プロダクトイノベーション

微生物コンソーシアを利用したバイオレメディエーションの検討微生物による低コスト・低環境負荷な環境修復技術の実用化・普及に向けて

Daisuke Komatsu

小松 大祐

株式会社エンバイオ・エンジニアリング

東京農工大学

現:清水建設株式会社

Kenta Yonezuka

米塚 健太

株式会社エンバイオ・エンジニアリング

Minoru Nishimura

西村

株式会社エンバイオ・エンジニアリング

Masafumi Yohda

養王田 正文

東京農工大学

Published: 2020-06-01

はじめに

1. 土壌・地下水汚染とは

わが国の土壌・地下水汚染に関しては,土壌汚染対策法が2003年に施行され,特定有害物質(表1表1■土壌汚染対策法における特定有害物質の種類とその環境基準値)の指定基準に不適合状態であり,健康被害が生じる恐れがある土地には,都道府県知事から土壌・地下水汚染に対する指示措置が出され,適切な土壌・地下水汚染対策が求められることとなる.また,土地の売買等の契機による自主的な土壌調査や土壌・地下水汚染対策も多数行われている.

表1■土壌汚染対策法における特定有害物質の種類とその環境基準値
環境省HPより引用(http://www.env.go.jp/water/dojo/pamph_law-scheme/pdf/10_chpt8.pdf)

土壌汚染対策法で定められている特定有害物質の中でも,第1種特定有害物質に分類されている揮発性有機化合物(以後,VOCs)は,そのほとんどが自然環境下においては難分解性であり,比重が大きいものが多い.したがって,ひとたび地盤中に浸透すると長期間環境中に残留し,深部まで浸透しながら,地下水を介して汚染が拡散していく場合が多い.その結果,周辺の生態系へ影響がでる可能性や,周辺の井戸への混入,河川や海へ流入後に魚介類等に生物濃縮されることで,ヒトの体内に入る可能性なども懸念されることから,いわゆる土壌・地下水汚染対策は非常に重要である.

ところが,広範囲に広がった土壌・地下水汚染対策費用は,非常に高額になることが多く,いわゆる「ブラウンフィールド」化する事例も多く(1)1) 環境省:土壌汚染をめぐるブラウンフィールド問題の実態等について中間とりまとめ,http://www.env.go.jp/press/files/jp/9506.html, 2009.,土壌・地下水汚染対策が進まない悪循環に陥ることも多い.

2. バイオレメディエーションによる土壌浄化

土壌・地下水汚染対策は大きく分けて,物理的に土壌・地下水を掘削・除去して区域外の処理場へ搬出して処理する手法(区域外処理)と,土壌・地下水を区域から移動することなく区域内で処理をする手法(区域内処理)の2種類がある.このうち,区域内処理は,汚染土壌・地下水の搬出を行なわず,区域外への汚染拡散リスクはない.さらに,区域内における処理の中でも原位置浄化と呼ばれる手法は,土壌・地下水を掘削することなく処理する手法で,コストも低く抑えることが可能である.化学酸化,還元処理,物理的な処理およびバイオレメディエーションなどがある.

バイオレメディエーションは,微生物等の働きを利用して汚染物質を分解・無害化等することによって土壌・地下水等を浄化する技術である.原位置浄化のなかでも最も低コスト,低環境負荷であり,優れた浄化手法である.バイオレメディエーションにはバイオスティミュレーションとバイオオーグメンテーションの2つの手法がある.バイオスティミュレーションは薬剤を投入することで,土着の微生物を活性化させる手法である.薬剤を投入するだけで浄化が可能な優れた方法であるが,土着の微生物の種類や菌密度によって,分解活性が大きく左右されてしまい,適用できないサイトも多い(3)3) Y. Men, E. C. Seth, Y. Shan, S. C. Terence, H. A. Robert, E. T. Michiko & A. C. Lisa: Environ. Microbiol., 17, 4873 (2015)..一方,バイオオーグメンテーションは分解能を有する微生物を薬剤と一緒に投入する手法であり,サイトに土着の微生物の分解活性を依存することなく浄化が可能である.バイオオーグメンテーションを活用すれば,土着の微生物の菌叢や活性の問題があるサイト等においてもバイオレメディエーションの適用が可能になる.また,これまで難分解性とされてきた汚染物質に対してもバイオレメディエーションの適用が可能となると期待される.しかし,バイオオーグメンテーションでは,投入する分解微生物の安全性を確認することが求められる.また,投入した微生物が現場に適応できない,土着の微生物との競合等により投入した微生物が生育できず,十分にその分解活性を維持できないという課題も指摘されている(3, 5)3) Y. Men, E. C. Seth, Y. Shan, S. C. Terence, H. A. Robert, E. T. Michiko & A. C. Lisa: Environ. Microbiol., 17, 4873 (2015).5) Y. Men, E. C. Seth, S. Yi, R. H. Allen, M. E. Taga & L. Alvarez-Cohen: Appl. Environ. Microbiol., 80, 2133 (2014)..そのような事象を防ぐためには,導入した菌種の導入後における適切な分析や解析,また,サイトに存在する微生物種全体の群集析等のさまざまなモニタリングが必要となる.さらに,土壌汚染自体に関する管理やリスクコミュニケーション等も同時に必要であり,実用化の実現は簡単ではない.

