解説

キノコ由来の生物活性2次代謝産物に関する化学的研究キノコから植物成長調節物質,破骨細胞形成阻害物質,小胞体ストレス抑制物質,子実体形成誘導物質の探索

Chemical Studies on Biologically Active Secondary Metabolites from Mushrooms: Plant Growth Regulators, Osteoclast-Forming Suppressing Compounds, Endoplasmic Reticulum Stress Suppressive Compounds and Fruiting-Body Inducing Compounds from Mushrooms

Jing Wu

静岡大学グリーン科学技術研究所

Hirokazu Kawagishi

河岸 洋和

静岡大学グリーン科学技術研究所

Published: 2020-04-01

キノコとは,分類学的には担子菌や子嚢菌の子実体(fruiting body)の総称であり,ほかの生物種にはないユニークな化合物を数多く産生している.薬理効果を示すキノコも多くあり,霊芝(マンネンタケ),冬虫夏草(子囊菌類が昆虫類に寄生し,最終的に宿主から発生したキノコの総称)などは古くから貴重な薬として用いられている.キノコからは抗腫瘍,抗菌作用のほかさまざまな生理作用を示す化合物が単離されており医薬品の分野での応用をはじめ,日常的に摂取することで疾病の治療や予防が期待されている.キノコは地球上に14万種以上存在するという説があるが,現在まで1万種ほどしか命名されておらず,さらにその命名されたキノコのうちの10%程度しか2次代謝産物に関する研究が行われていない.キノコはいわば「未開拓の化合物の宝庫」なのである(1)

われわれは,キノコの生物活性2次代謝産物の天然物化学的研究を行っている.キノコから生物活性物質を探索するため,多くのキノコを各種有機溶媒で抽出した.それらキノコ抽出物を植物成長調節活性,破骨細胞形成阻害活性および小胞体ストレス誘導神経細胞死抑制活性などのさまざまなバイオアッセイに供し,活性のあったキノコから活性本体の精製,構造決定,作用機構の解明を行っており,さまざまなキノコから新規物質を含む数多くの生物活性物質を発見している.ここでは,筆者の一人,呉が行った研究を中心に紹介する.

植物成長調節物質

公園やグルフ場などで芝生が輪状に周囲より色濃く繁茂し,時には逆に輪状に生長が抑制され,後にキノコが発生する現象が知られている.この現象は,フェアリーリング(fairy rings,妖精の輪)と呼ばれ,西洋の伝説では,妖精が輪を作りその中で踊ると伝えられている.1675年のフェアリーリングに関する最初の科学的論文が1884年のNature誌に紹介されて以来,その妖精の正体(芝を繁茂させる原因)は謎のままであった.われわれは,その妖精の正体を明らかにしようとして研究を開始し,フェアリーリングを引き起こすコムラサキシメジ(Lepista sordida)菌糸体の培養ろ液からフェアリーリングを起こす原因物質として2-azahypoxanthine(AHX,化合物1),imidazole-4-carboxamide(ICA,化合物2)を発見し,さらにAHXの植物体内での代謝産物として2-aza-8-oxohypoxanthine(AOH,化合物3)を見いだした(2~4)2) J.-H. Choi, K. Fushimi, N. Abe, H. Tanaka, S. Maeda, A. Morita, M. Hara, R. Motohashi, J. Matsunaga, H. Kawagishi et al.: ChemBioChem, 11, 1373 (2010).3) J.-H. Choi, N. Abe, H. Tanaka, K. Fushimi, Y. Nishina, A. Morita, Y. Kiriiwa, D. Motohashi, D. Hashizume, H. Koshino et al.: J. Agric. Food Chem., 58, 9956 (2010).4) J.-H. Choi, T. Ohnishi, Y. Yamakawa, S. Takeda, S. Sekiguchi, W. Maruyama, K. Yamashita, T. Suzuki, H. Kawagishi et al.: Angew. Chem. Int. Ed., 53, 1552 (2014)..これらの3つの化合物をフェアリー化合物(fairy chemicals, FCs)と呼んでいる(5)5) A. Mitchinson: Nature, 505, 298 (2014)..FCsはさまざまな植物の成長を制御し,多くの作物の収量を上げるため,農業への応用に関する研究が進んでいる(6, 7)6) H. Kawagishi: Biosci. Biotechnol. Biochem., 82, 752 (2018).7) H. Kawagishi: Proc. Jpn. Acad., Ser. B, Phys. Biol. Sci., 95, 29 (2019)..植物の成長を制御する物質は,植物の成長のメカニズムを明らかにする研究ツールとなる.また,FCsのように農業への応用(成長促進剤,除草剤)も考えられる.そのため,さまざまなキノコから植物成長調節物質の探索を続けている.

