Kagaku to Seibutsu 58(8): 461-468 (2020)
解説
宿主特異性がもたらす根粒共生の多様性マメ科植物と根粒菌のさまざまな共生相互作用因子
Diversity of Symbiotic Nodulation by Host Specificity: Various Symbiotic Factors between Legume and Rhizobia
Published: 2020-08-01
マメ科植物と土壌細菌の一種である根粒菌は,双方が保有する因子を介した分子間相互作用により,宿主植物に根粒を形成することで,互いが有益となる相利共生を成立させる.この共生相互作用は,宿主範囲が限定された宿主特異性が存在し,特定の共生相手との間のみで行われる.この宿主特異性は狭小であり,双方間の“好み”を決定するメカニズムは多岐にわたっている.そこで本稿では,この根粒共生相互作用における共生因子を紹介するとともに,宿主特異性の分子機構の一端を具体的な例を挙げながら植物側と根粒菌側の双方から解説する.
Key words: マメ科植物; 根粒菌; 根粒; 宿主特異性; 共生相互作用
© 2020 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2020 公益社団法人日本農芸化学会
外を歩けば堤防沿いに生えるシロツメクサやカラスノエンドウなど,さまざまなマメ科植物を簡単に見つけることができる.普段何気なく見ているこれらのマメ科植物の『根』に注目すると,必ずと言って良いほど小さなコブ状の組織を観察することができ,われわれはこの特徴的な組織を根粒と呼んでいる(図1図1■マメ科植物と根粒菌の共生相互作用によって形成される根粒).読者の皆さんには,外を歩いているだけでは見ることができない植物の根や根粒を散歩がてらに観察してもらいたい.図1図1■マメ科植物と根粒菌の共生相互作用によって形成される根粒に示したように,根粒の中には無数の根粒菌が生育し,この根粒菌が大気中の窒素をアンモニアに固定して植物へ提供する.一方で宿主となる植物は,根粒菌が必要とするエネルギー源を光合成によって得られた産物で供給する.このように両者は,窒素(N)と炭素(C)の交換により相利共生が成立する.
(A)発芽したマメ科植物に親和性のある根粒菌を接種すると1~2週間ほどで根粒が観察される.赤矢印は,根粒形成部位を示す.(B)ミヤコグサの根粒.(C)蛍光DsRedで標識した根粒菌を接種時の根粒切片.根粒細胞内に無数の根粒菌が生存していることが観察される.(D)蛍光DsRedで標識した根粒菌の感染糸を示す.
窒素は,植物が生育するのに必須なDNA(RNA)やアミノ酸,そして光合成に必須なクロロフィルを構成する元素の一つである.通常の植物は,窒素源をアンモニウムイオンや硝酸イオンの形態で土壌から吸収することを可能としている一方,大気の約80%を占める窒素分子(N2)は三重結合で安定した構造を保つためこれを利用することができない.しかしながら,マメ科植物は,共生微生物である根粒菌を介してこの窒素分子を反応性が高い窒素化合物に固定して利用することを可能とする.
根粒共生の過程では,宿主植物と根粒菌との間でさまざまな因子を介した相互作用が行われ,これらの相互作用をすべてクリアすることで共生関係が成立する.すなわち,さまざまな相互作用の結果が宿主特異性に直結していると言える.次の項からは,マメ科植物と根粒菌との相互作用の分子メカニズムや,これに伴う宿主特異性の機構を共生過程の順に追って説明する.このような相互作用の解説では,宿主となる植物側の話や根粒菌側の話,そして双方の話など,視点が複数にわかれてしまうので,読者には混同しないように注意していただきたい.