わが国においては,環境省と経済産業省が共同で事業者に対し,バイオオーグメンテーション事業の発展および環境保全に資することを目的として,生態系等への影響に配慮した適正な安全性評価および管理手法のための基本的な考え方を「バイオレメディエーション利用指針」として制定(平成17年3月)し,指針に適合しているかを確認する審査制度を導入している.しかし,これまでの約15年間で11件しか適合が確認された事業はなく(6)6) 環境省:微生物によるバイオレメディエーション利用指針適合確認状況,https://www.env.go.jp/air/tech/bio/05.html, 2019.,継続的に実施されている例はほとんどない.すなわち,バイオオーグメンテーションはほとんど普及していないのである.

3. コンソーシアを用いた塩素化エチレン汚染のバイオオーグメンテーション

VOCsのうち,最も汚染事例が多いのは,テトラクロロエチレン(以後,PCE)やトリクロロエチレン(以後,TCE)である.PCEやTCEなどは嫌気的微生物による還元脱ハロゲン呼吸により脱塩素化されることから,水素供与体の供給によるバイオスティミュレーションによる浄化が行われている.しかし,PCEやTCEをエチレンまで完全に脱塩素化できるのは,数種のDehalococcoides属細菌のみであり(7)7) H. Smidt & W. M. de Vos: Annu. Rev. Microbiol., 58, 43 (2004).,これらのDehalococcoides属細菌が存在しない場合には,中間体であるcis-1,2-ジクロロエチレン(以後,cis-DCE),クロロエチレン(以後,CE)で分解が止まってしまう.このため,Dehalococcoides属細菌を用いたバイオオーグメンテーションが期待されている.ところが,Dehalococcoides属の細菌は栄養要求性等の理由から,単独では非常に生育が遅く,純粋培養が困難である(8)8) J. He, K. M. Ritalahti, K. L. Yang, S. S. Koenigsberg & F. E. Loffler: Nature, 424, 62 (2003)..また,Dehalococcoides属の細菌は,サイトに適用しても機能しない事例が多くある(3)3) Y. Men, E. C. Seth, Y. Shan, S. C. Terence, H. A. Robert, E. T. Michiko & A. C. Lisa: Environ. Microbiol., 17, 4873 (2015).

われわれはPCEやTCEにより汚染されていることがわかっているサイトの近傍から土壌・地下水を採取し,PCEやTCEを添加して継代培養を実施し,Dehalococcoides属の細菌を含む微生物群(以後,コンソーシア)を増殖させ,PCEやTCEの分解活性を高めた後に,サイトに戻す新しい手法を試みた(図1図1■既存のバイオレメディエーション手法と本報告の手法の概要).

図1■既存のバイオレメディエーション手法と本報告の手法の概要

本手法のメリットは,1)Dehalococcoides属の細菌を含む微生物群を元のサイトから取得しているため,その環境に合った生残性が高い微生物群が取得でき,高い分解活性が期待できること,2)元々サイト由来の微生物のため,生態系に与える影響が最小限と考えられること,である.一方,コンソーシアを用いたバイオオーグメンテーションで最も大きな問題となるのは,投入するコンソーシアの安全性の評価である.近年のDNA解析技術が進歩により,コンソーシアの微生物群の遺伝情報を解析することで安全性の評価が可能となっている(4)4) M. Yohda, K. Ikegami, Y. Aita, M. Kitajima, A. Takechi, M. Iwamoto, T. Fukuda, N. Tamura, J. Shibasaki, S. Koike et al.: Sci. Rep., 7, 2230 (2017).

