解説

出芽酵母オルガネラの危機管理小胞体ストレス応答研究の最近の潮流

“Risk Management” of Yeast Organelle: Recent Findings on the Endoplasmic Reticulum-Stress Response

木俣 有紀

Yuki Ishiwata-Kimata

奈良先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科バイオサイエンス領域

木俣 行雄

Yukio Kimata

奈良先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科バイオサイエンス領域

Published: 2020-07-01

分化によってさまざまな形態の細胞が生じる多細胞生物だけではなく,単細胞真核生物である酵母でも,状況に応じてオルガネラのサイズや機能が変動する.小胞体ストレス応答はあらゆる真核生物に見られる生命現象だが,そのメカニズムの解明については,出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)を用いた研究が先行してきた.本稿では,出芽酵母をモデルとした研究によって,いかにして小胞体ストレス応答についての理解が進み,現在ではどのような研究が進められているのかについて,他の生物種での知見も交えて解説したい.

Key words: 酵母; 小胞体; 小胞体ストレス応答; Unfolded protein response; オルガネラ

Ire1とHAC1

小胞体は一重の膜(リン脂質二重層)によって覆われている袋状のオルガネラであり,扁平あるいは網状の形態をしている.小胞体の主要な役割として,細胞表層や液胞(リソソーム)で働くタンパク質の折り畳み・成熟の場となることが知られている.これらのタンパク質をコードするmRNAは,リボゾームにて翻訳されつつ小胞体膜に付着し,新生タンパク質(ペプチド鎖)を小胞体内へと送りこむ.そして,正しく折り畳まれたタンパク質のみが輸送小胞に詰め込まれ,ゴルジ体を経て,機能を発揮すべき場所へと運ばれる.タンパク質の折り畳みを助け,かつ,未完成のタンパク質を小胞体内にとどめるため,小胞体内には幾種類もの分子シャペロンが存在する.

「小胞体に折り畳み不全タンパク質が蓄積すると,小胞体に存在する分子シャペロンの存在量が転写レベルで誘導される」ことが報告されたのは1988年のことであり(1)1) Y. Kozutsumi, M. Segal, K. Normington, M. J. Gething & J. Sambrook: Nature, 332, 462 (1988).,やがて,その事象はUnfolded protein response(UPR)と名付けられた.今日では,小胞体に折り畳み不全タンパク質を蓄積させるような状況は小胞体ストレスと総称され,それに対する細胞応答は小胞体ストレス応答と呼ばれることが多い.小胞体ストレス応答(あるいはUPR)が発見されたのは動物細胞を用いた研究を通してであったが(1)1) Y. Kozutsumi, M. Segal, K. Normington, M. J. Gething & J. Sambrook: Nature, 332, 462 (1988).,そのメカニズムの解明は出芽酵母を用いた研究が先行してきた.出芽酵母では,Ire1/HAC1経路が主として小胞体ストレス応答を司る(2)2) X. Xia: Int. J. Mol. Sci., 20, 2860 (2019).

Ire1は小胞体膜上に分布する膜貫通タンパク質であり,サイトゾル側領域にRNA切断活性(RNase)を有し,それは小胞体ストレスに応じて発揮される.出芽酵母では,HAC1遺伝子産物mRNAがIre1のターゲットとなる(図1図1■出芽酵母の小胞体ストレス応答).HAC1 mRNAは通常時はイントロンを有する前駆体型であるが,小胞体ストレスにより活性化したIre1は図1図1■出芽酵母の小胞体ストレス応答で示すようなスプライシング反応を引き起こし,成熟型HAC1 mRNAが生み出される.そして,成熟型HAC1 mRNAの翻訳産物タンパク質(Hac1)は核内転写因子として機能し,小胞体ストレス応答における遺伝子発現誘導を司る.なお,Ire1によるHAC1 mRNAのスプライシングは,核内で起きる一般的なmRNAスプライシングとは全く異なる現象であると考えられている.

図1■出芽酵母の小胞体ストレス応答

小胞体ストレスに応じて,小胞体膜貫通タンパク質Ire1が活性化し,HAC1 mRNAのスプライシングを進める.成熟型HAC1 mRNAは核内転写因子タンパク質へと翻訳され,これが小胞体ストレス応答(UPR)における遺伝子発現誘導を司る.

