解説

新しい水溶性食物繊維イソマルトデキストリンの開発ユニークな酵素でユニークなモノを創る

Development of a Novel Soluble Dietary Fiber, Isomaltodextrin: Creating Unique Materials by Unique Enzymes

Hikaru Watanabe

渡邊

株式会社林原研究部門

Takuo Yamamoto

山本 拓生

株式会社林原研究部門

Hajime Aga

阿賀

株式会社林原研究部門

Tomoyuki Nishimoto

西本 友之

株式会社林原研究部門

Published: 2019-02-01

食物繊維は,生活習慣病の予防に重要な役割を果たす栄養素として知られているが,推奨される量を摂取することは容易ではなく,慢性的な食物繊維不足となっている(1, 2)1) 厚生労働省:平成25年国民健康・栄養調査結果の概要2) 厚生労働省:日本人の食事摂取基準(2015年版)の概要.われわれは微生物酵素の高度利用を目指し,特に澱粉から高付加価値糖質の生産を目的に糖質関連酵素の探索を行ってきた.その過程で多分岐α-グルカンの一種であるイソマルトデキストリン(IMD)を生成する新しい酵素系を見いだし,それを利用したIMDの工業生産に成功した.IMDは,新しい水溶性食物繊維の一種であり,さまざまな食品に無理なく配合できるため,上述のような慢性的な食物繊維不足を簡単に補うことができる.本稿では,IMDの生成にかかわる酵素の発見からその生理機能および水溶性食物繊維の新たな選択肢としての利用例について解説する.

IMD生成酵素の発見

1. 酵素スクリーニング

澱粉から食物繊維として機能する新しい糖質素材の開発を目的に,澱粉(ここではデキストリンを使用)から消化酵素耐性糖質を生成する酵素生産菌のスクリーニングを行った.土壌単離株約1,700株について検討した結果,酵素反応液のTLC分析において消化酵素耐性糖質のスポットを生成するPaenibacillus alginolyticus(旧Bacillus circulans)PP710株を得た.本菌株の培養上清を粗酵素液としてデキストリンに作用させ,消化酵素耐性糖質を含む糖化物を調製した.酵素-HPLC法による水溶性食物繊維分析法に準じて測定した食物繊維含量は80%であった.酸分解およびNMR分析において,本糖化物はグルコースのみで構成され,その結合様式はα結合のみであった.ゲルろ過クロマトグラフィー(GPC)分析の結果,重量平均分子量(Mw)は4,100,数平均分子量(Mn)は1,990, Mw/Mnは2.1であり,基質として用いたデキストリンと比較すると,低分子化すると共に分子量分布が収束していることがわかった.さらにメチル化分析から,本糖化物中にはα-1,6結合が48.8%,α-1,3結合が2.6%,α-1,3,6結合が6.8%認められ,多分岐のα-グルカンであることがわかった(3)3) K. Tsusaki, H. Watanabe, T. Nishimoto, T. Yamamoto, M. Kubota & S. Fukuda: Carbohydr. Res., 344, 2151 (2009).図1図1■IMDの推定構造式).基質にはない分岐構造の大幅な増加が,消化酵素耐性に寄与していると考えられた.われわれは本糖質をイソマルトデキストリン(IMD)と命名した.

図1■IMDの推定構造式

(a)非還元末端グルコース (b)α-1,3結合グルコース (c)α-1,4結合グルコース (d)α-1,6結合グルコース (e)α-1,3,6結合グルコース (f)α-1,4,6結合グルコース (g)還元末端グルコース

