Kagaku to Seibutsu 58(6): 343-347 (2020)
解説
アロエステロール(シクロアルタノール化合物及び,ロフェノール化合物)の機能性研究アロエベラを食べるとお肌は?
Functional Study of Aloesterol: What is the effect of oral Aloesterol on the Skin?
Published: 2020-06-01
アロエは,サボテンのように見えるがユリ科の植物で,その種類は数百種類以上とも言われている.日本では,キダチアロエが観賞用として多く使用されており,その特徴である茎が木のように立ち上がる形状から,キダチは,木立を意味している.一方,アロエベラは,アラビア半島南部,北アフリカ地中海沿岸やアフリカ南部諸島を原産地とし,その特徴として親株を中心に巨大な肉厚の葉が放射状に育つ.その葉は,大きいものでは1枚2~3 kgになることもあり,葉肉は食品の原料として用いられる.今回,われわれが行った研究を中心に,アロエベラ葉肉に含まれるアロエステロールの機能性について報告させていただく.
© 2020 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2020 公益社団法人日本農芸化学会
研究を始めるにあたり,アロエベラの経口摂取による保健機能に関する過去の研究を調べてみると,糖尿病薬にアロエベラ葉肉ジュースを併用した場合,糖尿病薬単独に比べて空腹時血糖値やHbA1cが改善するという報告があったがその関与成分は不明であった.そこで,まずわれわれは,アロエベラ葉肉の保健機能を科学的に調べるため,生活習慣病の一つの疾患である2型糖尿病に注目した.2型糖尿病モデルにおいて,アロエベラ葉肉の摂取によって,血糖値(随時,空腹時)や長期的な血糖値の状態を反映するHbA1c値が改善されるとともに,膵臓でのランゲルハンス細胞の減少が予防されることを確認した(1)1) M. Tanaka, E. Misawa, Y. Ito, N. Habara, K. Nomaguchi, M. Yamada, T. Toida, H. Hayasawa, M. Takase, M. Inagaki et al.: Biol. Pharm. Bull., 29, 1418 (2006)..そこで,この抗糖尿病効果の関与成分の探索を開始したが,アロエベラ葉肉は98%以上が水分であるため,数トンのアロエベラを使用しながら各成分の分離精製を行い,アロエベラの新たな有効成分として5つの成分を同定した(1)1) M. Tanaka, E. Misawa, Y. Ito, N. Habara, K. Nomaguchi, M. Yamada, T. Toida, H. Hayasawa, M. Takase, M. Inagaki et al.: Biol. Pharm. Bull., 29, 1418 (2006)..これら成分は,シクロアルタノール化合物(Cy: cycloartanol, 24MCy: 24-methylene-cycloartanol),ロフェノール化合物(Lop: lophenol, 24MLop: 24-methyl-lophenol, 24ELop: 24-ethyl-lophenol)であり,アロエ由来の植物ステロールということから,われわれは,アロエステロールと総称している(図1図1■アロエベラ葉肉中のシクロアルタノール化合物およびロフェノール化合物の構造).このアロエステロールをそれぞれ経口投与すると,2型糖尿病モデルのHbA1c値は有意に低下したが,一般的な植物ステロールの一つであるβ-シトステロールには,この効果は見られなかった.さらに,アロエステロールの経口投与により,糖尿病モデルにおいて,血糖値上昇が予防されるとともに,インスリン抵抗性を改善することも確認された(2)2) E. Misawa, M. Tanaka, K. Nomaguchi, M. Yamada, T. Toida, M. Takase, K. Iwatsuki & T. Kawada: Obes. Res. Clin. Pract., 2, 239 (2008)..肥満は糖尿病などの生活習慣病のリスク因子の一つであるが,食餌性肥満(DIO)モデルにおいて,アロエステロールの摂取により,基礎代謝の指標の一つである酸素消費量が増加し,体脂肪の蓄積が抑制されることも明らかになった(3)3) E. Misawa, M. Tanaka, K. Nabeshima, K. Nomaguchi, M. Yamada, T. Toida & K. Iwatsuki: J. Nutr. Sci. Vitaminol. (Tokyo), 58, 195 (2012)..