動植物もIre1オルソログを有する.そして,出芽酵母と同様,動物にも植物にもIre1依存的なスプライシングにより成熟する転写因子mRNAが存在しているが,それらとHAC1との相同性は高くない(3, 4)3) 金本聡自,今泉和則:生化学,90,51(2018).4) G. M. Nawkar, E. S. Lee, R. M. Shelake, J. H. Park, S. W. Ryu, C. H. Kang & S. Y. Lee: Front. Plant Sci., 9, 214 (2018)..また,前述のように,小胞体に送り込まれるタンパク質をコードするmRNAは小胞体に近接するため,小胞体ストレスにより活性化したIre1によって,それらが切断(分解)されることがある.この現象はregulated IRE1-dependent decay(RIDD)と呼ばれ(5)5) M. Maurel, E. Chevet, J. Tavernier & S. Gerlo: Trends Biochem. Sci., 39, 245 (2014).,小胞体へのタンパク質流入量を減らし,小胞体ストレスの低減に寄与すると考えられている.出芽酵母Ire1はRIDDを行わず,一方,分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)Ire1はRIDDのみを行う.主要な小胞体分子シャペロンであるBiPは,他の生物種と同じく分裂酵母でも小胞体ストレスに応じて発現量が増大するが,そのメカニズムは極めてユニークであると報告されている.分裂酵母BiP mRNAは3′-UTRに不安定化配列を有し,RIDDによってそれが除去されるのである(6)6) P. Kimmig, M. Diaz, J. Zheng, C. C. Williams, A. Lang, T. Aragon, H. Li & P. Walter: eLife, 1, e00048 (2012)..最近の研究によると,出芽酵母Ire1と分裂酵母Ire1ではRNaseとしての構造と基質特異性が異なっており,それが役割の相違につながっているようだ(7)7) W. Li, V. Okreglak, J. Peschek, P. Kimmig, M. Zubradt, J. S. Weissman & P. Walter: eLife, 7, e35388 (2018).

出芽酵母Ire1の活性制御メカニズム

Ire1は活性化する際,大きな多量体を形成する(8)8) Y. Kimata, Y. Ishiwata-Kimata, T. Ito, A. Hirata, T. Suzuki, D. Oikawa, M. Takeuchi & K. Kohno: J. Cell Biol., 179, 75 (2007).図2図2■小胞体ストレスに応じたIre1の集合では,GFP標識を付加したIre1(Ire1-GFP)を発現する出芽酵母を蛍光顕微鏡にて観察し,その細胞内分布を調べた結果を示す.ストレスがない状態では,Ire1は小胞体全体に広がっており,二重のリングのような分布に見える(図2A図2■小胞体ストレスに応じたIre1の集合).なお,出芽酵母の小胞体は,動植物のものに比して単純な形態であり,外側の小胞体は細胞表層の直下に存在しており,内側の小胞体は核を覆う核膜である.一方,図2B図2■小胞体ストレスに応じたIre1の集合では,培地にジチオスレートール(DTT)を加えることにより,小胞体ストレスを引き起こした.小胞体におけるタンパク質折り畳みはジスルフィド結合を伴うことが多く,DTTによるジスルフィド結合の切断は強力な小胞体ストレスとなる.そして,この条件下では,Ire1-GFPは集合し,ドット状の局在を示す.Ire1が多量体を形成するのは,小胞体側ドメインが多量体する能力を有するからである.そして,サイトゾル側ドメインは多量体状態で強いRNase活性を発揮することが,構造生物学的解析によって明らかとなっている(9)9) A. V. Korennykh, P. F. Egea, A. A. Korostelev, J. Finer-Moore, C. Zhang, K. M. Shokat, R. M. Stroud & P. Walter: Nature, 457, 687 (2009).

図2■小胞体ストレスに応じたIre1の集合

GFP標識Ire1を発現する出芽酵母細胞を蛍光顕微鏡観察に供した15)15) Y. Ishiwata-Kimata, Y. H. Yamamoto, K. Takizawa, K. Kohno & Y. Kimata: Cell Struct. Funct., 38, 135 (2013).