2. IMD生成に関与する6-α-グルコシルトランスフェラーゼ

IMD生成に関与する酵素を精製し,諸性質を調査することとした.本菌株の培養上清中にはα-グルカンに対する2種の酵素,すなわち6-α-グルコシルトランスフェラーゼおよびα-アミラーゼが存在したため,まず6-α-グルコシルトランスフェラーゼを精製し,酵素的諸性質を調査した.その結果,本酵素はマルトース以上のデキストリンに作用し,主にα-1,6グルコシル転移反応を触媒した.本酵素をデキストリンに作用させ,得られた糖化物の構造解析および酵素-HPLC法による食物繊維含量の測定を行った.メチル化分析の結果,糖化物中にα-1,6結合の顕著な増加,また微量ながらα-1,3結合およびα-1,3,6結合の生成が認められた.GPC分析により重量平均分子量(Mw)は59,000,数平均分子量(Mn)は3,840, Mw/Mnは15.4であった.本糖化物の食物繊維含量は50%であった.これらの結果は粗酵素液を用いた場合の分子量分布(Mw/Mn=2.1)や食物繊維含量(80%)と大きく異なっていることから,IMDの生成には本酵素に加えてα-アミラーゼの関与が示唆された(4)4) K. Tsusaki, H. Watanabe, T. Yamamoto, T. Nishimoto, H. Chaen & S. Fukuda: Biosci. Biotechnol. Biochem., 76, 721 (2012).

3. IMD生成に関与するα-アミラーゼ

6-α-グルコシルトランスフェラーゼの作用によって生成する糖化物の分子量分布および食物繊維含量が,粗酵素により生成するIMDとは大きく異なることがわかった.そこで,粗酵素中に含まれるα-アミラーゼを精製し,諸性質を調査した.本酵素はマルトース以上のα-1,4グルカンに作用した場合,CGTase(分子間,分子内α-1,4グルカン転移反応)と同様の反応を触媒した.一方でα-1,4グルカンとα-1,6グルカンが共存し,α-1,6グルカンが受容体として存在する場合には,α-1,3グルカン転移反応を優先的に触媒し,α-1,3,6結合を生成した.本酵素を単独でα-1,4グルカンに作用させてもIMDは全く生成しなかったが,6-α-グルコシルトランスフェラーゼと同時に作用させた場合,分子量分布が収束したIMD(Mw/Mn=2.2)の生成が認められ,その食物繊維含量は77%に達した.以上の結果から,デキストリンからの食物繊維含量の高いIMDの生成には両酵素の協同的な作用が必要であることがわかった(4)4) K. Tsusaki, H. Watanabe, T. Yamamoto, T. Nishimoto, H. Chaen & S. Fukuda: Biosci. Biotechnol. Biochem., 76, 721 (2012).図2図2■IMD生成酵素の反応機構とIMDの生成メカニズム).

図2■IMD生成酵素の反応機構とIMDの生成メカニズム

AGT: 6-α-グルコシルトランスフェラーゼ,AMY: α-アミラーゼ

IMDとは?

1. 製法と基本構造

IMD(商品名:ファイバリクサ®)は,工業的にはPaenibacillus alginolyticus PP710株が産生する2種類の酵素,6-α-グルコシルトランスフェラーゼとα-アミラーゼを澱粉に作用させたのち,一般的な酵素糖化水飴の精製工程と噴霧乾燥工程を組み合わせることによって製造される.工業的に生産されたIMDの基本的な情報の一例を以下に示す.重量平均分子量は約5,000,数平均分子量は約2,500,グルコース重合度が1~約62の成分を含み,平均重合度は30,グルコース当量(DE)は約7であった.結合の種類は非還元末端が約17%,α-1,3結合が約3%,α-1,4結合が約19%,α-1,6結合が約49%,α-1,3,6結合が約7%,α-1,4,6結合が約5%であった.酵素-HPLC法による分析では,食物繊維を固形分当たり80%以上含有していた.

2. 安全性

IMDは米国において一般に安全と認められる「Generally Recognized As Safe(GRAS)」食品として評価され,米国食品医薬品局(FDA: Food and Drug Administration)より,2016年6月6日にGRASの認証を受けている(5)5) U.S. Food and Drug Administration: GRAS Notices. FDA, Silver Spring, USA. http://www.accessdata.fda.gov/scripts/fdcc/?set=GRASNotices

一方で,外部安全性評価機関による各種安全性試験も実施されており,変異原性:陰性,遺伝毒性:陰性,急性毒性:2,000 mg/kgで有害事象なし,90日反復毒性:1,000 mg/kgで有害事象なし,と評価されている.ヒトの下痢に対する最大無作用量は0.8 g/kg-体重であり,糖アルコールやオリゴ糖に比べて比較的高い値となっている.また,ヒトにおける長期摂取試験(10 g/日を12週間)および過剰摂取試験(30 g/日を4週間)についてもそれぞれ実施されており,有害事象なし,と評価されている(6)6) T. Sadakiyo, S. Inoue, Y. Ishida, H. Watanabe, H. Mitsuzumi & S. Ushio: Fundam. Toxicol. Sci., 4, 57 (2017).

