解説

大腸菌におけるタンパク質膜輸送に関与する糖脂質MPIaseの発現制御機構酵素様機能をもつ糖脂質MPIase

Regulation of Expression of Glycolipid MPIase Involved in Membrane Export of Proteins in E. coli: MPIase, a Glycolipid That Possesses the Enzyme-Like Activities

Katsuhiro Sawasato

沢里 克宏

岩手大学農学部応用生物化学科

Kohki Fujikawa

藤川 紘樹

公益財団法人サントリー生命科学財団生物有機科学研究所

Keiko Shimamoto

島本 啓子

公益財団法人サントリー生命科学財団生物有機科学研究所

Ken-ichi Nishiyama

西山 賢一

岩手大学農学部応用生物化学科

Published: 2020-04-01

タンパク質は自身が働く場に適切に輸送されて初めてその機能が発揮できる.多くのタンパク質は合成の場である細胞質以外に輸送される.タンパク質の生体膜への組み込み反応や,生体膜を超える透過反応は,タンパク質性の輸送装置により進行すると考えられてきた.しかし,近年,大腸菌において,これらの反応が進行するためには既知のタンパク質性の因子のみでは不十分であることが判明し,MPIase(Membrane Protein Integrase)と名付けた糖脂質が積極的に関与していることが明らかになった.本稿では,MPIaseの構造と機能を概説し,その発現制御機構に関する最近の知見を紹介する.

はじめに

すべての生物の基本単位は細胞である.細胞はその内外を生体膜により区画されている.また,真核生物では細胞小器官も生体膜により区画されている.生体膜を介した物質の出入りは,低分子イオンや糖類,さらには水分子ですら厳密に制御されている.そのため,細胞は膜タンパク質を生体膜に組み込むため,あるいは,膜透過させるための特別な輸送装置を備えている.初期の研究では,分泌タンパク質が膜透過する分子機構が精力的に解析された.この研究に大きな進展をもたらしたのは,Blobelらによって提唱された「シグナル仮説」(1)1) G. Blobel & B. Dobberstein: J. Cell Biol., 67, 835 (1975).である.シグナル仮説とは,分泌タンパク質はN末端にシグナル配列と呼ばれる20~40アミノ酸からなる配列が付加された前駆体タンパク質として合成され,このシグナル配列が分泌タンパク質の行き先を規定するというものである.その後,この仮説に基づき,シグナル配列を認識し,前駆体タンパク質を膜上まで輸送するシグナル認識粒子(SRP)やSRP受容体(SR),タンパク質が透過するチャネルを形成するSecトランロコンが同定された(2~5)2) P. Walter, I. Ibrahimi & G. Blobel: J. Cell Biol., 91, 545 (1981).3) P. Walter & G. Blobel: J. Cell Biol., 91, 551 (1981).4) P. Walter & G. Blobel: J. Cell Biol., 91, 557 (1981).5) D. Gorlich & T. A. Rapoport: Cell, 75, 615 (1993)..さらに,膜タンパク質の膜挿入反応もシグナル仮説の延長として説明できることが示された(5~7)5) D. Gorlich & T. A. Rapoport: Cell, 75, 615 (1993).6) S. High, S. S. Andersen, D. Gorlich, E. Hartmann, S. Prehn, T. A. Rapoport & B. Dobberstein: J. Cell Biol., 121, 743 (1993).7) J. Oliver, B. Jungnickel, D. Gorlich, T. Rapoport & S. High: FEBS Lett., 362, 126 (1995)..SRPやSecトランスロコンはすべての生物種に保存されていることから,タンパク質膜挿入・膜透過反応は基本的なレベルではすべての生物で同様の分子機構で進行すると考えられている.

モデル生物大腸菌におけるタンパク質膜挿入反応も「シグナル仮説」の延長線上として説明されている(8, 9)8) S. J. Facey & A. Kuhn: Biochim. Biophys. Acta, 1694, 55 (2004).9) K. Xie & R. E. Dalbey: Nat. Rev. Microbiol., 6, 234 (2008)..翻訳途中のリボソームから疎水的な膜貫通領域が露出するとSRPがこれを膜輸送シグナルとして認識し,結合する.その後,SRPは膜タンパク質新生鎖-リボソーム複合体を膜上のSRを介して膜上のSecYEGまで輸送する.SecYEG上での膜挿入反応は翻訳に共役して進行する(Sec依存の膜挿入反応)(8, 9)8) S. J. Facey & A. Kuhn: Biochim. Biophys. Acta, 1694, 55 (2004).9) K. Xie & R. E. Dalbey: Nat. Rev. Microbiol., 6, 234 (2008).図1A図1■大腸菌におけるタンパク質膜挿入・膜透過反応のモデル図).これは,親水的な環境である細胞質において疎水的な膜タンパク質が凝集してしまうことを防ぐためである.一方,分子量の小さい膜タンパク質や,C末端側にのみ膜貫通領域をもつ膜タンパク質は,SecYEGやSRP/SRに依存せずに膜挿入することが知られている(Sec非依存の膜挿入反応)(図1B図1■大腸菌におけるタンパク質膜挿入・膜透過反応のモデル図).これらの膜タンパク質は,翻訳が終了するまで膜貫通部位が細胞質に露出しないため,SRPはこれらを認識することができない.長年,Sec非依存の膜挿入反応は基質膜タンパク質の疎水的な膜貫通領域と膜脂質との疎水的な相互作用により自発的に進行すると考えられてきた(10, 11)10) D. Kiefer & A. Kuhn: EMBO J., 18, 6299 (1999).11) B. L. Geller & W. Wickner: J. Biol. Chem., 260, 13281 (1985)..しかしながら,yidC遺伝子を欠損した大腸菌変異株では,これらの膜タンパク質の膜挿入反応が阻害されること(12)12) J. C. Samuelson, M. Chen, F. Jiang, I. Möller, M. Wiedmann, A. Kuhn, G. J. Phillips & R. E. Dalbey: Nature, 406, 637 (2000).,さらに,大腸菌リン脂質から形成したリポソームに組込んだYidCはSec非依存の膜挿入反応を促進する(13, 14)13) J. Serek, G. Bauer-Manz, G. Struhalla, L. Van Den Berg, D. Kiefer, R. Dalbey & A. Kuhn: EMBO J., 23, 294 (2004).14) N. Stiegler, R. E. Dalbey & A. Kuhn: J. Mol. Biol., 406, 362 (2011).ことなどが判明し,YidCがSec非依存の膜挿入反応に関与することが明らかにされた.また,YidC欠損株において一部のSec依存の膜タンパク質の折り畳みが阻害されることから,YidCはSec依存の膜挿入反応においては膜タンパク質の3次元構造を整えるシャペロンの役割を果たすと考えられている(15)15) S. Nagamori, I. N. Smirnova & H. R. Kaback: J. Cell Biol., 165, 53 (2004).図1A図1■大腸菌におけるタンパク質膜挿入・膜透過反応のモデル図).