これらの糖代謝改善効果および抗肥満効果におけるアロエステロールの作用メカニズムを解明するため,他の転写因子類と相互作用をしながら糖・脂質代謝のマスターレギュレーターとして働くことが知られている受容体型核内転写因子であるPeroxisome proliferators-activated receptor(PPAR)に着目し,in vitroのルシフェラーゼアッセイ系で検討した結果,アロエステロールの各成分がPPARリガンド活性を有することが明らかになった(4)4) K. Nomaguchi, M. Tanaka, E. Misawa, M. Yamada, T. Toida, K. Iwatsuki, T. Goto & T. Kawada: Obes. Res. Clin. Pract., 5, e190 (2011)..そこで,DIOモデルの肝臓を用いてDNAマイクロアレイを実施した結果,糖・脂質代謝にかかわる遺伝子が有意に変化していることが確認された.さらにRT-PCR法で調べたところ,脂質輸送,脂肪酸酸化,さらにPPARsシグナルに関連する遺伝子の発現変化が確認された(4)4) K. Nomaguchi, M. Tanaka, E. Misawa, M. Yamada, T. Toida, K. Iwatsuki, T. Goto & T. Kawada: Obes. Res. Clin. Pract., 5, e190 (2011).(図2図2■糖・脂質代謝遺伝子発現へのアロエステロールの効果(DIOモデル)).以上の結果から,アロエステロールはPPARsを介して糖代謝・脂質代謝を亢進する可能性が確認された.
皮膚は体内と外部環境を隔て,生体の恒常性を維持する重要な役割を担っている.最外層の表皮は,水分の蒸散を防ぐとともに外界からの有害成分の侵入を防ぐバリア機能を有する.表皮の内側に存在する真皮層では,コラーゲンとエラスチンによって強力な支持組織を形成している.またこれらの真皮層の3次元構造の間に存在する線維芽細胞は,コラーゲンやヒアルロン酸などの細胞外マトリックスを産生し,皮膚構造を維持している(5)5) J. M. Sorrell & A. I. Caplan: Int. Rev. Cell Mol. Biol., 276, 161 (2009)..このような表皮や真皮の働きにより,皮膚の健康が保たれていると考えられている.
皮膚の老化の原因は大きく分けて,外的要因(光皮膚老化)と内的要因(生物学的老化や栄養学的要因など)の2つがある.紫外線は,ROS(Reactive Oxygen Species)や炎症性サイトカインの産生を亢進させるとともに,細胞外マトリクス分解酵素の増加も誘導し,その結果,真皮のコラーゲンやヒアルロン酸量の低下や繊維の乱れ(構造的変性)という現象が惹起される(図3図3■皮膚老化の原因).さらに,生物学的な加齢に伴う線維芽細胞の減少や機能低下によってもコラーゲンやヒアルロン酸が減少する(6)6) J. Varani, M. K. Dame, L. Rittie, S. E. Fligiel, S. Kang, G. J. Fisher & J. J. Voorhees: Am. J. Pathol., 168, 1861 (2006).(図3図3■皮膚老化の原因).これらの現象が原因となって,皮膚のバリア機能が低下し,潤いおよび弾力が失われることで,皮膚機能の低下や老化が引き起こされる.
乾燥肌の発生率と重症度は年齢とともに増加することが知られている.この皮膚の過度な乾燥は,かゆみ,熱っぽさ,痛み,圧迫感を引き起こすことから,生活の質(QOL: quality of life)に影響を与えることが知られている(7)7) J. Calleja-Agius, M. Brincat & M. Borg: Best Pract. Res. Clin. Obstet. Gynaecol., 27, 727 (2013)..したがって,皮膚の水分量を維持するとともに,過度な経表皮水分蒸散量(TEWL: Trans-epidermal water loss)の増加を防ぐことは,皮膚の健康にとって重要と考えられる.
皮膚のコラーゲンは,紫外線によって構造的変化(変性)を起こすことが知られており,この変化は非侵襲性の超音波装置を用いた測定により,低エコーピクセル(low-echogenic pixels(LEP))の増加や,真皮の正常なコラーゲン繊維の密度と相関するコラーゲンスコア値の低下により判定することが可能である.過去の日本人高齢者での研究において,皮膚裂傷有病者は,非裂傷者に比べ,有意なLEPの増加,IV型コラーゲンの低下,TNF-αの増加,弾力パラメーターの低下が確認されている(8)8) Y. Koyano, G. Nakagami, S. Iizaka, T. Minematsu, H. Noguchi, N. Tamai, Y. Mugita, A. Kitamura, K. Tabata, M. Abe et al.: Int. Wound J., 13, 189 (2016)..これらの知見から,真皮層でのコラーゲン状態を良好に保つことで,皮膚の健康を維持し,皮膚組織の脆弱化を予防することが期待できる.
