解説

食品由来フラボノイドの生体利用性:代謝による構造変化と機能性発現フラボノイドの吸収代謝性と機能性の関係

Bioavailability of Dietary Flavonoids: The Structural Changes by Various Metabolisms and the Physiological FunctionsAbsorption and Metabolism of Dietary Flavonoids are Involved in Their Physiological Functions

Kaeko Murota

室田 佳恵子

島根大学学術研究院農生命科学系

Published: 2020-05-01

1936年,血管透過性を調節する物質として柑橘類からビタミンP(ヘスペレチンやルチンなどのフラボノイド配糖体)がSzent–Györgyiによって見いだされた(1)1) A. Bentsáth, S. T. Rusznyák & A. Szent-Györgyi: Nature, 138, 798 (1936)..その後ビタミンからは除外されたが,1990年代に報告されたFrench Paradox(2)2) S. Renaud & M. de Lorgeril: Ann. N. Y. Acad. Sci., 686, 299 (1993).やZutphen Elderly Study(3)3) M. G. Hertog, E. J. Feskens, P. C. Hollman, M. B. Katan & D. Kromhout: Lancet, 342, 1007 (1993).などの疫学研究によって,フラボノイド摂取量が多いほど冠動脈性心疾患による死亡率が低いことが示され,再び機能性成分として注目されるようになった.当初は抗酸化作用が研究の中心であったが,生体利用性研究の進展とともに現在ではそのほかの機能性も明らかになってきた.本稿では食事由来フラボノイドの生体利用性と代謝による構造変化について,機能性発現との関連を交えながら,特に消化管における動態に着目して解説する.

食品由来フラボノイドの化学構造と消化吸収

フラボノイドは植物性食品に含まれる機能性成分であり,C6–C3–C6構造(ジフェニルプロパン構造)を基本骨格にもつポリフェノールの1種である.分子内の2つのフェニル基をつなぐC環部分の構造により,フラボン,フラボノール,フラバノン,フラバン–3–オール,イソフラボン,アントシアニンなどに分類され,基本骨格に付加する水酸基の数と位置により多様な分子が存在している(図1図1■主要な食事由来フラボノイドの分類と構造).フラボノイドはアントシアニンに代表されるように食品化学的には水溶性色素成分に分類されるが,カテキン類(フラバン–3–オール)のようにほぼ無色のものもあり,また後述するがフラボノイドはすべて高い水溶性を示すわけでもない.

図1■主要な食事由来フラボノイドの分類と構造

植物中で多くのフラボノイドは水酸基にさまざまな糖が結合した配糖体(O-配糖体)として存在している.カテキン類(フラバン–3–オール)だけは,配糖体として存在することはないが,茶カテキンでは没食子酸によるacylationが見られる.フラボノイド配糖体の大部分はそのままではほとんど吸収されず,吸収性の高いフラボノイドは消化管管腔で糖鎖部分が加水分解により外されてアグリコンとなることが知られている.一部の配糖体は,基本骨格の炭素に糖が直接結合したC-配糖体として存在している.これは糖鎖の加水分解が起こらないため,吸収性が悪い.

食品に含まれる代表的なフラボノールであるケルセチンは,機能性や生体利用性について特に研究が進んでいるフラボノイドである.ケルセチンはタマネギやブロッコリー,果実類,ワイン,茶,ソバなどさまざまな植物性食品に含まれているが,植物によって含まれる配糖体の構造が異なる(図2図2■代表的なケルセチン配糖体の構造と所在).これ以降,ケルセチンを例として消化吸収代謝について解説する.

