学界の動き

愛媛大学大学院連合農学研究科の歩み四国の3構成大学の連携による農学系博士人材の育成

Hiroki Oue

大上 博基

愛媛大学

Published: 2019-02-01

はじめに

愛媛大学大学院連合農学研究科(「愛媛連大」)は,昭和60年4月の創設以来,令和元年9月修了時までに,課程修了者(課程博士)1,043名と,課程を経ない者(論文博士)189名の合計1,232名に,学位を授与してきた.このなかで,662名の課程博士と45名の論文博士が外国人留学生である.本研究科は,愛媛,香川および高知の3大学によって構成され,主幹大学として本部を愛媛大学(農学部)に置き,各大学の修士課程である大学院農学研究科(愛媛大学・香川大学)および大学院総合人間自然科学研究科農学専攻(高知大学)と連結することによって,個々の大学のみでは包含が困難な広い専門分野にわたり,水準の高い教育・研究を行うことを可能とした博士後期課程の大学院である.平成31年4月1日現在,在籍学生数は104人で,そのうち外国人留学生が51人(バングラデシュ,インドネシア,タイ,中国,ネパール,ベトナム,モザンビーク,韓国,台湾,トルコの10か国)である.入学年度別・配属大学別の在籍学生数を表1表1■入学年度別・配属大学別の在籍学生数(平成31年4月1日現在)に示す.

表1■入学年度別・配属大学別の在籍学生数(平成31年4月1日現在)
入学年度平成在籍学生数配属大学
愛媛大学香川大学高知大学
252(0)2(0)0(0)0(0)
271(1)0(0)1(1)0(0)
2819(10)3(1)13(7)3(2)
2936(20)13(9)16(7)7(4)
3032(15)12(7)10(3)10(5)
3114(5)3(0)8(4)3(1)
104(51)33(17)48(22)23(12)
(注)( )内数字は,外国人留学生を内数で示す.

本研究科の概要

1. 本研究科の設立

昭和60年4月,愛媛,高知,香川3大学農学部により構成大学間協定書が批准され,愛媛大学大学院連合農学研究科(後期3年のみの博士課程)が,各構成大学の大学院(修士課程)と別の独立した大学院として愛媛大学に設置された.入学者は16名(うち外国人留学生5名)で,本研究科の第1回入学式が挙行された.

本研究科の沿革は,昭和45年7月に文部省大学設置審議会に「博士課程新構想大学院検討会」が設置されたことに遡る.その後,昭和53年4月に東京農工大学に設置された「農水産系連合大学院創設準備室」で,準備室による大学院構想と文部省の意向とのすり合わせの道のりを経て,東京農工大学大学院連合農学研究科(東京農工大連大)と時を同じくして愛媛連大が開設された.当時の激動を各記念誌(1, 2)1) 愛媛大学大学院連合農学研究科:愛媛大学大学院連合農学研究科設立10周年記念誌,1996.2)愛媛大学大学院連合農学研究科:愛媛大学大学院連合農学研究科設立30周年記念誌,2016.で知るのみの筆者にとっては,昭和58年に,愛媛大学前農学部長であった船田 周教授が上述の準備室室長に就任し,当準備室が連合大学院創設に向けての道を整備したことが,東京農工大学と愛媛大学に同時に連合大学院が設置されるという歴史を拓いたと理解している.東京農工大連大の開設に至る経緯と歴史は,船田(2016)(3)3)船田 良:化学と生物,54,924, (2016).に詳述されている.

2. アドミッションポリシーと教育理念

本研究科は,以下のアドミッションポリシーのもとに学生募集を行っている.「農学は,生物学,化学,物理学,工学,経済学,バイオテクノロジーなど,幅広い学問領域を結集・総合した学問であり,学際的な観点を包含しながら,自然と人間社会が調和した持続可能な関係を築いていく必要がある.したがって,既存の学問の枠組にとらわれることなく,幅広い知識と柔軟な発想力によって,生物機能への理解を深め,生物生産力の向上と生産物の効率的利用を図るとともに,地域的な視点からのみならず,地球規模での環境の保全を見据えた将来の農業のあり方を探求する人材を求めている.(一部抜粋)」.

