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庭の厄介者ゼニゴケがクローン個体をつくり繁殖する仕組み苔類ゼニゴケにおける無性芽発生の分子機構

Yukiko Yasui

安居 佑季子

京都大学大学院生命科学研究科

Kimitsune Ishizaki

石崎 公庸

神戸大学大学院理学研究科

Published: 2020-09-01

植物が動物と大きく異なる点として,幹細胞を含む成長点を保持して成長することが挙げられる.これにより,植物は成長の過程で葉や花などの新たな器官を生み出しながら成長する.植物の幹細胞を含む成長点のことをメリステムと呼ぶが,植物はメリステムを維持するだけでなく,新たに作ることもできる.例えば,水田の刈り取られた後のイネの株跡からは新しく芽が伸びてくるが,これは葉の腋に新たなメリステムが作られており(腋芽メリステム),ここから植物が成長してくる現象である.イネとは異なり,この新たにメリステムを作る能力による旺盛な繁殖力により,ヒトに嫌われる植物もある.苔類ゼニゴケは,田畑や庭から完全に駆除することが難しいが,これはゼニゴケの新たなメリステムを作る能力が高いことが原因にほかならない.

苔類ゼニゴケは陸上植物進化の基部に位置しているため,植物の陸上化やその後の進化を考えるうえで,重要な植物である.近年,新たなモデル植物として分子遺伝学の実験基盤が整備された(1)1) J. L. Bowman, T. Kohchi, K. T. Yamato, J. Jenkins, S. Shu, K. Ishizaki, S. Yamaoka, R. Nishihama, Y. Nakamura, F. Berger et al.: Cell, 171, 287 (2017)..コケ植物は,生活環の大半を単相(n)である配偶体世代として過ごす.ゼニゴケでは,葉状体と呼ばれる“葉のような”植物体がその先端にあるメリステムにより形作られながら成長する.ゼニゴケは有性生殖をすることもできるが,無性的にクローン個体を作ることもできる.葉状体の背側には杯状体というカップ状の器官が作られ(図1A図1■ゼニゴケのクローン個体による繁殖と被子植物との比較),なかには単一細胞を起源とする無性芽が多数形成される.無性芽は,円盤状の両側にメリステムをもつクローン個体であり,吸水後,メリステムによる成長を開始し葉状体へと成長する(2)2) M. Shimamura: Plant Cell Physiol., 57, 230 (2016)..この無性芽の存在が,ゼニゴケが効率的に繁殖できる(ヒトにとっては“はびこる”)要因の一つである.本トピックでは,近年,急速に分子レベルの知見が蓄積しているゼニゴケの杯状体や無性芽発生の仕組みについて紹介したい.

図1■ゼニゴケのクローン個体による繁殖と被子植物との比較

(A)野生型のゼニゴケは背側に杯状体を形成する.(B)GCAM1遺伝子を欠損したゼニゴケでは杯状体の形成が見られない.(C)異所的に過剰なGCAM1が機能すると植物体全体が未分化な細胞塊となる.(D)ゼニゴケの葉状体にできる杯状体は,中にクローン個体である無性芽を大量に作る.無性芽は新たなメリステムをもち,葉状体へと成長する.ゼニゴケはこの無性芽を介して旺盛に繁殖することができる.GCAM1は杯状体の底部細胞で機能し,幹細胞としての性質を維持すると考えられる.またこのGCAM1の機能により,杯状体と無性芽の発生が進む.(E)GCAM1の被子植物におけるオーソログは腋芽形成に機能することがわかっており,新たなメリステムを生み出す場を作るという点でこれら因子の機能の保存性が示唆された.イラスト:前原菜穂(神戸大学大学院理学研究科修士2年)

