セミナー室

プラスチックリサイクルへの挑戦微生物や酵素によるプラスチックリサイクルの可能性

Fusako Kawai

河合 富佐子

岡山大学名誉教授

Published: 2020-06-01

地球環境に対するプラスチックの負荷は許容量の限界に達している.これは,現在でも海洋プラスチックごみが海洋生物の生命への脅威となっているのみならず,2050年には魚類の総量を上回るという予測から明らかである.一方で,その危機感は,人々の関心を呼ぶレベルには必ずしもなっていない.その理由として,陸上ではプラスチックごみの堆積が美観上や衛生上の問題として取り上げられることはあっても,動植物への直接的な危害が顕著に見えにくいこと,さらに日本のような先進国に住んでいると,ごみ箱が少々プラスチックごみであふれていても,やがてはごみ収集者がもっていってくれるので,その先にまで考えを及ぼす人が少ないことなどが挙げられる.しかし,収集されたごみが適切に処理されているとは限らない.埋立地のプラスチックごみが短期間に消滅することはなく,長期間ほぼそのままの状態で残る.他方,人口が多く,かつごみ収集システムが不完全な国,たとえば東南アジア諸国,インド,南米などではプラスチックの巨大な堆積が人目をひく存在となっている.人里はなれたヒマラヤや南極においても,登山者や基地関係者の残すプラスチックごみ問題が徐々に顕在化しつつある.プラスチックのもたらす恩恵を享受していくためには,プラスチックごみを制御し,環境とバランスのとれた存在にすることが,今,まさに求められている.

プラスチックは元来,天然素材の欠点を補う物質として開発されたもので,豊富な石油資源を利用して安価に大量生産可能なことが使用量の増加に拍車をかけた.人口増加は特に発展途上国で顕著であるが,これらの国の経済発展に伴ってプラスチック使用量は今後も増加の一途を辿ると予測される.これらの国々ではごみ収集システムが整っていないことが多く,使用されたプラスチックごみはそのまま放置されて,最終的には海洋プラスチックとなる可能性が高い.

環境庁の資料によると,1950年以降生産されたプラスチックは83億トンを超え,これまで63億トンがごみとして廃棄されたと考えられている(1)1) 環境省 資料2: プラスチックを取り巻く国内外の状況:www.env.go.jp/council/03recycle/y0312-01/y031201-2x.pdf., 2018..昨年6月に大阪で開催されたG20サミットにおいて,海洋ごみ,特に海洋プラスチックの問題がホットトピックとして取り上げられたように,緊急対策の必要性は世界の共通認識であるものの,経済への影響などから世界の足並みが揃わないという現実に直面している.プラスチックごみ対策は,一般ごみ同様に3R(reduce, reuse, recycle)がそのまま当てはまる.プラスチックである必要がないものの代替物への切り替えによる大幅な使用量削減,再使用およびリサイクルの促進が期待されているが,実現のためのロードマップについてはこのシリーズの第一回記事をご参照頂きたい.プラスチック廃棄物は,2013年時点で全廃棄物の約2%を占める9.4百万トン/年に達するが,リサイクル率は約25%,熱回収が約57%,焼却が約10%,埋め立てが約8%である(1)1) 環境省 資料2: プラスチックを取り巻く国内外の状況:www.env.go.jp/council/03recycle/y0312-01/y031201-2x.pdf., 2018..埋め立ては長期間にわたってほぼ全量がそのまま残ることになり,ヨーロッパでは埋め立て制限が施行されている国も多く,埋め立て処分は禁止の方向へ向かっている.焼却も温暖化対策が進まない状況下では適策ではない.熱回収はサーマルリサイクルとして,リサイクルに含められることもあり,CO2対策や省石油の側面がある.リサイクル率約25%のうち,マテリアルリサイクル(再生樹脂)が約22%で,プラスチックを合成前の原料に戻すケミカルリサイクルはわずか約3%に過ぎない.再生樹脂は80%以上を輸出に依存してきたが,中国をはじめとする各国が輸入禁止方針に転換したため,今後は国内処理が必要になるので,その対策が急がれる.将来に向けてケミカルリサイクル全体の向上が大きく期待される.