IMDの諸物性

1. 基本物性

IMDの製造工程には,酸触媒存在下での高温加熱工程が存在しないため,できあがった製品は白度の高い粉末である.甘さはほとんどなく(砂糖の20分の1程度),無臭で,デキストリン特有の後味もない.粉末の吸湿性は,低湿度ではマルトデキストリン(DE8)と同程度であり,高湿度ではやや高いが,総じて低く,潮解しにくい.水への溶解性は高く,20°Cの水100 gに対して70 g以上溶解する.また,マルトデキストリン(DE8)に比べ,溶解スピードが速く,ダマになりにくい.水溶液の粘度はアラビアガムなどの増粘多糖類に比べて顕著に低く,マルトデキストリン(DE8)に比べても低い.水溶液の浸透圧はマルトデキストリン(DE8)に比べ高く,10%(w/w)で1.2倍(IMD: 65.9 mOsm/kg,マルトデキストリン:53.2 mOsm/kg),40%(w/w)で1.5倍(IMD: 1,100 mOsm/kg,マルトデキストリン:739 mOsm/kg)となる.

2. 安定性

IMDは食品加工上のさまざまな処理に対して高い安定性を示す.加熱時の安定性については,10%(w/w)水溶液をpH 2.4, 5.0, 7.0の各条件で,100°C,60分の処理を行っても分解は見られなかった.さらに,120°C,10分のレトルト処理においても同様に分解は見られなかった.冷蔵・冷凍時の安定性も高く,比較的DEの低いデキストリンでは問題となる老化現象(濁りの発生や沈殿の析出)も全く見られなかった.粉末自体に着色がないため,水溶液も無色澄明であり,10%(w/w)水溶液をpH 7.0, 40°Cで5週間保存しても着色度は変化しなかった.さらに,pH 7.0, 100°Cで60分加熱した場合でも着色度はほとんど変化しなかった.10%(w/w)水溶液を用いてタンパク質(ポリペプトン)とのメイラード反応性を検討したところ,マルトデキストリン(DE8)と同程度に着色性が低かった.

IMDの生理作用

IMDは水溶性が高く,食物繊維を固形分当り80%以上含有する.したがって,水溶性食物繊維としての生理機能が期待されたため,種々の検討を行った.以下に確認できている生理機能を紹介する.

1. 腸内細菌叢改善作用

IMDの摂取がラットにおいてビフィズス菌を増やし,主要細菌2門間の比率を効率的に低下させることが確認されている(7)7) N. Nishimura, H. Tanabe & T. Yamamoto: Biosci. Biotechnol. Biochem., 80, 554 (2016)..ラットにIMDを3.3,6.7,10.0%含む飼料を与えて2週間飼育し,盲腸内容物中のビフィズス菌,ファーミキューテス門,バクテロイデス門の細菌数を測定した.その結果,IMD6.7%以上の群で,善玉菌の代表であるビフィズス菌数が対照群(IMD0%)と比較して約100倍増加した.また肥満に関連すると報告されている,ファーミキューテス門の細菌数(F)とバクテロイデス門の細菌数(B)の比率(F/B比率)は,IMD3.3%以上の群で対照群よりも有意に低下し,6.6%群ではおよそ1/10となった.F/B比率の低下と肥満度の低下には正の相関があることが報告されており(8, 9)8) R. E. Ley, P. J. Turnbaugh, S. Klein & J. I. Gordon: Nature, 444, 1022 (2006).9) F. J. Verdam, S. Fuentes, C. Jonge, E. G. Zoetendal, R. Erbil, J. W. Greve, W. A. Buurman, W. M. de Vos & S. S. Rensen: Obesity, 21, E607 (2013).,IMDの腸内細菌叢改善作用を起点とした抗肥満作用が期待される.