最近,コムラサキシメジの菌糸体培養ろ液から,3種のジケトピぺラジンを植物成長調節物質(化合物46)として単離に成功した(8)8) A. Ito, J.-H. Choi, J. Wu, H. Tanaka, H. Hirai & H. Kawagishi: Mycoscience, 58, 387 (2017).図1図1■植物成長調節物質(四角で囲んだ化合物は新規物質)).

図1■植物成長調節物質(四角で囲んだ化合物は新規物質)

サケツバタケ(Stropharia rugosoannulata)はモエギタケ科モエギタケ属のキノコであり,日本,ヨーロッパ,北アメリカ,ニュージーランドで見られ,非常に高い薬用価値と食用価値が期待できる珍しい食用キノコである.このキノコ子実体からは,植物成長調節活性の結果を指標にステロイド3種(化合物79)の精製,同定に成功した(9)9) J. Wu, H. Kobori, M. Kawaide, T. Suzuki, J.-H. Choi, N. Yasuda, K. Noguchi, T. Matsumoto, H. Hirai & H. Kawagishi: Biosci. Biotechnol. Biochem., 77, 1779 (2013).図1図1■植物成長調節物質(四角で囲んだ化合物は新規物質)).

キシメジ(Tricholoma flavovirens)は,キシメジ科キシメジ属のキノコである.秋にマツなどの針葉樹林やコナラ,ミズナラなどのナラ類の広葉樹林内の地上に発生し,北半球一帯に広く分布している.キシメジの子実体から化合物1012の単離を報告した(10)10) W. Qiu, H. Kobori, J. Wu, J.-H. Choi, H. Hirai & H. Kawagishi: Biosci. Biotechnol. Biochem., 81, 441 (2017).図1図1■植物成長調節物質(四角で囲んだ化合物は新規物質)).化合物10は新規化合物であった.

ヤマブシタケ(Hericium erinaceus)は,サンゴハリタケ科サンゴハリタケ属の可食用キノコである.過去にわれわれは,認知症の予防や治療への有効性が指摘されている神経成長因子の合成を促す物質として,子実体からhericenone類を,菌糸体からerinacine類を発見している(11~17)11) H. Kawagishi, M. Ando & T. Mizuno: Tetrahedron Lett., 31, 373 (1990).12) H. Kawagishi, M. Ando, H. Sakamoto, S. Yoshida, F. Ojima, Y. Ishiguro, N. Ukai & S. Furukawa: Tetrahedron Lett., 32, 4561 (1991).13) H. Kawagishi, M. Ando, K. Shinba, H. Sakamoto, S. Yoshida, Y. Ishiguro & S. Furukawa: Phytochemistry, 32, 175 (1992).14) H. Kawagishi, A. Shimada, R. Shirai, K. Okamoto, F. Ojima, H. Sakamoto, Y. Ishiguro & S. Furukawa: Tetrahedron Lett., 35, 1569 (1994).15) H. Kawagishi, A. Shimada, K. Shizuki, H. Mori, K. Okamoto, H. Sakamoto & S. Furukawa: Heterocycl. Commun., 2, 51 (1996).16) H. Kawagishi, A. Shimada, S. Hosokawa, H. Mori, H. Sakamoto, Y. Ishiguro, S. Sakemi, J. Bordner, N. Kojima & S. Furukawa: Tetrahedron Lett., 37, 7399 (1996).17) E. W. Lee, K. Shizuki, S. Hosokawa, M. Suzuki, H. Suganuma, T. Inakuma, J. X. Li, M. Ohnishi-Kameyama, T. Nagata, H. Kawagishi et al.: Biosci. Biotechnol. Biochem., 64, 2402 (2000)..また,菌糸体培養ろ液から,HeLa細胞に対して細胞毒性を有するerinapyrone類を報告している(18, 19)18) H. Kawagishi, R. Shirai, H. Sakamoto, S. Yoshida, F. Ojima & Y. Ishiguro: Chem. Lett., 21, 2475 (1992).19) K. Okamoto, A. Shimada, R. Shirai, H. Sakamoto, S. Yoshida, F. Ojima, Y. Ishiguro, T. Sakai & H. Kawagishi: Phytochemistry, 34, 1445 (1993)..キノコ栽培後の廃菌床からは小胞体ストレス誘導神経細胞死抑制物質が得られている(20)20) K. Ueda, S. Kodani, M. Kubo, K. Masuno, A. Sekiya, K. Nagai & H. Kawagishi: Biosci. Biotechnol. Biochem., 73, 1908 (2009)..最近,ヤマブシタケ培養ろ液からは19種の植物成長調節物質(化合物1331)を単離した.そのうち新規化合物1317をerinaceolactone A, B, erinachromane A, B, erinaphenol Aと命名した.また,化合物20, 21, 30は合成品としては知られていたが天然から初めて単離された化合物であった(21, 22)21) J. Wu, T. Tokunaga, M. Kondo, K. Ishigami, S. Tokuyama, T. Suzuki, J.-H. Choi, H. Hirai & H. Kawagishi: J. Nat. Prod., 78, 155 (2015).22) J. Wu, K. Uchida, A. Y. Ridwan, M. Kondo, J.-H. Choi, H. Hirai & H. Kawagishi: J. Agric. Food Chem., 67, 3134 (2019).図1図1■植物成長調節物質(四角で囲んだ化合物は新規物質)).

