabata, S. Imai, S. Iijima, D. Kasai, T. K. Anh & M. Fukuda: J. Biosci. Bioeng., 123, 412 (2017).7) D. V. Linh, N. Gibu, M. Tabata, S. Imai, A. Hosoyama, A. Yamazoe, D. Kasai & M. Fukuda: Biotechnol. Rep. (Amst.), 22, e00332 (2019)..そして,これら天然ゴム分解菌の機能を最大限に利用した廃ゴム処理システムの構築を目指して,天然ゴム分解にかかわる遺伝子と酵素,それらの発現機構の解明を行ってきた.本稿では,ゴム分解菌Nocardia sp. NBRC15532株のゴム分解メカニズムに関して,これまでに得られた知見を紹介する.

Nocardia sp. NBRC15532株の加硫ゴム分解能

天然ゴム分解菌として取得したNBRC15532株の加硫ゴム分解能を評価するために,加硫されたポリcis-1,4-イソプレンを含むラテックスグローブを唯一の炭素源とした際の生育能を調査した.ラテックスグローブを添加した無機塩培地でNBRC15532株を培養した結果,培養20日でラテックスグローブの分解と菌体の増殖が観察された(図1A図1■(A) NBRC15532株によるラテックスグローブの分解(左)反応前,(右)20日間反応後.振とう反応(酸素の供給)によりラテックスグローブを分解した.(B)NBRC15532株で分解したラテックスグローブ片の断面図.メチレンブルー染色(青色)部分がNBRC15532株細胞.NBRC15532株の内部への侵食が観察された.).分解によって得られたラテックスグローブ片の断面図を顕微鏡で観察した結果,NBRC15532株がグローブ片内部に入り込みゴムを分解している様子が観察された(図1B図1■(A) NBRC15532株によるラテックスグローブの分解(左)反応前,(右)20日間反応後.振とう反応(酸素の供給)によりラテックスグローブを分解した.(B)NBRC15532株で分解したラテックスグローブ片の断面図.メチレンブルー染色(青色)部分がNBRC15532株細胞.NBRC15532株の内部への侵食が観察された.).以上の結果から,NBRC15532株は加硫されたポリcis-1,4-イソプレンに対しても分解能を示すことが明らかとなった.

図1■(A) NBRC15532株によるラテックスグローブの分解(左)反応前,(右)20日間反応後.振とう反応(酸素の供給)によりラテックスグローブを分解した.(B)NBRC15532株で分解したラテックスグローブ片の断面図.メチレンブルー染色(青色)部分がNBRC15532株細胞.NBRC15532株の内部への侵食が観察された.

NBRC15532株のゴム分解遺伝子の特定

NBRC15532株の天然ゴム分解遺伝子を特定するために,天然ゴムを炭素源として生育させた菌体の全RNAを用いて網羅的遺伝子発現解析を行った.天然ゴム非存在下で培養した菌体から抽出した全RNAをコントロールとして,天然ゴムを炭素限とした生育時に転写量が2倍以上に増大した遺伝子を抽出した結果,121遺伝子に限定された.それらのなかには,推定の分泌型酸素添加酵素(Lcp)をコードすると考えられる遺伝子(lcp)やポリcis-1,4-イソプレンの低分子化産物であるイソプレンオリゴマーの分解にかかわると推定されるアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子(5遺伝子),そして低分子化後のイソプレン代謝にかかわると考えられるβ酸化経路の遺伝子群が含まれていた.

lcp遺伝子の機能解析

ゴムの低分子化に関与する分泌型酸素添加酵素をコードすると考えられるlcp遺伝子の転写誘導性をより明確にするため,lcp遺伝子の転写量を定量的RT-PCR解析により評価した.その結果,lcp遺伝子の転写量は天然ゴム生育時に約40倍と顕著に増大することが示された.さらに,lcp遺伝子の天然ゴム分解への関与を明確化するために,CRISPR-Cas9によるゲノム編集技術を用いてlcp遺伝子の内部領域を欠失させたlcp欠失株を作出した.lcp欠失株と野生株のポリcis-1,4-イソプレン分解能を比較した結果,野生株では反応20日後にポリcis-1,4-イソプレンの低分子化が観察されたのに対して,lcp欠失株はその分解能を完全に失っていた(図2図2■野生株およびlcp欠失株のポリcis-1,4-イソプレン分解能の評価).以上の結果から,lcp遺伝子がNBRC15532株の天然ゴム分解に必須であることが強く示唆された.