図1■大腸菌におけるタンパク質膜挿入・膜透過反応のモデル図

(A)Sec依存の膜挿入反応.新生鎖膜タンパク質/リボソーム複合体はSRP/SRにより膜上に輸送される.その後,SecYEG (Sec) 上で翻訳と共役して膜挿入反応が進行する.YidCは膜挿入された膜タンパク質の折り畳みを補助する.“M”はMPIaseを示す.MPIaseはSec依存の膜挿入反応に必須である.
(B)Sec非依存の膜挿入反応.細胞質で合成された膜タンパク質はMPIaseにより膜挿入される.MPIaseによる膜挿入反応はYidCにより促進される.
(C)タンパク質膜透過反応.内膜を透過するタンパク質はN末端にシグナル配列をもった前駆体として合成される.膜透過反応はSecYEG上で進行する.タンパク質膜透過反応はATPase活性をもつSecAの加水分解エネルギーにより駆動される.MPIaseはSecYEGと相互作用し,膜透過反応を約10倍促進する.膜透過反応中にシグナル配列はシグナルペプチダーゼにより切断され,成熟体となる.

MPIaseの構造と機能

1. In vitro再構成系によるタンパク質膜挿入反応の分子機構の解析とMPIaseの発見

タンパク質膜挿入反応の分子機構の解析では,膜挿入反応に関与する因子の変異株を用いた遺伝学的な解析(16)16) P. J. Schatz & J. Beckwith: Annu. Rev. Genet., 24, 215 (1990).や,変異株から調製した膜小胞を用いたin vitro実験系での解析(17~19)17) H. G. Koch & M. Muller: J. Cell Biol., 150, 689 (2000).18) H. G. Koch, T. Hengelage, C. Neumann-Haefelin, J. MacFarlane, H. K. Hoffschulte, K. L. Schimz, B. Mechler & M. Müller: Mol. Biol. Cell, 10, 2163 (1999).19) K. Nishiyama, A. Ikegami, M. Moser, E. Schiltz, H. Tokuda & M. Müller: J. Biol. Chem., 281, 35667 (2006).が精力的に進められてきた.しかし,変異株を用いた解析では,致死的な変異は解析が困難であるのに加え,変異による2次的な影響を排除しきれないため,膜挿入反応のさらに詳細な解析には,精製した因子をプロテオリポソームに再構成して解析を進めるin vitro再構成系が必要である.筆者らは,大腸菌のタンパク質膜挿入反応を再構成する過程で,SecYEGに依存して膜挿入すると考えられてきた膜タンパク質であっても,リン脂質のみから形成されたリポソームには自発的に膜挿入されてしまうことを見いだした(19)19) K. Nishiyama, A. Ikegami, M. Moser, E. Schiltz, H. Tokuda & M. Müller: J. Biol. Chem., 281, 35667 (2006)..生体膜を介した物質の出入りが厳密に制御されている生体内では,このような無秩序な自発的膜挿入反応は適切にブロックされていると考えられる.こうした自発的膜挿入をブロックする因子を検索した結果,リポソームにジアシルグリセロール(DAG)を生理的濃度(2~3%)で加えることにより自発的膜挿入反応が完全にブロックされることを見いだした(19)19) K. Nishiyama, A. Ikegami, M. Moser, E. Schiltz, H. Tokuda & M. Müller: J. Biol. Chem., 281, 35667 (2006)..しかしながら,DAG存在下では,SecYEGやYidCをリポソームに組み込んでも膜挿入反応は全く進行しなかった.これらのことから,未知の膜挿入因子の存在が予想された.この因子を探索した結果,SDS-PAGE上で7 kDaの因子を同定した(19)19) K. Nishiyama, A. Ikegami, M. Moser, E. Schiltz, H. Tokuda & M. Müller: J. Biol. Chem., 281, 35667 (2006)..さらに,7 kDaの膜挿入因子はSec依存の膜挿入反応だけでなく,これまでYidCによって進行すると考えられてきたSec非依存の膜挿入反応にも必須であった(19)19) K. Nishiyama, A. Ikegami, M. Moser, E. Schiltz, H. Tokuda & M. Müller: J. Biol. Chem., 281, 35667 (2006)..この因子は複数回の膜挿入サイクルを駆動することから,「膜挿入酵素」を意味するMPIase(Membrane Protein Integrase)と名付けられた(20)20) K. Nishiyama, M. Maeda, M. Abe, T. Kanamori, K. Shimamoto, S. Kusumoto, T. Ueda & H. Tokuda: Biochem. Biophys. Res. Commun., 394, 733 (2010)..構造解析の結果,驚くことにMPIaseはタンパク質性の因子ではなく,糖脂質であることが判明した(21)21) K. Nishiyama, M. Maeda, K. Yanagisawa, R. Nagase, H. Komura, T. Iwashita, T. Yamagaki, S. Kusumoto, H. Tokuda & K. Shimamoto: Nat. Commun., 3, 1260 (2012)..その構造は,N-アセチルグルコサミン(GlcNAc),2-アセトアミド-2-デオキシマンヌロン酸(ManNAcA),4-アセトアミド-4-デオキシフコース(Fuc4NAc)の3種類のアミノ糖が9~11回繰返した糖鎖とDAGがピロリン酸を介して結合した新規のものであった(21)21) K. Nishiyama, M. Maeda, K. Yanagisawa, R. Nagase, H. Komura, T. Iwashita, T. Yamagaki, S. Kusumoto, H. Tokuda & K. Shimamoto: Nat. Commun., 3, 1260 (2012).