2. 下痢軽減作用

IMDの摂取がマウスにおいて,下痢症状を軽減することが確認されている.マウスに通常飼料を与え,飲料として水(対照群)あるいは2%IMD水溶液を2週間前投与した.その後,2.5%デキストラン硫酸ナトリウム水溶液(対照群)あるいは2%IMD+2.5%デキストラン硫酸ナトリウム水溶液を6日間投与したところ,4日目以降,下痢症状が対照群に比べて有意に低下した(10)10) C. Arai, T. Sakurai, S. Koya-Miyata, S. Arai, Y. Taniguchi, C. Yoshizane, K. Tsuji-Takayama, H. Watanabe, S. Ushio & S. Fukuda: Food Sci. Technol. Res., 23, 305 (2017).

3. 免疫調節作用

IMDの摂取がマウスにおいて,腸管内で病原菌などを排除する抗体(IgA)の分泌を促進したり,アレルギーのもととなる抗体(IgE)の分泌を抑制したりすることが確認されている.マウスに通常飼料を与え,飲料として水(対照群),あるいはIMD水溶液(2%,5%)を与えて4週間飼育した.糞便中のIgA抗体量を測定したところ,飼育3, 4週目のIMD5%群において,IgA量が対照群に比較して有意に増加した.一方で,マウスに通常飼料を与え,飲料には水(対照群),あるいはIMD水溶液(2,5%)を与えて5週間飼育した試験において,飼育1週間後および3週間後に,卵白アルブミン(OVA)を腹腔内投与してIgEを誘導し,飼育5週後に血清中の抗体(IgE)量を測定したところIMD5%群において血清中のOVAに対するIgE量が対照群に比較して有意に低下した(論文未発表).

4. 脂質代謝改善作用

IMDの摂取がマウスにおいて,食後高脂血症や肝臓への脂肪蓄積を抑制することが確認されている.マウスに通常食と水,高脂肪食と水(対照群),または高脂肪食と2%IMD水溶液を与え,3週間飼育した.3週間後にオリーブ油を経口投与し,投与前後での血中中性脂肪値を測定した.高脂肪食と水を与えた群では,通常食と水を与えた群と比較して,オリーブ油投与2時間後の血中中性脂肪量が2倍以上になった(食後高脂血症).一方で,高脂肪食と2%IMD水溶液を与えた群では血中中性脂肪値が有意に低下し,通常食を与えた群と同レベルに維持された.次に,マウスに8週間の高脂肪食を与える肥満誘導実験をおこなった.高脂肪食と水を与えたマウス(対照群)は,肝臓脂肪の蓄積が誘導されたが,高脂肪食と2%IMD水溶液を与えた群では,肝臓重量および肝臓脂肪量が対照群よりも有意に低下した(論文未発表).

5. 便通改善作用

IMDの摂取がヒトにおいて,便通を改善させる作用を有することが確認されている.1週間の排便回数が4回以下の健常成人にIMD 5 gを配合した清涼飲料水を毎日1本,2週間摂取(試験区)させ,対照区(IMD非配合清涼飲料水を毎日1本,2週間摂取)と比較したところ,試験区における排便日数および排便量が有意に増加した(11)11) Y. Ishida, T. Sadakiyo, H. Watanabe, H. Mitsuzumi, S. Ushio, I. Takehara & K. Takano: Jpn. Pharmacol. Ther., 45, 609 (2017).図3図3■IMDの便通改善作用).この作用のメカニズムとしては,まず大腸に届いたIMDが腸内細菌に資化され,その代謝物として短鎖脂肪酸が生成する.その短鎖脂肪酸が腸管を刺激し,腸の蠕動運動を活性化することにより,排便が促されると推定される.

図3■IMDの便通改善作用

1週間の排便回数が4回以下の健常成人17名にIMD 5 g入り飲料を2週間摂取させ,対照群(IMD非配合飲料摂取群)と比較した.