図2■野生株およびlcp欠失株のポリcis-1,4-イソプレン分解能の評価

青:反応開始時.赤:反応20日後(野生株).緑:反応20日後(lcp欠失株).反応液中に残存するポリcis-1,4-イソプレンの分子量をGPCで分析した.

lcp遺伝子の異種宿主発現

lcp遺伝子がコードする分泌型酸素添加酵素の機能を明らかにするために,N末端にヒスチジンタグを付加したlcp遺伝子(lcp-his)の発現プラスミドを作製し,E. coli BL21株を宿主としてヒスチジンタグ融合Lcp(Lcp-His)を発現させた.得られたLcp-Hisを含むBL21株の細胞抽出液からNi-アフィニティカラムを用いたカラムクロマトグラフィーによりLcp-Hisを精製した(図3A図3■(A) NBRC15532株のlcp遺伝子産物の精製.レーンM, 分子量マーカー.1, 精製Lcp-His(2 µg).2, lcp-his組換え大腸菌の細胞抽出液(10 µg).Lcp-Hisがほぼ単一に精製された.(B)ポリcis-1,4-イソプレン分解時におけるLcp-Hisの酸素消費活性.10 µgのLcp-Hisを添加した2 mLの系で反応させ,溶存酸素濃度を経時的に測定した.(C)Lcp-Hisによるポリcis-1,4-イソプレン分解能.ポリcis-1,4-イソプレンとLcp-His(10 µg)またはコントロールとしてBSA(10 µg)を添加し,37°Cで16時間反応させた結果.Lcp-Hisを添加した場合でのみゴムの分解が観察された.(D)Lcp反応開始時と反応16時間後におけるFT-IR分析の結果.矢印:アルデヒドに由来するピークを示す.).Lcpは,ポリcis-1,4-イソプレンに酸素分子を導入することでイソプレン鎖を切断する活性を有しているため,溶存酸素計を用いて反応系の酸素消費量を計測することで酵素活性を算出した.精製したLcp-Hisとポリcis-1,4-イソプレンを含む天然ゴムラテックスを反応させたところ,反応時間の経過とともに酸素の消費が観察された(図3B図3■(A) NBRC15532株のlcp遺伝子産物の精製.レーンM, 分子量マーカー.1, 精製Lcp-His(2 µg).2, lcp-his組換え大腸菌の細胞抽出液(10 µg).Lcp-Hisがほぼ単一に精製された.(B)ポリcis-1,4-イソプレン分解時におけるLcp-Hisの酸素消費活性.10 µgのLcp-Hisを添加した2 mLの系で反応させ,溶存酸素濃度を経時的に測定した.(C)Lcp-Hisによるポリcis-1,4-イソプレン分解能.ポリcis-1,4-イソプレンとLcp-His(10 µg)またはコントロールとしてBSA(10 µg)を添加し,37°Cで16時間反応させた結果.Lcp-Hisを添加した場合でのみゴムの分解が観察された.(D)Lcp反応開始時と反応16時間後におけるFT-IR分析の結果.矢印:アルデヒドに由来するピークを示す.).この結果から,本酵素が酸素添加によるポリcis-1,4-イソプレン分解活性を有することが確認された.また同反応液では,天然ゴムラテックスに由来する白濁の消失が観察された(図3C図3■(A) NBRC15532株のlcp遺伝子産物の精製.レーンM, 分子量マーカー.1, 精製Lcp-His(2 µg).2, lcp-his組換え大腸菌の細胞抽出液(10 µg).Lcp-Hisがほぼ単一に精製された.(B)ポリcis-1,4-イソプレン分解時におけるLcp-Hisの酸素消費活性.10 µgのLcp-Hisを添加した2 mLの系で反応させ,溶存酸素濃度を経時的に測定した.(C)Lcp-Hisによるポリcis-1,4-イソプレン分解能.ポリcis-1,4-イソプレンとLcp-His(10 µg)またはコントロールとしてBSA(10 µg)を添加し,37°Cで16時間反応させた結果.Lcp-Hisを添加した場合でのみゴムの分解が観察された.(D)Lcp反応開始時と反応16時間後におけるFT-IR分析の結果.矢印:アルデヒドに由来するピークを示す.).これは,天然ゴムラテックスを構成するポリcis-1,4-イソプレンの分解によるものと考えられる.さらに,反応液をFT-IRで分析した結果,アルデヒドの存在を示すピークの出現が観察された(図3D図3■(A) NBRC15532株のlcp遺伝子産物の精製.レーンM, 分子量マーカー.1, 精製Lcp-His(2 µg).2, lcp-his組換え大腸菌の細胞抽出液(10 µg).Lcp-Hisがほぼ単一に精製された.(B)ポリcis-1,4-イソプレン分解時におけるLcp-Hisの酸素消費活性.10 µgのLcp-Hisを添加した2 mLの系で反応させ,溶存酸素濃度を経時的に測定した.(C)Lcp-Hisによるポリcis-1,4-イソプレン分解能.ポリcis-1,4-イソプレンとLcp-His(10 µg)またはコントロールとしてBSA(10 µg)を添加し,37°Cで16時間反応させた結果.Lcp-Hisを添加した場合でのみゴムの分解が観察された.(D)Lcp反応開始時と反応16時間後におけるFT-IR分析の結果.矢印:アルデヒドに由来するピークを示す.).そして,HPLC-MSを用いた分解産物の分子量解析では,反応液から3~9量体のイソプレンオリゴマーが検出されたことから,Lcpはポリcis-1,4-イソプレンのイソプレン鎖に酸素を添加してアルデヒドを含むイソプレンオリゴマーへと低分子化する活性を有することが明らかとなった(図4図4■NBRC15532株における推定のポリcis-1,4-イソプレン分解経路).