被子植物の一部に分類されるマメ科植物は,草本から木本まで幅広く751属19,500種で形成された一大群衆であり,これらの多くは先に挙げたように根粒を形成している(1)1) Phylogeny, Legume Group, Working: Taxon, 62, 217 (2013)..一方,共生相互作用を可能とする土壌細菌の根粒菌は,Rhizobium属,Bradyrhizobium属,Mesorhizobium属,Sinorhizobium(Ensifer)属, Azorhizobium属,Methylobacterium属,Burkholderia属,やCupriavidus属などが分離されている.このように,多属のマメ科植物と根粒菌が存在するなかで,分子間相互作用を行いながら根粒形成を可能とするペアは限られている(2)2) M. Andrews & M. E. Andrews: Int. J. Mol. Sci., 18, 705 (2017)..たとえば表1表1■マメ科植物に共生可能な根粒菌にも示したように,ダイズ(Glycine max),アズキ(Vigna angularis)やシロツメクサ(Trifolium repens)などは,Bradyrhizobium属,Sinorhizobium(Ensifer)属やRhizobium属と,エンドウ(Pisum sativum)は, Rhizobium属と,タルウマゴヤシ(Medicago truncatula)は, Sinorhizobium(Ensifer)属と,ミヤコグサ(Lotus japonicus)は,Mesorhizobium属と,そして,オジギソウ(Mimosa pudica)は, Bradyrhizobium属,Burkholderia属,Cupriavidus属やRhizobium属などと共生することが可能である.このように,マメ科植物が共生することを可能にする根粒菌は限られている.相互作用の研究で面白い点は,視点を変えると見え方が異なることである(図2図2■根粒共生の研究を行ううえでの視点の違い).上記では,植物側から見た共生パートナーを列挙したが,根粒菌側からの視点になるとBradyrhizobium属は,ダイズ,アズキ,シロツメクサやオジギソウと,Rhizobium属は,これらに加えてエンドウとも共生することができる.
植物 | 根粒菌 |
---|---|
Glycine max(ダイズ) | Bradyrhizobium, Sinorhizobium, Rhizobium |
Pisum sativum(エンドウ) | Rhizobium |
Cicer arietinum(ヒヨコマメ) | Mesorhizobium |
Vigna angularis(アズキ) | Bradyrhizobium, Sinorhizobium, Rhizobium |
Lupinus angustifolius(ルピナス) | Bradyrhizobium |
Lathyrus odoratus(スイートピー) | Rhizobium |
Trifolium repens(シロツメクサ) | Bradyrhizobium, Sinorhizobium, Rhizobium |
Lotus japonicus(ミヤコグサ) | Mesorhizobium |
Medicago truncatula(タルウマゴヤシ) | Sinorhizobium |
Mimosa pudica(オジギソウ) | Bradyrhizobium, Burkholderia, Cupriavidus, Rhizobium |
Acacia mearnsii(アカシア) | Sinorhizobium |
Robinia pseudoacacia(ニセアカシア) | Mesorhizobium, Rhizobium |
Albizia julibrissin(ネムノキ) | Rhizobium |
Andrews et al.: Inter. J. Mol. Sci.(2017)より一部抜粋し改変 |
読者には一つだけ注意してもらいたいことがあるが,すべてのマメ科植物と根粒菌との間で宿主範囲が調査されているわけではなく,その多くが,“自然界に生えているマメ科植物の根粒から根粒菌を分離したところ,これらの属の根粒菌と共生していた”ことで,その宿主範囲が示されている.また,同属同種の間でも異なる宿主特異性を示す場合も多数報告されている.すなわち表1表1■マメ科植物に共生可能な根粒菌や図2図2■根粒共生の研究を行ううえでの視点の違いで挙げた宿主特異性の範囲は,正確な言葉を使えば宿主親和性が高い関係であると言える.
マメ科植物と根粒菌との初期相互作用は,これまで多くの研究者によって分子メカニズムが明らかとされてきた.まず,宿主植物が分泌するフェノール化合物であるフラボノイドに根粒菌が応答することから共生相互作用が開始される.根粒菌が応答することができるマメ科植物特有のフラボノイドは多数同定され,根粒菌がこれらを認識できるか否かによって最初の宿主特異性が決定する.実験的な証明は不十分であるが,根粒菌は,これらのフラボノイドを転写因子であるNodDによって認識する.これは,nodDの一塩基変異によって宿主範囲が変化することや,Rhizobium sp. NGR234のnodDをRhizobium leguminosarumに導入すると宿主範囲が広がることからも,NodDとフラボノイドが直接相互作用することを示唆している(3)3) X. Perret, C. Staehelin & W. J. Broughton: Microbiol. Mol. Biol. Rev., 64, 180 (2000)..そして,NodDタンパク質とフラボノイドの複合体は,nod遺伝子群のプロモーター領域内に存在するnodボックス配列と結合し,nod遺伝子群の発現を誘導する.