図2■代表的なケルセチン配糖体の構造と所在

配糖体は,結合する糖の種類により加水分解が起こる場所,すなわち吸収部位が異なる(4, 5)4) K. Murota & J. Terao: Arch. Biochem. Biophys., 417, 12 (2003).5) K. Murota, Y. Nakamura & M. Uehara: Biosci. Biochem. Biotechnol., 82, 600 (2018).図3図3■フラボノイド配糖体の消化吸収経路と抱合代謝(模式図)).グルコースが1分子付加したモノグルコシドは,小腸で吸収されることが知られている.レタスやブロッコリーなどに含まれるモノグルコシドの1種であるケルセチン-3-O-β-グルコシド(Q3G)の場合,小腸粘膜に局在するラクターゼ−フロリジンハイドロラーゼ(LPH)による加水分解を経て,遊離したアグリコンが腸管細胞に取り込まれる.LPHは管腔側に発現しており,多くの食事由来モノグルコシドの消化吸収にかかわると考えられるが,その活性の個人間変動は非常に大きいため(6)6) K. Németh, G. W. Plumb, J.-G. Berrin, N. Juge, R. Jacob, H. Y. Naim, G. Williamson, D. M. Swallow & P. A. Kroon: Eur. J. Nutr., 24, 29 (2003).,近位小腸での配糖体の加水分解率だけでフラボノイドの総吸収量を推定することはできない.たとえば, LPHの基質となることが知られているイソフラボン配糖体の吸収性を乳糖不耐症の被験者,すなわちラクターゼを欠損したヒトで調べた報告がある(7)7) A. Tamura, T. Shiomi, S. Hachiya, N. Shigematsu & H. Hara: Clin. Nutr., 27, 248 (2008)..それによると,投与後1 h以内の血中濃度上昇は乳糖不耐症の被験者のほうが低値を示したが,その後はLPHの有無による吸収性への大きな影響は見られなかった.LPHで加水分解されて生じるフラボノイドアグリコンは細胞膜と親和性を有するものも多く,摂取後早い時間に小腸でフラボノイドの吸収が起こるためにはLPH経路が重要と推測される.

図3■フラボノイド配糖体の消化吸収経路と抱合代謝(模式図)

CBG, 細胞質β-グルコシダーゼ;LPH, ラクターゼ–フロリジンハイドラーゼ;SGLT1, ナトリウム–グルコース共輸送担体.

一方同じモノグルコシドであっても,タマネギ中の主要な配糖体であるケルセチン-4′-O-β-グルコシド(Q4′G)の場合は,LPH経路に加えて小腸の主要なグルコース輸送担体であるSGLT1を介して配糖体のまま細胞内へ取り込まれ,その後細胞質に存在するβ-グルコシダーゼ(CBG)によって細胞内でアグリコンに変換される経路も報告がある.SGLT1のフラボノイドモノグルコシド吸収における生理的重要性は十分に明らかとは言えないが,フラボノイドは小腸でのグルコース輸送担体に作用してグルコース吸収阻害作用を示すことから,モノグルコシドとグルコース輸送担体はin vivoでも何らかの相互作用をしていることが推定される(8)8) 室田佳恵子,河合慶親,寺尾純二:ビタミン,84, 589 (2010)..SGLT1以外にもいくつかの膜タンパク質がフラボノイドの細胞取り込みに関与することが示唆されているが(8)8) 室田佳恵子,河合慶親,寺尾純二:ビタミン,84, 589 (2010).,フラボノイドの膜輸送機構についてはまだ十分に解明されてはいない.

モノグルコシド以外の配糖体は小腸上部では加水分解されないため,小腸では吸収されることなく遠位消化管に移行する(図3図3■フラボノイド配糖体の消化吸収経路と抱合代謝(模式図)).グルコース以外の単糖類(ガラクトース,アラビノースなど)や二糖類(ルチノースなど)が結合した配糖体は,腸内細菌の作用によりアグリコンへと変換された後大腸で吸収される.小腸で吸収されない配糖体は腸内滞在時間が長いため吸収は遅く,また後述するとおり糖の加水分解以外の代謝による構造変換が起こるため,そのような配糖体に由来するフラボノイドの吸収性は低くなる.