生産量および使用量の多い主要プラスチックとして,ポリエチレン(PE),ポリプロピレン(PP),ポリスチレン(PS),ポリ塩化ビニル(PVC),ポリウレタン(PU),ポリエチレンテレフタレート(PET)が挙げられる(図1図1■汎用プラスチックの種類).いわゆるプラスチックごみはこれらがほとんどを占め,ほかにはナイロンやポリアクリル酸などが存在するが,いずれも環境中での生分解性はほとんど期待できない.これらは現在ではほぼ100%石油由来の物質であるが,バイオプラスッチックとしての生産も技術的には可能である.バイオプラスチックは石油からバイオマスへの原料切り替えという大きなメリットをもつが,出来上がったプラスチックごみに関しては原料がバイオマス由来か石油由来かにかかわらず,環境に負荷を与えるという点では同じである.化学構造的にみて,PUとPETを除いて他の主要プラスチックは炭素鎖を主鎖とする.PEやPPは環境中で光と酸素の影響で変化して低分子化する可能性があり,分子量が精々で数千以下になると生分解の可能性があるが(2)2) F. Kawai: Biosci. Biotechnol. Biochem., 74, 1743 (2010).,分解速度は極めて遅い.PVCやPSは事実上,環境分解性(光や酸化などの物理化学的変化と生分解性を含める)がほとんどないと考えられる.生分解されにくい理由としては,脱重合過程が複雑であることが挙げられる.たとえばPEは長鎖炭化水素であるが,炭化水素の代謝は酸化によって末端がカルボン酸に変化すると基本的には脂肪酸と同じ構造になるので,恐らくは脂肪酸と同じβ酸化により代謝される.末端が酸化されるには3段階が必要であり,酸化後のβ酸化はさらに数段階を要するので,全段階を進めるのは容易でない.分子鎖の真ん中が酸化されて,カルボニル基になり切断されたとしても,基本的な代謝はβ酸化と考えられる.実際に炭化水素の代謝は炭素数が約40程度までは可能であることが示唆されているものの,PEの炭素数ははるかに多い.他方,炭素鎖に他の元素が含まれるPU, PETおよびナイロン系(脂肪族ポリアミド)は,加水分解酵素一種類だけで低分子化されるが,自然界でこれらの低分子化が進むかどうかは別問題である.

図1■汎用プラスチックの種類

PUにはエステル型とエーテル型の2タイプがあるが,前者はエステル結合とウレタン結合の両方で加水分解可能な構造であるものの,後者のエーテル結合は加水分解できないので,より生分解されにくい.ナイロンの使用量はPUやPETに比べると,量的に少ないが,アミドも加水分解可能な構造である.

PETはポリエステルと総称される高分子構造の一種である.ポリエステルには脂肪族,脂肪族芳香族,芳香族の3つが存在し,生分解性はこの順に減少し,物理化学的性状は逆順に高くなる.元々が微生物の貯蔵物質であるポリヒドロキシ酪酸に着目して,合成酵素の改変などにより,生産性が実用的レベルにまで到達したポリヒドロキシアルカン酸や,乳酸菌により発酵生産される乳酸を高分子合成したポリ乳酸は,いずれも脂肪族ポリエステルであり,バイオプラスチックに分類される.ほかにも生分解性プラスチックとしてデザインされたポリカプロラクトン,ポリブチレンサクシネート,ポリブチレンサクシネート-co-アジピン酸などもすべて脂肪族ポリエステルである.これに対して耐熱性や強度などの物理化学的性状が優れた芳香族ポリエステルがPETである.生分解性は高いが物理化学的性状の低い脂肪族ポリエステルと,生分解性がなく物理化学的性状に優れた芳香族ポリエステルを組み合わせたものが,脂肪族芳香族ポリエステルであり,ある程度の生分解性と用途によっては十分な物理化学的性状を兼ね備えたものとしてポリブチレンアジピン酸-co-テレフタル酸(PBAT)のように商品化されたものもある.近年,糖質原料から製造されるフランジカルボン酸とエチレングリコールから重合されるポリエチレンフラノエート(PEF)が開発され,PETに近い特性をもつ代替品として日本での展開も計画されているが,環境への負荷は今後の研究課題であろう.

上述したように生分解性プラスチックの多くはポリエステル構造を有しているが,それらの多くは量的にまだ使用量が少なく,リサイクルのための回収対象になるものは実際にはPETである.PETボトル,ポリエステル繊維,パッケージ容器を主な用途とするPETは,全プラスチック生産量の4–5%に過ぎないが,世界生産量は約5,600万トン(2013年)にのぼり,年々増加の一途をたどっている.環境省が発表した容器包装物の使用・排出実態調査(2013)によると,収集された容器包装・コンテナー系廃プラスチック4,260千トンの中でPETボトルは580千トンを占めている(1)1) 環境省 資料2: プラスチックを取り巻く国内外の状況:www.env.go.jp/council/03recycle/y0312-01/y031201-2x.pdf., 2018.