これによって合成・分泌されたNod因子は,根粒菌が特異的に有する共生因子かつ,宿主特異性因子であり,N-アセチル-D-グルコサミンが3~6量体で結合した骨格構造に脂肪鎖の修飾や,メチル基やアセチル基などさまざまな修飾基が付与されることで多様性が担保されている.Nod因子の宿主特異性を示す例として,R. leguminosarum bv. trifoliiのnodE変異株は脂肪鎖の修飾が変化し,宿主であるシロツメクサとの共生が不全になる一方,エンドウやヤハズエンドウ(Vicia satica)との共生が促進される.また,Sinorhizobium melilotiのnodEFGHPQ遺伝子クラスターをR. leguminosarumに導入することで,通常のR. leguminosarumでは共生不全を引き起こすアルファルファ(Medicago sativa)との共生を可能にする(4)4) D. Wang, S. Yang, F. Tang & H. Zhu: Cell. Microbiol., 14, 334 (2012)..このように,Nod因子に付与されたさまざまな修飾基が宿主特異性に重要であることが示されている.しかしながら,in vivoにおいて1種の根粒菌が合成するNod因子は数十種類に及ぶことが明らかとなっていることや(5, 6)5) P. Rodpothong, J. T. Sullivan, K. Songsrirote, D. Sumpton, K. W. J. T. Cheung, J. Thomas-Oates, S. Radutoiu, J. Stougaard & C. W. Ronson: Mol. Plant Microbe Interact., 22, 1546 (2009).6) S. Acosta-Jurado, D. N. Rodríguez-Navarro, Y. Kawaharada, M. A. Rodríguez-Carvajal, A. Gil-Serrano, M. E. Soria-Díaz, F. Pérez-Montaño, J. Fernández-Perea, Y. Niu, C. Alias-Villegas et al.: Environ. Microbiol., 21, 1718 (2019).,実際の共生相互作用(in planta)で分泌されるNod因子を直接的に同定する手法が見いだされていないことなどから,共生に必須なNod因子の構造や宿主特異性に関与するNod因子の特定には至っていない.一方で宿主植物側は,これらのNod因子をNFR1(LYK3)やNFR5(NFP)受容体によって受容・認識している(7)7) S. Kelly, S. Radutoiu & J. Stougaard: Curr. Opin. Plant Biol., 39, 152 (2017)..さまざまな研究から,NFR1(LYK3)やNFR5(NFP)受容体のLysMドメインがNod因子の骨格構造を直接認識することを容易に想像させるが(8, 9)8) T. Liu, Z. Liu, C. Song, Y. Hu, Z. Han, J. She, G. Fan, J. Wang, C. Jin, J. Chang et al.: Science, 336, 1160 (2012).9) S. Radutoiu, L. H. Madsen, E. B. Madsen, A. Jurkiewicz, E. Fukai, E. M. H. Quistgaard, A. S. Albrektsen, E. K. James, S. Thirup & J. Stougaard: EMBO J., 26, 3923 (2007).,これらの受容体がNod因子の修飾基をどのように認識・識別し,宿主特異性に関与しているのか,または,宿主特異性を認識・識別する他の受容メカニズムが存在するのかなど不明な点が多い.
多くの根粒菌は,LysR型の転写因子であるnodD遺伝子を2~5つ保有し,それぞれのNodDが認識できるフラボノイドが異なっている.また,活性化されたNodDがアクティベーターとして機能するだけではなく,リプレッサーとしても機能している(3)3) X. Perret, C. Staehelin & W. J. Broughton: Microbiol. Mol. Biol. Rev., 64, 180 (2000)..Sinorhizobium fredii HH103のnodD2やnolR(NodDと同様な転写因子)変異株は,野生株と比較して多量のNod因子を合成・分泌する.また,S. fredii nodD2やnolR変異株は,宿主範囲が変化するだけではなく,宿主植物への侵入形態も変化させる(6)6) S. Acosta-Jurado, D. N. Rodríguez-Navarro, Y. Kawaharada, M. A. Rodríguez-Carvajal, A. Gil-Serrano, M. E. Soria-Díaz, F. Pérez-Montaño, J. Fernández-Perea, Y. Niu, C. Alias-Villegas et al.: Environ. Microbiol., 21, 1718 (2019).(根粒菌が根粒内部への侵入する方法については後の項で説明する).
NodDは,Nod因子を合成するnod遺伝子群の発現を誘導するだけではなく,TtsI転写因子を介して3型分泌装置(一部の根粒菌は4型分泌装置)も誘導している.これらの分泌装置から分泌されたエフェクターは,根粒形成の促進に機能するだけではなく,病原菌と同様に宿主植物の免疫系を抑制させることで,宿主植物の共生機構を制御している(10)10) H. Miwa & S. Okazaki: Curr. Opin. Plant Biol., 38, 148 (2017)..このようなことから,複数あるNodD転写因子は,宿主範囲を決定するための根粒菌側の重要なマスターキーとなっている.