6. 血糖上昇抑制作用

ヒトにおいて,IMDを砂糖やマルトデキストリンなどの糖質と同時摂取した場合,摂取後の血糖上昇を抑制することが確認されている.砂糖100 gもしくはマルトデキストリン50 gのみを摂取させたときに血糖値が上がりやすかった被験者を対象にIMD 10 gを添加した砂糖100 gもしくはマルトデキストリン50 gを摂取させたところ,IMDなしのときにくらべて血糖値の上昇が抑制された(12)12) T. Sadakiyo, Y. Ishida, S. Inoue, Y. Taniguchi, T. Sakurai, R. Takagaki, M. Kurose, T. Mori, A. Yasuda-Yamashita, H. Mitsuzumi et al.: Food Nutr. Res., 61, 1325306 (2017).図4図4■IMDの血糖上昇抑制作用(1)).さらに,IMDをグルコースと同時摂取した場合にも同様の作用が確認されている.グルコース50 gのみを摂取させたときに血糖値が上がりやすかった被験者を対象にIMD 2.5 gを添加したグルコース50 gを摂取させたところ,IMDなしのときにくらべて血糖値の上昇が抑制された(13)13) Y. Ishida, T. Sadakiyo, S. Inoue, H. Watanabe, H. Mitsuzumi, S. Fukuda, S. Ushio & J. Hiramatsu: Jpn. Pharmacol. Ther., 45, 1179 (2017).図5図5■IMDの血糖上昇抑制作用(2)).これらの作用のメカニズムとしては,IMDが消化管にあるグルコース輸送体に直接作用し,食事由来のグルコースを体内へ取り込むことを阻害するためであると推定される.

図4■IMDの血糖上昇抑制作用(1)

血糖値の比較的上がりやすい健常成人において,砂糖またはマルトデキストリン負荷時の血糖上昇をIMDの同時摂取の有無で比較した.

図5■IMDの血糖上昇抑制作用(2)

血糖値の比較的上がりやすい健常成人において,グルコース負荷時の血糖上昇をIMDの同時摂取の有無で比較した.Cmaxは各被験者の最大血糖値の平均値を示す.

7. 食後血中中性脂肪上昇抑制作用

ヒトにおいて,IMDを脂質と同時摂取した場合,摂取後の血中中性脂肪値の上昇を抑制することが確認されている.食後の血中中性脂肪値が高めな健常成人に2.5 gのIMDを添加したコーンスープ(脂質量40 g)もしくはIMDを添加しないコーンスープを摂取させた.その結果,IMDを添加した場合,IMDなしのときにくらべて血中中性脂肪値の上昇が抑制された(14)14) R. Takagaki, Y. Ishida, T. Sadakiyo, Y. Taniguchi, T. Sakurai, H. Mitsuzumi, H. Watanabe, S. Fukuda & S. Ushio: PLOS ONE, 13, e0196802 (2018).図6図6■IMDの食後血中中性脂肪上昇抑制作用).この作用のメカニズムとしては,消化管で脂質が吸収される際に必要な胆汁酸ミセルの崩壊をIMDが抑制し,さらに胆汁酸ミセルを負に荷電させることにより腸管への接近を遅延させることであると推定される.

図6■IMDの食後血中中性脂肪上昇抑制作用

食後の血中中性脂肪が高めな健常成人において,グルコース負荷時の血糖上昇をIMDの同時摂取の有無で比較した.Cmaxは各被験者の最大血糖値の平均値を示す.

IMDの食品への利用

1. 食物繊維補給

IMDの食品への配合目的としては,主に食物繊維の補給が挙げられる.IMDは固形分当り80%以上の食物繊維を含有するため,国が定める食品表示基準を満たす量を食品に配合することにより,食物繊維の栄養強調表示が可能となる.具体的にはIMDを食品100 gあたり3.8 g以上,飲料の場合は100 mL当たり1.9 g以上配合することにより,「食物繊維入」など食物繊維を含む旨の表示が可能となる.

IMDは独自の製法により,色がない(白い),においがない,甘味がほとんどない(砂糖の20分の1程度),といった特徴を有しており,また水溶性も高いことから,飲料,製菓,乳製品,主食,調理加工品などのあらゆる食品に配合可能である.色がないことを利用すれば,米飯やヨーグルトなど,もともと色が白い食品への配合時にメリットがでてくる.また,においがない,甘味がほとんどないことを利用すれば,緑茶や紅茶などの風味を大切にする飲料への配合時にメリットがでてくる.

