巻頭言

ジャーナル評価と論文の質

Yoshiaki Nakagawa

中川 好秋

京都大学大学院農学研究科

Published: 2020-07-01

「編集」をネタに巻頭言を,と清田編集長から依頼があった.そこで,過去の巻頭言に何が書かれているかを調べてみた.今では,論文検索は図書館にいかなくてもデスク上で簡単にできるので,学会HPに入って“巻頭言”をダウンロードした.2007年以前についてはHPに掲載がなかったので,図書館で調べたところ,“巻頭言”の見出がついたのは第38巻(1998年)からと知った.『化学と生物』の創刊は1962年であり,第1巻には創刊号(1962)と2~7号(1963)が綴じられていた.第2巻は1~6号(1964)で,第3巻から月刊誌(1965)となっていた.改めて第1巻をパラパラとめくっていると,筆者の研究室の初代教授の武居三吉先生の巻頭言“農芸化学の展望”が目にとまった.2008年まで遡ってみると,タイトルに「農芸化学」と入ったものが多かった.今回は清田編集長のご要望に応えるべく,「編集」が題材になったものを調べたところ,前島正義先生「ジャーナルの発信と受信」(2008年),依田幸司先生「学術雑誌の価値と評価」(2012年)が見つかった.前島先生は論文発表(発信)の大切さと,論文における一字一句の大切さを唱えられ,依田先生はインパクトファクター(IF)を取り上げられていた.世の中狭いとよく言うが,筆者がBBB編集委員のときの編集委員長が依田先生であった.

筆者は,2017年3月から日本農薬学会の編集委員長を仰せつかっているが,日本農薬学会英文誌(Journal of Pesticide Science; JPS)は1976年から季刊誌として,原著論文,総説,解説記事などを掲載している.創刊号には6報の英語論文が掲載され,その後も世界に発信し続けたが,JPSの国際的認知度は高くならなかった.英文・和文の混在誌であったことが原因だったと思われる.筆者が留学中にアメリカの図書館でJPSを見たことがあるが,和文があることで印象は良くなかったことを覚えている.インターネット時代に入り,真の国際化を目指して,2004年から英語論文のみを電子版として無料公開し,2013年からは英文誌,和文誌の完全分冊化を実施した.しかし,国際的認知度は低いままでIFも上昇しなかった.まだ発信力不足と考え,PubMedへの収載を試みた(2018年4月採択,2016に遡って掲載).その効果からか,海外からの投稿は増えてきたように思う.

誌面が残り少ないが,ここから学術雑誌への思いである.IFと雑誌の質との間にどれほどの相関があるかは不明だが,客観的には雑誌の質を保証するためにIFを使わざるを得ない.農薬学会誌編集委員長としての3年間で,IFを0.762から1.415まで引き上げることはできたが,学会が出版する雑誌の一番大切なことは,商業誌とは違って質の高い論文を読者に提供することだろう.「この論文のレベルならBBBかJPSでいい」と考えるのではなく,学会員は率先して所属している学会誌に良い論文を投稿していただきたい.今のところ,JPSやBBBはNatureとかアメリカ化学会が出版している雑誌に比べるとIFにおいては大きな差があって,日本の学術雑誌に投稿を促すことが難しいのもよくわかっている.論文の質の保証はレフェリーに任せるしかないが,論文の質を上げれば,それに伴って雑誌の質は自然と上昇すると信じ,いつの日か,わが国の学会が編集している雑誌が,海外の有名誌に追いつき追い越すことを期待している.