消化管内で糖が加水分解されて生じるアグリコンは親水性が減少して水には溶けなくなってしまう場合がほとんどである.ケルセチンアグリコンは水−オクタノール分配係数の対数であるLog P値が1.8(理論値は1.5)を示す(9)9) 室田佳恵子:オレオサイエンス,18, 29 (2018).ことからもわかるとおり,弱い脂溶性を示す分子であり,アルコールに最も溶解しやすい.ケルセチンアグリコンを油脂や乳化剤と同時投与すると吸収が促進されることが報告されている(10, 11)10) K. Azuma, K. Ippoushi, H. Ito, H. Higashio & J. Terao: J. Agric. Food Chem., 50, 1706 (2002).11) S. Lesser, R. Cermak & S. Wolffram: J. Nutr., 134, 1508 (2004)..また立体構造上界面に存在しやすく,細胞膜への親和性が強い(12)12) M. Shirai, J.-H. Moon, T. Tsushida & J. Terao: J. Agric. Food Chem., 49, 5602 (2001)..このような性質により,ケルセチンの場合は原則としてアグリコンの方が配糖体よりも細胞に取り込まれやすく吸収性が高い.ケルセチンがアグリコンの状態で存在しているタマネギ外皮のパウダーと配糖体(主にQ4′GとQ3,4′G)として存在しているタマネギの鱗茎部を試験食として比較したヒト摂食実験では,外皮由来アグリコンの方が鱗茎部由来配糖体よりも吸収性が高くなる(13)13) W. Wiczkowski, J. Romaszko, A. Bucinski, D. Szawara-Nowak, J. Honke, H. Zielinski & M. K. Piskula: J. Nutr., 138, 885 (2008)..ただしフラボノイドアグリコンは天然の食品にはほとんど含まれておらず,納豆などの発酵食品において発酵過程で生じるイソフラボンアグリコンが含まれる場合がある(14)14) H. Wang & P. A. Murphy: J. Agric. Food Chem., 42, 1666 (1994).

一方で,サプリメントなどの加工食品としてアグリコンを摂取するのはあまり効率的とは言えない.われわれはケルセチンアグリコンと配糖体の粉末を用いたヒトでの吸収実験を行ったところ,粉末(オブラートに包んで摂取)+水,という試験食条件では,アグリコンの吸収は非常に悪かった(15)15) K. Murota, N. Matsuda, Y. Kashino, Y. Fujikura, T. Nakamura, Y. Kato, R. Shimizu, S. Okuyama, H. Tanaka, T. Koda et al.: Arch. Biochem. Biophys., 501, 91 (2010)..これは親水性の低いアグリコンはfood matrixなどの共存する食品成分なしには十分な量が腸管上皮に到達できないためと考えられる.このとき比較した配糖体のなかで最も吸収性が高かったのは酵素処理イソケルシトリン(EMIQ)であり,検出された血漿中代謝物の種類は通常のケルセチン配糖体と同様であった.EMIQは,ルチンに対してルチノース側鎖のラムノース部分を脱離した後αグルコシルオリゴマーを結合させたもので,食品添加物として使用されている.EMIQのαオリゴ糖側鎖は小腸粘膜に存在するαグルコシダーゼによって容易に加水分解され,一次消化産物であるQ3Gを経て,最終的にアグリコンへと変換されて吸収されると考えられている(16)16) T. Makino, R. Shimizu, M. Kanemaru, Y. Suzuki, M. Moriwaki & H. Mizukami: Biol. Pharm. Bull., 32, 2034 (2009)..このことから,サプリメントや一般的な飲料への添加物として使用するのであれば,アグリコンよりも水溶性が高い配糖体のほうが吸収されやすくなると考えられる.