アカヤマドリ(Leccinum extremiorientale)はイグチ科ヤマイグチ属の食用キノコであり,日本,中国,韓国に分布する.広葉樹林や,ブナ科の木とアカマツの混成林に発生している.このキノコからも植物成長調節活性の結果を指標に化合物32, 33を単離精製した(23)23) A. Ito, J. Wu, N. Ozawa, J.-H. Choi, H. Hirai & H. Kawagishi: Mycoscience, 58, 383 (2017).図1図1■植物成長調節物質(四角で囲んだ化合物は新規物質)).

中国で自生するベニタケ科ベニタケ属の食用キノコRussula vinosa(和名なし;中国名,正紅菇)は外生菌根菌の可食用キノコである.このキノコから化合物3438が植物成長調節活性物質として単離された(24)24) N. Matsuzaki, J. Wu, M. Kawaide, J.-H. Choi, H. Hirai & H. Kawagishi: Mycoscience, 57, 404 (2016).図1図1■植物成長調節物質(四角で囲んだ化合物は新規物質)).

ショウゲンジ(Cortinarius caperatus)はフウセンタケ科フウセンタケ属の食用キノコである.夏の終わりから秋にかけて,アカマツなどの針葉樹の林内地上に散生し,樹木の細根と菌糸とが結合し,外生菌根を形成している.このキノコから植物成長調節活性物質(化合物3942)の単離に成功した(25)25) Y. A. Ridwan, J. Wu, J.-H. Choi, H. Hirai & H. Kawagishi: Mycoscience, 59, 172 (2018).図1図1■植物成長調節物質(四角で囲んだ化合物は新規物質)).

チャナメツムタケ(Pholiota lubrica)はモエギタケ科スギタケ属のキノコであり,北半球温帯に分布する可食性のキノコである.ブナなどの広葉樹林やアカマツ,カラマツなどの針葉樹林に群生する木材腐朽菌の仲間で,秋になるとその子実体が発生する.化合物4347は植物成長調節活性物質として単離された(26)26) Y. A. Ridwan, R. Matoba, J. Wu, J.-H. Choi, H. Hirai & H. Kawagishi: Tetrahedron Lett., 59, 2559 (2018).図1図1■植物成長調節物質(四角で囲んだ化合物は新規物質)).化合物43は新規化合物であり,化合物47は天然から初めて単離された化合物であった.

破骨細胞形成抑制物質

破骨細胞は生体の骨代謝において重要な働きをもっている.健康な骨では破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成とのバランスがとられ骨量が維持されているが,骨粗鬆症の患者においては,そのバランスが壊れて破骨細胞による骨吸収が亢進するために骨量が減少する.したがって,破骨細胞の働きを抑制することはこのような疾病に有効であると考えられている.われわれは,マウス由来の骨髄細胞と骨芽細胞様間質細胞の共存培養法を用いて,キノコ抽出物の破骨細胞形成抑制活性のスクリーニングを行い,以下のように数種の抽出物に活性を見いだし,活性本体の精製に成功した.