ゼニゴケの杯状体や無性芽の発生に重要な遺伝子を探索することを目的に,次世代シーケンサーを用いたトランスクリプトーム解析が行われ,無性芽を含む杯状体で特異的に発現が高い転写因子の一つGEMMA CUP-ASSOCIATED MYB1GCAM1)が見いだされた(3)3) Y. Yasui, S. Tsukamoto, T. Sugaya, R. Nishihama, Q. Wang, H. Kato, K. T. Yamato, H. Fukaki, T. Mimura, H. Kubo et al.: Curr. Biol., 29, 3987 (2019).GCAM1の機能について解析したところ,その欠損変異体では杯状体形成が全く起こらなくなる一方で,杯状体以外の植物の成長は正常であったことから(図1B図1■ゼニゴケのクローン個体による繁殖と被子植物との比較),GCAM1が杯状体発生の鍵遺伝子であると考えられた.また,GCAM1タンパク質の機能を異所的にかつ過剰に誘導すると,正常な組織分化が起こらず,植物体全体が細胞塊様になることがわかった(図1C図1■ゼニゴケのクローン個体による繁殖と被子植物との比較).興味深いことに,この細胞塊においてGCAM1の機能誘導を停止すると,メリステムをもつ小さな葉状体が一斉に分化した.これら結果から,GCAM1の異所的過剰発現による細胞塊は,正常なメリステムを生み出す潜在能力をもつ未分化状態にあると考えられた.

では,杯状体や無性芽の発生においてGCAM1はどのような役割をもつのだろうか.杯状体と無性芽の発生については,100年以上も前の詳細な形態学的観察がある(4)4) C. R. Barnes & W. J. G. Land: Bot. Gaz., 46, 401 (1908)..杯状体の発生では,まずメリステム近くの表皮細胞の一部が杯状体底部細胞となり,その後の垂層分裂の繰り返しにより杯状体底部細胞領域が作られる.杯状体底部細胞からは無性芽の始原細胞が分化すると同時に,杯状体のカップを作る外壁の部分が杯状体底部細胞の外側の組織が上部に成長することで作られる.GCAM1は,杯状体発生がはじまる葉状体先端のメリステム付近,杯状体底部細胞,発生中の無性芽で強く発現することがわかっている(3)3) Y. Yasui, S. Tsukamoto, T. Sugaya, R. Nishihama, Q. Wang, H. Kato, K. T. Yamato, H. Fukaki, T. Mimura, H. Kubo et al.: Curr. Biol., 29, 3987 (2019).GCAM1の機能欠損と異所的過剰発現による表現型を合わせて考えると,GCAM1は杯状体底部細胞において細胞の未分化性を維持する機能をもち,それがその後の杯状体形成と無性芽発生につながると考えられる.

また近年,杯状体の形成に対して,植物ホルモンであるサイトカイニンが正に(5)5) S. S. Aki, T. Mikami, S. Naramoto, R. Nishihama, K. Ishizaki, M. Kojima, Y. Takebayashi, H. Sakakibara, J. Kyozuka, T. Kohchi et al.: Plant Cell Physiol., 60, 1842 (2019).,オーキシンが負に制御することも報告された(6, 7)6) E. Flores-Sandoval, D. M. Eklund & J. L. Bowman: PLOS Genet., 11, e1005207 (2015).7) H. Kato, K. Ishizaki, M. Kouno, M. Shirakawa, J. L. Bowman, R. Nishihama & T. Kohchi: PLOS Genet., 11, e1005084 (2015)..興味深いことに,オーキシン生合成の欠損変異体は,GCAM1を異所的に過剰発現させたときと同様に,細胞塊様の表現型を示すことから(8)8) D. M. Eklund, K. Ishizaki, E. Flores-Sandoval, S. Kikuchi, Y. Takebayashi, S. Tsukamoto, Y. Hirakawa, M. Nonomura, H. Kato, M. Kouno et al.: Plant Cell, 27, 1650 (2015).,杯状体底部細胞の未分化性にはオーキシン濃度の低下が関わる可能性も考えられる.今後,植物ホルモンによる制御とGCAM1の関係について詳細に解析する必要があるだろう.

一方で,無性芽発生に関しては,杯状体は作るが,中は“空っぽ”であり無性芽形成が起こらないkarappokar)変異体の解析が行われた(9)9) T. Hiwatashi, H. Goh, Y. Yasui, L. Q. Koh, H. Takami, M. Kajikawa, H. Kirita, T. Kanazawa, N. Minamino, T. Togawa et al.: Curr. Biol., 29, 3525 (2019).kar変異体の原因遺伝子(KAR)は,植物の低分子量Gタンパク質の一種であるROPの活性化を担うRopGEFをコードしていることが明らかとなった.KARによるROPの活性化により無性芽発生初期に起こる無性芽始原細胞の非対称分裂が制御される可能性が考えられる.