また教育理念として,「人間,社会,自然への深い洞察に基づく総合的判断力と高度な専門分野の学識と技能が身につく教育を目指し,先見性と独創性のある研究を通して,世界に通用する多くの研究成果を産みだしながら,地域に役立つ人材,地域の発展を牽引する博士人材を養成する.さらに,世界各地から優秀な留学生を積極的に受け入れ,当該諸国の将来を担う中核的な研究者を育てることによって社会の持続可能な発展,人類と自然環境の調和に資するとともに世界平和に貢献する.(一部抜粋)」旨を掲げている.

現在の定員は17人であるが,毎年,定員を超える入学者数で推移している.なお,論文博士(論博)制度により,日本ならびに諸外国の研究機関において農学および関連分野の研究に従事する優れた研究者に対して,博士号取得の機会を提供している.

3. 研究内容・専攻および学位審査

本研究科は,生物資源生産学,生物資源利用学,生物環境保全学の3専攻と,それらに設置した合計8分野から成り(図1図1■愛媛大学大学院連合農学研究科の構成),学生はいずれかの専攻・分野に所属する.教育・研究は,本研究科構成3大学が各地域の農林畜水産業を学術面で推進・発展させてきた実績に基づき,多様な教育・研究資源を活かすとともに,各大学が有する各研究センターを中心とした先端研究と地域連携の強みを活かすことによって,農学および関連科学分野における学術的課題の解決に貢献することに特徴がある.

図1■愛媛大学大学院連合農学研究科の構成

研究内容の例として,水田農業などの農産業における持続的成長と食料安全保障の確保,農林水産現場における生産環境と生活環境の整備および保全,地球温暖化や自然災害に対する緩和策および農林水産業への影響を軽減する適応策,森林・農村・海洋の生物資源の利用と管理,熱帯雨林などの生態系の生物多様性と環境の保全,医農連携により新たな農産業を拓く機能性食品,Industry4.0やSociety5.0の実現を視野に入れIT技術を駆使したスマート農業による効率的かつ安定的な食料生産,生産から流通まで農山漁村の豊かな地域資源を活用し新たな付加価値を生み出す6次産業化などが挙げられる.

本研究科で研究指導のできる有資格教員になるためには,代議委員会が設置する教員資格審査委員会で書類審査され,8月下旬と2月下旬の研究科委員会で審議のうえ投票により合判定を受ける必要がある.研究科における研究水準と指導力の維持と向上を図るため,主指導教員は,資格取得後5年ごとに再審査を受け,本研究科の再審査委員会で適合と認められる必要がある.さらに,後述する熱帯・亜熱帯農学留学生特別プログラムでは,主指導資格の期限を3年としているため,主指導教員は本研究科の主指導教員資格のうえで,3年ごとに,国際的知名度,高度研究能力,英語力,異文化理解に関する資質,外国人研究者受入れ実績などを自己評価し,本研究科の選考委員会で適合と認められる必要がある.

一方,学位審査会は,毎年8月上旬と2月上旬に公開で実施され,1名の主査(ほとんどの場合,主指導教員)と4名以上の副査からなる学位審査委員会が各学位論文を審査する.それぞれの審査会で博士の学位を授与するに値すると判定された論文は,8月下旬と2月下旬の研究科委員会で合否判定される.平成28年3月から令和元年9月まで,各専攻における学位取得者数は,生物資源生産学48人(うち留学生28人,論博3人),生物資源利用学57人(うち留学生36人,論博1人),生物環境保全学23人(うち留学生8人,論博4人)である.授与される学位は,博士(農学)と博士(学術)である.