本研究においては,沖縄県のある試験サイトにおいて,TCE分解微生物コンソーシアの取得と構築,解析,また,実サイトにおける実証試験の実施を行い,TCE分解微生物コンソーシアの有用性を確認することができた.しかし,本手法で構築されたTCE分解微生物コンソーシアは構成する細菌の種数が多く,安定的な維持が難しいこと,適用できるまでの順化作業に時間を要するという課題があることがわかった.そこで,われわれは,Dehalococcoides属の細菌とその生育を補助する数種の細菌を混合培養することで,より少ない細菌種からなる単純化されたTCE分解コンソーシアを構築した.構築したコンソーシアは,Dehalococcoides属の細菌とその生育を補助すると考えられる細菌を含む4種により構成されている.今後は,本コンソーシアを用い,実汚染サイトから採取した土壌・地下水における室内試験を実施した後,実サイトに適用する検討を行っていく予定である.

以降は,コンソーシアを利用したバイオオーグメンテーションについて詳細を示す.

材料と方法

1. OKINAWAコンソーシアの取得と実証試験

1.1 OKINAWAコンソーシアの構築

サンプリングした土壌・地下水は嫌気的に塩素化エチレン類の脱塩素分解が促進される条件で培養を行った.炭素源や微量ミネラルおよびTCEもしくはPCEを添加した培地を用い,アルゴンで置換した気相中に水素を添加し,密閉したバイアル中で培養した.定期的にTCEやPCEおよび分解生成物の濃度測定を行い,分解が確認された場合,培養液の一部を新しい培地に接種し,継代を行い,安定してTCEやPCEをエチレンまでを完全に脱塩素化できるコンソーシア(以後,OKINAWAコンソーシア)を構築した.また,次世代シーケンサー(MiSeq, Illumina社)の解析により菌叢解析も行った.安全性については,次世代シークエンサーで得られた菌叢情報を独立行政法人製品評価技術基盤機構の微生物有害情報リストと比較することで確認した.

1.2 事前の室内試験

実証試験の実施サイトから取得したOKINAWAコンソーシアについて,実際の土壌中における分解活性の有無や,OKINAWAコンソーシアの添加率,また,使用する薬剤の検討を行う目的で,事前検討を行った.事前検討は,実証試験を実施するサイトから採取した土壌・地下水を100 mL容バイアルに入れ,TCE, PCEと浄化薬剤,そしてOKINAWAコンソーシアを添加し,培養を行った.培養期間中は,定期的にTCEやPCEおよび分解生成物の濃度を分析し,分解の状況を確認した.

1.3 実証試験

実証試験は沖縄県内のあるサイトにおいて,関係者に合意をとった後に行った.当該サイトの汚染原因は不明であるが,当該サイトは地下水において環境基準前後で,PCEやTCEとその分解生成物が検出されていることが事前の調査から判明していた.

実証試験においては,1回のみ注入する浄化薬剤は注入管を用いて注入し,OKINAWAコンソーシアは中心の注入井戸を用いて注入した.また,観測井戸を用いて,PCEやTCEとその分解生成物の濃度について定期的に測定を実施した.井戸の配置と深度を図2図2■実証試験における井戸配置(平面), 図3図3■実証試験における井戸配置(深度)に示す.井戸は周囲の観測井戸と中心の注入井戸を設置した.反応区においては,ポリ乳酸系の薬剤をあらかじめOKINAWAコンソーシアを注入する実証試験範囲全体に注入した.ポリ乳酸系の薬剤注入2週間後,培養後のOKINAWAコンソーシアを注入井戸からおよそ5 L程度注入した.対照区は反応区においてOKINAWAコンソーシアを注入したのと同時期に約5 Lのミネラルウォーターを注入した.注入後は約120日間にわたって地下水のモニタリングを継続した.地下水をサンプリングし,ガスクロマトグラフィーによる塩素化エチレンの定量と定量PCRによるDehalococcoides属細菌16S rRNA遺伝子の定量を行った.

図2■実証試験における井戸配置(平面)