腸内細菌によるフラボノイド配糖体の構造変換と機能性

腸内細菌は,多様なフラボノイド配糖体からアグリコンを生じさせるだけでなく,基本骨格の構造変化を引き起こす異化代謝をも行うことが知られている(5, 17)5) K. Murota, Y. Nakamura & M. Uehara: Biosci. Biochem. Biotechnol., 82, 600 (2018).17) K. Kawabata, Y. Yoshioka & J. Terao: Molecules, 24, 370 (2019)..ケルセチン配糖体からは,3,4-ジヒドロキシフェニル酢酸(DOPAC),3-ヒドロキシフェニル酢酸(OPAC),3,4-ジヒドロキシ安息香酸(プロトカテキュ酸)などが生じることが報告されている.これらの開裂異化代謝物はヒト血漿からも検出され,親化合物であるフラボノイド代謝物よりも高い濃度を示す場合もある(17)17) K. Kawabata, Y. Yoshioka & J. Terao: Molecules, 24, 370 (2019).

腸内細菌による代謝は開裂反応だけでなく還元による基本骨格の構造変化を引き起こす場合もある.代表的なものは,イソフラボンの一種であるダイゼインから生じるエクオールである(5, 18, 19)5) K. Murota, Y. Nakamura & M. Uehara: Biosci. Biochem. Biotechnol., 82, 600 (2018).18) M. Uehara: J. Clin. Biochem. Nutr., 52, 193 (2013).19) 石見佳子,東泉裕子:化学と生物,51, 74 (2013)..イソフラボンはエストロゲン受容体と弱い親和性をもつ植物エストロゲンとして知られるが,エクオールはこの作用が親分子であるダイゼインよりも強い.エクオールの産生能には大きな個人差があり,また概してアジア人は欧米人よりもエクオール産生者が多い(20)20) K. B. Song, C. Atkinson, C. L. Frankenfeld, T. Jokela, K. Wahala, W. K. Thomas & J. W. Lampe: J. Nutr., 136, 1347 (2006)..もう一つの主なイソフラボン異化代謝物としてO-デスメチルアンゴレンシン(O-DMA)が産生されるが,この分子のエストロゲン様作用は弱い.O-DMAは80~90%のヒトから検出されるが,エクオールを腸内で産生できるのは30~50%であり(18)18) M. Uehara: J. Clin. Biochem. Nutr., 52, 193 (2013).,エクオールの機能性食品としての利用が注目されている(19)19) 石見佳子,東泉裕子:化学と生物,51, 74 (2013).

フラボノイドを含む食事由来ポリフェノールから生じる腸内細菌代謝物の網羅解析は近年非常に盛んに行われており,バイオマーカーとしての重要性や機能性を発揮する活性本体としての役割についてメタボロミクス的なアプローチが非常に増えている(5, 21, 22)5) K. Murota, Y. Nakamura & M. Uehara: Biosci. Biochem. Biotechnol., 82, 600 (2018).21) S. Moco, F. P. Martin & S. Rezzi: J. Proteome Res., 11, 4781 (2012).22) P. Mena, L. Bresciani, N. Brindani, I. A. Ludwig, G. Pereira-Caro, D. Angelino, R. Llorach, L. Calani, F. Brighenti, M. N. Clifford et al.: Nat. Prod. Rep., 36, 714 (2019).

小腸,肝臓での代謝と生体内輸送

すでに述べたように,フラボノイドはほとんどがアグリコンに変換されてから小腸の吸収上皮細胞に取り込まれる.腸内細菌代謝により産生されたフラボノイドアグリコンや異化代謝物は大腸上皮で吸収される.