図3■(A) NBRC15532株のlcp遺伝子産物の精製.レーンM, 分子量マーカー.1, 精製Lcp-His(2 µg).2, lcp-his組換え大腸菌の細胞抽出液(10 µg).Lcp-Hisがほぼ単一に精製された.(B)ポリcis-1,4-イソプレン分解時におけるLcp-Hisの酸素消費活性.10 µgのLcp-Hisを添加した2 mLの系で反応させ,溶存酸素濃度を経時的に測定した.(C)Lcp-Hisによるポリcis-1,4-イソプレン分解能.ポリcis-1,4-イソプレンとLcp-His(10 µg)またはコントロールとしてBSA(10 µg)を添加し,37°Cで16時間反応させた結果.Lcp-Hisを添加した場合でのみゴムの分解が観察された.(D)Lcp反応開始時と反応16時間後におけるFT-IR分析の結果.矢印:アルデヒドに由来するピークを示す.

図4■NBRC15532株における推定のポリcis-1,4-イソプレン分解経路

NBRC15532株を用いた効率的な天然ゴム分解系の構築を目指して,精製Lcp-Hisを添加した場合のNBRC15532株のポリcis-1,4-イソプレン分解能を評価した.Lcp-His非添加区では10日間で約30%,20日間で約75%のポリcis-1,4-イソプレンの分解が観察されたのに対して,100 mLの反応系に1 mgの精製Lcp-Hisを添加した場合では,10日間で約50%の分解能を示した(図5図5■NBRC15532株培養液へのLcpの添加によるゴム分解能の向上).ポリcis-1,4-イソプレンの分解に必須なlcp遺伝子は,天然ゴム生育時に誘導的に転写されるわけだが,その転写誘導は高分子であるゴムが分解(低分子化)され,その分解産物であるイソプレンオリゴマーが細胞内に取り込まれることで起こると想像される.つまり,Lcp-His添加区で観察されたポリcis-1,4-イソプレン分解の早期化は,添加したLcpによる反応初期段階でのゴム分解の促進に起因するだけでなく,転写誘導物質となりうるイソプレンオリゴマーの生成とそれに伴うlcp遺伝子の転写誘導が促進されたことも影響していると推察される.これらの結果を踏まえ,今後は転写誘導物質の特定やlcp遺伝子構成的発現系の構築を行うことで,ゴム分解能のさらなる向上が期待される.

図5■NBRC15532株培養液へのLcpの添加によるゴム分解能の向上

培養液中に残存するイソプレン量を定量することで分解率を算出した.◯;精製Lcp非添加区,□;精製Lcp添加区.Lcpを添加することで分解率の向上が認められた.