リサイクルは,1. マテリアルリサイクル,2. ケミカルリサイクル,3. サーマルリサイクルに分けられるが,プラスチックの種類と用途により,選択肢は異なる.マテリアルリサイクルは回収した廃プラスチックをそのまま新しいアイテムに作り変えるものであるが,分別を前提としていている.何故なら,違う種類のプラスチックが混在した状態では元のものに再生利用できないからである.たとえば発泡PSは単一素材であり,減容しやすいので,マテリアルリサイクルに適している.PETボトルも同様である.マテリアルリサイクルの欠点は再生を繰り返す毎に劣化することである.これに対してサーマルリサイクルは燃焼して熱エネルギーとして利用するもので,廃プラスチックのなかでもリサイクルのコストがかかるものやマテリアルリサイクルなどで利用できないものに対して実施される.以前は焼却の際にダイオキシンが発生することが懸念されたが,現在ではダイオキシンを発生させない方法があり,廃棄物発電,熱利用,RPF/セメント燃料化として利用されている.RPFはRecycled Paper and Plastic Fuelの略称で,古紙や製紙スラッジおよび廃プラスチックを主原料とした廃棄物固形燃料であるが,石油などのエネルギー資源の節約になり,また,東南アジアなどでは石炭の代替品として利用することにより,環境問題にも貢献できる.セメントは原料を高温で燃焼して製造されるが,もともと原燃料としてさまざまな可燃性廃棄物を利用していて,現在では塩ビを含む廃プラスチックや廃タイヤの大きな受け入れ先になっている.塩ビから発生する塩素対策も講じられるようになっている.ケミカルリサイクルは文字どおり化学反応によりリサイクルする方法であるが,一般的には油化,ガス化,高炉/コークス炉原料化などの非生物的な方法を意味する.高分子を元の原料に戻せば,再び合成により,高分子化できるので,理論的には理想的なリサイクル方法である.原料といっても必ずしも脱重合により直接的にモノマーを生産するとは限らない.熱分解によりモノマー以前のナフサを含む燃料,いわば石油に戻す方法もある.この方法はPEやPPのような骨格に酸素が含まれないものに適した方法で,PETにはむしろ適さない.PET(主にボトル)の原料化には物理化学的な手段として,グリコール分解,アミン分解,熱分解,超臨界分解などが実施されている.ポリエステル繊維からのリサイクルも一部では試みられているようである.他方,酵素分解もケミカルリサイクルになりうる手段である.プラスチックごみが注目されるようになったのを背景として,リサイクル産業とでもいえるものが世界的に新たに立ち上がっている(3)3) A. H. Tullo: Chem. Eng. News, October 7, 30 (2019)..これらがうまく機能すれば,真に生産から消費,リサイクルの環が完成することになり,産業化の成功モデルが切望される.

農芸化学的な立場から,恐らくは本誌の読者に興味があると思われるケミカルリサイクルになりうる酵素分解の可能性について紹介する.酵素分解は上述したように一段階でモノマー化できるものが適している.すなわち,加水分解可能な高分子であるPET, PU,ナイロンなどが該当する.

エステル型PUのエステル分解酵素はComamonas acidovorans TB-35やPaenibacillus amylolyticusTB-13株から得られている(4, 5)4) N. Nomura, Y. Shigeno-Akutsu, T. Nakajima-Kambe & T. Nakahara: J. Ferment. Bioeng., 86, 339 (1998).5) Y. Akutsu-Shigeno, T. Teeraphatpornchai, K. Teamtisong, N. Nomura, H. Uchiyama, T. Nakahara & T. Nakajima-Kambe: Appl. Environ. Microbiol., 69, 2498 (2003)..また,ナイロン分解に関してはオリゴマー分解酵素の変異の結果,高分子ナイロンも認識できるようになったと報告されている(6)6) K. Nagai, K. Iida, K. Shimizu, R. Kinugasa, M. Izumi, D. Kato, M. Takeo, K. Mochiji & S. Negoro: Appl. Microbiol. Biotechnol., 98, 8751 (2014).

