Kagaku to Seibutsu 58(5): 316-319 (2020)
海外だより
Food Factor Week in Kobeへの参加報告機能性食品因子研究合同国際会議週間
Published: 2020-05-01
© 2020 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2020 公益社団法人日本農芸化学会
2019年11月28日(木)から2019年12月5日(木)の期間に,神戸ポートアイランドにある神戸コンベンション(ポートピアホテル,神戸国際会議場,神戸国際展示場)にて「Food Factor Week in Kobe」(健康寿命の延伸を目指した機能性食品因子研究合同国際会議週間)と銘打って,食品科学にかかわる3つの国際学会,「第9回ポリフェノールと健康国際会議(ICPH2019)」,「第7回国際フードファクター会議(ICoFF2019)」,「第12回国際機能性食品学会(ISNFF2019)」が合同で開催された.本稿では,その参加報告として学会の様子をレポートする.
「Food Factor Week in Kobe」の前半11月28日(木)から12月1日に開催されたICPH(International Conference on Polyphenols and Health)は,ポリフェノールの機能性に関する国際会議で,2年に1度,世界中のどこかで開催される.今回は日本開催(ICPH2019)であり,2007年に第3回の学術集会(会頭:寺尾純二先生,現・甲南大学)が京都で開催されて以来の日本開催(2回目)である.アジア,ヨーロッパ,北米,南米,アフリカ,世界中31カ国より534名の参加者数があった.会頭を神戸大学の芦田均先生と静岡県立大学の下位香代子先生が務められた.筆者(三好)は,カナダのケベックで開催された前回大会(ICPH2017)に参加して以来2回目の参加となった.初日(11/28)には,日本ポリフェノール学会(第13回学術集会)と日本カテキン学会(第16回学術集会)とのJoint Pre-symposiumも開催され,その後のICPH Opening ceremonyとICPH Opening Lectureで,まさに「Food Factor Week in Kobe」(ICPH/ICoFF/ISNFF)の幕が開けた.ICPHの大会テーマは,「Basic and Human Studies to Reach Our Goal」であり,実験動物や培養細胞を用いた基礎研究のみならず,ヒト研究に関する演題が積極的に議論された.大会2日目以降は,毎朝8時半からPlenary Lectureが2演題ずつあり(計6講演),特にPlenary Lecture 4(Dr. Gary Williamson, Monash University, Australia)では,オーストラリアで実施されているポリフェノールの介入試験が紹介され,ヒト研究におけるポリフェノール機能(抗糖尿病作用)のエビデンスが蓄積しつつあることが実感できた.Plenary Lectureのあとは,10時頃から2会場に分かれてシンポジウムである.会期中,計15のシンポジウムが行われた.各シンポジウムでは,認知機能(Symposium 1),メタボリックシンドローム(Symposium 2),血管機能(Symposium 11)に対するポリフェノールの基礎応用研究,NMRやLC-MSなど最新の分析機器を駆使したポリフェノール代謝物(メタボロミクス)や体内動態解析が報告されていた(Symposium 4, 5, 7).また,腸内細菌に関する注目度の高さは,ポリフェノール研究分野でも例外ではなく,Symposium 3「Gut Microbiota」での5演題だけでなく,他のシンポジウムやポスター発表においても腸内細菌組成や腸内細菌代謝に関連した多くの研究が報告されていた.さらに,茶カテキン(Symposium 8),ココアポリフェノール(Symposium 9),アントシアニンとプロシアニジン(Symposium 10),ポリメトキシフラボノイド(Symposium 14)と冠を付けたシンポジウムが開催されていることからも,各分野の層の厚さと,個々の高い成熟レベルを伺い知ることができた.またPolyphenols in Asian Foods(Symposium 12)というセッションは,日本開催の特徴の一つであったように思われる.シンポジウムの後は,17時半頃からポスターディスカッションである.シンポジウムと同様のカテゴリで,ポリフェノールの体内動態・代謝,分析法・オミクス,分子標的,腸内細菌,疾病予防,ヒト介入試験など,計218演題で熱い議論が交わされた.
さて,ICPHにおいては,昼食(ランチ)は参加費に含まれていて,その形式は,ランチョンセミナーではなくビュッフェが基本である.今大会の場合,会期4日間のうち初日(午後のみ講演)と最終日(午前のみ講演)を除く11/29と11/30に神戸ポートピアホテル宴会場にてランチが提供された.11/29のランチは,基本のビュッフェ(メニューは,キーマカレー,炊き込みご飯,白身魚バジル焼き風,焼いた鶏肉,ラタトゥイユ風野菜煮込み,クッキー,コーヒーなど)であった.しかし11/30は,基本のビュッフェではなくJapanese-styleとなり,いわゆる仕出し弁当(ごはん,汁物,お漬物,南瓜と大根の煮物,煮びたし,焼いた鶏肉,サーモン手毬寿司,いくらと大根おろしなど)が提供された.ランチョンでいただくお弁当も大好きですが,着席で共同研究者の方々とお話ししながらいただくランチも意義ある重要なICPHの特徴である.
