今日の話題

非肥満者における代謝血管障害とインスリン抵抗性なぜアジア人は非肥満でも生活習慣病になるのか?

Yoshifumi Tamura

田村 好史

順天堂大学大学院スポーツ医学・スポートロジー

順天堂大学大学院代謝内分泌内科学

順天堂大学国際教養学部グローバルヘルスサービス領域)

Published: 2020-09-01

インスリン抵抗性は肥満に伴って出現し,メタボリックシンドロームや糖尿病といった代謝疾患の病態基盤となっている.しかしながら,生活習慣病になるアジア人の多くは非肥満(体格指数(BMI)25 kg/m2未満)であることから,そのメカニズムの解明が待たれていた.われわれの研究室ではインスリン抵抗性が日本人の非肥満者でも発生し,非肥満者においてもインスリン抵抗性は代謝疾患と密接に関連することを明らかとしてきた(1)1) K. Takeno, Y. Tamura, M. Kawaguchi, S. Kakehi, T. Watanabe, T. Funayama, Y. Furukawa, H. Kaga, R. Yamamoto, M. Kim et al.: J. Clin. Endocrinol. Metab., 101, 3676 (2016)..ここでは,その内容について概説する.

骨格筋は体重の50~60%程度を占める人体最大の臓器であるが,骨格筋にインスリン抵抗性が発生すると,糖代謝だけでなく,脂質代謝異常や高血圧も来たすことが示されてきた(1)1) K. Takeno, Y. Tamura, M. Kawaguchi, S. Kakehi, T. Watanabe, T. Funayama, Y. Furukawa, H. Kaga, R. Yamamoto, M. Kim et al.: J. Clin. Endocrinol. Metab., 101, 3676 (2016)..その一方で,肝臓は糖や中性脂肪の放出を介して,代謝性疾患を作り出す重要な臓器であり,その病態にはインスリン抵抗性が関与している(2)2) V. T. Samuel & G. I. Shulman: J. Clin. Invest., 126, 12 (2016)..これらのインスリン抵抗性の発生メカニズムとして異所性脂肪蓄積の関与が示されている.インスリン抵抗性はインスリン標的臓器における脂質の蓄積と,それによるインスリンシグナル伝達の阻害により発生する機序が考えられている.

インスリン抵抗性が発生する臓器として,肝臓,骨格筋があるが,異所性脂肪が蓄積する脂質の供給源として,脂肪組織から放出された遊離脂肪酸(free fatty acid; FFA)が重要である.一般的に,肥満に伴って血中FFA濃度が高まるが,これは肥満によって大型化した脂肪細胞が,それ以上拡張することができず,脂肪組織に貯めきれない脂肪がFFAとして放出された結果(lipid spillover)であると捉えられている.放出されたFFAは骨格筋細胞内脂質(IMCL: intramyocellular lipid)や肝内脂質(IHL: intrahepatic lipid)として蓄積し,インスリン抵抗性を惹起すると考えられる.欧米人などと比較しアジア人では皮下脂肪に脂肪を十分に貯蔵できず,容易にlipid spilloverが生じることが示唆されてきたが,そのような状態がいつからどのように生じているかは明らかになっていない.最近,われわれのグループは非肥満の健康な日本人男性における脂肪組織の機能とその意義を明らかにするために調査を行った(3)3) D. Sugimoto, Y. Tamura, K. Takeno, H. Kaga, Y. Someya, S. Kakehi, T. Funayama, Y. Furukawa, R. Suzuki, S. Kadowaki et al.: J. Clin. Endocrinol. Metab., 104, 2325 (2019)..その結果,非肥満で健康な方の中でも,肥満者と同様に,インスリンにより血中遊離脂肪酸が低下しにくい(脂肪組織インスリン感受性が低下している)人,つまりはlipid spilloverを来たしている人が多くいることが明らかとなった.また,脂肪組織インスリン感受性が高い群に比べて低い群では体脂肪率が高い,皮下脂肪が多い,肝脂肪が多い,など全身の脂肪量が多いことに加え,筋肉のインスリン抵抗性がある,という特徴が明らかとなり,非肥満の日本人で健康な人でもlipid spilloverを生じているような人が存在し,軽度の代謝異常の原因となっていることが示唆された.

非肥満健常男性において,脂肪組織インスリン感受性の低下は,肝臓の脂肪蓄積と関連していたが,肝臓は骨格筋と異なり,de novo lipogenesisによる中性脂肪合成経路が活発であり,IHLの蓄積経路は複数ある.現在までに,肥満の非アルコール性脂肪性肝疾患では,肝臓に蓄積する中性脂肪の59%はFFA, 26%はde novo lipogenesis, 15%は食事由来の脂質により構成されていることが示唆されている(4)4) K. L. Donnelly, C. I. Smith, S. J. Schwarzenberg, J. Jessurun, M. D. Boldt & E. J. Parks: J. Clin. Invest., 115, 1343 (2005)..なかでも骨格筋インスリン抵抗性があると,骨格筋に取り込まれるべきブドウ糖が取り込まれず,余剰となったブドウ糖が肝臓に流れ着く.そのブドウ糖はインスリン作用によりグリコーゲンとして蓄積されるとともに,de novo lipogenesisにより中性脂肪合成へと回される(図1図1■異所性脂肪蓄積経路とインスリン抵抗性).実際に,最近のトレーサーを用いた研究によりこのルートの重要性が示唆されているほか,糖尿病を合併している(5)5) Y. Furukawa, Y. Tamura, K. Takeno, T. Funayama, H. Kaga, R. Suzuki, T. Watanabe, S. Kakehi, A. Kanazawa, R. Kawamori et al.: J. Diabetes Investig., 9, 529 (2018).,またはしていない非肥満者においても(1)1) K. Takeno, Y. Tamura, M. Kawaguchi, S. Kakehi, T. Watanabe, T. Funayama, Y. Furukawa, H. Kaga, R. Yamamoto, M. Kim et al.: J. Clin. Endocrinol. Metab., 101, 3676 (2016).,骨格筋インスリン抵抗性とIHLが関連することが示されている.