どのような仕組みによって,Ire1の多量体化や活性化が調節されているのだろうか?出芽酵母Ire1の小胞体内領域は,2カ所の折り畳みが緩い部位(天然変性部位)を有しており,非ストレス条件下では,そのうち1カ所に小胞体内分子シャペロンBiPが結合して,Ire1のホモ会合を妨げている(10)10) Y. Kimata & K. Kohno: Curr. Opin. Cell Biol., 23, 135 (2011).図3図3■出芽酵母細胞内で小胞体ストレスに応じてIre1が活性化するメカニズム).また,N末端側の天然変性部位も,別な仕組みにより,Ire1のホモ会合と活性化を妨げている(11)11) R. Mathuranyanon, T. Tsukamoto, A. Takeuchi, Y. Ishiwata-Kimata, Y. Tsuchiya, K. Kohno & Y. Kimata: J. Cell Sci., 128, 1762 (2015)..そして,小胞体ストレスに応じてBiPはIre1から解離し,Ire1はホモ会合(おそらく,2量体を形成)する(10)10) Y. Kimata & K. Kohno: Curr. Opin. Cell Biol., 23, 135 (2011).図3図3■出芽酵母細胞内で小胞体ストレスに応じてIre1が活性化するメカニズム).BiPがIre1から解離する仕組みについては,動物Ire1を用いた生化学的研究が進んでおり,小胞体ストレスに応じて生じた折り畳み不全タンパク質にBiPが会合するためであることがわかっている.しかし,Ire1と折り畳み不全タンパク質がBiPとの結合を巡って競合しているのか(すなわち,Ire1と折り畳み不全タンパク質は,BiPの分子内の同じ部位に捕捉される),あるいは,異なるシナリオが存在するのかについては,議論は決着していない(12, 13)12) C. J. Adams, M. C. Kopp, N. Larburu, P. R. Nowak & M. M. U. Ali: Front. Mol. Biosci., 6, 11 (2019).13) N. Amin-Wetzel, L. Neidhardt, Y. Yan, M. P. Mayer & D. Ron: eLife, 8, e50793 (2019).

図3■出芽酵母細胞内で小胞体ストレスに応じてIre1が活性化するメカニズム

非ストレス状態では,BiPがIre1に会合し,また,N末天然変性部位は分子内で阻害的に作用し(破線),Ire1はホモ会合していない.小胞体ストレス状態では,BiPはIre1から解離し,Ire1はホモ2量体化する(弱い活性化状態).さらに,Ire1ホモ2量体は変性タンパク質を直接的に捕捉することによって多量体化する(強い活性化状態).

なお,上述のように,Ire1が完全に活性化するためには,さらなる多量体化が進む必要がある.そのメカニズムとしては,2量体化状態のIre1小胞体内領域に折り畳み不全タンパク質が直接的に会合し,Ire1の多量体化を引き起こすという説が有力である(8, 14)8) Y. Kimata, Y. Ishiwata-Kimata, T. Ito, A. Hirata, T. Suzuki, D. Oikawa, M. Takeuchi & K. Kohno: J. Cell Biol., 179, 75 (2007).14) B. M. Gardner & P. Walter: Science, 333, 1891 (2011).図3図3■出芽酵母細胞内で小胞体ストレスに応じてIre1が活性化するメカニズム).また,Ire1は大きな多量体を作る際に,細胞内のアクチン線維を利用している可能性が高い(15)15) Y. Ishiwata-Kimata, Y. H. Yamamoto, K. Takizawa, K. Kohno & Y. Kimata: Cell Struct. Funct., 38, 135 (2013).

Ire1のサイトゾル側領域は,RNase活性のほかに,Ser/Thrプロテインキナーゼとしての活性を有する.しかし,少なくとも出芽酵母については,Ire1が他のタンパク質をリン酸化するという報告はない.Ire1はホモ会合するとトランス自己リン酸化を引き起こし(隣接するIre1分子をリン酸化),それがRNaseとしての活性化に向けた1ステップとなる.

一方,次章でも述べるように,過度の小胞体ストレス応答は出芽酵母細胞にとって有害である.これまで記したような多重の活性制御システムがIre1に存在するのは,小胞体ストレスの程度に応じて適正なレベルと時間で小胞体ストレス応答を引き起こし,かつ,不要な小胞体ストレス応答を抑えるという意義があるのだろう.小胞体ストレス状態からの回復期には,Ire1は脱リン酸され,また,BiPがIre1に再結合し,速やかに小胞体ストレス応答は抑えられる(16~19)16) D. Pincus, M. W. Chevalier, T. Aragon, E. van Anken, S. E. Vidal, H. El-Samad & P. Walter: PLoS Biol., 8, e1000415 (2010).17) C. Rubio, D. Pincus, A. Korennykh, S. Schuck, H. El-Samad & P. Walter: J. Cell Biol., 193, 171 (2011).18) A. Chawla, S. Chakrabarti, G. Ghosh & M. Niwa: J. Cell Biol., 193, 41 (2011).19) Y. Ishiwata-Kimata, T. Promlek, K. Kohno & Y. Kimata: Genes Cells, 18, 288 (2013).