ポリエステル分解酵素はcarboxylic ester hydrolases(EC3.1.1)に含まれ,とりわけ下位分類であるクチナーゼ(EC 3.1.1.74)という酵素が重要である(7)7) F. Kawai, T. Kawabata & M. Oda: Appl. Microbiol. Biotechnol., 103, 4253 (2019)..クチナーゼは,元々は植物病原菌が植物に侵襲する際に葉のクチクラ層や幹のコルク層に存在するワックス状の物質(クチンおよびスベリン)を分解するために分泌する酵素として解明された.現在ではクチナーゼの特徴の一つとしてポリエステルの分解が挙げられている.脂肪族ポリエステラーゼは耐熱性を有していないものが多く,30°C前後の常温で機能を発揮できるものが多い.これに対して脂肪族芳香族ポリエステラーゼおよび芳香族ポリエステラーゼは耐熱性であり,特に後者は65–70°C以上の耐熱性でないと十分な分解能に達しない.その理由として,プラスチックのガラス転移点(Tg)が関係する.すなわち,Tg値以下の温度ではプラスチックの高分子鎖は固くガラス状に固まって分子が動かないが,Tg値以上の温度になると分子鎖が動きやすくゴム状になるので,分解酵素が分子鎖を捉えやすくなると考えられる.プラスチックの生分解性が融点(Tm)値と関連するという報告もあるが(8)8) Y. Tokiwa, B. P. Calabia, C. U. Ugwu & S. Aiba: Int. J. Mol. Sci., 10, 3722 (2009).,温度による分子鎖の動きやすさが酵素の働きに関連するのは明らかである.分解には結晶性の度合いや分子の配向性も大きく関連する.図2図2■高分子は結晶部分と非晶部分から成るに示したようにプラスチックには結晶性の部分と非晶性の部分が混在し,分子鎖同士が整然と固く結びついた結晶部分の分解は分子鎖間の結合のゆるい非晶性部分に比べて分解されにくいことはよく理解できるだろう.結晶化度の高いものを結晶性(crystalline),低いものを非晶性(amorphous)と称するが,PETボトルの結晶化度は30–40%である.

図2■高分子は結晶部分と非晶部分から成る

PET分解酵素(PETヒドロラーゼ)は2005年にドイツのグループにより,耐熱性放線菌Thermobifida fuscaから初めてクチナーゼ様酵素が特定されたことに始まる(7)7) F. Kawai, T. Kawabata & M. Oda: Appl. Microbiol. Biotechnol., 103, 4253 (2019)..その後,耐熱性真菌Humicola insolens由来のクチナーぜ,植物系堆肥からメタゲノム手法によりえられたLCC(明らかに放線菌由来と考えられる),耐熱性放線菌Sacchromonospora viridis AHK190より得られたCut190などすべてPET分解性クチナーゼに分類される.T. albaT. cellulosyliticaからもホモログが得られている.分解の程度は耐熱性と関連していて,70°C以上の耐熱性酵素はamorphous PETを十分に分解するが,耐熱性が60–65°Cであると分解能は低くなる.このことはプラスチックの分解にはTg値以上の温度が必要だという見解に一致し,非晶性PETの分解は数十%以上~約100%に達している.他方,常温でamorphous PETを単一炭素源として生育するIdeonella sakeiensisが単離され,そのPET分解酵素(PETase)は常温で効果的にPETを分解するとされたが(9)9) S. Yoshida, K. Hiraga, T. Takehana, I. Taniguchi, H. Yamaji, Y. Maeda, K. Toyohara, K. Miyamoto, Y. Kimura & K. Oda: Science, 351, 1196 (2016).,実際の分解率は1%以下である(7, 10, 11)7) F. Kawai, T. Kawabata & M. Oda: Appl. Microbiol. Biotechnol., 103, 4253 (2019).10) R. Wei, C. Song, D. Gräsing, T. Schneider, P. Bielytskyi, D. Böttcher, J. Matysik, U. Bornscheuer & W. Zimmermann: Nat. Commun., 10, 5581 (2019).11) 河合富佐子,織田昌幸:バイオサイエンスとインダストリー,77, 360 (2019).分解率の比較を表1表1■PETase及びCut190*によるPETフィルムの分解に示す.

表1■PETase及びCut190*によるPETフィルムの分解
enzymePET film(結晶性)Total productsDegradation (%)a
PETaseaPET (1.9%)0.09 µmoles/300 µL0.23
Cut190*bPET-GF (6.3%)7.01 µmoles/mL20.0
Cut190*mutantbPET-GF (6.3%)14.7 µmoles/mL42.0
Cut190*bPET-S (8.4%)29.2 µmoles/mL74.0
(文献(7)より改変転載)a0.2 mm厚として計算.

