解説

植物の自然免疫研究の最前線植物免疫の活性化機構と病原菌の感染戦略

Frontier Of Plant Immune Research: Activation of Plant Immunity and Inhibitory Mechanism of Plant Immunity by Pathogens

吉久 采花

Ayaka Yoshihisa

近畿大学大学院農学研究科

嶋田 啓太

Keita Shimada

近畿大学大学院農学研究科

吉村 智美

Satomi Yoshimura

近畿大学大学院農学研究科

山口 公志

Koji Yamaguchi

近畿大学大学院農学研究科

川崎

Tsutomu Kawasaki

近畿大学大学院農学研究科

Published: 2020-07-01

植物は,微生物の種類を識別する能力をもち,病原菌に対しては感染を阻止するための防御反応を誘導し,共生菌に対しては,菌の侵入を受け入れるための共生反応を誘導する.このような微生物の識別は,植物の細胞表面あるいは細胞内に存在する受容体を介して行われる.植物の病原菌認識受容体の構造や働きは,動物の自然免疫で働く受容体と酷似していることから,病原菌に対する植物の防御応答は,植物免疫と呼ばれている.一方,病原菌は,エフェクターと総称される分子を獲得し,その働きにより植物の免疫反応を阻止し,感染を成立させている.そこで,ここでは植物免疫の誘導機構と,エフェクターによる病原菌の感染戦略に関して,最近の知見を紹介する.

Key words: 植物; 免疫; 受容体; 病原; エフェクター

はじめに

自然界において,植物の周りには多くの微生物が存在する.一部の微生物は,病原菌として植物に感染し,病気を起こす.また,微生物の中には,共生菌として,植物と共生関係をもち,植物の成長を支えている微生物も存在する.したがって,植物にとっては,病原菌の感染を阻止する一方で,共生菌の侵入を受け入れる必要がある.そのため,植物は,細胞表面や細胞内に,微生物の成分を検出する受容体をもち,微生物の種類を識別することで,病原菌に対しては免疫反応を誘導し,共生菌に対しては共生反応を誘導している.

植物の病原菌に対する免疫誘導機構は,2層に分けられる(図1図1■植物のパターン誘導免疫とエフェクター誘導免疫).1層目では,植物の細胞膜に存在する受容体が,微生物/病原菌の構成成分の分子パターン(MAMP/PAMP: Microbe/Pathogen-Associated Molecular Pattern)を検出する.代表的なMAMP/PAMPとして,べん毛タンパク質由来のペプチドや細菌の細胞壁成分であるペプチドグリカンの断片,真菌の細胞壁成分であるキチンの断片が挙げられる.このようなMAMP/PAMPを検出する受容体は,パターン認識受容体(PRR: Pattern Recognition Receptor)と呼ばれる.さらに,MAMP/PAMP認識によって誘導される免疫反応は,パターン誘導免疫(PTI: Pattern Triggered Immunity)と呼ばれ,病原菌が侵入する気孔の閉鎖や抗菌性物質(ファイトアレキシンと呼ばれる)の生成,細胞壁の物理的強化,活性酸素の生成など,さまざまな免疫反応が誘導される.

図1■植物のパターン誘導免疫とエフェクター誘導免疫

植物のパターン認識受容体がMAMPを認識して,パターン誘導免疫を誘導する.病原菌は,エフェクターを分泌し,エフェクターが宿主の免疫抑制などにより,感染しやすい環境を作る.また,植物のNB-LRR型受容体は,エフェクターを認識し,エフェクター誘導免疫を誘導する.