図1■異所性脂肪蓄積経路とインスリン抵抗性

われわれの検討などから脂質摂取や身体活動が直接異所性脂肪を変化させ,代謝に影響を与える可能性が明らかとなってきた.2週間の糖尿病教育入院となった2型糖尿病患者14名を食事療法単独または,食事+運動療法により加療を行う2群に分け,加療前後に1H-MRSによりIMCL, IHLを定量評価し,同時に高インスリン正常血糖クランプに経口糖負荷を組み合わせて,末梢インスリン感受性,肝糖取り込み率を測定した(6)6) Y. Tamura, Y. Tanaka, F. Sato, J. B. Choi, H. Watada, M. Niwa, J. Kinoshita, A. Ooka, N. Kumashiro, Y. Igarashi et al.: J. Clin. Endocrinol. Metab., 90, 3191 (2005)..IHLは,両群ともにほぼ同等に約30%減少し,それに伴って肝糖取り込みは増加した.骨格筋に関しては,食事療法単独ではIMCLと末梢インスリン感受性は有意に変化しなかったが,食事+運動療法群ではIMCLが19%減少し,末梢インスリン感受性は57%増加した.

さらにわれわれは,高脂肪食負荷後のIMCLの増加の程度を「脂肪負荷感受性」と新たに定義し,そこにかかわる生活習慣や体質などについて検討を行った(7, 8)7) Y. Sakurai, Y. Tamura, K. Takeno, N. Kumashiro, F. Sato, S. Kakehi, S. Ikeda, Y. Ogura, N. Saga, H. Naito et al.: J. Diabetes Investig., 2, 310 (2011).8) S. Kakehi, Y. Tamura, K. Takeno, Y. Sakurai, M. Kawaguchi, T. Watanabe, T. Funayama, F. Sato, S. I. Ikeda, A. Kanazawa et al.: Am. J. Physiol. Endocrinol. Metab., 310, E32 (2016)..その結果,3日間の高脂肪食負荷を行うと,骨格筋ミトコンドリア量が少ない人ほどIMCLが蓄積しやすい傾向や (r=0.42, p=0.09)(8)8) S. Kakehi, Y. Tamura, K. Takeno, Y. Sakurai, M. Kawaguchi, T. Watanabe, T. Funayama, F. Sato, S. I. Ikeda, A. Kanazawa et al.: Am. J. Physiol. Endocrinol. Metab., 310, E32 (2016).,高分子型アディポネクチンの血中濃度が低い,日常生活活動量が少ない人ほど,IMCLが蓄積しやすいことが明らかとなった.

非肥満者であってもlipid spillover,運動不足,高脂肪食の摂取が肝臓や骨格筋への異所性脂肪蓄積を促進し,インスリン抵抗性や代謝性疾患の発症に結びつく可能性が示された(図1図1■異所性脂肪蓄積経路とインスリン抵抗性).今後,さらなるメカニズムの解明が期待される.

Reference

1) K. Takeno, Y. Tamura, M. Kawaguchi, S. Kakehi, T. Watanabe, T. Funayama, Y. Furukawa, H. Kaga, R. Yamamoto, M. Kim et al.: J. Clin. Endocrinol. Metab., 101, 3676 (2016).

2) V. T. Samuel & G. I. Shulman: J. Clin. Invest., 126, 12 (2016).

3) D. Sugimoto, Y. Tamura, K. Takeno, H. Kaga, Y. Someya, S. Kakehi, T. Funayama, Y. Furukawa, R. Suzuki, S. Kadowaki et al.: J. Clin. Endocrinol. Metab., 104, 2325 (2019).

4) K. L. Donnelly, C. I. Smith, S. J. Schwarzenberg, J. Jessurun, M. D. Boldt & E. J. Parks: J. Clin. Invest., 115, 1343 (2005).

5) Y. Furukawa, Y. Tamura, K. Takeno, T. Funayama, H. Kaga, R. Suzuki, T. Watanabe, S. Kakehi, A. Kanazawa, R. Kawamori et al.: J. Diabetes Investig., 9, 529 (2018).

6) Y. Tamura, Y. Tanaka, F. Sato, J. B. Choi, H. Watada, M. Niwa, J. Kinoshita, A. Ooka, N. Kumashiro, Y. Igarashi et al.: J. Clin. Endocrinol. Metab., 90, 3191 (2005).

7) Y. Sakurai, Y. Tamura, K. Takeno, N. Kumashiro, F. Sato, S. Kakehi, S. Ikeda, Y. Ogura, N. Saga, H. Naito et al.: J. Diabetes Investig., 2, 310 (2011).

8) S. Kakehi, Y. Tamura, K. Takeno, Y. Sakurai, M. Kawaguchi, T. Watanabe, T. Funayama, F. Sato, S. I. Ikeda, A. Kanazawa et al.: Am. J. Physiol. Endocrinol. Metab., 310, E32 (2016).