脂溶性の外来異物が体内に入ると,生体はこれを排除するための解毒代謝として,水酸基を付加する第一相反応を行い,さらに付加した水酸基への抱合反応である第二相反応を起こす.抱合されることで水溶性が高められた異物は薬物トランスポーターによって細胞外に排出され,最終的に体外へ排出される.このような解毒代謝応答は主に肝臓で起こるが,小腸や大腸の上皮細胞も高い解毒代謝活性を有する.フラボノイドは分子内水酸基を有しているため,直ちに第二相反応の基質となり消化管上皮で大部分が抱合体へと変換されてしまう(4, 5)4) K. Murota & J. Terao: Arch. Biochem. Biophys., 417, 12 (2003).5) K. Murota, Y. Nakamura & M. Uehara: Biosci. Biochem. Biotechnol., 82, 600 (2018)..吸収されたフラボノイドやフェノール酸などの腸内細菌代謝産物は,第二相酵素のうち主にグルクロン酸転移酵素(UGT),あるいは硫酸転移酵素(SULT)によってグルクロン酸抱合体あるいは硫酸抱合体に変換される.ケルセチンやカテキン類など,カテコール構造やガロイル基を分子内にもつフラボノイドの場合は,カテコール-O-メチルトランスフェラーゼ(COMT)によってメトキシフラボノイドへと変換されることもある.そのため,一部の例外を除き体内にはフラボノイドアグリコンはほとんど存在せず,末梢血中では複数の抱合を受けた代謝物として循環している.

小腸で産生されたフラボノイド抱合代謝物は,主に門脈を介して肝臓へ運ばれる.肝臓でさらなる代謝を受けた抱合代謝物は血液循環へ移行するが,胆汁を介して小腸管腔へと排泄される腸肝循環の経路をたどるフラボノイドも一定量存在している.腸肝循環により小腸へ排出された抱合代謝物は,腸内細菌の作用により脱抱合を受け,再び大腸から吸収される.腸肝循環は,生体内滞留時間の延長や蓄積量の増加に貢献していると考えられる.

われわれは,ケルセチン代謝物が門脈系とリンパ系の両方を介して輸送されることを見いだした(9)9) 室田佳恵子:オレオサイエンス,18, 29 (2018)..一般的にリンパ管は脂質や脂溶性ビタミンをカイロミクロンの形で輸送する経路である.前述のとおり,ケルセチンは油脂と同時投与すると吸収が促進される.そこで,胸管リンパカニュレーションラットを用いて,ケルセチンを長鎖脂肪酸のトリグリセリド(大豆油)と混合して十二指腸に投与したところ,中鎖脂肪酸のトリグリセリドと同時投与した場合に比較して,リンパ液中トリグリセリドの増加とともにケルセチン代謝物のリンパ輸送が有意に促進された(9, 23)9) 室田佳恵子:オレオサイエンス,18, 29 (2018).23) K. Murota, R. Cermak, J. Terao & S. Wolffram: Br. J. Nutr., 109, 2147 (2013)..しかし興味深いことに,油脂の混合投与による吸収促進は同時に血中フラボノイド濃度の増加も引き起こした.また,リンパ液中のケルセチン代謝物は,カイロミクロンを除去してもリンパ溶液中の濃度が変わらず,カイロミクロンの構成成分ではないことが示唆された(23)23) K. Murota, R. Cermak, J. Terao & S. Wolffram: Br. J. Nutr., 109, 2147 (2013)..さらに,末梢血中とリンパ液中に出現するケルセチン抱合体の構造をLC-MS/MSを用いて分析したところ,リンパ液中には小腸で産生されて直接移行した一次抱合代謝物と末梢循環から移行してきたと考えらえる肝臓由来の二次抱合代謝物の両方が存在することを示唆する結果を得た(24)24) T. Nakamura, C. Kinjo, Y. Nakamura, Y. Kato, M. Nishikawa, M. Hamada, N. Nakajima, S. Ikushiro & K. Murota: Arch. Biochem. Biophys., 645, 126 (2018)..さらに興味深いことに,モノグルコシドとして投与した場合とアグリコンとして投与した場合で,リンパ液へ輸送される抱合体の構造が異なることも示した(24)24) T. Nakamura, C. Kinjo, Y. Nakamura, Y. Kato, M. Nishikawa, M. Hamada, N. Nakajima, S. Ikushiro & K. Murota: Arch. Biochem. Biophys., 645, 126 (2018)..これまでのところフラボノイドがリンパ液に輸送されるメカニズムは明らかではないが,リンパからの吸収は一般的に肝臓での解毒代謝を回避する経路として知られており,抱合の程度が低い代謝物,すなわち比較的活性が高く体外に排泄されにくい分子を末梢の標的器官に到達させる可能性がある.また,リンパ系は恒常性維持や免疫防御に重要な器官であり,フラボノイドの機能性との関連も含めたリンパ輸送経路の生理的意義の解明を目指している(図4図4■フラボノイドのリンパ輸送経路(模式図)).