一方,病原菌は,PTIを阻止するため,植物細胞内あるいは細胞間隙に,エフェクターと総称される分子を分泌する(図1図1■植物のパターン誘導免疫とエフェクター誘導免疫).ほとんどのエフェクターは,タンパク質であり,植物の免疫誘導を阻止する機能や,病原菌の増殖に有利な環境を作り出す機能をもつ.そのため,病原菌のエフェクターに対抗して,植物は,2層目の免疫誘導機構として,エフェクターを認識する受容体を獲得している(図1図1■植物のパターン誘導免疫とエフェクター誘導免疫).エフェクターを認識する受容体は,核酸結合(NB: Nucleotide Binding)ドメインとロイシンリッチリピート(LRR: Leucine-Rich Repeat)ドメインをもつため,NB-LRR型受容体(NLR: NB-LRR Receptor)と呼ばれる.NLRによるエフェクター認識によって,多くの場合,細胞死を伴う強い免疫反応が誘導される(過敏感反応(HR: Hypersensitive Reaction)).この免疫反応は,エフェクター誘導免疫(ETI: Effector-Triggered Immunity)と呼ばれる.そこで,本稿では,植物のPTIとETIおよびエフェクターによる植物免疫の抑制機構に関する最近の知見を紹介したい.

PTIにおけるMAMP認識と免疫誘導機構

病原菌由来のMAMPのなかでも,細菌のべん毛タンパク質由来の22個のペプチド(flg22)や翻訳伸長因子由来のペプチド(elf18),真菌の細胞壁由来のキチンが,PTIに関する研究に広く用いられている(図2図2■植物のパターン認識受容体).また,このようなMAMPの認識に伴って,PROPEPと呼ばれる内在性の免疫活性化因子の前駆体の発現が誘導され,PROPEPの分解物であるPEPペプチドが,MAMPのように働くことよって免疫反応が増幅されることが知られている.PEPペプチドは,植物の細胞膜の崩壊によって細胞外に放出されるため,DAMP(Danger-Associated Molecular Pattern)と呼ばれている.

図2■植物のパターン認識受容体

パターン認識受容体は,病原菌の構成成分や内在性の免疫活性化因子を認識する.受容体が認識したシグナルは,RLCKファミリーを介して細胞内因子に伝達される.

MAMPやDAMPを認識するPRRは,タンパク質構造から受容体型キナーゼ(RLK: Receptor-Like Kinase)と受容体型タンパク質(RLP: Receptor-Like Protein)に大別される(図2図2■植物のパターン認識受容体).RLKは,MAMPやDAMPを認識する細胞外ドメインと細胞内にプロティンキナーゼドメインをもち,RLPは,細胞外ドメインのみをもつ.細胞外ドメインの代表的なものとして,タンパク質間相互作用に関与するLRRドメインや,キチンやペプチドグリカンなどの糖質を検出するLysM(Lysin Motif)ドメインなどがある(図2図2■植物のパターン認識受容体).最近の研究により,PRRは,複数のRLKやRLPと複合体を形成し,MAMP認識に伴って,それらと相互作用したり,乖離したりすることが明らかになっている(1)1) D. Couto & C. Zipfel: Nat. Rev. Immunol., 16, 537 (2016)..特に,RLPであるPRRは,単独では細胞内に情報を伝達することができないため,共受容体として働くRLKと相互作用している.また,RLKのキナーゼドメインは,多くの場合,受容体型細胞質キナーゼ(RLCK: Receptor-Like Cytoplasmic Kinase)と相互作用している(図2図2■植物のパターン認識受容体).PRRによるMAMP認識に伴って,RLKのキナーゼドメインが活性化され,その後RLCKをリン酸化することで,RLCKが活性化される.さらに,RLCKがさまざまな因子をリン酸化することで,多様な免疫反応が活性化されることが知られている(後述).RLCKは,シロイヌナズナでは149遺伝子,イネでは379遺伝子存在し,アミノ酸配列の相同性から17個のサブグループに分けられている(2)2) X. Liang & J. M. Zhou: Annu. Rev. Plant Biol., 69, 267 (2018)..さらに,PRRに相互作用するRLCKの多くは,サブグループVIIに属することが知られている.