これまでの研究では,らアロエベラ葉肉の皮膚への保健機能として,塗布による創傷および火傷後の皮膚治癒促進効果などが報告されていたが,経口による皮膚への効果の報告はほとんどなかった.真皮層に存在するコラーゲンやヒアルロン酸は,肌の弾力や水分維持にかかわっているが,これらの量は年齢とともに減少する(9)9) C. Castelo-Branco, F. Pons, E. Gratacós, A. Fortuny, J. A. Vanrell & J. González-Merlo: Maturitas, 18, 199 (1994)..その原因の一つとして産生細胞である皮膚線維芽細胞の減少と老化による機能低下が関係する(6)6) J. Varani, M. K. Dame, L. Rittie, S. E. Fligiel, S. Kang, G. J. Fisher & J. J. Voorhees: Am. J. Pathol., 168, 1861 (2006)..過去の検討で,経口摂取されたアロエステロールが吸収されて血流に移行することが確認されている(10)10) F. Ishikawa, N. Inoue, I. Ikeda, M. Tanaka & M. Yamada The 49th Annual Meeting Japan Oil Chemists’: Society, 180, 3D (2010).ことから,末梢血管が到達する真皮層に存在する線維芽細胞に対するアロエステロールの影響を検討した.ヒト真皮線維芽細胞にアロエステロールを添加すると,培養上清中のコラーゲンおよびヒアルロン酸の量は濃度依存的に増加した(11)11) M. Tanaka, E. Misawa, K. Yamauchi, F. Abe & C. Ishizaki: Clin. Cosmet. Investig. Dermatol., 8, 95 (2015)..さらに,それぞれの合成酵素の遺伝子発現を調べたところ,I型コラーゲンおよびIII型コラーゲンのそれぞれ合成酵素の遺伝子であるCOL1A1およびCOL3A1の発現が増加し,ヒアルロン酸の合成酵素の遺伝子であるHAS2およびHAS3の発現も増加することが確認された(11)11) M. Tanaka, E. Misawa, K. Yamauchi, F. Abe & C. Ishizaki: Clin. Cosmet. Investig. Dermatol., 8, 95 (2015)..
そこで次に,アロエステロール摂取によるヒト皮膚への影響を調べるため,予備臨床試験を実施した.公募に応じた社外ボランティア55名を対象とし,アロエステロール含有ヨーグルト(アロエステロール40 µg)の摂取ならびに非摂取期間の皮膚状態と体感効果を調べた.その結果,TEWLは,摂取前に比べて,摂取8週後に有意に低下し,皮膚弾力性の指標(F3)は,摂取開始後徐々に増加し,摂取8週後で摂取前および非摂取期間に比べ有意な増加が確認された(12)12) 田中美順,三澤江里子,鍋島かずみ,齊藤万里江,山内恒治,阿部文明.機能性食品と薬理栄養,10, 139(2016)..また,摂取期間中の皮膚状態の自覚症状について,1(不良)から6(良好)の6段階での評価を自己記入させた結果,アロエステロール摂取1週間目で,皮膚の潤い,つや,はり,透明感,洗顔後のつっぱり感,しわ,化粧のり,たるみ,肌全体の状態が,摂取前に比べ有意に増加し,肌のきめ,乾燥の項目は,摂取2週間目で有意に増加し,8週間後の摂取終了までこれらの自覚症状が継続された.一方吹き出物に関しては,摂取期間中で自覚症状の変化は確認されなかった(12)12) 田中美順,三澤江里子,鍋島かずみ,齊藤万里江,山内恒治,阿部文明.機能性食品と薬理栄養,10, 139(2016)..
皮膚の光皮膚老化による変化の一つとして「しわ」の形成が挙げられるが,アロエステロール含有タブレット(アロエステロール40 µg)を摂取させたランダム化二重盲検平行群間比較試験において,アロエステロール摂取群は,プラセボ摂取群に比べて40歳以上の女性の顔の「しわ」を有意に減少させることを確認している(11)11) M. Tanaka, E. Misawa, K. Yamauchi, F. Abe & C. Ishizaki: Clin. Cosmet. Investig. Dermatol., 8, 95 (2015)..この結果から,アロエステロールの摂取により皮膚光老化が予防できる可能性が示唆された.