図2図2■MPIaseの構造).MPIaseの糖鎖を構成するGlcNAcの約30%の6-OHはアセチル化されており,MPIaseの機能に必須であった(21, 22)21) K. Nishiyama, M. Maeda, K. Yanagisawa, R. Nagase, H. Komura, T. Iwashita, T. Yamagaki, S. Kusumoto, H. Tokuda & K. Shimamoto: Nat. Commun., 3, 1260 (2012).22) K. Fujikawa, S. Suzuki, R. Nagase, S. Ikeda, S. Mori, K. Nomura, K. Nishiyama & K. Shimamoto: ACS Chem. Biol., 13, 2719 (2018)..生化学的,物理化学的な解析の結果(20, 21, 23)20) K. Nishiyama, M. Maeda, M. Abe, T. Kanamori, K. Shimamoto, S. Kusumoto, T. Ueda & H. Tokuda: Biochem. Biophys. Res. Commun., 394, 733 (2010).21) K. Nishiyama, M. Maeda, K. Yanagisawa, R. Nagase, H. Komura, T. Iwashita, T. Yamagaki, S. Kusumoto, H. Tokuda & K. Shimamoto: Nat. Commun., 3, 1260 (2012).23) K. Nomura, T. Yamaguchi, S. Mori, K. Fujikawa, K. Nishiyama, T. Shimanouchi, Y. Tanimoto, K. Morigaki & K. Shimamoto: Biophys. J., 117, 99 (2019).から,MPIaseがSec非依存の膜挿入反応を駆動する分子機構として図3図3■Sec非依存の膜挿入反応におけるMPIaseの作用機構に示すモデルを提唱している.MPIaseの糖鎖部分は膜タンパク質の膜貫通部位と相互作用し,凝集を防ぐ分子シャペロン様の機能を果たす(21, 22)21) K. Nishiyama, M. Maeda, K. Yanagisawa, R. Nagase, H. Komura, T. Iwashita, T. Yamagaki, S. Kusumoto, H. Tokuda & K. Shimamoto: Nat. Commun., 3, 1260 (2012).22) K. Fujikawa, S. Suzuki, R. Nagase, S. Ikeda, S. Mori, K. Nomura, K. Nishiyama & K. Shimamoto: ACS Chem. Biol., 13, 2719 (2018)..合成された基質膜タンパク質は膜上でMPIaseの糖鎖部分と相互作用し,膜挿入可能な状態となる(21, 22)21) K. Nishiyama, M. Maeda, K. Yanagisawa, R. Nagase, H. Komura, T. Iwashita, T. Yamagaki, S. Kusumoto, H. Tokuda & K. Shimamoto: Nat. Commun., 3, 1260 (2012).22) K. Fujikawa, S. Suzuki, R. Nagase, S. Ikeda, S. Mori, K. Nomura, K. Nishiyama & K. Shimamoto: ACS Chem. Biol., 13, 2719 (2018).図3図3■Sec非依存の膜挿入反応におけるMPIaseの作用機構 Step 1).MPIaseはリン脂質二重層の膜表面の流動性を上昇させるため,膜は隙間が開きやすくなっており,MPIaseと相互作用した基質膜タンパク質は,この隙間に膜挿入する(21, 23)21) K. Nishiyama, M. Maeda, K. Yanagisawa, R. Nagase, H. Komura, T. Iwashita, T. Yamagaki, S. Kusumoto, H. Tokuda & K. Shimamoto: Nat. Commun., 3, 1260 (2012).23) K. Nomura, T. Yamaguchi, S. Mori, K. Fujikawa, K. Nishiyama, T. Shimanouchi, Y. Tanimoto, K. Morigaki & K. Shimamoto: Biophys. J., 117, 99 (2019).図3図3■Sec非依存の膜挿入反応におけるMPIaseの作用機構 Step 2).基質タンパク質は膜脂質との疎水性相互作用により,膜中に進入する(図3図3■Sec非依存の膜挿入反応におけるMPIaseの作用機構 Step 3).膜挿入反応を終了したMPIaseは基質膜タンパク質から解離し(図3図3■Sec非依存の膜挿入反応におけるMPIaseの作用機構 Step 4),次の膜挿入サイクルへと移る(20, 21)20) K. Nishiyama, M. Maeda, M. Abe, T. Kanamori, K. Shimamoto, S. Kusumoto, T. Ueda & H. Tokuda: Biochem. Biophys. Res. Commun., 394, 733 (2010).21) K. Nishiyama, M. Maeda, K. Yanagisawa, R. Nagase, H. Komura, T. Iwashita, T. Yamagaki, S. Kusumoto, H. Tokuda & K. Shimamoto: Nat. Commun., 3, 1260 (2012).図3図3■Sec非依存の膜挿入反応におけるMPIaseの作用機構 Step 5),このサイクルを繰り返すことにより,MPIaseは膜挿入反応を触媒する.このようにMPIaseは糖脂質でありながら,酵素様の機能を果たすことから,MPIaseが「糖脂質酵素(Glycolipozyme)」であるという概念を提唱している(21)21) K. Nishiyama, M. Maeda, K. Yanagisawa, R. Nagase, H. Komura, T. Iwashita, T. Yamagaki, S. Kusumoto, H. Tokuda & K. Shimamoto: Nat. Commun., 3, 1260 (2012).