フラボノイドやNod因子を介して共生相互作用が始動すると,次に,根粒の器官形成や根粒菌の根粒内部への侵入が開始される.その後,根粒菌が根粒内の宿主細胞内にエンドサイトーシス様に取り込まれることによって根粒共生が確立していく.このように,フラボノイドやNod因子は,初期の相互作用因子として機能しているが,近年の研究から共生過程の中後期にも重要な機能を果たしていることが明らかとなっている.たとえば,宿主植物は,Nod因子を認識すると1,000以上の遺伝子の発現を誘導するが,この中にフラボノイド合成の遺伝子が含まれている.さらに,これらの遺伝子の発現部位を観察すると,根粒菌との相互作用が行われる根の一部で局所的に発現が誘導されている.このことから,宿主植物が根粒菌との共生過程の途中で合成する共生特異的な“感染フラボノイド”が示唆されている(11, 12)11) C. W. Liu & J. D. Murray: Plants, 5, 4045 (2016).12) S. Kelly, J. T. Sullivan, Y. Kawaharada, S. Radutoiu, C. W. Ronson & J. Stougaard: Environ. Microbiol., 20, 97 (2018)..2つ目として,Nod因子の骨格形成に必須なnodA遺伝子の発現をモニタリングすると,根粒共生の初期だけに限らず,根粒内部の根粒菌感染細胞においても強く発現誘導が確認されている(12)12) S. Kelly, J. T. Sullivan, Y. Kawaharada, S. Radutoiu, C. W. Ronson & J. Stougaard: Environ. Microbiol., 20, 97 (2018)..このようなことから,共生初期以降も根粒菌がNod因子を合成・分泌していることが予想される.これを示唆するように,タルウマゴヤシではNod因子の受容体であるLYK3やNFP受容体の細胞局在が根粒内部で観察されていることや,ミヤコグサではNFR1受容体が根粒形成の後期にも重要であることが示されている(13, 14)13) S. Moling, A. Pietraszewska-Bogiel, M. Postma, E. Fedorova, M. A. Hink, E. Limpens, T. W. J. Gadell & T. Bisseling: Plant Cell, 26, 4188 (2014).14) T. Hayashi, Y. Shimoda, S. Sato, S. Tabata, H. Imaizumi-Anraku & M. Hayashi: Plant J., 77, 146 (2014)..さらに興味深いことに,タルウマゴヤシでは,Nod因子の加水分解酵素遺伝子(MtMfh1)の変異体が異常な根粒形成を示すことも報告されている.このような断片的な事例をつなぎ合わせるだけでもフラボノイドやNod因子が,根粒形成初期以外でも共生過程に重要な機能を果たしていることが察せられる.今後は,これらの共生過程のなかで合成されるフラボノイドやNod因子の構造が決定されることを期待したい.また,これらの因子が宿主特異性に関与するのかなども興味深い点である.