図4■フラボノイドのリンパ輸送経路(模式図)

フラボノイド代謝物の活性発現と標的臓器

血漿,尿,臓器に存在するフラボノイド代謝物の構造は,機能性の強さに大きく影響する.抱合代謝物は速やかに尿中へと排出されるため,長期にわたる機能性発揮のためにはフラボノイドを一定濃度体内に維持することが重要と考えられる.前述の腸肝循環は,長時間フラボノイドを体内に維持することに役立っていると考えられる(18)18) M. Uehara: J. Clin. Biochem. Nutr., 52, 193 (2013)..フラボノイドを蓄積しやすい臓器は機能性発揮の標的となりうる.ケルセチンの場合,ラットにフラボノイド除去食を与え続けた後にも脳内にはケルセチンが残存することが報告されており(25)25) A. Ishisaka, S. Ichikawa, H. Sakakibara, M. K. Piskula, T. Nakamura, Y. Kato, M. Ito, K. Miyamoto, A. Tsuji, Y. Kawai et al.: Free Radic. Biol. Med., 51, 1329 (2011).,脳がフラボノイドの標的器官となりうることを裏付けている.また向井らは,プレニル化修飾されたケルセチンは体内に蓄積しやすく,筋萎縮に対して予防効果が期待できることを示した(26, 27)26) J. Terao & R. Mukai: Arch. Biochem. Biophys., 559, 12 (2014).27) R. Mukai: Biosci. Biotechnol. Biochem., 82, 207 (2018).

フラボノイド研究の初期は,アグリコンが発揮する抗酸化性のように,代謝による構造変化を考慮しない機能性研究がほとんどであったが,生体利用性研究が進展するにつれて,代謝物が生体内で発揮し得る機能性が研究されるようになってきた.しかしながら,アグリコンに比較すると代謝物の活性は低いか,あるいは活性を示さなかったとの報告も多く,抱合体がすべての作用を発揮するとは考えにくい.たとえばタマネギ摂取後の血漿中ケルセチン抱合体はLDLにはほとんど蓄積せず,冠動脈性心疾患の病因の一つと考えられる酸化LDLの産生抑制には貢献しにくいと考えられる(28)28) J. Terao, Y. Kawai & K. Murota: Asia Pac. J. Clin. Nutr., 17(S1), 291 (2008)..そこで,活性調節の仕組みの一つとして局所的な脱抱合が考えられている.脱抱合酵素であるβ-グルクロニダーゼは肝臓や血球などに発現しているが,炎症時などには局所的に細胞外へ漏出する.そこで血中の抱合体がアグリコンへ変換されることでラジカル捕捉活性などの機能性が増強されている可能性がある.河合らはマクロファージにおける脱グルクロニル化機構について報告し,動脈硬化病変におけるケルセチン抱合体の作用機序を示唆した(29)29) Y. Kawai: J. Clin. Biochem. Nutr., 54, 145 (2014)..下位らは,炎症時に好中球由来のβ-グルクロニダーゼがルテオリン代謝物の脱抱合を引き起こすことを報告した(30)30) K. Shimoi & Y. Nakayama: Methods Enzymol., 400, 263 (2005)..このように,標的部位における抱合–脱抱合のバランスによってフラボノイド代謝物の活性調節が行われている可能性がある.