図2■MPIaseの構造

MPIaseはN-アセチルグルコサミン(GlcNAc),2-アセトアミド-2-デオキシマンヌロン酸(ManNAcA),4-アセトアミド-4-デオキシフコース(Fuc4NAc)の3糖の繰返し(n=9~11)とDAGがピロリン酸を介して結合した糖脂質である.R1は炭素鎖16~20の飽和/不飽和脂肪酸を示す.R2は水素原子あるいはアセチル基を示す.CdsAはCompound I(点線)の生合成反応を触媒する.

図3■Sec非依存の膜挿入反応におけるMPIaseの作用機構

MPIaseは膜上で基質膜タンパク質と直接相互作用する(Step 1).MPIaseは膜表面の流動性を上げ,膜挿入のための間隙を作っており,MPIaseの膜表面の間隙に基質膜タンパク質が挿入される(Step 2).疎水性相互作用により膜中に進入する(Step 3).膜挿入終了後,MPIaseは基質膜タンパク質と解離し(Step 4),次の膜挿入サイクルに移る(Step 5).

2. MPIaseとYidCとの協調的な作用によるSec非依存の膜挿入反応の駆動

Sec非依存の膜挿入反応はYidCにより進行すると考えられてきた(12~14)12) J. C. Samuelson, M. Chen, F. Jiang, I. Möller, M. Wiedmann, A. Kuhn, G. J. Phillips & R. E. Dalbey: Nature, 406, 637 (2000).13) J. Serek, G. Bauer-Manz, G. Struhalla, L. Van Den Berg, D. Kiefer, R. Dalbey & A. Kuhn: EMBO J., 23, 294 (2004).14) N. Stiegler, R. E. Dalbey & A. Kuhn: J. Mol. Biol., 406, 362 (2011)..一方,筆者らの解析によると,自発的膜挿入反応を完全にブロックした条件下においては,YidC単独では膜挿入反応は進行せず,MPIaseが必須であった(19)19) K. Nishiyama, A. Ikegami, M. Moser, E. Schiltz, H. Tokuda & M. Müller: J. Biol. Chem., 281, 35667 (2006)..YidCを欠損した大腸菌変異株ではSec非依存の膜挿入反応は阻害される(12)12) J. C. Samuelson, M. Chen, F. Jiang, I. Möller, M. Wiedmann, A. Kuhn, G. J. Phillips & R. E. Dalbey: Nature, 406, 637 (2000).ことから,YidCはSec非依存の膜挿入反応に関与することは明らかである.Dalbeyらの解析によると,YidCを欠損した大腸菌変異株においても基質膜タンパク質は細胞質膜にターゲッティングされること,また,細胞質膜に局在した基質膜タンパク質はアルカリ抽出に対して耐性である(24)24) J. C. Samuelson, F. Jiang, L. Yi, M. Chen, J. W. De Gier, A. Kuhn & R. E. Dalbey: J. Biol. Chem., 276, 34847 (2001).ことが示された.これらの結果は,YidCを欠損した場合でも,アルカリ抽出に対して耐性となる程度には膜に組み込まれていることを示している.すなわち,YidCは膜挿入反応の後期段階に関与することが強く示唆された.一方,MPIaseは膜挿入反応の開始に必須である(19~21)19) K. Nishiyama, A. Ikegami, M. Moser, E. Schiltz, H. Tokuda & M. Müller: J. Biol. Chem., 281, 35667 (2006).20) K. Nishiyama, M. Maeda, M. Abe, T. Kanamori, K. Shimamoto, S. Kusumoto, T. Ueda & H. Tokuda: Biochem. Biophys. Res. Commun., 394, 733 (2010).21) K. Nishiyama, M. Maeda, K. Yanagisawa, R. Nagase, H. Komura, T. Iwashita, T. Yamagaki, S. Kusumoto, H. Tokuda & K. Shimamoto: Nat. Commun., 3, 1260 (2012).ことから,MPIaseが膜挿入反応の初期段階で作用することが考えられる.われわれの解析によって,一部の膜タンパク質の膜挿入反応におけるYidCの機能が明らかにされている.F0F1 ATPaseのcサブユニット(F0c)は,SecYEGに依存せずに膜挿入反応する(25)25) M. van der Laan, P. Bechduft, S. Kol, N. Nouwen & A. J. M. Driessen: J. Cell Biol., 165, 213 (2004)..YidC欠損株ではF0cの膜挿入反応が阻害される(26)26) M. van der Laan, M. L. Urbanus, C. M. ten Hagen-Jongman, N. Nouwen, B. Oudega, N. Harms, A. J. M. Driessen & J. Luirink: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 100, 5801 (2003).ことから,F0cの膜挿入反応にはYidCが関与することが示されている.in vitro再構成系を用いて,F0cの膜挿入反応におけるMPIase, YidCの機能が解析された結果,膜挿入反応はYidCのみでは進行せず,MPIaseが必須であること,さらに,MPIaseによる膜挿入反応はYidCにより著しく促進される様子が観察された(27)27) H. Nishikawa, M. Sasaki & K. Nishiyama: Biochem. Biophys. Res. Commun., 487, 477 (2017)..MPIaseにより膜挿入されたF0cはYidCへ受け渡され,YidCが膜挿入反応を完了させるというように,MPIaseとYidCは協調的に働いてF0c膜挿入反応を触媒していると考えられる.このようなMPIaseとYidCの協調的な作用は,F0c以外の基質膜タンパク質の膜挿入でも広く観察されている(28)28) M. Sasaki, H. Nishikawa, S. Suzuki, M. Moser, M. Huber, K. Sawasato, H. Matsubayashi, K. Kumazaki, T. Tsukazaki, Y. Kuruma et al.: J. Biol. Chem., (2019), in press.

