プロダクトイノベーション

新精米法による新たな機能性米「金賞健康米」の創出機能性成分を残すための新精米法の開発

Norifumi Shirasaka

白坂 憲章

近畿大学農学部応用生命化学科

Published: 2019-02-01

はじめに

日本人の食卓に欠かせない米は,本来非常に多くの栄養素を含む栄養価の高い食材であるが,大部分の栄養素は精米時に糠として取り除かれてしまい,精白米にはほとんど残らない.しかし,古くから白米だけのごはんのことを“銀舎利”と呼び,白米をおなか一杯食べることが最高の贅沢とされていた時代もある.米を美味しく食べるためには米をきれいに搗精することが必須であり,その結果,外皮に近い部分に含まれる栄養素が取り除かれてしまっても仕方がないというのが従来の精米の基本的な考え方であったといえる.一方,健康維持という観点から玄米や糠の機能性が話題になることも少なくなく,これらを美味しく食べる方法などが紹介されることもしばしばであるが,いくら健康に良いとはいえ,搗精(精米)度を低くして胚芽を残存させた胚芽米やほとんど削らない玄米などは,炊飯後の見た目の悪さや食べにくさ,消化性の問題などから広く消費されているという状況ではない.つまり,健康にはなりたいが,おいしいものも食べたいというのが大部分の人々の考え方であり,“健康に良いなら美味しくなくても良い”という考え方は広く受け入れられているわけではない.それでは,健康維持に役立つ成分を多く含んだ美味しい白米というのは存在しないのであろうか? その問いが「金賞健康米」の出発点であった.

米に含まれる栄養成分

米は玄米の状態ではミネラル,ビタミン類(B群,E群),食物繊維などを豊富に含む栄養価の高い食品である.これらの成分は主に玄米穀粒の外側に分布しており,精白米へと加工することにより100 gあたりのエネルギーはほとんど変化しないが,ミネラルは約1/3に,ビタミンB群は1/2~1/5に,食物繊維は約1/6になってしまう(表1表1■玄米と白米の成分比較).このことは,精米加工により米の栄養特性が大きく変化していることを表しており,特に食物繊維量の変化により,食味および消化性も顕著に変化する.食物繊維が減少することにより白米は消化が良くなり食味も向上し“美味しく”なるがビタミン,ミネラル,食物繊維の摂取量は極端に低下してしまう.一方,玄米ではさまざまな栄養成分を摂取することが可能であるが,不溶性食物繊維が多いためモサモサした食味となり,消化吸収の悪さも目立つようになる.また,これら以外にも,搗精度を僅かに下げた“七分つき米”や胚芽を80%以上残した“胚芽精米”などがあるが,従来の精米方法を用いると,搗精度を低くすることによりある程度栄養成分の残存率は上がるものの,食味は確実に低下することが知られており,何処まで我慢して食べられるかという感覚であった.そのため,搗精度を落としたこれらの米の消費は伸びていない.

表1■玄米と白米の成分比較
100 g当たりの成分比率(玄米/白米)
白米玄米
エネルギー(kcal)3583530.99
たんぱく質(g)671.11
脂質(g)133.00
炭水化物(g)78740.96
灰分(g)013.00
ナトリウム(mg)111.00
カリウム(mg)892302.58
カルシウム(mg)591.80
マグネシウム(mg)231104.78
リン(mg)952903.05
鉄(mg)122.63
亜鉛(mg)121.29
銅(mg)001.23
マンガン(mg)122.54
ビタミン
ビタミンE(mg)0112.00
ビタミンB1(mg)005.13
ビタミンB2(mg)002.00
ナイアシン(mg)165.25
ビタミンB6(mg)003.75
葉酸(µg)12272.25
パントテン酸(mg)112.08
食物繊維
(水溶性)(g)01
(不溶性)(g)124.60
七訂食品成分表より抜粋1)1) 香川明夫監修:七訂“食品成分表2019”,女子栄養大学出版部,2019, pp. 8-11.