PET分解酵素の効率化には基礎研究として構造解析や機能解析が不可欠である.放線菌クチナーゼはT. fusca, T. alba, T. cellulosilytica, LCC, S. viridis(Cut190)すべてでほとんど同じ構造を示し,ジスルフィド結合を一つ保有する(7)7) F. Kawai, T. Kawabata & M. Oda: Appl. Microbiol. Biotechnol., 103, 4253 (2019)..他方,PETaseおよびこれと最も相同性の高いAcidovorax delafieldiiの脂肪族ポリエステラーゼ(AD_Cut)(12)12) H. Uchida, Y. Shigeno-Akutsu, N. Nomura, T. Nakahara & T. Nakajima-Kambe: J. Biosci. Bioeng., 93, 245 (2002).はほぼ同じ構造を有し,ジスルフィド結合を放線菌クチナーゼと同じ部位以外にもう一つ保有するが,どちらも耐熱性はない.Cut190はCa2+の有無で活性型ー不活性型に切り替わるユニークな酵素で,3つのCa2+結合サイトの存在が明らかにされている(13)13) M. Oda, Y. Yamagami, S. Inaba, T. Oida, M. Yamamoto, S. Kitajima & F. Kawai: Appl. Microbiol. Biotechnol., 102, 10067 (2018)..結合サイトの一つにジスルフィド結合を新たに導入するとTm値が約10°C増加し,70°Cでamorphous PETをよく分解した.T. fuscaでも同様の結果が得られているが(14)14) J. Then, R. Wei, T. Oeser, A. Gerdts, J. Schmidt, M. Barth & W. Zimmermann: FEBS Open Bio, 6, 425 (2016).,どちらも変異導入したジスルフィド結合の位置はPETaseやAd_Cutとは異なる(7)7) F. Kawai, T. Kawabata & M. Oda: Appl. Microbiol. Biotechnol., 103, 4253 (2019).図3図3■PETヒドロラーゼ及びホモログのアミノ酸配列に基づく系統樹(文献(7)より転載), 4図4■Cut190及びPETaseの3次元構造の比較(文献(7)より転載)参照).

図3■PETヒドロラーゼ及びホモログのアミノ酸配列に基づく系統樹(文献(7)より転載)

図4■Cut190及びPETaseの3次元構造の比較(文献(7)より転載)

Cut190の結晶構造はT. fusca, T. alba, T. cellulosilyticaのクチナーゼ及びLCCと良く一致する.ジスルフィド結合はCut190のsite1に導入した.PETaseの結晶構造はAD_Cutとほぼ同じ構造を有する.

環境中にPETヒドロラーゼ候補が存在することは,種々のデータベースのアミノ酸および塩基配列の結果から明らかにされている(15)15) D. Danso, C. Schmeisser, J. Chow, W. Zimmermann, R. Wei, C. Leggewie, X. Li, T. Hazen & W. R. Streit: Appl. Environ. Microbiol., 84, e02773 (2018)..しかしながら,これらが環境中でどれくらいの分解能を発揮できるかを考えると,ほとんどゼロに近い数値になるだろう.また,微生物分解は生態系のループを回転させるためのキーではあるものの,プラスチック類の一次構造の分解,分解産物の二次分解がすべてうまく進むならばともかく,低分解では問題の解決にならず,中途半端な分解では中間代謝物が環境に悪影響を及ぼす可能性も否定できない.環境問題の解決には環境に出さないことが最重要であり,やむなく漏れ出たものが自然界の循環システムにおいて,長い時間軸のなかで処理できて,環境問題を惹き起こさないようにすることが肝要である.そのために貢献できるのが,酵素あるいは微生物を利用したリサイクルシステムの構築である.基本となる分解酵素としては,Tg値の関門(耐熱性)や反応速度を考えると,耐熱性酵素がふさわしい.現実にこれらがリサイクルに活用できるかを考えると,結晶性の高いPETボトルやポリエステル繊維のリサイクルに直接使用できるような分解酵素はいまだに存在しない.しかし,食品容器などに使用されているamorphous PETの分解ならば,十分実用レベルに達しているといえるだろう.最近の報告によると,Carbios(仏)がタンパク工学的な手法を駆使して耐熱性を90°C以上に高めた酵素でPETボトルや繊維のリサイクルを計画しているようである(11)11) 河合富佐子,織田昌幸:バイオサイエンスとインダストリー,77, 360 (2019)..結晶性PETを物理化学的な前処理で酵素分解しやすくする工夫も考えられる.リサイクル産業が新たな産業として確立された時,循環型社会という言葉が現実味を帯びることになるが,酵素分解がリサイクルに貢献できる日が近づきつつあることを期待する.