アンニンコウ(Grifola gargal)はサルノコシカケ科マイタケ属の食用キノコであり,南米チリ,アルゼンチンの南緯40度以南に広がるパタゴニア地方に自生している.杏仁の香りであるベンズアルデヒドが発することから命名された.このキノコから新規物質gargalol A~C(化合物4850)と既知物質5152が破骨細胞形成抑制物質として得られた(27)27) J. Wu, J.-H. Choi, M. Yoshida, H. Hirai, E. Harada, K. Masuda, T. Koyama, K. Yazawa, K. Noguchi, H. Kawagishi et al.: Tetrahedron, 67, 6576 (2011).図2図2■破骨細胞形成抑制物質および小胞体ストレス抑制物質(四角で囲んだ化合物は新規物質)).この結果を受けて,このキノコを用いた臨床研究が行われた.閉経後女性(51~73歳,平均年齢61歳)17名が,このキノコの乾燥子実体粉末5 gを毎日朝食後に2週間経口摂取した.そして,試験開始前後に,骨粗鬆症診断における骨代謝マーカーである血清中の骨アルカリ性ホスファターゼ(bone specific alkaline phosphatase; BAP)と骨吸収マーカーである尿中のデオキシピリジノリン(deoxypyridinoline; DPD)を測定した.その結果,このキノコを摂取した女性の尿中DPDのレベルは著しく低下し,BAPの血清レベルは増加する傾向を示した.一方,同時に測定した総コレステロール,HDLコレステロール,LDLコレステロールなどのほかの血清成分に差はなかった.この結果は,キノコを食すことにより骨粗鬆症の予防への効果の可能性を示す初めての臨床試験結果である(28)28) E. Harada, T. Morizono, T. Sumiya & H. Kawagishi: Int. J. Med. Mushrooms, 18, 1 (2016).

図2■破骨細胞形成抑制物質および小胞体ストレス抑制物質(四角で囲んだ化合物は新規物質)

サケツバタケ子実体からはステロイド化合物5359が単離された(29)29) J. Wu, K. Fushimi, S. Tokuyama, M. Ohno, T. Miwa, T. Koyama, K. Yazawa, K. Nagai, T. Matsumoto, H. Kawagishi et al.: Biosci. Biotechnol. Biochem., 75, 1631 (2011).図2図2■破骨細胞形成抑制物質および小胞体ストレス抑制物質(四角で囲んだ化合物は新規物質)).

小胞体ストレス抑制物質

アルツハイマー病の病因としてアミロイドβペプチドの毒性が知られている.アミロイドβペプチドは神経細胞にストレスを与え,死に至らしめる.その一つとして小胞体に対するストレスがある.この小胞体ストレスを抑制できれば,アルツハイマー病などの認知症の治療,予防につながる.われわれは,マウス神経系培養細胞Neuro2aやマウス初代培養神経細胞を用いて,ツニカマイシン,タプシガルギン,アミロイドβなどによる小胞体ストレスを軽減させる細胞保護成分のキノコ抽出物からの探索を行っている.ツニカマイシンは小胞体中の糖タンパク質のN-配糖化を阻害し,タンパク質のミスホールディングを起こし,細胞死をもたらす.また,タプシガルギンは小胞体中でCa2+–ATPaseを阻害し,Ca2+を枯渇させ,細胞を死に至らしめる.

サケツバタケからは,小胞体ストレス誘導神経細胞死抑制を有する全く前例のない新しいステロイド骨格をもつ化合物strophasterol A(化合物61),その類縁体B~D(化合物6264),と既知物質5457, 60を発見した(図2図2■破骨細胞形成抑制物質および小胞体ストレス抑制物質(四角で囲んだ化合物は新規物質)図3図3■Strophasterolの生合成経路仮説(A, B)および化学合成(C)(29, 30)29) J. Wu, K. Fushimi, S. Tokuyama, M. Ohno, T. Miwa, T. Koyama, K. Yazawa, K. Nagai, T. Matsumoto, H. Kawagishi et al.: Biosci. Biotechnol. Biochem., 75, 1631 (2011).30) J. Wu, S. Tokuyama, K. Nagai, N. Yasyda, K. Noguchi, T. Matsumoto, H. Hirai & H. Kawagishi: Angew. Chem. Int. Ed., 51, 10820 (2012)..Strophasterol類の特異な骨格の生合成経路に関しては以下のようなに考えた.すなわち,サケツバタケを含め多くのキノコ中に普遍的に存在するergosterol(化合物65)から生合成されたと考えられ,このキノコから得られた化合物53を前駆体とし,14位の水酸基を起点にイオン反応あるいはラジカル反応でD環が開裂し,側鎖と新しい環を形成するというものである(30)30) J. Wu, S. Tokuyama, K. Nagai, N. Yasyda, K. Noguchi, T. Matsumoto, H. Hirai & H. Kawagishi: Angew. Chem. Int. Ed., 51, 10820 (2012).図3A, B図3■Strophasterolの生合成経路仮説(A, B)および化学合成(C)).東北大学の桑原らは,ergosterol(化合物65)を原料として,D環の酸化開裂とラジカル環化を経て,strophasterolの側鎖部位に存在する5員環の構築に成功し,strophasterol Aの全合成に成功している(31)31) S. Sato, Y. Fukuda, Y. Ogura, E. Kwon & S. Kuwahawa: Angew. Chem. Int. Ed., 56, 10911 (2017).図3C図3■Strophasterolの生合成経路仮説(A, B)および化学合成(C)).

