巻頭言

健康と食のかかわり

Mari Maeda-Yamamoto

山本(前田) 万里

国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構

Published: 2020-09-01

「地中海食は健康な食である」という学術論文はたくさんありますが,日本食に関する論文はその1/10以下,という話がよく聞かれます.日本食レストランは海外で次々と増え(2006年24,000店から2017年118,000店へ),日本食は健康的ということで好んで食べる方が世界的に増加しているがエビデンスは少ないのです.健康的だと言われる日本食について考えてみたいと思います.

卑弥呼がいた邪馬台国は80~90歳まで生きる長寿国だったと魏志倭人伝に書かれています.その頃には魚介類を発酵させた塩辛,ひしお(醤),口噛み酒,なれずしなどの発酵食品がすでにあったといいます.卑弥呼が食べていたのは,主食は玄米,粟を蒸した強飯(小麦,大麦,きび,ヒエも使用),菜茹(ダイコン,カブ,ゴボウ,フキ,ウリ,タデ,ノビル,みつば,せり,ヒョウタンなどの野菜・山菜,また獣肉や魚肉を一緒に煮込んだ汁物),副食に魚介の鱠(刺身)や塩焼き,干物,ワカメやアラメなどの海藻の熱汁,山菜の塩茹でや塩漬け,茹でた大豆・小豆・サトイモ,桃,柿,梅,スモモ,山ぶどう,マクワウリなどの果物,クルミ,栗,栃,榧などの木の実,口噛み酒,果実酒など,と推測され,多様な食材を食べていたことがわかります.

2015年,米国Rush大メディカルセンターが認知症予防食であるMIND(Mediterranean-DASH Intervention for Neurodegenerative Delay)食を提唱しました.心疾患を予防するという地中海食と高血圧を抑制するというDASH食を組合せたものです.積極的に摂るべき食品としては,全粒穀物(1日3回),緑黄色野菜をはじめとする野菜(1日1回),ナッツ類(週5回),豆類(週3回),鶏肉(週2回),青魚(週1回),ベリー類(週2回),ワイン(1日1杯,緑茶やココアでも良い),オリーブ油が挙げられ,ファストフード,ケーキ,揚げ物,チーズ,バターなどは避けるべきとしています.要は,茶色の炭水化物,野菜,魚,豆類,クルミをよく食べることで,これらの食では,ビタミン,ミネラル,食物繊維,植物性タンパク質,n-3系多価不飽和脂肪酸,一価不飽和脂肪酸,カロテノイド類,ポリフェノール類が摂取できると考えられ,少し乱暴ですが,卑弥呼の古代日本食も油以外は同じような構成です.

国のイノベーション戦略の中で「おいしくて健康に良い食の提案・提供」に関する研究領域の重点化が挙げられており,今までは単一の機能性成分に注目してきた食品研究も複合的な評価(成分,ヒト)が求められ,健康に良い日本型食を創造していくための研究が加速すると予測されます.

2024年に100周年を迎える農芸化学会では,Visionary農芸化学100シンポジウムを毎年開催しており「食・腸内細菌・健康研究領域」,「食品機能研究領域」という2つの領域で健康な食品に関する興味深い話題を取り上げています.これらの活動と連動しながら,日本農芸化学会が,今後,日本食を構成している食材・成分や食そのものの健康効果を科学的に明らかにして,健康に寄与する日本型食創造や学術論文の増加に寄与していくことを大いに期待します.