2. 機能性表示食品

食物繊維補給以外の目的としては,生理機能を利用した健康訴求の食品への配合が考えられる.前述したように「便通改善作用」,「血糖上昇抑制作用」,「食後血中中性脂肪上昇抑制作用」の3つの生理機能については,健常成人でのエビデンスが得られており,それぞれ論文化もされていることから「機能性表示食品」制度を利用して,健康の維持増進に関する機能性を食品に表示することが可能である.われわれはこれら3つの機能について,消費者庁への届出サポートを行っており,2019年9月30日時点で8件の受理実績が得られている.

おわりに

われわれが独自に開発した新しい水溶性食物繊維IMDは,色・におい・味の観点から食品への汎用性が高く,また食品加工上のさまざまな処理にも安定な食品素材となっている.また,腸内細菌叢を改善することでさまざまな健康機能を発揮するポテンシャルも有しており,食物繊維補給用途や機能性表示食品用途での利用が期待される.

Acknowledgments

このたびは栄誉ある日本農芸化学会農芸化学技術賞受賞にあたり,ご選考いただきました諸先生方に厚く御礼申し上げます.本研究は株式会社林原生物化学研究所および株式会社林原においてなされた成果です.本研究を遂行するにあたり,ご指導をいただきました故辻阪好夫博士,福田惠温博士に厚く御礼申し上げます.本研究成果は株式会社林原の多くの関係者に尽力によるものであり,関係の皆様に深く感謝いたします.

Reference

1) 厚生労働省:平成25年国民健康・栄養調査結果の概要

2) 厚生労働省:日本人の食事摂取基準(2015年版)の概要

3) K. Tsusaki, H. Watanabe, T. Nishimoto, T. Yamamoto, M. Kubota & S. Fukuda: Carbohydr. Res., 344, 2151 (2009).

4) K. Tsusaki, H. Watanabe, T. Yamamoto, T. Nishimoto, H. Chaen & S. Fukuda: Biosci. Biotechnol. Biochem., 76, 721 (2012).

5) U.S. Food and Drug Administration: GRAS Notices. FDA, Silver Spring, USA. http://www.accessdata.fda.gov/scripts/fdcc/?set=GRASNotices

6) T. Sadakiyo, S. Inoue, Y. Ishida, H. Watanabe, H. Mitsuzumi & S. Ushio: Fundam. Toxicol. Sci., 4, 57 (2017).

7) N. Nishimura, H. Tanabe & T. Yamamoto: Biosci. Biotechnol. Biochem., 80, 554 (2016).

8) R. E. Ley, P. J. Turnbaugh, S. Klein & J. I. Gordon: Nature, 444, 1022 (2006).

9) F. J. Verdam, S. Fuentes, C. Jonge, E. G. Zoetendal, R. Erbil, J. W. Greve, W. A. Buurman, W. M. de Vos & S. S. Rensen: Obesity, 21, E607 (2013).

10) C. Arai, T. Sakurai, S. Koya-Miyata, S. Arai, Y. Taniguchi, C. Yoshizane, K. Tsuji-Takayama, H. Watanabe, S. Ushio & S. Fukuda: Food Sci. Technol. Res., 23, 305 (2017).

11) Y. Ishida, T. Sadakiyo, H. Watanabe, H. Mitsuzumi, S. Ushio, I. Takehara & K. Takano: Jpn. Pharmacol. Ther., 45, 609 (2017).

12) T. Sadakiyo, Y. Ishida, S. Inoue, Y. Taniguchi, T. Sakurai, R. Takagaki, M. Kurose, T. Mori, A. Yasuda-Yamashita, H. Mitsuzumi et al.: Food Nutr. Res., 61, 1325306 (2017).

13) Y. Ishida, T. Sadakiyo, S. Inoue, H. Watanabe, H. Mitsuzumi, S. Fukuda, S. Ushio & J. Hiramatsu: Jpn. Pharmacol. Ther., 45, 1179 (2017).

14) R. Takagaki, Y. Ishida, T. Sadakiyo, Y. Taniguchi, T. Sakurai, H. Mitsuzumi, H. Watanabe, S. Fukuda & S. Ushio: PLOS ONE, 13, e0196802 (2018).