解説

ポリフェノールの体内動態に関する研究体内に吸収されたポリフェノールのゆくえ

Pharmacokinetic Studies of Polyphenol: The Fate of Polyphenols Absorbed in the Body

Namino Tomimori

冨森 菜美乃

サントリーウエルネス会社

Published: 2019-03-01

体内動態とは,摂取した成分が吸収され体外へ排泄されるまでの体内での一連の流れのことで,体内でどのような運命をたどるのかを明らかにすることでもある.医薬品では,体内動態は必ず調べられており,添付文書やインタビューフォームなどで簡単に確認することができる.なぜ体内動態を調べるのか? それは,いつ,どのようなタイミングで,どのくらいの量の薬を服用すればよいのかを考える助けとなるからである.安全性,有効性の科学的な根拠にもなるため,体内動態を知ることは大切である.医薬品の開発研究において発展した薬物動態学を食品成分,ポリフェノールに活かし研究を進めてきたので,セサミンやケルセチン配糖体の例も交えて紹介する.

ポリフェノールとは

ポリフェノールとは,複数のフェノール性水酸基を分子内にもつ化合物の総称であり,お茶に含まれるカテキン,コーヒーに含まれるクロロゲン酸,ブドウ果皮に含まれるレスベラトロール,そばに含まれるルチンなど多くの成分が知られている.ポリフェノールは,多くの野菜,果実,穀物などに含まれているため,これらを原料にしているワイン,ビール,ジュースそして健康食品などにも含まれることになり,ヒトは日々さまざまな食品からポリフェノールを摂取している.ポリフェノールには抗酸化作用だけでなく,血流改善作用,抗肥満作用,血圧低下作用など多くの生理機能が報告されている(1, 2)1) G. Williamson: Nutr. Bull., 42, 226 (2017).2) H. Cory, S. Passarelli, J. Szeto, M. Tamez, J. Mattei & S. Moco: Front. Nutr., 5, 87 (2018)..ポリフェノールの体内動態研究(3)3) M. N. Clifford, J. J. van der Hooft & A. Crozier: Am. J. Clin. Nutr., 98(Suppl.), 1619S (2013).も多くなされてはいるが,一連の流れを定量的に説明している研究は少ないのが現状である.

体内動態

体内動態とは,吸収(Absorption)・分布(Distribution)・代謝(Metabolism)・排泄(Excretion)の4つの過程からなり,頭文字をとってADMEとも言われる.何らかの生理作用を期待して摂取される機能性成分,ポリフェノールには,安全性と有効性の両方について科学的な根拠を示すことが必要となる.そのポリフェノールは体内に吸収されるのか,どの組織にどれくらいの量が届くのか,体内でどのような代謝を受け,いつ・どのようにして体外へ排泄されるのかを明らかにし理解することで,そのポリフェノールの安全性と有効性に妥当性を付与することができる.

1. 吸収

経口摂取された成分は小腸から吸収される際には,小腸上皮細胞の細胞間隙経路または細胞内経路を介した受動拡散,あるいはトランスポーターを介した能動輸送により取り込まれる.消化管内を通過する際にはpHの変動や消化酵素との遭遇などもあり,吸収されるまでのあいだ消化管内で安定に存在することも必要となる.摂取した成分が効率的に吸収されるかどうかを決める重要な要因として,水への溶解度と膜透過性がある.成分にはこの2つの適切なバランスが必要であり,どちらかだけがよくても効率的な吸収は望めない.ただし,トランスポーターを介するものは,膜透過性が低くても効率よく細胞内に取り込まれる.

2. 分布

小腸上皮細胞から吸収された成分は血液に移行し,門脈(ビタミンEのような脂溶性成分はリンパ)を介して肝臓に運ばれる.そして,全身循環に入り,組織に移行する.どこに,どれくらい移行・分布するかは,成分の物性などにより異なり,血液にのみ分布するものもあれば,細胞間隙にも分布,細胞内にも分布,あるいは特定の組織に分布するようなものがある.