Hac1の制御と機能

図4図4■出芽酵母HAC1 mRNAの構造と働きに出芽酵母HAC1 mRNAの構造を示す.Ire1は前駆体型HAC1 mRNAが有する2カ所のヘアピン構造部位を切断し,2つのエキソンはtRNAリガーゼであるRlg1によりつながれ,成熟型HAC1 mRNAが生じる(2)2) X. Xia: Int. J. Mol. Sci., 20, 2860 (2019)..前駆体型HAC1 mRNAの翻訳産物と成熟型HAC1 mRNAの翻訳産物は,C末端の配列が異なる.そして,前駆体型HAC1 mRNAの翻訳産物量を極めて低く抑える,すなわち,Ire1が機能していない場合には小胞体ストレス応答を引き起こさない仕組みが存在している(図4A図4■出芽酵母HAC1 mRNAの構造と働き).第一に,前駆体型HAC1 mRNAでは,5′-UTRとイントロンが分子内でアニーリングしており,翻訳が抑えられている(2)2) X. Xia: Int. J. Mol. Sci., 20, 2860 (2019)..第二に,前駆体型HAC1 mRNAの翻訳産物は,ユビキチン–プロテアソーム系により速やかに分解される(20)20) R. Di Santo, S. Aboulhouda & D. E. Weinberg: eLife, 5, e20069 (2016)..よって,成熟型HAC1 mRNAからのみ翻訳産物が生じ,それは転写因子として働く(以下,Hac1と呼ぶ;図4B図4■出芽酵母HAC1 mRNAの構造と働き).

図4■出芽酵母HAC1 mRNAの構造と働き

(A)前駆体HAC1 mRNAは,5′-UTRとイントロンとの分子内アニーリングにより,翻訳が抑えられている.また,前駆体HAC1 mRNAの翻訳産物は,ユビキチン–プロテアソーム系によって迅速に分解される.なお,小胞体ストレスに応じて活性化したIre1は,前駆体型HAC1 mRNAの2カ所のヘアピン構造部位を切断することにより,そのスプライシングを進める.(B)成熟型HAC1 mRNAは転写因子タンパク質へと翻訳される.

一方,前駆体型HAC1 mRNAは,効率よくIre1の標的となるための構造も有している.小胞体ストレスに応じてIre1が多量体化を形成してドット状の分布を示すと,前駆体型HAC1 mRNAは自身の3′-UTR配列依存的にその部位に集まる(21)21) E. van Anken, D. Pincus, S. Coyle, T. Aragon, C. Osman, F. Lari, S. Gomez Puerta, A. V. Korennykh & P. Walter: eLife, 3, e05031 (2014).

ゲノムワイドなトランスクリプトーム解析により,Ire1およびHAC1依存的な小胞体ストレス応答は,数百種の遺伝子の発現に影響を与えることが明らかとなっている(22, 23)22) K. J. Travers, C. K. Patil, L. Wodicka, D. J. Lockhart, J. S. Weissman & P. Walter: Cell, 101, 249 (2000).23) Y. Kimata, Y. Ishiwata-Kimata, S. Yamada & K. Kohno: Genes Cells, 11, 59 (2006)..まず,小胞体分子シャペロンや小胞体内在性のタンパク質修飾酵素のほか,小胞体を経たタンパク質細胞内輸送にかかわる因子の発現などがHac1により誘導される.また,小胞体に蓄積した折り畳み不全タンパク質は,サイトゾルに送り返され,ユビキチン–プロテアソーム系により分解されることが知られている.そして,そのための因子もHac1によって発現量が増大し,小胞体ストレス条件下での折り畳み不全タンパク質の処理が進む(22)22) K. J. Travers, C. K. Patil, L. Wodicka, D. J. Lockhart, J. S. Weissman & P. Walter: Cell, 101, 249 (2000)..さらには,生体膜を構成する脂質を合成する酵素も誘導され,その結果,小胞体の表面積が増大する.すなわち,小胞体ストレス応答により,小胞体のサイズも機能も上昇するのである.「Ire1遺伝子やHAC1遺伝子に変異を導入し,過度に小胞体ストレス応答を引き起こした場合に,細胞がダメージを受ける」ことは広く知られており(17, 18)17) C. Rubio, D. Pincus, A. Korennykh, S. Schuck, H. El-Samad & P. Walter: J. Cell Biol., 193, 171 (2011).18) A. Chawla, S. Chakrabarti, G. Ghosh & M. Niwa: J. Cell Biol., 193, 41 (2011).,それはHac1の標的遺伝子の多さに起因しているのかもしれない.なお,Hac1は,質的に異なる2つのDNAモチーフを認識するようである(24)24) P. M. Fordyce, D. Pincus, P. Kimmig, C. S. Nelson, H. El-Samad, P. Walter & J. L. DeRisi: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 109, E3084 (2012).