3. タンパク質膜透過反応におけるMPIaseの役割

大腸菌のペリプラズム,あるいは外膜で働くタンパク質は,SecYEGを通過して膜透過する.膜透過するタンパク質はN末端にシグナル配列をもった前駆体として合成される.細胞質で合成された前駆体タンパク質は,細胞質シャペロンやSecAによりSecYEGまで輸送される.その後,SecAのATP加水分解エネルギーを利用した構造変化により膜透過反応が駆動される(29, 30)29) D. J. F. du Plessis, N. Nouwen & A. J. M. Driessen: Biochim. Biophys. Acta, 1808, 851 (2011).30) J. Beckwith: Res. Microbiol., 164, 497 (2014)..前駆体タンパク質のシグナル配列は膜透過反応中,あるいは膜透過後にシグナルペプチダーゼにより切断され,成熟タンパク質となる(29, 30)29) D. J. F. du Plessis, N. Nouwen & A. J. M. Driessen: Biochim. Biophys. Acta, 1808, 851 (2011).30) J. Beckwith: Res. Microbiol., 164, 497 (2014).In vitro実験系を用いた解析の結果,MPIaseはタンパク質膜挿入反応に必須であるだけでなく,SecYEGと相互作用し,膜透過反応の効率を約10倍促進することが明らかとなった(31)31) M. Moser, S. Nagamori, M. Huber, H. Tokuda & K. Nishiyama: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 110, 9734 (2013)..化学架橋剤を用いた解析では,MPIaseを欠いたSecYEGはSecEを接触面とした二量体構造(back-to-back)(31)31) M. Moser, S. Nagamori, M. Huber, H. Tokuda & K. Nishiyama: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 110, 9734 (2013).であるのに対し,MPIase存在下ではSecGが接触面近傍に位置する二量体構造(side-by-side)となる(31)31) M. Moser, S. Nagamori, M. Huber, H. Tokuda & K. Nishiyama: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 110, 9734 (2013).ことが明らかとなった.筆者らは,SecYEGの構成サブユニットであるSecGの膜内配向性が膜透過反応に共役して反転・回復サイクルを繰り返す(32)32) K. Nishiyama, T. Suzuki & H. Tokuda: Cell, 85, 71 (1996).ことを見いだしている.このSecGの構造変化によりSecAの膜透過反応に共役した構造変化が円滑となり,膜透過反応が促進される(32)32) K. Nishiyama, T. Suzuki & H. Tokuda: Cell, 85, 71 (1996)..このような膜透過反応に共役したSecGの反転はSecYEGが“side-by-side”構造のときにのみ可能となることが明らかとなった(31)31) M. Moser, S. Nagamori, M. Huber, H. Tokuda & K. Nishiyama: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 110, 9734 (2013).