3. 代謝

薬物代謝とは,体外から摂取した成分の親水性を高め,体外へ排出しやすくするために起こる反応で,酸化・還元・加水分解・抱合反応などがよく知られている.反応には第一相反応と第二相反応があり,これらの反応にかかわる酵素は一般に,薬物代謝酵素と呼ばれている.Cytochrome P450(CYP)は第一相反応にかかわる典型的な酵素であり,第二相反応には,ウリジン二リン酸グルクロン酸転移酵素(Uridine diphosphate glucuronosyl-transferase; UGT)(4)4) L. Zhang, Z. Zuo & G. Lin: Mol. Pharm., 4, 833 (2007).や硫酸転移酵素(Sulfotransferase; SULT)(5)5) D. Ung & S. Nagar: Drug Metab. Dispos., 35, 740 (2007).が知られている.薬物代謝は主に肝臓で起きるが,小腸にもCYP3A4, UGTやSULTは発現しており,これらの基質となって代謝されるポリフェノールがある.摂取した成分が全身を循環する前に,小腸や肝臓で代謝を受けることを初回通過効果と呼び,初回通過効果が大きいものはバイオアベイラビリティーが低くなる.バイオアベイラビリティーとは,投与された成分が,そのままの形でどのくらいの割合で全身循環血中に到達したかを示すものである.成分を静脈内に直接投与すると,吸収過程および初回通過効果がないためバイオアベイラビリティは100%となる.ポリフェノールは初回通過効果を受けるため,バイオベイラビリティーは低いものが多い(6)6) M. D’Archivio, C. Filesi, R. Di Benedetto, R. Gargiulo, C. Giovannini & R. Masella: Ann. Ist. Super. Sanita, 43, 348 (2007).

4. 排泄

体内に吸収されなかったものは糞中へ排泄されるが,体内に吸収されたものは尿へ排泄または胆汁を介して糞中へ排泄される.尿中へ排泄されるものは,比較的水溶性の高い成分が多い.一方,胆汁中に排泄されるもののうち,脂溶性が高いものには腸肝循環が起きる.腸肝循環(7)7) L. Wang, R. Sun, Q. Zhang, Q. Luo, S. Zeng, X. Li, X. Gong, Y. Li, L. Lu, M. Hu et al.: Expert Opin. Drug Metab. Toxicol., 15, 151 (2019).とは,胆汁中に排泄された成分が小腸上部より再び吸収され,門脈を経て肝臓に戻ることである.ポリフェノールのなかには,たとえばバイカレイン(8)8) J. Xing, X. Chen & D. Zhong: Life Sci., 78, 140 (2005).のように,吸収後,UGTを介した代謝によりグルクロン酸抱合体となり胆汁に排泄されると,腸内細菌がもつβ-グルクロニダーゼ(加水分解酵素)によりアグリコン(配糖体のうち糖以外の部分)に戻り,腸肝循環するものがある.胆汁中に排泄され,小腸で再吸収されないものは最終的に糞中に排泄される.

5. 体内動態研究を支える生体試料中の機能性成分濃度分析法

体内動態研究において欠かすことができないのは,摂取した成分とその代謝物濃度の分析である.最近では,高速液体クロマトグラフィー(Liquid chromatography; LC)と三連四重極型質量分析計(Triple quadrupole mass spectrometer; MS)を用いることで,短時間に,選択性の高い,また高感度な分析が可能となっている.生体試料中の成分濃度を分析する際は,前処理過程での成分回収率のばらつき,MSにおけるイオン化効率やマトリックス効果などの影響を考慮する必要がある.それらの影響を補正するため内部標準物質を用いた分析法が用いられるが,分析過程を通しての妥当性そして信頼性を有する分析法を確立することが大切である.

医薬品開発における生体試料中薬物濃度分析法の開発にあたって検討すべき事項が,「医薬品開発における生体試料中薬物濃度分析法のバリデーションに関するガイドライン」(9)9) 厚生労働省:「医薬品開発における生体試料中薬物濃度分析法のバリデーションに関するガイドライン」について,https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb9534&dataType=1&pageNo=1., 2013.に記されている.機能性成分の生体試料中濃度を分析する際にも本ガイドラインがたいへん参考になる.分析法の開発に当たっては,分析対象となる種またはマトリックス(主に血漿,血清,全血または尿)ごとに,選択性,定量下限,検量線,真度,精度,マトリックス効果,キャリーオーバー,希釈の妥当性および安定性などを評価してバリデーションを行うこととなっている.なかなかたいへんな作業ではあるが,信頼できる分析法を確立してこそ,定量的な体内動態解析が行えるのである.