無性芽を生み出す杯状体はコケ植物のなかでも苔類ゼニゴケ属に特有の器官であるが,その進化についての興味深いヒントも見えてきている.アミノ酸配列を用いた系統解析により,GCAM1は陸上植物で多様に機能分化したR2R3-MYB型転写因子のサブファミリー14の基部に位置していることが明らかになった(3)3) Y. Yasui, S. Tsukamoto, T. Sugaya, R. Nishihama, Q. Wang, H. Kato, K. T. Yamato, H. Fukaki, T. Mimura, H. Kubo et al.: Curr. Biol., 29, 3987 (2019)..興味深いことにこのサブファミリーには,シロイヌナズナのREGULATOR OF AXILLARY MERISTEMs(RAXs)やトマトのBlindなど,被子植物において腋芽メリステム形成に機能する因子が属していた.シロイヌナズナのrax1 rax2 rax3変異体では腋芽形成が抑制されるが,これにゼニゴケのGCAM1を導入すると,腋芽形成の表現型が相補され,GCAM1が被子植物の腋芽形成に機能し得ることが示された(3)3) Y. Yasui, S. Tsukamoto, T. Sugaya, R. Nishihama, Q. Wang, H. Kato, K. T. Yamato, H. Fukaki, T. Mimura, H. Kubo et al.: Curr. Biol., 29, 3987 (2019)..コケ植物の無性芽も被子植物の腋芽も新たなメリステムをもっており,これを生み出す過程に機能するという意味でGCAM1とRAXsの機能の保存性が示唆されたことになる.今後,ゼニゴケの杯状体や無性芽発生のメカニズムについて詳細に解析することで,メリステム新生システムの植物に共通する基本原理や進化の過程を明らかにできると期待できる.また,“優れた形質をもつ栽培種のクローン個体の増殖”は農業や園芸分野にとって重要であり,進化的に保存されたクローン繁殖体形成機構の解明は,農作物を効率良く生産する技術基盤の確立につながることも期待される.

Reference

1) J. L. Bowman, T. Kohchi, K. T. Yamato, J. Jenkins, S. Shu, K. Ishizaki, S. Yamaoka, R. Nishihama, Y. Nakamura, F. Berger et al.: Cell, 171, 287 (2017).

2) M. Shimamura: Plant Cell Physiol., 57, 230 (2016).

3) Y. Yasui, S. Tsukamoto, T. Sugaya, R. Nishihama, Q. Wang, H. Kato, K. T. Yamato, H. Fukaki, T. Mimura, H. Kubo et al.: Curr. Biol., 29, 3987 (2019).

4) C. R. Barnes & W. J. G. Land: Bot. Gaz., 46, 401 (1908).

5) S. S. Aki, T. Mikami, S. Naramoto, R. Nishihama, K. Ishizaki, M. Kojima, Y. Takebayashi, H. Sakakibara, J. Kyozuka, T. Kohchi et al.: Plant Cell Physiol., 60, 1842 (2019).

6) E. Flores-Sandoval, D. M. Eklund & J. L. Bowman: PLOS Genet., 11, e1005207 (2015).

7) H. Kato, K. Ishizaki, M. Kouno, M. Shirakawa, J. L. Bowman, R. Nishihama & T. Kohchi: PLOS Genet., 11, e1005084 (2015).

8) D. M. Eklund, K. Ishizaki, E. Flores-Sandoval, S. Kikuchi, Y. Takebayashi, S. Tsukamoto, Y. Hirakawa, M. Nonomura, H. Kato, M. Kouno et al.: Plant Cell, 27, 1650 (2015).

9) T. Hiwatashi, H. Goh, Y. Yasui, L. Q. Koh, H. Takami, M. Kajikawa, H. Kirita, T. Kanazawa, N. Minamino, T. Togawa et al.: Curr. Biol., 29, 3525 (2019).