根粒菌を含むグラム陰性細菌の細胞は,さまざまな多糖化合物や糖タンパク質によって覆われている.主なものは細胞外に分泌される分泌多糖(Exopolysaccharide; EPS),細胞内に脂質部分が埋め込まれた外膜多糖(Lipopolysaccharide; LPS)や莢膜多糖(Capsular polysaccharide; CPS or KPS),そして,外膜と内膜間のペリムラズムスペースに局在するペリプラズムグルカン,またはサイクリックグルカン(periplasmic glucan; OPG, cyclic β-glucan; CβG)などが挙げられる.根粒菌が保持するこれらの細胞多糖は,宿主植物の防御応答を抑制するほか,宿主植物との共生相互作用に必須なことが示されている(15)15) V. D. Via, M. E. Zanetti & F. Blanco: Plant Signal. Behav., 11, 1 (2016)..LPSは細菌の生育に必須な構成要素のため,LPSを完全に欠損させた変異株を作成することは不可能なものの,異なるLPSを合成させた変異株を用いて宿主植物との共生能を調べると,宿主範囲が変化することが示されている(16)16) G. R. O. Campbell, L. A. Sharypova, H. Scheidle, K. M. Jones, K. Niehaus, A. Becker & G. C. Walker: J. Bacteriol., 185, 3853 (2003)..また,細胞外に分泌される高分子EPSは,バイオフィルムの構成に重要な機能を果たす一方,低分子EPSは,根粒菌が宿主植物内,すなわち根粒内部への侵入に重要な機能を果たしている.共生相互作用が開始されると根粒菌は,根粒内部に侵入する.この侵入方法は大きく2つに分かれ,一つは6~7割ほどの植物で観察される宿主植物の根毛先端からチューブ状の感染糸を形成し,この中を根粒菌が細胞分裂をしながら侵入する方法であり,他方は側根基部の割れ目(crack entry)や表皮細胞間の隙間から侵入する機構を保持している(2)2) M. Andrews & M. E. Andrews: Int. J. Mol. Sci., 18, 705 (2017)..S. melilotiのEPS合成能欠損変異株では,感染糸形成や伸長が抑制されることで宿主植物への侵入が阻害される(15)15) V. D. Via, M. E. Zanetti & F. Blanco: Plant Signal. Behav., 11, 1 (2016)..また,Mesorhizobium lotiのEPS合成能欠損変異株では,根粒形成を誘導するものの異常な感染糸を形成する(図3図3■EPSとEPR3受容体を介した共生制御).このように根粒菌のEPSは,根粒菌が宿主植物への侵入に重要な役割を果たしている.EPSに対する宿主植物側の受容メカニズムの解析も行われ,筆者らによってEPR3受容体がEPSを直接認識して感染糸形成を誘導することが示されている(17~19)17) Y. Kawaharada, M. W. Nielsen, S. Kelly, E. K. James, K. R. Andersen, S. R. Rasmussen, W. Füchtbauer, L. H. Madsen, A. B. Heckmann, S. Radutoiu et al.: Nat. Commun., 8, 14534 (2017).18) Y. Kawaharada, S. Kelly, M. W. Nielsen, C. T. Hjuler, K. Gysel, A. Muszyński, R. W. Carlson, M. B. Thygesen, N. Sandal, M. H. Asmussen et al.: Nature, 523, 308 (2015).19) S. J. Kelly, A. Muszyński, Y. Kawaharada, A. M. Hubber, J. T. Sullivan, N. Sandal, R. W. Carlson, J. Stougaard & C. W. Ronson: Mol. Plant Microbe Interact., 26, 319 (2013).(図3図3■EPSとEPR3受容体を介した共生制御).また,EPSは宿主特異性にも寄与している.Simsekらは,S. melilotiの菌株間でタルウマゴヤシの野生系統A17とA20に対して異なる表現型をもつことを示し,この違いがEPSに修飾されたサクシニル基の有無に依存することを明らかにしている(20)20) S. Simsek, T. Ojanen-Reuhs, S. B. Stephens & B. L. Reuhs: J. Bacteriol., 189, 7733 (2007)..一方,宿主植物のEPR3受容体が,M. lotiのオクタ多糖のEPSと,EPS合成変異株であるexoU変異株のペンタ多糖の部分長EPSをそれぞれ認識・識別し,共生相互作用を正と負の双方向に制御していることなどから,EPS-EPR3受容体を介した宿主特異性が予想される.
上記で述べたNod因子,エフェクター,そして根粒菌の細胞多糖を介した宿主特異性以外にも複数のメカニズムがこれまで報告されている.2017年,Zhuらの研究グループはタルウマゴヤシのNCR(Nodule-specific Cysteine Rich)ペプチドをコードするNfs1やNfs2遺伝子が宿主特異性に関与することを突き止めた(21, 22)21) S. Yang, Q. Wang, E. Fedorova, J. Liu, Q. Qin, Q. Zheng, P. A. Price, H. Pan, D. Wang, J. S. Griffitts et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 114, 6848 (2017).22) Q. Wang, S. Yang, J. Liu, K. Terecskei, E. Abrahám, A. Gombár, A. Domonkos, A. Szucs, P. Körmöczi, T. Wang et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 114, 6854 (2017)..このNFS1やNFS2の活性型ペプチドを保有するタルウマゴヤシA17は,S. meliloti Rm41との間で共生不全を起こすものの,不活性型のNFS1やNFS2を保有するタルウマゴヤシDZA315.16は,S. meliloti Rm41との間でも共生を成立させることを可能とし,活性型NFS1やNFS2が根粒内のS. meliloti Rm41の細胞死を特異的に誘導することが示された.タルウマゴヤシが保有する複数のNCRペプチドは,共生特異的に生産されるシステインリッチな抗菌性ペプチドとして根粒菌のバクテロイド化に必須な機能を有していることが知られていたが(23)23) G. Maróti, J. A. Downie & É. Kondorosi: Curr. Opin. Plant Biol., 26, 57 (2015).,新たにNCRペプチドを介して宿主特異性が制御されることが証明された.楕円状の無限型根粒を形成するタルウマゴヤシやエンドウを含むIRLCクレードのマメ科植物は,NCRペプチドを保有する一方,球状の有限型根粒を形成するダイズやミヤコグサなどはNCRペプチドを保有していないことから(24)24) J. Montiel, A. Szucs, I. Z. Boboescu, V. D. Gherman, É. Kondorosi & A. Kereszt: Mol. Plant Microbe Interact., 29, 210 (2016).,これらのNCRペプチドを介した宿主特異性機構は,一部のマメ科植物が独自に獲得した機能であると考えられる.