ポリcis-1,4-イソプレン分解に関与するアルデヒドデヒドロゲナーゼの探索

Lcp反応によりポリcis-1,4-イソプレンから生じるイソプレンオリゴマーの分解にかかわるアルデヒドデヒドロゲナーゼを特定するため,天然ゴム生育時に誘導される遺伝子の中からアルデヒドデヒドロゲナーゼをコードすると考えられる遺伝子を抽出した.それにより得られた5つの候補遺伝子のイソプレンオリゴマー分解能を明確にするために,各遺伝子の異種宿主発現系を構築した.各遺伝子の5′末端にはヒスチジンタグをコードする塩基配列を連結し,His-tag融合タンパク質として発現させた後,Ni-アフィニティカラムを用いて目的酵素を精製した.得られた酵素のアルデヒドデヒドロゲナーゼ活性は,NADの還元活性を指標に評価した.なお,NAD還元活性は,2,6-dichlorphenolindophenol(DCPIP)とphenazine methosulfate(PMS)のカップリング反応による呈色反応(8)8) R. Vivod, S. Oetermann, S. Hiessl, S. Gutsche, N. Remmers, C. Meinert, B. Voigt, K. Riedel & S. Steinbüchel: Appl. Microbiol. Biotechnol., 101, 7945 (2017).を利用して,酵素反応により生産されるNADHを定量することで評価した.初めに,Lcpとポリcis-1,4-イソプレンを反応させ,酵素活性測定の基質となるイソプレオリゴマーを調製した.次に,イソプレンオリゴマー溶液に各精製酵素とNADを添加しNAD還元活性を測定した.その結果,5つの候補のうち一つ(Aldh2872)でのみ有意なNAD還元活性(1.4 mU/mg)が得られた.この結果から,Aldh2872がNBRC15532株におけるイソプレンオリゴマーの酸化分解に関与している可能性が考えられた(図4図4■NBRC15532株における推定のポリcis-1,4-イソプレン分解経路).今後,本酵素をコードする遺伝子の破壊株を解析することで,当該遺伝子の天然ゴム代謝への関与を明確にできると考えられる.

実用化への展望

本研究では,ゴム分解菌Nocardia sp. NBRC15532株の天然ゴム代謝時に誘導される遺伝子を特定し,それらの遺伝子構造と遺伝子産物の機能を明らかにしてきた.それらの結果を基に推定されたポリcis-1,4-イソプレン分解経路を図4図4■NBRC15532株における推定のポリcis-1,4-イソプレン分解経路に示す.これまでに知られているいくつかのゴム分解菌でも同様の天然ゴム分解経路が推定されているが1),イソプレンオリゴマーの細胞内への取り込みやゴム分解にかかわる酵素遺伝子の転写制御メカニズムに関する知見は得られていない.さらに現状では,ラテックスグローブの分解に20日程度を要するうえ,さらに高度に加硫されたタイヤなどのゴム製品に対する分解能は低いことが示されている.そのため,微生物酵素を用いたゴム廃棄物処理技術の社会実装を達成するためには,まだ明らかにされていない天然ゴム分解機構の全容を解明し,酵素の機能強化や発現量増大などのゴム分解菌自体の育種につなげる必要があると考えている.さらにはゴム分解菌の機能強化に加えて,培養工学的手法を駆使したゴム分解反応の効率化が必要になるだろう.ゴム分解菌を利用して廃棄物からのイソプレンオリゴマー生産技術が開発できれば,ゴム廃棄物の削減と資源としての再利用による環境負荷の低減に寄与できると考えられる.将来的には,これらの技術を化石資源由来の合成イソプレンゴム廃棄物へと展開することで,年間約5億トンに及ぶ合成イソプレンゴム廃棄物由来の温室効果ガスの排出削減につながり,持続可能社会創成の基盤構築に大きく貢献できると期待される.

Reference

1) K. Rose & A. Steinbüchel: Appl. Environ. Microbiol., 71, 2803 (2005).

2) E. M. Ibrahim, M. Arenskötter, H. Luftmann & A. Steinbüchel: Appl. Environ. Microbiol., 72, 3375 (2006).

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5) D. V. Linh, N. L. Huong, M. Tabata, S. Imai, S. Iijima, D. Kasai, T. K. Anh & M. Fukuda: J. Biosci. Bioeng., 123, 412 (2017).

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7) D. V. Linh, N. Gibu, M. Tabata, S. Imai, A. Hosoyama, A. Yamazoe, D. Kasai & M. Fukuda: Biotechnol. Rep. (Amst.), 22, e00332 (2019).

8) R. Vivod, S. Oetermann, S. Hiessl, S. Gutsche, N. Remmers, C. Meinert, B. Voigt, K. Riedel & S. Steinbüchel: Appl. Microbiol. Biotechnol., 101, 7945 (2017).