シロイヌナズナのPRRであるFLS2は,細胞外にLRRドメインをもつRLKであり,flg22の認識に伴って,LRR-RLKである共受容体BAK1と相互作用する(図2図2■植物のパターン認識受容体).それに伴ってBAK1のキナーゼドメインがリン酸化され,活性化されたBAK1はRLCKであるBIK1をリン酸化する(3)3) D. Lu, S. Wu, X. Gao, Y. Zhang, L. Shan & P. He: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 107, 496 (2010)..リン酸化されたBIK1は,活性酸素を生成するNADPHオキシダーゼであるRBOHDをリン酸化し,活性化する(4)4) Y. Kadota, J. Sklenar, P. Derbyshire, L. Stransfeld, S. Asai, V. Ntoukakis, J. D. Jones, K. Shirasu, F. Menke, A. Jones et al.: Mol. Cell, 54, 43 (2014)..RBOHDは,同時にカルシウム流入によって活性化されるカルシウム依存型プロティンキナーゼCPK5によるリン酸化によっても相加的に活性化される(5)5) U. Dubiella, H. Seybold, G. Durian, E. Komander, R. Lassig, C. P. Witte, W. X. Schulze & T. Romeis: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 110, 8744 (2013)..RBOHDの活性化は,細胞間隙における活性酸素生成を誘導し,さまざまな免疫応答を誘導する引き金となる.この免疫反応の活性化はレドックス制御が関係していると考えられているが,最近,活性酸素を検出するRLKも発見されている(6)6) F. Wu, Y. Chi, Z. Jiang, Y. Xu, L. Xie, F. Huang, D. Wan, J. Ni, F. Yuan, X. Wu et al.: Nature, 578, 577 (2020).

イネのRLPであるCEBiPは,細胞外にLysMドメインをもち(図2図2■植物のパターン認識受容体),真菌由来のMAMPであるキチンを認識する受容体である(7)7) H. Kaku, Y. Nishizawa, N. Ishii-Minami, C. Akimoto-Tomiyama, N. Dohmae, K. Takio, E. Minami & N. Shibuya: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103, 11086 (2006)..キチン認識に伴って,CEBiPは,RLKであるOsCERK1とダイマーを形成する(8)8) T. Shimizu, T. Nakano, D. Takamizawa, Y. Desaki, N. Ishii-Minami, Y. Nishizawa, E. Minami, K. Okada, H. Yamane, H. Kaku et al.: Plant J., 64, 204 (2010)..さらに,OsCERK1のダイマー化に伴うリン酸化により,OsCERK1が活性化され,OsCERK1は,キナーゼドメインに結合しているRLCKであるOsRLCK185をリン酸化する(9)9) K. Yamaguchi, K. Yamada, K. Ishikawa, S. Yoshimura, N. Hayashi, K. Uchihashi, N. Ishihama, M. Kishi-Kaboshi, A. Takahashi, S. Tsuge et al.: Cell Host Microbe, 13, 347 (2013).図3図3■イネのパターン誘導免疫と共生反応).活性化されたOsRLCK185は,MAPキナーゼカスケードの起点となるOsMAPKKK18/24をリン酸化することにより,MAPキナーゼカスケードが活性化され,さらにMAPキナーゼがさまざまな転写因子を活性化することにより,多様な免疫反応が誘導されることが明らかになった(10, 11)10) K. Yamada, K. Yamaguchi, S. Yoshimura, A. Terauchi & T. Kawasaki: Plant Cell Physiol., 58, 993 (2017).11) C. Wang, G. Wang, C. Zhang, P. Zhu, H. Dai, N. Yu, Z. He, L. Xu & E. Wang: Mol. Plant, 10, 619 (2017)..この研究に先立って,OsRLCK185のシロイヌナズナホモログであるPBL27が,同様にCERK1からのシグナルをMAPキナーゼカスケードに伝達する因子であることを発見した(12)12) K. Yamada, K. Yamaguchi, T. Shirakawa, H. Nakagami, A. Mine, K. Ishikawa, M. Fujiwara, M. Narusaka, Y. Narusaka, K. Ichimura et al.: EMBO J., 35, 2468 (2016)..それまで,MAMP認識によってMAPキナーゼが活性化することは古くから知られていたが,その制御機構は不明であった.PBL27とOsRLCK185の研究によって,RLCKファミリーが,PRRとMAPキナーゼカスケードを繋ぐ分子であることが明らかになり,現在では広く認知されている.

図3■イネのパターン誘導免疫と共生反応

OsCERK1は,パターン誘導免疫と共生反応の両方において共受容体として働く.