ミヤコグサのアスパラギン酸ぺプチターゼをコードするApn1遺伝子に変異が挿入された変異体は,M. loti Tonoとの間で根粒形成不全を引き起こす一方,M. loti MAFF303099との間では,正常な根粒形成を示す根粒菌に依存した変異体として分離された(25)25) H. Yamaya-Ito, Y. Shimoda, T. Hakoyama, S. Sato, T. Kaneko, M. S. Hossain, S. Shibata, M. Kawaguchi, M. Hayashi, H. Kouchi et al.: Plant J., 93, 5 (2018)..この原因について下田らは,M. loti TonoとMAFF303099を用いた解析から,根粒菌の5型分泌システムのオートトランスポーターと分泌タンパク質が融合したDCA1が関与していることを突き止めた(26)26) Y. Shimoda, Y. Nishigaya, H. Yamaya-Ito, N. Inagaki, Y. Umehara, H. Hirakawa, S. Sato, T. Yamazaki & M. Hayashi: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 117, 1806 (2020)..興味深いことに,M. loti TonoとMAFF303099との間で,Dca1遺伝子は100%の相同性があるものの,両者間での発現量の違いが,この宿主特異性に寄与している.これらのことから,apn1変異体は,M. loti Tonoから分泌される多量のDCA1タンパク質を分解することができないために共生不全となり,M. loti MAFF303099は,DCA1タンパク質の分泌量が少ないためapn1変異体でも共生が成立すると結論づけられた.APN1とDCA1を介した宿主特異性が明らかとなったが,APN1を保持した宿主植物が自然界でどのように根粒菌との宿主特異性に機能するのか,宿主植物に対するDCA1分泌タンパク質の機能など,未知な部分が多く存在する.
このように,近縁の根粒菌や宿主植物間で異なる宿主範囲が観察される場合は,比較解析や遺伝学的な解析が容易となってくる.ほかにもS. meliloti Rm41に対してタルウマゴヤシの野生系統A20(共生成立)とF83005.5(共生不成立)の表現型の違いや,S. meliloti A145に対してタルウマゴヤシの野生系統Jemalong 6(共生成立)とDZA315.16(共生不成立)の違いを利用して遺伝的連鎖解析から原因遺伝子座の同定が行われている(27, 28)27) L. Tirichine, F. De Billy & T. Huguet: Plant Physiol., 123, 845 (2000).28) J. Liu, S. Yang, Q. Zheng & H. Zhu: BMC Plant Biol., 14, 1 (2014)..筆者らもミヤコグサの野生系統に対して異なる表現型を示す根粒菌をこれまでに複数分離し,宿主特異性に関する原因遺伝子の探索をQTL解析やゲノムワイド関連解析で進めている.
ダイズ(Glycine max(L.)Merr.)では,特定の根粒菌に対して根粒形成を抑制するRj遺伝子型が知られ,現在までに8種類のRj遺伝子型が示されている(29)29) M. Hayashi, Y. Saeki, M. Haga, K. Harada, H. Kouchi & Y. Umehara: Breed. Sci., 61, 544 (2011).(表2表2■Rj遺伝子型ダイズの根粒共生制御).Rj1とRj5やRj6は,Nod因子の受容体であるNFR1やNFR5受容体をコードする遺伝子であり,rj1遺伝型ダイズは数種のBradyrhizobium属とのみ共生が可能な狭域な宿主範囲であることが示されていた.そして2013年,岡崎らによってrj1遺伝子型ダイズやnfr1変異体ダイズに対しても根粒形成を誘導するBradyrhizobium elkanii USDA61の解析が行われ,この根粒形成は3型分泌装置に依存して誘導されることが明らかとなり,Nod因子やNFR1受容体を介さない新規な共生機構であることが示された(30)30) S. Okazaki, T. Kaneko, S. Sato & K. Saeki: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 110, 17131 (2013)..