MPIaseの発現制御機構

1. MPIase生合成酵素の同定

In vitro再構成系を用いた解析では,タンパク質膜挿入反応や膜透過反応におけるMPIaseの重要性が示されていたものの,MPIaseの生合成経路は全く不明であったため,MPIaseを欠損した変異株を構築することができず,MPIaseがin vivoにおいてタンパク質膜挿入反応・膜透過反応に関与しているのかどうかについては不明であった.大腸菌の外膜にはECA(Enterobacterial Common Antigen)と呼ばれる糖脂質が存在する(33)33) H. Mayer: FEMS Microbiol. Rev., 54, 195 (1988)..ECAの構造はMPIaseとよく似ているが,いくつかの点で異なっている.ECAの糖鎖ユニットはMPIaseと同様であるが,その繰り返しの回数がMPIaseは9~11回である(21)21) K. Nishiyama, M. Maeda, K. Yanagisawa, R. Nagase, H. Komura, T. Iwashita, T. Yamagaki, S. Kusumoto, H. Tokuda & K. Shimamoto: Nat. Commun., 3, 1260 (2012).のに対してECAは18~55回と長く,分子によってばらつきがある(33)33) H. Mayer: FEMS Microbiol. Rev., 54, 195 (1988)..また,糖鎖と脂質部分をつなぐリンカーがMPIaseはピロリン酸であるのに対してECAはモノリン酸である(33)33) H. Mayer: FEMS Microbiol. Rev., 54, 195 (1988)..ECAには膜挿入反応を触媒する機能はない(21)21) K. Nishiyama, M. Maeda, K. Yanagisawa, R. Nagase, H. Komura, T. Iwashita, T. Yamagaki, S. Kusumoto, H. Tokuda & K. Shimamoto: Nat. Commun., 3, 1260 (2012).ことが明らかとなっている.ECA生合成遺伝子を欠損した大腸菌変異株においてもMPIase発現量に変化はない(21, 34)21) K. Nishiyama, M. Maeda, K. Yanagisawa, R. Nagase, H. Komura, T. Iwashita, T. Yamagaki, S. Kusumoto, H. Tokuda & K. Shimamoto: Nat. Commun., 3, 1260 (2012).34) Y. Kamemoto, N. Funaba, M. Kawakami, K. Sawasato, K. Kanno, S. Suzuki, H. Nishikawa, R. Sato & K. Nishiyama: J. Gen. Appl. Microbiol., (2019), in press.ことから,MPIaseはECAとは異なる生合成遺伝子により合成されると考えられる.約20年前,ECAの生合成における研究の過程において,機能未知の糖脂質ManNAcA-GlcNAc-PP-DAG(図2図2■MPIaseの構造)が同定されていた(35)35) P. D. Rick, G. L. Hubbard, M. Kitaoka, H. Nagaki, T. Kinoshita, S. Dowd, V. Simplaceanu & C. Ho: Glycobiology, 8, 557 (1998)..当時はこの物質が何であるのかは全く不明であったが,MPIaseの構造が明らかとなった今では,この物質はMPIase生合成中間体であると考えられた.このことから,筆者らは,MPIaseはホスファチジン酸(PA)上で糖鎖が伸長して生合成が進むと考え,MPIase生合成反応の第一段階はGlcNAc-PP-DAG(Compound I)(図2図2■MPIaseの構造)が生合成される反応であると予想した(36)36) K. Sawasato, R. Sato, H. Nishikawa, N. Iimura, Y. Kamemoto, K. Fujikawa, T. Yamaguchi, Y. Kuruma, Y. Tamura, T. Endo et al.: Sci. Rep., 9, 1372 (2019)..Compound Iの生合成反応に関与する因子を探索した結果,CdsAとそのパラログYnbBを同定した(36)36) K. Sawasato, R. Sato, H. Nishikawa, N. Iimura, Y. Kamemoto, K. Fujikawa, T. Yamaguchi, Y. Kuruma, Y. Tamura, T. Endo et al.: Sci. Rep., 9, 1372 (2019)..実際,LC-MS分析でCdsAによるCompound Iの生成が確認された(36)36) K. Sawasato, R. Sato, H. Nishikawa, N. Iimura, Y. Kamemoto, K. Fujikawa, T. Yamaguchi, Y. Kuruma, Y. Tamura, T. Endo et al.: Sci. Rep., 9, 1372 (2019)..CdsAはリン脂質の生合成中間体であるCDP-DAG生合成酵素として古くから知られている因子である(37~39).YnbBはアミノ酸配列の相同性からCdsAのホモログとされているが,その詳細な機能は未知であった.CdsAは菌の生育に必須であるが,YnbBは必須ではない(40)40) T. Baba, T. Ara, M. Hasegawa, Y. Takai, Y. Okumura, M. Baba, K. A. Datsenko, M. Tomita, B. L. Wanner & H. Mori: Mol. Syst. Biol., 2, 8 (2006)..CdsAやYnbBを過剰発現した大腸菌では,これらの因子の過剰発現の程度に対応したMPIase発現量の増加が観察された(36)36) K. Sawasato, R. Sato, H. Nishikawa, N. Iimura, Y. Kamemoto, K. Fujikawa, T. Yamaguchi, Y. Kuruma, Y. Tamura, T. Endo et al.: Sci. Rep., 9, 1372 (2019)..これらのことから,CdsA, YnbBがMPIase生合成反応に関与することが示された(36)36) K. Sawasato, R. Sato, H. Nishikawa, N. Iimura, Y. Kamemoto, K. Fujikawa, T. Yamaguchi, Y. Kuruma, Y. Tamura, T. Endo et al.: Sci. Rep., 9, 1372 (2019)..続いて,CdsA, YnbB欠損株を構築しMPIaseの発現に及ぼす影響を調べた.CdsAは菌の生育に必須であるため,プラスミド上のアラビノース・プロモーターからCdsAを発現させた状態で染色体上のcdsA遺伝子を破壊し,培地中のアラビノースの有無によりCdsAの発現を制御可能な大腸菌変異株を構築した.この株のCdsAを枯渇させるとMPIase量は大幅に減少した(36)36) K. Sawasato, R. Sato, H. Nishikawa, N. Iimura, Y. Kamemoto, K. Fujikawa, T. Yamaguchi, Y. Kuruma, Y. Tamura, T. Endo et al.: Sci. Rep., 9, 1372 (2019)..一方,YnbB欠損株ではMPIase発現量に大幅な変化は観察されなかった(36)36) K. Sawasato, R. Sato, H. Nishikawa, N. Iimura, Y. Kamemoto, K. Fujikawa, T. Yamaguchi, Y. Kuruma, Y. Tamura, T. Endo et al.: Sci. Rep., 9, 1372 (2019)..これらの結果から,CdsAはMPIase生合成反応における律速段階であることが明らかとなった.CdsAがCompound Iを生合成する分子機構を調べたところ,CTPとPAからCDP-DAGが生合成された後,CdsA分子内部にCDP-DAGが保持された状態で糖供与体であるGlcNAc-Pが取り込まれると,Compound Iが生合成されることを明らかになった(36)36) K. Sawasato, R. Sato, H. Nishikawa, N. Iimura, Y. Kamemoto, K. Fujikawa, T. Yamaguchi, Y. Kuruma, Y. Tamura, T. Endo et al.: Sci. Rep., 9, 1372 (2019).図4図4■CdsAおよびTam41pの作用モデル).一方,CdsAから解離したCDP-DAGはリン脂質へと変換される.このような分子機構により,CdsAはリン脂質生合成とMPIase生合成の2つの反応に関与することが判明した(36)36) K. Sawasato, R. Sato, H. Nishikawa, N. Iimura, Y. Kamemoto, K. Fujikawa, T. Yamaguchi, Y. Kuruma, Y. Tamura, T. Endo et al.: Sci. Rep., 9, 1372 (2019).

図4■CdsAおよびTam41pの作用モデル

CdsAに取り込まれたPAはCTPと反応しCDP-DAGに変換される.その後,CdsAから遊離したCDP-DAGはリン脂質へと変換される.一方,CDP-DAGがCdsA分子内部に保持された状態でGlcNAc-Pと反応すると,Compound Iへと変換される.Tam41pはCDP-DAGを生合成するが,Compound Iは生合成しない.