本研究科のプログラムとカリキュラムおよび研究指導

1. 研究指導体制とカリキュラムの特徴

前章2. に述べたポリシーと理念に基づき,本研究科は3つの専攻を設置し,国内外の大学院修士課程からの進学者,国内外の専門的な研究・教育現場で働く社会人などを受け入れている.本研究科の教育研究プログラムには,一般プログラムと2つの留学生特別プログラムがある.各プログラムの募集・選考等年間スケジュールを図2図2■各プログラムの募集・選考等年間スケジュールに示す.

図2■各プログラムの募集・選考等年間スケジュール

研究指導は,主指導教員1人と副指導教員2人の体制で行い,必要に応じ補助教員を加えることができる.第二副指導教員は,主指導教員が所属する大学とは別の構成大学の教員とし,客観的な研究指導を図っている.学生の研究能力を維持向上させるためには,PDCAに載せた以下2点の仕組みがある.1点目は,学位論文の進捗状況に対する報告・発表である.就学開始後ほぼ1年目と2年目に年次報告会を実施し,主指導教員と副指導教員がその達成度の評価を行う.また,修了の半年前までに中間発表会をテレビ会議システムによって公開で実施し,学術論文の投稿・掲載状況や研究の進捗状況など,博士論文完成に向けた到達度を評価する.2点目は,研究指導等報告書と研究進捗状況報告書の提出である.これらは,毎学年末にそれぞれ主指導教員と学生に提出を課す報告書であり,その中で双方に学会発表,学術誌への論文の投稿・審査状況,博士論文への着手状況の報告を求めるとともに,学生には論文作成の進捗状況,学習・研究への取り組みに対する自己分析,成果の要約,それらに基づいた今後の研究計画の報告を求める.それをプログラムマネージャー(研究科専任教員)と構成3大学に1人ずつ配置する教育研究コーディネーターが確認して研究指導などでの問題点を把握し,必要に応じてプログラムディレクター(研究科長)が学生と指導教員の双方に改善のための面談とアドバイスを行う.これらの仕組みにより,その後の研究推進と目標達成に向けた継続的な指導を行い,標準修業年限で学位を修得させるとともに,博士学位の質確保を図っている.

修了要件単位数は,いずれのプログラムでも12単位である.カリキュラムの特徴は以下のように整理できる.前章3.で述べたように広範かつ多様な課題に対し,学生が能動的に課題を発見し解決する高度専門的な学びができるよう,全プログラム共通の必修科目として共通セミナー(Joint Seminar)と,必修または選択科目として3専攻の各専攻のセミナー(Major Seminar)の受講などを組み込んでいる.このなかで共通セミナーは,本研究科の全学生(主として新入生)を対象として毎年9月に2泊3日で実施する合宿型の授業であり,学生は6人前後のグループに分かれて,それぞれ農学に関する個別の学術的課題についてグループワークを行い,最終日にプレゼン・コンペティションを行う.すべての議論からプレゼンと質疑応答に至るまで英語を用いるため,留学生と日本人の一般学生および社会人学生が協働・共修を行い,専門的な学びを通じて相互に刺激を与え理解し合う機会になっている.もう一つの必修科目に,第二副指導教員による指導を受ける学位論文演習(Dissertation Tutorial)がある.通常,第二副指導教員による指導は主としてインターネットを活用して行われるが,本科目により,毎年1回以上3年間で計3回以上,当該教員を訪問して面前で指導を受けることを条件としている.この科目は,構成3大学間・研究科内における学生交流の促進も意図している.なお訪問のための構成大学間の交通費は,研究科が支給する.

3専攻の各専攻セミナーは合計約30セミナーから成り,本研究科教員,ほかの大学院の教員,連携協定先の国公立試験研究機関の研究者や外部講師が1回ずつ最新の研究成果などを講義し,学生は5セミナー以上を受講する.一般プログラムの学生は,所属専攻のセミナーを必修としているが,2つの留学生特別プログラムの学生は,3専攻のセミナーを自由に選択できる.したがって留学生特別プログラムの学生には,本科目で農学に関する広範で多様な課題について学び,俯瞰的な視野で自らの研究に取り組むことができるよう,カリキュラムを設定している.