Liquid chromatography-tandem mass spectrometry(LC-MS/MS)を用いた濃度測定には,測定対象物質の標品が必須となる.市販品で入取できるものは少なく,入手困難な場合には有機合成,遺伝子組換え酵母や動物組織ホモジネートを用いて代謝物を調製する必要がある.

ゴマリグナン

セサミンはゴマ種子中に約1%程度含まれる成分で,ゴマリグナンの一種である.セサミンには抗酸化作用(10, 11)10) Y. Kiso: Biofactors, 21, 191 (2004).11) M. Tada, Y. Ono, M. Nakai, M. Harada, H. Shibata, Y. Kiso & T. Ogata: Anal. Sci., 29, 89 (2013).,抗炎症作用(12)12) N. Abe-Kanoh, Y. Kunimoto, D. Takemoto, Y. Ono, H. Shibata, K. Ohnishi & Y. Kawai: J. Agric. Food Chem., 67, 7640 (2019).,持久力維持効果(13)13) S. Takada, S. Kinugawa, S. Matsushima, D. Takemoto, T. Furihata, W. Mizushima, A. Fukushima, T. Yokota, Y. Ono, H. Shibata et al.: Exp. Physiol., 100, 1319 (2015).や日常的に疲労を感じている方の睡眠の質に関する主観的状態改善作用(14)14) D. Takemoto, Y. Yasutake, N. Tomimori, Y. Ono, H. Shibata & J. Hayashi: Glob. J. Health Sci., 7, 1 (2015).などさまざまな生理機能が報告されている.エピセサミンはセサミンの立体異性体であり,ゴマ油の脱臭・脱色過程でセサミンから約半分程度がエピセサミンに変換されることにより得られる.太白ゴマ油にも含まれる成分である.

1. In vivo体内動態

セサミンの体内動態を定量的に把握するため,放射性同位元素(14C)で標識したセサミン(図1図1■[14C]セサミン)を用いてマスバランス試験を実施した(15)15) N. Tomimori, T. Rogi & H. Shibata: Mol. Nutr. Food Res., 61, (2017)..[14C]セサミンを5 mg/kgの用量でラットに経口投与すると,投与量の66%が胆汁中へ,28%が尿中へ排泄された.また大半が投与後24時間までに排泄された.この試験より,投与したセサミンの90%以上が体内に吸収されたことがわかった.セサミンは脂溶性であることから,細胞内経路を介した受動拡散により効率的に吸収されたものと考えられる.

図1■[14C]セサミン

ラットにおいて,セサミンはCYPにより代謝され,メチレンジオキシ基が酸化的に脱メチレン化され,カテコール基を有する2つの代謝物(7α,7′α,8α,8′α)-3,4-dihydroxy-3′,4′-methylenedioxy-7,9′ : 7′,9-diepoxylignane(SC1)および(7α,7′α,8α,8′α)-3,4 : 3′,4′-bis(dihydroxy)-7,9′ : 7′,9-diepoxylignane(SC2)が生成することが報告されている(16)16) M. Nakai, M. Harada, K. Nakahara, K. Akimoto, H. Shibata, W. Miki & Y. Kiso: J. Agric. Food Chem., 51, 1666 (2003).図2図2■セサミンの代謝経路).[14C]セサミンを経口投与時の血漿中には,ごく微量のセサミン,高濃度のSC1およびSC2のグルクロン酸または硫酸抱合体,そしてSC1およびSC2の水酸基がメチル化された(7α,7′α,8α,8′α)-3-methoxy-4-hydroxy-3′,4′-methylenedioxy-7,9′ : 7′,9-diepoxylignane(SC1m)および(7α,7′α,8α,8′α)-3-methox-4-hydroxy-3′,4′-dihyroxy-7,9′ : 7′,9-diepoxylignane(SC2m)のグルクロン酸または硫酸抱合体が検出された.胆汁中にはSC1およびSC2のグルクロン酸または硫酸抱合体,そしてSC1mおよびSC2mのグルクロン酸または硫酸抱合体が検出された.尿中でも血漿中と同じ代謝物が検出された.セサミンを糞と一緒にインキュベーションすると,腸内細菌によりエンテロジオールやエンテロラクトンに変換されることが報告されている(17)17) Z. Liu, N. M. Saarinen & L. U. Thompson: J. Nutr., 136, 906 (2006)..投与後8~24時間の尿中にエンテロジオール,投与後24~72時間にはエンテロラクトンを微量検出した.尿中に検出されたエンテロジオールおよびエンテロラクトンは,吸収されなかったセサミンまたは胆汁を介して腸管に排泄された代謝物が腸内細菌により代謝され生成したものが一部,再吸収されたためと考えられる.糞中には,主にエンテロジオールとエンテロラクトンが検出された.