さてさて,学会で(最も)重要な事項の一つが夜の懇親会(バンケット)である.ICPH2019のバンケット(こちらは有料)は,11/30のポスター発表終了後,会場をホテルオークラ神戸へと移し,雅楽の生演奏で参加者を迎えて,芦田先生(紋付羽織袴),下位先生(着物)両大会長のご挨拶の後,鏡割りの乾杯で日本風バンケットが開宴した.圧巻は,バンケットの終盤,どこからともなく阿波踊りの鳴り物の音が聞こえてきて,元徳島大学の寺尾純二先生を筆頭に,参加者全員で列を成し会場全体で「阿波踊る」という,最高の日本風もてなしでバンケットは絶頂を迎えた.前回大会ICPH2017(カナダのケベック)のときも,お城みたいな教会で,カナダの芸能人みたいな人が,バイオリンの超絶テクを披露するという,超盛大バンケットだったので,ICPHのバンケットは楽しめます.
次回ICPH2021は,Jeremy Spencer先生(University of Reading)を会頭にロンドンで開催されます.会期は2021年12月2~5日です.ポリフェノールの健康の機能に関して興味のある方は是非ご参加ください.
ICPH2019に引き続き「Food Factor Week in Kobe」の後半,ICoFF2019とISNFF2019の合同大会が,12月1日から12月5日にかけて開催された.神戸大学の芦田均先生が組織委員長とICoFF2019大会長を,京都大学の佐藤健司先生がISNFF2019大会長を務められた.大会後の集計では,参加者総数は国内外38カ国から計1,632名で,そのうちの203名はICPH2019から継続しての参加であった.口頭発表は387演題,ポスター発表は516演題がエントリーされていた.
ICoFF(International Conference on Food Factors)は4年ごとに開催される国際的な学術集会で,国内外から食品系,医学系,薬学系などの研究者が生体調節機能に関する食品因子研究の成果を発表し,議論する貴重な国際大会として発展してきた.第1回(1995年)から第4回(2007年)までを日本で開催したが,第5回を台北,第6回をソウルで開催したので,日本での開催は12年ぶりである.
ISNFF(International Conference and Exhibition on Nutraceuticals and Functional Foods)は,2007年に設立されてから毎年,日本を含む各国で年次大会を開催している食品の機能性に関する国際会議で,実際に食品として応用可能な食品機能研究を重視することをモットーとしているとのことである.
ICoFF2019の初日(12/1)は,ICPH2019の最終日と会期を重複させているので,夕方の開会式に先立ち,午前にICPHのシンポジウムとしてICoFF Pre-symposium「Polyphenols: The road from plants to functional foods」(4演題)から始まり,昼過ぎにSpecial Lectureとして“AJP–Endcrinology & Metabolism”のEditor in Chiefによる講演,そして,ポートピアホールに会場を移してICoFF/ICPH/ISNFFのJoint Keynote Lecturesとして6名の著名な先生方による講演がなされた.そしていよいよOpening ceremonyがあり,続いてOpening Lectureとして,食品機能因子のヒト試験のためのバイオマーカーの開発と応用に関して,大澤俊彦先生(名古屋大学名誉教授,現・愛知学院大学)がご講演をなされた.大澤俊彦先生は,ICoFFの発起人のひとりであり,第1回のICoFF1995(浜松)の会頭でもある.マイクがなくても会場内に声が届くのではないかと思うくらい,大澤先生のご講演はいつにも増してエネルギッシュで,ご自身が立ち上げられた国際会議ICoFFへの熱い思いが伝わってきました.このあと,ポートピアホテルにてWelcome Receptionが開催された.この宴は無料であるが,飲み物も充実していて十分楽しめる会で,久しぶりに会う古い友人と談笑したり,初めて会う研究者と交流したりすることができた.筆者(山本)はというと,途中で会場を抜け出して,寺尾純二先生とゆかりのある方々と,同ホテル内の飲食店を貸し切って交流し,懐かしい研究仲間たちとの再会を楽しんだ.一緒に研究をしていたときは海外からの留学生だったのが今では出身国に戻って教授や所長になっているなど,時の流れを実感しつつ,自分も頑張らなければと元気をもらった.