さらに最近では,血漿濃度が非常に低く吸収されにくいと考えられてきたポリフェノールの機能性が見直されている.たとえばフラバン–3–オールの重合体であるプロシアニジンの場合,吸収可能な二量体,三量体の吸収動態が初期の研究対象であったが,現在では,以前は吸収性が評価されていなかった腸内細菌による異化代謝物の重要性(31)31) M. M. Appeldoorn, J.-P. Vincken, A.-M. Aura, P. C. H. Hollman & H. Gruppen: J. Agric. Food Chem., 57, 1084 (2009).や,吸収される前に消化管内で神経系を介して生理機能を発揮する機序(32, 33)32) 越阪部奈緒美:化学と生物,54, 726 (2016).33) N. Osakabe & J. Terao: Nutr. Rev., 76, 174 (2018).などが報告されている.

おわりに

フラボノイドは抗酸化性などさまざまな機能性が期待される食品成分であるが,生体機能を作用機序も含めて明らかにしていくうえで,吸収性や吸収代謝経路の情報は非常に重要である.われわれは,すでに紹介した研究に加えて,タマネギソテーと豆腐を摂取した後のヒト血漿中フラボノイド代謝物(34)34) T. Nakamura, K. Murota, S. Kumamoto, K. Misumi, N. Bando, S. Ikushiro, N. Takahashi, K. Sekido, Y. Kato & J. Terao: Mol. Nutr. Food Res., 58, 310 (2014).を比較解析した.タマネギはケルセチン配糖体を含み,豆腐はイソフラボン配糖体(ゲニスチン,ダイジンなど)を含んでいる.タマネギのみを摂取すると血漿からは主にケルセチンのグルクロン酸抱合体が見いだされ,豆腐のみを摂取するとイソフラボンのグルクロン酸抱合体と硫酸抱合体の両方が検出された.これらの食品を同時に摂取すると,ケルセチン代謝物においてはグルクロン酸抱合体の減少と硫酸抱合体の増加が起こり,イソフラボン代謝物では硫酸抱合体の減少が見いだされた.このように,食材の組み合わせはフラボノイドの代謝に影響を与える.われわれは日常的にさまざまな食材からさまざまなフラボノイドを摂取しており,その組み合わせは膨大である.

今回は,フラボノールであるケルセチンを中心に解説したが,そのほかのフラボノイドを含めて生体利用性について詳しく解説した良書(35)35) J. P. E. Spencer & A. Crozier: “Flavonoids and related compounds : bioavailability and function,” CRC Press, 2012.を紹介しておく.2003年以降,International Conference on Polyphenols and Health(ICPH)というポリフェノール研究者が一堂に会して最新の研究を発表する国際会議がヨーロッパの研究者を中心として2年に1回開催されており,2019年には神戸で第9回が盛大に開催された.本書は主要な学会メンバーによって執筆されており,ポリフェノールの生体利用性に関してほかのどんな書籍よりも詳しい.興味をもった方は是非参照して欲しい.

Reference

1) A. Bentsáth, S. T. Rusznyák & A. Szent-Györgyi: Nature, 138, 798 (1936).

2) S. Renaud & M. de Lorgeril: Ann. N. Y. Acad. Sci., 686, 299 (1993).

3) M. G. Hertog, E. J. Feskens, P. C. Hollman, M. B. Katan & D. Kromhout: Lancet, 342, 1007 (1993).

4) K. Murota & J. Terao: Arch. Biochem. Biophys., 417, 12 (2003).

5) K. Murota, Y. Nakamura & M. Uehara: Biosci. Biochem. Biotechnol., 82, 600 (2018).

6) K. Németh, G. W. Plumb, J.-G. Berrin, N. Juge, R. Jacob, H. Y. Naim, G. Williamson, D. M. Swallow & P. A. Kroon: Eur. J. Nutr., 24, 29 (2003).

7) A. Tamura, T. Shiomi, S. Hachiya, N. Shigematsu & H. Hara: Clin. Nutr., 27, 248 (2008).

8) 室田佳恵子,河合慶親,寺尾純二:ビタミン,84, 589 (2010).

9) 室田佳恵子:オレオサイエンス,18, 29 (2018).