Rj遺伝型 | 遺伝子または,タンパク質 | 表現型 | 対応する根粒菌の原因因子 |
---|---|---|---|
rj1 | Nfr1α | 数種の根粒菌のみ共生可能 | 3型分泌装置 |
rj5, rj6 | Nfr5α, Nfr5β | 根粒形成不可 | |
rj7 | Har1 | 根粒数の増加 | |
Rfg1 | TIR-NBS-LRR | S. fredii USDA257との共生不全 | NopPエフェクター |
Rj2 | TIR-NBS-LRR | B. diazoefficiens USDA122, Is-1との共生不全 | NopPエフェクター |
Rj3 | 不明 | B. elikanii USDA33との共生不全 | 不明 |
Rj4 | タウマチン様タンパク質 | B. elikanii USDA61, B. diazoefficiens Is-34との共生不全 | BEL2-5エフェクター |
Rj2/Rfg1遺伝子型ダイズは,Bradyrhizobium diazoefficiens USDA122, Is-1やS. fredii USDA257などとの間で共生不全を引き起こす宿主特異性が知られていた.Rj2/Rfg1は,病原菌に対する抵抗性Rタンパク質であるTIR-NBS-LRR遺伝子をコードすることから植物病原応答が根粒形成シグナルを抑制することで一部の根粒菌との共生不和合性を示す宿主特異性が生じると考えられた(31)31) S. Yang, F. Tang, M. Gao, H. B. Krishnan & H. Zhu: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 107, 18735 (2010)..そして近年,菅原らによって,B. diazoefficiens USDA122株の3型分泌エフェクターであるNopPがRj2/Rfg1遺伝子型に対して抑制的に機能することが明らかとなった(32)32) M. Sugawara, S. Takahashi, Y. Umehara, H. Iwano, H. Tsurumaru, H. Odake, Y. Suzuki, H. Kondo, Y. Konno, T. Yamakawa et al.: Nat. Commun., 9, 6 (2018)..
Rj4遺伝子型は,植物病原細菌に対する抵抗性因子であるタウマチン様タンパク質をコードし,B. elkanii USDA61株やB. diazoefficiens Is-34株との間で共生不和合性が確認されていた(33)33) F. Tang, S. Yang, J. Liu & H. Zhu: Plant Physiol., 170, 26 (2016)..また,根粒菌側の共生不和合性原因遺伝子は,3型分泌エフェクターであるBEL2-5が関与することが示されている(34)34) O. M. Faruque, H. Miwa, M. Yasuda, Y. Fujii, T. Kaneko, S. Sato & S. Okazaki: Appl. Environ. Microbiol., 81, 6710 (2015)..
ダイズで示されてきた宿主特異性に関与するRj遺伝子型は,植物病原菌に対するR遺伝子や抵抗性遺伝子など,病原性シグナルが宿主範囲を決定づけるのに重要な要素になることが示されてきた.一方で,根粒菌の3型分泌エフェクターが対として同定されているが,これらのエフェクターとRjタンパク質とが直接的に相互作用をするなどの証拠はいまだ得られていない.
根粒共生の宿主範囲は,マメ科植物と根粒菌の双方がもつさまざまな分子因子の交換によって狭域な宿主域が決定されている.そして,この宿主範囲の決定は,初期の相互作用だけに限定されず,共生過程の複数地点で行われていることがこれまでの研究で明らかとなっている.これは,土壌中に生存する多種多様な土壌細菌から有益な根粒菌のみを選抜し,病原菌や日和見感染などを防ぐための役割を果たしていると想像される.現在までに,フラボノイドを始め,Nod因子,細胞多糖,エフェクター,そしてNCRペプチドなどが宿主特異性を決定するための因子として同定されてきた.一方で,これらの因子に対する受容体や相互作用因子は不明なことも多く未知となっている.今後は,新たな宿主特異性に関与する因子を同定する一方で,その因子に対する相手側の相互作用因子や,その下流シグナルなどを明らかにしていくことが必要である.
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