2. MPIaseのin vivoにおける役割

CdsAを枯渇することでMPIaseを枯渇することができるが,この株ではMPIase生合成反応と同時にリン脂質生合成反応も阻害されてしまう.そのため,MPIase枯渇単独の影響を調べることができなかった.酵母ではCDP-DAGは小胞体とミトコンドリアの2カ所で生合成される(41)41) Y. Tamura, Y. Harada, S. I. Nishikawa, K. Yamano, M. Kamiya, T. Shiota, T. Kuroda, O. Kuge, H. Sesaki, K. Imai et al.: Cell Metab., 17, 709 (2013)..小胞体のCDP-DAG生合成酵素Cds1pは大腸菌のCdsAと相同的である(42)42) H. Shen, P. N. Heacock, C. J. Clancey & W. Dowhan: J. Biol. Chem., 271, 789 (1996).が,ミトコンドリアのCDP-DAG生合成酵素Tam41pはCdsAとは全く相同的な配列をもたない(41)41) Y. Tamura, Y. Harada, S. I. Nishikawa, K. Yamano, M. Kamiya, T. Shiota, T. Kuroda, O. Kuge, H. Sesaki, K. Imai et al.: Cell Metab., 17, 709 (2013)..そのため,Tam41pは大腸菌内でリン脂質生合成反応のみを行うのではないかと予想し,CdsA枯渇株にTam41pを発現させた.その結果,Tam41pを発現させた場合,CdsA枯渇株のリン脂質生合成反応は回復したが,MPIaseは枯渇したままであった(36, 43)36) K. Sawasato, R. Sato, H. Nishikawa, N. Iimura, Y. Kamemoto, K. Fujikawa, T. Yamaguchi, Y. Kuruma, Y. Tamura, T. Endo et al.: Sci. Rep., 9, 1372 (2019).43) R. Sato, K. Sawasato & K. Nishiyama: Biochem. Biophys. Res. Commun., 510, 636 (2019)..これらのことから,Tam41pは大腸菌内でリン脂質生合成反応のみを行うことが明らかとなった(図4図4■CdsAおよびTam41pの作用モデル).したがって,CdsA枯渇株にTam41pを発現させると,リン脂質生合成反応は正常でMPIaseのみを枯渇した条件となる.この株を用いて,MPIaseの枯渇がタンパク質膜挿入反応に及ぼす影響について調べた結果,MPIaseの枯渇により膜挿入反応は完全に阻害される様子が観察された.また,タンパク質膜透過反応の効率もMPIaseの枯渇により約1/10程度まで低下していた.また,リン脂質生合成を回復しても菌は生育することができなかった.これらのことから,MPIaseはin vivoにおいてもタンパク質膜挿入反応や菌の生育に必須であり,膜透過反応の効率を著しく促進することが示された(36)36) K. Sawasato, R. Sato, H. Nishikawa, N. Iimura, Y. Kamemoto, K. Fujikawa, T. Yamaguchi, Y. Kuruma, Y. Tamura, T. Endo et al.: Sci. Rep., 9, 1372 (2019).

3. MPIase様物質が生物種間に保存されている可能性の検証

タンパク質膜挿入・膜透過反応の分子機構は基本的なレベルでは生物種間に広く保存されている.CdsAも生物種間に広く保存されている.真核生物のCdsAホモログにもMPIase生合成能が備わっている可能性を考え,酵母やヒトのCdsAホモログであるCds1pをCdsA欠損株に発現させた.酵母およびヒトのCds1pを単独で発現させた場合,MPIase発現量の回復は観察されたものの,菌の生育は回復しなかった(36)36) K. Sawasato, R. Sato, H. Nishikawa, N. Iimura, Y. Kamemoto, K. Fujikawa, T. Yamaguchi, Y. Kuruma, Y. Tamura, T. Endo et al.: Sci. Rep., 9, 1372 (2019)..一方,これらをTam41pと共発現した場合,菌の生育が回復した(36)36) K. Sawasato, R. Sato, H. Nishikawa, N. Iimura, Y. Kamemoto, K. Fujikawa, T. Yamaguchi, Y. Kuruma, Y. Tamura, T. Endo et al.: Sci. Rep., 9, 1372 (2019)..このとき,Cds1pとTam41pの共発現により膜透過反応もCdsAが発現していると同程度まで回復していた.酵母やヒトのCds1pにもMPIaseを生合成する能力が備わっているという結果は,真核生物にもMPIase様の物質が保存されている可能性があることを示唆している.

MPIaseの発現量増加によるタンパク質膜透過反応の低温感受性の抑制

1. タンパク質膜透過反応の低温感受性とMPIaseの関係

タンパク質膜透過反応は低温感受性である(44)44) K. J. Pogliano & J. Beckwith: Genetics, 133, 763 (1993).ことは古くから知られている.これは,低温下では膜脂質の流動性が低下するため,膜挿入反応や膜透過反応などの膜を介した物質輸送が阻害されるためであると考えられている.このような膜挿入・膜透過反応の低温感受性はバクテリアだけでなく,小胞体やミトコンドリア,葉緑体へのタンパク質輸送においても観察される(45~47)45) A. Grossman, S. Bartlett & N.-H. Chua: Nature, 285, 625 (1980).46) M. Schleyer & W. Neupert: Cell, 43, 339 (1985).47) C. V. Nicchitta & G. Blobel: J. Cell Biol., 108, 789 (1989)..多くの生物は低温環境下では膜脂質の流動性を維持するため膜脂質の不飽和度を上昇させる(48)48) A. G. Marr & J. L. Ingraham: J. Bacteriol., 84, 1260 (1962)..しかしながら,低温下で膜脂質の不飽和度が増加しない大腸菌変異株は低温下においても問題なく生育するため(49)49) E. P. Gelmann & J. E. Cronan Jr.: J. Bacteriol., 112, 381 (1972).,不飽和脂肪酸の増加だけでは低温下でのタンパク質膜挿入・膜透過反応の低温感受性の抑制を説明することができない.筆者らは培養温度とMPIase発現量の関係を調べた結果,培養温度の低下に伴ってMPIase発現量が最大7倍程度増加する様子を観察した(50)50) K. Sawasato, S. Suzuki & K. Nishiyama: J. Biol. Chem., 294, 8403 (2019)..一方,SecYEGやYidCなどの発現量は培養温度によって変化しなかった(50)50) K. Sawasato, S. Suzuki & K. Nishiyama: J. Biol. Chem., 294, 8403 (2019).