新しい精米方法の開発に向けた共同研究

一般的な精米プロセスは,大きく「摩擦系」と「研削系」に分けられる(2)2) 小峰卓一:農業機械学会誌,40,589(1979)..摩擦精米は,玄米穀粒同士の接触摩擦力によって柔らかい糠層を薄片状に除く方法で,食味の低下をもたらす胚芽の除去が容易で,炊飯米の食味が良くなるという利点がある.しかし一方で,米自体に大きな圧力がかかるため,温度上昇しやすく成分変質による食味悪化や,割れ米が増えるなどの短所がある.一方,研削精米は,高速で回転する硬いロールの研削作用によって穀粒の外皮を研削,研磨する方法で,穀粒に摩擦精米のような強い圧力がかからないため強度の弱い米でも割れ米が生じにくいという利点があるが,精白米の表面に細かい傷が残り,炊飯米の食味が摩擦式よりも悪くなるという短所をもつ.ここで,玄米に含まれる栄養素は胚芽の部分に多く含まれていることから,“栄養成分を残す”ための精米では,胚芽のほとんどが取り除かれてしまう摩擦精米は適していない.また,研削精米では胚芽を残すことは可能であるが,炊飯米の食味が摩擦精米よりも劣るため,“おいしさを維持しながら”という目的には合致しない.そのため,新しい精米方法を開発するための共同研究は,精米業者である幸南食糧による精米方法の検討と近畿大学による成分分析を複合させたプロジェクトとして開始することとなった.

新精米法の特徴と金賞健康米の誕生

新精米法の開発にあたって,まず幸南食糧が削りを調整して胚芽の残存率を高める試みを行い,近畿大学がビタミンEや食物繊維の残り量を分析することから開始した.削りの調整は,幸南食糧の熟練した技術者が既存の精米機を手動でコントロールすることにより行った.いくつかの試作品を分析した結果,栄養成分が適当量残った状態にすることに成功し,食味的にも通常の精米のものと変わらないものを作ることができた.ここに,胚芽を残しながら食味も良い状態で維持した新製品“金賞健康米”の原型が誕生したわけであるが,製品として上市するにあたり製品の分析値を従来のものと比較して示すだけでは製品としての訴求力が弱いと考えた.そこで,単に栄養素の量を測るだけでなく,食品分野では応用例の少ないイメージング質量分析(MALDI-IMS)(3)3) 久後裕菜,山本彩実,森山達哉,財満信宏:J. Mass Spectrom. Soc. Jpn., 64, 11 (2016).の手法を用いて,精米された米のどの部分にビタミンEなどの栄養素が残されているかを可視化し,一般的な白米との差異を消費者に対してわかりやく画像で提示できるようにした.また,製品化のためには,新精米法の原理を大規模化するために精米機メーカーに精米機の開発を依頼し,摩擦精米のように米に圧力をかけずに,表面の糠をブレードでかつお節を削るように削いでいく方式の精米機を開発した.この方式の精米機が新たに導入されたことで,従来の研削法による精米よりも精白米の表面に傷が残らない精米を大規模に行うことが可能となった.

大規模精米による製品の評価,分析を行い,試作品と同等の品質をもつことを確認できたため,ここに新しい白米,すなわち栄養成分を豊富に残したまま白い炊き上がりになる新しい白米の開発が現実のものとなった.

金賞健康米の特徴

1. 胚芽残存率の違い

金賞健康米は胚芽の残存率を高める精米方法で精米されており,ビタミンB1やビタミンEなどの含有量が従来の精米法による白米よりも高いことが特徴である.表2表2■精米法の違いによる胚芽残存率の比較は精白米における胚芽残存率を従来法と新精米法で精米した白米について調べた結果である.ともに同一原料米を用いて幸南食糧にて精米したものを分析に用いているが,従来法では胚盤(胚芽と胚乳の境界の組織)は50%程度残存しているものの,胚芽の25%以上が残存しているものは10%程度とほとんど胚芽が残っているものはなかった.一方,新精米法の場合は25%以上の胚芽が残存しているものが全体の70%程度あり,新精米法により胚芽を残存させた精白米を調製することができることがわかった(表2表2■精米法の違いによる胚芽残存率の比較).