英語論文の作成に当たっては,英語ネイティブの特定教授が,科学英語I・II(English for Scientific Writing and Presentations I・II)を担当するとともに,英語論文の校正サービスを随時行っている.学生は,英語の校正だけでなく,英語論文の構成を含むプレゼンテーションに踏み込んだ指導を受けており,論文の生産に向けて英語力・プレゼンテーション能力と研究力をいっそう磨く機会の提供になっている.なお本科目は選択科目だが,英語論文を執筆するうえでの適切な英単語の使い方から英語でのプレゼンテーション技術に至るまでを指導しているため,全プログラムの学生に対して必修化が望まれる.ただし,社会人学生は,毎週実施の必修授業への出席が困難であるため,その対応を並行して解決する必要がある.

2. 一般プログラム

一般選抜の日本人学生と外国人留学生,および社会人特別選抜の学生が,本プログラムを履修する.この中で,社会人特別選抜の入試制度と社会人学生については4.で述べる.外国人留学生は,渡日前入試制度を利用して,遠隔会議システムを利用した一般選抜試験(口頭試問)を受験することができる.

3. 留学生特別プログラム

(1)熱帯・亜熱帯農学留学生特別プログラム

本研究科は2つの留学生特別プログラムを運営しており,入学者選抜では渡日前入試制度を活用している.そのうち,熱帯・亜熱帯農学留学生特別プログラムは,熱帯・亜熱帯における生物資源の生産と利用,およびそれを支える環境に関する諸科学の研究教育を目的としている.当プログラムは,主としてこれらの地域を中心に,世界各国において研究あるいは教育に従事している優秀な博士学位未取得の中堅科学者を対象として受け入れ,それぞれの国の将来を担う高度な博士人材を養成している.この特別プログラムは,文部科学省の「国費外国人留学生の優先配置を行う特別プログラム(大学推薦特別枠)」(以降,「国費特別枠」と称す)で採択を得て,平成2年10月に設置され優先配置枠数6人の受入で開始した.その後,プログラムの継続申請が数回にわたって採択され,平成29年度入学生まで毎年本プログラムが実行されてきた.平成30年度の募集は国費特別枠以外のみの募集となったが,平成29~30年度に募集および選考方法の改善,コースワークにおける成績評価方法の改善,リサーチワークにおけるPDCAの改善,フォローアップ体制の強化などプログラムの改善を行った結果,平成30年度の申請が文部科学省より採択を得て,令和元年10月から国費特別枠6人とそれ以外(私費枠など)6人の募集を行っている.従来,本特別プログラムは10月入学(出願期間:9月末~3月末)のみであったが,平成30年4月から,これに4月入学(出願期間:4月~10月中旬)を新規追加した(図2図2■各プログラムの募集・選考等年間スケジュール)ことにより,年間通しての募集と出願受け付けが可能となり,母国政府などの奨学金の採択決定および派遣時期と入学時期のずれに対応している.

本プログラムの修了者(博士学位取得者)は,令和元年9月修了までで143人である.修了者の出身国を修了者数の多い国順に並べると,タイ31人(Kasetsart University, Chiang Mai University, Maejo Universityなど),バングラデシュ30人(Bangladesh Agricultural University, Sher-e-Bangla Agricultural University, University of Dhakaなど),中国22人,インドネシア17人(IPB University, Gadjah Mada University, Hasanuddin Universityなど),ベトナム17人(Vietnam National University, Danang Universityなど),フィリピン5人などであり,東南アジア諸国が約半数を占める.また,修了者の多くが,各国における大学等研究機関・政府機関・国際機関等の重要な職に就いている.このような修了者間の強い連携は,本研究科の修了者に対する円滑なフォローアップに繋がっているほか,たとえば愛媛大学卒業生組織の海外支部の設立と運営にもかかわっている.博士人材育成を通じて培われた本研究科と修了者との間の信頼関係は,各大学間・部局間の学術交流や技術協力プロジェクトなどを推進するとともに,新たな留学候補者の確保へとスパイラルアップ的にフィードバックしている.