10) K. Azuma, K. Ippoushi, H. Ito, H. Higashio & J. Terao: J. Agric. Food Chem., 50, 1706 (2002).

11) S. Lesser, R. Cermak & S. Wolffram: J. Nutr., 134, 1508 (2004).

12) M. Shirai, J.-H. Moon, T. Tsushida & J. Terao: J. Agric. Food Chem., 49, 5602 (2001).

13) W. Wiczkowski, J. Romaszko, A. Bucinski, D. Szawara-Nowak, J. Honke, H. Zielinski & M. K. Piskula: J. Nutr., 138, 885 (2008).

14) H. Wang & P. A. Murphy: J. Agric. Food Chem., 42, 1666 (1994).

15) K. Murota, N. Matsuda, Y. Kashino, Y. Fujikura, T. Nakamura, Y. Kato, R. Shimizu, S. Okuyama, H. Tanaka, T. Koda et al.: Arch. Biochem. Biophys., 501, 91 (2010).

16) T. Makino, R. Shimizu, M. Kanemaru, Y. Suzuki, M. Moriwaki & H. Mizukami: Biol. Pharm. Bull., 32, 2034 (2009).

17) K. Kawabata, Y. Yoshioka & J. Terao: Molecules, 24, 370 (2019).

18) M. Uehara: J. Clin. Biochem. Nutr., 52, 193 (2013).

19) 石見佳子,東泉裕子:化学と生物,51, 74 (2013).

20) K. B. Song, C. Atkinson, C. L. Frankenfeld, T. Jokela, K. Wahala, W. K. Thomas & J. W. Lampe: J. Nutr., 136, 1347 (2006).

21) S. Moco, F. P. Martin & S. Rezzi: J. Proteome Res., 11, 4781 (2012).

22) P. Mena, L. Bresciani, N. Brindani, I. A. Ludwig, G. Pereira-Caro, D. Angelino, R. Llorach, L. Calani, F. Brighenti, M. N. Clifford et al.: Nat. Prod. Rep., 36, 714 (2019).

23) K. Murota, R. Cermak, J. Terao & S. Wolffram: Br. J. Nutr., 109, 2147 (2013).

24) T. Nakamura, C. Kinjo, Y. Nakamura, Y. Kato, M. Nishikawa, M. Hamada, N. Nakajima, S. Ikushiro & K. Murota: Arch. Biochem. Biophys., 645, 126 (2018).

25) A. Ishisaka, S. Ichikawa, H. Sakakibara, M. K. Piskula, T. Nakamura, Y. Kato, M. Ito, K. Miyamoto, A. Tsuji, Y. Kawai et al.: Free Radic. Biol. Med., 51, 1329 (2011).

26) J. Terao & R. Mukai: Arch. Biochem. Biophys., 559, 12 (2014).

27) R. Mukai: Biosci. Biotechnol. Biochem., 82, 207 (2018).

28) J. Terao, Y. Kawai & K. Murota: Asia Pac. J. Clin. Nutr., 17(S1), 291 (2008).

29) Y. Kawai: J. Clin. Biochem. Nutr., 54, 145 (2014).

30) K. Shimoi & Y. Nakayama: Methods Enzymol., 400, 263 (2005).

31) M. M. Appeldoorn, J.-P. Vincken, A.-M. Aura, P. C. H. Hollman & H. Gruppen: J. Agric. Food Chem., 57, 1084 (2009).

32) 越阪部奈緒美:化学と生物,54, 726 (2016).

33) N. Osakabe & J. Terao: Nutr. Rev., 76, 174 (2018).

34) T. Nakamura, K. Murota, S. Kumamoto, K. Misumi, N. Bando, S. Ikushiro, N. Takahashi, K. Sekido, Y. Kato & J. Terao: Mol. Nutr. Food Res., 58, 310 (2014).

35) J. P. E. Spencer & A. Crozier: “Flavonoids and related compounds : bioavailability and function,” CRC Press, 2012.