最近,OsRLCK185が,カルシムチャネルであるOsCNGC9をリン酸化により活性化することが報告された(13)13) J. Wang, X. Liu, A. Zhang, Y. Ren, F. Wu, G. Wang, Y. Xu, C. Lei, S. Zhu, T. Pan et al.: Cell Res., 29, 820 (2019).図3図3■イネのパターン誘導免疫と共生反応).OsCNGC9の活性化より,細胞内へのカルシウムの流入が起こる.カルシウムレベルの一過的上昇は,Rbohの活性を上昇させ,活性酸素の生成が促進される.同様に,RLCKを介したカルシウムチャンネルの活性化はシロイヌナズナにおいても報告されている(14)14) W. Tian, C. Hou, Z. Ren, C. Wang, F. Zhao, D. Dahlbeck, S. Hu, L. Zhang, Q. Niu, L. Li et al.: Nature, 572, 131 (2019).

OsCERK1によって活性化される免疫経路は,OsRLCK185とは別に,グアニンヌクレオチド交換因子であるOsRacGEF1がリン酸化され,OsRacGEF1が,免疫誘導の分子スイッチとして働く低分子量Gタンパク質OsRac1を活性化することによって免疫が誘導される経路も知られている(15)15) A. Akamatsu, H. L. Wong, M. Fujiwara, J. Okuda, K. Nishide, K. Uno, K. Imai, K. Umemura, T. Kawasaki, Y. Kawano et al.: Cell Host Microbe, 13, 465 (2013)..OsRac1は,Rbohと相互作用することで活性酸素を生成するとともに,リグニン合成や細胞死などの免疫反応の誘導を制御していることが知られている(16~19)16) T. Kawasaki, K. Henmi, E. Ono, S. Hatakeyama, M. Iwano, H. Satoh & K. Shimamoto: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 96, 10922 (1999).17) T. Kawasaki, H. Koita, T. Nakatsubo, K. Hasegawa, K. Wakabayashi, H. Takahashi, K. Umemura, T. Umezawa & K. Shimamoto: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103, 230 (2006).18) H. L. Wong, R. Pinontoan, K. Hayashi, R. Tabata, T. Yaeno, K. Hasegawa, C. Kojima, H. Yoshioka, K. Iba, T. Kawasaki et al.: Plant Cell, 19, 4022 (2007).19) Y. Kawano, A. Akamatsu, K. Hayashi, Y. Housen, J. Okuda, A. Yao, A. Nakashima, H. Takahashi, H. Yoshida, H. L. Wong et al.: Cell Host Microbe, 7, 362 (2010).

一方,OsCERK1は,菌根菌感染に伴う共生反応においても働いていることが知られている(20)20) K. Miyata, T. Kozaki, Y. Kouzai, K. Ozawa, K. Ishii, E. Asamizu, Y. Okabe, Y. Umehara, A. Miyamoto, Y. Kobae et al.: Plant Cell Physiol., 55, 1864 (2014).図3図3■イネのパターン誘導免疫と共生反応).共生を誘導する菌根菌が分泌する物質は,ミック因子(Myc factor)と呼ばれ,脂肪酸結合型キトオリゴ糖や短鎖のキトオリゴ糖が含まれる.ミック因子は,イネの受容体によって認識され,その情報はOsCERK1を介して細胞内に伝達されると考えられており,最近,ミック因子の受容体候補として,LysM型受容体であるOsLYK1とOsLYK2が挙げられている(21, 22)21) J. He, C. Zhang, H. Dai, H. Liu, X. Zhang, J. Yang, X. Chen, Y. Zhu, D. Wang, X. Qi et al.: Mol. Plant, 12, 1561 (2019).22) R. Roth, M. Chiapello, H. Montero, P. Gehrig, J. Grossmann, K. O’Holleran, D. Hartken, F. Walters, S. Y. Yang, S. Hillmer et al.: Nat. Commun., 9, 4677 (2018)..このように,OsCERK1が,イネにおける病原菌と共生菌の認識にかかわるとともに,免疫反応と共生反応の分岐点として働いていると考えられ,その分子メカニズムの解明には非常に興味がもたれる.