(2)アジア・アフリカ・環太平洋(AAP)農学留学生特別プログラム

本特別プログラムは,プログラム名称に冠された地域からの留学生を受け入れ,愛媛大学大学院農学研究科,香川大学大学院農学研究科および高知大学大学院総合人間自然科学研究科農学専攻の修士課程(同特別プログラム)から博士(後期)課程へ接続する一貫教育を趣旨としたカリキュラムが特徴である.当該留学生は,まず本研究科の3構成大学の大学院修士課程で受け入れられる.この修士課程は,3構成大学の研究科からなる留学生コンソーシアム四国によって運営され,同一のカリキュラムにしたがって各大学でコースワークとリサーチワークが行われる.修士課程修了の後,本研究科への進学希望者は,研究科に設置する選考委員会での選考と代議委員会での審議を経て,合否が決定される.この特別プログラムは,文部科学省の国費特別枠の採択を得て,平成14年10月に設置され優先配置枠数15人の受入で開始した.本特別プログラムにおける国費特別枠は平成24年度修士課程入学生をもって終了したが,その後も国費大学推薦一般枠,国費大使館推薦や私費の留学生が本プログラムで学んでいる.

本プログラムの修了者(博士学位取得者)は,令和元年9月修了までで129人である.修了者の出身国を修了者数の多い国順に並べると,タイ31人,バングラデシュ24人,中国19人,インドネシア18人,ベトナム13人,ネパール10人などである.

4. 社会人特別選抜

本研究科では,次の2つの制度に基づき,4月と10月にそれぞれ若干人の社会人を募集している.第一に,「大学院設置基準第14条」に定める教育方法の特例に基づき,勤務時間などの都合で平日の昼間に修学することが困難である社会人に対し,夜間そのほか特定の時間または時期において研究指導を行う制度である.この制度の受験希望者は,主指導教員として希望する教員を選んだ後,当該教員と事前に十分に協議して具体的な研究指導について双方が合意する必要がある.第二に,企業・官公庁などにおいて,休職,研修,派遣制度などにより職務専念の義務を免除され,勤務場所を離れて指導教員の下で常時研究指導を受けることができる者を対象とした制度である.過去10年間の社会人修了者を見ると,地方自治体の農業技術センターや食品関連企業などの幅広い社会現場から社会人を受入れ,合計14人が博士の学位を取得している.

また,社会人学生のこれまでの研究経験や職務環境の現状を最大限に考慮するため,本研究科は「長期研究指導学生制度」と「社会人短期修了制度」を設けている.前者の制度は平成16年に定められ,時間的に余裕をもたせた研究計画により,職務と学業との両立を図っている.後者の制度は平成28年に定められ,入学以前に研究業績を有する社会人のために学位取得の道を広げている.本制度の条件として,入学前に,入学後の研究課題に関連した学位論文の基礎となる主論文に相当する論文を1報以上有することなどが求められ,制度の適用を希望する新入社会人学生に対しては,本研究科の代議委員会で審議される.

5. SUIJIジョイント・プログラム

本プログラムは,後述するインドネシアの大学院と本研究科との共同研究指導を趣旨としている.「SUIJI(Six University Initiative Japan Indonesia)」は,本研究科を構成する3大学とインドネシアの3大学(IPB University, Gadjah Mada University, Hasanuddin University)による学部から大学院博士課程に至る学生教育を通じた学術連携のためのコンソーシアムである.これらインドネシア3大学と本研究科には,長年にわたって活発な学術連携を展開してきた研究者が多い.さらに,本研究科の修了者がインドネシア3大学で要職にあることも加わり,本研究科における博士人材育成によって,組織的な教育・研究連携を構築する基礎が醸成されたと言える.