表2■精米法の違いによる胚芽残存率の比較

2. 機能性成分の分布

通常,新しい食品の開発には研究機関が根拠を科学的に証明することが必要不可欠である.私たちは共同研究をすすめるなかで,新商品の優位性をよりわかりやすく消費者に説明するために,精米された米のビタミン類や食物繊維などの栄養素の量を測るだけでなく,どこに分布しているかを先に述べたイメージング質量分析(MALDI-IMS)という手法を用いて可視化したデータを示すことにした.図1図1■イメージング質量分析による米の機能性成分の分布の解析に示したのは,従来の精米法と新精米法でそれぞれ精米した米の切片をMALDI-IMSで解析した結果である.胚乳全体に分布してリゾリン脂質はいずれの精米法でも同様の分布を示しているが,抗酸化ビタミンであるビタミンE(α-トコフェロール)は,従来の精米法で精米した米では杯盤の位置にわずかに検出されるのみであるが,新精米法で精米した精白米(金賞健康米)では,残存する胚芽の位置にはっきりと存在が確認された.

図1■イメージング質量分析による米の機能性成分の分布の解析

3. 食味

同一原料米の精米歩合の異なる米(玄米,金賞健康米,白米)を炊飯し,それぞれの食味を穀物検定協会の食味評価の方法にしたがって評価した.今回のプロジェクトの目的の一つが“食味が変わらない”精米であり,金賞健康米でこの点がクリアできているかを大学生の男女をモニターに検証を行った.従来,胚芽を残すために搗精度を落とすとその分だけ糠の残存率が上がり,その結果,外観や香りも評価値が低くなることが知られている.図2図2■精米度合いと食味の比較の結果が示すように,玄米では顕著に食味が異なっていたが,金賞健康米は従来法の白米とほぼ同じ評価となった.すなわち,食味をほとんど低下させることなく栄養成分を残存させることに成功したと言える.

図2■精米度合いと食味の比較

おわりに

新しい商品を世に出すためには,大学のもつ研究力だけでなく企業の発想や熱意が必要なことは言うまでもないが,開発したものを商品として定着させていくためには良いものを創造するだけでなく,新しい価値を消費者にわかりやすく説明し,その価値を訴求していくことが大事であることを改めて実感した.商品の売り上げをあげるには,宣伝や広告を時代にあわせて行うことも必要であり,時期を逃すとせっかくの宣伝も空振りに終わってしまうこともある.そういった点で金賞健康米は,近大マグロやウナギ味のナマズといった大学の看板商品とのコラボレーションを通じて産学連携商品として大学の広報に取り上げてもらう機会にも恵まれ,現在年間売り上げ2億を超える商品に成長している.金賞健康米は従来の精米法ではなしえなかった“美味しさそのままで栄養も豊富”という新しい価値を創造できた商品であるが,その健康機能については未知の部分も多い.近年は,炊飯米や蒸米などに酸性プロテアーゼに対して消化抵抗性を示す生米にはない成分,いわゆるレジスタントプロテイン(4)4) 渡辺敏郎,高岡素子,井上淳詞,加藤範久:生物工学会誌,97,174(2019).が生成しているという報告もあり,米のもつ健康機能性に関する研究はこれから始まる部分も多くあるように思う.金賞健康米は現在,一般社団法人機能性健康米協会(5)5) 機能性健康米協会ホームページ:http://kenkoumai.net/を中心にその機能性の解明が進められている,研究の成果として日本人の主食である米の新しい機能性が見いだされるのもそう遠い未来ではないと思う.機能性健康米協会では,不定期ではあるが研究助成や産学共同研究セミナーを行っており,一緒に米の機能性に関する研究を行っていただける研究者を募集している.興味をもたれた方は是非ともご一報いただきたい.

Reference

1) 香川明夫監修:七訂“食品成分表2019”,女子栄養大学出版部,2019, pp. 8-11.

2) 小峰卓一:農業機械学会誌,40,589(1979).

3) 久後裕菜,山本彩実,森山達哉,財満信宏:J. Mass Spectrom. Soc. Jpn., 64, 11 (2016).

4) 渡辺敏郎,高岡素子,井上淳詞,加藤範久:生物工学会誌,97,174(2019).

5) 機能性健康米協会ホームページ:http://kenkoumai.net/