エフェクターによる病原菌の感染戦略

病原菌は,植物組織内に侵入すると,組織内環境を感知し,エフェクターを生成し,植物細胞内あるいは細胞間隙に分泌する(図1図1■植物のパターン誘導免疫とエフェクター誘導免疫).エフェクターは,微生物だけではなく,線虫やアブラムシなども分泌することが知られている.細胞間隙に分泌されるエフェクターの中には,PRRの細胞外ドメインであるLysMやLRRなどの構造をもつエフェクターが存在し,それらのエフェクターがMAMPと結合することで,PRRによるMAMP認識を阻害している(23)23) Y. Wang & Y. Wang: Mol. Plant Microbe Interact., 31, 6 (2018)..また,植物は,病原菌の感染を阻止するため,細胞間隙に,病原菌の分解にかかわるプロテアーゼやキチナーゼ,グルカナーゼを分泌するが,それらの酵素活性を阻害するエフェクターも知られている.

植物細胞内に分泌されるエフェクターは,PRRや共受容体,RLCK, MAPKなどの主要な免疫因子の機能を抑制したり,キチナーゼなどの抗菌性タンパク質の細胞外への分泌にかかわる小胞輸送経路を抑制することで,免疫誘導を阻害していることが知られている(24)24) A. P. Macho & C. Zipfel: Curr. Opin. Microbiol., 23, 14 (2015)..なかでも,PRRによる免疫誘導の起点となるRLCKを阻害するエフェクターは,多数存在する.たとえば,イネ白葉枯病菌のエフェクターであるXopYは,OsRLCK185に相互作用し,OsCERK1によるOsRLCK185のリン酸化を阻害することで,上述したようなMAPKの活性化や活性酸素生成を抑制している(9)9) K. Yamaguchi, K. Yamada, K. Ishikawa, S. Yoshimura, N. Hayashi, K. Uchihashi, N. Ishihama, M. Kishi-Kaboshi, A. Takahashi, S. Tsuge et al.: Cell Host Microbe, 13, 347 (2013)..また,RLCKの活性化において,活性化ループにあるセリン残基やスレオニン残基のリン酸化が重要であるが,黒腐病菌のエフェクターであるAvrACは,それらのリン酸化部位にウリジル酸を付加することで,RLCKの活性化を阻害していることが知られている(25)25) F. Feng, F. Yang, W. Rong, X. Wu, J. Zhang, S. Chen, C. He & J. M. Zhou: Nature, 485, 114 (2012).

このようにエフェクターは,植物免疫誘導の重要なプロセスにかかわる宿主因子に相互作用するため,新たな免疫因子を同定するツールとして利用されている.われわれも,白葉枯病菌のエフェクターを用いたイネ免疫因子の探索により,上述のOsRLCK185以外に,白葉枯病菌XopPエフェクターと相互作用するU-box型ユビキチンリガーゼであるPUB44を同定した(26)26) K. Ishikawa, K. Yamaguchi, K. Sakamoto, S. Yoshimura, K. Inoue, S. Tsuge, C. Kojima & T. Kawasaki: Nat. Commun., 5, 5430 (2014)..PUB44の機能解析により,PUB44は,OsCERK1に依存した免疫系を正に制御していることが明らかになった.また,ユビキチンリガーゼ活性をもつPUB44のU-boxドメインは,一般的なPUBファミリーとは異なるアミノ酸配列をもち,XopPは,その特異的なアミノ酸配列を標的としてU-boxと相互作用することがわかった.さらに,XopPの相互作用により,U-boxドメインの酵素活性が失われることから,XopPがPUB44の酵素活性を阻害することで,免疫を抑制していることが明らかになった.現在では,病原菌や線虫のエフェクターが植物のユビキチンリガーゼを阻害する例は,複数知られている.