CdsA, YnbBはMPIase生合成反応における律速酵素であるため,低温下でのMPIase発現量の増加に関与する可能性が考えられた.そこで,ynbB遺伝子欠損株,cdsA遺伝子欠損株,およびynbB/cdsA二重遺伝子欠損株の低温下でのMPIase発現量を調べた.CdsAは菌の生育に必須であるため,CdsAはプラスミド上の低温非誘導性のプロモーターから発現させた状態で培養した.その結果,ynbB遺伝子やcdsA遺伝子それぞれ単独の欠損株では低温下において野生株と同様にMPIase発現量が増加したが,ynbB/cdsA二重遺伝子欠損株では低温下でのMPIaseの増加が大幅に抑制された(50)50) K. Sawasato, S. Suzuki & K. Nishiyama: J. Biol. Chem., 294, 8403 (2019)..これらのことから,低温下でのMPIaseの増加には,CdsAとYnbBの両方が関与することが示された.また,低温下でのMPIaseの増加量に対応してCdsAが増加したことから,低温下ではCdsAやYnbBの増加によりMPIase発現量が増加することが示された(50)50) K. Sawasato, S. Suzuki & K. Nishiyama: J. Biol. Chem., 294, 8403 (2019)..低温下でのMPIaseの増加がタンパク質膜挿入・膜透過反応に及ぼす影響を調べた結果,ynbB/cdsA二重遺伝子欠損株では低温非誘導性のプロモーターからCdsAを発現させていても低温下での膜透過反応は著しく阻害された(50)50) K. Sawasato, S. Suzuki & K. Nishiyama: J. Biol. Chem., 294, 8403 (2019)..一方,タンパク質膜挿入反応は問題なく進行した(50)50) K. Sawasato, S. Suzuki & K. Nishiyama: J. Biol. Chem., 294, 8403 (2019)..これらのことから,低温下でのMPIaseの増加は,効率的な膜透過反応に重要であることが示された.

2. 低温下でのMPIase発現量増加の分子機構

大腸菌が低温に曝されると,一連の低温ショックタンパク質が誘導される(51, 52)51) S. Phadtare & K. Severinov: RNA Biol., 7, 788 (2010).52) K. Yamanaka: J. Mol. Microbiol. Biotechnol., 1, 193 (1999)..通常,低温ショックタンパク質の誘導は一過的であり,誘導されたタンパク質は時間の経過に伴って減少する(51, 52)51) S. Phadtare & K. Severinov: RNA Biol., 7, 788 (2010).52) K. Yamanaka: J. Mol. Microbiol. Biotechnol., 1, 193 (1999)..一方,大腸菌野生株を低温に曝してからのMPIase発現量は低温シフト後にすぐさま最大量に達し,その後,減少することなく増加した量が長時間保たれていた(53)53) K. Sawasato, Y. Sekiya & K. Nishiyama: FEBS Lett., 593, 1711 (2019)..これらの結果は,低温下でのMPIaseの増加は通常の低温ショックタンパク質の応答とは異なることを示している.cdsA遺伝子のmRNA量の変化を調べると,MPIaseの増加と同様に,低温に曝してからすぐに最大値に増加し,その後,増加した量が長時間維持された(53)53) K. Sawasato, Y. Sekiya & K. Nishiyama: FEBS Lett., 593, 1711 (2019).cdsA mRNAの安定性をリファンピシン・チェイス法によって調べると,低温下においてcdsA mRNAの半減期の著しい増加は観察されなかった(53)53) K. Sawasato, Y. Sekiya & K. Nishiyama: FEBS Lett., 593, 1711 (2019)..したがって,低温下ではcdsA遺伝子のプロモーターが活性化される可能性が考えられた.cdsA遺伝子はispU-cdsA-rseP-bamAオペロンの2番目に位置している(図5図5■cdsA遺伝子と低温誘導性プロモーターの配置).これらの遺伝子はすべて大腸菌の生育に必須である.低温で誘導されるcdsA遺伝子のプロモーターを検索し,低温で作動するプロモーターを2つ同定した(53)53) K. Sawasato, Y. Sekiya & K. Nishiyama: FEBS Lett., 593, 1711 (2019).図5図5■cdsA遺伝子と低温誘導性プロモーターの配置).菌が低温に曝露された直後はdxr遺伝子上流のプロモーター(Pcold1)が一過的に作動した.Pcold1の減衰に伴ってispU遺伝子上流のプロモーター(Pcold2)が作動し始め,Pcold2は長時間作動し続けた.その結果,低温下においてMPIase発現量は迅速に増加し,その量が長時間維持されることが判明した(53)53) K. Sawasato, Y. Sekiya & K. Nishiyama: FEBS Lett., 593, 1711 (2019).

図5■cdsA遺伝子と低温誘導性プロモーターの配置

cdsA遺伝子はispU-cdsA-rseP-bamAオペロンの2番目に位置する.菌が低温にさらされるとPcold1が一過的に作動する.Pcold1の減衰に伴ってPcold2が作動する.Pcold2は低温下で長時間作動し続ける.

おわりに

筆者らの解析により,長年,タンパク質性の因子により進行すると考えられてきたタンパク質膜挿入反応や膜透過反応には糖脂質MPIaseが関与することが,in vitro, in vivoの両方で証明された.単純な構造の膜タンパク質であれば,MPIaseは単独で膜挿入反応を駆動することができる.さらに,SecYEGやYidCと協調的に働くなど,MPIaseはさまざまな機能をもつことも明らかにされた.なぜ,糖脂質であるMPIaseがこのような多様な機能を果たせるのかどうかなど,まだまだ解明すべき点が残されており,これらの解決が今後の課題である.また,MPIase生合成酵素CdsAのホモログは生物種間に広く保存されており,筆者らが解析した酵母とヒトのCdsAホモログにはMPIase生合成能が備わっていた.もし,ほかの原核生物や真核生物にもMPIase様物質が存在していた場合,これらのMPIase様物質の機能を改変することにより,物質の分泌生産を向上させた微生物や,低温耐性植物の開発など,幅広い分野への応用展開が可能であると考えている.

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