図2■セサミンの代謝経路

吸収されたセサミンは血液に移行し,広く全身へ分布することが確認された.なかでも,肝臓と腎臓に多く分布していた.肝臓中にはセサミン,SC1およびSC2のグルクロン酸または硫酸抱合体,そしてSC1mおよびSC2mのグルクロン酸または硫酸抱合体が,腎臓中にはSC1およびSC2のグルクロン酸または硫酸抱合体,SC1mおよびSC2mのグルクロン酸または硫酸抱合体が検出された.肝臓や腎臓がセサミンのターゲット組織であることが体内動態研究から裏付けられた.また,セサミンを経口投与後の体液および組織中には主に代謝物が存在していることが明らかとなり,セサミンの作用メカニズムを明らかにするうえで代謝物が重要である可能性が示唆された.

エピセサミンの体内動態に関する報告は少ない.セサミンとエピセサミンの混合物を100 mg/kgの用量で経口投与すると,肝臓,腎臓,脳,血清,肺そして心臓中にセサミンとエピセサミンを検出し,組織中濃度はエピセサミンのほうがセサミンよりも高かったという報告がある(18)18) R. Umeda-Sawada, M. Ogawa & O. Igarashi: Lipids, 34, 633 (1999)..経口投与されたエピセサミンは吸収後に代謝され,代謝物が胆汁中に排泄されることがわかっている.

セサミンおよびエピセサミンの体内動態制御に関する研究も行っている.セサミンおよびエピセサミンは脂溶性が高く,難水溶性であることから,飲料としての開発においては低吸収性という課題が生じてしまう.水系においてもその吸収性を維持・向上させるためいくつかの製剤検討を行い,水中油滴型エマルション(O/W型エマルション)(19)19) 山田大輔ら:リグナン類化合物含有水中油滴型エマルションおよびそれを含有する組成物,特許5096138号(2012).にすると体内吸収速度が改善することを見いだした.また,油中にO/W型エマルションが分散したO/W/O型エマルション(20)20) 西海俊宏ら:リグナン類化合物含有O/W/O型エマルションおよびそれを含有する組成物,特許4829963号(2011).や,セサミンとエピセサミンを所定の割合で含有させる(21)21) 小野佳子ら:セサミン/エピセサミン組成物,特許4995567号(2012).と,エピセサミンのバイオアベイラビリティーが向上することも見いだしている.

2. ヒトにおける体内動態

セサミン,エピセサミンを含むサプリメントは,多くの方に長年使用されている.そこで,ヒトにおけるセサミンおよびエピセサミンの体内動態を明らかにすることとした.ヒトにおいてもセサミンはCYPにより代謝されることが容易に予測された.そこで,リン酸緩衝液,CYPを含むヒト肝ミクロソーム,NADPH regenerating system,セサミンを混合し37°Cでインキュベーションすることにより代謝反応を行った後,反応液をLC-MS/MSにて分析し,代謝物の同定を行った(22)22) N. Tomimori, M. Nakai, Y. Ono, Y. Kitagawa, Y. Kiso & H. Shibata: Biol. Pharm. Bull., 35, 709 (2012)..反応液中のピークと有機合成により得られた代謝物の標品とは保持時間および質量,MS/MSフラグメントが一致し,代謝物が同定された.ヒトにおいてもセサミンはCYPにより代謝され,SC1およびSC2が生成することがわかった.後に,セサミンは主にCYP2C9で代謝され,生成したSC1はUGT2B7によりグルクロン酸抱合体または複数のSULT分子種で硫酸抱合体へ変換されることが報告されている(23~25)23) K. Yasuda, S. Ikushiro, M. Kamakura, M. Ohta & T. Sakaki: Drug Metab. Dispos., 38, 2117 (2010).24) K. Yasuda, S. Ikushiro, M. Kamakura, E. Munetsuna, M. Ohta & T. Sakaki: Drug Metab. Dispos., 39, 1538 (2011).25) K. Yasuda, K. Okamoto, S. Ueno, K. Itoh, M. Nishikawa, S. Ikushiro & T. Sakaki: Drug Metab. Pharmacokinet., 34, 134 (2019).