エフェクターの中には,宿主細胞の核に移動し,転写制御にかかわるものがある.代表的なものとして,Xanthomonas属やRalstonia属がもつTranscription-Activator Like(TAL)エフェクターが挙げられる(27)27) J. Zhang, Z. Yin & F. White: Front. Plant Sci., 6, 641 (2015).図4図4■白葉枯病菌TALエフェクターによる感染戦略).TALエフェクターは,C末端領域に,核移行シグナルおよび転写活性化ドメインをもち,中央部には34アミノ酸を1単位とした繰返し配列により形成されるDNA結合部位をもつ(28)28) J. Boch & U. Bonas: Annu. Rev. Phytopathol., 48, 419 (2010)..34アミノ酸の12番目と13番目に位置するアミノ酸の組み合わせにより,各繰返し配列が結合する塩基が決まっている.このTALエフェクターの発見により,任意のDNA配列に結合するタンパク質を作ることができるようになり,ゲノム編集技術の発展に大きく貢献した.

図4■白葉枯病菌TALエフェクターによる感染戦略

(A) TALエフェクターの構造,(B) TALエフェクターによるSWEET遺伝子の発現誘導.SWEETは,細胞膜に存在する糖輸送体であり,細胞内の糖をアポプラストに分泌する.それにより,菌の栄養源となる糖の量が,菌が増殖するアポプラストで増加する.(C)Xa1は,TALエフェクターを認識して,免疫反応を誘導する.(D)白葉枯病菌がもつiTALエフェクターは,Xa1によるTALエフェクターの認識を阻害することで,免疫誘導を抑制する.

イネ白葉枯病菌のTALエフェクターであるAvrXa7は,イネのSWEET14遺伝子のプロモーターに結合し,SWEET14の転写を非常に強く上昇させることが知られている(29)29) S. Blanvillain-Baufume, M. Reschke, M. Sole, F. Auguy, H. Doucoure, B. Szurek, D. Meynard, M. Portefaix, S. Cunnac, E. Guiderdoni et al.: Plant Biotechnol. J., 15, 306 (2017).図4図4■白葉枯病菌TALエフェクターによる感染戦略).SWEET14タンパク質は,細胞膜に局在する糖輸送体として働いている.SWEET14タンパク質量の増加により,菌の栄養源となる糖が細胞質からアポプラストに放出され,菌の栄養源が豊富になることで,菌が増殖しやすい環境が生まれると考えられている.実際,白葉枯病菌が利用しているSWEET遺伝子のプロモーターに存在するTALエフェクター結合部位に変異を加えることで,白葉枯病に強いイネを作出できることが報告されている(30)30) R. Oliva, C. Ji, G. Atienza-Grande, J. C. Huguet-Tapia, A. Perez-Quintero, T. Li, J. S. Eom, C. Li, H. Nguyen, B. Liu et al.: Nat. Biotechnol., 37, 1344 (2019).

ETIにおけるエフェクター認識と免疫誘導機構

作物の耐病性育種では,古くから,それぞれの病原菌に対して強い抵抗性を誘導する遺伝子(病害抵抗性遺伝子)座が遺伝学的に同定され,利用されてきた.その後,病害抵抗性遺伝子がコードするタンパク質が明らかにされ,その多くがNB-LRR型受容体であることがわかった.植物のNB-LRR型受容体は,病原菌が細胞内に分泌したエフェクターを認識し,強い抵抗性を誘導する(31)31) J. D. Jones, R. E. Vance & J. L. Dangl: Science, 354, 6316 (2016).図1図1■植物のパターン誘導免疫とエフェクター誘導免疫).動物でも,NB-LRR型受容体(動物では,NOD-LRRと呼ばれる)は存在するが,それらはペプチドグリカンなどのMAMPを認識することが知られている.一方,植物のNB-LRR型受容体が,MAMPを認識する例は報告されていない.