2日目からは,盛りだくさんの内容である.今回のICoFFは,大会テーマを「Food Factor Science from Molecular to Human Studies」(食品因子の科学~分子から臨床まで~)とし,8つのPlenary Lectureと計58のシンポジウム(2日16セッション;3日18セッション;4日18セッション;5日6セッション)が行われた.さらに,Young Investigators Awardsのコンペティション,ポスター発表から選抜されたフラッシュトークのセッションもある.Plenary Lecture以外のセッションについては,最終日の午前中まで神戸国際会議場のなかにある6つの会場をフルに使用しているので,聴講するにはスケジュール調整がたいへんである.これだけのセッションがあると,もはやこの紙面では紹介しきれない.「学会あるある」の「聞きたい演題は同じ時間帯に」ということは,もちろんあった.
ポスター発表の会場に向かうには,神戸国際会議場からポートライナー市民広場駅の向こう側にある神戸国際展示場まで移動しなくてはいけないが,その会場の広さに驚く.ポスターを軽く眺めながら歩いていくだけでもすべてを見るのにはかなりの時間を要した.シンポジウムの時間帯は閑散とした状況であるが,すべてのシンポジウムを終わってポスターセッションが開始されると,たくさんの参加者が集い大盛況であった.3日目(12/3)のポスターセッションにおいては,同会場内でKobe Knightと題したいわゆるミキサーが行われた.ミキサーといっても缶ビールとスナック菓子だけで,などといったものではない.神戸のワイン,灘のお酒,生ビールなど充実したドリンク類や,屋台で作る明石焼きやキッチンカーで作る牛丼も提供された.ポスター前での質疑応答もアルコールを飲みながらであるから自然と口が滑らかになる.会の後半では海外からの参加者を対象としたTravel Awardsの表彰式が行われた.このKobe Nightは,懇親会に出席できない参加者にも配慮して催されたので,学生の参加者も多く,たいへんにぎやかな宴であった.
ランチは,毎日6つの会場を使ってランチョンセミナー形式で用意された.提供されるのは通常の日本式の弁当であるが,一般向けの弁当に加えて,事前申込のムスリム用の弁当とベジタリアン用の弁当も用意されていた.国際会議となると,こういった配慮も必要になるのだなぁと改めて感心する次第である.
懇親会(ガラディナー)は4日目の夜に開催された.この日の午後のセッションでは,観光でもしていたのだろうか海外からの参加者が少なく感じたが,開場前になるとこんなにいたのかと思うくらいたくさんの人であふれている.さて,開場前に実行委員の特権で会場を覗いてみようとしたがホテルスタッフに制止された.これは何か準備しているなと思っていたら,扉が開かれると芦田先生がホテルスタッフの装束でウェルカムドリンクを入口でサーブしている.あまりにも似合っているから,芦田先生だとは気づかずに通過する参加者も多数いる.よく見れば,胸元には「Trainee」のバッジまでつける凝りようである.芦田先生はご機嫌でサービングなさっていたが,先生の後ろに数人のホテルスタッフ(本物)が,ハラハラしながら控えているのは愉快だった.京都の芸妓さん舞妓さんによる華やかで美しい舞が披露されると宴はさらに盛り上がった.ステージを降りたあと,舞妓さんたちはしばらくの間,会場のなかでおもてなし.海外からの参加者はもとより国内からの参加者も舞妓さんと一緒に撮影したりして楽しんでいた.立食スタイルでの懇親会であるが,ガラディナーというだけあって,食事はたいへん素晴らしかった.
一昔前であると食品機能性研究の対象となる成分は,ポリフェノールや含硫化合物など非栄養素のフィトケミカルが主流だった印象がある.今ではそれらにとどまらず,ビタミンやミネラルなどの微量栄養素や,タンパク質,ペプチド,アミノ酸,脂質,カロテノイド,炭水化物,乳酸菌や発酵食品に関する演題もあり,発表される研究領域はとても幅広い.化合物レベルで評価しているものから食品因子を豊富に含む食素材,さらには食事としてのバランスを対象とするものまである.評価手法においては,クラシカルな手法のものから最新の分析機器を駆使したものまである.食の研究領域は本当に奥が深いと感じさせられた.
次回のISNFFは,中国,南京市のPlatinum Hanjue Hotelにて2020年10月18日~20日に開催予定です.また,4年後に開催するICoFF2023は,Zhejiang Gongshang大学のPingfan Rao教授が会頭となって中国にて開催されます.なお,ICoFF開催年においてはICoFFを年次大会としている日本フードファクター学会の次回学術集会は,2020年9月18日~9月20日に宮崎大学にて開催します.ICoFFにご興味をもたれた方は,まず手始めにJSoFFから参加してみませんか.お待ちしています.