ヒトにおけるエピセサミンの体内動態に関する報告はなかった.そこで,まずヒト肝ミクロソームを用いた代謝試験を実施した(22)22) N. Tomimori, M. Nakai, Y. Ono, Y. Kitagawa, Y. Kiso & H. Shibata: Biol. Pharm. Bull., 35, 709 (2012)..その結果,エピセサミンもセサミン同様,CYPによりメチレンジオキシ基が酸化的に脱メチレン化され,カテコール基を有する3つの代謝物(7α,7′β,8α,8′α)-3,4-dihydroxy-3′,4′methylenedioxy-7,9′ : 7′,9-diepoxylignane(EC1-1),(7α,7′β,8α,8′α)-3,4-methylenedioxy-3′4′-dihydroxy-7,9′ : 7′,9-diepoxylignane(EC1-2)および(7α,7′β,8α,8′α)-3,4 : 3′,4′-bis(dihydroxy)-7,9′ : 7′,9-diepoxylignane(EC2)が生成することがわかった(図3図3■エピセサミンの代謝経路).後に,エピセサミンは主にCYP2C9とCYP1A2で代謝されEC1-1, EC1-2が生成し,CYP2C19によりEC2が生成することが報告されている(26)26) K. Yasuda, S. Ikushiro, S. Wakayama, T. Itoh, K. Yamamoto, M. Kamakura, E. Munetsuna, M. Ohta & T. Sakaki: Drug Metab. Dispos., 40, 1917 (2012)..また,セサミンに比べて,エピセサミンのほうが代謝されにくいことも併せて示されている.

図3■エピセサミンの代謝経路

血中に検出される可能性のある代謝物が同定されたことから,実際にヒトにおける体内動態を確認した.健常成人男女にセサミンとエピセサミンを含むサプリメントを1日摂取目安量の5倍量(50 mg)を朝食後に単回摂取させ,摂取後24時間まで経時的に採血を行った(27)27) N. Tomimori, Y. Tanaka, Y. Kitagawa, W. Fujii, Y. Sakakibara & H. Shibata: Biopharm. Drug Dispos., 34, 462 (2013)..血漿を分離し,β-グルクロニダーゼ/サルファターゼを用いて脱抱合(加水分解)した後,固相抽出を行い,セサミン,エピセサミンおよび代謝物濃度をLC-MS/MSにて分析した.セサミンの血漿中濃度は,摂取5時間後に最大となり,その後速やかに消失した.血漿中には,セサミンよりもSC1およびSC2のグルクロン酸または硫酸抱合体が高濃度に存在していることがわかった.どちらの代謝物の血漿中濃度も摂取5時間後に最大となり,速やかに消失した.これらの結果は,ヒトにおいても,セサミンが体内に吸収されていること,初回通過効果が大きいこと,セサミンの作用メカニズムを明らかにするうえで代謝物が重要である可能性を示している.

セサミン同様,血漿中のエピセサミンは摂取5時間後が最大であった.血漿中にはEC1(EC1-1とEC1-2の総量)のグルクロン酸または硫酸抱合体が高濃度に存在していたが,EC2の最大血漿中濃度到達時間は8時間とエピセサミンよりも遅くまた濃度も低かった.血漿中のセサミンとエピセサミンの濃度を比べると,最大血漿中濃度はエピセサミンのほうが約7倍高かった.これは安田らがin vitro試験で報告しているように,エピセサミンの方が代謝されにくいためと思われる.In vivoでの効果はエピセサミンのほうが高い可能性が示唆される.

サプリメントは毎日摂取するものである.そこで,1日摂取目安量の5倍量(50 mg)を4週間反復摂取させ,摂取初日と最終日の血漿中セサミンおよびエピセサミン濃度推移,摂取1, 2週間後のトラフ濃度(次の投与直前の最低血中濃度)を分析した(27)27) N. Tomimori, Y. Tanaka, Y. Kitagawa, W. Fujii, Y. Sakakibara & H. Shibata: Biopharm. Drug Dispos., 34, 462 (2013)..血漿中セサミンおよびエピセサミン濃度は,摂取7日目までに定常状態に達していた.また,反復摂取時のセサミンおよびエピセサミンの血漿中濃度推移は,単回摂取の単純な繰り返しで説明できたことから,4週間摂取による蓄積性は認められないことを確認した.本試験では併せて安全性評価も行い,臨床上問題となるような身体計測,バイタルサイン,血液・尿検査値の変動および試験食品摂取に起因する有害事象は認められないことを確認している.