NB-LRR型受容体は,N末端領域に存在するコイルドコイル(CC)ドメインとTIRドメインにより,CC-NB-LRRとTIR-NB-LRRの2種に大別される.例外として,BEDドメインをもつBED-NB-LRRもある.NBドメインは,ATP/ADPが結合し,ATPase活性をもつことが知られている.最近の研究により,非ストレス下では,NB-LRR型受容体は,ADPと結合し,分子内相互作用により不活性化状態にあるが,エフェクターを認識するとATPが結合し,構造変化により多量体化することが報告されている(32)32) J. Wang, M. Hu, J. Wang, J. Qi, Z. Han, G. Wang, Y. Qi, H. W. Wang, J. M. Zhou & J. Chai: Science, 364, 6435 (2019)..この際,CCドメインは,4ヘリックスバンドル構造をもち,多量体化において中心的な働きをしている(33)33) L. W. Casey, P. Lavrencic, A. R. Bentham, S. Cesari, D. J. Ericsson, T. Croll, D. Turk, P. A. Anderson, A. E. Mark, P. N. Dodds et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 113, 12856 (2016)..TIRドメインもまた,ダイマー形成に関与しているが,それとは別にNADの分解活性をもち,その活性が過敏感細胞死の誘導において必要であることがわかっている(34)34) S. Horsefield, H. Burdett, X. Zhang, M. K. Manik, Y. Shi, J. Chen, T. Qi, J. Gilley, J. S. Lai, M. X. Rank et al.: Science, 365, 793 (2019)..しかし,どうしてNADの分解によって細胞死が誘導されるのかについては明らかになっておらず,今後の研究に期待される.

イネ白葉枯病抵抗性遺伝子として遺伝学的に同定されたXa1は,N末端領域にBEDドメインをもつNB-LRR型受容体である(35)35) S. Yoshimura, U. Yamanouchi, Y. Katayose, S. Toki, Z. X. Wang, I. Kono, N. Kurata, M. Yano, N. Iwata & T. Sasaki: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 95, 1663 (1998)..Xa1は,白葉枯病菌のTALエフェクターを認識してエフェクター誘導免疫を誘導する(36)36) Z. Ji, C. Ji, B. Liu, L. Zou, G. Chen & B. Yang: Nat. Commun., 7, 13435 (2016).図4図4■白葉枯病菌TALエフェクターによる感染戦略).白葉枯病菌は数十個のTALエフェクターを分泌するが,Xa1はそのすべてを認識できると考えられ,広範囲な菌系に対して抵抗性を発動できると予測できる.しかし,実際には白葉枯病菌の多くの菌系が,Xa1による免疫誘導を回避している.最近の研究で,それらの菌系が,TALエフェクターのC末端領域が欠損したiTAL(interfering TAL)エフェクターをもつことが明らかになった.iTALは,Xa1によるTALエフェクター認識を阻害する能力を獲得していると考えられている(図4図4■白葉枯病菌TALエフェクターによる感染戦略).このように,植物と病原菌の共進化の過程で,病原菌は,エフェクター誘導免疫を阻止するエフェクターも進化させている.

おわりに

これまでは,フラジェリンやキチンなど,代表的なMAMPの認識に伴う免疫誘導の研究によって,PRRを介した免疫誘導の仕組みが明らかになってきた.しかし,植物は,もっと多くの病原菌由来の構成成分をMAMPとして認識し,免疫反応を活性化していると考えられるため,実際には多数のPRRが存在し,多様な機構により病原菌認識が制御されていると考えられる.また,PRR複合体間の多様な相互作用が報告されており,PRRが巨大な複合体を形成している可能性が示唆されている.

ここ10年の間,病原菌エフェクター研究が活発に行われ,エフェクターが標的とする宿主因子の探索により,RLCKファミリーなど主要な免疫制御因子が発見された.しかし,エフェクター自身の生化学的な機能に関して理解されていないものが多い.これは,エフェクターの多くは既知のタンパク質と相同性がなく,エフェクターのアミノ酸配列からでは,機能が推定できないことに起因している.エフェクターの解析から,TALエフェクターなど,新たな機能をもつタンパク質が見いだされることも多く,エフェクター研究はタンパク質科学において重要であると考えられる.

植物のNB-LRR型受容体は,1994年に最初に発見されたものの,タンパク質研究が困難であったため,25年間の間,その活性化機構の不明であった.しかし,2019年にクライオ電子顕微鏡を使った解析により,初めてNB-LRR型受容体のオリゴマー化に伴う活性化モデルが提唱された.しかし,多くのことはまだ理解されておらず,今後の研究の進展に期待したいところである.

Reference

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