次に,単施設ランダム化二重盲検平行群間比較試験で,アロエステロール摂取による皮膚への効果を検討した.成人女性64名(32名2群)を対象とし,アロエステロール含有ヨーグルト(アロエステロール40 µg)もしくは,プラセボヨーグルトのいずれかを12週間摂取させた(13)13) M. Tanaka, Y. Yamamoto, E. Misawa, K. Nabeshima, M. Saito, K. Yamauchi, F. Abe & F. Furukawa: Skin Pharmacol. Physiol., 29, 309 (2016)..対照群では経時的なTEWLの増加および皮膚水分量の低下が観察されたが,この臨床試験は秋から冬の期間に実施されたことから,季節・環境の湿度低下や生活習慣の変化により,皮膚バリア機能が乱れて皮膚蒸散量が増え,皮膚水分量が減少したと考えられる.一方,摂取前および対照群と比較し,アロエステロール含有ヨーグルト摂取群では,TEWLが有意に低値を示し,皮膚の水分量が有意に高値を示すことが確認された(13)13) M. Tanaka, Y. Yamamoto, E. Misawa, K. Nabeshima, M. Saito, K. Yamauchi, F. Abe & F. Furukawa: Skin Pharmacol. Physiol., 29, 309 (2016)..さらに皮膚の弾力性を示す指標であるR2およびF3が,アロエステロール摂取により有意に増加することを見いだした.F3値は,皮膚の脆弱化や加齢とともに低下することが知られおり,F3値の増加結果は,アロエステロール摂取による皮膚の健康維持が期待できることを示している.
次に各被験者の真皮層の超音波画像を解析ソフトを用いてコラーゲンスコアを算出した.コラーゲンスコアは,コラーゲン密度と相関することが知られているが,プラセボ群で摂取期間のコラーゲンスコアの減少が観察された.この理由として,試験実施前の夏の紫外線量増加後のコラーゲン繊維への影響(変性や線維化)が経時的に起こった可能性や,前述した皮膚バリア機能低下による真皮層への影響の可能性が考えられた.一方,アロエステロール摂取で,摂取前およびプラセボ対照群に比べ真皮のコラーゲンスコアが有意に増加することが確認された(13)13) M. Tanaka, Y. Yamamoto, E. Misawa, K. Nabeshima, M. Saito, K. Yamauchi, F. Abe & F. Furukawa: Skin Pharmacol. Physiol., 29, 309 (2016)..
なお,重篤な有害事象の発生は認められず,期間中に認められた有害事象は64例中30例50件(アロエステロール摂取群:14例22件,プラセボ摂取群:16例28件)で,アロエステロール摂取群とプラセボ摂取群の間に有害事象発生での有意な差はなかった(13)13) M. Tanaka, Y. Yamamoto, E. Misawa, K. Nabeshima, M. Saito, K. Yamauchi, F. Abe & F. Furukawa: Skin Pharmacol. Physiol., 29, 309 (2016)..さらに,有害事象の大半が風邪や頭痛の軽微な症状で,試験食品との因果関係がある事象はなかったことから,アロエステロールは安全に摂取できる食品素材であると考えられる.
近年,外用だけでなく経口摂取により皮膚健康の維持や改善ができる食品成分の需要が高まっている.これまでの研究結果から,アロエステロールは,真皮層のコラーゲン増加や,皮膚のバリア機能(保湿力)や水分量および弾力を維持する効果により,皮膚の健康維持に貢献できる安全な食品成分と考えられることから更なる活用が期待される.
Acknowledgments
本研究に関して,京都大学大学院農学研究科の河田照雄教授,後藤剛准教授,東北大学の池田郁男教授,高槻赤十字病院の古川福実病院長,和歌山県立医大皮膚科の山本有紀准教授にご指導いただくとともに,森永乳業株式会社の関係者皆様にご協力いただいたことに深く感謝申し上げます.
Reference
5) J. M. Sorrell & A. I. Caplan: Int. Rev. Cell Mol. Biol., 276, 161 (2009).
7) J. Calleja-Agius, M. Brincat & M. Borg: Best Pract. Res. Clin. Obstet. Gynaecol., 27, 727 (2013).
10) F. Ishikawa, N. Inoue, I. Ikeda, M. Tanaka & M. Yamada The 49th Annual Meeting Japan Oil Chemists’: Society, 180, 3D (2010).
12) 田中美順,三澤江里子,鍋島かずみ,齊藤万里江,山内恒治,阿部文明.機能性食品と薬理栄養,10, 139(2016).