SUIJIは,本研究科で培われた当該6大学の信頼関係と友好関係を基礎とし,愛媛大学が代表校となって申請した平成24年度文部科学省の「大学の世界展開力強化事業」の採択を得て,学部学生を主体とするサービスラーニング・プログラムと修士課程学生のジョイント・プログラムを開始した.サービスラーニング・プログラムは両国の学生が双方の農山漁村地域で行う地域貢献実習であり,ジョイント・プログラムは双方の大学の指導教員が共同で行う教育研究指導である.その後,平成28年に本研究科による博士課程学生のジョイント・プログラムを開始し,本研究科からの派遣はまだ無いが,これまでに本研究科でインドネシア側の博士課程学生を6人受入れ,双方の協働による研究指導を実施している.

今後の課題

平成30年7月7日,愛媛県地方では,前日までの1週間で300 mm前後(宇和アメダスで318 mm)に達していた積算降雨に,当日の明け方からの6時間雨量が約150 mmに達し(4)4)気象庁:過去の気象データ検索(宇和),https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php?prec_no=73&block_no=0961&year=2018&month=7&day=&view=,未曾有の河川氾濫などの水害と柑橘樹園地を主とした土砂崩れなどの土砂災害が,県内の至る箇所で発生した.愛媛県全体における農林水産関係の被害額は,平成30年11月時点で約650億円(5)5)愛媛大学:平成30年7月豪雨 愛媛大学災害調査団報告書,2019.であったとされる.水土災害に対する防災・減災の土木技術的対策と地域計画的対策,災害に強い農林水産業に係る生産環境と生活環境の整備,園芸学的技術や社会経済学的視点による産地の復旧・復興などのために,地域社会から求められる農学の役割は非常に大きい.

このような甚大な災害を身近に経験し,地球規模および地域規模で起こりうる食料・資源・生命・環境問題およびそれらを核とする複合的問題に接するに至り,農学の学術分野に対する社会の要求はますます増加し,かつその多様性も増していると実感する.自然と人間活動が調和する持続可能な社会を築くためにも,農学が社会に果たすべき役割は非常に大きい.農学に関する高度な専門的知識と技術を基礎としながら,学際的かつ俯瞰的な視点や新たな技術をより積極的に融合させることが,農学のとるべき方向性の一つであると考えられる.

愛媛大学大学院連合農学研究科は,これまでに培ってきた特徴ある研究,国際連携・社会連携の強みと修了者との強い連携を活かし,3構成大学;愛媛大学,香川大学,高知大学の連携を継続的に強化していくと期待される.そうすることで,本研究科はさらに最先端の研究を推進し,グローバルなニーズに応える博士人材育成のための教育プログラムを提供し,食料・資源・生命・環境に関する高度専門的アプローチとそれらを核とする学際的アプローチにより,世界の地域の持続的発展を担うグローバル人材の育成にフィードバックしていきたい.

Acknowledgments

本寄稿は,農芸化学にとどまらず広く自然科学の問題を取り上げておられる貴誌「化学と生物」からご依頼をいただいた.貴重な機会をご提供くださり,また当初の提出締め切りを大幅に超過したにもかかわらず,寛大なご対応をくださった貴誌編集事務局と編集委員の皆様に,心から感謝を申し上げます.

Reference

1) 愛媛大学大学院連合農学研究科:愛媛大学大学院連合農学研究科設立10周年記念誌,1996.

2)愛媛大学大学院連合農学研究科:愛媛大学大学院連合農学研究科設立30周年記念誌,2016.

3)船田 良:化学と生物,54,924, (2016).

4)気象庁:過去の気象データ検索(宇和),https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php?prec_no=73&block_no=0961&year=2018&month=7&day=&view=

5)愛媛大学:平成30年7月豪雨 愛媛大学災害調査団報告書,2019.