フラボノイド配糖体

ポリフェノールのなかでも,フラボノイドと呼ばれるものは配糖体として天然に存在するものが多い.たとえば,大豆に含まれるイソフラボン配糖体(28)28) P. Delmonte & J. I. Rader: J. AOAC Int., 89, 1138 (2006).,玉ねぎやリンゴなどに含まれるケルセチンの配糖体(29, 30)29) R. Slimestad, T. Fossen & I. M. Vågen: J. Agric. Food Chem., 55, 10067 (2007).30) H. Teuber & K. Herrmann: Z. Lebensm. Unters. Forsch., 166, 80 (1978).,ソバに含まれるルチン,みかんやはっさくに含まれるヘスペリジン(31)31) A. Garg, S. Garg, L. J. Zaneveld & A. K. Singla: Phytother. Res., 15, 655 (2001).などがある.また同じフラボノイドでも起源植物によって,糖の結合位置や数が異なることもある.たとえば,玉ねぎにはQuercetin 4′-O-glucosideやQuercetin 3,4′-O-diglucosideが多く含まれている.一方,リンゴにはQuercetin 3-O-rhamnoside, Quercetin 3-O-glucoside, Quercetin 3-O-galactoside, Quercetin O-arabinopyranoseなど多くの種類が含まれている.配糖体の種類によっても体内動態が異なることが報告されている(32)32) J. Lee & A. E. Mitchell: J. Agric. Food Chem., 60, 3874 (2012).

配糖体の吸収ルートには,Sodium-Glucose Cotransporter(SGLT1)を介して小腸上皮細胞に取り込まれそのまま吸収,あるいは細胞内のCytosolic beta-glucosidaseで加水分解されアグリコンとなって吸収,またはLactase-phlorizin hydrolase(LPH)により加水分解されアグリコンとなって吸収されるルートが考えられる(33)33) G. B. Gonzales: Proc. Nutr. Soc., 76, 175 (2017)..しかし,ルチンは小腸上部では吸収されず,主に下部で腸内細菌により加水分解されアグリコンとなってから吸収される(34)34) K. Murota, Y. Nakamura & M. Uehara: Biosci. Biotechnol. Biochem., 82, 600 (2018)..配糖体の吸収効率を考えるには,トランスポーターを介して配糖体のまま吸収されるのか,あるいは配糖体がどこで,どのような酵素で,どのような効率で加水分解されアグリコンとなって吸収されるのかが重要となってくる.

1. ケルセチン配糖体

ケルセチン配糖体(図4図4■ケルセチン配糖体の代謝経路)は,ソラマメ科植物であるエンジュから抽出されたルチンを原料に酵素処理して得られた素材である.本ケルセチン配糖体は,非常に水溶性が高いのが特徴であり,脂肪低減作用を目的とした特定保健用食品である飲料などに利用されている.それ以外にも抗酸化・抗炎症作用を期待し,健康食品や機能性表示食品に利用されている.

本ケルセチン配糖体はin vitro試験により,経口摂取後,唾液や膵液アミラーゼによりイソクエルシトリン,イソクエルシトリンのグルコース残基に1ないし2個のグルコースが結合したものまで加水分解されると推測されている(35)35) S. Tamura, K. Tsuji, M. Moriwaki & N. Murakami: Jpn. J. Food Chem., 12, 152 (2005)..その後,小腸において加水分解されケルセチンとして吸収され,小腸または肝臓においてUGTやSULTにより抱合化されると考えられている(図4図4■ケルセチン配糖体の代謝経路).イソクエルシトリンは,LPHにより加水分解され,ケルセチンとして吸収される(36)36) A. J. Day, J. M. Gee, M. S. DuPont, I. T. Johnson & G. Williamson: Biochem. Pharmacol., 65, 1199 (2003).