一方,Hac1によって発現量が低下する遺伝子も存在する.それらの多くは細胞表層に運ばれるタンパク質をコードしており,その発現量の減少は小胞体ストレスの低減につながると考えられる(23)23) Y. Kimata, Y. Ishiwata-Kimata, S. Yamada & K. Kohno: Genes Cells, 11, 59 (2006)..また,Van Dalfsenら(2018年)によると,Hac1が存在すると転写開始点が上流にずれる遺伝子も存在する(25)25) K. M. Van Dalfsen, S. Hodapp, A. Keskin, G. M. Otto, C. A. Berdan, A. Higdon, T. Cheunkarndee, D. K. Nomura, M. Jovanovic & G. A. Brar: Dev. Cell, 46, 219 (2018)..その場合,本来のORFの上流に位置する別のORFが読まれることになり,遺伝子産物タンパク質の量が減少する.

さまざまな局面での出芽酵母の小胞体ストレス応答

DTTや抗生物質ツニカマイシンは強力な小胞体ストレスとなる.実験室では,培地にDTTやツニカマイシンを加えることにより,あるいは,変異型タンパク質を大量発現させ変性状態で小胞体に蓄積させることにより,小胞体ストレス応答を引き起こす.では,他のどのような条件で,小胞体ストレス応答が起きるのだろうか?

Ire1遺伝子が破壊された出芽酵母株は,通常の培地での非ストレス条件下においても,野生型細胞に比してわずかに増殖が遅い.非ストレス条件下でも微弱ながら小胞体ストレス応答が起きており,ある程度の小胞体の機能が維持されているのであろう.Bicknellら(2007)によると,このような“house keeping”な小胞体ストレス応答により,細胞の増殖や分裂に不可欠のタンパク質の折り畳みや細胞内輸送が進み,細胞分裂が助けられている(26)26) A. A. Bicknell, A. Babour, C. M. Federovitch & M. Niwa: J. Cell Biol., 177, 1017 (2007).

また,出芽酵母はエタノール発酵を行う生物として,古くからさまざまな形で産業利用されており,そのような局面での小胞体ストレス応答も,近年の研究により明らかとなってきた.エタノールはタンパク質の折り畳みを阻害し,小胞体ストレス応答を引き起こす(27)27) K. Miyagawa, Y. Ishiwata-Kimata, K. Kohno & Y. Kimata: Biosci. Biotechnol. Biochem., 78, 1389 (2014)..そして,Ire1遺伝子やHAC1遺伝子を破壊すると,細胞のエタノールへの感受性が増大する.また,木質系バイオマスからバイオエタノールを製造する際に発生する酢酸も,小胞体におけるタンパク質折り畳みを阻害し,小胞体ストレスの原因となる(28)28) N. Kawazoe, Y. Kimata & S. Izawa: Front. Microbiol., 8, 1192 (2017).

なお,タンパク質の分泌量が増加する際に小胞体ストレス応答が引き起こされるのは,出芽酵母に限ったことではない.たとえば,多くの真菌類において,宿主への感染時に小胞体ストレス応答が寄与することが示されている(29)29) T. Miyazaki & S. Kohno: Virulence, 5, 365 (2014).