プラスチック汚染から私達が学んだことは多い.プラスチックは環境分解性のないものが多く,環境分解性があったとしても速度は極めて遅く,かつ,マイクロプラスチックという新たな脅威を生み出す.自然の回復力には限界があることを実感する日々が刻々と近づいている.リサイクルや生分解性(微生物分解)は万能ではない.言葉が一人歩きをして,あたかもそれですべてが解決できるような幻想を振りまくことになってはならない.どちらも必要かつ重要であるが,あくまで解決方法の一環にすぎないことをよく認識する必要がある.そのうえで,生産,消費,廃棄が一方方向のlinear economyから生産,消費,ごみのループを閉じてごみを環境へ放棄しないで生産現場に戻すcircular economy(16)16) F. Sariatli: Visegrad J. Bioeconom. Sust. Devel., 6, 31 (2017): DOI: 10.1515/vjbsd-2017-0005.に基づく循環型社会を築くためには,リサイクル社会の樹立が必要である(図5図5■資源からリサイクルまでの循環型社会).他方,既に環境にでたものは,できるだけ多く速やかに回収して,自然界の負担を軽減して,浄化能力の回復を図り,残存廃棄物を浄化能力範囲内に留めることが早急に求められている.このままの状態が続くと,2050年には海洋プラスチックごみの総量が魚の総量を上回ると予測されているので,対策はまったなしである.

図5■資源からリサイクルまでの循環型社会

Reference

1) 環境省 資料2: プラスチックを取り巻く国内外の状況:www.env.go.jp/council/03recycle/y0312-01/y031201-2x.pdf., 2018.

2) F. Kawai: Biosci. Biotechnol. Biochem., 74, 1743 (2010).

3) A. H. Tullo: Chem. Eng. News, October 7, 30 (2019).

4) N. Nomura, Y. Shigeno-Akutsu, T. Nakajima-Kambe & T. Nakahara: J. Ferment. Bioeng., 86, 339 (1998).

5) Y. Akutsu-Shigeno, T. Teeraphatpornchai, K. Teamtisong, N. Nomura, H. Uchiyama, T. Nakahara & T. Nakajima-Kambe: Appl. Environ. Microbiol., 69, 2498 (2003).

6) K. Nagai, K. Iida, K. Shimizu, R. Kinugasa, M. Izumi, D. Kato, M. Takeo, K. Mochiji & S. Negoro: Appl. Microbiol. Biotechnol., 98, 8751 (2014).

7) F. Kawai, T. Kawabata & M. Oda: Appl. Microbiol. Biotechnol., 103, 4253 (2019).

8) Y. Tokiwa, B. P. Calabia, C. U. Ugwu & S. Aiba: Int. J. Mol. Sci., 10, 3722 (2009).

9) S. Yoshida, K. Hiraga, T. Takehana, I. Taniguchi, H. Yamaji, Y. Maeda, K. Toyohara, K. Miyamoto, Y. Kimura & K. Oda: Science, 351, 1196 (2016).

10) R. Wei, C. Song, D. Gräsing, T. Schneider, P. Bielytskyi, D. Böttcher, J. Matysik, U. Bornscheuer & W. Zimmermann: Nat. Commun., 10, 5581 (2019).

11) 河合富佐子,織田昌幸:バイオサイエンスとインダストリー,77, 360 (2019).

12) H. Uchida, Y. Shigeno-Akutsu, N. Nomura, T. Nakahara & T. Nakajima-Kambe: J. Biosci. Bioeng., 93, 245 (2002).

13) M. Oda, Y. Yamagami, S. Inaba, T. Oida, M. Yamamoto, S. Kitajima & F. Kawai: Appl. Microbiol. Biotechnol., 102, 10067 (2018).

14) J. Then, R. Wei, T. Oeser, A. Gerdts, J. Schmidt, M. Barth & W. Zimmermann: FEBS Open Bio, 6, 425 (2016).

15) D. Danso, C. Schmeisser, J. Chow, W. Zimmermann, R. Wei, C. Leggewie, X. Li, T. Hazen & W. R. Streit: Appl. Environ. Microbiol., 84, e02773 (2018).

16) F. Sariatli: Visegrad J. Bioeconom. Sust. Devel., 6, 31 (2017): DOI: 10.1515/vjbsd-2017-0005.