図4■ケルセチン配糖体の代謝経路

筆者らは,ケルセチン配糖体含有飲料を用いてヒトにおける体内動態を調べた(未発表データ).健常成人男女にケルセチン配糖体含有飲料(イソクエルシトリンとして110 mg含)を空腹下に単回摂取させ,前述のとおり血漿中の総ケルセチン濃度(ケルセチン,ケルセチンのグルクロン酸抱合体およびケルセチンの硫酸抱合体総量)を分析した.ケルセチン配糖体は速やかに体内へ吸収され,総ケルセチンの血漿中濃度は0.5時間で最大となりその後減衰した.総ケルセチンの血漿中濃度推移には2つのピーク(二峰性)が認められ,腸肝循環していることが示唆された.ケルセチン配糖体含有飲料摂取後の血漿をβ-グルクロニダーゼ/サルファターゼによる加水分解なしに分析すると,血漿中にはQuercetin-3′-sulfateやQuercetin-3-glucuronideが高濃度に存在していることがわかった.抱合化されていないケルセチンは最大血漿中濃度到達時間付近に僅かに検出されるのみであった.ケルセチン配糖体の作用メカニズムを明らかにするうえで,ケルセチンの代謝物が重要である可能性が示唆された.

本ケルセチン配糖体も反復摂取による安全性を確認した(未発表データ).ケルセチン配糖体含有飲料を1日1本4週間反復摂取した際の血漿中総ケルセチン濃度は,7日目までに定常状態に達しており,総ケルセチンの血漿中濃度推移は,単回摂取の単純な繰り返しで説明でき,蓄積性は認められないことを確認している.本試験では併せて安全性評価も行い,臨床上問題となるような身体計測,バイタルサイン,血液・尿検査値の変動および試験食品摂取に起因する有害事象は認められないことを確認している.

本ケルセチン配糖体を含む飲料には体脂肪低減作用があり,代謝物に脂肪分解促進作用があることがわかっている.今回,ヒトにおけるケルセチン配糖体の体内動態を明らかにすることによっても,有効性の妥当性が付与された.

おわりに

セサミン・エピセサミンやケルセチン配糖体の体内動態を明らかにすることで,安全性および有効性をサポートし,サイエンスレベルを高めることができた.

しかし,体内動態には個体差があり,同じ量のポリフェノールを摂取しても血中濃度や血中濃度推移は異なる.体内動態の違いは,有効性の違いにつながるため,個体差の要因を明らかにし,改善できればより多くの人に効果を感じていただけるようになる可能性がある.吸収過程で起きる個体差の一部は,製剤技術により改善できる可能性がある.また最近は個体差だけでなく,個体内変動も注目されている.体内動態にも日内変動があり,摂取する時間によって体内動態が異なる場合がある.ADMEにかかわる代謝酵素活性やトランスポーターの発現,肝血流量などさまざまな生理機能の概日リズムが体内動態に影響を及ぼしているためである.いつ飲むのが一番効率的なのか? 体内動態研究は,そんな疑問への回答の一助になりえる.

医薬品開発の過程で薬物動態の研究手法はほぼ確立されており,研究はヒトにおける体内動態をいかに精度よく予測するかにシフトしている.医薬品の場合,種を越えてさまざまな体内動態に関するデータ,情報が積み上げられているため,それらの情報をもとにモデリング&シミュレーションが試みられている.現時点では,モデリング&シミュレーションに用いることができる情報やデータが不足しているが,今後,このような手法がポリフェノールにも応用されることが期待される.そのためにも,ポリフェノールの体内動態を定量的に把握し,説明できる研究が今後さらに発展することを願う.

Acknowledgments

本研究におきましてご指導いただきました日本農芸化学会の諸先生方,薬物動態学専門の先生方に深く感謝申し上げます.本研究はサントリーウエルネス株式会社の同僚,先輩そして多くの上司に支えていただくことで成し遂げることができました.この場をお借りして,御礼申し上げます.また,ヒトでの体内動態評価に協力いただいたサントリーMONOZUKURIエキスパート株式会社の関係者の皆様にも,深く感謝いたします.

Note

付記:本発表に含まれる一連のヒト試験および動物実験は,関連法令を遵守し,該当する委員会の審査を経て機関の長が承認した計画に基づき実施しました.

Reference

1) G. Williamson: Nutr. Bull., 42, 226 (2017).

2) H. Cory, S. Passarelli, J. Szeto, M. Tamez, J. Mattei & S. Moco: Front. Nutr., 5, 87 (2018).

3) M. N. Clifford, J. J. van der Hooft & A. Crozier: Am. J. Clin. Nutr., 98(Suppl.), 1619S (2013).

4) L. Zhang, Z. Zuo & G. Lin: Mol. Pharm., 4, 833 (2007).

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