一方,Ire1を活性化する小胞体ストレスは,必ずしも小胞体でのタンパク質折り畳み不全と同義ではないことも明らかとなってきた.イノシトールは膜脂質の重要な材料であり,その欠乏も出芽酵母では小胞体ストレス応答を引き起こす.そして,Ire1遺伝子やHAC1遺伝子の破壊株はイノシトールを欠く培地での増速が著しく悪い.ちなみに,そもそもIre1遺伝子はイノシトール要求性変異の原因遺伝子として発見され,それにちなんで命名されている(Inositol Requiring).また,膜脂質の代謝にかかわる酵素の欠損も小胞体ストレスとなる.すなわち,膜脂質にかかわるさまざま異常がIre1を活性化するのである.Hac1はイノシトールや膜脂質の生合成にかかわる酵素の発現も誘導するので,この応答は合理的であると言えよう.なお,この際のIre1の活性化には,小胞体内への折り畳み不全タンパク質の蓄積は必要ない(30)30) T. Promlek, Y. Ishiwata-Kimata, M. Shido, M. Sakuramoto, K. Kohno & Y. Kimata: Mol. Biol. Cell, 22, 3520 (2011)..Halbleibら(2017)によると,Ire1の膜貫通領域は特殊な構造をとっており,小胞体膜の脂質構成の変化に応じて,Ire1は自己会合することができる(31)31) K. Halbleib, K. Pesek, R. Covino, H. F. Hofbauer, D. Wunnicke, I. Hanelt, G. Hummer & R. Ernst: Mol. Cell, 67, 673 (2017).

Diauxic shiftは出芽酵母が行う興味深い生命現象である.発酵可能な糖が豊富な条件下では,ミトコンドリアでの呼吸は低調であり,細胞は主として解糖によってエネルギーを得て,発酵産物が蓄積する.一方,細胞の増殖に伴い糖が枯渇すると,細胞の状態が切り替わり,発酵産物を呼吸によって資化してエネルギーを得るモードとなる.われわれは,Diauxic shiftの際に一過的に小胞体ストレス応答が引き起こされることを見いだした(32)32) D. M. Tran, Y. Ishiwata-Kimata, T. C. Mai, M. Kubo & Y. Kimata: Sci. Rep., 9, 12780 (2019)..その際にIre1が活性化するメカニズムは不明であるが,タンパク質の折り畳み不全は伴わない.なお,この現象はDiauxic shiftに伴うミトコンドリアの伸展に寄与する.ミトコンドリアも膜に囲まれたオルガネラであり,ミトコンドリアを伸ばすために必要な膜脂質が,小胞体ストレス応答によって増産されるのかもしれない.

おわりに

出芽酵母をモデルとして進展した小胞体ストレス応答についての研究は,他の生物種にも波及し,現在では,多くの真核生物における小胞体ストレス応答が解明されている.動物や植物では,Ire1以外の小胞体ストレスセンサーも見いだされており,小胞体ストレス応答経路は出芽酵母のものよりも複雑なようだ(3, 4)3) 金本聡自,今泉和則:生化学,90,51(2018).4) G. M. Nawkar, E. S. Lee, R. M. Shelake, J. H. Park, S. W. Ryu, C. H. Kang & S. Y. Lee: Front. Plant Sci., 9, 214 (2018)..哺乳動物の小胞体ストレス応答が注目されている理由の一つは,それが多くの疾患に関係するからである(3)3) 金本聡自,今泉和則:生化学,90,51(2018)..Ire1の活性を調節する薬剤を用いた疾患の予防や治療も,遠い未来のことではないかもしれない.

しかし一方,出芽酵母の小胞体ストレス応答についても,多くの興味深い課題が残されている.第一に,出芽酵母ではどのような局面で小胞体ストレス応答が起き,その際のIre1活性化はどのようなメカニズムによるのか,まだ完全には解明されていないであろう.たとえば,前項で記したDiauxic shift時の一過的なIre1活性化については,呼吸活性化に伴い生じる活性酸素種の関与が示唆されているものの,そのプロセスは不明である.第二は,Ire1-HAC1依存的な小胞体ストレス応答経路と他のストレス応答機構とのかかわりである.強い小胞体ストレス条件下では細胞は大きくダメージを受け,当然,他の細胞内シグナル伝達経路も活性化する.それらと小胞体ストレス応答がどのように絡み合って細胞の恒常性を維持しているのかを知るためには,広い視点で「細胞全体を観る」研究アプローチが必要となろう.第三は,小胞体ストレス応答を人為的に操作し,さまざまな刺激に強い耐性を示す出芽酵母を作出することである.前項で記したことを鑑みると,産業利用の多くの局面において出芽酵母は小胞体ストレス状態になっている可能性が高く,ストレスに負けない「元気な」酵母は有用性が高いと期待される.

Reference

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