図3■Strophasterolの生合成経路仮説(A, B)および化学合成(C)

子実体形成誘導物質

多くの生物種は,特有のホルモンを有している.しかし,高等菌類であるキノコにおけるホルモンは全く明らかにされていない.われわれは,キノコ生活環の各段階でホルモンがかかわっていると考えて,キノコにおけるホルモンの発見を目指している.特に菌糸から子実体を発生させる子実体形成物質(発茸ホルモン)の発見を目的としている.

植物や動物にはステロイドホルモンが存在する.キノコは一般にステロイドを多種多様に産生している.このことから,われわれは「キノコに存在するホルモンの一つはステロイドホルモンである」という仮説を持っている.その候補として上記のstrophasterol類(化合物6164)に加えて,当研究室で発見されたチャジュタケ(Agrocybe chaxingu)からのchaxine類(化合物6671)を考えた(9, 30, 32, 33)9) J. Wu, H. Kobori, M. Kawaide, T. Suzuki, J.-H. Choi, N. Yasuda, K. Noguchi, T. Matsumoto, H. Hirai & H. Kawagishi: Biosci. Biotechnol. Biochem., 77, 1779 (2013).30) J. Wu, S. Tokuyama, K. Nagai, N. Yasyda, K. Noguchi, T. Matsumoto, H. Hirai & H. Kawagishi: Angew. Chem. Int. Ed., 51, 10820 (2012).32) H. Kawagishi, T. Akachi, T. Ogawa, K. Masuda, K. Yamaguchi, K. Yazawa & M. Takahashi: Heterocycles, 69, 253 (2006).33) J.-H. Choi, A. Ogawa, N. Abe, K. Masuda, T. Koyama, K. Yazawa & H. Kawagishi: Tetrahedron, 65, 9850 (2009).図4図4■子実体形成誘導物質).何故なら,chaxine類もergosterolから生合成していると考えられ,予想生合成経路を模してchaxine BとCの全合成が名古屋大学の西川らによって達成されている(34)34) Y. Hirata, A. Nakazaki, H. Kawagishi & T. Nishikawa: Org. Lett., 19, 560 (2017).図5図5■Chaxine Bの推定生合成経路(上段)と化学合成(下段)).われわれは「これらの化合物はergosterolからエネルギーを要する経路で生合成されており,キノコは目的をもって化合物を創り利用している」と考えている.そして実際にstrophasterol A(化合物61)はヤマブシタケなどの複数のキノコに対して菌糸体成長阻害活性および子実体形成誘導活性を示した(図6図6■各種キノコに対するstrophasterol Aの効果).Chaxine B(化合物67)はマツタケに対して菌糸体成長促進活性,chaxine Z(仮称,化合物71)はエノキタケに対して子実体形成誘導活性が観察された(図7図7■マツタケと工ノキタケに対するchaxine BとZの効果).さらに,106種のキノコ抽出物のLC-MS/MSとNMR分析の結果,分類学的には異なった62種にstrophasterol類が,85種にchaxine類が内生することが明らかになった(未発表データ).

図4■子実体形成誘導物質

図5■Chaxine Bの推定生合成経路(上段)と化学合成(下段)

図6■各種キノコに対するstrophasterol Aの効果

図7■マツタケと工ノキタケに対するchaxine BとZの効果

また,ヤマブシタケ菌糸体から単離されたerinacine AとC(化合物72, 73)はエノキタケの菌糸体形成阻害活性および子実体形成誘導活性を示した(図8図8■工ノキタケに対するerinacine AとCの効果).

図8■工ノキタケに対するerinacine AとCの効果

おわりに

以上,われわれの行ったキノコからの生物活性物質の探索研究を紹介した.キノコは未開拓・未解明な生物資源なのである.生物活性物質の天然物化学的・食品科学的・生化学的研究は,キノコ研究の新しい一面を切り拓いたと言えるかもしれない.

Acknowledgments

貴重なご意見をいただいた東北大学の桑原重文教授,名古屋大学の西川俊夫教授に深く感謝申し上げます.

Reference

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